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審決分類 |
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C22C 審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する C22C 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C22C 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C22C |
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管理番号 | 1256635 |
審判番号 | 訂正2012-390041 |
総通号数 | 151 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-07-27 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2012-03-27 |
確定日 | 2012-05-08 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第4924774号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第4924774号に係る明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第4924774号(以下、「本件特許」という。)は、平成23年2月4日を国際出願日とする出願(特願2011-526323号)の請求項1?7に係る発明について、平成24年2月17日に特許権の設定登録がなされた。 その後、平成24年3月27日に本件訂正審判の請求がなされたものである。 第2 請求の趣旨 本件訂正審判の請求の趣旨は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「特許明細書」という。)及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付の訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものである。 第3 訂正の内容 本件訂正審判の請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線部分が訂正に係る部分である。)。 1.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1?5において、 「【請求項1】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%、Sn:0.03?0.50%以下並びにMo:1.0%以下、V:0.1%以下およびNb:0.1%以下から選択される1種以上を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ((1)式及び(2)式の表記は略した。) ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【請求項2】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%、Sn:0.03?0.50%以下およびTi:0.05%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ((1)式及び(2)式の表記は略した。) ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【請求項3】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%、Sn:0.03?0.50%以下並びにCa:0.003%以下およびMg:0.003%以下の一方または両方を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ((1)式及び(2)式の表記は略した。) ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【請求項4】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%、Sn:0.03?0.50%以下およびNi:1.5%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ((1)式及び(2)式の表記は略した。) ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【請求項5】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%、Sn:0.03?0.50%以下およびCr:1.2%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ((1)式及び(2)式の表記は略した。) ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。」とあるのを、 「【請求項1】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%並びにMo:1.0%以下、V:0.1%以下およびNb:0.1%以下から選択される1種以上を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ((1)式及び(2)式の表記は略した。) ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【請求項2】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%およびTi:0.05%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ((1)式及び(2)式の表記は略した。) ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【請求項3】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%並びにCa:0.003%以下およびMg:0.003%以下の一方または両方を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ((1)式及び(2)式の表記は略した。) ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【請求項4】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%およびNi:1.5%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ((1)式及び(2)式の表記は略した。) ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【請求項5】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%およびCr:1.2%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ((1)式及び(2)式の表記は略した。) ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。」と訂正する。 2.訂正事項2 特許明細書の【0040】において、 「O:0.003%、Sn:0.03?0.50%以下」を、 「O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%」と訂正する。 3.訂正事項3 特許明細書の【0041】において、 「O:0.003%、Sn:0.03?0.50%以下」を、 「O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%」と訂正する。 4.訂正事項4 特許明細書の【0042】において、 「O:0.003%、Sn:0.03?0.50%以下」を、 「O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%」と訂正する。 5.訂正事項5 特許明細書の【0043】において、 「O:0.003%、Sn:0.03?0.50%以下」を、 「O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%」と訂正する。 6.訂正事項6 特許明細書の【0044】において、 「O:0.003%、Sn:0.03?0.50%以下」を、 「O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%」と訂正する。 7.訂正事項7 特許明細書の【0045】において、 「工程B:得られた溶鋼を連続鋳造し、請求項1から5までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼片を得る工程」を、 「工程B:得られた溶鋼を連続鋳造し、上記(1)から(5)までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼片を得る工程」と訂正する。 8.訂正事項8 特許明細書の【0046】において、 「工程B:得られた溶鋼を連続鋳造し、請求項1から5までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼片を得る工程」を、 「工程B:得られた溶鋼を連続鋳造し、上記(1)から(5)までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼片を得る工程」と訂正する。 第4 当審の判断 1.訂正の目的、新規事項の追加、及び特許請求の範囲の拡張・変更について (1)訂正事項1について 訂正事項1は、酸素(O)含有量について、「0.003%」を「0.003%以下」とし、錫(Sn)含有量について、「0.03?0.50%以下」を「0.03?0.50%」とするものである。 まず、酸素含有量について検討する。 本件訂正前の請求項1?5記載の鋼材に含まれる種々の化学組成についてみると、酸素含有量(%)のみが範囲ではなく単一の含有量(0.003%)として限定されている。ところが、請求項に記載の発明特定事項として、鋼材のある成分を単一含有量に限定することは極めて特殊な場合であるから、当業者は酸素含有量に関し、そのような特殊な事情が存在するか否かについて、発明の詳細な説明を参酌確認する必要性を認識するものといえる。 そこで、特許明細書を参照すると、背景技術(【0002】?【0015】)、発明が解決しようとする課題(【0016】?【0024】)、及び課題を解決するための手段の前半(【0025】?【0038】)では、本件特許の鋼材についての化学組成は、特に、Snを積極的に含有させ、Cu、Al及びBの含有量を抑制することで、従来の課題を解決することが記載されているものの、酸素含有量についての特段の記載はない。そして、【0050】?【0077】では、鋼材の化学組成の各成分の含有量限定の理由に関して記載されているところ、酸素含有量については「0.003%以下」という有効範囲が記載されており、【0096】?【0115】における本発明例と比較例を含む実験例の酸素含有量は、全て0.003%以下の範囲に含まれる0.002%であるから、酸素含有量を0.003%のみに限定する様な特殊な事情は記載されていないといえる。 そうすると、請求項1?5における「O:0.003%」という単一の含有量限定は、明らかに不自然といえ、かつ、特許明細書の【0060】及び本発明例の記載に鑑みると、「O:0.003%」が「O:0.003%以下」の誤りであることは、当業者にとって自明な事項といえるから、上記酸素含有量に係る訂正は、誤記の訂正を目的とするものといえる。 次に、錫含有量について検討する。 特許明細書【0061】には、錫の化学組成に関し、「Sn:0.03?0.50%」と記載されており、請求項1?5の錫の化学組成について、「Sn:0.03?0.50%以下」ではなく「Sn:0.03?0.50%」と一貫した記載にすることは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえる。 したがって、訂正事項1は、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とし、特許明細書及び出願当初の明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 (2)訂正事項2?6について 訂正事項2?6は、特許請求の範囲についての訂正事項1に伴い、発明の詳細な説明の【0040】?【0044】の記載を特許請求の範囲の記載と整合するように訂正するものであるから、訂正事項2?6は、訂正事項1と同様に、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とし、特許明細書及び出願当初の明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 (3)訂正事項7、8について 訂正事項7、8は、【0040】?【0046】に記載の(1)?(7)における(6)、(7)について、鋼片の化学組成の引用箇所を、請求項1?5に記載の化学組成ではなく、(1)?(5)に記載の化学組成とするものである。 ここで、訂正後の(1)?(5)の記載は、訂正後の請求項1?5の記載と等しい。 そうすると、訂正事項7、8は実質的に特許請求の範囲についての訂正事項1に伴い、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載と整合するように訂正するものであるから、訂正事項7、8は、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とし、特許明細書及び出願当初の明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 (4)まとめ よって、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ同条第3項及び第4項の規定に適合する。 2.独立特許要件について 上記のとおり、本件訂正の訂正事項1?8は、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるから、本件訂正後における特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明(以下、まとめて「本件訂正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものかどうかについて検討する。 本件特許に係る出願は、拒絶理由を発見しないとして特許査定されたものであるところ、本件訂正発明について拒絶理由は見当たらない。 よって、本件訂正は、特許法第126条第5項の規定に適合する。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第2号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第3項ないし第5項の規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材並びにその製造方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、船体、土木建設物、建設機械、水圧鉄管、海洋構造物、ラインパイプその他の耐疲労亀裂進展特性および耐食性が要求される溶接構造物などに用いるのに適した鋼材並びにその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、溶接構造物が大型化される傾向が顕著になってきており、高強度化および軽量化が望まれている。しかし、高強度鋼を使用する際には設計応力が上昇するため、溶接部から疲労破壊が発生しやすくなり、その改善が重要な問題となっている。構造用鋼材などの厚鋼板では、一般に溶接施工が施されるため、溶接部から疲労亀裂が発生する可能性がある。したがって、溶接部から発生、進展する疲労亀裂を鋼材で滞留させることができれば、構造物の疲労寿命の延長に有効である。このため、疲労亀裂進展抑制効果を有する鋼材が種々提案されている。 【0003】 例えば、特許文献1には、同じ温度であればオーステナイト相よりも強度が低いフェライト相を活用することで、高温強度を低下させて、溶接継手内の溶接残留応力を緩和する技術が提案されている。すなわち、溶接部では溶接後に急冷されるため、オーステナイト単相の温度域が広く、溶接金属の熱収縮に伴い、高いレベルの残留応力が発生する。そこで、特許文献1に記載の発明では、鋼中にフェライト生成元素としてAlを0.5?2.0%含有させておき、800?600℃の温度範囲でフェライトを生成させて、低強度のフェライトを塑性変形させることにより残留応力を緩和している。 【0004】 また、特許文献2には、引張強度490?780MPaの高張力鋼板の溶接熱影響部(HAZ)の組織をベイナイト主体とし、オーステナイト粒界から生成する粒界フェライトを抑制することにより疲労強度を向上させる技術が提案されている。この技術では、粒界フェライトの生成を抑制すべくBを0.0005?0.01%添加し、さらにベイナイトとマルテンサイトを含んだ組織全体を強化すべく、炭素当量(Ceq)の限定を設けている。 【0005】 一方で、溶接鋼構造物は海浜地域や融雪塩が散布される地域等、飛来塩分量が多い環境下で、さらに造船分野では海水飛沫環境下で使用される場合が多い。 【0006】 一般に、耐候性鋼材を大気腐食環境中に暴露すると、その表面に保護性のあるさび層が形成され、それ以降の鋼材腐食が抑制される。そのため、耐候性鋼材は、塗装せずに裸のまま使用できるミニマムメンテナンス鋼材として橋梁等の構造物に用いられている。 【0007】 ところが、海浜地域だけでなく、内陸部であっても融雪塩や凍結防止剤が散布される地域のように飛来塩分量が多い地域では、耐候性鋼材の表面に保護性のあるさび層が形成されにくいために、腐食を抑制する効果が発揮されにくい。そのため、これらの地域では、裸のままの耐候性鋼材を用いることができず、普通鋼に塗装を施して使用する普通鋼の塗装使用が一般的である。しかし、このような普通鋼の塗装使用の場合には、腐食による塗膜劣化のため約10年毎に再塗装する必要があり、そのため維持管理に要する費用は莫大なものとなる。 【0008】 近年、日本工業規格(JIS)で規格化された耐候性鋼(JIS G 3114:溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材)は、飛来塩分量がNaClとして0.05mg/dm^(2)/day(0.05mdd)以上の地域、たとえば海浜地域では、ウロコ状錆や層状錆等の発生により腐食減量が大きいため、無塗装では使用できないことになっている(建設省土木研究所、(社)鋼材倶楽部、(社)日本橋梁建設協会:耐候性鋼の橋梁への適用に関する共同研究報告書(XX)-無塗耐候性橋梁の設計・施工要領(改訂版-1993.3)参照)。 【0009】 このように、海浜地域などの塩分の多い環境下では、通常普通鋼材に塗装を行って対処している。しかしながら、河口付近の海浜地域や融雪塩を撒く山間部等の道路に建設される橋梁は腐食が著しく、再塗装せざるを得ないのが現状である。これらの再塗装には多大な工数がかかることから、無塗装で使用できる鋼材への要望が強い。 【0010】 最近、Niを1?3%程度添加したNi系高耐候性鋼が開発された。しかしながら、飛来塩分量が0.3?0.4mddを越える地域では、このようなNi添加だけでは、無塗装で使用できる鋼材への適用が難しいことが判明してきた。 【0011】 鋼材の腐食は、飛来塩分量が多くなるにしたがって激しくなるため、耐食性と経済性の観点からは、飛来塩分量に応じた耐候性鋼材が必要になる。また、橋梁といっても、使用される場所や部位により鋼材の腐食環境は同じではない。例えば、桁外部では、降雨、結露水および日照に曝される。一方、桁内部では、結露水に曝されるが雨掛かりはない。一般に、飛来塩分量が多い環境では、桁外部より桁内部の方が腐食が激しいと言われている。 【0012】 また、融雪塩や凍結防止剤を道路に撒く環境では、その塩が走行中の車に巻き上げられ、道路を支える橋梁に付着するので、厳しい腐食環境となる。さらに、海岸から少し離れた軒下等も厳しい塩害環境に曝され、このような地域では、飛来塩分量が1mdd以上の厳しい腐食環境になる。 【0013】 このような問題に対応するため、飛来塩分量が多い環境での腐食を防止する鋼材の開発が従来から進められている。 【0014】 たとえば、特許文献3にはクロム(Cr)の含有量を増加させた耐候性鋼材が提案され、そして、特許文献4にはニッケル(Ni)含有量を増加させた耐候性鋼材が提案されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0015】 【特許文献1】特開2004-211150号公報 【特許文献2】特開2003-171731号公報 【特許文献3】特開平9-176790号公報 【特許文献4】特開平5-118011号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0016】 しかしながら、上記の提案された疲労亀裂進展抑制効果を有する鋼材および耐食性を有する鋼材は、次のとおり、問題点を有する。 【0017】 特許文献1で提案された技術は、フェライト相をより広い温度範囲で存在させるため高濃度のAl添加を必須要件としている。しかしながら、Alは、フェライト相生成に寄与するが、構造用鋼材に求められる基本的特性のひとつである靭性を著しく低下させる元素である。このため、この技術によれば、溶接部の残留応力を抑制し、疲労強度の向上が期待できるとはいえ、静的負荷に対する靭性そのものが不足することになる。構造材料の形状・寸法の設計は、疲労強度の観点からだけではなく、静的負荷に対する脆性破壊防止の観点からも行われる必要があり、特許文献1で提案された技術では、強度健全性をバランスよく向上させることができない。 【0018】 特許文献2で提案された技術では、粒界において焼入性を高め、粒界フェライトを効率良く抑制することができるBを添加することによって、粒界フェライトの生成を抑制することとしている。しかしながら、Bは、溶接熱影響部の靭性を低下させる元素であるから、その使用には注意を要する。溶接継手部においては、繰返し荷重に対する疲労特性だけでなく、静的荷重による脆性破壊を防止するため、靭性の確保も重要である。特に、部材寸法の大部分は、後者の靭性で決定されており、必要な部分に対し、疲労破壊防止を確認する疲労調査が行われている現状の疲労設計体系においては、疲労特性と同様に靭性も重要である。この意味において、溶接条件、例えば溶接入熱が変動した場合をも考えると、粒界フェライトの生成と溶接熱影響部靭性とをBの添加という手法だけで両立させることは極めて困難であると言える。 【0019】 また、上記特許文献3で提案されたクロム(Cr)の含有量を増加させた耐候性鋼材は、ある程度以下の飛来塩分量の領域においては耐候性を改善することができるものの、それを超える厳しい塩分環境においては逆に耐候性を劣化させる。 【0020】 上記特許文献4で提案されたニッケル(Ni)含有量を増加させた耐候性鋼材の場合、耐候性はある程度改善されるが、鋼材自体のコストが高くなり、橋梁等の用途に使用される材料としては高価なものになる。これを避けるため、Ni含有量を少なくすると、耐候性はさほど改善されず、飛来塩分量が多い場合には、鋼材の表面に層状の剥離さびが生成し、腐食が著しく、長期間の使用に耐えられないという問題が生じる。 【0021】 さらに、飛来塩分量が多い環境下で使用される溶接鋼構造物では耐塗装剥離性が大きな問題となる。すなわち、上記に示したように、多量の塩化物が飛来する海岸環境や、融雪剤や凍結防止剤を散布する環境においては、塗装を施しても塗装が早期に剥離し、且つ腐食が進行するという問題があり、数年から十数年毎に塗装の塗り替えを実施する必要がある。また、塗装の塗り替えを実施する際にはその前工程として、一度腐食した橋梁に足場を組んで再ブラスト処理を施す必要があるので多大なコストがかかる。そして、再ブラスト処理を施してもさびを完全に除去することは困難であるところ、さびを完全には除去しきれていない鋼材上に再度、塗装しても、塗装寿命が著しく短くなる。耐塗装剥離性は下地である鋼材の耐食性を含めた特性によるところも大きい。 【0022】 したがって、塗装の寿命を延長し、補修塗装間隔を大きく延ばすことが強く望まれていた。すなわち、塗装が必要とされる船舶分野や橋梁分野においても、ライフサイクルコストのミニマム化の要求が高く、塗装寿命を延長することは橋梁のライフサイクルマネジメントを考える上で非常に重要となる。 【0023】 本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、Al、Bなどの靱性を阻害する元素を多量に含有させることなく、耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材およびその製造方法を提供することを目的としている。 【0024】 ここで、上記の耐食性とは、高塩化物環境における耐食性(塗装が剥離せず且つ塗装欠陥部における腐食が抑制され耐食性が維持されること(耐塗装剥離性)および無塗装時の耐候性を含む)を意味する。 【課題を解決するための手段】 【0025】 本発明者らは、上記の目的を達成するべく、まず、溶接継手の疲労特性と鋼材中に存在する介在物の清浄度との相関に着目した研究を行ったが、鋼材断面全体の清浄度と継手疲労特性の間には何らの相関もないことが分かった。 【0026】 そこで、変位量の多い鋼材表面に着目し、さらに詳細に調査をしたところ、継手疲労特性は、鋼材表面の特性に大きく依存し、その清浄度を高めることで継手疲労特性が向上することが判明した。より具体的には、介在物分析を鋼板表面から板厚方向に2mmの深さまでの領域に限定して鋼板毎に清浄度を求め、継手疲労特性との相関を調べたところ、極めて強い相関のあることが認められたのである。このような相関が認められる理由としては、鋼材表面は、変位量が大きいとともに、疲労亀裂の発端になりやすいことが考えられる。 【0027】 ところで、介在物は、硬度が高いため、高応力下でも変形することがない。一方、鋼材表面は、変位量が大きいため、介在物と素地の組織の界面で亀裂が発生し、疲労特性が劣化することが考えられる。したがって、介在物の清浄度が問題とされるのは、通常、鋼材の板厚中心部であることが多いが、疲労特性に関しては、鋼材表面の清浄性が問題となるのである。 【0028】 一方、本発明者らは、飛来塩分量の多い環境での腐食について検討した結果、このような環境下では、FeCl_(3)溶液の乾湿繰り返しが腐食の本質的な条件となり、Fe^(3+)の加水分解によりpHが低下した状態で、かつFe^(3+)が酸化剤として作用することによって腐食が加速されることを見出した。 【0029】 このときの腐食反応は、以下に示すとおりである。 【0030】 カソード反応としては、主として、次の反応が起こる。 Fe^(3+)+e^(-)→Fe^(2+)(Fe^(3+)の還元反応) 【0031】 そして、この反応以外にも、次のカソード反応も併発する。 2H_(2)O+O_(2)+2e^(-)→4OH^(-)、 2H^(+)+2e^(-)→H_(2) 【0032】 一方、上記のFe^(3+)の還元反応に対して、次のアノード反応が起こる。 アノード反応:Fe→Fe^(2+)+2e^(-)(Feの溶解反応) 【0033】 したがって、腐食の総括反応は、次の(1)式のとおりである。 2Fe^(3+)+Fe→3Fe^(2+)・・・・・・(1)式 【0034】 上記(1)式の反応により生成したFe^(2+)は、空気酸化によってFe^(3+)に酸化され、生成したFe^(3+)は再び酸化剤として作用し、腐食を加速する。この際、Fe^(2+)の空気酸化の反応速度は低pH環境では一般に遅いが、濃厚塩化物溶液中では加速され、Fe^(3+)が生成され易くなる。このようなサイクリックな反応のため、飛来塩分量が非常に多い環境では、Fe^(3+)が常に供給され続け、鋼の腐食が加速され、耐食性が著しく劣化することになることが判明した。 【0035】 本発明者らは、このような塩分環境における腐食のメカニズムを基に、種々の合金元素の耐候性への影響について検討した結果、下記の(a)?(c)に示す知見を得た。 【0036】 (a)Snは、Sn^(2+)として溶解し、2Fe^(3+)+Sn^(2+)→2Fe^(2+)+Sn^(4+)なる反応によりFe^(3+)の濃度を低下させることで、(1)式の反応を抑制する。Snには、さらにアノード溶解を抑制するという作用もある。 【0037】 (b)Cuは、従来から飛来塩分量の多い環境において耐食性改善効果の基本とされていた元素であり、比較的濡れ時間が長い環境において耐食性改善効果は見られる。しかしながら、塩化物濃度がさらに大きくなり、局部的にpHが下がるような環境、例えば塩分が付着し、湿度が変化することにより乾湿が繰り返され、β-FeOOHが生成するような比較的ドライな環境では、Cuはむしろ腐食を促進することが判明した。 【0038】 (c)このように、Snを積極的に含有させかつCuの含有量を抑制した鋼材は、高い耐食性が期待できる。さらに耐食性が高いことから、鋼材に塗装を行っても、鋼材の腐食に起因する塗装の剥離が少なく塗装欠陥部の腐食を抑制する一方、塗膜による防食効果も期待できるため、塗装をした場合には、より一層の耐食性の効果が期待できる。したがって、耐食性のほかに、塗装の寿命を延長化でき、補修塗装間隔を大きく延ばす作用をも有する。特に、船舶分野や橋梁分野における耐塗装剥離性の改善において、効果を発揮する。 【0039】 本発明は、このような知見に基づいて完成したものであり、その要旨は、下記の(1)?(5)に示す耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材、ならびに、下記の(6)および(7)に示す耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材の製造方法にある。 【0040】 (1)質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%並びにMo:1.0%以下、V:0.1%以下およびNb:0.1%以下から選択される1種以上を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【0041】 (2)質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%およびTi:0.05%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【0042】 (3)質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%並びにCa:0.003%以下およびMg:0.003%以下の一方または両方を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【0043】 (4)質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%およびNi:1.5%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【0044】 (5)質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%およびCr:1.2%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【0045】 (6)下記の工程A?Dを備え、かつ、工程Dの冷却終了後の復熱温度幅を70℃以下とすることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材の製造方法。 工程A:溶鋼に下記(3)式を満足する条件で不活性ガスを吹き込む工程、 工程B:得られた溶鋼を連続鋳造し、上記(1)から(5)までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼片を得る工程、 工程C:得られた鋼片を900?1180℃に加熱した後、仕上げ温度が650?1000℃となる条件で熱間圧延を施して熱延材を得る工程、および、 工程D:得られた熱延材を、620?950℃の温度域から、620?500℃の温度域における平均冷却速度が5?50℃/秒となる条件で加速冷却し、500℃以下の温度域で冷却を終了させる工程。 ただし、上記(3)式中の記号の定義は、下記のとおりである。 G_(1):溶鋼内に吹き込まれる不活性ガス流量(NL/min) H_(1):不活性ガス吹き込みノズルの先端から溶鋼湯面までの距離(m) t_(1):不活性ガス吹き込み時間(min) S_(1):取鍋溶鋼量(ton) D_(1):取鍋内径(m) 【0046】 (7)下記の工程A1?Dを備え、かつ、工程Dの冷却終了後の復熱温度幅が70℃以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材の製造方法。 工程A1:溶鋼に下記(4)式を満足する条件で真空精錬処理を行う工程、 工程B:得られた溶鋼を連続鋳造し上記(1)から(5)までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼片を得る工程、 工程C:得られた鋼片を900?1180℃に加熱した後、仕上げ温度が650?1000℃となる条件で熱間圧延を施して熱延材を得る工程、および、 工程D:得られた熱延材を、620?950℃の温度域から、620?500℃の温度域における平均冷却速度が5?50℃/秒となる条件で加速冷却し、500℃以下の温度域で冷却を終了させる工程。 ただし、上記(4)式中の記号の定義は、下記のとおりである。 G_(2):溶鋼環流に使用される不活性ガス流量(NL/min) D_(2):浸漬管内径(m) t_(2):真空処理時間(min) S_(2):取鍋溶鋼量(ton) 【0047】 【発明の効果】 【0048】 本発明の鋼材は、耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れているので、船体、土木建設物、建設機械、水圧鉄管、海洋構造物、ラインパイプその他の耐疲労亀裂進展特性が要求される溶接構造物などに用いるのに適している。 【図面の簡単な説明】 【0049】 【図1】継手試験体の形状と寸法を示す図である。 【発明を実施するための形態】 【0050】 A.本発明の鋼材の化学組成その他について まず、本発明の鋼材の化学組成その他について説明する。以下の説明において、含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。 【0051】 C:0.01?0.14% Cは、強度を確保するために必要な元素である。その含有量が0.01%未満では必要とする強度を確保することができない。しかし、その含有量が0.14%を超えると、溶接した場合に溶接熱影響部(HAZ)、母材ともに靱性を確保することが難しくなる。したがって、Cの含有量は、0.01?0.14%とする。C含有量の好ましい下限は0.03%、好ましい上限は0.10%である。 【0052】 Si:0.04?0.6% Siは、脱酸作用があるとともに、鋼材の強度上昇にも寄与する。これらの効果を得るためには、Siを0.04%以上含有させる必要がある。しかし、その含有量が0.6%を超えると、靭性の低下をもたらす。したがって、Siの含有量は、0.04?0.6%とする。 【0053】 Mn:0.5?2.0% Mnは、鋼の焼入性を高める効果があり、強度確保に有効な成分である。その含有量が0.5%未満では、焼入性が不足し、所望の強度および靱性が得られない。しかし、Mnは2.0%を超えて含有させると、偏析が増すとともに焼入性が高まりすぎて、溶接時に溶接熱影響部、母材ともに靱性が低下する。したがって、Mnの含有量は、0.5?2.0%とする。 【0054】 P:0.01%以下 Pは、不純物として鋼中に不可避的に存在する。その含有量が0.01%を超えると、粒界に偏析して靭性を低下させるのみならず、溶接時に高温割れを招く。したがって、Pの含有量は、0.01%以下に制限する必要がある。Pは少ないほど好ましい。 【0055】 S:0.003%以下 Sは、不純物として鋼中に不可避的に存在する。その含有量が多すぎると、中心偏析を助長したり、延伸したMnSが多量に生成したりして、母材および溶接熱影響部の機械的性質を劣化させる。したがって、Sの含有量は、0.003%以下に制限する必要がある。Sは少ないほど好ましい。 【0056】 Cu:0.2%未満 Cuは、一般的に耐候性を向上させる基本元素とされ、全ての海浜耐候性鋼や耐食鋼に添加されているが、高飛来塩分下の比較的ドライな環境においては、むしろ耐食性を低下させる。またSnと共存すると圧延時に割れが生じる。したがって、Cuの含有は少なくする必要がある。不純物として含有されるとしても、Cu含有量は0.2%未満とする必要がある。好ましくは0.1%未満である。 【0057】 B:0.0007%を超え0.005%以下 Bは、焼入性を向上させて強度を高める効果がある元素である。この効果を得るには、0.0007%を超えて含有させる必要がある。しかし、その含有量が0.005%を超えると、疲労特性が劣化する。したがって、Bの含有量は0.0007%を超え0.005%以下とする。 【0058】 Al:0.05%未満 Alは、脱酸作用を有する元素である。しかし、その含有量が0.05%以上になると、主として溶接熱影響部において靱性が劣化しやすくなる。これは、粗大なクラスター状のアルミナ系介在物粒子が形成されやすくなるためと考えられる。したがって、Al含有量は、0.05%未満とする。ただし、脱酸作用があるSiにより脱酸を行う場合には、特に含有させなくてもよい。なお、Alによる脱酸作用を安定的に発揮させるためには、0.001%以上含有させることが好ましい。 【0059】 N:0.007%以下 Nは、不純物として鋼中に不可避的に存在する元素である。多量に存在する場合には、母材および溶接熱影響部の靭性の悪化原因となる。したがって、N含有量は、0.007%以下とする。Nは少ないほど好ましい。 【0060】 O:0.003%以下 O(酸素)は、不純物として鋼中に不可避的に存在する元素である。その含有量が0.003%を超えると、母材靭性及び伸び絞り等の延性に悪影響を及ぼす。したがって、O含有量は、0.003%以下に制限する。 【0061】 Sn:0.03?0.50% Snは、Sn^(2+)となって溶解し、酸性塩化物溶液中でのインヒビター作用により腐食を抑制する作用を有する。また、Fe^(3+)を速やかに還元させ、酸化剤としてのFe^(3+)濃度を低減する作用を有することにより、Fe^(3+)の腐食促進作用を抑制するので、高飛来塩分環境における耐候性を向上させる。また、Snには鋼のアノード溶解反応を抑制し耐食性を向上させる作用がある。さらに、Snを含有することにより、飛来塩分が多い環境においてもCrの耐候性を向上させる効果が発揮される。これらの作用は、Snを0.03%以上含有させることにより得られ、0.50%を超えると飽和する。したがって、Snの含有量は0.03?0.50%とする。Snの含有量の望ましい範囲は0.03?0.20%である。 【0062】 Cu/Sn比:1以下 Snを含有する鋼の場合には、Cuの含有による耐食性の低下が著しい。また、鋼材を製造する際、Cuの含有による圧延割れの原因ともなる。このため、Cu/Sn比、すなわち、Sn含有量に対するCu含有量の比を1以下とする必要がある。 【0063】 本発明に係る鋼材は、上記の化学組成を有し、残部がFeおよび不純物からなる。ここで、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に鉱石やスクラップ等のような原料をはじめとして製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。 【0064】 本発明の鋼材には、必要に応じて、次の第1群から第5群までの少なくとも1群から選んだ成分の1種以上を含有させることができる。以下、これらの群に属する成分について述べる。 【0065】 第1群の成分:Mo、V、Nb Mo:1.0%以下 Moは、母材の強度と靱性を向上させる効果があるため、必要に応じて含有させても良い。しかし、1.0%を超えて含有させると、主として溶接熱影響部の硬度が高まり、靱性および耐SSC性を損なう。したがって、Moを含有させる場合には、その含有量を1.0%以下とするのが好ましい。なお、この効果を安定的に得るためには、0.05%以上含有させるのが好ましい。 【0066】 V:0.1%以下 Vは、主に焼戻し時の炭窒化物析出により母材の強度を向上させる効果があるため、必要に応じて含有させても良い。しかし、0.1%を超えて含有させると、母材の性能向上効果が飽和し、靱性劣化を招く。したがって、Vを含有させる場合には、その含有量を0.1%以下にするのが好ましい。なお、この効果を安定的に得るためには、0.005%以上含有させるのが好ましい。 【0067】 Nb:0.1%以下 Nbは、細粒化と炭化物析出により母材の強度および靱性を向上させる効果があるため、必要に応じて含有させても良い。しかし、その含有量が0.1%を超えると、上記の効果が飽和する一方で、溶接熱影響部の靱性を著しく損なう。したがって、Nbを含有させる場合には、その含有量を0.1%以下とするのが好ましい。なお、この効果を安定的に得るためには、0.005%以上含有させるのが好ましい。 【0068】 第2群:Ni Ni:1.5%以下 Niは、固溶状態において鋼のマトリックス(生地)の靭性を高める効果があるため、必要に応じて含有させても良い。しかし、1.5%を超えて含有させても合金コストの上昇に見合った特性の向上が得られない。さらに、SnとNiの共存により耐食性が劣化する場合がある。したがって、Niを含有させる場合には、その含有量を1.5%以下とすることが好ましい。なお、この効果を安定的に得るためには、0.05%以上含有させるのが好ましい。 【0069】 第3群:Cr Cr:1.2%以下 Crは、耐炭酸ガス腐食性を高め、また焼入性を高める効果があるため、必要に応じて含有させても良い。しかし、1.2%を超えて含有させると、他の成分条件を満足させても、溶接熱影響部の硬化の抑制が難しくなるだけでなく、耐炭酸ガス腐食性向上効果も飽和する。したがって、Crを含有させる場合には、その含有量を1.2%以下とすることが好ましい。なお、この効果を安定的に得るためには、0.05%以上含有させるのが好ましい。 【0070】 第4群:Ti Ti:0.05%以下 Tiは、脱酸元素として作用するとともに、Ti、Mnからなる酸化物相を形成し、特に大入熱溶接の熱影響部における組織を微細化し、疲労特性向上の効果が得られるため、必要に応じて含有させても良い。しかし、0.05%を超えて含有させると、形成される酸化物がTi酸化物あるいはTi-Al酸化物となって分散密度が低下し、大入熱溶接部の熱影響部における組織を微細化する能力が失われる。このため、Tiを含有させる場合には、その含有量を0.05%以下とするのが好ましい。より好ましいのは0.02%未満である。さらに好ましくは0.018%以下である。なお、この酸化物相を安定的に鋼中に形成させるためには、鋼中のTiの総量を0.003%以上とするのが好ましい。 【0071】 第5群:Ca、Mg Ca:0.003%以下 Caは、鋼中のSと反応して溶鋼中で酸硫化物(オキシサルファイド)を形成する。この酸硫化物は、MnSなどと異なり、圧延加工で圧延方向に伸びることがなく圧延後も球状であるため、延伸した介在物の先端などを割れの起点とする溶接割れや水素誘起割れを抑制する作用がある。したがって、必要に応じて含有させても良い。しかし、その含有量が0.003%を超えると、靱性の劣化を招くことがある。したがって、Caを含有させる場合には、その含有量を0.003%以下とするのが好ましい。なお、この効果を安定的に得るためには、0.0005%以上含有させるのが好ましい。 【0072】 Mg:0.003%以下 Mgは、Mg含有酸化物を生成し、TiNの発生核となり、TiNを微細分散させる効果を持つため、必要に応じて含有させても良い。しかし、その含有量が0.003%を超えると、酸化物が多くなりすぎて延性低下をもたらす。したがって、Mgを含有させる場合には、その含有量を0.003%以下とするのが好ましい。なお、この効果を安定的に得るためには、0.0005%以上含有させるのが好ましい。 【0073】 そして、本発明の鋼材は、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下であることが必要であり、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であることが必要である。 ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0(ゼロ)を代入するものとする。 【0074】 Bq:0.003以下 Bによる焼入性向上効果を発揮させるには、鋼中のNの影響をなくす必要がある。Bは、Nと結合し易く、鋼中にフリーなNが存在すると、Nと結合してBNが生成しやすいからである。このため、N含有量に応じてTiを添加し、TiNとして固定することにより、Bを鋼中に存在させる。B含有量が大きくなればなるほど、Bによる焼入性が向上する。しかし、(1)式から求められるBq値が0.003を超えると、粗大な鉄炭硼化物が形成され、疲労特性の劣化に繋がる。したがって、Bq値は、0.003以下にする必要がある。 【0075】 なお、Bによる焼入性向上効果を安定的に得るためには、上記(1)式で規定されるBq値を0.0001以上とするのが好ましい。0.0005以上とするのがより好ましく、0.001以上とするのが更に好ましい。 【0076】 Ceq:0.15?0.35 上記(2)式から求められるCeqは、いわゆる炭素当量であり、鋼材の焼入性や溶接性を評価する指標であり、一般に広く使われている。 【0077】 本発明者らは、溶接継手の疲労特性を向上させ、かつ構造用鋼として一般的な引張強さ(TS)が500MPa以上で、かつ0℃におけるシャルピー吸収エネルギー値vE_(0)が27J以上であるという要求を満たすための必要条件を探求した。その結果、Ceq値が0.15%未満では、強度が低下し、一方、Ceqが0.35%を超えると、鋼材の焼入性が高まり、継手の硬度分布が不均一となって継手疲労強度に悪影響を及ぼすことが判明した。また、Ceqが0.35を超えると、溶接性の劣化を引き起こし、溶接施工が困難になり、鋼材の用途が著しく制限されるというデメリットもある。したがって、Ceq値を0.15?0.35%とする。なお、Ceqの好ましい下限は、0.20%である。また、Ceqの好ましい上限は0.30%である。 【0078】 また、本発明の鋼材は、表層から2mm以内の領域の酸化物数が、1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを必要とする。これは、5×10^(4)個を超える酸化物が存在すると、疲労亀裂の発生源が増加し、疲労特性が低下するためである。 【0079】 ここで、酸化物数は、下記の(i)?(iii)に示す手順で測定する。 【0080】 (i)製造した鋼材の圧延方向に垂直な断面を観察面として小片を切り出し、観察面をナイタル溶液で腐食して、試験片を作製する。 【0081】 (ii)上記の試験片をエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)付きの走査型電子顕微鏡(SEM)にセットし、0.05mm角の領域を1視野とし、表層から2mm以内の領域の5視野について倍率2000倍で観察し、各視野における酸化物数を測定する。このとき、酸化物と他の介在物との区別は、EDXによる組成分析によって行う。また、酸化物数の測定は、視野のばらつきを避けるため、表層から深さ2mmまでの領域において深さを変えて行う。 【0082】 (iii)各視野における酸化物数を平均し、表層から2mm以内の領域における酸化物数とする。 【0083】 B.本発明の鋼材の製造方法について 本発明の耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材を製造するにあたっては、精錬段階から調整をするのが好ましい。すなわち、精錬段階では、不活性ガス吹き込み処理または真空精錬処理を工夫することにより、表層部の酸化物を低減できる。具体的には、不活性ガス吹き込み処理を行うに当たっては、溶鋼に下記(3)式を満足する条件で不活性ガスを吹き込むのが有効である。 ただし、上記(3)式中の記号の定義は、下記のとおりである。 G_(1):溶鋼内に吹き込まれる不活性ガス流量(NL/min) H_(1):不活性ガス吹き込みノズルの先端から溶鋼湯面までの距離(m) t_(1):不活性ガス吹き込み時間(min) S_(1):取鍋溶鋼量(ton) D_(1):取鍋内径(m) 【0084】 上記(3)式を満足する条件で不活性ガス吹き込み処理を行えば、浴を十分に撹拌しつつ、吹錬を行うことができる。即ち、吹錬当初は、溶銑中の珪素が酸化されてシリカとなり、これが炉内に加えた焼石灰や酸化鉄と反応して、CaO-SiO_(2)-FeO系スラグを形成し始める。同時に炉内温度が上昇し、スクラップの溶解も進み始める。吹錬初期は、溶銑中の炭素濃度が高いので、吹き込まれた純酸素ガスは、炭素と効率よく反応し、一酸化炭素となって脱炭が進む。この段階では、純酸素ガスの供給速度が脱炭を律速する。脱炭の進行とともに浴の温度はさらに上昇する。脱炭が進み、炭素濃度が低下するにつれて、脱炭反応は、溶鋼中の炭素の移動が脱炭を律速する。溶鋼の撹拌による炭素の移動が不十分であると、吹き込まれた純酸素ガスは、炭素と反応するよりも鉄を酸化させることに使われ、スラグ中に酸化鉄が増え、鉄の歩留りが低下する。これを防ぐため、炉底からのガス吹き込みを活発にする。 【0085】 一方、真空精錬処理を行うに当たっては、溶鋼に下記(4)式を満足する条件で不活性ガスを吹き込むのが好ましい。 ただし、上記(4)式中の記号の定義は、下記のとおりである。 G_(2):溶鋼環流に使用される不活性ガス流量(NL/min) D_(2):浸漬管内径(m) t_(2):真空処理時間(min) S_(2):取鍋溶鋼量(ton) 【0086】 真空精錬処理を行う場合には、上記(4)式を満足する条件として、減圧した容器の中に溶鋼を入れ、平衡分圧を下げて、溶鋼中のガス成分を除去するのが好ましい。 【0087】 さらに、鋼の清浄度を上げるためには、精錬にあたって、精錬初期にAl脱酸を大部分進行させることは避けるのが好ましい。Al以外の組成の調整をMn及びSi等とともに行い、さらにTi等により脱酸が進行した後、出鋼直前にAlを微量溶鋼中に投入し、得られた溶鋼を鋳造することが望ましい。 【0088】 インゴット鋳造の場合は、熱間圧延に先立って、分塊圧延により鋼片(スラブ)を製造する工程を余分に通さなければならず、歩留まりも低下する。よって、鋳造は連続鋳造で行うのが好ましい。連続鋳造の場合、鋼片の偏析も溶接熱影響部の靱性に悪影響を及ぼすので、好ましくは偏析部において、Cが0.29%以下、Pが0.30%以下、Mnが3.5%以下となるような管理を行うのがよい。 【0089】 なお、上記の条件以外に鋳込み時の吐出流量管理として1000?5000ガウスで電磁ブレーキをかけたり、250?1000ガウスで未凝固溶鋼に電磁攪拌処理をしたり、最終凝固部を1mm/m程度の勾配で圧下し、濃厚偏析の溶鋼を最終凝固部から搾り出してもよい。上記の管理項目を適度に組み合わせることにより、清浄度に優れ、かつ中心偏析の少ない鋼片が得られる。 【0090】 続いて、このようにして製造した鋼片を900?1180℃の温度域に加熱して、熱間圧延を行うのがよい。このとき、一旦室温にまで冷却した鋼片を再加熱してもよく、いわゆる直送圧延プロセスにより、連続鋳造後に室温にまで冷却することなく、そのまま均熱炉を経て上記温度に維持あるいは加熱してもよい。ここで、加熱温度が900℃未満の場合は、スラブ加熱時点でオーステナイトへの逆変態が不十分となり、後の特性が劣化する。一方、加熱温度が1180℃を超えると、鋼片の加熱時にオーステナイト結晶粒が粗大化し、板厚中心部だけでなく母材全体の靱性が低下する。 【0091】 熱間圧延の条件は、熱間圧延の仕上げ温度を650?1000℃とするのがよい。仕上げ温度が650℃未満であると、鋼の変形抵抗が上昇するため、熱間圧延後の鋼材の形状を目標の形状に仕上げることが難しくなる。仕上げ温度が高いと制御圧延による結晶粒の微細化効果が得られず母材の靱性を確保することが出来ない。したがって、仕上げ温度の上限を1000℃に制限する。 【0092】 続いて、得られた熱延材を、620?950℃の温度域から、620?500℃の温度域における平均冷却速度が5?50℃/秒となる条件で加速冷却し、500℃以下の温度域で冷却を終了させるのがよい。さらに、冷却終了後の復熱温度幅は70℃以下とするのがよい。 【0093】 このような条件で冷却することにより、疲労特性を向上させることが可能となる。 【0094】 即ち、620?500℃の温度域における平均冷却速度が5℃/sec未満であると、粗大な炭化物を伴うベイナイト組織等が生成し易いので、特に鋼材の中心部の十分な降伏強さを確保することができない。一方、その温度域での冷却速度が50℃/secを超えると、鋼材の表層部近傍で焼きが入り易いために表層の靱性が低下することがある。そこで本発明では、620?500℃の温度域における平均冷却速度を5?50℃/secとする。 【0095】 この冷却における冷却停止温度が500℃を超えると、鋼材の中心部のみならず表層部においても、マルテンサイトあるいは下部ベイナイト等の生成が不十分になるので強度を確保することができない。したがって、冷却停止温度は500℃以下とする。このような熱処理によって、マルテンサイトあるいはベイナイト組織が得られやすくなる。本発明の化学組成を有する鋼材の場合、主としてベイナイト組織となる。 【実施例】 【0096】 表1に示す化学組成の鋼を転炉で溶製し、表2に示す不活性ガス吹き込み処理または真空精錬処理を実施し、その後、連続鋳造を実施することにより得た鋳片を、適当な板厚まで、表3に示す条件で、熱間圧延し、冷却して、試験用鋼板を得た。 【0097】 【表1】 【0098】 【表2】 【0099】 【表3】 【0100】 上記の試験用鋼板を用いて、下記の方法により、疲労破断寿命、溶接熱影響部の引張強度および靭性、酸化物数、板厚減少量ならびに剥離面積率を測定した。 【0101】 <疲労試験> 上記の試験用鋼板を用いて、表4に示す溶接条件で、荷重非伝達型の十字溶接継手を作製し、疲労試験に供した。なお、継手試験体の形状と寸法を図1に示す。継手は隅肉溶接で製作した。図1において、1と2が母材鋼板、5が溶接部である。各継手試験体に対し、繰返し軸力負荷を与え、溶接余盛り止端における疲労亀裂の発生寿命、つまり疲労破断寿命を測定した。表5に疲労試験条件を示す。 【0102】 【表4】 【0103】 【表5】 【0104】 <溶接熱影響部の引張強度> 上記の試験用鋼板において、圧延面に平行で、かつ圧延方向に垂直な方向に試験片を採取し、JIS Z 2241(1998)に規定される方法に従って、引張試験を実施し、引張強さ(TS)を求めた。 【0105】 <溶接熱影響部の靭性> 上記の試験用鋼板(板厚(t))から、鋼板表面から(1/4)t厚部において、圧延面に平行で、圧延方向に垂直な方向に試験片を採取し、JIS Z 2242(1998)に規定される方法に従って、衝撃試験を実施し、0℃における吸収エネルギー(vE0)を求めた。 【0106】 <酸化物数> 下記(i)?(iii)に示す手順により表層から2mm以内の領域における酸化物数を求めた。 【0107】 (i)製造した鋼材の圧延方向に垂直な断面を観察面として小片を切り出し、観察面をナイタル溶液で腐食して、試験片を作製した。 【0108】 (ii)上記の試験片をEDX付きSEMにセットし、0.05mm角の領域を1視野とし、表層から2mm以内の領域の5視野(ほぼ等間隔に5視野)について倍率2000倍で観察し、各視野における酸化物数を測定した。このとき、酸化物と他の介在物との区別は、EDXによる組成分析によって行った。また、酸化物数の測定は、視野のばらつきを避けるため、表層から深さ2mmまでの領域において深さを変えて行った。 【0109】 (iii)各視野における酸化物数を平均し、表層から2mm以内の領域における酸化物数とした。 【0110】 <板厚減少量ならびに剥離面積率> 耐食性に関しては、得られた鋼材から得た試験片をSAE(Society of Automotive Engineers)J2334試験により評価した。SAE J2334試験は、湿潤:50℃、100%RH、6時間、塩分付着:0.5%NaCl、0.1%CaCl_(2)、0.075%NaHCO_(3)水溶液浸漬、0.25時間、乾燥:60℃、50%RH、17.75時間を1サイクル(合計24時間)とした加速試験であり、腐食形態が大気暴露試験に類似しているとされている(長野博夫、山下正人、内田仁著:環境材料学、共立出版(2004)、p.74)。なお、本試験は、飛来塩分量が1mddを超えるような厳しい腐食環境を模擬する試験である。 【0111】 SAE J2334試験120サイクル終了後、各試験片の表面のさび層を除去し、板厚減少量を測定した。ここで、「板厚減少量」は、試験片の平均の板厚減少量であり、試験前後の重量減少と試験片の表面積を用いて算出したものである。 【0112】 また、耐塗装剥離性を調べるために、150×70mmの大きさの試験片にエアースプレーにより変性エポキシ塗料(バンノー200:中国塗料製)を乾燥膜厚で150μmになるように塗装し、鋼材素地に達する深さでクロスカットを入れてから、同じくSAE J2334試験により評価した。 【0113】 鋼材の化学組成および製造方法、ならびに各種試験結果を表6に示す。 【0114】 【表6】 【0115】 表6に示すように、化学組成および製造方法ともに本発明の条件を満たす、本発明例1?10では、表層から2mm以内の領域における酸化物数が5×10^(4)個/mm^(2)以下となり、いずれの例でも、疲労破断寿命(繰り返し数)が5×10^(6)回を超え、また、da/dnが5×10^(-5)以下であるため、十分な耐疲労亀裂進展特性を有していた。また、高い耐食性も有しており、塗装した場合のクロスカット部に腐食は見られたもののいずれの鋼板も剥離も少ないので塗装の補修間隔を延ばすことができることがわかる。 【0116】 一方、化学組成は、本発明で規定される範囲を満足するが、製造方法が本発明の条件を外れる比較例1および2、ならびに、化学組成が本発明で規定される範囲を外れる比較例3?6では、いずれも疲労破断寿命が10^(4)台と極めて悪くなった。 【0117】 特にCu含有量が多く、Cu/Snが1を超える比較例3では圧延時に端部に微小の割れが発生した。Snの少ない比較例4では飛来塩分量の多い環境下での耐食性が低下し、剥離面積率も80%となった。 【産業上の利用可能性】 【0118】 本発明の鋼材は、耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れているので、船体、土木建設物、建設機械、水圧鉄管、海洋構造物、ラインパイプその他の耐疲労亀裂進展特性が要求される溶接構造物などに用いるのに適している。 【符号の説明】 【0119】 1.母材鋼板 2.母材鋼板 5.溶接部 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%並びにMo:1.0%以下、V:0.1%以下およびNb:0.1%以下から選択される1種以上を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【請求項2】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%およびTi:0.05%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【請求項3】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%並びにCa:0.003%以下およびMg:0.003%以下の一方または両方を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【請求項4】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%およびNi:1.5%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【請求項5】 質量%で、C:0.01?0.14%、Si:0.04?0.6%、Mn:0.5?2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Cu:0.2%未満、B:0.0007%を超え0.005%以下、Al:0.05%未満、N:0.007%以下、O:0.003%以下、Sn:0.03?0.50%およびCr:1.2%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、そして、下記(1)式から求められるBq値が0.003以下、下記(2)式から求められるCeq値が0.15?0.35であり、かつ、表層から2mm以内の領域における酸化物数が1平方mmあたり5×10^(4)個以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材。 ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。なお、各元素の含有量が不純物レベルの場合には0を代入するものとする。 【請求項6】 下記の工程A?Dを備え、かつ、工程Dの冷却終了後の復熱温度幅を70℃以下とすることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材の製造方法。 工程A:溶鋼に下記(3)式を満足する条件で不活性ガスを吹き込む工程、 工程B:得られた溶鋼を連続鋳造し、請求項1から5までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼片を得る工程、 工程C:得られた鋼片を900?1180℃に加熱した後、仕上げ温度が650?1000℃となる条件で熱間圧延を施して熱延材を得る工程、および、 工程D:得られた熱延材を、620?950℃の温度域から、620?500℃の温度域における平均冷却速度が5?50℃/秒となる条件で加速冷却し、500℃以下の温度域で冷却を終了させる工程。 ただし、上記(3)式中の記号の定義は、下記のとおりである。 G_(1):溶鋼内に吹き込まれる不活性ガス流量(NL/min) H_(1):不活性ガス吹き込みノズルの先端から溶鋼湯面までの距離(m) t_(1):不活性ガス吹き込み時間(min) S_(1):取鍋溶鋼量(ton) D_(1):取鍋内径(m) 【請求項7】 下記の工程A1?Dを備え、かつ、工程Dの冷却終了後の復熱温度幅が70℃以下であることを特徴とする耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材の製造方法。 工程A1:溶鋼に下記(4)式を満足する条件で真空精錬処理を行う工程、 工程B:得られた溶鋼を連続鋳造し、請求項1から5までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼片を得る工程、 工程C:得られた鋼片を900?1180℃に加熱した後、仕上げ温度が650?1000℃となる条件で熱間圧延を施して熱延材を得る工程、および、 工程D:得られた熱延材を、620?950℃の温度域から、620?500℃の温度域における平均冷却速度が5?50℃/秒となる条件で加速冷却し、500℃以下の温度域で冷却を終了させる工程。 ただし、上記(4)式中の記号の定義は、下記のとおりである。 G_(2):溶鋼環流に使用される不活性ガス流量(NL/min) D_(2):浸漬管内径(m) t_(2):真空処理時間(min) S_(2):取鍋溶鋼量(ton) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審決日 | 2012-04-25 |
出願番号 | 特願2011-526323(P2011-526323) |
審決分類 |
P
1
41・
854-
Y
(C22C)
P 1 41・ 856- Y (C22C) P 1 41・ 853- Y (C22C) P 1 41・ 852- Y (C22C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 陽一、鈴木 毅 |
特許庁審判長 |
吉水 純子 |
特許庁審判官 |
野田 定文 大橋 賢一 |
登録日 | 2012-02-17 |
登録番号 | 特許第4924774号(P4924774) |
発明の名称 | 耐疲労亀裂進展特性および耐食性に優れた鋼材並びにその製造方法 |
代理人 | 千原 清誠 |
代理人 | 杉岡 幹二 |
代理人 | 千原 清誠 |
代理人 | 杉岡 幹二 |