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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1256652
審判番号 不服2008-31932  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-17 
確定日 2012-05-10 
事件の表示 特願2004-56774「細胞固定化方法、細胞評価方法および細胞培養方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年9月15日出願公開、特開2005-245224〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成16年3月1日の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成20年8月18日付け 拒絶理由通知
平成20年10月27日 意見書、手続補正書
平成20年11月14日付け 拒絶査定
平成20年12月17日 審判請求書
平成21年1月16日 手続補正書
平成21年2月18日 手続補正書(方式)
平成21年4月13日付け 前置審査移管
平成21年4月23日付け 前置報告書
平成21年5月1日付け 前置審査解除
平成23年2月7日付け 審尋
平成23年4月11日 回答書


第2 平成21年1月16日付け手続補正書についての補正の却下の決定
1 本件補正
平成21年1月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の

「【請求項1】培養面に細胞を固定化する方法であって、末端に細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質を有するデンドリマー高分子化合物で培養面に修飾することで得られる表面粗さ(Ra)2.0?7.0 nmの修飾凹凸培養面に、細胞を播種することを特徴とする細胞固定化方法。
【請求項2】修飾凹凸培養面は、デンドリマー高分子化合物の世代数を制御して修飾することで得られるものとする特徴とする請求項1の細胞固定化方法。
【請求項3】 デンドリマー高分子化合物は、ポリイミノアミンデンドリマーである請求項1または2の細胞固定化方法。
【請求項4】培養面に、デンドリマー高分子化合物を4世代修飾する請求項1から3の細胞固定化方法。
【請求項5】細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質は、アミノ酸、糖、イオン、薬剤、Gタンパク結合型受容体、イオンチャンネル型受容体、チロシンキナーゼ結合型受容体、および光受容体からなる群より選択される物質とする請求項1ないし4のいずれかの細胞固定化方法。
【請求項6】細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質は、グルコースとする請求項1ないし5のいずれかの細胞固定化方法。
【請求項7】細胞の細胞骨格形成能を評価するための方法であって、請求項1ないし6のいずれかの方法により培養面に細胞を固定化した後、細胞培養を行い、特定時間経過後の細胞の円形度および/または倍加時間および/または変形細胞率を測定することを特徴とする細胞評価方法。
【請求項8】請求項7の方法により培養細胞を評価し、評価結果に基づき、随時、培養の継続、中断、または条件変更を判断することを特徴とする細胞培養方法。
【請求項9】物質の細胞膜への結合を阻害する薬剤をスクリーニングするための方法であって、結合阻害を調べたい物質を有するデンドリマー高分子化合物を培養面に修飾することで得られる表面粗さ(Ra)2.0?7.0 nmの修飾凹凸培養面に、細胞を播種した後、スクリーニング対象薬剤の共存下で細胞培養を行い、細胞の円形度および/または倍加時間および/または変形細胞率を測定して、細胞の円形度が高い場合および/または倍加時間が短い場合および/または変形細胞率が高い場合に、該薬剤を細胞膜と物質の結合阻害剤と判定する薬剤のスクリーニング方法。
【請求項10】細胞形態の変化によって細胞骨格形成能を評価するためのキットであって、培養容器の内表面に細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質を有するデンドリマー高分子化合物で修飾された細胞培養面を有し、この細胞培養面の表面粗さ(Ra)が2.0?7.0nmであることを特徴とする細胞骨格形成能の評価キット。」

「【請求項1】培養面に細胞を固定化する方法であって、末端に細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質を有し、かつ半球状又は球状に制御された形状のデンドリマー高分子化合物で培養面に修飾することで得られる表面粗さ(Ra)2.0?7.0 nmの修飾凹凸培養面に、細胞を播種することを特徴とする細胞固定化方法。
【請求項2】修飾凹凸培養面は、デンドリマー高分子化合物の世代数を制御して修飾することで得られるものとする特徴とする請求項1の細胞固定化方法。
【請求項3】デンドリマー高分子化合物は、ポリイミノアミンデンドリマーである請求項1または2の細胞固定化方法。
【請求項4】細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質は、アミノ酸、糖、イオン、薬剤、Gタンパク結合型受容体、イオンチャンネル型受容体、チロシンキナーゼ結合型受容体、および光受容体からなる群より選択される物質とする請求項1から3のいずれかの細胞固定化方法。
【請求項5】細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質は、グルコースとする請求項1ないし4のいずれかの細胞固定化方法。
【請求項6】細胞の細胞骨格形成能を評価するための方法であって、請求項1ないし5のいずれかの方法により培養面に細胞を固定化した後、細胞培養を行い、特定時間経過後の細胞の円形度および/または倍加時間および/または変形細胞率を測定することを特徴とする細胞評価方法。
【請求項7】請求項6の方法により培養細胞を評価し、評価結果に基づき、随時、培養の継続、中断、または条件変更を判断することを特徴とする細胞培養方法。
【請求項8】物質の細胞膜への結合を阻害する薬剤をスクリーニングするための方法であって、結合阻害を調べたい物質を有し、かつ半球状又は球状に制御された形状のデンドリマー高分子化合物を培養面に修飾することで得られる表面粗さ(Ra)2.0?7.0 nmの修飾凹凸培養面に、細胞を播種した後、スクリーニング対象薬剤の共存下で細胞培養を行い、細胞の円形度および/または倍加時間および/または変形細胞率を測定して、細胞の円形度が高い場合および/または倍加時間が短い場合および/または変形細胞率が高い場合に、該薬剤を細胞膜と物質の結合阻害剤と判定する薬剤のスクリーニング方法。
【請求項9】細胞形態の変化によって細胞骨格形成能を評価するためのキットであって、培養容器の内表面に細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質を有し、かつ半球状又は球状に制御された形状のデンドリマー高分子化合物で修飾された細胞培養面を有し、この細胞培養面の表面粗さ(Ra)が2.0?7.0nmであることを特徴とする細胞骨格形成能の評価キット。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)補正の目的の適否
上記補正は、補正前の請求項4を削除するものであり、さらに、補正後の請求項9についてみると、補正後の請求項9に記載された発明は、補正前の請求項10に記載された発明の「デンドリマー高分子化合物で修飾された細胞培養面」の形状について、「半球状又は球状に制御された形状」と限定するものである。
補正後の請求項9に記載された発明は、補正前の請求項10に記載された発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であり、補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項である「デンドリマー高分子化合物で修飾された細胞培養面」の形状を限定するものである。
したがって、上記補正は、平成18年法律55号改正附則第3条第1項により、なお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものである。

そこで、補正後の請求項9に記載された発明(以下、「本願補正発明」といい、本願の明細書を「本願明細書」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項の規定に適合するか否か)、具体的には、本願補正発明が、本願出願前に頒布された刊行物に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか否かについて、以下に検討する。

(2)刊行物に記載された事項
(ア)刊行物1に記載された事項
本願の出願前である平成15年3月1日に頒布された刊行物であるS. Higashiyama、M. Noda、M. Kawase、K. Yagi、Mixed-ligand modification of polyamidoamine dendrimers to develop an effective scaffold for maintenance of hepatocyte spheroids、J.Biomed.Mater.Res.,Vol.64A,No.3(2003)p.475-482(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)「Culture conditions
・・・Cells were seeded at a density of 1×10^(5 )cells/cm^(2) onto 12-well polystyrene culture plates (Nippon Becton Dickinson, Tokyo) with immobilized dendrimers with various ligands. ・・・ 」(第476頁左欄第22?29行)
(当審訳:培養条件
・・・細胞は、1×10^(5)細胞/cm^(2)の密度で、様々なリガンドを有するデンドリマーを固定化した12ウェルのポリスチレン培養プレート(日本ベクトン・ディッキンソン、東京)上に、播種された。・・・)

(1b)「Immobilization of ligand-modified dendrimer
Dendrimera modified with fructose, fructose and galactose, and galactose (Wako Pure Chemicals, Osaka, Japan) ar their terminal amino groups (fructose dendrimer, F/G dendrimer, and galactose dendrimer, respectively) were immobilized on 12-well culture plates (Nippon Becton Dickinson, Tokyo) as follows(Fig.1).
The fifth-generation ligand-modified dendrimers were immobilized by the following reactions:(Step 1). A solution containing 75 μmol of potassium t-butoxide (tert-BuOK) was poured into each well, and the plates were allowed to stand for 1h at room temperature. Then, the sohution in each well was discarded.(Step 2) A solution containing 360 μmol of glutaraldehyde was poured into each well and the plates were allowed to stand for 1h at room temperature. Then the wells were washed three times with sterilized water.(Step 3) A solution (pH9.0, adjusted with 1N NaOH) containing 360μmol of Tris(2-aminoethyl) amine was poured into each well and the plates were allowed to stand for 1H at room temperature. Then the wells were washed twice with sterilized water. (Step 4) To prepare second-generation dendrimers, Step 2 and 3 were repeated. Subsequently, to prepare fifth-generation dendrimers, Step 2 and 3 repeated three times.(Step 5) Asolution containing 100 μmol of fructose was poured into each well, and subsequently a solution containing 500μmol of sodium borohydride was poured into each well. The wells then were washed three times with sterilized water. Step 5 was carried out in order to modified the dendrimers with ligands(fructose, fructose and galactose, and galactose).

」(第476頁左欄第32行?右欄第17行)
(当審訳:リガンドで修飾されたデンドリマーの固定化
末端のアミノ基を、フルクトース、フルクトースとガラクトース、ガラクトース(和光純薬、大阪、日本)で修飾されたデンドリマー(それぞれ、フルクトース・デンドリマー、F/G・デンドリマー、ガラクトースデンドリマーという。)は、12ウェルのプレート(日本ベクトン・ディッキンソン、東京)上に以下の方法で固定化された(図1)。
第5世代のリガンドで修飾されたデンドリマーは、以下の方法で固定化された。(ステップ1)75μモルのカリウムt-ブトキシド(tert-BuOK)を各ウェルに添加し、プレートを室温で1時間静置した。その後、各ウェルの溶液を取り除いた。(ステップ2)360μモルのグルタルアルデヒド溶液を各ウェルに添加し、プレートを室温で1時間静置した。その後、各ウェルを滅菌水で3回洗浄した。(ステップ3)360μモルのトリス(2-アミノエチル)アミンの溶液(1NのNaOHによりpH9.0に調整)を各ウェルに添加し、室温で1時間静置した。その後、各ウェルを滅菌水で2回洗浄した。(ステップ4)第2世代のデンドリマーを調整するために、ステップ2及び3を繰り返した。続けて、第5世代のデンドリマーを調整するため、ステップ2及び3を3回繰り返した。(ステップ5)100μモルのフルクトース溶液を各ウェルに添加し、続けて、500μモルの水素化ホウ素ナトリウムを各ウェルに添加した。ウェルは滅菌水で3回洗浄した。ステップ5は、デンドリマーをリガンド(フルクトース、フルクトース及びガラクトース、ガラクトース)で修飾するために、行われた。
(図1を省略)
図1 ポリスチレン培養プレートの表面へのリガンドで修飾したデンドリマーの固定化の図解)

(1c)「Formaiton of heptatocyte spheroids on ligand-modified dendrimers
Dendrimers modified with fructose(fructose dendrimers), fructose and galactose(F/G dendrimer), and galactose(galactose dendrimer) were immobilized onto polystyrene plates, as described in Materials and Methods. An unmodified polystyrene plates was used as the control.
Rat hepatocytes were isolated and cultured on fructose dendrimer. About 24h after the inoculation, hepatocytes started to aggregate and to form multicellular spheroids, as shown in Figure 3. However, the adhesion to the fructose dendrimer was not sufficiently strong and the spheroids easily into the medium after 1 day in culture.
Because galactose is a ligand of the asialoglycoprotein receptor on the hepatocyte cytoplasmic membrane, we chose it as another modified ligand to maintain the adhesion of spheroids for a long periods.Simultaneous modification of the dendrimers with fructose and galactose was carried out and the effect on spheroid adhesion examined. The addtion of galactose as a ligand had a marked effect on adhesion, as shown in Figure 4.

」(第477頁左欄下から第5行?第478頁左欄)
(当審訳:リガンドで修飾されたデンドリマー上での肝細胞の球形の形成
フルクトース(フルクトース・デンドリマー)、フルクトースとガラクトース(F/Gデンドリマー)、ガラクトース(ガラクトース・デンドリマー)で修飾されたデンドリマーを、「Materials and Methods」の項で記載したように、ポリスチレンプレート上に固定化した。修飾しないポリスチレンプレートを、コントロールとして用いた。
ラットの肝細胞が単離され、フルクトース・デンドリマー上で培養した。細胞播種から約24時間後、第3図に示すように、肝細胞は凝集し、多細胞性球形を形成した。しかし、フルクトース・デンドリマーへの付着は、十分に強固なものではなく、培養1日後で、球形細胞は容易に培養液中に分離した。
ガラクトースは、肝細胞の細胞膜上のアシアロ糖タンパク質受容体のリガンドであるので、長期間の球形細胞の付着を維持するために、他の修飾リガンドとして選択した。フルクトースとガラクトースでデンドリマーに同時に修飾を行い、球形細胞の付着への影響を調べた。リガンドとしてガラクトースを追加したことは、図4に示すように、細胞の付着に顕著な影響を与えた。
(図3及び図4 略))

(イ)刊行物2に記載された事項
本願の出願前である平成15年12月26日に頒布された刊行物である第25回日本バイオマテリアル学会大会予稿集(2003年)、2003年12月16日、p.209(C-406)(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a)「・・・本研究では、グルコースを末端にもつデンドリマー培養面を作成し、細胞骨格形成能を非破壊かつ非襲撃で評価できるシステムを開発するとともに、細胞の骨格形成能と細胞寿命の関連性について検討した。」(第6?8行)

(2b)「一方、細胞形態のみを観察することのできる静的評価は、簡単な測定方法ではあるが情報量に乏しいため細胞移動評価には不適である。そこで、準動的評価(・・・)が可能な設計が必要となり、その際には、細胞の局所固定が、細胞挙動を観察するうえで重要となる。
本研究では、デンドリマー培養面を用い、細胞の一部を強制的に培養面に固定することで、細胞の移動は若干制限されるものの、細胞の退縮が阻止されて、伸展のみとなり、移動量が時間的に蓄積された形(移動積算量)で細胞形態が変化することがわかった。その際、培養面に固定されたグルコースを細胞に取り込ませグルコーストランスポーターに結合させることで細胞移動を制限する方法が有効であることを示した。本研究で提示する方法は、細胞構成物質以外の第3物質の導入を伴う、従来の強制的な固定物質の導入法とは異なり、細胞への負担が軽減され、細胞固定培養面として有用であると考えられた。
本デンドリマー培養面にて、角化細胞の伸展評価を円形度を指標として行ったところ、骨格形成能に優れた細胞は、大きく引き伸ばされた形態をとり、その結果、円形度が小さくなることが示された。一方、細胞寿命に近い細胞は骨格形成能が低いために円形の形態をとり、円形度は大きいことが分かった。以上より本培養面での細胞評価においては、その評価後に細胞を回収し、細胞を再利用することができることから、培養組織生産プロセスにおいて、骨格形成能や細胞寿命を評価できる有効なツールになるものと考えられた。」(第13?28行)


(3)刊行物1に記載された発明
刊行物1の上記摘記事項(1b)には、「第5世代のリガンドで修飾されたデンドリマー」を固定化した「12ウェルのプレート」を、「(ステップ1)75μモルのカリウムt-ブトキシド(tert-BuOK)を各ウェルに添加し、プレートを室温で1時間静置した。その後、各ウェルの溶液を取り除いた。(ステップ2)360μモルのグルタルアルデヒド溶液を各ウェルに添加し、プレートを室温で1時間静置した。その後、各ウェルを滅菌水で3回洗浄した。(ステップ3)360μモルのトリス(2-アミノエチル)アミンの溶液(1NのNaOHによりpH9.0に調整)を各ウェルに添加し、室温で1時間静置した。その後、各ウェルを滅菌水で2回洗浄した。(ステップ4)第2世代のデンドリマーを調整するために、ステップ2及び3を繰り返した。続けて、第5世代のデンドリマーを調整するため、ステップ2及び3を3回繰り返した。(ステップ5)100μモルのフルクトース溶液を各ウェルに添加し、続けて、500μモルの水素化ホウ素ナトリウムを各ウェルに添加した。ウェルは滅菌水で3回洗浄」する操作で調整されたものが記載されているから、刊行物1には、
「(ステップ1)75μモルのカリウムt-ブトキシド(tert-BuOK)を各ウェルに添加し、プレートを室温で1時間静置し、その後、各ウェルの溶液を取り除き、(ステップ2)360μモルのグルタルアルデヒド溶液を各ウェルに添加し、プレートを室温で1時間静置し、その後、各ウェルを滅菌水で3回洗浄し、(ステップ3)360μモルのトリス(2-アミノエチル)アミンの溶液(1NのNaOHによりpH9.0に調整)を各ウェルに添加し、室温で1時間静置し、その後、各ウェルを滅菌水で2回洗浄し、(ステップ4)第2世代のデンドリマーを調整するために、ステップ2及び3を繰り返し、続けて、第5世代のデンドリマーを調整するため、ステップ2及び3を3回繰り返し、(ステップ5)100μモルのフルクトース溶液を各ウェルに添加し、続けて、500μモルの水素化ホウ素ナトリウムを各ウェルに添加し、ウェルは滅菌水で3回洗浄して得られた、第5世代のリガンドで修飾されたデンドリマーを固定化した12ウェルのプレート」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(4)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「12ウェルのプレート」は、本願補正発明の「培養容器」に相当することは明らかである。

引用発明の「(ステップ1)75μモルのカリウムt-ブトキシド(tert-BuOK)を各ウェルに添加し、プレートを室温で1時間静置し、その後、各ウェルの溶液を取り除き、(ステップ2)360μモルのグルタルアルデヒド溶液を各ウェルに添加し、プレートを室温で1時間静置し、その後、各ウェルを滅菌水で3回洗浄し、(ステップ3)360μモルのトリス(2-アミノエチル)アミンの溶液(1NのNaOHによりpH9.0に調整)を各ウェルに添加し、室温で1時間静置し、その後、各ウェルを滅菌水で2回洗浄し、(ステップ4)第2世代のデンドリマーを調整するために、ステップ2及び3を繰り返し、続けて、第5世代のデンドリマーを調整するため、ステップ2及び3を3回繰り返し」て得られる「デンドリマー」は、刊行物1の上記摘記事項(1b)の図1に示される化学構造と、本願補正明細書の段落【0041】?【0042】の【化1】の化学構造が同一であることから、本願補正発明の「デンドリマー高分子化合物」に相当するといえる。

引用発明の「フルクトース」は、本願明細書の段落【0036】の「この出願の発明の細胞固定化方法において、修飾凹凸培養面を修飾する細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質は、細胞との結合リガンドとして作用するものであり、とくに限定されない。トランスポーターを介して取り込まれる物質、例えば、・・・グルコース、フルクトース、ガラクトースなどの糖・・・であってもよいし、・・・であってもよい」との記載からみて、本願補正発明の「細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質」に相当するといえる。

また、本願補正発明の「培養容器の内表面に細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質を有し、かつ半球状又は球状に制御された形状のデンドリマー高分子化合物で修飾された細胞培養面を有し、この細胞培養面の表面粗さ(Ra)が2.0?7.0nmであること」について、本願明細書の段落【0056】には、その具体的な製造例として、「<参考例1> デンドリマーの固相合成 (a)75μmolのカリウムt-ブトキシド(以下t-BuOKとする)を25 cm2のT-フラスコ(Nunclon Delta Flask; Nunc, Roskilde, Denmark)に添加し、室温で1時間静置した後、t-BuOK溶液を取り除いた。(b) 次いで、360 μmolのグルタルアルデヒド水溶液を各フラスコに添加し、室温で1時間静置した。グルタルアルデヒド溶液を取り除き、滅菌水でフラスコ内を3回洗浄した。(c)さらに、360μmolのトリス(2-アミノエチル)アミンの溶液(1 N NaOHによりpH 9.0に調整)(18.0 ml)を各々フラスコに添加し、室温で1時間静置した後、フラスコ内を滅菌水にて2回洗浄した。これら(b)および(c)の工程を繰り返すことにより、デンドリマーの世代数を高めた。さらに、得られたデンドリマーの末端にグルコース(細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質としてのリガンド分子)を、次の手順により結合させた。(d) 各フラスコに100 nmolのグルコース溶液を添加し、次いで各フラスコに500 nmolの水素化ホウ素ナトリウムを添加した。さらに、フラスコ内を滅菌水で3回洗浄した。」ことが記載されている。さらに、その「フラスコ」の「細胞培養面の表面粗さ(Ra)」について、本願補正明細書の段落【0063】?【0064】及び図4からみて、第2世代?第6世代のものは、「細胞培養面の表面粗さ(Ra)が2.0?7.0nm」になることが記載されており、「デンドリマー高分子化合物」の形状について、本願補正明細書の段落【0040】には、「デンドリマー化合物は、培養面に固相合成してもよいし、予め合成されたものを培養面に固定化してもよい。前者の場合には、デンドリマー化合物の形状は半球状となり、後者の場合には球状となる」ことが記載されている。
引用発明の「第5世代のリガンドで修飾されたデンドリマーを固定化した12ウェルのプレート」の「デンドリマー」も、上記の本願明細書の段落【0056】の方法と、同じ濃度の同じ試薬を用いて、同じ操作により調整されており、さらに、「デンドリマー」は「第5世代」のものであり、「デンドリマー化合物」を培養面に固相合成しているといえるから、「半球状」となっているといえる。さらに、「リガンド」としての、本願の補正明細書の段落【0056】の「グルコース」と引用発明の「フルクトース」は化学組成式、分子量が同じであるから、同程度の大きさを有しているといえる。
したがって、引用発明の「第5世代のリガンドで修飾されたデンドリマーを固定化した12ウェルのプレート」も、本願補正発明と同様に、「培養容器の内表面に細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質を有し、かつ半球状に制御された形状のデンドリマー高分子化合物で修飾された細胞培養面を有し、この細胞培養面の表面粗さ(Ra)が2.0?7.0nmである」ものになっているといえる。

本願補正発明の「細胞形態の変化によって細胞骨格形成能を評価するためのキットであって、・・・細胞骨格形成能の評価キット」について、本願補正明細書の段落【0017】には「第9には、細胞形態の変化によって細胞骨格形成能を評価するためのキットであって、培養容器の内表面に細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質を有し、かつ半球状又は球状に制御された形状のデンドリマー高分子化合物で修飾された細胞培養面を有し、この細胞培養面の表面粗さ(Ra)が2.0?7.0nmである細胞骨格形成能の評価キットを提供する」と、段落【0028】の「上記第9の発明の細胞固定化キットでは、培養容器の内面が、2.0?7.0 nmの表面粗さ(Ra)を有し、かつ細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質で修飾されている」と記載されているから、本願補正発明の「細胞形態の変化によって細胞骨格形成能を評価するためのキットであって、・・・細胞骨格形成能の評価キット」は、「培養容器の内表面に・・・デンドリマー高分子化合物で修飾された細胞培養面を有する」「培養容器」で構成されているといえる。
一方、引用発明の「第5世代のリガンドで修飾されたデンドリマーを固定化した12ウェルのプレート」も「培養容器」であり、その内表面に「デンドリマー高分子化合物で修飾された細胞培養面」を有しているといえるから、本願補正発明の「細胞形態の変化によって細胞骨格形成能を評価するためのキットであって、・・・細胞骨格形成能の評価キット」と引用発明の「第5世代のリガンドで修飾されたデンドリマーを固定化した12ウェルのプレート」とは、「培養容器の内表面に・・・デンドリマー高分子化合物で修飾された細胞培養面を有する培養容器」である点で共通する。

したがって、両者は、
「培養容器の内表面に細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質を有し、かつ半球状又は球状に制御された形状のデンドリマー高分子化合物で修飾された細胞培養面を有し、この細胞培養面の表面粗さ(Ra)が2.0?7.0nmである培養容器」

という点で一致するが、以下の点で相違する。

相違点:「培養容器」について、本願補正発明では、「細胞形態の変化によって細胞骨格形成能を評価するためのキット」として用いるのに対し、引用発明では、どのように用いるか規定されていない点。

(5)判断
(ア)相違点について
本願補正発明の「細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質」について、本願の補正明細書の段落【0036】には、「この出願の発明の細胞固定化方法において、修飾凹凸培養面を修飾する細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質は、細胞との結合リガンドとして作用するものであり、とくに限定されない。トランスポーターを介して取り込まれる物質、例えば、・・・グルコース、フルクトース、ガラクトースなどの糖・・・であってもよいし、・・・であってもよい」と記載されており、本願補正発明においては特に限定はされていないが、本願補正明細書の段落【0056】?【0060】、【0062】?【0077】の参考例1、実施例1においては、「細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質」として「グルコース」を用いている。

刊行物1の上記摘記事項(1a)には、引用発明の「第5世代のリガンドで修飾されたデンドリマーを固定化した12ウェルのプレート」に細胞を播種したこと、上記摘記事項(1c)には、「リガンド」として、「フルクトース」、「フルクトース」と「ガラクトース」を用いたデンドリマーを固定化した培養面への細胞の付着について記載されており、細胞の付着は、細胞の形態・状態の観察により行われたものと認められる。

刊行物2の上記摘記事項(2a)及び(2b)には、「グルコースを末端にもつデンドリマー培養面」が、「細胞の骨格形成能や細胞寿命を評価できる有効なツールになると考えられる」こと、「細胞の骨格形成能」を「角化細胞の伸展評価を円形度を指標」として行ったことが記載されており、「角化細胞の伸展評価」は細胞の観察により行うものと認められる。

また、一般に、化合物のスクリーニングや細胞自体の評価等を目的として、細胞培養に必要なものを、評価するためのキットとして提供することも、ごく一般的に行われていたことといえる。

そうすると、引用発明の「培養容器」において、細胞の形態・状態の観察をよりよく行うために、「細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質」を「グルコース」として、「細胞形態の変化による細胞骨格形成能の評価」に用いること、さらに、それを「細胞形態の変化によって細胞骨格形成能を評価するためのキット」として用いることは当業者が容易に想到し得たことといえる。

(イ)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果について、本願補正明細書の段落【0029】には、「上記第9の発明の細胞固定化キットでは、培養容器の内面が、2.0?7.0 nmの表面粗さ(Ra)を有し、かつ細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質で修飾されている。したがって、細胞膜が認識、結合できる高密度の結合サイトだけでなく、細胞の固定化に最適な深さの凹凸が存在することにより、このようなキットを用いて細胞を播種すれば、強固な細胞固定が可能となる」と記載されている。
しかしながら、上記(ア)で検討したように、「細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質」として「グルコース」を用いれば、「細胞移動を制限」、すなわち、「細胞固定化」できるといえるし、上記(4)で検討したように、引用発明の「第5世代のリガンドで修飾されたデンドリマーを固定化した12ウェルのプレート」も「2.0?7.0 nmの表面粗さ(Ra)」を有するものであるといえるから、この点について、本願補正発明と引用発明との間に相違はなく、本願補正発明と同様の効果を奏するといえるから、本願補正発明の効果は当業者が予測し得る程度のものといえる。

(6)まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物1?2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
以上のとおり、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、本件補正は、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成21年1月16日付け手続補正書は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成20年10月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項10に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項10】細胞形態の変化によって細胞骨格形成能を評価するためのキットであって、培養容器の内表面に細胞のトランスポートチャンネルを標的とした物質を有するデンドリマー高分子化合物で修飾された細胞培養面を有し、この細胞培養面の表面粗さ(Ra)が2.0?7.0nmであることを特徴とする細胞骨格形成能の評価キット。」

2 原査定の概要
原査定における拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された以下の刊行物である引用文献1?4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとするものである。

1.J.Biomed.Mater.Res.,Vol.64A,No.3(2003)p.475-482(上記「刊行物1」に同じ。以下も同様に「刊行物1」という。)
2.Artif.Organs,Vol.24,No.1(2000)p.18-22
3.第25回日本バイオマテリアル学会大会予稿集,2003年12月16日,p.209(C-406)(上記「刊行物2」に同じ。以下も同様に「刊行物2」という。)
4.第55回日本生物工学会大会講演要旨集,2003年8月25日,p.91(2C13-2の項)

3 引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、3(刊行物1、2と同じ。)の記載事項は、「第2 平成21年1月16日付け手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(2)刊行物に記載された事項」に記載したとおりであり、引用発明は同「(3)刊行物1に記載された発明」に記載したとおりである。

4 対比・判断
前記「第2 平成21年1月16日付け手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(1)補正の目的の適否」で検討したように、本願補正発明は、本願発明を特定するために必要な事項を限定したものであるから、本願発明は本願補正発明を包含するものである。

そうすると、本願発明の構成要件の全てを含み、さらに構成要件を減縮したものに相当する本願補正発明は、前記「第2 平成21年1月16日付け手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(4)対比」?「(5)判断」に記載したとおり、刊行物1?2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これを包含する本願発明も、同様の理由により、本願の出願前に頒布された刊行物1?2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余のことについて検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-06 
結審通知日 2012-03-13 
審決日 2012-03-26 
出願番号 特願2004-56774(P2004-56774)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三原 健治  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 郡山 順
杉江 渉
発明の名称 細胞固定化方法、細胞評価方法および細胞培養方法  
代理人 西澤 利夫  

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