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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23Q
管理番号 1256822
審判番号 不服2011-12450  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-10 
確定日 2012-05-07 
事件の表示 特願2006-310906「バイト加工方法及びバイト加工装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月 5日出願公開、特開2008-126323〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本件発明
本願は平成18年11月17日の出願であって、同22年6月23日付拒絶理由通知に対して同22年9月16日付で意見書と手続補正書が提出されたが、同23年3月23日付で拒絶査定されたものである。本件審判は該査定の取消を求めて平成23年6月10日に請求され、同日付で特許請求の範囲と明細書に対する手続補正書が提出された。その後、当審による平成23年8月16日付審尋に対して同23年10月24日付で回答書が提出され、同23年12月16日付拒絶理由通知に対して同24年2月15日付で意見書と手続補正書が提出されている。
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成24年2月15日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、請求項1の発明は以下のとおりである。
「 バイトに対し相対的にワークをXY平面上でX軸方向へ往復動させて前記ワークの表面を加工するバイト加工方法において、
単一の主軸に付設されたバイトホルダーに回転可能に設置され、前記ワークの往動時と復動時にそれぞれ対応すべく互いに切削加工方向の向きを逆にし、A軸の軸心に対して対称に取り付けられ、前記XY平面に平行なX軸を回転中心とするA軸により交互に加工位置へ回転して割出し可能に取り付けられた少なくとも2本のバイトを使用し、前記2本のバイトを、前記XY平面に平行なX軸を回転中心とするA軸により交互に加工位置へ割出し可能に取り付ける工程と、
前記単一の主軸に設置されたバイトホルダーに回転可能に設置され2本のバイトのうち、前記往動時の加工に対応する向きのバイトを、前記A軸の割出し回転により加工位置へ割出す工程と、
次いで前記ワークを往動させ、前記往動時の加工に対応したバイトにより前記ワークを切削加工する往動加工工程と、
この往動加工工程後に前記A軸の割出し回転により前記復動時の加工に対応する向きのバイトを同じく前記A軸の割出し回転により加工位置へ割出す工程と、
次いで前記ワークを復動させ、前記復動時の加工に対応したバイトにより前記ワークを切削加工する復動加工工程と、
前記往動時から復動時への前記バイトの入れ替えに伴なう前記バイトの位置ずれ量に応じて前記バイトの設定位置を補正する補正工程と、
を有することを特徴とするバイト加工方法。」(以下、「本件発明」という。)

2.当審の拒絶理由の概要
当審が平成23年12月16日付で通知した拒絶理由は、概略、本願の請求項1ないし4に係る発明は、本願の出願前に頒布された以下の刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるため,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
刊行物1: 特開昭47-15769号公報
刊行物2: 特開2002-192417号公報

3.刊行物記載の発明または事項
上記各刊行物には、以下の記載が認められる。

3.1 刊行物1
a.(第1ページ右下欄第6?10行)
「本発明は形削り盤、平削り盤及び立て削り盤等の往復切削を行なう場合に於いて、刃具ホルダーの往復運動方向の両側に取付けた刃具により往復切削を行なわせる事を特徴とする往復切削方法及び刃具ホルダーに関するものである。」
b.(第1ページ右下欄第16行?第2ページ右上欄第12行)
「本発明はラムの刃物台内に設け、且つ断面方形、矩形又は内壁が前後に傾斜したホルダー作動室内に、内部に刃具ホルダーを備え、且つ同一形状の揺動ホルダーを内装し、その刃具ホルダーにラムの移動方向に面して同一形状の刃具をそれぞれ両面に取付けるもので、以下実施例を図に就いて説明すると第1図及び第2図(イ)、(ロ)に於いて揺動ホルダー1は角柱状で前後に傾斜を有して居り刃物台Aにピン2を以つてラムBの進行方向の前後に揺動自在に枢支し、この揺動ホルダー1の内部に挿孔3を設け、該挿孔3内にこれと同一形状の断面を有する刃具ホルダー4を着脱自在に嵌挿し、この刃具ホルダー4の下端の前後に設けた刃具座5,5にそれぞれ取付ねじ6,6により刃具7,7aを着脱自在に装着し、ホルダー取付ねじ8,8は前記揺動ホルダー1の一側に設けた螺孔9,9内に螺挿して前記刃具ホルダー4を挿孔3内に着脱自在に固定する。ホルダー作動室10は前記刃物台Aの内部の前後は揺動ホルダー1の前後揺動時の傾斜角度に合せて前後壁10a及び10bを形成し、その後壁10b側にはソレノイドコイル12を収容し、その固定鉄芯13内に一端を移動鉄芯14に連結させたプランジャー15を介挿し、前記ホルダー作動室10の前壁10a側にはスプリング挿孔16の内部にスプリング17を弾装し、ソレノイドコイル12の矢印Pの非作動時に揺動ホルダー1をその弾性により後壁10b側に加圧して変位させるように配置する。第3図に於いて(イ)は傾斜溝用刃具、(ロ)はアリ用、(ハ)は平削用、(ニ)は溝用等に使用する。」
c.(第2ページ右上欄第16行?右下欄第7行)
「本発明に於いて形削り盤、平削り盤、又は立て削り盤等の刃物台Aに取付けた刃具7又は7aによりラムBの往復運動と同調して第1図のように図面の左方に向つて切削を行なう場合には、ソレノイドコイル12には電流が流れて居らず、揺動ホルダー1はスプリング17の蓄力によりピン2を中心にホルダー作動室10内の右側壁へ圧着されていて刃具7を被切削材Sの表面に所望の切削角に対向させ、この姿勢のままラムBを矢印P方向へ移動させて往工程の切削作業を行ない、この往工程の終端に於いてラムBの端部又は突起等により本体(図示を略す)の一部に取付けたリミットスイッチに往工程の終端を感知させ、ラムBがその可動ストロークの往工程の終端に達して被切削材Sの表面から離脱するのと同時に、前記リミットスイッチの指令によりソレノイドコイル12が働らき、その移動鉄芯14が矢印P方向へスプリング17の蓄力に抗して吸引され、移動鉄芯14に取付けられたプランジャー15により揺動ホルダー作動室10内の前壁10a側へ圧着して刃具7aを被切削材Sの表面に所望の切削角になるように変位させ、その姿勢のままラムBを復工程の切削を刃具7aにより行なわせ、この動作を反復して往復切削を連続して行なう。」

上記において、刃具7,7aと被切削材Sとが相対的に平面上で往復動することは明白であり、往復動する平面をXY平面と呼び、往復動する方向をX方向、XY平面に平行でX軸に垂直な方向をY方向、とそれぞれ呼ぶことができる。
そうしてみると、刊行物1に記載された事項を、技術常識を勘案しつつ、本件発明の記載に沿って整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されているということができる。
「 刃具に対し相対的に被切削材をXY平面上でX軸方向へ往復動させて前記被切削材の表面を加工する往復切削方法において、
刃物台上のピンに付設された揺動ホルダーに揺動可能に設置され、前記刃物台の往動時と復動時にそれぞれ対応すべく互いに切削加工方向の向きを逆にし、前記XY平面に平行なY軸を回転中心とするピンにより交互に加工位置へ揺動して割出し可能に取り付けられた2本の刃具を使用し、前記2本の刃具を、前記XY平面に平行なY軸を回転中心とするピンにより交互に加工位置へ割出し可能に取り付ける工程と、
前記刃物台上のピンに付設された揺動ホルダーに揺動可能に設置された2本の刃具のうち、前記往動時の加工に対応する向きの刃具を、前記ピン周りの割出し揺動により加工位置へ割出す工程と、
次いで前記刃物台を往動させ、前記往動時の加工に対応した刃具により前記被切削材を切削加工する往動加工工程と、
この往動加工工程後に前記ピン周りの割出し揺動により前記復動時の加工に対応する向きの刃具を同じく前記ピン周りの割出し回転により加工位置へ割出す工程と、
次いで前記刃物台を復動させ、前記復動時の加工に対応した刃具により前記被切削材を切削加工する復動加工工程と、
を有する往復切削方法。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

3.1 刊行物2
a.(発明の詳細な説明、段落1?4)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、被加工物に溝加工を行うための溝加工装置およびこの溝加工装置を用いた溝加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、金型等の被加工物への溝加工は、プレーナー,シェーパー等の工作機械を用いて行われている。図18は、プレーナーを用いて溝加工を行っている状態を示しており、テーブル1上には、被加工物2が固定されている。
【0003】テーブル1は、案内テーブル3を介してベッド上に配置され、水平方向に往復動自在とされている。ベッド4の奥側には、コラム5が立設され、コラム5には、バイトホルダ6が配置されている。バイトホルダ6は、図示しない切り込み機構により上下動可能とされている。
【0004】バイトホルダ6には、溝加工を行うためのバイト7が配置されている。そして、このプレーナーによる溝加工では、被加工物2が、図の右側から左側に移動する時にのみ溝加工が行われ、図の左側から右側に移動する時には、切り込み機構によりバイトが上方に移動され、加工は行われない。(以下省略)」
b.(同、段落7)
「【0007】請求項2の溝加工方法は、請求項1記載の溝加工装置を用いた溝加工方法において、前記テーブルと前記工具保持手段との一側への相対移動時に、前記第1のバイトによる溝加工を行い、前記テーブルと前記工具保持手段との他側への相対移動時に、前記第2のバイトによる溝加工を行うことを特徴とする。(以下省略)」
d.(同、段落16,17)
「【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図面を用いて詳細に説明する。図1および図2は、本発明の溝加工装置の一実施形態を示している。この実施形態では、溝加工装置はテーブル11が移動するプレーナー型とされている。
【0017】そして、テーブル11上には、被加工物13が固定されている。被加工物13は、例えば、マイクロプリズム等の微細な光学素子を製造するための金型であり、真鍮,黄銅等からなる。テーブル11は、案内テーブル15を介してベッド17上に配置され、図示しない駆動機構により水平方向に往復動自在とされている。
【0018】ベッド17の奥側には、コラム19が立設され、コラム19には、工具保持手段21が配置されている。(以下省略)」

上記を整理すると、刊行物2には以下の事項が記載されていると認めることができる。「テーブルと工具保持手段を相対移動させる溝加工方法において、テーブル上に固定した被加工物を水平方向に往復動自在とすること。」(以下、「刊行物2記載の事項」という。)

4.対比
本件発明と刊行物1記載の発明とを対比させると、以下のとおりである。
a.後者の「刃具」、「被切削材」、が、前者の「バイト」、「ワーク」にそれぞれ相当することは明白である。
b.後者の「往復切削方法」は、バイトとワークを相対的に往復移動させ、往復いずれの方向への移動時にもバイトがワークを切削するものであるから、前者の「バイト加工方法」に相当するということができる。
c.前者の「揺動」と、後者の「回転」とは、ともに軸周りの角運動である限りにおいて共通する。
d.後者の「揺動ホルダー」は、往動・復動それぞれの加工工程に対応する向きのバイトを取付け、交互に加工位置へ割り出すホルダーである限りにおいて、前者の「バイトホルダー」と共通し、後者の「ピン」は、バイトを割り出す際の回転軸である限りにおいて、前者の「単一の主軸」と共通する。
e.後者の「Y軸」と前者の「X軸」は、ともにXY平面に平行な軸である限りにおいて、また、後者の「ピン」と前者の「A軸」とは、ともにXY平面に平行な回転軸である限りにおいて、共通する。
上記をまとめると、本件発明と刊行物1記載の発明とは以下の点で一致及び相違すると認められる。
<一致点>
「 バイトに対し相対的にワークをXY平面上でX軸方向へ往復動させて前記ワークの表面を加工するバイト加工方法において、
回転軸に付設されたホルダーに角運動可能に設置され、前記ワークとバイトとの相対的な往動時と復動時にそれぞれ対応すべく互いに切削加工方向の向きを逆にし、前記XY平面に平行な軸を回転中心とする軸により交互に加工位置へ角運動して割出し可能に取り付けられた少なくとも2本のバイトを使用し、前記2本のバイトを、前記XY平面に平行な軸を回転中心とする軸により交互に加工位置へ割出し可能に取り付ける工程と、
前記回転軸に設置されたホルダーに角運動可能に設置された2本のバイトのうち、前記往動時の加工に対応する向きのバイトを、前記回転軸の割出し角運動により加工位置へ割出す工程と、
次いで前記ワークを往動させ、前記往動時の加工に対応したバイトにより前記ワークを切削加工する往動加工工程と、
この往動加工工程後に前記回転軸の割出し角運動により前記復動時の加工に対応する向きのバイトを同じく前記回転軸の割出し回転により加工位置へ割出す工程と、
次いで前記ワークを復動させ、前記復動時の加工に対応したバイトにより前記ワークを切削加工する復動加工工程と、
を有するバイト加工方法。」である点。
<相違点1>
バイトとワークとの相対的な往復動が、本件発明ではワークを往復動させることにより行われるのに対し、刊行物1記載の発明では刃物台上のバイトを往復動させることにより行われる点。
<相違点2>
ホルダーが、本件発明では単一の主軸に付設されたX軸を回転中心とするA軸により回転割出し可能であって、A軸の軸心に対して対称に2本のバイトを取り付けるのに対し、刊行物1記載の発明では刃物台に付設されてX軸に直交するY軸を回転中心とするピンにより揺動割出し可能であって、2本のバイトはピン軸に対して対称に取り付けられない点。
<相違点3>
本件発明は往動時から復動時へのバイトの入れ替えに伴なうバイトの位置ずれ量に応じてバイトの設定位置を補正する補正工程を有するのに対し、刊行物1記載の発明ではそのような工程を有しない点。

5.当審の判断
上記各相違点について検討する。

5.1 <相違点1>について
刊行物2には「テーブルと工具保持手段を相対移動させる溝加工方法において、テーブル上に固定した被加工物を水平方向に往復動自在とすること。」が記載されている。
刊行物2記載の事項の溝加工方法は、刊行物1記載の発明に係るバイト加工方法と同一の技術分野に関するものであるから、刊行物2記載の事項を刊行物1記載の発明に適用し、バイトの代わりにワークを往復動させるようにすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

5.2 <相違点2>について
割り出しの回転軸の方向を、本件発明のようにX軸方向に向けることと、刊行物1記載の発明のようにY軸方向に向けることとの間に、作用効果上の差異は何ら認められないため、割り出し回転軸の方向は当業者が適宜選択し得る設計にすぎない。
また、本件発明のように2本のバイトを回転軸の軸心に対して対称に取り付け、その結果、ホルダーを半回転させることにより2本のバイトを交互に割り出すことと、刊行物1記載の発明のようにホルダーを揺動させて2本のバイトを交互に割り出すこととの間にも、作用効果上の差異を何ら認めることができないため、2本のバイトをホルダーに取り付ける角度間隔と、割り出しのための回転角の大小も、当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎない。
ホルダーの割り出し回転軸は、刊行物1記載の発明でも単一のピンであり、それを「主軸」と称することは、単なる命名にすぎない。
したがって、相違点2に係る発明特定事項を本件発明のものとすることは、当業者が容易になし得たものである。

5.3 <相違点3>について
工具の入れ替えに伴なう工具先端の位置ずれ量に応じて工具先端の設定位置を補正する補正工程を備えることは、例えば、数値制御式のタレット旋盤や工具交換装置付の工作機械において見られるように従来周知の技術であるから、この周知技術を刊行物1記載の発明に適用して、バイトの入れ替えに伴なうバイトの位置ずれ量に応じてバイトの設定位置を補正する補正工程を備えるように構成することは、当業者が容易に想到し得るものである。

5.4 本件発明の作用効果について
本件発明には、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び従来周知の技術事項に基づいて普通に予測される範囲を超える格別の作用効果を見いだすこともできない。
したがって、本件発明は刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の請求項2,3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
.
 
審理終結日 2012-03-08 
結審通知日 2012-03-09 
審決日 2012-03-21 
出願番号 特願2006-310906(P2006-310906)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渋谷 善弘松岡 美和  
特許庁審判長 豊原 邦雄
特許庁審判官 刈間 宏信
藤井 眞吾
発明の名称 バイト加工方法及びバイト加工装置  

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