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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05B
管理番号 1256952
審判番号 不服2011-13617  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-27 
確定日 2012-05-07 
事件の表示 特願2004-274064「ロボット動作経路データ作成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月 6日出願公開、特開2006- 92034〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成16年9月21日の特許出願であって、同22年8月20日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同22年9月27日に意見書とともに特許請求の範囲及び明細書について手続補正書が提出されたが、同23年3月29日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成23年6月27日に本件審判の請求がなされ、その後、当審の同23年12月27日付け審尋に対して同24年2月23日に回答書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成22年9月27日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1の記載は以下のとおりである。

「 【請求項1】
コンピュータシミュレーションにより、作業のためにワークとロボットの先端に取り付けられたエンドエフェクタとが接触する複数の接触点の位置を含む前記ロボットの姿勢を変化させる動作経路データを作成する段階と、
前記動作経路データから得られる前記ロボットの動作経路を、前記ロボットの固定点からエンドエフェクタまでの距離の変化に応じて前記ロボットの姿勢があらかじめ決められた姿勢範囲を越えるごとにそれぞれ一つのパートとして複数のパートに分割する段階と、
前記複数のパートに分割した前記パートごとに、一つの前記接触点に対して実機ロボットを動作させ、前記実機ロボットと実際のワークとの前記一つの前記接触点の位置修正を行う段階と、
前記パートごとに、前記位置修正によって得られた修正量を用いて各パート内のその他の前記接触点の位置を修正する段階と、
を有することを特徴とするロボット動作経路データ作成方法。」(以下請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第3.引用刊行物記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である以下の文献には、以下の発明、あるいは事項が記載されていると認められる。

刊行物1:特開2003-191186号公報

1.刊行物1記載の事項
刊行物1には、「ロボット教示データの補正方法」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア.特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】 ロボットの動作軌跡を決める複数の教示点からなる教示データにより実機ロボットを動作させる段階と、
前記動作における実機ロボットの動作軌跡を計測する段階と、
前記ロボットの任意に指定した軸のトルクを前記教示点ごとに求め、求めた軸ごとのトルクが同じトルク範囲に入っている教示点同士をグループ化する段階と、
前記グループの中の教示点を前記計測された動作軌跡上の対応する点へ移動させる移動量を算出して、該移動量を前記グループ内における全教示点の補正量として前記教示データを補正する段階と、
を有することを特徴とするロボット教示データの補正方法。」

イ.段落【0019】
「【0019】請求項1記載の本発明によれば、ロボットの任意に指定した軸のトルクが同じトルク範囲となっている教示点同士をグループ化して、このグループを単位にロボットの教示データを補正することとしたので、実機ロボットのたわみなどによって生じる部分的なずれを確実に補正することができ、しかもグループ化することで、一つひとつの教示点を補正する場合と比較して複数の教示点を一度に補正することができるため、補正にかかる時間も少なくてすむ。」

ウ.段落【0025】?【0026】
「【0025】シミュレーション装置1は、ハードウェアとしては一般的なコンピュータであり、このコンピュータによってロボットのシミュレーションを行うためのプログラムが実行される。そして、このシミュレーション装置1によりロボットを所定の経路で動作させるための教示データの作成およびその補正が行われる。
【0026】実機ロボット2は、シミュレーションにより作成された教示データにより動作させるロボットである。図示する実機ロボット2は、ロボット全体を旋回させる第1軸21、ロボット全体を傾斜させる第2軸22、アーム27を傾斜させる第3軸23、アーム20を回転させる第4軸24、エンドエフェクタ28を傾斜させる第5軸25、エンドエフェクタ28を回転させる第6軸26よりなる6軸ロボットである。」

エ.段落【0030】?【0035】
「【0030】次に、図2を参照して、教示データの補正手順を説明する。
【0031】まず、シミュレーション装置1により、あらかじめ作成された教示データを読み込む(S1)。教示データは、ロボットを所定の動作軌跡で動作させるためデータで、複数の教示点よりなる。教示データの作成自体は、シミュレーション装置1により設計データによって描かれたロボットモデルを動作させることにより行われたものである。
【0032】この段階で読み込んだ教示データの教示点P1D?P8Dを図3に示す。ここで最初に読み込んだ教示データは設計上の動作軌跡を示すデータ(これを設計動作軌跡データと称する)であり、実機ロボットがこの設計動作軌跡データに沿って動くように、最初に作った教示データを補正してゆくのである。
【0033】次に、現時点での教示データ(このステップでは、後述するように補正後の教示データが来ることがある)を実機ロボット2のコントローラ(不図示)に転送して再生し、実機ロボット2を実際に動作させる(S2)。
【0034】そして、図4に示すように、動作中のロボットの手先の位置を3次元計測器により計測する(S3)。
【0035】続いて、計測されたデータをシミュレーション装置1に取り込む(S4)。取り込んだ計測データにおける教示点に対応する位置の点をP1m?P8m(これを計測点と称する)とする。」

オ.段落【0037】?【0038】
「【0037】最初の段階では、ロボットアームのたわみなどにより、図5に示すように、設計動作軌跡の教示点P1D?P8Dに対して、実測された計測点P1m?P8mはずれている。
【0038】続いて、シミュレーション装置1により各教示点におけるロボット各軸のトルクを算出して、ロボットの任意に指定した軸のトルクが同じトルク範囲に入っている教示点同士をグループ化する(S6)。」

カ.段落【0047】
「【0047】このトルク特性分割数は、ロボットの形態やアーム重量、また、エンドエフェクタにワークをつかんだり持ち上げたりするようなハンドを用いている場合には、ワークの重量などによってアームのたわみ量が異なるので、それらに応じて適宜設定することになる。」

キ.段落【0064】?【0065】
「【0064】以上により各グループ内の各教示点の補正量が求まるので、この補正量分だけ元の各教示点の位置をずらして、教示データを補正する(S8)。この補正後の教示データにおける教示点P1c?P8cを図10に示す。
【0065】そして、ステップS2に戻り、この補正された教示データにより実機ロボットを再生して(S2)、再びその手先の動きを3次元計測器により計測し(S3)、シミュレーション装置1に計測データを取り込んで(S4)、図11に示すように、各計測点と設計動作軌跡の教示点とのすれが許容範囲か否かを確認して(S5)・・・(後略)」

ク.段落【0067】
「【0067】以上のように、本実施の形態によれば、設計動作軌跡データと、教示データにより実機ロボットを動作させたとき動作軌跡のずれを、トルクを指標として教示点ごとにグループ化したことで、同じようなずれ方をしている複数の教示点を一度に補正することができるようになるため、従来、パラメータ化することが困難であったロボットアームのたわみなどによるずれを確実に補正することが可能となる。また、グループ化したことにより、複数の教示点を一度に補正することができるので、各教示点を一つひとつ手作業で補正することと比較して、より速く容易に補正することができる。・・・(後略)」

2.刊行物1記載の発明
摘記事項ウ.及び図1からエンドエフェクタ(28)は、ロボットの先端に取り付けられていることが看取できること、及び摘記事項オ.に「また、エンドエフェクタにワークをつかんだり持ち上げたりするようなハンドを用いている場合には」とあること等から、ロボットの設計動作軌跡データは、作業のためにワークとロボットの先端に取り付けられているエンドエフェクタとが接触する複数の接触点の位置を含むロボットの姿勢を変化させるもの、ということができる。
また、摘記事項キ.及びク.並びに図9の記載内容からして、グループ化した教示点ごとに、実機ロボットを動作させたときの動作軌跡のずれに基づいて補正量を求めている、ということができる。

そこで、刊行物1に記載された事項を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて本願発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認める。
「シミュレーション装置1により、作業のためにワークとロボットの先端に取り付けられたエンドエフェクタとが接触する複数の接触点の位置を含む前記ロボットの姿勢を変化させる設計動作軌跡データを作成する段階と、
前記設計動作軌跡データから得られる前記ロボットの動作軌跡を、指定した軸のトルクが同じトルク範囲に入っている教示点同士でグループ化する段階と、
前記グループ化した教示点ごとに、実機ロボットを動作させたときの動作軌跡のずれに基づいて補正量を求める段階と、
前記各グループごとに、得られた補正量分だけ元の各教示点の位置を補正する段階と、
を有するロボット教示データの補正方法。」(以下「刊行物1発明」という。)

第4.対比
本願発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
まず、刊行物1発明の「シミュレーション装置1」が本願発明の「コンピュータシミュレーション」に相当することは、技術常識に照らして明らかであり、同様に、「設計動作軌跡データ」は「動作経路データ」に、「動作軌跡」は「動作経路」に、「グループ」は「パート」に、「補正」(量)は「修正」(量)に相当することも明らかである。
また、刊行物1発明の「ロボット教示データの補正方法」は、ロボットの動作経路を作成するために補正を行うものであるから、本願発明の「ロボット動作経路データ作成方法」に相当する、といえる。
そして、刊行物1発明は、動作経路を(動作経路上の)教示点同士でパート化するものであり、本願発明は、動作経路を複数のパートに分割するものであるところ、両者は、動作経路を複数のパートに分割する限りにおいて共通する。
さらに、刊行物1発明は、パート化した教示点ごとに実機ロボットを動作させたときの動作経路のずれに基づいて修正量を求め、各パートごとに、得られた修正量分だけ元の各教示点の位置を修正するものであり、本願発明は、複数のパートに分割した前記パートごとに、一つの接触点に対して実機ロボットを動作させ、実機ロボットと実際のワークとの前記一つの前記接触点の位置修正を行い、前記パートごとに、前記位置修正によって得られた修正量を用いて各パート内のその他の前記接触点の位置を修正するものであるところ、両者は、実機ロボットを動作させて修正量を求める段階と、得られた修正量を用いて各パートごとに位置を修正する段階を有する限りにおいて共通するといえる。
したがって、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「コンピュータシミュレーションにより、作業のためにワークとロボットの先端に取り付けられたエンドエフェクタとが接触する複数の接触点の位置を含む前記ロボットの姿勢を変化させる動作経路データを作成する段階と、
前記動作経路データから得られる前記ロボットの動作経路を、複数のパートに分割する段階と、
実機ロボットを動作させて修正量を求める段階と、
得られた修正量を用いて各パートごとに位置を修正する段階と、
を有するロボット動作経路データ作成方法。」

そして、本願発明と刊行物1発明とは、以下の2点で相違している。
1.<相違点1>
動作経路の複数のパートへの分割に関し、本願発明は、ロボットの固定点からエンドエフェクタまでの距離の変化に応じて前記ロボットの姿勢があらかじめ決められた姿勢範囲を越えるごとにそれぞれ一つのパートとして複数のパートに分割するのに対し、刊行物1発明は、指定した軸のトルクが同じトルク範囲に入っている教示点同士でグループ化することによって分割するものである点。

2.<相違点2>
修正量を求める段階と修正する段階に関し、
本願発明は、
複数のパートに分割した前記パートごとに、一つの前記接触点に対して実機ロボットを動作させ、前記実機ロボットと実際のワークとの前記一つの前記接触点の位置修正を行う段階と、前記パートごとに、前記位置修正によって得られた修正量を用いて各パート内のその他の前記接触点の位置を修正する段階、を有するのに対し、
刊行物1発明は、
グループ化した教示点ごとに、実機ロボットを動作させたときの動作軌跡のずれに基づいて補正量を求める段階と、前記各グループごとに、得られた補正量分だけ元の各教示点の位置を補正する段階、を有する点。

第5.相違点の検討
1.<相違点1>について
本願発明が「ロボットの固定点からエンドエフェクタまでの距離の変化に応じて前記ロボットの姿勢があらかじめ決められた姿勢範囲を越えるごとに」分割する点に関し、本願明細書段落【0043】に「ロボットの荷重状態の違いに応じて動作経路を分割したことで、同じ荷重状態内(すなわち同じパート内)ではロボットのたわみ量が同じになるため」と記載されているように、これは主にロボットのたわみ量に起因する誤差を修正するためのものと認められる。
また、請求人が、平成24年2月23日提出の回答書において、「距離に応じてロボットの姿勢が変化するとは、ロボットの固定点からエンドエフェクタまでの距離の変化に伴ってロボットの姿勢が変わることをいいます。・・・(中略)・・・そして、このように距離に応じてロボットの姿勢が変化した場合、ロボットにかかる荷重状態、つまりロボットアーム先端にかかる荷重状態(モーメント)が変化します」と回答しているように、(たわみ量に影響を与える)ロボットの姿勢の変化が重要なのであって、ロボットの固定点からエンドエフェクタまでの距離自体に格別技術的な意義があるわけではないし、「ロボットの姿勢が変化」するという概念は、ロボットアームのモーメントが変化すること、すわなち、ロボットアームの軸トルクの変化を含む概念である。
そして、ロボットのアーム等のたわみ量がロボットの姿勢の変化の影響を受けることは、例えば、特開2003-71760号公報(段落【0005】等)、特開2002-307344号公報(段落【0005】等)に示されるように、従来周知の事項である。
一方、上記摘記事項第3.1.イ.の「本発明によれば、ロボットの任意に指定した軸のトルクが同じトルク範囲となっている教示点同士をグループ化し」「実機ロボットのたわみなどによって生じる部分的なずれを確実に補正することができ」との記載から諒解されるように、刊行物1発明のトルク範囲による教示点同士のグループ化も、ロボットのたわみ量に起因する誤差の修正を主な目的とするものである。
以上を総合すると、ロボットのたわみ量に起因する誤差の修正を目的として、指定した軸のトルクが同じトルク範囲に入っている教示点同士でグループ化することによって分割する刊行物1発明を、同じたわみ量に起因する誤差を修正のために、ロボットの姿勢の変化に着目して、ロボットの固定点からエンドエフェクタまでの距離の変化に応じて前記ロボットの姿勢があらかじめ決められた姿勢範囲を越えるごとにグループ(パート)化する程度のことは、当業者が上記従来周知の技術を参酌しつつ通常の創作能力を発揮することによりなし得たもの、と解するのが相当である。

2.<相違点2>について
刊行物1発明は、グループ化した教示点ごとに実機ロボットを動作させたときの動作軌跡のずれに基づいて修正量を求め、前記各グループごとに得られた修正量分だけ元の各教示点の位置を修正するものであるところ、これは全ての教示点におけるずれを一旦求めた上で、各グループごとに一度に補正するものであるから、グループごとのずれの量をかなり正確に把握できる反面、請求人が審判請求書(第5ページ第13?14行)で主張するようにやや手間がかかるものである。
そこで、多少の正確さを犠牲にしても簡素に修正するために、更に簡素化を進めて、複数の教示点の情報を各グループごとに処理して1つの修正量を求めて各グループごとに一度に補正するのに換え、各グループを代表する一つの教示点のずれの情報のみにより修正量を求めて各グループごとに一度に補正することは、精度と簡素化との兼ね合いを図る一環として、当業者が格別困難なく試み得るものである。
そして、刊行物1発明において、各グループを代表する一つの教示点から修正量を求めることとした場合、その代表点を(ワークとエンドエフェクタの)1つの接触点とすることも、ロボットはワークに接触して目的とする作業を行うのが通常であり接触点が作業目的上重要であることに鑑みれば、ごく自然に選択し得るものである。さらに、得られた修正量を用いて修正されるグループ内の点を一般的な教示点でなく、(代表点の接触点以外の)他の接触点とすることも、教示点として接触点を選択することはごく一般的に行われることに鑑みれば(例えば原査定で引用した特開2001-125623号公報の段落【0004】参照)、同様に想到困難なことではない。
そうしてみると、刊行物1発明において、各グループ(パート)を代表する一つの教示点のずれの情報のみにより修正量を求めて各グループ(パート)ごとに一度に補正することとし、さらにその代表点たる教示点及び合わせて修正される教示点として接触点を選択して、相違点2に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たものと解するのが相当である。

3.本願発明の効果について
本願発明によってもたらされる効果も、刊行物1発明及び従来周知の事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。

4.したがって、本願発明は、刊行物1発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることがないものである。
したがって本願はその余の請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-28 
結審通知日 2012-03-06 
審決日 2012-03-19 
出願番号 特願2004-274064(P2004-274064)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渋谷 善弘松岡 美和  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 長屋 陽二郎
刈間 宏信
発明の名称 ロボット動作経路データ作成方法  
代理人 八田国際特許業務法人  

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