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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1257069
審判番号 不服2009-10441  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-01 
確定日 2012-05-15 
事件の表示 特願2002-574997「タキサンおよびサイクリン-依存性キナーゼの組み合わせ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 3日国際公開、WO02/76484、平成16年 7月15日国内公表、特表2004-521140〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2002年 3月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2001年 3月23日(US)米国、2001年 7月 5日(US)米国、2001年12月 4日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年 2月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年 6月 1日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、平成21年 1月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
タキソテレ(登録商標)は10日サイクルの最初の日および最後の日に投与され、フラボピリドールは10日サイクルの最初の4日間および最後の4日間に投与されるタキソテレ(登録商標)およびフラボピリドールからなる新生物疾患の処置における治療的相乗作用を有する組み合わせ医薬。」


3.引用例に記載された事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、Proceedings of the American Association for Cancer Research,2000年,Vol.41,p.143 (#912)(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(引用例1は英語で記載されているので、訳文で示す。)

(ア)「ドセタキセル・・・誘導性アポトーシスは、乳癌細胞において、フラボピリドールによって強化され、しかも、順番依存性である。
・・・
有糸分裂の紡錘体の阻害剤であるドセタキセル・・・は、固形癌の処置に広く利用されている。我々は既に、フラボピリドールが、フラボピリドール処置に先行するパクリタキセルの投与によって、胃癌細胞と乳癌細胞において、パクリタキセル誘導性アポトーシスを強化することを示している。そこで我々は、乳癌細胞である、Mcf-7において、ドセタキセル・・・とフラボピリドールの組み合わせを検討した。フラボピリドールとドセタキセル・・・の組み合わせは、順番依存性であり、最大のアポトーシスは、・・・フラボピリドールがドセタキセルの後に投与された時に観察された。ドセタキセル・・・は、・・・有糸分裂において細胞を阻害した。・・・フラボピリドールのドセタキセル・・・への追加は、・・・有糸分裂からの離脱を促進した。フラボピリドールと、それに続くドセタキセル・・・、という逆の順番は、ドセタキセル・・・のアンタゴニスト効果という結果になった。・・・したがって、フラボピリドールと有糸分裂の紡錘体の阻害剤の組み合わせは、高度に順番依存性であり、有糸分裂の紡錘体の阻害剤による有糸分裂のエントリーは、Cdk阻害剤に先行するものとしなければならない。」

(2)引用例1の記載事項(ア)によれば、引用例1には、ドセタキセル誘導性アポトーシスは、乳癌細胞において、フラボピリドールによって強化され、しかも、順番依存性であり、最大のアポトーシスは、フラボピリドールがドセタキセルの後に投与された時に観察されたことが記載されている。してみると、引用例1には、ドセタキセルが投与され、その後にフラボピリドールが投与される、ドセタキセル及びフラボピリドールからなる乳癌細胞のアポトーシス誘導剤の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。


4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明にいう「タキソテレ(登録商標)」は、引用発明にいう「ドセタキセル」に相当する事項であることは明らかである。また、本願発明にいう「新生物疾患の処置における治療的相乗作用を有する組み合わせ医薬」と、引用発明にいう「乳癌細胞のアポトーシス誘導剤」は、どちらも新生物疾患をもたらす癌細胞に対して毒性を示す組成物であるということができる。
そうすると、両者は、
「タキソテレ(登録商標)およびフラボピリドールからなる、新生物疾患をもたらす癌細胞に対して毒性を示す組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
本願発明は、タキソテレ(登録商標)は10日サイクルの最初の日および最後の日に投与され、フラボピリドールは10日サイクルの最初の4日間および最後の4日間に投与され、かつ、新生物疾患の処置における治療的相乗作用を有する組み合わせ医薬とされる組成物であるのに対し、引用発明は、ドセタキセルが投与され、その後にフラボピリドールが投与され、かつ、乳癌細胞のアポトーシス誘導剤とされる組成物である点(以下「相違点」という。)。


5.当審の判断
上記相違点について検討する。
新たな医薬を開発しようとする当業者が薬理試験を行う際には、通常、まず、培養細胞や細菌などを用いたインビトロの実験を行い、その結果有望な結果の出たものを医薬の候補すなわち医薬発明として認識し、次いで実用化に向けて、実験動物を用いたインビボの実験を行い、更に有望なものについて、ヒトに投与する臨床試験を行う、という手順により行うものと認められる。また、一般に、最大の治療効果を挙げるべく医薬の投与スケジュールを検討することは、当業者が古くから行っていることであり、加えて、複数の医薬を併用する場合には、可能ならば相乗効果を挙げようとすることも、当業者が古くから行っていることである。そして、こういった事情は、抗癌剤においても例外ではないことは明らかである。
そうすると、引用例1の記載に接した当業者であれば、ドセタキセルとフラボピリドールの組み合わせが乳癌細胞のアポトーシスを誘導するというインビトロの実験結果に関する知見を得るから、この組み合わせを医薬発明として認識し、この組み合わせを用いたインビボの実験を行うことは、ごく自然な創作活動であるといえる。またその際、この組み合わせを、実験動物や、ひいてはヒトに投与するに当たり、その投与スケジュールを検討することも必然的に行うことであり、しかも、引用例1には、インビトロの実験結果ではあるものの、乳癌細胞に対し、ドセタキセルをまず投与し、その後にフラボピリドールを投与することにより、最大の治療効果を奏することを示す記載があるのであるから、なおのこと、上記当業者は、インビボの実験やヒトに投与する際の投与スケジュールに注意を払うものということができる。
してみれば、引用例1の記載に接した当業者にとっては、引用発明において、ドセタキセルすなわちタキソテレ(登録商標)とフラボピリドールを実験動物や患者に投与するに当たり、これらの投与スケジュールを検討し、その結果、タキソテレ(登録商標)は10日サイクルの最初の日および最後の日に投与され、フラボピリドールは10日サイクルの最初の4日間および最後の4日間に投与される、という本願発明の投与スケジュールに到達し、新生物疾患の処置における組み合わせ医薬とすることは、実験的に適宜なし得たことというほかはない。

なお、この点について審判請求人は、当合議体の審尋に対する平成23年11月 8日付け回答書の中で、
「アポトーシスをおこした培養細胞に対して繰り返し薬物を適用して、新生物疾患に対する投与スケジュールをシミュレートすることは通常不可能です。一定のスケジュールに従った薬物投与の新生物疾患に対する有効性の検討は、インビボにおいてはじめて可能となるものです。
実際、インビトロとインビボでの薬物に対する腫瘍細胞の挙動が異なることは、本願明細書の実施例1を見れば明らかです。・・・
そして、本願発明の投与スケジュールを示す実施例2においては、・・・2度目のタキソテレの投与(23日目の投与)は明らかにフラボピリドール(20?22日の投与)より後であるといえます。タキソテレ→フラボピリドールという引用文献の投与順序にとらわれていたのであれば、決してこのような投与スケジュールに到達することはありません。」
とか
「もし、引用文献を参考にするのであれば、タキソテレ→フラボピリドールの順序を前後させることはありえませんが、本願発明は、その順序にとらわれずに休薬期間を含む独自の投与スケジュールを構築しています。・・・
フラボピリドールの後にタキソテレを投与することを否定する引用文献は、本願発明に対してむしろ阻害要因として作用するものであって、引用文献から本願発明を容易に導くことは困難です。」
と主張する。

しかしながら、インビトロの実験とインビボの実験が必ずしも同じ条件で行われ、同じ結果が出るものではないことは、審判請求人の主張を待つまでもなく、当業者にとっては周知の事柄であり、だからこそ、有望な結果を示したインビトロの実験に接した当業者ならば、インビボの実験に進む際、インビトロの実験の手順や結果をもとに、インビボの実験に特有の事情、例えば、抗癌剤においては、副作用が強いことなどにより休薬期間を設けることが必要な場合もあるという事情、も考慮して適切な手順を構築するのが普通のことであると認められる。してみると、引用文献の投与順序にとらわれ本願発明の投与スケジュールに到達することはないとする審判請求人の上記主張は、当業者の創作能力を殊更に低くみるものであって採用できない。

次に、新生物疾患の処置における治療的相乗作用を有する、という本願発明の発明特定事項及び効果について検討する。
本願明細書には、本願発明の効果を示す記載として、実施例2の表2のデータが記載され、該データによれば、タキソテレ(登録商標)とフラボピリドールを本願発明の投与スケジュールに従って投与した場合の効果として、lckすなわちlog_(10)死滅細胞が、両医薬の総投与量に応じて、9.0、7.0、5.1、4.4であり、いずれも、6/6のCRすなわち完全応答を示したことが記載されている。
一方、本願明細書の【0024】、【0025】の記載を参酌すると、実施例1の表1には、タキソテレ(登録商標)を最初に15日および20日に与え、フラボピリドールを16日および21日に、各々、総投与量45 mg/kg、及び、総投与量9 mg/kg投与した場合には、log_(10)死滅細胞はタキソテレ(登録商標)単独の4.7よりもわずかに低下していた4.4であったが、5例中5例に完全な応答を生じたことが記載されている。
そこで検討するに、実施例1の上記場合の投与スケジュールは、まさに、引用発明にいう、ドセタキセルが投与され、その後にフラボピリドールが投与されるということを繰り返すものであるから、引用発明の効果を反映したものということができる。そして、実施例1の上記場合の効果は、log_(10)死滅細胞は4.4であったが、5例中5例に完全な応答を生じたとされている。これに対し、本願発明の効果を示す実施例2の表2のデータによれば、log_(10)死滅細胞は、9.0、7.0、5.1、4.4であり、いずれも、6/6のCRすなわち完全応答を示したとされており、実施例1の上記場合の効果と同等又はそれ以上であることがうかがえる。
しかしながら、両医薬の総投与量について子細に見ると、本願発明の4.4というデータは、タキソテレを総投与量63.0 mg/kg、及び、フラボピリドールを総投与量9.12 mg/kg投与した場合の結果であるところ、引用発明の効果を反映したものということができる実施例1の上記場合の総投与量は、各々、45 mg/kg、及び、9 mg/kgであるから、本願発明において、タキソテレを総投与量63.0 mg/kg、及び、フラボピリドールを総投与量9.12 mg/kg投与した場合の効果は、実施例1の上記場合に比較して、総投与量を増やしているにもかかわらず、同等のものでしかない、ということになる。また、本願発明の9.0、7.0、5.1というデータは、両医薬の総投与量がより多い場合のものであるから、実施例1の上記場合に比較して優れているとしても、格別予想外のものであるとはいえない。
そうすると、本願明細書の記載を検討しても、本願発明が引用例1の記載から予測し得ないほど優れた効果を奏し得たものと認めることもできない。

なお、この点について審判請求人は、上記回答書の中で、
「なお、念のため付言すると、実施例1と実施例2の実験は、乳房の腺癌MA13/Cを移植したマウスを使用したインビボ実験であっても、実験動物グループにおいて、対照が1gに達する時間、治療開始時の平均負荷、HNTD(最高非毒性用量)が異なるため、これらは同じ条件での薬物試験とはいえません。
したがって、同じ時期に癌細胞を移植され同じ環境で成長させた動物を用いたわけではない実施例1及び2について両者の総投与量やlckの数値をそのまま比べて効果の大小を論じることは適切ではないと思量します。」
と主張する。

しかしながら、実施例1及び2におけるlckすなわちlog10死滅細胞の数値は、本願明細書【0013】によれば
「log10死滅細胞=T-C(日数)/3.22×Td
式中、T-Cは細胞の増殖に要する時間を表し、それは処置群(T)の腫瘍の日数での平均時間、および処置群(C)の腫瘍が予め定められた値(たとえば1g)に到達するまでの日数であり、Tdは対照動物の腫瘍の容量が倍増するため必要な時間(日数)である」
とされていて、この【0013】の記載は必ずしも明確でないが、本願明細書の他の記載たとえば【0017】の
「腫瘍は1週に2または3回、腫瘍が約2gに到達するまで、または腫瘍が2gに達する前に動物が死亡した場合はそれまで秤量する。」
と共に善解すれば、Tは、医薬処置群のマウスに移植した腺癌が2gに到達するまで等の日数であり、Cは、コントロール群のマウスに移植した腺癌が1gに到達するまでの日数であると推認される。してみると、lckは、マウスに移植した腺癌が特定の重量に到達するまでの日数における医薬処置群とコントロール群の差にもっぱら依存するパラメーターであるということができ、審判請求人が指摘する、対照が1gに達する時間(コントロール群のマウスに移植した腺癌が1gに到達するまでの日数のことと推認される。)、治療開始時の平均負荷(治療開始時におけるマウスの腺癌の重量のことと推認される。)、HNTD(最高非毒性用量)(実験中、マウスに投与し得た最高の投与量のことと推認される。)という実験条件にある程度のばらつきがあっても、それには左右されないパラメーターであるといえる。また、総投与量がかかる実験条件に左右されないパラメーターであることは明らかである。
したがって、審判請求人の上記主張は、妥当性を欠くものであって採用できない。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
 
審理終結日 2011-11-29 
結審通知日 2011-12-06 
審決日 2011-12-19 
出願番号 特願2002-574997(P2002-574997)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩下 直人  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 荒木 英則
内藤 伸一
発明の名称 タキサンおよびサイクリン-依存性キナーゼの組み合わせ  
代理人 三輪 昭次  
代理人 竹林 則幸  
代理人 結田 純次  
代理人 高木 千嘉  

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