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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B25B
管理番号 1257074
審判番号 不服2010-19940  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-03 
確定日 2012-05-14 
事件の表示 特願2004-375554「部品締結ドライバユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月13日出願公開、特開2006-181660〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本件出願の発明
本件出願は、平成16年12月27日の特許出願であって、同21年12月18日付けで拒絶の理由が通知され、同22年2月19日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、同22年3月10日に拒絶の理由が通知され、同22年5月14日に意見書が提出されたが、同22年5月31日付けで拒絶の査定がなされたものである。
その後、平成22年9月3日に拒絶査定を不服とする審判請求がなされるとともに、特許請求の範囲及び明細書を補正対象書類とする手続補正書が提出され、その後、同23年4月21日付けで当審より平成22年9月3日付けの手続補正書を補正却下するとともに、拒絶の理由が通知され、同23年6月27日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、同23年8月16日付けで当審より再度拒絶の理由が通知され、それに対して、同23年10月18日付けで意見書及び手続補正書が提出された。
本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成23年10月18日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書、願書に添付した図面の記載からみて、上記手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「回転駆動手段と、ねじ部品に係合可能な駆動工具と、前記回転駆動手段の駆動により回転する駆動軸と前記駆動工具とを一体に回転可能に連結する弾性ねじれ部材と、前記回転駆動手段の駆動軸の回転角度を示す信号を出力可能な第一回転角検出手段と、前記駆動工具の回転角度を示す信号を出力可能な第二回転角検出手段とを有し、第一回転角検出手段と第二回転角検出手段との回転角度差からねじ部品の締付トルクを検出する部品締結ドライバユニットであって、
ねじ部品がワークにねじ込まれて着座した時の衝撃トルクによって生じる弾性ねじれ部材のねじれ角が、ねじ部品に目標締付トルクの許容範囲上限トルクが作用した時のねじれ角を超えないレベルの前記回転駆動手段の最大の回転速度と、目標締付トルクの許容範囲上限トルクを発生させるための出力トルクに対応する制限値が定められたトルク指令値とが予め設定され、この回転速度とトルク指令値とで前記回転駆動手段を駆動制御するとともに、前記第一回転角検出手段および第二回転角検出手段の回転角度差に対応する締付トルクが目標締付トルクに達したか否かを判定する制御ユニットを備えていることを特徴とする部品締結ドライバユニット。」

2 各引用刊行物記載の発明・事項
これに対して、当審での平成23年8月16日付けの拒絶の理由に引用された、本件出願前である平成15年6月13日に頒布された特開2003-166887号公報(以下「引用刊行物1」という。)、同じく本件出願前である平成8年1月9日に頒布された特開平8-1455号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、それぞれ、以下の発明が記載されている。
(1) 引用刊行物1
ア 段落【0001】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、出力軸に作用するトルクの検出を行うトルク検出装置に関するものである。」
イ 段落【0005】?【0006】
「【0005】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1において、1はトルク検出装置であり、機械のフレーム等の部材Bに固定されるケーシング2を有し、このケーシング2には、回転駆動手段の一例であるモータ3が設置されている。この部材Bおよびケーシング2は、本トルク検出装置で検出対象となる範囲のトルクによっては変形することのない強度に設定されている。
【0006】前記モータ3には、当該モータ3の駆動を受けて回転する駆動軸4が連結されるとともに、この駆動軸4の回転に応じて1または0のディジタルパルス信号を発するパルスエンコーダ5が第1の角度信号発生手段の一例として配置されている。また、前記駆動軸4には、ねじり変形可能なねじり部材の一例であるコイルばね6が連結されており、このコイルばね6の先端には出力軸7が連結されている。この出力軸7は、前記ケーシング2に軸受を介して回転自在に支持されており、その先端がケーシング2先端から突出するように設けられている。この出力軸7先端は、ねじ締めを行うための工具であるドライバビット等、作業時にトルクが作用する工具を連結可能な構造になっている。また、ケーシング2内にはパルスエンコーダ8が第2の角度信号発生手段の一例として設けられており、このパルスエンコーダ8は、内部を回転自在に挿通する出力軸7の回転を検出して1または0のディジタルパルス信号を発するように構成されている。」
ウ 段落【0008】?【0011】
「【0008】符号9は演算手段である。この演算手段9には前記パルスエンコーダ5,8が接続されており、演算手段9は各パルスエンコーダ5,8から出力されるパルス信号を処理して前記出力軸7に作用するトルクを求めることができるように構成されている。
【0009】次に、図2に示すように上記トルク検出装置1の出力軸7にドライバビット10を一体に回転するように連結して構成されたねじ締め装置により、ねじSをワークWに締め付ける動作を説明する。まず、ドライバビット10の先端にねじを係合して保持する。ドライバビット10先端は磁化されており、よって、ねじSを吸着保持できる。次に装置を移動し、ワークWの締付け位置にドライバビット10先端に保持したねじSを位置決めする。この状態でモータ3が駆動すると、これを受けて駆動軸4が回転し、この駆動軸4の回転はコイルばね6を介して出力軸7に伝達される。これによりドライバビット10とねじSが共に回転することとなるため、ねじSはワークWにねじ込まれる。また、駆動軸4と出力軸7の回転により、パルスエンコーダ5,8からそれぞれパルス信号が出力され、これが演算手段9に送られる。
【0010】演算手段9は、パルスエンコーダ5,8から出力されたパルス信号をカウントするとともに、これらカウント値から各軸の回転角度を求める。そして、これら回転角度の差を求め、この差にコイルばね6の歪み係数を乗じて出力軸7に作用している負荷トルクを算出する。これを数式で表すと数1のようになる。
【数1】
T=K(θ_(1)-θ_(2))
T:負荷トルク
K:コイルばねの歪み係数
θ_(1):駆動軸の回転角度
θ_(2):出力軸の回転角度
歪み係数Kは、コイルばね6の強さによって定まる比例定数であり、予め試験を行って回転角度差(θ1-θ2)と出力軸に負荷されている実負荷トルクとを比較した結果から定められるものである。
【0011】ねじ頭部座面がワークに着座すると、それ以降、締付けトルクが増大していき、この締付けトルクに応じて出力軸7側には回転負荷すなわち負荷トルクがかかる。このため、コイルばね6には相応のねじれが生じ、このねじれに応じてパルスエンコーダ5,8のパルス信号から得られる駆動軸4と出力軸7のそれぞれの回転角度に差が生ずる。この時、ねじSの締付けトルクが大きくなる程コイルばね6のねじれ角は大きくなるため、回転角度差も締付けトルクに比例して大きくなる。よって、演算手段9によって実時間で算出される負荷トルクが増大していくこととなる。モータ3は、演算手段9によって算出される負荷トルクに応じて回転速度を制御され、負荷トルクが所定のねじ締め完了トルクに達すると駆動を停止する。この状態でモータ3は駆動軸4が回転不可能となるように所定時間ロック保持され、これによってコイルばね6のねじれから生まれるトルクがねじSに付与されることとなる。これにより、ねじSへの衝撃を緩和しつつ所定のトルクでねじを締め付けることができる。次に、モータ3はパルスエンコーダ5,8の回転角度差が0(ゼロ)になるまで逆転駆動する。これにより、コイルばね6は元のねじれのない形状に復帰する。その後、装置をねじSから離脱させて一連のねじ締め作業を終了する。。」
以上アないしウの記載事項から、引用刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「モータ3と、ドライバビット10と、前記モータ3の駆動を受けて回転する駆動軸4とドライバビット10が連結された出力軸7とを連結するコイルばね6と、前記駆動軸4の回転に応じてパルス信号を発するパルスエンコーダ5と、前記出力軸7の回転を検出してパルス信号を発するパルスエンコーダ8とを有し、パルスエンコーダ5とパルスエンコーダ8とから出力されたパルス信号をカウントして求められた回転角度の差から出力軸7の負荷トルクを算出するトルク検出装置であって、
モータ3は、演算手段9によって算出される負荷トルクに応じて回転速度を制御され、負荷トルクが所定のねじ締め完了トルクに達すると駆動を停止する演算手段9を備えているトルク検出装置。」(以下、「引用発明1」という。)
(2) 引用刊行物2
ア 段落【0001】
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はねじを予め設定された締め付けトルクで自動的に締め付ける自動ねじ締め方法及び装置に関する。」
イ 段落【0010】?【0012】
「【0010】
【実施例】本発明の一実施例による自動ねじ締め装置を図1乃至図6を用いて説明する。本実施例による自動ねじ締め装置は、ねじ締めを行うドライバユニット10と、ドライバユニット10を制御する制御ユニット20に分かれている。これらドライバユニット10と制御ユニット20はコネクタ32により接続されている。
【0011】ドライバユニット10にはねじ締めを行う回転手段であるモータ12が設けられている。このモータ12の回転軸には、先端でねじを回転するビット14が取付けられ、この回転軸の後端には、モータ12の回転数を検出するため回転に応じたパルス信号を出力するエンコーダ16が取付けられている。なお、エンコーダ16の代わりにタコジェネレータを用いてもよい。
【0012】制御ユニット20には、例えばマイクロコンピュータにより構成された制御部22が設けられ、自動ねじ締め装置の全体を制御している。・・・」
ウ 段落【0015】?【0017】
「【0015】制御ユニット20による基本的制御は、ねじ着座前は、モータ12が選択されたねじ種と設定締め付けトルクに基づいた最適回転数になるような定速制御を行い、ねじ着座後は、選択されたねじ種に応じて定められる締め付けトルクの時間変化特性に基づいて、締め付けトルクを設定締め付けトルクまで上昇させながら、刻々変化する締め付けトルクを越えないように制限してモータ12を電流制御するものである。
【0016】入力部24のトルク設定スイッチ24bにより設定された締め付けトルクのデータと、入力部24のねじ種選択スイッチ24aにより選択されたねじ種は、制御部22に記憶される。効率よくねじ締めを行うためには、モータ12を高速回転させて短時間でねじ締めを行うことが望ましい。しかし、モータ12の回転が早くなり過ぎると着座時に慣性により設定された締め付けトルクを越えてしまい、ねじの頭切れなどの事故が起きやすくなる。したがって、設定された締め付けトルクを越えることなく、最も効率的にねじ締めを行うことができる最適回転数でモータ12を回転させることが必要である。このようにモータ12の最適回転数は設定された締め付けトルクに応じて異なると共に、同じ締め付けトルクでも締め付けるねじの径により異なる。
【0017】トルク回転数テーブル35は、ねじ種毎に、締め付けトルクに対する最適回転数の値が格納されたテーブルである。例えば、図3(a)は、M3-鉄のねじ種における締め付けトルクに対する最適回転数を実験的に求めたものである。トルク回転数テーブル35には、図3(a)のグラフに従って、締め付けトルクに対する最適回転数の値が記憶されている。他のねじ種についても、締め付けトルクに対する最適回転数の値を実験的に求め、テーブルとして記憶しておく。」
エ 段落【0019】?【0021】
「【0019】これに対し、本実施例では、締め付けトルクに対する最適回転数をテーブルとして記憶しているので、締め付けトルクの全範囲において最適回転数でねじ締め制御することができる。ドライバユニット10のエンコーダ16からのパルス信号は入力回路42を介して制御部22と定速制御部44に出力される。定速制御部44は、モータ12の回転数が、D/A変換部34から出力される最適定速回転になるようにモータ12を制御するような定速制御信号を出力する。すなわち、モータ12の回転数が低いとモータ電流を大きくして回転数が上昇するようにし、モータ12の回転数が高いとモータ電流を小さくして回転数が低くなるような定速制御信号を出力する。
【0020】定速制御部44からの定速制御信号は、最適回転数からのずれに応じてモータ電流すなわち回転トルクを変化させるように変化する。ねじが着座するとモータ12の回転数が急激に減少して最適回転数から大きくずれて定速制御信号がステップ状に立上る。この定速制御信号をそのままモータ駆動部38に入力してモータ12を駆動すると、ねじ着座時のモータ12の電流変化が急激すぎて設定された締め付けトルク以上のトルクがねじに加わるおそれがある。
【0021】このため、定速制御部44からの定速制御信号の時間変化をコントロールする必要がある。しかも、締め付けトルクの最適な時間変化特性は、ねじ種やねじ締め条件により異なるので、制御部22に締め付けトルクの最適な時間変化曲線を予め記憶させておく。D/A変換部49は、記憶された締め付けトルクの最適な時間変化曲線に応じて変化するデジタルの締め付けトルク信号をアナログ信号に変換し、モータ電流制限部36に出力する。モータ電流制限部36は、このような締め付けトルクの時間変化特性に応じて定速制御信号を制限し、最終的には締め付けトルクの時間変化特性に応じてモータを駆動制御する。」
オ 段落【0028】?【0029】
「【0028】ねじ締めを開始すると、定速制御部44は、モータ12の回転数がA/D変換部49から出力されている最適回転数になるような定速制御信号を出力する。ねじが着座するまでは、ねじ穴の雌ねじの山とねじの雄ねじの山が噛み合ってねじ込まれていくだけであるから負荷トルクが小さく、最適回転数でねじが回転される。
【0029】ねじが着座すると急激に回転が減少するので、定速制御部44からの定速制御信号がモータ12を最適回転数で回転させるように急激に立上がる。立上り制御部50は、抵抗とコンデンサによるCR時定数により定速制御信号の急激な立上りを鈍らせるようにモータ駆動部38を制御する。定速制御信号が増大していくと、モータ電流制限部36は、D/A変換部49から出力される締め付けトルクの時間変化特性に応じて、締め付けトルクを越えようとすると、定速制御信号が増大しないように制限する。このため、ねじ着座後の定速制御部44によるモータ電流は、D/A変換部49からの締め付けトルクの時間変化特性に応じた締め付け制御がなされ、最終的には設定された締め付けトルクでねじ締めが行われる。」
以上アないしオの記載事項から、引用刊行物2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「モータ12と、先端でねじを回転するビット14と、モータ12の回転数を検出するエンコーダ16と、ねじ種毎に、締め付けトルクに対する最適回転数の値が格納されたトルク回転数テーブル35とを有し、ねじを予め設定された締め付けトルクで自動的に締め付ける自動ねじ締め装置であって、
ねじ締め開始時には、着座時の慣性により設定された締め付けトルクを超えることなく、最も効率的にねじ締めを行うことができる最適回転数でモータ12を回転させるように定速制御信号を出力し、着座後は、モータ電流制限部36により、D/A変換部49から出力される締め付けトルクの時間変化特性に応じて締め付けトルクを超えないように定速制御信号を制限することによりモータ電流が締め付けトルクを超えないような締め付け制御がなされ、最終的に設定された締め付けトルクでねじ締めが行われる自動ねじ締め装置。」(以下、「引用発明2」という。)

3 対比
本願発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「モータ3」、「ドライバビット10」、「駆動軸4」、及び「コイルばね6」は、それぞれ、本願発明の「回転駆動手段」、「駆動工具」、「駆動軸」、及び「弾性ねじれ手段」に相当する。
引用発明1の「ドライバビット10」が「ねじ部品に係合可能な」ものであることは明らかである。
引用発明1の「モータ3の駆動を受けて回転する駆動軸4とドライバビット10が連結された出力軸7とを連結するコイルばね6」は、本願発明の「回転駆動手段の駆動により回転する駆動軸と駆動工具とを一体に回転可能に連結する弾性ねじれ部材」に相当する。
パルスエンコーダが回転角度を検出するものであることは明らかなので、引用発明1の「駆動軸4の回転に応じてパルス信号を発するパルスエンコーダ5」及び「出力軸7の回転を検出してパルス信号を発するパルスエンコーダ8」は、それぞれ、本願発明の「回転駆動手段の駆動軸の回転角度を示す信号を出力可能な第一回転角検出手段」及び「駆動工具の回転角度を示す信号を出力可能な第二回転角検出手段」に相当する。
引用発明1の「負荷トルク」は、本願発明の「締付トルク」に相当する。そうすると、引用発明1の「トルク検出装置」は、ドライバビット10を有し、締付トルクを検出するものである。したがって、引用発明1の「トルク検出装置」は、「部品締結ドライバユニット」と言い得るものであるので、本願発明の「ねじ部品の締付トルクを検出する部品締結ドライバユニット」に相当する。
引用発明1の「ねじ締め完了トルク」は、本願発明の「目標締付トルク」に相当する。
引用発明1の「モータ3は、演算手段9によって算出される負荷トルクに応じて回転速度を制御され」ることは、「回転速度とトルクにより駆動装置を制御する」限りにおいて、本願発明の「ねじ部品がワークにねじ込まれて着座した時の衝撃トルクによって生じる弾性ねじれ部材のねじれ角が、ねじ部品に目標締付トルクの許容範囲上限トルクが作用した時のねじれ角を超えないレベルの回転駆動手段の最大の回転速度と、目標締付トルクの許容範囲上限トルクを発生させるための出力トルクに対応する制限値が定められたトルク指令値とが予め設定され、この回転速度とトルク指令値とで前記回転駆動手段を駆動制御する」ことと共通する。
引用発明1の「演算手段9」は、本願発明の「制御ユニット」に相当する。そして、引用発明1の演算手段9も、パルスエンコーダ5とパルスエンコーダ8とから出力されたパルス信号をカウントして求められた回転角度の差から出力軸7の負荷トルクを算出するものであるから、引用発明1の「負荷トルクが所定のねじ締め完了トルクに達すると駆動を停止する」ことは、本願発明の「第一回転角検出手段および第二回転角検出手段の回転角度差に対応する締付トルクが目標締付トルクに達したか否かを判定する」ことに相当する。
以上の点から、両者は以下の点で一致し、また、以下の点で相違している。
<一致点>
「回転駆動手段と、ねじ部品に係合可能な駆動工具と、前記回転駆動手段の駆動により回転する駆動軸と前記駆動工具とを一体に回転可能に連結する弾性ねじれ部材と、前記回転駆動手段の駆動軸の回転角度を示す信号を出力可能な第一回転角検出手段と、前記駆動工具の回転角度を示す信号を出力可能な第二回転角検出手段とを有し、第一回転角検出手段と第二回転角検出手段との回転角度差からねじ部品の締付トルクを検出する部品締結ドライバユニットであって、
回転速度とトルクにより駆動装置を制御するとともに、前記第一回転角検出手段および第二回転角検出手段の回転角度差に対応する締付トルクが目標締付トルクに達したか否かを判定する制御ユニットを備えている部品締結ドライバユニット。」
<相違点>
回転駆動手段を駆動制御することに関して、本願発明では、「ねじ部品がワークにねじ込まれて着座した時の衝撃トルクによって生じる弾性ねじれ部材のねじれ角が、ねじ部品に目標締付トルクの許容範囲上限トルクが作用した時のねじれ角を超えないレベルの回転駆動手段の最大の回転速度と、目標締付トルクの許容範囲上限トルクを発生させるための出力トルクに対応する制限値が定められたトルク指令値とが予め設定され、この回転速度とトルク指令値とで前記回転駆動手段を駆動制御する」ものであるのに対して、引用発明1では、「モータ3は、演算手段9によって算出される負荷トルクに応じて回転速度を制御され」るものである点。

4 当審の判断
上記相違点について検討する。
引用発明2は、「モータ12と、先端でねじを回転するビット14と、モータ12の回転数を検出するエンコーダ16と、ねじ種毎に、締め付けトルクに対する最適回転数の値が格納されたトルク回転数テーブル35とを有し、ねじを予め設定された締め付けトルクで自動的に締め付ける自動ねじ締め装置であって、
ねじ締め開始時には、着座時の慣性により設定された締め付けトルクを超えることなく、最も効率的にねじ締めを行うことができる最適回転数でモータ12を回転させるように定速制御信号を出力し、着座後は、モータ電流制限部36により、D/A変換部49から出力される締め付けトルクの時間変化特性に応じて締め付けトルクを超えないように定速制御信号を制限することによりモータ電流が締め付けトルクを超えないような締め付け制御がなされ、最終的に設定された締め付けトルクでねじ締めが行われる自動ねじ締め装置。」である。
ここで、引用発明2の「モータ12」、「先端でねじを回転するビット14」、及び「自動ねじ締め装置」は、それぞれ、本願発明の「回転駆動手段」、「ねじ部品に係合可能な駆動工具」、及び「部品締結ドライバユニット」に相当する。
また、引用発明2の「予め設定された締め付けトルク」は、本願発明の「目標締付トルク」に相当する。
さらに、引用発明2は、着座時の衝撃トルクが目標締付トルクを超えないレベルでの回転速度でモータ12を回転させるものであるから、引用発明2の「ねじ締め開始時には、着座時の慣性により設定された締め付けトルクを超えることなく、最も効率的にねじ締めを行うことができる最適回転数」は、本願発明の「ねじ部品がワークにねじ込まれて着座した時の衝撃トルクによって、ねじ部品に目標締付トルクの許容範囲上限トルクを超えないレベルの回転駆動手段の回転速度」に相当する。
引用発明2の「モータ電流」は本願発明の「トルク指令値」に相当し、引用発明2の「モータ電流が締め付けトルクを超えないような締め付け制御がなされ」ることは、本願発明の「目標締付トルクの許容範囲上限トルクを発生させるための出力トルクに対応する制限値が定められたトルク指令値が予め設定され」ることに相当する。
また、引用発明2の「最終的に設定された締め付けトルクでねじ締めが行われる」ことは、本願発明の「締付トルクが目標締付トルクに達したか否かを判定する制御ユニットを備えている」ことに相当する。
したがって、引用発明2は、本願発明に沿って言い換えると、「回転駆動手段と、ねじ部品に係合可能な駆動工具とを有する部品締結ドライバユニットであって、
ねじ部品がワークにねじ込まれて着座した時の衝撃トルクによって、ねじ部品に目標締付トルクの許容範囲上限トルクを超えないレベルの前記回転駆動手段の回転速度と、目標締付トルクの許容範囲上限トルクを発生させるための出力トルクに対応する制限値が定められたトルク指令値とが予め設定され、この回転速度とトルク指令値とで前記回転駆動手段を駆動制御するとともに、締付トルクが目標締付トルクに達したか否かを判定する制御ユニットを備えている部品締結ドライバユニット。」と言い換えることができる。そして、引用発明1も引用発明2も「締付トルクが目標締付トルクに達したか否かを判定する制御ユニットを備えている部品締結ドライバユニット」という共通の技術分野に属するものであることからすれば、引用発明2の「ねじ部品がワークにねじ込まれて着座した時の衝撃トルクによって、ねじ部品に目標締付トルクの許容範囲上限トルクを超えないレベルの回転駆動手段の回転速度と、目標締付トルクの許容範囲上限トルクを発生させるための出力トルクに対応する制限値が定められたトルク指令値とが予め設定され、この回転速度とトルク指令値とで前記回転駆動手段を駆動制御する」という技術を引用発明1に適用することは、当業者にとって格別の困難性を有するものではない。そして、引用発明1は、締付トルクを「コイルばね6」の回転角度の差、すなわち本願発明のねじれ角から算出しているものであるから、引用発明2の上記構成を引用発明1に適用した場合には、「ねじ部品がワークにねじ込まれて着座した時の衝撃トルクによって、ねじ部品に目標締付トルクの許容範囲上限トルクを超えないレベル」は、「ねじ部品がワークにねじ込まれて着座した時の衝撃トルクによって生じる弾性ねじれ部材のねじれ角が、ねじ部品に目標締付トルクの許容範囲上限トルクが作用した時のねじれ角を超えないレベルの回転駆動手段の回転速度」と、その構造を変更すべきものであることは明らかである。
ここで、本願発明では、さらに、回転駆動手段の回転速度が「最大」のものであると特定している。このことに関して、請求人は、平成23年10月18日付け意見書において、「特開平8-1455号公報(以下、引用刊行物2という)には、『効率よくねじ部品の締結を行うために、着座した時の衝撃トルクが目標締付トルクを超えない最適な回転速度で回転駆動手段を駆動制御する』ことが記載されているのみで、本願発明でいう『最大の回転速度』に該当する事項は開示されていないと思量します。この引用刊行物2でいう『最適な回転速度』とは、その6欄4-24行目の記載からも明らかな通り、ねじが着座して後、締付トルクが目標締付トルクに達するまで締付トルクの増加に応じて増加するような余裕のある回転速度です。つまり、引用刊行物2における『最適な回転速度』は、本願発明における衝撃トルクが作用した時のねじの締付トルクが目標締付トルクの許容範囲上限トルクを超えないレベルの最大の回転速度、すなわち衝撃トルクによる締付トルクが目標締付トルクの許容範囲上限となる回転速度には相当し得ないものです。引用刊行物3および4に記載のものも同様に、衝撃トルクによる締付トルクが目標締付トルクよりも十分に低くなる回転速度で回転駆動手段を駆動制御するものにほかなりません。加えて、引用刊行物1ないし4の何れも、本願発明のように『最大の回転速度』と『目標締付トルクの許容範囲上限トルクを発生させるための出力トルクに対応する制限値が定められたトルク指令値』とで回転駆動手段を駆動制御するものではありません。本願は、ねじが着座した時の衝撃トルクで目標締付トルク上限レベルの締付トルクが得られる最大の回転速度と、目標締付トルクの許容範囲上限トルクを発生させるための出力トルクとで回転駆動手段を駆動制御することにより、衝撃トルクによるねじ部品の過剰締め付けを確実に防止し、しかも高速でねじ締め作業を行うことができるものなのです。」(前記意見書の3.の4行?22行)と主張している。
しかしながら、引用刊行物2の摘記事項ウに「モータ12を高速回転させて短時間でねじ締めを行うことが望ましい」と記載されているとおり、できるだけ短時間でねじ締めを行うこと、そのためにはできるだけ高速で回転駆動手段を回転させることは当然のことであるから、回転駆動手段の回転速度を「最大」と特定したことを、特別な技術限定であるとすることはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
作用ないし効果についても、引用発明1ないし2から予想し得る範囲のものでしかない。

5 むすび
したがって、本願発明は、引用刊行物1ないし2に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-02 
結審通知日 2012-03-09 
審決日 2012-03-21 
出願番号 特願2004-375554(P2004-375554)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八木 誠  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 刈間 宏信
藤井 眞吾
発明の名称 部品締結ドライバユニット  

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