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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12P
管理番号 1257165
審判番号 不服2008-28854  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-12 
確定日 2012-05-17 
事件の表示 平成10年特許願第199261号「β-グルコシドの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 1月25日出願公開、特開2000- 23692〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成10年7月14日の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成20年6月6日付け 拒絶理由通知
平成20年8月8日 意見書・手続補正書
平成20年10月6日付け 拒絶査定
平成20年11月12日 審判請求書
平成21年2月18日 手続補正書(方式)


第2 本願発明について
本願の請求項1?8に係る発明は、平成20年8月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1は、以下のとおりである。(以下「本願発明」という。なお、本願の明細書を、以下「本願明細書」という。)

「少なくとも1種の重合度3以上のβ-グルコオリゴ糖と、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、サリチル酸メチル、クミンアルコール、アニスアルコール、シンナミルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール、ハイロドロシンナミルアルコール、メチルフェニルカルビノール、バニリン、ハイドロキノン、カテキン、カテコール、コウジ酸、カフェー酸、レゾルシノール、シクロペンタノ-ル、1-プロパノ-ル、2-プロパノ-ル、ブチルアルコ-ル、シクロプロパンメタノ-ル、シクロペンタンメタノ-ル、シクロブタノ-ル、シクロブタンメタノ-ル、1-ヘキサノ-ル、1-ヘプタノ-ル、1-オクタノ-ル、1-デカノ-ル、ゲラニオール、1-メントール、シトロネロール、リナロール、ボルネオール、α-シクロゲラニオール、i-ボルネエオール、ラバンジュロール、ネロール、i-プレゴール、テルピネオール、セドロール、ファルネソール、ネロリドール、サンタロール、ランセオール、又はオイデスモールとにβ-グルコシダーゼを作用させてβ-グルコシドを生成する工程を含むβ-グルコシドの製造方法。」


第3 原査定の理由の概要
原査定における拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された以下の引用文献1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとするものである。

1.特開平7-118287号公報
2.特開平2-219584号公報
3.特開平1-222779号公報


第4 刊行物に記載された事項
1 刊行物1に記載された事項
本願の出願前である平成7年5月9日に頒布された刊行物である特開平7-118287号公報(上記「引用文献1」と同じ。以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】 一般式(1)
【化1】

(ただし、式中、R^(1 ),R^(2) ,R^(3) およびR^(4) は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R^(5) は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基、Xは単糖残基またはオリゴ糖残基であり、糖残基の水酸基の水素原子は低級アルキル基または低級アシル基で置換されていてもよく、nは0?4の整数を表わし、またmは1?6の整数を表わす)で表わされるクロマノール配糖体。
【請求項2】一般式(2)
【化2】

(ただし、式中、R^(1) ,R^(2) ,R^(3) およびR^(4) は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R^(5) は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基を表わし、またnは0?4の整数を表わす)で表わされる2-置換アルコールと、オリゴ糖類、可溶性澱粉、澱粉またはシクロデキストリンを、相当する糖転位作用を触媒する酵素の存在下に反応させることを特徴とする一般式(1)
【化3】

(但し、R^(1 ),R^(2) ,R^(3) ,R^(4) ,R^(5 ),Xおよびnは前記定義のとおりであり、またmは1?6の整数である)で表わされるクロマノール配糖体の製造方法。」(請求項2)

(1b)「この配糖体の合成を行うことに当たって、2-置換アルコール(一般式(2))の2-位の水酸基に対してのみ特異的に糖の特定の水酸基を結合させることは化学的合成法では困難である。本発明者らは酵素を用いることにより、非常に効率よく目的のクロマノール配糖体(一般式(1))を簡単に合成させうる方法を発見した。」(段落【0021】)

(1c)「(3)2-置換アルコールにβ結合でグルコース残基を結合させる場合
(a)セロビオース、カードラン、ラミナランなどのβ結合よりなるオリゴ糖に対してはβ-グルコシダーゼ(β-glucosidase, EC 3.2.1.21)を作用させることが望ましい。」(段落【0026】)

2 刊行物2に記載された事項
本願の出願前である平成2年9月3日に頒布された刊行物である特開平2-219584号公報(上記「引用文献2」と同じ。以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a)「(1)微生物起源のβ-グルコシダーゼをグルコース及び/又はβ-グルコオリゴ糖に作用させて、より高重合度のβ-グルコオリゴ糖を顕著に生成・蓄積せしめることを特徴とする酵素法によるβ-グルコオリゴ糖の新規製造法。
(2)基質としてグルコース、セロビオース、ゲンチオビオースから選ばれた少なくとも一種を用いる請求項1記載のβ-グルコオリゴ糖の新規製造法。
(3)生成されるβ-グルコオリゴ糖が、セロビオース、ゲンチオビオース、4-O-β-D-ゲンチオオリゴシル-D-グルコース及び6-O-β-D-ゲンチオオリゴシル-D-グルコースから選ばれた少なくとも1種である請求項1又は2記載のβ-グルコオリゴ糖の新規製造法。」(特許請求の範囲)

(2b)「「発明の効果」
以上説明したように、本発明によれば、微生物起源のβ-グルコシダーゼの縮合・転移反応を利用することにより、従来、その有機合成法や酵素合成法などが確立されていなかったβ-グルコオリゴ糖を、工業的に大量に製造する方法を提供することができる。」(第7頁左上欄第3?12行)

3 刊行物3に記載された事項
本願の出願前である平成2年9月3日に頒布された刊行物である特開平1-222779号公報(上記「引用文献3」と同じ。以下、「刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(3a)「(1)下記の理化学的性質を有することを特徴とする新規酵素。
1(当審注:○の中に「1」と書く。)作用および基質特異性
セルロース、セロデキストリン、各種セロオリゴ糖、セロビオース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチオビオースなどを基質とし、これらのβ-1,4-グルコシド結合、β-1,2-グルコシド結合、β-1,3-グルコシド結合、β-1,6-グルコシド結合を加水分解して、グルコースを生成する。
グルコースを基質として、これを縮合反応させ、主としてβ-1,6-結合からなるゲンチオビオース、ゲンチオトリオースなどのゲンチオオリゴ糖を生成する。
2(当審注:○の中に「2」と書く。)至適pHおよび安定pH範囲
至適pHは5.0であり、安定pH範囲は4℃、24時間の処理条件で4.2?8.0、45℃、2時間の処理条件で4.5?7.0である。
3(当審注:○の中に「3」と書く。)至適温度
至適温度(作用適温)は70℃である。
4(当審注:○の中に「4」と書く。)温度安定性
100%の活性を保持するための温度は55℃以下である。
5(当審注:○の中に「5」と書く。)等電点(p^(I))5.30
6(当審注:○の中に「6」と書く。)分子量(SDS電気泳動法)約85,000
7(当審注:○の中に「7」と書く。)アミノ酸組成(モル比%)
アルギニン:3.43
リジン:3.34
ヒスチジン:1.26
フェニルアラニン:2.86
チロシン:3.50
ロイシン:6.94
イソロイシン:5.10
メチオニン:0.88
バリン:8.25
アラニン:10.39
グリシン:11.12
プロリン:5.68
グルタミン酸:6.83
セリン:7.51
スレオニン:7.13
アスパラギン酸:12.77
トリプトファン:1.92
シスチン:1.08
(2)高濃度グルコース溶液に請求項1記載の新規酵素を作用させることを特徴とするゲンチオオリゴ糖高含有シラップの製造方法。
(3)高濃度グルコース溶液に請求項1記載の新規酵素を作用させ、反応液よりグルコースを除去することを特徴とするゲンチオオリゴ糖高含有シラップの製造方法。
(4)グルコース純度が60%(w/w)以上であり、かつ、固形分濃度が30%(w/v)以上であるグルコース溶液を用いる請求項2または3記載のゲンチオオリゴ糖高含有シラップの製造方法。」(特許請求の範囲)

(3b)「「発明の効果」
以上説明したように1本発明の新規酵素は、高濃度グルコースを基質として縮合反応を行なわせたとき、β-1,6-グルコシド結合からなるゲンチオオリゴ糖を特異的かつ優先的に合成する作用を有している。したがって、この酵素を用いた本発明のシラップの製造方法では、ゲンチオオリゴ糖を選択的に高収率かつ高純度で生成させることができ、ゲンチオオリゴ糖を高濃度で含むシラップの工業的生産が可能となる。」(第8頁右上欄第1?10行)

第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1の上記摘記事項(1a)には、請求項2として、「 一般式(2)
【化2】

(ただし、式中、R^(1) ,R^(2) ,R^(3) およびR^(4) は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R^(5) は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基を表わし、またnは0?4の整数を表わす)で表わされる2-置換アルコールと、オリゴ糖類、可溶性澱粉、澱粉またはシクロデキストリンを、相当する糖転位作用を触媒する酵素の存在下に反応させることを特徴とする一般式(1)
【化3】

(但し、R^(1 ),R^(2) ,R^(3) ,R^(4) ,R^(5 ),Xおよびnは前記定義のとおりであり、またmは1?6の整数である)で表わされるクロマノール配糖体の製造方法」の発明が記載されているところ、上記摘記事項(1c)には、「オリゴ糖類、可溶性澱粉、澱粉またはシクロデキストリン」として「セロビオース、カードラン、ラミナランなどのβ結合よりなるオリゴ糖」を用いる場合に、「相当する糖転位作用を触媒する酵素」として「β-グルコシダーゼ」を作用させること、その結果、「2-置換アルコールにβ結合でグルコース残基を結合させる」ことが記載されている。
さらに、【化3】の「(但し、R^(1 ),R^(2) ,R^(3) ,R^(4) ,R^(5 ),Xおよびnは前記定義のとおりであり」について、刊行物1の上記摘記事項(1a)の請求項1には、「ただし、式中、R^(1 ),R^(2) ,R^(3) およびR^(4) は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R^(5) は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基、Xは単糖残基またはオリゴ糖残基であり、糖残基の水酸基の水素原子は低級アルキル基または低級アシル基で置換されていてもよく、nは0?4の整数を表わし・・・」と記載されているから、刊行物1には、

「 一般式(2)
【化2】

(ただし、式中、R^(1) ,R^(2) ,R^(3) およびR^(4) は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R^(5) は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基を表わし、またnは0?4の整数を表わす)で表わされる2-置換アルコールと、セロビオース、カードラン、ラミナランなどのβ結合よりなるオリゴ糖を、β-グルコシダーゼの存在下に反応させることを特徴とする一般式(1)
【化3】

(ただし、式中、R^(1 ),R^(2) ,R^(3) およびR^(4) は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R^(5) は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基、Xは単糖残基またはオリゴ糖残基であり、糖残基の水酸基の水素原子は低級アルキル基または低級アシル基で置換されていてもよく、nは0?4の整数を表わし、またmは1?6の整数である)で表わされる、2-置換アルコールにβ結合でグルコース残基が結合したクロマノール配糖体の製造方法」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

2 本願発明と引用発明との対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明の「β-グルコシド」について、本願明細書の段落【0002】には「・・・β-グルコシドはグルコース残基がβ-結合したグルコシドである」と記載されているから、引用発明の「・・・2-置換アルコールにβ結合でグルコース残基が結合したクロマノール配糖体」は、本願発明の「β-グルコシド」に相当するといえる。
また、引用発明の「セロビオース、カードラン、ラミナランなどのβ結合よりなるオリゴ糖」における「セロビオース」、「カードラン」、「ラミナラン」は、それぞれ、β1-4結合の二糖、β1-3結合のグルコース主鎖からなるオリゴ糖、β1-3結合とβ1-6結合のグルコース主鎖からなるオリゴ糖であるから、引用発明の「セロビオース、カードラン、ラミナランなどのβ結合よりなるオリゴ糖」と、本願発明の「少なくとも1種の重合度3以上のβ-グルコオリゴ糖」とは、「β-グルコオリゴ糖」という点で共通する。

本願発明の「フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、サリチル酸メチル、クミンアルコール、アニスアルコール、シンナミルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール、ハイロドロシンナミルアルコール、メチルフェニルカルビノール、バニリン、ハイドロキノン、カテキン、カテコール、コウジ酸、カフェー酸、レゾルシノール、シクロペンタノ-ル、1-プロパノ-ル、2-プロパノ-ル、ブチルアルコ-ル、シクロプロパンメタノ-ル、シクロペンタンメタノ-ル、シクロブタノ-ル、シクロブタンメタノ-ル、1-ヘキサノ-ル、1-ヘプタノ-ル、1-オクタノ-ル、1-デカノ-ル、ゲラニオール、1-メントール、シトロネロール、リナロール、ボルネオール、α-シクロゲラニオール、i-ボルネエオール、ラバンジュロール、ネロール、i-プレゴール、テルピネオール、セドロール、ファルネソール、ネロリドール、サンタロール、ランセオール、又はオイデスモール」は、本願明細書の段落【0043】、【0050】、【0057】の記載からみて、「受容体基質」であるといえる。本願明細書の段落【0011】の「β-グルコシダーゼ糖転移反応の受容体基質としては、水酸基を有する化合物を使用する。水酸基を有する化合物としては、例えば、アルコール類、芳香族アルコール類、及びポリフェノール類等を挙げることができる」との記載からみて、「受容体基質」とは、「β-グルコシダーゼ糖転移反応」により糖が結合する「水酸基を有する化合物」であるといえる。
一方、引用発明の【化2】の「・・・2-置換アルコール」も、「水酸基を有する化合物」であって、「β結合でグルコース残基が結合」するものであり、「受容体基質」といえるから、引用発明の【化2】の「・・・2-置換アルコール」と、本願発明の「フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、サリチル酸メチル、クミンアルコール、アニスアルコール、シンナミルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール、ハイロドロシンナミルアルコール、メチルフェニルカルビノール、バニリン、ハイドロキノン、カテキン、カテコール、コウジ酸、カフェー酸、レゾルシノール、シクロペンタノ-ル、1-プロパノ-ル、2-プロパノ-ル、ブチルアルコ-ル、シクロプロパンメタノ-ル、シクロペンタンメタノ-ル、シクロブタノ-ル、シクロブタンメタノ-ル、1-ヘキサノ-ル、1-ヘプタノ-ル、1-オクタノ-ル、1-デカノ-ル、ゲラニオール、1-メントール、シトロネロール、リナロール、ボルネオール、α-シクロゲラニオール、i-ボルネエオール、ラバンジュロール、ネロール、i-プレゴール、テルピネオール、セドロール、ファルネソール、ネロリドール、サンタロール、ランセオール、又はオイデスモール」とは、「受容体基質」である点で共通する。

したがって、両者は、
「β-グルコオリゴ糖と、受容体基質とにβ-グルコシダーゼを作用させてβ-グルコシドを生成する工程を含むβ-グルコシドの製造方法。」という点で一致するが、以下の点で相違する。

相違点1:「β-グルコオリゴ糖」として、本願発明では、「少なくとも1種の重合度3以上のβ-グルコオリゴ糖」を用いるのに対し、引用発明では、「セロビオース、カードラン、ラミナラン」を用いる点。

相違点2:「受容体基質」として、本願発明では、「フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、サリチル酸メチル、クミンアルコール、アニスアルコール、シンナミルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール、ハイロドロシンナミルアルコール、メチルフェニルカルビノール、バニリン、ハイドロキノン、カテキン、カテコール、コウジ酸、カフェー酸、レゾルシノール、シクロペンタノ-ル、1-プロパノ-ル、2-プロパノ-ル、ブチルアルコ-ル、シクロプロパンメタノ-ル、シクロペンタンメタノ-ル、シクロブタノ-ル、シクロブタンメタノ-ル、1-ヘキサノ-ル、1-ヘプタノ-ル、1-オクタノ-ル、1-デカノ-ル、ゲラニオール、1-メントール、シトロネロール、リナロール、ボルネオール、α-シクロゲラニオール、i-ボルネエオール、ラバンジュロール、ネロール、i-プレゴール、テルピネオール、セドロール、ファルネソール、ネロリドール、サンタロール、ランセオール、又はオイデスモール」を用いるのに対し、引用発明では、「一般式(2)
【化2】

(ただし、式中、R^(1) ,R^(2) ,R^(3) およびR^(4) は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R^(5) は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基を表わし、またnは0?4の整数を表わす)で表わされる2-置換アルコール」を用いる点。

(2)判断
(ア)相違点1について
引用発明の「セロビオース、カードラン、ラミナラン」のうち、「カードラン」、「ラミナラン」は、上記(1)で述べたように、それぞれ、β1-3結合のグルコース主鎖からなるオリゴ糖、β1-3結合とβ1-6結合のグルコース主鎖からなるオリゴ糖であり、それらの態様は、重合度が3以上のものを含んでいると認められる。

一方、本願発明の「少なくとも1種の重合度3以上のβ-グルコオリゴ糖」を用いることについて、本願明細書の段落【0044】?【0050】の実施例2では、段落【0044】?【0045】に「実施例2 直鎖及び環状アルコ-ル配糖体の調製 ・・・。得られた液体をロータリーエバポレーターで糖濃度30%(w/v)まで濃縮した。本濃縮液を全量、・・・で精製した。精製液のβ-グルコオリゴ糖組成を・・・で分析した。本液の糖組成は単糖であるグルコ-ス2.3%及びフラクト-ス0.5%、β-グルコオリゴ糖である2種類62.0%、同3糖類24.5%、同4糖類及び5糖類10.7%であった。上記β-グルコオリゴ糖濃縮液(60%(w/v)濃度)10mlに、受容体基質としてシクロペンタノ-ル2ml、及び・・・混合した。得られた混合物にβ-グルコシダーゼを含有するペニシリウム・フニクロサム起源の酵素製剤(cellulase, SIGMA社製)を100単位添加し、40℃でインキュベイトした」と記載され、本願明細書の段落【0051】?【0057】の実施例3でも、段落【0051】に「実施例2と同様の方法により得たβ-グルコオリゴ糖濃縮液(60%(w/v)濃度)10mlと、受容体基質として和光純薬工業(株)製ゲラニオ-ル2ml、・・・混合し、β-グルコシダーゼを含有するアスペルギルス・プルペルレンタス起源の酵素製剤(商品名ペクチナーゼG、天野製薬(株))を100単位添加し、40℃でインキュベイトした」と記載されるように、「β-グルコオリゴ糖組成」として、「重合度3以上のβ-グルコオリゴ糖」以外にも、「グルコース」や「β-グルコオリゴ糖である2種類」(当審注:「2種類」は「2糖類」の誤記であると認められる。)を含む態様も包含しているといえる。

そうすると、引用発明における「カードラン」、「ラミナラン」の「β-グルコオリゴ糖」は、本願発明における「少なくとも1種の重合度3以上のβ-グルコオリゴ糖」に包含され実質的に相違点とならないか、あるいは、引用発明において、「重合度3以上」すなわち、3糖以上の「カードラン」、「ラミナラン」を用いることは当業者が容易に想到し得たことといえる。

(イ)相違点2について
「β-グルコシド」の配糖体の製造において、「β-グルコオリゴ糖」等の糖供与体と、「受容体基質」とに、「β-グルコシダーゼ」を作用させることにより製造することは、本願の出願時において、よく知られていたことといえる。
(例えば、本願明細書の段落【0004】には、「特開昭63-25859では、セロビオース、ホロセルロース、キシラン等のセルロース系糖質やメチルβ-グルコシドをβ-グルコシダーゼの供与体基質として使用している」と記載されている。
また、平成20年10月6日付け拒絶査定で引用した特開昭63-214191号公報及び特開昭63-258591号公報の特許請求の範囲、第3頁右上欄第9行?右下欄第1表を参照。
さらに、特開平9-294595号公報の特許請求の範囲、段落【0017】、【0018】、【0032】には、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシノール等のフェノール類と、ラミナリペンタオース、カードラン等のβ-1、3グリコシル糖化合物とを、β-グルコシダーゼであるβ-1,3グルカナーゼ活性を有する酵素剤により配糖体を製造することが記載されている。また、他にも、特開平9-132792号公報の特許請求の範囲、段落【0008】、【0009】には、β-グルコシダーゼを用いてフェネチルアルコールの配糖体を製造することが記載されており、特開平3-236788号公報の特許請求の範囲には、糖供与体と、脂肪族あるいは脂環属アルコールとに、β-グルコシダーゼを加えて糖転移反応を起こさせる配糖体の製造方法が記載されている。)

そうすると、引用発明において、「受容体基質」として、【化2】の「・・・2-置換アルコール」に代えて、フェネチルアルコール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシノール等のフェノール性の化合物や、脂肪族あるいは脂環属アルコールを用いることは、所望の目的化合物を得るために、当業者が容易になし得たことといえる。

(ウ)本願発明の効果について
本願発明の効果について、本願明細書には明記されていないが、段落【0004】の「・・・β-グルコシダーゼの供与体基質としてフェニルβ-グルコシドが使用されている。このフェニルβ-グルコシドは高価であり、工業的に製造することも困難であるため容易に入手することができなかった。・・・セロビオース、ホロセルロース、キシラン等のセルロース系糖質やメチルβ-グルコシドをβ-グルコシダーゼの供与体基質として使用している。しかし、これらの供与体基質も工業的に製造することは困難であるため、この方法をβ-グルコシドの工業的製造に利用することは困難であった」、段落【0006】の「従って、β-グルコシダーゼを用いたβ-グルコシドの製造方法であって、安価及び/又は容易に製造又は入手可能な供与体基質を用いる方法の開発が期待されていた」、段落【0007】の「本発明の目的は、β-グルコシダーゼを用いたβ-グルコシドの製造方法であって、β-グルコシダーゼの供与体基質として、安価及び/又は容易に製造することができる化合物を使用することができる工業的に利用可能な方法を提供することにある」、段落【0009】の「本発明者らは、研究を重ねた結果、重合度3以上の糖がβ-グルコシダーゼの糖転移反応の糖供与体基質として良好に使用できることを見出し、本発明を完成した。本発明は、供与体基質として重合度3以上のβ-グルコオリゴ糖を用いたβ-グルコシダーゼの糖転移反応によるβ-グルコシドの製造方法である。本供与体基質は安価及び/又は容易に製造することができるため、本方法は工業的なβ-グルコシドの製造に利用することができる」との記載からみて、工業的に安価又は容易に製造できる「供与体基質」である「重合度3以上の糖」を用いることで、「β-グルコシダーゼの供与体基質として、安価及び/又は容易に製造することができる化合物を使用することができる工業的に利用可能な方法を提供」できるようにしたことといえる。
しかしながら、刊行物2の上記摘記事項(2a)?(2b)、刊行物3の上記摘記事項(3a)?(3b)には、ゲンチオトリオース等の「重合度3以上のβ-グルコオリゴ糖」が、工業的に大量に生産できることが記載されているから、本願発明の効果は、当業者が予測できる範囲内のことといえる。
また、引用発明について、刊行物1の上記摘記事項(1b)には、「本発明者らは酵素を用いることにより、非常に効率よく目的のクロマノール配糖体(一般式(1))を簡単に合成させうる方法を発見した」と記載されており、「相当する糖転位作用を触媒する酵素」を用いることにより、「β-グルコシド」である「・・・2-置換アルコールにβ結合でグルコース残基が結合したクロマノール配糖体」を「非常に効率よく・・・合成させうる」ことも記載されているといえる。

したがって、本願発明の効果は、刊行物1?3に記載された発明から、当業者が予測し得る範囲内のことといえる。

3 請求人の主張
平成20年11月12日付け審判請求書に対する平成21年2月18日付け手続補正書において、請求人は、「引用文献1において、引用発明1の必須の構成要件であるクロマン環を有する2-置換アルコールを別の受容体基質へ置換することを示唆する記載はどこにもない。したがって、引用文献1に記載のクロマン環を有する2-置換アルコールを別の受容体基質へ置換するために、引用発明1と他の文献に記載の発明とを組み合わせる動機付けはない」、「引用文献1には、一般的な記載として、段落0026に「β結合よりなるオリゴ糖」があたかも供与体基質として利用できる旨の記載がある。しかし、引用文献1には、この記載以外にβ結合よりなるオリゴ糖が供与体基質として利用できることについての記載はなく、具体的な記載もない。したがって、引用文献1には、なぜ高い蓋然性をもってβ結合よりなるオリゴ糖が供与体基質として利用され得るかについての具体的な説明は全くない。さらに、引用文献1に記載の実施例において合成された配糖体はすべてα体であり、β結合よりなるオリゴ糖を供与体基質としてβ-グリコシドを製造できることが実証されていない」、「特開昭63-214191号公報及び特開昭63-258591号公報の両文献に記載されたβ-グルコシドの製造方法で用いられているβ結合を有する糖供与体(供与体基質)は、セロビオース(2糖)及びメチル-β-D-グルコシド(1糖)のみであり、フェノール性化合物(受容体基質)は、バニリルアルコール及びベラトリルアルコールのみである。これら2つの文献のみの極限られた種類のβ結合を有する糖供与体及びフェノール性化合物からのβ-グルコシドの製造方法についての記載に基づいて、種類に限らずβ結合を有する糖供与体(供与体基質)と、種類に限らずフェノール性化合物(受容体基質)とに、基質特異性を有し、かつ特定の基質とのみに反応することが知られている酵素であるβ-グルコシダーゼを作用させることにより、様々な配糖体(β-グルコシド)を製造できることは、周知である、と認定をされるのは、不当である」と主張している。
しかしながら、上記2(2)(イ)で検討したように、「β-グルコシド」を、「β-グルコオリゴ糖」等の糖供与体と「受容体基質」とに「β-グルコシダーゼ」を作用させることにより製造することは、本願の出願時においてよく知られていたことといえるから(刊行物1の引用発明の他、本願明細書の段落【0004】の記載、平成20年10月6日付け拒絶査定で引用した特開昭63-214191号公報及び特開昭63-258591号公報の特許請求の範囲、第3頁右上欄第9行?右下欄第1表、特開平9-294595号公報の特許請求の範囲、段落【0017】、【0018】、【0032】、特開平9-132792号公報の特許請求の範囲、段落【0008】、【0009】、特開平3-236788号公報の特許請求の範囲を参照。)、請求人のこの主張を採用することはできない。

さらに、平成20年11月12日付け審判請求書に対する平成21年2月18日付け手続補正書において、請求人は、「上記先行技術文献に記載のβ-グルコシドの製造方法には、本願明細書の段落0004に記載されている通り、工業的に製造することが困難なセルロース系糖質やメチルβ-グルコシドをβ-グルコシダーゼの供与体基質として使用していることから、β-グルコシドを工業的規模で製造できないとの課題があった。・・・しかし、引用文献1には上記課題について全く触れられていない」と主張する。
しかしながら、上記2(1)で検討したように、引用発明の「カードラン」、「ラミナラン」は、グルコース主鎖からなるオリゴ糖であって、それらの態様は、重合度が3以上のものを含んでいると認められるから、引用発明においても、本願発明と同様に、「少なくとも1種の重合度3以上のβ-グルコオリゴ糖」を用いている、あるいは、引用発明において、「重合度3以上」すなわち、3糖以上の「カードラン」、「ラミナラン」を用いることは当業者が容易に想到し得たことといえる。また、上記2(3)で検討したように、刊行物2の上記摘記事項(2a)?(2b)、刊行物3の上記摘記事項(3a)?(3b)には、ゲンチオトリオース等の「重合度3以上のβ-グルコオリゴ糖」が、工業的に大量に生産できることが記載されており、刊行物2及び刊行物3に記載された「重合度3以上のβ-グルコオリゴ糖」の製造方法を用いれば、工業的規模で「β-グルコシド」を製造できることは当業者であれば予測できることといえるから、請求人のこの主張も採用することはできない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余のことについて検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-16 
結審通知日 2012-03-21 
審決日 2012-04-05 
出願番号 特願平10-199261
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 郡山 順
杉江 渉
発明の名称 β-グルコシドの製造方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
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