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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E03C
管理番号 1257218
審判番号 不服2010-29021  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-22 
確定日 2012-05-16 
事件の表示 特願2005- 1935「排水機器」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月20日出願公開、特開2006-188899〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年1月6日の出願であって,平成22年9月17日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。その後,当審において平成23年10月13日付けで拒絶理由通知を行ったところ,同年12月16日受付で意見書が提出されるとともに,同日受付で手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成23年12月16日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の,請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「槽体の底面の排水口を被覆する目隠しプレートと排水器本体からなる排水機器であって,
前記目隠しプレートは,排水口の内部の構造に載置され,全周に亘って下方ほど前記排水口の中心方向に傾斜する周縁部を有し,
前記目隠しプレートの前記周縁部の外周面の上端と,前記排水口の上部の内周面が,ほぼ同じ形状且つ寸法に形成され,前記目隠しプレートの前記周縁部の外周面の上端と,前記排水口の上部の内周面が当接する際には,周方向において線接触することを特徴とすることを特徴とする排水機器。」(以下,「本願発明」という。)


第3 引用刊行物記載の発明
当審の拒絶の理由に引用した,本願の出願日前に頒布された実願昭49-149574号(実開昭51-75450号)のマイクロフィルム(以下,「刊行物」という。)には,次のことが記載されている。
(1a)「本考案は流し台等の排水装置におけるトラップキャップの振動防止装置に関するもので,その目的とする所は簡単,合理的な装置により,流し台等の排水装置におけるトラップキャップの振動の発生を防止し,以て不快な振動音の生じないトラップを提供せんとするものである。」(1ページ20行?2ページ1行)
(1b)「本考案を図示する実施例について説明するに1は流し台等の水槽底部に装置する金属或いは合成樹脂製の円筒状に形成したトラップ本体であつて上端開口縁に鍔部2,底部に排水管3を接続固定する排水口4を設ける。」(2ページ16?20行)
(1c)「10はトラップキャップ7の上方に於いて容器本体1内周壁の段部11に嵌挿係止した多孔体のごみ受皿,12はごみ受皿10の上方に載置した皿体,13はトラップキャップ7の頂部に突設した係合突起で,対応するごみ受皿10の係合孔に係合せしめて位置決め作用をなすものである。」(3ページ12?18行)
(1d)第1図には以下の記載がある。


(1e)第1図と記載(1b)からみて,水槽底部であってトラップ本体1の上部には排水部があると認められ,さらに,記載(1a),(1c)をあわせみると,刊行物1には「皿体12」が,「トラップ本体1の上部の排水部を被覆し」,「トラップ本体1の周縁に設けた段部11に載置されるごみ受皿10の周囲部に載せられ」,さらに,「中程より下方では,下方ほどトラップ本体1の中心方向に傾斜する周縁部を備え」,「皿体12の周縁部の外周面の上方部と,トラップ本体1の内周面の上部を,ほぼ同じ形状且つ寸法に形成した点」が記載されていると認められる。

そうすると,上記(1a)?(1e)の記載から,刊行物には,次の発明が記載されていると認められる。
「水槽底部の排水部を被覆する皿体12とトラップ本体1からなる排水装置であって,
皿体12は,トラップ本体1の周縁に設けた段部11に載置されるごみ受皿10の周囲部に載せられ,中程より下方では,下方ほどトラップ本体1の中心に近づくように傾斜する周縁部を備え,
皿体12の周縁部の外周面の上方部と,トラップ本体1の内周面の上部を,ほぼ同じ形状且つ寸法に形成したことを特徴とする排水装置。」(以下,「刊行物記載の発明」という。)


第4 当審の判断
1 本願発明と刊行物記載の発明の対比
本願発明と上記刊行物記載の発明とを対比すると,
刊行物記載の発明の「水槽」は本願発明の「槽体」に相当し,
以下,同様に,
「底部」は「底面」に,
「排水部」は「排水口」に,
「皿体12」は「目隠しプレート」に,
「トラップ本体1」は「排水器本体」に,
「排水装置」は「排水機器」に,
「ごみ受皿10の周縁部」は「排水口の内部の構造」に,
「皿体12の周縁部」は目隠しプレートの「周縁部」に,
「トラップ本体1の内周面の上部」は「排水口の上部の内周面」に,
それぞれ相当し,
刊行物記載の発明の「中程より下方では,下方ほどトラップ本体1の中心に近づくように傾斜する周縁部」と,本願発明の「全周に亘って下方ほど排水口の中心方向に傾斜する周縁部」は,「中程より下方では,下方ほどトラップ本体1の中心に近づくように傾斜する周縁部」である点で共通し,
刊行物記載の発明の「皿体12の周縁部の外周面の上方部」と,本願発明の「目隠しプレートの周縁部の外周面の上端」は,「目隠しプレートの周縁部の外周面の上部」で共通する。

そうすると,本願発明と刊行物記載の発明とは,
「槽体の底面の排水口を被覆する目隠しプレートと排水器本体からなる排水機器であって,
前記目隠しプレートは,排水口の内部の構造に載置され,中程より下方では,下方ほど前記排水口の中心方向に傾斜する周縁部を有し,
前記目隠しプレートの前記周縁部の外周面の上部と,前記排水口の上部の内周面が,ほぼ同じ形状且つ寸法に形成されることを特徴とする排水機器。」で一致し,以下の点で相違する。

<相違点1>
目隠しプレートの,周縁部下方の排水口中心方向の傾斜が,本願発明は「全周に亘って」傾斜するのに対し,刊行物記載の発明は,「全周に亘って」傾斜するものであるかが不明である点。

<相違点2>
目隠しプレートの,排水口中心方向に傾斜する周縁部が,本願発明は「下方ほど」中心方向に傾斜するのに対し,刊行物記載の発明は「中程より下方では,下方ほどトラップ本体1の中心方向に傾斜する」点。

<相違点3>
排水口の上部の内周面と,ほぼ同じ形状且つ寸法に形成される,目隠しプレートの前記周縁部の外周面の上部が,本願発明では「上端」であるのに対して,刊行物記載の発明では「上方部」である点。

<相違点4>
本願発明は「目隠しプレートの外周面と排水口の内周面が当接する際には,周方向において線接触する」のに対し,刊行物記載の発明では「目隠しプレートの外周面と排水口の内周面が当接する際には,周方向において線接触する」かは不明である点。

2 相違点についての判断
上記各相違点について検討する。

<相違点1について>
刊行物記載の発明における目隠しプレートの周縁部形状は全周ではどのようなものか記載されていないものの,刊行物の記載からみて全周に亘って同じ形状ではないようにする格別な事情は認められず,むしろ,全周に亘って同じ形状とすることが一般的であると認められるから,全周に亘って傾斜するものとすることは当業者が容易になし得たことである。

<相違点2について>
本願発明の「下方ほど排水口の中心方向に傾斜する周縁部」との構成は,「下方ほど排水口の中心に近づくように傾斜する周縁部」を意味していると認められる。
平成23年12月16日受付の手続補正書における明細書の段落【0013】では,第一実施例として図1,2が挙げられて説明され,段落【0014】では第二実施例として図4が挙げられて説明されている。そして,本願発明の目隠しプレート周縁部の形状が,図2,4に記載された形状を含まないという理由は見あたらないから,本願発明の目隠しプレート周縁部の形状はとしては,以下に示す本願の図2,4に記載された形状を含むと認められる。

【図2】



【図4】



そして,拡大図である図2,4において,目隠しプレートの最大径部は,上面の高さである周縁部の「最上部」からみて周縁部高さの1/6程度下がった所にあることからみて,本願発明の「下方ほど」とは目隠しプレートの周縁部の「最上部」を起点とするのもに限定したものではなく,周縁部は,その縦方向の「上方」を起点として「下方ほど排水口の中心に近づくように傾斜する周縁部」であると認められる。
そうすると,刊行物記載の発明も,「下方ほど排水口の中心に近づくように傾斜する周縁部」を有すると認められる。
以上のことから,相違点2は実質的に相違点ではない。

<相違点3について>
上記の<相違点2について>における検討と同じ理由から,本願発明の「上端」とは周縁部の「最上部」に限らず,周縁部の「上方」という意味であると認められる。そうすると,刊行物記載の発明も,「目隠しプレート周縁部の外周面の上端と,排水口の上部の内周面が,ほぼ同じ形状且つ寸法に形成され」ているといえる。
以上のことから,相違点3は実質的に相違点ではない。

<相違点4について>
本願発明における,目隠しプレートの外周面と排水口の内周面が当接する際の「線接触」との構成に関して,上記した本願の図2,4と,刊行物に記載された発明を認定した刊行物の記載(1d)における第1図を比べると,目隠しプレートと排水口間の当接部ないし接触部は,刊行物のものの方が大きいと認められるが,どちらも全体の形状としては下方ほど中心方向に近づくように傾斜し,排水口壁との当接幅ないし接触幅は小さいものであって,当該当接幅ないし接触幅を刊行物のもの程度の大きさにするか,本願のもの程度の大きさにするかは当業者の設計事項の範囲内であると認められる。
したがって,「線接触」とすることは格別の構成ではない。
そして,本願発明の「当接する際」との記載は,何を意味しているのか不明確であるが,請求人は,平成23年12月16日受付の意見書の3.(a)において,当該記載は本願明細書の【0012】の「面と面との間が狭いのは上端部分だけなので」との記載と図2等を根拠としたものであり,「目隠しプレートが排水口の内部の構造に載置された後に,衝撃等の何らかの理由で,目隠しプレートが横にずれる等して,排水口の上部の内周面と当接した際という意味である」旨主張するので,そのように解釈すると,刊行物記載の発明において,皿体12を載せる際にはまりやすくするため,皿体12の直径をトラップ本体1の内周面上部よりやや小さくすることは,当業者が設計時に適宜行うことであり,そうすれば結果として,横にずれてトラップ本体1に当接する構成となるにすぎない。

以上のことから,本願発明の相違点4に係る構成は当業者が容易になし得たことである。

したがって,本願発明は,刊行物記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


請求人は上記意見書の3.(a)において,「本願発明における「線接触する」という文言は,「目隠しプレートの周縁部の外周面と,排水口の内周面の接する部分での線の幅(天地方向の幅)が,(目隠しプレートが若干水平方向に移動した際には,)当該接する部分の上部に堆積していた砂や厨芥,髪の毛等が通過することができる程度に十分に狭い幅において接触する」という意味となります。」として「線接触」の解釈を説明しているが,根拠のない説明であり,解釈の意味も不明確である。

また請求人は,上記意見書の3.(c)の最後で,以下のように述べて進歩性を主張している。
「即ち,刊行物1に記載の発明は,記載された図面が不鮮明であるが,当該図面をいかなる様に解釈したとしても本願発明の有する作用効果を有さないものであって,従って,刊行物1に記載の発明によって本願発明が解決しようとする課題の解決は不可能です。
又,刊行物1の中には,砂噛み防止に関する記載が無いこと,目隠しプレートに関する記載がないこと,及び,刊行物1の課題は「振動音の発生を抑制する」ことであって,本願発明とは課題が相違すること等より明らかであるように,刊行物1には本願発明の構成を想到する為の示唆が欠如しています。
又,「目隠しプレートの砂噛みを防止する」という課題・効果を有する他の特許文献等が存在しないことから,刊行物1に記載の発明を「目隠しプレートの砂噛みを防止する」という課題・効果を有する様に「面接触」を「線接触」とする等変更することは認められません。
即ち,本願発明は刊行物1に記載の発明に対して顕著な効果を奏するものであり,且つ,刊行物1には本願発明を想到する為の示唆が欠如していることから,本願発明は刊行物1に対して進歩性を有するものと思料致します。」

しかしながら,刊行物記載の発明も,その形状からみて本願明細書の【0005】,【0006】の課題を解決すると認められ,本願発明が刊行物記載の発明からみて進歩性があると認めることはできない。

3 まとめ
したがって,本願発明は,刊行物記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本願の他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-02 
結審通知日 2012-03-13 
審決日 2012-03-27 
出願番号 特願2005-1935(P2005-1935)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 山口 由木
仁科 雅弘
発明の名称 排水機器  

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