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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C30B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C30B
管理番号 1257321
審判番号 不服2009-13563  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-29 
確定日 2012-05-24 
事件の表示 特願2003-183676「単結晶の製造方法及び単結晶」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月20日出願公開、特開2005- 15288〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年6月27日の出願であって、平成19年9月14日付けで拒絶理由が起案され、同年11月26日付けで意見書と手続補正書が提出され、平成21年2月27日に拒絶理由が起案され、同年4月23日付けで意見書と手続補正書が提出され、同年5月26日付けで拒絶査定の起案がなされ、同年7月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審から平成23年11月8日付けで拒絶理由が起案され、同年12月26日付けで意見書と補正書が提出されたものである。

第2.平成23年12月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
1.補正却下の決定の結論
平成23年12月26日付けの手続補正を却下する。

2.理由
(1)平成23年12月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という場合がある。)は、補正前の平成21年4月23日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1である、
「 【請求項1】 チョクラルスキー法によって単結晶を原料融液から引上げて製造する方法において、前記単結晶を育成する際に、前記単結晶の直胴部を成長させるときの引上げ速度をV(mm/min)、固液界面近傍の引上げ軸方向の結晶温度勾配をG(℃/mm)で表したとき、該結晶温度勾配Gの単結晶の成長が進むにつれて生じる変化を、単結晶引上げ中に前記原料融液を加熱するヒーターの位置を変更することにより制御して、引上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比V/G(mm^(2)/℃・min)を所望の欠陥領域を有する単結晶が育成できるように制御することを特徴とする単結晶の製造方法。」を
「 【請求項1】 チョクラルスキー法によって単結晶を原料融液から引上げて製造する方法において、前記単結晶を育成する際に、前記単結晶の直胴部を成長させるときの引上げ速度をV(mm/min)、固液界面近傍の引上げ軸方向の結晶温度勾配をG(℃/mm)で表したとき、該結晶温度勾配Gの単結晶の成長が進むにつれて生じる変化を、前記原料融液を加熱するヒーターの位置を結晶温度勾配Gが小さくなるような領域では前記ヒーターの発熱中心位置と前記原料融液面との相対距離が増大するように、結晶温度勾配Gが大きくなるような領域では前記相対距離が減少するように単結晶引上げ中に変更することにより制御して、引上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比V/G(mm^(2)/℃・min)を所望の欠陥領域を有する単結晶が育成できるように制御することを特徴とする単結晶の製造方法。」
と補正することを含むものである。
この特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に該当する。
そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正後発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかについて次に検討する。

(2)引用文献
(2-1)引用文献1
本願出願前に頒布された特開2000-159594号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項8】チュクラルスキー法シリコン単結晶製造装置に備え付けられている熱遮蔽体とシリコン融液との間の距離を調整することにより、同法によるシリコン単結晶バルクの引き上げ速度を変化させることと同等の効果を得る方法。」(特許請求の範囲の請求項8)
(イ)「ここで、「V(mm/min)」はチュクラルスキー法における引き上げ速度、「G(℃/mm)」はシリコン融点(約1412℃)から1350℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値・・・・・・である。・・・・・・シリコン融点が何℃であろうと、「シリコン融点から1350℃までの温度範囲」であれば、本発明の範囲に含まれる。」(【0011】)
(ウ)「【発明を実施するための形態】・・・・・・。
・・・・・・
本発明に係るシリコン単結晶バルク製造装置において特徴的なことは、熱遮蔽体25を動かし、当該熱遮蔽体25の先端部分とシリコン融液12の液面からの距離hを調整することによって、本発明遂行のポイントとなるV/G値(mm^(2)/℃・min)やGouter/Gcenterを調整することである。実際に、距離hを調整することによってヒータ14やシリコン融液12の液面からシリコンバルク27への熱の遮蔽量が変化するのと同時に、シリコンバルク27表面を流れる不活性ガスの量や速度が微妙に変化するので、これによって本発明ではシリコンバルク27表面における結晶引上げ軸方向の結晶内温度勾配、ひいてはその中心部分における結晶引上げ軸方向の結晶内温度勾配との比を調整することができるものと考えられている。
・・・・・・
また、本発明においては、距離hの調整は、例えば総合電熱解析のようなシュミレーション解析による計算結果に基づいて行うようにしてもよく、実測値に基づいたフィードバック制御などによって行うようにしてもよい。
・・・・・・
本発明に係る方法もしくは装置により製造されたシリコン単結晶バルクは、先行する宝来らの発明によって得られるシリコン単結晶バルクよりも、成長欠陥を含まない領域が得られる確実性が高く、しかもその量的な割合も多い。・・・・・・」(【0021】?【0034】)
(エ)「【実施例3】この実施例は・・・・・・成長中における結晶内温度勾配の変化のために徐々に最適な成長条件からずれていってしまったときに、シリコン融液と熱遮蔽体との間の距離の変化を与えることにより、無欠陥結晶を得ることができるということを示すためのものである(表3)。
・・・・・・
表3に示すように、引き上げ速度一定の条件下で、シリコン融液と熱遮蔽体との間の距離を、結晶の長さの変化に追従させて変化させることにより、無欠陥結晶を得ることができた。ここで、この実施例3によって、シリコン融液と熱遮蔽体との間の距離を変化させれば、引き上げ速度を変化させた場合(・・・・・・)と同じ効果が得られることがわかる。そしてこのことから、無欠陥結晶を得るという観点からすれば、シリコン単結晶バルク製造装置においてシリコン融液と熱遮蔽体との間の距離を変化させることは、引き上げ速度を変化させることと等価の効果が得られるということが明らかになった。」(【0044】?【0046】)

(2-2)引用文献2
本願出願前に頒布された特開2001-261495号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
(カ)「また、Gは引き上げ最中に刻々と変化する動的なものであるが、引き上げ中にGを変化させる要因としては、結晶の長さの変化による熱バランスの変化、ルツボとヒータの相対位置の変化による熱バランスの変化、融液の量の変化などを挙げることができる。・・・・・・」(【0031】)
(キ)「・・・・・・結晶側面の軸方向温度勾配(G)の調整は、熱遮蔽体とシリコン融液の間の距離の調整、引き上げられている結晶を囲繞するクーラーやヒーターの設置、ボトムヒータ出力の調整、或いはこれらの組み合せによって行うことができる。」(【0107】)

(3)引用文献1に記載された発明
ア 引用文献1の上記(ア)には、「チュクラルスキー法シリコン単結晶製造装置に備え付けられている熱遮蔽体とシリコン融液との間の距離を調整することにより、同法によるシリコン単結晶バルクの引き上げ速度を変化させることと同等の効果を得る方法」が記載されている。
イ 上記アの方法における「チュクラルスキー法シリコン単結晶製造装置に備え付けられている熱遮蔽体とシリコン融液との間の距離を調整することにより」とは、引用文献1の上記(ウ)の「熱遮蔽体25を動かし、当該熱遮蔽体25の先端部分とシリコン融液12の液面からの距離hを調整することによって、本発明遂行のポイントとなるV/G値(mm^(2)/℃・min)・・・・・・を調整することである。実際に、距離hを調整することによって・・・・・・本発明ではシリコンバルク27表面における結晶引上げ軸方向の結晶内温度勾配・・・・・・を調整することができるものと考えられている」との記載をみると、「V/G値(mm^(2)/℃・min)」、実際には「シリコンバルク27表面における結晶引上げ軸方向の結晶内温度勾配」を調整することといえる。
また、引用文献1の上記(イ)によれば、「「G(℃/mm)」はシリコン融点(・・・・・・)から1350℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値であ」るから、「シリコンバルク27表面における結晶引上げ軸方向の結晶内温度勾配」を調整するとは、「G(℃/mm)を調整すること」に他ならない。
なお、同(イ)の記載によれば、「V(mm/min)」はチュクラルスキー法における引き上げ速度である。
よって、上記「チュクラルスキー法シリコン単結晶製造装置に備え付けられている熱遮蔽体とシリコン融液との間の距離を調整すること」は、「V/G値(mm^(2)/℃・min)におけるG(℃/mm)を調整すること」であると認める。
ウ 引用文献1の上記(エ)に「成長中における結晶内温度勾配の変化のために徐々に最適な成長条件からずれていってしまったときに、シリコン融液と熱遮蔽体との間の距離の変化を与えることにより、無欠陥結晶を得ることができる・・・・・・無欠陥結晶を得るという観点からすれば、シリコン単結晶バルク製造装置においてシリコン融液と熱遮蔽体との間の距離を変化させることは、引き上げ速度を変化させることと等価の効果が得られるということが明らかになった。」と記載されていることからみて、上記アの方法における「同法によるシリコン単結晶バルクの引き上げ速度を変化させることと同等の効果」とは、「結晶成長中における結晶内温度勾配、すなわち、G(℃/mm)の変化のために徐々に最適な成長条件からずれていってしまったときに、無欠陥結晶を得る」ことといえる。
エ 上記ア?ウの検討を踏まえ、引用文献1の(ア)?(エ)の記載を補正後発明の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には、
「チュクラルスキー法シリコン単結晶製造装置に備え付けられている熱遮蔽体とシリコン融液との間の距離を調整することによって、V(mm/min)はチュクラルスキー法における引き上げ速度、G(℃/mm)はシリコン融点から1350℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値と表したとき、V/G値(mm^(2)/℃・min)におけるG(℃/mm)を調整し、結晶成長中におけるG(℃/mm)の変化のために徐々に最適な成長条件からずれていってしまったときに、無欠陥結晶を得る方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(4)補正後発明と引用発明との対比・判断
ア 「シリコン融液」は、「原料融液」とみることができるから、引用発明の「チュクラルスキー法シリコン単結晶製造装置」は、「チョクラルスキー法によって単結晶を原料融液から引上げて製造する方法」に用いるものである。
イ 引用発明の「シリコン融点から1350℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値」である「G(℃/mm)」は、本願明細書の【0025】?【0026】の「【発明の実施形態】・・・・・・固液界面近傍のシリコンの融点から1400℃の間の引上げ軸方向の結晶温度勾配G」なる記載を考慮すると、補正後発明の「固液界面近傍の引上げ軸方向の結晶温度勾配G(℃/mm)」といえるから、引用発明の「V/G値(mm^(2)/℃・min)」は、補正後発明の「引上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比V/G(mm^(2)/℃・min)」に相当する。
ウ 引用発明において、「G(℃/mm)を調整」することは、「V/G値(mm^(2)/℃・min)」を調整することであり、「V/G値(mm^(2)/℃・min)」の値によって所望の結晶欠陥を有する単結晶が得られることは技術常識であって、引用発明の「無欠陥結晶を得る」は、補正後発明の「所望の欠陥領域を有する単結晶が育成できるように制御する」に含まれるから、上記アの検討を併せみると、引用発明の「無欠陥結晶を得る方法」は補正後発明の「単結晶の製造方法」に他ならない。
そして、引用発明の「結晶成長中におけるG(℃/mm)の変化のために徐々に最適な成長条件からずれていってしまったとき」とは、本願発明の「結晶温度勾配Gの単結晶の成長が進むにつれて生じる変化」であることは明らかである。
エ そうすると、両者は、
「チョクラルスキー法によって単結晶を原料融液から引上げて製造する方法において、前記単結晶を育成する際に、前記単結晶の直胴部を成長させるときの引上げ速度をV(mm/min)、固液界面近傍の引上げ軸方向の結晶温度勾配をG(℃/mm)で表したとき、該結晶温度勾配Gの単結晶の成長が進むにつれて生じる変化を制御して、引上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比V/G(mm^(2)/℃・min)を所望の欠陥領域を有する単結晶が育成できるように制御する単結晶の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点1:結晶温度勾配Gの単結晶の成長が進むにつれて生じる変化を、補正後発明では、「原料融液を加熱するヒーターの位置を結晶温度勾配Gが小さくなるような領域では前記ヒーターの発熱中心位置と前記原料融液面との相対距離が増大するように、結晶温度勾配Gが大きくなるような領域では前記相対距離が減少するように単結晶引上げ中に変更することにより制御して」いるのに対し、引用発明では「チュクラルスキー法シリコン単結晶製造装置に備え付けられている熱遮蔽体とシリコン融液との間の距離を調整することによって」制御している点。
オ そこで、この相違点1について検討する。
カ 引用文献2の(カ)には、結晶引き上げ中にGは変化すること、このGの変化は「ルツボとヒータの相対位置の変化による熱バランスの変化」によるものであることが記載されている。結晶引上げ中には融液界面を高さ一定に維持しているとして、この記載をみると、この記載は、融液界面を一定の高さに維持すべくルツボを上昇させることにより、ヒータと融液界面の高さ位置関係は変わらないが、ルツボとヒータとの位置関係が変わって熱バランスが変化し、Gが変化するということを記載したものと解される。
そうすると、ヒータと融液界面との位置関係は変わらなくても熱バランスが変化してGが変化するということであるから、ヒータと融液界面との位置関係が変化すれば、熱バランスが変化してGが変化するとの教示をこの(カ)から得られることは明らかである。
また、上記の熱バランスが変化してGが変化することは、同(キ)の「Gの調整は、引き上げられている結晶を囲繞するクーラーやヒーターの設置、ボトムヒータの出力を調整することによって可能である」旨の記載からも予想できることでもある。
キ ところで、Gは結晶の温度勾配であるから、融液界面から上方の温度低下が少なければ、Gは小さくなることは明らかである。
一方、上記のヒータの発熱中心が融液界面近くにあれば、融液界面に多量の熱が供給され、融液界面から上方の温度低下が少ないから、Gは小さくなり、逆に、ヒータの発熱中心が融液界面から離れると、融液界面から上方の温度低下が大きくなるから、Gは大きくなることは自明である。
ケ よって、単結晶の成長が進むにつれて生じる結晶温度勾配Gの変化を、原料融液を加熱するヒーターの位置を結晶温度勾配Gが小さくなるような領域では前記ヒーターの発熱中心位置と前記原料融液面との相対距離が増大するように、結晶温度勾配Gが大きくなるような領域では前記相対距離が減少するように単結晶引上げ中に変更すること、すなわち、上記相違点1に係る補正後発明の特定事項をなすことは当業者であれば困難なくなし得ることである。
コ さらに、同(キ)の記載をみると、Gの調整は、「結晶側面の軸方向温度勾配(G)の調整は、熱遮蔽体とシリコン融液の間の距離の調整、引き上げられている結晶を囲繞するクーラーやヒーターの設置、ボトムヒータ出力の調整、或いはこれらの組み合せによって行うことができる」との記載がなされているから、引用発明の「チュクラルスキー法シリコン単結晶製造装置に備え付けられている熱遮蔽体とシリコン融液との間の距離を調整すること」に代えて「引き上げられている結晶を囲繞するヒーターの設置」をすることが引用文献2の(キ)には教示されているといえ、引き上げられている結晶を囲繞するヒーターの設置は、結晶側面への熱量の調整であってヒータの上下動によってももたらされることは明らかであるから、この(キ)の記載に接した当業者は、上記キの検討結果を併せみると、上記相違点1に係る補正後発明の特定事項をなすことは困難なくなし得ることであるともいえる。
サ なお、固液界面近傍の引上げ軸方向の結晶温度勾配であるGにつき、上記イにおいて補正後発明の実施の形態を検討したように、補正後発明は、固液界面近傍のシリコンの融点から1400℃の間のものであるのに対し、引用発明は、シリコン融点から1350℃までの温度範囲である点で相違しているとみたとしても、Gを固液界面近傍のシリコンの融点から1400℃の間の温度範囲とすることは周知技術(要すれば、特開2003-2786号公報、特開2000-44388号公報、特開2000-7498号公報、特開平11-79889号公報を参照。)であって、当業者であれば、この温度範囲とすることは適宜なし得ることである。
シ そして、明細書【0062】に記載された補正後発明の「単結晶を引上げる際に原料融液を加熱するヒーターの位置を変更することによって結晶温度勾配Gを制御することができ、それによって、引上げ速度Vに依らずにV/Gを高精度に制御することができる。したがって、引上げ速度Vを低速化させずに一定の値にして所望の欠陥領域を有する単結晶を育成することができ、従来よりも短時間で効率的な単結晶製造を行うことが可能となるし、また単結晶の直径のバラツキも低減できるので、単結晶の製造における生産性や歩留まりを向上させて大幅なコストダウンを図ることができる。」という効果は、引用文献1の上記(エ)の「引き上げ速度一定の条件下で、シリコン融液と熱遮蔽体との間の距離を、結晶の長さの変化に追従させて変化させることにより、無欠陥結晶を得ることができた。ここで、この実施例3によって、シリコン融液と熱遮蔽体との間の距離を変化させれば、引き上げ速度を変化させた場合(・・・・・・)と同じ効果が得られることがわかる。そしてこのことから、無欠陥結晶を得るという観点からすれば、シリコン単結晶バルク製造装置においてシリコン融液と熱遮蔽体との間の距離を変化させることは、引き上げ速度を変化させることと等価の効果が得られるということが明らかになった。」の記載から当業者であれば予想できる程度の事項である。
よって、補正後発明は引用文献1?2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。

(5)補正却下のむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
平成23年12月26日付けの手続補正は却下されたから、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成21年4月23日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるものである。

「 【請求項1】 チョクラルスキー法によって単結晶を原料融液から引上げて製造する方法において、前記単結晶を育成する際に、前記単結晶の直胴部を成長させるときの引上げ速度をV(mm/min)、固液界面近傍の引上げ軸方向の結晶温度勾配をG(℃/mm)で表したとき、該結晶温度勾配Gの単結晶の成長が進むにつれて生じる変化を、単結晶引上げ中に前記原料融液を加熱するヒーターの位置を変更することにより制御して、引上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比V/G(mm^(2)/℃・min)を所望の欠陥領域を有する単結晶が育成できるように制御することを特徴とする単結晶の製造方法。」

第4.当審からの拒絶理由
当審からの平成23年11月8日付けで起案された拒絶理由は、本願発明は引用文献1?2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものを含むものである。

第5.引用文献1?2の記載
引用文献1?2には、上記第2.(2)において摘示した事項がそれぞれ記載されている。

第6.対比・判断
本願発明は、補正後発明の発明特定事項である「前記原料融液を加熱するヒーターの位置を結晶温度勾配Gが小さくなるような領域では前記ヒーターの発熱中心位置と前記原料融液面との相対距離が増大するように、結晶温度勾配Gが大きくなるような領域では前記相対距離が減少するように単結晶引上げ中に変更することにより制御」することを、「単結晶引上げ中に前記原料融液を加熱するヒーターの位置を変更することにより制御」することと拡張したものであり、本願発明の他の発明特定事項は補正後発明と同じであって、本願発明は補正後発明を概念的に含むものであるから、上記第2.(3)?(4)で述べたことと同じ理由により、本願発明は特許法第29条第2項により特許を受けることができない。

第7.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、本願の出願日前に頒布された引用文献1および2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-23 
結審通知日 2012-03-28 
審決日 2012-04-10 
出願番号 特願2003-183676(P2003-183676)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (C30B)
P 1 8・ 121- WZ (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小柳 健悟  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 吉川 潤
中澤 登
発明の名称 単結晶の製造方法及び単結晶  
代理人 好宮 幹夫  

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