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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01G
管理番号 1257324
審判番号 不服2009-22368  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-17 
確定日 2012-05-24 
事件の表示 特願2003-276522「非水系リチウム型蓄電素子および製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月10日出願公開,特開2005- 39139〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成15年7月18日を出願日とする出願であって,平成21年1月23日付けの拒絶理由通知に対して,同年3月17日に手続補正書及び意見書が提出されたが,同年8月11日付けで拒絶査定がされ,同年11月17日に審判請求がされるとともに同日付けで手続補正書が提出され,その後,当審において平成23年12月20日付けで拒絶理由が通知され,これに対し,平成24年2月14日に意見書が提出されたものである。

2 当審の拒絶理由の要旨
当審において平成23年12月20日付けで通知された拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の要旨は,本願の請求項1に係る発明は,引用例1に記載された発明及び引用例1?5に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり,本願の請求項2に係る発明は,引用例1に記載された発明及び引用例1?6に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 本願発明の内容
平成21年11月17日に提出された手続補正書によれば,本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。

「正極活物質層と正極集電体とを有する正極と,負極活物質層と負極集電体とを有する負極と,正極と負極の間に介在するセパレータと,非水系電解液,及び外装体からなる蓄電素子であって,正極活物質層が活性炭を含有し,負極活物質層が活性炭の表面に炭素質材料を被着させた複合多孔性材料を含有し,セパレータはセルロースを原料とし,該セパレータの膜厚が15μm以上50μm以下,セパレータの密度が0.35g/cc以上0.55g/cc以下,かつ該セパレータの液抵抗が2.5Ωcm^(2)以下であることを特徴とする非水系リチウム型蓄電素子。」

4 本願発明の容易想到性について
4-1 引用例の記載と引用発明
(1)引用例の記載
当審拒絶理由において引用例1として引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2002-305034号公報(以下「引用例」という。)には,次の記載がある(下線は当審で付加。以下同じ。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,耐電圧及びエネルギー密度が大きく,内部抵抗の小さい蓄電デバイスに関する。」

「【0018】以下,本発明について更に詳しく説明する。本発明に係る蓄電デバイスは,活性炭を電極活物質とする正極と,リチウムイオンを吸蔵,脱離し得る炭素材料を電極活物質とする負極と,リチウムイオンを含む電解液とを備えて構成される蓄電デバイスであって,前記正極を構成する正極集電体としてアルミニウム箔又は酸化アルミニウム箔を用い,前記負極を構成する負極集電体として銅箔又は表面が銅めっき膜にて被覆された金属箔を用いるものである。
【0019】この場合,正極集電体のアルミニウム箔,酸化アルミニウムとしては,公知のものが用いられる。また,負極集電体の銅箔としては,通常の純銅が使用され,表面が銅めっき膜にて被覆された金属箔としては,アルミニウム,ニッケルなどの金属箔の表面に電気めっき法,無電解めっき法,或いはスパッタリング,真空蒸着等の気相めっき法により銅めっき膜やニッケルめっき膜を好ましくは0.1?20μm程度,特に0.1?15μm程度形成したものが用いられる。なお,箔の形状は薄い箔状,平面に広がったシート状であれば良い。孔が空いたスタンパブルシート状でも良い。この場合は単位面積あたりの箔重量を軽く出来るので良い。さらに,表面が粗面化されていても良く,またメッシュや網状であっても良い。
【0020】厚さは,1?200μm程度が好ましい。厚くなると電極全体に占める炭素質材料の密度が低くなるので,薄いものの方が好ましく,1?100μm程度がより好適である。さらには,1?30μmが特に好適である。あまりに薄くなると強度に問題が生じる恐れもあり,その点を考慮すれば8?50μmが好ましく,特に8?30μmが最適である。」
「【0025】本発明における負極のリチウムイオンを吸蔵・脱着し得る炭素材料としては,リチウムイオン二次電池の負極で使用可能な材料を使用し得る。具体的には,天然黒鉛,人造黒鉛,MCMB,MCF,カーボンナノチューブ,VGCF等を使用し得る。」
「【0148】本発明に係る蓄電デバイスは,上記のようにして得られる一対の分極性電極間にセパレータを介在させ,電解質を充填してなるものである。電解質は一般に液体の電解質を用いる場合が多いが,液もれ防止の為に液体電解質にポリマー,あるいは反応性の化合物を添加したポリマーゲル電解質を用いる事も出来る。
【0149】ここで,電解質溶液は,非水電解質溶液であることが好ましく,そのイオン導電性塩としては,通常,リチウムイオン二次電池に用いられるイオン導電性塩を用いることができるが,Li^(+)のカチオンと,BF_(4)^(-),N(CF_(3)SO_(2))_(2)^(-),CF_(3)SO_(3)^(-),ClO_(4)^(-),PF_(6)^(-)等のアニオンとを組み合わせた塩を用いることが好ましい。具体的には,LiClO_(4),LiBF_(4),LiPF_(6),LiN(CF_(3)SO_(2))_(2),LiCF_(3)SO_(3)等が挙げられ,これらを1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。」
「【0152】セパレータとしては,通常電気二重層キャパシタ用のセパレータ基材として用いられているものを使用することができる。例えばポリエチレン不織布,ポリプロピレン不織布,ポリエステル不織布,PTFE多孔体フィルム,クラフト紙,レーヨン繊維・サイザル麻繊維混抄シート,マニラ麻シート,ガラス繊維シート,セルロース系電解紙,レーヨン繊維からなる抄紙,セルロースとガラス繊維の混抄紙,又はこれらを組み合せて複数層に構成したものなどを使用することができる。」

(2)記載事項の整理
上記引用例の記載事項を整理する。

・【0018】から,引用例には,「活性炭を電極活物質とする正極と,リチウムイオンを吸蔵,脱離し得る炭素材料を電極活物質とする負極と,リチウムイオンを含む電解液とを備えて構成される蓄電デバイス」が記載され,当該蓄電デバイスが「正極を構成する正極集電体」及び「負極を構成する負極集電体」を備えることが記載されている。

・【0148】から,引用例に記載された蓄電デバイスが,「一対の分極性電極間にセパレータを介在させ」たものであることが記載されているといえる。ここで,当該「一対の分極性電極間」が,蓄電デバイスの「正極及び負極の間」であることは自明である。また,【0152】から,引用例1に記載された蓄電デバイスのセパレータが「セルロース系電解紙」を用いたものであることが記載されているといえる。

・【0149】から,引用例に記載された蓄電デバイスの電解液が「非水電解質溶液」であることが記載されているといえる。

(3)引用例に記載された発明
そうすると,引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「活性炭を電極活物質とする正極と,リチウムイオンを吸蔵,脱離し得る炭素材料を電極活物質とする負極と,前記正極を構成する正極集電体と,前記負極を構成する負極集電体と,リチウムイオンを含む電解液とを備えて構成される蓄電デバイスであって,
前記蓄電デバイスが,
正極と負極の間にセパレータを介在させたものであり,
前記セパレータはセルロース系電解紙を用いたものであり,
前記電解質溶液は,非水電解質溶液である,
蓄電デバイス。」

(4)周知例の記載
本願出願当時の当業者の技術常識を示す文献として,当審拒絶理由で提示した文献を含め,以下のような周知例1?6がある。
周知例1:特開2001-332456号公報
周知例2:特開2000-277386号公報
周知例3:特開平10-256088号公報
周知例4:特開2003-31440号公報
周知例5:国際公開03/3395号
周知例6:特開2001-229926号公報

(4-1)周知例1の記載
本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例1には,次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,高エネルギー密度化が可能な電気二重層キャパシタに関し,特に充放電のサイクル寿命が長く,大電流充放電可能であり,各種電子機器のバックアップ電源,ハイブリッドカー,電気自動車等に好適な電気二重層キャパシタに関する。」
「【0010】従って,本発明は,下記の電気二重層キャパシタを提供する。
請求項1:正極及び負極の少なくとも一方が活性炭とカーボンブラックとを含む分極性電極から形成されると共に,これら正負極間に介在させたセパレータと,非水系電解液とから構成された電気二重層キャパシタであって,上記カーボンブラックとして酸素遮断空気若しくは真空又は不活性雰囲気下において1800?3000℃で焼成した焼成カーボンブラックを用いることを特徴とする電気二重層キャパシタ。
請求項2:正極として活性炭と酸素遮断空気若しくは真空又は不活性雰囲気下において1800?3000℃で焼成した焼成カーボンブラックとバインダーとを含む分極性電極を用いると共に,負極としてリチウムイオンを可逆的に吸蔵,放出し得る炭素材料にリチウムイオンを吸蔵させた炭素材料を含む非分極性電極を用いる請求項1記載の電気二重層キャパシタ。」
「【0039】本発明のEDLCは,上記のようにして得られる一対の分極性電極間,又は分極性電極と非分極性電極の間にセパレータを介在させて,EDLC容器に収納し,非水系電解液を注入して封口部材で密閉することにより組み立てられる。
・・・(中略)・・・
【0041】上記セパレータとしては,通常EDLC用のセパレータとして用いられているものを使用することができる。例えばポリエチレン不織布,ポリプロピレン不織布,ポリエステル不織布,PTFE多孔体フィルム,クラフト紙,レーヨン繊維・サイザル麻繊維混抄シート,マニラ麻シート,ガラス繊維シート,セルロース系電解紙,レーヨン繊維からなる抄紙,セルロースとガラス繊維の混抄紙,又はこれらを組み合せて複数層に構成したものなどを使用することができる。
【0042】本発明のEDLCの電解液としては,公知の非水系電解液を使用することができる。この非水系電解液の電解質としては,例えばテトラアルキルホスホニウムテトラフルオロボレート,テトラアルキルアンモニウムテトラフルオロボレート,テトラアルキルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート,テトラアルキルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート等;リチウム塩の電解質としては,LiClO_(4),LiCF_(3)SO_(3),LiBF_(4),LiPF_(6),LiAsF_(6),LiCF_(3)CO_(2),LiN(CF_(3)SO_(2))などが挙げられ,これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも,テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート,トリエチルモノメチルアンモニウムテトラフルオロボレート,テトラエチルホスホニウムテトラフルオロボレート,LiClO_(4),LiPF_(6)が好ましい。」

(4-2)周知例2の記載
当審拒絶理由において引用例4として引用された,本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例2には,次の記載がある。
「【0003】電気二重層キャパシタは,大きな電気容量をもつとともに,充放電の繰り返しに対する安定性が高く,車両や電気機器に使用される給電源等の用途に広く使用されつつある。ところで上記した電気二重層キャパシタにはセパレータ300が内蔵されている。セパレータ300は,電気二重層キャパシタ内において正極100と負極200とが互いに直接接触しないように,つまり内部ショートしないように正極100と負極200とを分離している。
【0004】電気二重層キャパシタにおける内部抵抗を下げるためには,電解質のイオンが効率よく透過できる経路となる空孔300aがセパレータ300の内部に形成されている必要があり,従ってセパレータ300を多孔質にする必要がある。このセパレータ300として一般的には紙が使用されている。またポリエチレン等の多孔質樹脂フィルム製のセパレータも使用されることがある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】紙製のセパレータ300は厚みが薄くなると,電気二重層キャパシタの内部抵抗が低下するものの,セパレータ300の強度も低下するため,取り扱いが不便となる。更に,紙製のセパレータ300は厚みが薄くなると,イオンが透過し易くなるものの,電気二重層キャパシタにおいて正極と負極とが直接接触して内部ショートが発生するおそれもある。」
「【0013】セパレータを構成するセラミックス粉末粒子の形状としては,真球度が高いものでも,低いものでも良い。充填効率を高めるためには,セラミックス粉末粒子の真球度が高いものが好ましい。場合によってはセラミックス粉末粒子の形状としては,粉砕片状のものでも良い。セパレータにおけるバインダはセラミックス粉末粒子を結合するためのものであり,電解液に対して耐性をもつ必要があり,メチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,エチルセルロース,カルボキシエチルセルロースなどの少なくとも1種を採用することができる。
【0014】セパレータの厚みとしてはセラミックス粉末の材質,形状,平均粒径,電気二重層キャパシタの種類,要請される内部抵抗の低減性などの要因に応じて適宜選択することができる。一般的に,セパレータの厚みが過剰に薄いと,電解質のイオンがセパレータの内部を通り易くなり,電気二重層キャパシタにおける内部抵抗の低減を期待できるが,その反面,電気二重層キャパシタを構成する正極と負極とが直接接触して内部ショートが発生しやすくなる傾向がある。またセパレータの厚みが過剰に厚いと,内部ショートのおそれを低減できるものの,内部抵抗が増加する傾向がある。
【0015】上記した事情を考慮してセパレータの厚みの下限値としては例えば5μm,10μm,15μm,20μm等を選択することができ,上限値としては例えば30μm,40μm等を選択することができる。但しこれに限定されるものではない。本発明に係る電気二重層キャパシタにおいて,正極は,一般的には,細孔を備えた活物質と,導電性を確保するための導電化材と,これらを結合するバインダとを主要成分としている。負極も同様に,細孔を備えた活物質と,導電性を確保するための導電化材と,これらを結合するバインダとを主要成分としている。
【0021】電気二重層キャパシタで用いる電解質としては,例えば,LiBF_(4),LiPF_(6),LiClO_(4),(C_(2)H_(5))_(4)NBF_(4),(CH_(3))_(4)NBF_(4),CH_(3)(C_(2)H_(5))_(3)NBF_(4)等があげられる。これらの陽イオンの直径および陰イオンの直径は極微小であり,セパレータを構成するセラミックス粉末粒子間の空孔よりもかなり小さいため,これらのイオンは,セパレータを構成するセラミックス粉末粒子間の空孔を通ることができる。」

(4-3)周知例3の記載
当審拒絶理由において引用例2として引用された,本願出願前に日本国内で頒布された刊行物である上記周知例3には,次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電気二重層コンデンサに関し,特には一対の分極性電極を隔離するセパレータとして,微細な貫通孔を有して多孔質であるとともに,緻密性を有して気密度が高い,セルロースを原料とする新規なセパレータを用いることによって,ショート不良の低減,内部抵抗の低減等の諸特性を高いレベルで改善すると共に,電気二重層コンデンサを小型化するものである。」
「【0004】電気二重層コンデンサに求められているものの中に,ショート不良率が低いこと及びイオンの伝導を妨げることがないように電解液を含浸させたときの内部抵抗が低いことがあり,この2つはセパレータによって大きく左右される。
【0005】一対の分極性電極となる活性炭がセパレータを貫通してショートする箇所はセパレータの弱い箇所であり,例えばピンホールがあればそこからショートする。そこで,ショート不良率を低減するにはできるだけ均一でピンホールなどの貫通孔が無い緻密性の高いセパレータ,換言すれば気密度の高いセパレータとすることが要求される。
【0006】一方,内部抵抗を下げるためにはショート不良率の改善とは逆に,イオンが通る経路としての貫通孔を確保するために多孔質のセパレータ,換言すれば気密度の低いセパレータとすることが要求される。これは電気二重層コンデンサの伝導方式はイオン伝導であって,電荷を持ったイオンが移動することで電荷が移動するためである。このようにショート不良率を低減するには緻密性を高めて気密度を高くすることが,一方内部抵抗を低下させるためには多孔質なものとして気密度を低くするという相反する特性がセパレータには求められているのである。」
「【0020】また,もう一つの気密度を高くする方法としてセパレータを厚くする方法がある。理論的には空気の通過する距離が長くなればなるほど気密度は高くなり,セパレータを厚くすれば高気密度のセパレータを製造することが可能である。しかし,セルロースを原料とするセパレータとしては捲回型の電気二重層コンデンサにおいて60?100μmが主に使われており,できるだけ薄い方が良い。特に現在ではより高容量化,小型軽量化が望まれており,従来より更に薄くすることが期待されている。よって,セパレータとして要求される100μm以下の厚さの範囲では,厚さを調整することによって,或は叩解の程度と厚さの調整を併用することによって気密度を1000秒/100cc以上でコントロールすることはできなかった。
【0021】一方,内部抵抗を低減するためにセルロースを原料として貫通孔を有する多孔質のセパレータを得るためには,ショート不良率の改善とは逆にセパレータを薄く,その密度を低くする必要がある。しかしながら,セパレータを薄くしたり密度を低くすると必然的に気密度は低下してしまう。また,気密度を高めるためにセパレータを厚くすると一次式的に内部抵抗が高くなり,密度を高めると二次式的に内部抵抗が高くなるのである。」
「【0058】このようにして得られるセパレータの厚さは20?100μmの範囲が好ましい。20μm未満では機械的強度が低下して取扱が難しく,内部短絡の危険があり,100μmを超えると小型化ができず,厚くなる分電気抵抗も上昇するためである。また,コイン型の電気二重層コンデンサではセパレータにある程度の厚さがないとプレス成型時にショートする確率が高くなるため,コイン型の電気二重層コンデンサでは100μm迄の厚さが要求されている。一方,密度については特に制限はないが,実用的には密度0.3?0.6g/cm^(3)が好ましい。0.3g/cm^(3)未満では引張強度が極端に低下し,電気二重層コンデンサ用のセパレータとして実用性に欠ける。また,本発明によるセパレータは空隙構造が保持されるため実質的に密度0.6g/cm^(3)を超えることがない。なお,実用上セパレータの厚さが制限される場合にはキャレンダー加工を行うことによって厚さを薄くし,密度を0.6?0.8g/cm^(3)にすることも好ましい。」

(4-4)周知例4の記載
当審拒絶理由において引用例3として引用された,本願出願前に日本国内で頒布された刊行物である上記周知例4には,次の記載がある。
「【0006】電気二重層コンデンサのセパレータには,電極として用いられる活性炭が極から脱落してもセパレータを通過しない緻密性と,使用される電解液の含浸性が良好であること,電解液を含浸させた状態での抵抗値,即ちイオン透過性が良好であることが求められる。特に緻密性が低いセパレータを用いた電気二重層コンデンサはショート不良率や漏れ電流が増加する難点があり,充放電を繰り返している間に容量の低下を招く可能性が高くなる。更にイオン透過性の低いセパレータを用いた電気二重層コンデンサは内部抵抗が高くなり,充放電効率が低下したり大電流の充放電には不向きなコンデンサになってしまう問題がある。
【0007】ショート不良率を低減するには,均一でピンホールなどの貫通孔がない緻密性の高いセパレータとすることが要求され,内部抵抗を下げるためにはショート不良率の改善とは逆に,イオンが通る経路としての貫通孔を確保するために多孔質のセパレータ,換言すれば緻密性の低いセパレータとすることが要求される。これは電気二重層コンデンサの伝導方式はイオン伝導であって,電荷を持ったイオンが移動することで電荷が移動するためである。このようにショート不良率を低減させるとともに内部抵抗を低下させるという相反する特性が求められている。」
「【0015】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するために,一対の分極性電極をセパレータによって隔離してなる電気二重層コンデンサにおいて,前記セパレータは,ポリフェニレンサルファイドを主体とする不織布により構成したことが特徴となっている。
【0016】前記セパレータは,ポリフェニレンサルファイド繊維の含有率が40重量%以上の原料を用いて,湿式抄紙法により抄造するか,ポリフェニレンサルファイド繊維の含有率が40重量%以上となるように乾式法によりシート化するか,ポリフェニレンサルファイド繊維100重量%を加熱溶融した原料を用いて,メルトブロー法もしくはスパンボンド法によりシート化して作製する。
【0017】ポリフェニレンサルファイド繊維に配合して湿式抄紙法でシート化する繊維として,マニラ麻パルプ,hempパルプ,エスパルトパルプ,木材クラフトパルプ等の天然セルロース繊維の中から選択した少なくとも1種の繊維を用いる。また,ポリフェニレンサルファイド繊維に配合して湿式抄紙法又は乾式法でシート化する繊維として,レーヨン繊維,ポリエステル繊維,叩解可能な再生セルロース繊維であるポリノジックレーヨン,溶剤紡糸再生セルロース繊維であるリヨセル,ビニロン,アクリル,又はポリプロピレン-ポリエチレンテレフタレート複合分割繊維の中から選択した少なくとも1種の繊維を用いる。そして,セパレータの厚さは,20?300μmの範囲にあり,密度は,0.250?0.600g/cm^(3)の範囲に設定する。
【0018】上記本発明によれば,得られたセパレータの特性及び該セパレータを用いた電気二重層コンデンサの特性の何れも良好であり,コンデンサ素子作製後の強熱乾燥及びハンダリフローを想定した加熱によってもセパレータ形状を維持する高い耐熱性を有し,セパレータに要求される低抵抗と低漏れ電流及び低ショート不良率を実現することができる。」
「【0022】得られるセパレータの厚さは20?300μm,密度は0.250?0.600g/cm^(3)の範囲であることが最良である。セパレータの厚さが20μm未満では機械的強度が低下して取扱が難しく,内部短絡の危険があり,300μmを超えると小型化ができず,電気抵抗も上昇する。コイン型の電気二重層コンデンサでは,セパレータにある程度の厚さがないとプレス成型時にショートする確率が高くなるため,ある程度の厚さが要求されている。密度については特に制限はないが,0.250g/cm^(3)未満では引張強度が極端に低下し,電気二重層コンデンサ用のセパレータとして実用性に欠ける。本発明によるセパレータは緻密ではあってもイオンが通る経路としての貫通孔が維持されているため,実質的に密度0.6g/cm^(3)を超えることがない。」

(4-5)周知例5の記載
本願出願前に日本国内及び外国で頒布された刊行物である上記周知例5には,次の記載がある。
「正極,負極並びに電解液としてリチウム塩の非プロトン性有機溶媒溶液を備えた有機電解質キャパシタであって,正極活物質がリチウムイオンおよびアニオンを可逆的に担持可能な活物質であり,また負極活物質がリチウムイオンを可逆的に担持可能な活物質であり,負極活物質の単位重量当たりの静電容量が正極活物質の単位重量当たりの静電容量の3倍以上を有し,かつ正極活物質重量が負極活物質重量よりも大きく,負極には予めリチウムイオンが担持されていることを特徴とする有機電解質キャパシタ。」(44頁請求の範囲1)
「また,セパレータとしては一般に25μm,気孔率30%程度のポリプロピレンもしくはポリエチレン製の微多孔膜が用いられる。これはリチウムイオン系の電池においては,充電時に負極表面にデンドライトと呼ばれる針状の結晶が成長し,セパレータを貫通してショートを引き起こす可能性があるため気孔率を大きくできないからである。
本発明の有機電解質キャパシタにおいて高容量を求めるだけであれば,リチウムイオン二次電池に用いられている上述の微多孔膜でも達成される。しかしながら,高い出力特性を持たせる為には,セパレータの厚みが正極と負極の厚みの和に対して4%以上15%以下であり且つ,気孔率が50%以上80%以下であることが以下の2つの理由から望ましい。第一の理由は,内部抵抗を小さくするために正極と負極の距離を短くし,対向面積を大きくする必要があるということである。本発明の有機電解質キャパシタは負極にグラファイトを用いたリチウムイオン二次電池と同様に充電時に負極にリチウムを担持させているものの,二次電池と比較すると容量は小さいく充電時間も短いためデンドライトが発生し難いので,気孔率の大きなセパレータを使用することが可能となるのである。気孔率は高ければ高いほど出力を向上させるためには望ましいが,セル組立における短絡を考慮すると,50?80%が好適である。」(11頁1行?17行)
「ここで,セパレータの気孔率を,{1-(セパレータ重量/セパレータ素材密度)/(セパレータ見かけ体積)}の比を百分率に換算して得られるものと定義する。例えば,サイズが10mm×10mm×50μmで重量が0.27gのセルロース系セパレータの場合,セルロースの密度は1.2g/cc,セパレータ見かけ体積は0.5ccであるので,上式に代入すると,{1-(0.27/1.2)/0.5}=0.55となり,気孔率は55%となる。」(11頁17行?23行)
「第二の理由は,セパレータに多くの電解液を保持しなければならないことである。リチウムイオン二次電池は充電時には見かけ上正極から負極へリチウムイオンが移動し,放電時には逆に負極から正極へ移動する。すなわち電解液中のイオン濃度は変化しないため,セパレータ中に保持する電解液は少量でも出力特性に影響は少ないのであるが,本発明の有機電解質キャパシタは充電時には正極にはアニオンが,負極にはリチウムイオンがそれぞれ吸蔵されるため電解液中のイオン濃度は減少し内部抵抗が上昇することもある。そのため高い出力特性を得るためにはできるだけ多くの電解液を必要とするのである。
多くの電解液を保持するためにセパレータを厚くすれば電極間距離が広がり内部抵抗が上昇する上に,単体積あたりの活物質の充填量が減少し容量が低下してしまうが,薄くして気孔率を高くすることにより容量を低下させることなく多くの電解液を保持することができるのである。」(11頁24行?12頁7行)

(4-6)周知例6の記載
本願の出願前に国内において頒布された刊行物である上記周知例6には,次の記載がある。
「【0021】本発明のリチウム系二次電池用負極材料としては,核となる炭素粒子(核炭素粒子)表面に炭素質材料(非晶質炭素,ポリアセン系物質など)を被覆することにより得られ,比表面積が20?1000m^(2)/g程度の炭素質材料(積層粒子材料)が特に好ましい。
【0022】負極材料として積層粒子材料を使用する場合には,核炭素粒子として,比表面積100m^(2)/g以上の活性炭,木炭,ポリアセン系物質などが使用される。核炭素粒子の比表面積は,600m^(2)/g以上程度であることがより好ましい。また,被覆材料としては,非晶質炭素,ポリアセン系物質などが例示される。」
「【0027】本発明によるリチウム系二次電池用負極材料あるいはこのリチウム系二次電池用負極材料を用いた電極中には,あらかじめリチウムをドープしておくことができる。リチウムをドープしておくことにより,電池の初期効率,容量および出力特性を制御することが可能である。」

4-2 本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明とを対比する。

・引用発明における「正極」は,「活性炭を電極活物質」とし,「正極集電体」を有するものであるから,本願発明の「正極」と引用発明の「正極」は,「正極活物質層と正極集電体とを有する正極」である点,及び,「正極活物質層が活性炭を含有」している点で一致する。

・引用発明における「負極」は 「リチウムイオンを吸蔵,脱離し得る炭素材料を電極活物質」とし,「負極集電体」を有するものであるから,本願発明の「負極」と引用発明の「負極」は,「負極活物質層と負極集電体とを有する負極」である点で一致する。

・引用発明における「蓄電デバイス」は,電解質溶液として「非水電解質溶液」であり「リチウムイオンを含む電解液」を用いたものである。そうすると,本願発明と引用発明は,「非水系電解液」を用いた「非水系リチウム型蓄電素子」である点で一致する。

・引用発明の「セパレータ」は「セルロース系電解紙」を用いたものであるから,本願発明と引用発明は,「セパレータはセルロースを原料とした」点で一致する。

・引用発明における「蓄電デバイス」が「外装体」を有していることは技術的に明らかであるから,本願発明と引用発明は「外装体」を有する点で一致する。

そうすると,本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりとなる。

<一致点>
「正極活物質層と正極集電体とを有する正極と,負極活物質層と負極集電体とを有する負極と,正極と負極の間に介在するセパレータと,非水系電解液,及び外装体からなる蓄電素子であって,正極活物質層が活性炭を含有し,セパレータはセルロースを原料としたことを特徴とする非水系リチウム型蓄電素子。」である点。

<相違点1>
本願発明は,「セパレータの膜厚が15μm以上50μm以下,セパレータの密度が0.35g/cc以上0.55g/cc以下,かつ該セパレータの液抵抗が2.5Ωcm^(2)以下である」のに対し,引用発明は,セパレータの膜厚,密度及び液抵抗が特定されていない点。

<相違点2>
本願発明は,「負極活物質層が活性炭の表面に炭素質材料を被着させた複合多孔性材料を含有」したものであるのに対し,引用発明では,「リチウムイオンを吸蔵,脱離し得る炭素材料」であることは特定されているものの,「活性炭の表面に炭素質材料を被着させた複合多孔性材料を含有」したものであることが特定されていない点。

4-3 相違点についての判断
(1)相違点1について
(1-1)周知例の記載内容
上記4-1(4)(4-1)?(4-5)の摘記によれば,上記周知例1?5には,次の内容が記載されているといえる。

ア 上記周知例1には,正極として活性炭と酸素遮断空気若しくは真空又は不活性雰囲気下において1800?3000℃で焼成した焼成カーボンブラックとバインダーとを含む分極性電極を用いると共に,負極としてリチウムイオンを可逆的に吸蔵,放出し得る炭素材料にリチウムイオンを吸蔵させた炭素材料を含む非分極性電極を用い,これら正負極間に介在させたセパレータと,非水系電解液とから構成された電気二重層キャパシタであり(【0010】),当該電気二重層キャパシタの電解質にリチウム塩を用いること(【0042】)が記載されている。ここで,当該電気二重層キャパシタは,電解質にリチウム塩を用い,正極に活性炭を含む分極性電極を用い,負極にリチウムイオンを可逆的に吸蔵,放出し得る炭素材料にリチウムイオンを吸蔵させたものであるから,いわゆるリチウムイオンキャパシタであると理解できる。また,上記セパレータとして,通常電気二重層キャパシタ用のセパレータとして用いられている,セルロースを原料とするものを用いること(【0041】),が記載されている。

イ 上記周知例2には,電解質として例えばLiBF_(4),LiPF_(6),LiClO_(4),(C_(2)H_(5))_(4)NBF_(4),(CH_(3))_(4)NBF_(4),CH_(3)(C_(2)H_(5))_(3)NBF_(4),すなわちリチウム塩又は四級アンモニウム塩を用い(【0021】),セラミック粉末粒子とセルロース原料を含むバインダで構成したセパレータ(【0013】)を備えた電気二重層キャパシタにおいて,セパレータの厚みが過剰に薄いと,電解質のイオンがセパレータの内部を通り易くなり,電気二重層キャパシタにおける内部抵抗の低減を期待できるが,その反面,電気二重層キャパシタを構成する正極と負極とが直接接触して内部ショートが発生しやすくなる傾向がある。またセパレータの厚みが過剰に厚いと,内部ショートのおそれを低減できるものの,内部抵抗が増加する傾向があること(【0014】)が記載されている。

ウ 上記周知例2には,上記イの電気二重層キャパシタにおいて,セパレータの厚みの下限値としては例えば5μm,10μm,15μm,20μm等を選択することができ,上限値としては例えば30μm,40μm等を選択することができること(【0015】)が記載されている。

エ 上記周知例3には,電気二重層コンデンサには,ショート不良率が低いこと及び内部抵抗が低いことが求められており,この2つはセパレータによって大きく左右されること(【0004】),ショート不良率を低減するには気密度の高いセパレータとすることが要求されること(【0005】),内部抵抗を低減するためにセルロースを原料として貫通孔を有する多孔質のセパレータを得るためには,ショート不良率の改善とは逆にセパレータを薄く,その密度を低くする必要があること(【0021】),セパレータを薄くしたり密度を低くすると必然的に気密度は低下してしまい,気密度を高めるためにセパレータを厚くすると一次式的に内部抵抗が高くなり,密度を高めると二次式的に内部抵抗が高くなること(【0021】),が記載されている。

オ 上記周知例3には,電気二重層コンデンサにセルロースを原料とするセパレータを用いてショート不良の低減,内部抵抗の低減等の諸特性を高いレベルで改善するもの(【0001】)として,セパレータの厚さは20?100μmの範囲が好ましいこと,及び,密度0.3?0.6g/cm^(3)が好ましいこと(【0058】)が記載されている。

カ 上記周知例4には,緻密性が低いセパレータを用いた電気二重層コンデンサはショート不良率や漏れ電流が増加する難点があり,イオン透過性の低いセパレータを用いた電気二重層コンデンサは内部抵抗が高くなり,充放電効率が低下したり大電流の充放電には不向きなコンデンサになってしまう問題があること(【0006】),ショート不良率を低減するには,均一でピンホールなどの貫通孔がない緻密性の高いセパレータとすることが要求され,内部抵抗を下げるためにはショート不良率の改善とは逆に,イオンが通る経路としての貫通孔を確保するために多孔質のセパレータ,換言すれば緻密性の低いセパレータとすることが要求される(【0007】)ことが記載されている。

キ 上記周知例4には,ポリフェニレンサルファイド繊維に天然セルロース繊維や再生セルロース繊維を配合した電気二重層コンデンサのセパレータが記載され(【0015】,【0017】),セパレータの厚さは20?300μm,密度は0.250?0.600g/cm^(3)の範囲であることが最良であり(【0017】,【0022】),セパレータに要求される低抵抗と低漏れ電流及び低ショート不良率を実現することができる(【0018】)ことが記載されている。

ク 上記周知例5には,リチウム塩を電解質として用いるキャパシタにおいて(請求の範囲1),高い出力特性を持たせる為には,セパレータの厚みが正極と負極の厚みの和に対して4%以上15%以下であり且つ,気孔率が50%以上80%以下であることが望ましいこと(11頁7行?10行)が記載されている。

ケ 上記周知例5には,リチウム塩を電解質として用いるキャパシタにおいて(請求の範囲1),内部抵抗を小さくするために正極と負極の距離を短くする必要があること(11頁11行),多くの電解液を保持するためにセパレータを厚くすれば電極間距離が広がり内部抵抗が上昇する上に,単体積あたりの活物質の充填量が減少し容量が低下してしまうので,薄くして気孔率を高くすることにより容量を低下させることなく多くの電解液を保持することができること(12頁4行?7行),気孔率は高ければ高いほど出力を向上させるためには望ましいが,セル組立における短絡を考慮すると,50?80%が好適であること(11頁15行?17行)が記載されている。

コ 上記周知例5には,セパレータの気孔率を{1-(セパレータ重量/セパレータ素材密度)/(セパレータ見かけ体積)}の比を百分率に換算して得られるものと定義すること,セルロースの密度は1.2g/ccであること(11頁17行?23行)が記載されている。そうすると,セルロースのセパレータにおける「気孔率50?80%」(上記ケ)とは,セパレータ密度が0.24?0.6g/ccであることを意味するといえる。

(1-2)周知事項の整理
上記(1-1)によれば,次の事項が本願出願前に周知であったと認められる。

(a)上記(1-1)イ,エ,カから,電気二重層キャパシタ用のセパレータには,ショート不良率が低いこと及び内部抵抗が低いことが求められており,内部抵抗を低くするためには,セパレータの厚みを薄く,密度を低くすることで電解質のイオンがセパレータの内部を通り易くするすることが有効であるが,過剰に薄く低密度にするとショート不良率や漏れ電流が増加するおそれがあり,ショート不良率を低くするためにはセパレータを厚く,密度を高くすることが有効であるが,内部抵抗が高くなる傾向があること。

(b)上記(1-1)ウ,オ,キから,電気二重層キャパシタ用のセルロースを原料とするセパレータのうち,低抵抗と低漏れ電流及び低ショート不良率を実現することができるものとして,厚みが,5?40μm(周知例2),20?100μm(周知例3),20?300μm(周知例4)程度,密度が,0.3?0.6g/cm^(3)(周知例3)0.250?0.600g/cm^(3)(周知例4)程度のものを用いること。すなわち,厚みが5?300μm,密度が0.25?0.6g/cm^(3)の範囲から選択されていること。

(c)上記(1-1)イから,電気二重層キャパシタの電解質としてリチウム塩や四級アンモニウム塩が使用され,いずれを用いる場合も,内部抵抗とショート不良率を勘案して上記(b)の範囲のセルロースセパレータを選択していること。このことは,周知例5の電解質にリチウム塩を用いたキャパシタにおいて,セパレータの厚さと密度を上記(a)と同様に内部抵抗と短絡を勘案して選定し(上記(1-1)ケ),セルロースを原料とした場合にセパレータ密度が0.24?0.6g/cc(上記(1-1)ク,コ)という上記(b)に近い範囲が示されていることからも明らかである。

(1-3)判断
上記(1-2)によれば,リチウム塩や四級アンモニウム塩を電解質とする電気二重層キャパシタ(上記(1-2)(c))におけるセルロース原料のセパレータとして,内部抵抗とショート不良率を勘案した上で(上記(1-2)(a)),上記(1-2)(b)のような範囲のものを使用することは,当業者に周知の事項であると理解できる。
一方,引用例の「セパレータとしては,通常電気二重層キャパシタ用のセパレータ基材として用いられているものを使用することができる。」(【0152】)との記載から,引用発明において「通常電気二重層キャパシタ用のセパレータ基材として用いられているものを使用すること」が,引用例に示唆されていると理解できる。さらに,引用発明はいわゆるリチウムイオンキャパシタであると解されるところ,リチウムイオンキャパシタにおけるセパレータとして「通常電気二重層キャパシタ用のセパレータとして用いられている,セルロースを原料とするものを用いること」は,上記周知例1にも記載された事項であるから(上記(1-1)ア),上記の示唆は当業者に周知の事項であるといえる。
また,蓄電デバイスにおいて内部抵抗の低減は周知の技術課題であり,さらに,引用例に「本発明は,耐電圧及びエネルギー密度が大きく,内部抵抗の小さい蓄電デバイスに関する。」(【0001】)と記載されていることからみて,引用発明におけるセパレータ選択においても当然に考慮される事項であるといえる。ここで,内部抵抗の低減を図る上でショート不良率を勘案する必要があることは当業者の技術常識であり(上記(1-2)(a)),引用発明においてセパレータを選択する際にも両者を勘案することが自然なことであるといえる。
そうすると,引用発明におけるセルロース原料のセパレータの膜厚及び密度を,上記(1-2)(a)のように内部抵抗とショート不良率を勘案しつつ,通常電気二重層キャパシタ用として用いられている上記(1-2)(b)の範囲から選択することは,当業者が普通に行う設計事項であって,相違点1に係る膜厚及び密度も,上記周知の事項を勘案しつつ上記周知の範囲から適宜選択し得たものであるということができる。
また,液抵抗がセパレータの密度に依存することは明らかであるから,上記のように選択されたセパレータであれば液抵抗は当然に2.5Ωcm^(2)以下であるといえ,さらに,内部抵抗低減という周知の課題からみて,より低い値を選択することは普通に行うことであるから,2.5Ωcm^(2)以下という数値のものを選択することも適宜なし得たことである。
また,本願発明の数値範囲すなわち相違点1に係る数値範囲は,マイクロショートと内部抵抗を勘案して選択されたものであり(本願明細書【0018】?【0019】,【0021】),周知の事項である上記(1-2)(a)と同様の観点で選択されたものであるから,相違点1に係る数値範囲を選択することの効果は,当業者の予測の範囲内であって格別のものではない。

(2)相違点2について
引用例には「本発明における負極のリチウムイオンを吸蔵・脱着し得る炭素材料としては,リチウムイオン二次電池の負極で使用可能な材料を使用し得る。」(【0025】)と記載されているところ,「活性炭の表面に炭素質材料を被着させた複合多孔性材料を含有」した負極は,上記周知例6にも記載されているように,リチウムイオン二次電池の負極材料として周知のものであるから,引用発明において当該周知の材料を負極に採用することは,当業者が適宜なし得たことである。

(3)小括
したがって,相違点1及び2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(4)意見書について
平成24年2月14日提出の意見書のにおいて請求人は,次のように主張している。

「審判官殿は,<相違点1>に対する判断の前提として,「・・・いわゆるリチウムイオンキャパシタであるから,引用発明のセパレータが,リチウムイオン及び陰イオンが通過する点で電気二重層キャパシタのセパレータと共通することは,当業者に明らかである。」と説示されています。
しかしながら,この前提,即ち「・・・いわゆるリチウムイオンキャパシタであるから,リチウムイオン及び陰イオンが通過する点で電気二重層キャパシタのセパレータと共通する」(換言すれば,「電気二重層キャパシタのセパレータはリチウムイオン及び陰イオンが通過する」)は誤りであり,結果として,この前提を基礎として「したがって,引用発明1において上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。」とした判断はまた誤りであると言えます。
・・・(中略)・・・
すなわち,引用発明1(LIC)の電解質塩のカチオンはリチウムイオンですが([0149]),電気二重層キャパシタ(EDLC)のカチオンは4級アンモニウムイオンであります。従って,審査官殿の「引用発明のセパレータがリチウムイオン及び陰イオンが通過する点で電気二重層キャパシタのセパレータと共通する」とのご認定は,技術的に誤りであります。」(3 A-1)請求項1に係る発明について)

上記主張について検討すると,電気二重層キャパシタにおいて電解質塩のカチオンがリチウムイオンのものは,上記周知例2の【0021】や,特開昭60-211821号公報(特に第2頁左上欄3?15行を参照。),特開平9-293637号公報(特に【0016】を参照。),特開2000-223121号公報(特に【0068】?【0072】を参照。)にも記載されているとおり周知であるから,上記主張は採用できない。

4-4 容易想到性についてのまとめ
以上検討したとおり,本願発明は,従来周知の技術を勘案することにより,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

5 結言
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-19 
結審通知日 2012-03-27 
審決日 2012-04-09 
出願番号 特願2003-276522(P2003-276522)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 弘亘竹口 泰裕  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 近藤 幸浩
小川 将之
発明の名称 非水系リチウム型蓄電素子および製造方法  
代理人 鳴井 義夫  
代理人 松井 佳章  
代理人 武井 英夫  

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