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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L |
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管理番号 | 1257328 |
審判番号 | 不服2010-2296 |
総通号数 | 151 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-02-03 |
確定日 | 2012-05-24 |
事件の表示 | 特願2004-159251「香り米を用いた米飯酢臭のマスキング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月 8日出願公開、特開2005-333915〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成16年5月28日の出願であって、平成17年1月31日付けで手続補正がなされた後、平成21年10月29日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年2月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2 本願発明について 本願の請求項1?5に係る発明は,平成17年1月31日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,そのうち請求項1は,以下のとおりである。(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 「【請求項1】 米に香り米または香り米抽出液を添加することを特徴とする米飯酢臭がマスキングされた米飯の製造方法。」 第3 刊行物とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物1及び2には、以下の事項がそれぞれ記載されている。なお、下線は当審が付した。 (1)刊行物1:特開2001-258487号公報の記載事項 (1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 酢酸含有炊飯改良剤を炊飯前に添加して炊飯米のpHが5.0?6.2となるように炊飯する際に、グリシンを生米当たり0.0005?0.05重量%添加することを特徴とする、品質の優れた炊飯米の製造方法。 【請求項2】 酢酸100重量部当たりグリシン0.3?500重量部を含有し、かつpH1.6?5.0である酢酸及びグリシン含有炊飯改良剤。 【請求項3】 請求項2記載の酢酸及びグリシン含有炊飯改良剤を炊飯前に添加して炊飯米のpHが5.0?6.2となるように炊飯することを特徴とする、品質の優れた炊飯米の製造方法。」 (1b)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、品質の優れた炊飯米の製造方法及び炊飯改良剤に関し、さらに詳しくは、防腐力(保存性)に優れると共に、炊飯後はもとより、炊飯米の再加熱の際にも酢酸臭のような刺激臭の発生を抑制することのできる、品質の優れた炊飯米の製造方法と、そのような炊飯米を簡便に製造することのできる炊飯改良剤とに関する。 【0002】 【従来の技術】炊飯米は、生米に水を加えて加熱し炊飯して製造される。近年、スーパーマーケットやコンビニエンスストアー等で販売される弁当や惣菜等を購入して持ち帰って食する、いわゆる「中食」と呼ばれる食習慣の普及などに伴って、調味加工等をほとんど施していない、いわゆる白飯そのものや、また、弁当やおにぎり等に加工して利用される炊飯米の生産が増大してきている。 【0003】上述のように弁当やおにぎり等に加工して利用される炊飯米は、製造されてから比較的長時間経過後に食膳に供されることになる。このため、微生物増殖による腐敗の防止や炊飯米の澱粉老化防止などの保存性の付与が必要であり、種々の加工方法や炊飯改良剤が開発されている。 【0004】炊飯米ではないが、蒸し米飯へ防腐性を付与するものとして、特開平5-176694号公報には、グルコノデルタラクトン、有機酸又はその塩類を蒸し器により蒸す時以前に添加し、蒸した後の米飯のpHを4.0?4.8とする方法が提案されている。一般に、中食用の炊飯米は、ほとんど調味加工を施さずに食されることが多く、また、電子レンジ等で再加熱されてから食されることも多い。そのため、炊飯改良剤で主に用いられる有機酸とその塩類としては、電子レンジ等での再加熱の際にも酸臭が発生しにくい、グルコン酸やクエン酸などのいわゆる不揮発酸とその塩類が使われる場合もある。しかしながら、そのような不揮発酸は、防腐力の点で必ずしも充分ではない。 【0005】防腐力の点からいえば、有機酸又はその塩類の中で最も優れているのは酢酸やその塩類であることから、酢酸やその塩類を主体成分として使用した炊飯改良剤も開発されている。しかしながら、酢酸はいわゆる揮発酸の一つであり、炊飯米に独特の刺激臭を付与してしまう傾向がある。特に、この種の炊飯改良剤を添加した炊飯米を電子レンジ等で再加熱等すると、酢酸臭がより強く発生して風味を著しく低下させるという欠点があった。 【0006】特に酢酸含有炊飯改良剤は、生米当たりの酢酸濃度を0.01?0.16重量%程度とし、炊飯米のpHが5.0?6.2になるようにして用いられる。しかしながら、このような状態の炊飯米は、再加熱前でも酢酸臭が感じられ、さらに電子レンジ等により再加熱すると、酢酸が揮発しやすい状態となるので、酢酸臭がより一層強くなるという欠点があった。 【0007】従って、防腐力(保存性)に優れ、しかも炊飯後はもとより、炊飯米の再加熱の際にも酢酸臭のような刺激臭の発生をできるだけ抑制できる方法の開発が強く望まれていた。」 (1c)「【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来の問題点を解消し、防腐力(保存性)に優れると共に、炊飯後はもとより、炊飯米の再加熱の際にも酢酸臭のような刺激臭の発生を抑制することのできる、品質の優れた炊飯米の製造方法と、そのような炊飯米を簡便に製造することのできる炊飯改良剤とを提供することを目的とするものである。 【0009】 【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記課題に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、まず防腐力(保存性)に優れた酢酸含有炊飯改良剤を使用することを前提とした上で、特にpH5.0?6.2で酢酸含有炊飯改良剤を添加して炊飯米を製造する場合において、該酢酸含有炊飯改良剤を炊飯前に添加使用する際に、アミノ酸の一つであるグリシンを極く微量共存させることにより、炊飯米の酢酸臭を抑制することができ、さらに再加熱した際にも酢酸臭(独特の刺激臭)の発生を著しく抑制することができることを見い出し、この知見に基いて本発明を完成するに至った。」 (1d)「【0019】請求項1に係る本発明においては、酢酸含有炊飯改良剤を炊飯前に添加して炊飯米のpHが5.0?6.2となるように炊飯する。請求項1に係る本発明において使用する酢酸含有炊飯改良剤は、酢酸を含有しているものである。ここでいう酢酸には、酢酸そのものの他、酢酸塩も含まれるものとし、請求項1に係る本発明においては、酢酸そのもの又は1種或いは2種以上の酢酸塩を用いても良いし、或いは酢酸を1種又は2種以上の酢酸塩と組み合わせて用いてもよい。この酢酸含有炊飯改良剤のpHは1.6?5.0に調整されている。 【0020】使用される酢酸は、化学合成されたものでもよいが、発酵により製造される、いわゆる食酢を酢酸の供給源として利用するのが望ましい。また、酢酸塩としては、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の酢酸とアルカリ金属との付加塩、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム等の酢酸とアルカリ土類金属との付加塩等を挙げることができる。 【0021】このような酢酸含有炊飯改良剤は、本発明の目的を損なわない限り、必要に応じて、酢酸以外の他の有機酸(グルコン酸やクエン酸など)やその塩類を含有させたものであってもよく、また必要に応じて、澱粉老化防止作用を付加するために各種の塩類や糖、糖アルコール等を所定量含有させたものであってもよい。 【0022】このような酢酸含有米飯改良剤は、炊飯前、すなわち炊飯時の加熱前に添加される。酢酸含有米飯改良剤の添加量は、生米当たりの酢酸量として0.01?0.16重量%程度、好ましくは0.03?0.08重量%程度である。 【0023】なお、炊飯の方法としては、上記酢酸含有炊飯改良剤を炊飯前に添加して炊飯米のpHが5.0?6.2、好ましくは5.20?5.80となるように炊飯すること以外は、通常実施されている方法で良く、何ら制限されない。ここで炊飯米のpHが5.0未満となると、有機酸に起因する酸味が強くなり、一方、炊飯米のpHが6.2を超えると、防腐性の点から酢酸及び/又はその塩を添加する意味がなくなるので、いずれも好ましくない。 【0024】通常、炊飯米のpHがpH5.0?6.2となるように酢酸含有炊飯改良剤を添加すると、炊飯後に酢酸臭が発生し、さらに再加熱すると酢酸臭が強くなるが、驚くべきことに、これに後記するようにグリシンを特定割合で含有させると、炊飯後の酢酸臭が予防され、しかも再加熱後の酢酸臭も抑制されるという、優れた効果を得ることができる。」 (1e)「【0054】実施例2(グリシン及び酢酸含有炊飯改良剤Dを用いての炊飯米の製造) 上記のグリシン及び酢酸含有炊飯改良剤Dを用いて、炊飯米の製造を行った。すなわち、生米(こしひかり)6.5kgを洗米し、約2時間水に浸漬した。次いで、水切りしたのち、5升釜のガス炊飯釜に投入し、水8kgを加えたところへ、グリシン及び酢酸含有炊飯改良剤Dを65mL投入し、攪拌した後、常法により加熱して炊飯した。その後、加熱を止め、30分間の蒸らし工程を経て、炊飯を完了した。このようにして調製した炊飯米は、冷却後、200g入りのパック容器に充填し、白飯とした。この白飯は、20℃で24時間保存したのちに電子レンジで再加熱した後も、ほとんど酢酸臭を感じることなく、美味しく食することが可能であった。」 (1f)「【0055】 【発明の効果】請求項1に係る本発明によれば、防腐力(保存性)に優れると共に、炊飯後はもとより、製造後しばらく経過後の再加熱の際にも酢酸臭のような刺激臭の発生を抑制することができる。また、請求項2に係る本発明によれば、酢酸及びグリシン含有酢酸含有炊飯改良剤が提供されるので、このような炊飯米を簡便な製造に供することが可能である。さらに、請求項3に係る本発明によれば、上記酢酸及びグリシン含有酢酸含有炊飯改良剤を用いた炊飯米の製造方法が提供されるので、防腐力(保存性)に優れると共に、炊飯後はもとより、製造後しばらく経過後の再加熱の際にも酢酸臭のような刺激臭の発生を抑制することができる。従って、本発明は、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等で販売される白飯そのものの製造をはじめ、弁当、おにぎり、惣菜等へ加工して利用される炊飯米の製造に有効に利用することができ、食品産業上有用である。」 (2)刊行物2:特開2001-340060号公報の記載事項 (2a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】米に水を添加して澱粉分解酵素で処理した酵素処理物を、香気回収手段に供して回収香気を得ることを特徴とする炊飯米フレーバーの製造方法。 【請求項2】香気回収手段が、水蒸気蒸留法または気液向流接触抽出法である請求項1記載の炊飯米フレーバーの製造方法。 【請求項3】請求項1または2記載の製造方法により得られる炊飯米フレーバー。」 (2b)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、米飯の炊きたての風味を付与することができる炊飯米フレーバーおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、米に水を添加して澱粉分解酵素で処理した酵素処理物を、香気回収手段に供して回収香気を得ることを特徴とする炊飯米フレーバーの製造方法及び該製造方法により得られる炊飯米フレーバーに関する。 【0002】 【従来の技術】近年、家族構成の少人数化、生活スタイルの都市化、食事嗜好の欧米化等によって、日本人の食生活は大きく変化してきている。すなわち、家庭内で調理することが減少し、家庭外で食事をする機会(外食)と家庭外で調理した食品を購入し家庭内で食事をする機会(内食)が増加している。内食についてみると、当初は副食である総菜が中心であったが、炊飯技術や流通技術の向上等によって、本来主食であるご飯についても家庭外からの購入が増加し、レトルト米飯(パックライス)、いわゆる無菌炊飯米の消費量は年々増加している。 【0003】しかしながら、無菌炊飯米は日持ちを向上させるため、例えば、pH調整剤などの添加物が使用されているため、その添加物に由来する異臭がしたり、保存中に風味が劣化して嗜好性を下げるという問題がある。」 (2c)「【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述の従来提案は、添加する米飯改良剤由来の異臭があり、米飯の炊き立ての風味を付与する点では必ずしも満足できるものではない。 【0006】従って、本発明の目的は、米飯の炊き立ての風味を付与することができる炊飯米フレーバーおよびその製造方法を提供することである。 【0007】 【課題を解決するための手段】本発明者らは上記のごとき課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、米に水を添加して澱粉分解酵素で処理した酵素処理物を、水蒸気蒸留法または気液向流接触抽出法などの香気回収手段に供して得た回収香気(炊飯米フレーバー)が米飯の炊き立ての風味を有し、該炊飯米フレーバーをパックライスなどの米飯食品に配合することにより、嗜好性を飛躍的に向上させることができることを見いだし本発明を完成した。 【0008】従って、本発明は、米に水を添加して澱粉分解酵素で処理した酵素処理物を、水蒸気蒸留法または気液向流接触抽出法などの香気回収手段に供して回収香気を得ることを特徴とする炊飯米フレーバーの製造方法およびその製造方法によって得られる炊飯米フレーバーである。」 (2d)「【0020】実施例2 さわかおり(香り米)の粉砕物50Kgに水450Kgを添加して、約90℃にて30分間加熱し、70℃まで冷却した後、コクラーゼ25gを添加し、約70℃にて30分間酵素処理して酵素処理物500Kgを得た。この酵素処理物は下記の条件にて気液向流接触装置にて処理して、炊飯米フレーバー20Kgを得た(本発明品2)。 気液向流接触装置の運転条件 原料供給速度:500L/Hr 蒸気供給量:40Kg/Hr 蒸発量:20Kg/Hr カラム底部温度:100℃ カラム上部温度:100℃ (パックライス配合例)精白米500gを洗米し一定量の加水を行い、浸漬する。その後、一定量のグルコン酸を添加して炊飯する際に、本発明品1または2の炊飯米フレーバー5gを添加したもの(本発明品添加品)と、添加しないもの(比較品)をそれぞれ炊飯し、容器に充填した後、それぞれ常温で3日および1ヶ月間保管した。それぞれのパックライスを電子レンジで温めた後、よく訓練された専門のパネラー15名により官能評価を行った。15名のパネラーの平均の評価結果を表1に示す。 【0021】 【表1】表1:香気官能評価 【0022】表1の結果から明らかな如く、本発明の炊飯米フレーバー添加品は比較品に比べ、パックライスにある酸臭を好ましい炊飯米の香りによってマスキングしており、明確な差異が認められた。また、1ヶ月保存後においても比較品が酸臭や劣化臭が感じられるのに対して、本発明の炊飯米フレーバー添加品は、自然で良好な炊飯米の香りが維持されており、比較品にある異臭をマスキングしていた。15名のパネラー全員が3日後および1ヶ月後のいずれにおいても本発明品添加品の方が良好と判定した。」 第3 対比・判断 刊行物1の上記記載(特に上記(1a))から、刊行物1には、 「酢酸含有炊飯改良剤を炊飯前に添加して炊飯米のpHが5.0?6.2となるように炊飯する際に、グリシンを生米当たり0.0005?0.05重量%添加する品質の優れた炊飯米の製造方法。」 の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。 そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。 (ア)刊行物1発明の「酢酸含有炊飯改良剤」は、酢酸を含有しているものであり(1d)、「酢酸含有炊飯改良剤を炊飯前に添加して炊飯米のpHが5.0?6.2となるように炊飯する」ことによって、有機酸に起因する酸味が強くなりすぎずに炊飯米の防腐性を付与するものであって、炊飯米に酢酸臭を生じさせるものである(1d)。一方、本願発明の「米飯酢臭」は、本願の明細書の【0012】を参照すると、「米飯酢」として「マスキングの対象となる米飯酢は食酢である醸造酢、合成酢のいずれであってもよく、食品添加物である酢酸、氷酢酸、酢酸塩およびこれらの混合物を含む。」と記載され、また【0007】を参照すると「米飯に添加した食酢の酢酸臭」が記載されている。そうすると、刊行物1発明の「酢酸含有炊飯改良剤」により生じる上記酢酸臭は、本願発明の「米飯酢臭」に相当する。 (イ)刊行物1発明の「グリシン」は、炊飯後の酢酸臭を予防し、再加熱後の酢酸臭も抑制するものである(1c,1d)。一方、本願発明の「香り米または香り米抽出液」の添加により「米飯酢臭がマスキングされる」とは、本願の明細書【0009】を参照すると「米飯を食する場合に感じる米飯酢臭が軽減されるあるいは消失することを意味」すると記載されている。そうすると、刊行物1発明の「グリシン」と本願発明の「香り米または香り米抽出液」とは、米飯酢臭をマスキングするための成分である点で共通し、刊行物1発明の「グリシンを生米当たり0.0005?0.05重量%添加する」ことと、本願発明の「香り米または香り米抽出液を添加すること」とは、米飯酢臭をマスキングするための成分を添加する点で共通する。 (ウ)刊行物1発明の「品質の優れた炊飯米」は、防腐力に優れると共に、炊飯後はもとより、炊飯米の再加熱の際にも酢酸臭のような刺激臭の発生を抑制することのできるものであるから(1c)、本願発明の「米飯酢臭がマスキングされた米飯」に相当する。 したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。 (一致点) 米飯酢臭をマスキングするための成分を添加する、米飯酢臭がマスキングされた米飯の製造方法。 (相違点) 米飯酢臭をマスキングするための成分が、本願発明では「香り米または香り米抽出液」であるのに対し、刊行物1発明では「グリシン」である点。 そこで、上記相違点について検討する。 (相違点について) 刊行物1には、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等で販売される弁当やおにぎり等に加工して利用される炊飯米は製造されてから比較的長時間経過後に食膳に供されることになるため、微生物増殖による腐敗の防止や保存性の付与が必要であり(1b)、このため酢酸などの炊飯改良剤を添加していたこと(1b)、しかしながら酢酸は揮発しやすいため電子レンジ等で再加熱すると酢酸臭が強くなること(1b)、よって、防腐力(保存性)に優れしかも炊飯後や炊飯米の再加熱の際に酢酸臭のような刺激臭の発生をできるだけ抑制できる方法の開発が強く望まれており(1b,1c)、このため、刊行物1に記載された発明は、酢酸含有炊飯改良剤を炊飯前に添加使用する際に、グリシンを極く微量共存させることにより、炊飯米の酢酸臭を抑制したこと(1c,1d)、生米(こしひかり)にグリシン及び酢酸含有炊飯改良剤を投入して常法により炊飯し、蒸らし工程を経て炊飯を完了した炊飯米を、冷却後パック容器に充填して得られた白飯は、再加熱した後もほとんど酢酸臭を感じることなく、美味しく食することが可能であったこと(1e)、が記載されている。 そして、刊行物2には、家庭外から購入するレトルト米飯(パックライス)については、日持ちを向上させるため、pH調整剤などの添加物が使用されているため、その添加物に由来する異臭がしたり、保存中に風味が劣化して嗜好性を下げるという問題があり(2b)、これを解決した実施例として、精白米に添加物を添加して炊飯する際に、さわかおり(香り米)から得た抽出物を添加することにより、パックライスの酸臭を好ましい炊飯米の香りによってマスキングしたことが記載されている(2d)。刊行物2には、パックライスに添加する添加物として特にグルコン酸を添加することが記載されているが(2d)、レトルト米飯類などのパックライスの日持ちを向上させるために添加する添加物としてグルコン酸や酢酸が用いられることは、例えば特開平5-176693号公報(【0002】【0007】【0008】【0017】)、特開平5-95760号公報(【0014】)、特開平2001-224321号公報(【0007】、【0009】)に記載されるように本願出願前の周知技術である。 してみると、刊行物1に記載の技術と刊行物2に記載の技術とは、ともにスーパーマーケット等で販売されるレトルト米飯等のパックライスの保存性の向上のために添加される添加物に由来する、異臭としてのグルコン酸や酢酸等の酸臭をマスキングする技術であり、両者は技術的に共通の分野に属するものであることから、刊行物1発明において、レトルト米飯等のパックライスの保存性の向上のために添加される添加物の酢酸臭を抑制するために「グリシンを生米当たり0.0005?0.05重量%添加する」ことに代えて、刊行物2に記載の香り米から得た抽出物を添加することは当業者が容易に想到し得たことである。 (本願発明の効果について) 刊行物1には、防腐力(保存性)に優れると共に、炊飯後はもとより、製造後しばらく経過後の再加熱の際にも酢酸臭のような刺激臭の発生を抑制することができるとの効果が記載され(1f)、また、刊行物2にも自然で良好な炊飯米の香りが維持されるとの効果が記載されている(2d)ことから、本願発明の、食酢を添加した米飯の酢酸臭を抑え、刺激臭による不快感を軽減し、さらに米の甘みや食感を改善して米飯の品質を総合的に向上させるとの効果は、刊行物1,2に記載された事項から当業者が予測し得た程度のものであり、格別顕著なものとはいえない。 したがって、本願発明は、刊行物1,2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶をすべきものである。 |
審理終結日 | 2012-03-22 |
結審通知日 | 2012-03-27 |
審決日 | 2012-04-09 |
出願番号 | 特願2004-159251(P2004-159251) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A23L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田中 晴絵 |
特許庁審判長 |
秋月 美紀子 |
特許庁審判官 |
菅野 智子 齊藤 真由美 |
発明の名称 | 香り米を用いた米飯酢臭のマスキング方法 |
代理人 | 大崎 勝真 |
代理人 | 川口 義雄 |
代理人 | 渡邉 千尋 |
代理人 | 坪倉 道明 |