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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1257343
審判番号 不服2010-19317  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-26 
確定日 2012-05-24 
事件の表示 特願2004-207030号「医療機器」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月 2日出願公開、特開2006- 25973号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年7月14日の出願であって、平成22年5月26日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年8月26日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同日付けで手続補正がされたものであり、その後、当審により平成23年10月24日付けで拒絶理由が通知され、同年12月26日付けで手続補正がされたものである。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成23年12月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのもの(以下、「本願発明」という。)である。
「【請求項1】
患者の吸気を感知して吸気時に高濃度酸素を供給し、呼気時にはその供給を止める機能を有する医療機器であって、吸気が感知できない異常を自動検知して異常警報を知らせる警報音発生手段を備え、電池駆動で携帯可能な医療機器において、該警報音発生手段が、発生する警報音の音圧レベルが最小音圧レベルP1から最大音圧レベルPnまで経時的に大きくなる手段であって、最小音圧レベルP1および最大音圧レベルPnが、無響音室内で1m離した状態で12.5-20kHzの1/3オクターブバンド測定値のオーバーオール値がA特性で、それぞれ30dBAから50dBAの範囲、40dBAから80dBAの範囲であり、かつP1<Pnである医療機器。」


3.当審の拒絶理由
当審において平成23年10月24日付けで通知した拒絶理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物である特開2003-126256号公報に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


4.刊行物
(1)刊行物1
特開2003-126256号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

1a:「【請求項1】 搬送手段に載置された酸素ボンベよりこの搬送手段を動作させる患者に対して酸素吸引をする際に、酸素供給異常を監視する異常監視部、異常監視結果を報知する異常報知部とを含む異常監視手段を前記搬送手段に搭載したことを特徴とする緊急警報機能付き搬送用酸素吸引器。」(【請求項1】)

1b:「この発明は、定常的に酸素吸引を行う患者が外出する際に搬送する酸素吸引器の酸素供給異常検出時に、異常発報を行う機能を有した緊急警報機能付き搬送用酸素吸引器に関するものである。」(段落【0001】)

1c:「従来、慢性呼吸不全等の心肺疾患を有する患者に対しては、高濃度酸素を常時吸引させる必要があるため、酸素濃縮機等を用いた在宅酸素療法が多く採用されている。この場合、酸素の無吸引状態を長時間続けることは厳禁なため患者の行動範囲は極めて狭くなり、旅行はおろか短時間の外出等もままならず不自由な生活を強いる結果となった。
この不自由さを幾らかでも解消するために、例えば特開平10-192407号公報に記載されているように、レギュレータ付きの小型酸素ボンベを保持する酸素ボンベ搬送具が開発されており、患者はこの酸素ボンベ搬送具を外出時に持ち運びながら酸素吸引を行うことを可能としている。」(段落【0002】?【0003】)

1d:「この発明に係る緊急警報機能付き搬送用酸素吸引器の異常監視部Meは、酸素供給圧力の監視を行い、圧力監視結果に基づき酸素供給系の確認メッセージを異常報知部Alに報知させる。この発明によれば、搬送手段Crrに載置された酸素ボンベ3より患者に対して酸素吸引時に、異常監視部Meが酸素供給圧力低下を認めたならば、異常報知部Alは酸素供給系に確認メッセージを音声にて患者に報知させる。」(段落【0011】)

1e:「本搬送用酸素吸引器は、軽くて丈夫なアルミ軽合金等のパイプフレームで組み立てた酸素ボンベ載置用のカート式の架台Laからなる酸素ボンベ搬送具CR、架台Laに酸素ボンベ3を装着自在に固定すると共に、電池で駆動する電子式流量計(流量計と記載する。)1を固定する背板BP、架台Laの一部であり架台Laを引き回すためのハンドルH、架台Laに取り付けた車輪WHより構成される。・・・図9は、流量計1の内部構造を一部ブロックにて示す説明図であり、流量計1の内部には、ガス導入口25からガス導出口27に至るガス通路29、マイクロフローセンサ31、電源33、スイッチングトランジスタ35、A/D変換器37a?37e、マイクロコンピュータ(以下、マイコンと略記する。)39、ガス供給圧力を測定する圧力センサPS等が設けられている。」(段落【0022】?【0023】)

1f:「電源33は、流量計1に内蔵された電池からなり」(段落【0041】)

1g:「マイクロフローセンサ31のマイクロヒータ51とは別系統で電源33が接続されてマイコン39が起動し、プログラムがスタートする」(段落【0055】)

1h:「本実施の形態2は残量管理に加えてガス供給時の管内圧力低下による流量異常をも監視する。これは、搬送用吸引器の使用中にチューブ9が絡み適正な圧力で酸素が送られなかったり、酸素の供給が停止したことを流量計1に内蔵された圧力センサPSの出力より判定したならば、その旨を音声合成出力器SPcにより音声メッセージで報知する。」(段落【0065】)

1i:「ステップS150で圧力低下が判定されたならば、流量計1に内蔵された音声合成出力器SPcを動作させ「酸素流量異常が発生しています。チューブの状態を確認してください。」という音声メッセージを流し、圧力低下警報を発報する(ステップS180)。
ここで音声メッセージに気が付いたならばチューブ9を正常な状態にした後に、流量計1の図示しないリセットボタンの押下に基づきリセット信号を音声合成出力器SPcに出力して音声メッセージを停止し、ステップS100へ戻る(ステップS109)。」(段落【0069】?【0070】)

1j:「この発明によれば、搬送手段Crrに載置された酸素ボンベ3より患者に対して酸素吸引時に、異常監視部Meが酸素供給圧力低下を認めたならば、異常報知部Alに酸素供給系の確認メッセージを音声にて患者に報知させることで、早期に酸素供給系のトラブルに気が付くため、酸素供給停止に陥るという事態を回避することができるという効果がある。」(段落【103】)

1k:「【図17】図12のマイクロコンピュータのROMに格納された制御プログラムに従いCPUが行う供給酸素圧力低下判定処理および酸素残量判定処理結果に基づく異常発報処理を示すフローチャートである。」(【図面の簡単な説明】)

よって、上記各記載事項及び図示内容を総合すれば、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「患者に対して高濃度酸素を常時吸引させる酸素吸引器であって、酸素供給異常を監視する異常監視部と、音声により異常監視結果を報知する異常報知部とを含む異常監視手段を備え、電池で駆動する持ち運び可能な酸素吸引器。」

(2)刊行物2
本願出願前に頒布された刊行物であって、当審で通知した拒絶理由において周知例として引用された特開平8-185186号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

2a:「【従来の技術】人間に各種情報を報知する報知方法及び報知装置は、種々の装置やシステムで使用されており、例えば、ページャー等を含む無線受信機、電話機、あるいは、火災報知器等に使用されている。従来の報知方法には、一般的には、ページャー等に適用され、個別呼出の際に報知音を段階的に大きくするエスカラート方式が用いられている。
エスカラート方式は、例えば、ページャーにおいては、個別呼出に伴う報知音の音量を、例えば、小レベル、中レベル、大レベルと、3段階に分け、小レベル→中レベル→大レベルと、徐々に大きくして、ページャー等の利用者がこの報知音を認識した段階で、報知音の出力を停止させることにより、報知音による周囲への迷惑を抑えつつ、利用者への報知を行うものである。
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来の報知方法及び報知装置にあっては、報知音による周囲への迷惑を考慮した方法として、その音量レベルを徐々に大きくする、いわゆるエスカラート方式を採用していたため、ある程度音量レベルが大きくならないと、利用者が報知音を認識することができないおそれがあり、特に、3段階に音量レベルを分けた場合には、中レベルか大レベルの音量になって初めて報知音を認識できることがある。特に、ページャー等の利用者が位置する環境において、周囲音が、大きければ大きいほど、報知音の音量レベルが大きくならないと、利用者が、報知音を認識することができない。
したがって、利用者のいる環境によっては、報知音の音量レベルがある程度大きくなるまで、報知音が鳴りつづけることがあり、利用者が報知音を認識するまでに、時間を要し、また、その間この報知音によって周囲の人に迷惑をかけるという問題があった。」(段落【0002】?【0005】)

(3)刊行物3
本願出願前に頒布された刊行物であって、当審で通知した拒絶理由において周知例として引用された特開2000-244633号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

3a:「【発明が解決しようとする課題】近年、電気通信技術の進歩に伴って、携帯電話装置などの無線通信装置が広く普及している。この携帯電話装置は、一般的には、着信したときに、サウンダが鳴動するようになっており、使用者は、サウンダが鳴動することにより、着信したことを認識できるようになっている。ところで、最近では、携帯電話装置の使用マナーが社会的な問題となっており、このような事情から、使用者は、サウンダの音量レベルをあらかじめ小さく設定しておく傾向にある。
しかしながら、サウンダの音量レベルを小さく設定した状態で、例えば携帯電話装置を鞄の中に収納しておいたり、或いは工事現場など騒音が大きい場所に居ると、使用者は、着信したことを認識できないという虞があった。そうなると、使用者(着信者)は、着信したことを認識できなくなり、また、発信者は、何度も再発信しなければならなくなり、従来のものは、このような点で、利便性に劣っていた。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、利便性の向上を図ることができる無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】請求項1記載の無線通信装置によれば、着信検出手段が着信を検出すると、制御手段は、報知手段を起動して報知信号を出力させ、報知手段が起動してから計時手段が所定時間計時すると、報知信号の出力レベルを上昇させる。
このように、このものは、着信して報知手段が起動してから所定時間が経過すると、報知信号の出力レベルが上昇するようになるので、着信者は、例えば携帯電話装置を鞄の中に収納しておいたり、或いは工事現場など騒音が大きい場所に居たとしても、着信したことを認識し易くなる。」(段落【0002】?【0006】)

(4)刊行物4
本願出願前に頒布された刊行物であって、新たに引用する特開2002-263191号公報(以下、「刊行物4」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

4a:「【従来の技術】肺気腫、慢性気管支炎等の呼吸器系疾患の治療法として最も効果的なものの1つに酸素吸入療法があり、近年この療法のために酸素富化空気供給装置或いは酸素ボンベが使用されるようになってきた。病院や在宅で酸素吸入療法を行う場合には、酸素富化空気供給装置或いは大容量の固定式酸素ボンベが使用されるが、患者が通院などで外出する場合には、携帯型の酸素ボンベが主に用いられている。
かかる酸素ボンベは、呼吸器系疾患患者が持ち運びするボンベであるために小型軽量である必要があり、充填できる酸素容量を増やす為に、高圧酸素ガスが充填されている。また、患者が使用し得る時間を更に延長する為に、内部に呼吸センサーと自動開閉弁を内蔵し、患者の吸気時間だけに酸素を供給し、呼気時間は供給を停止する所謂デマンドレギュレーターを使用して酸素を節約する手段が用いられている。」(段落【0002】?【0003】)

4b:「かかるデマンドレギュレーターは、呼吸圧力検知手段および呼吸周期時間検知手段を備え、設定呼吸圧力及び/又は設定呼吸周期時間であり、検知結果が設定圧力閾値及び/又は設定呼吸周期時間閾値を外れた場合、異常信号を発する異常検知手段を備えることを特徴とする。
呼吸圧力検知手段、呼吸周期検知手段は、使用者の呼吸圧力、時間を検知するものであり、デマンドレギュレーター付属の圧力センサーにより、圧力と時間を検知する。かかる結果はデマンドレギュレーターの自動開閉弁の開閉を制御する信号となる。同時に最大吸気時圧力値、或いは最大呼気時圧力値を検知することにより使用者の呼吸能力の低下を検知することが可能となり、検知結果が設定圧力閾値を外れた場合に異常検知手段が異常信号を発することにより、使用者や介護者等に警報することができる。同様に呼吸周期時間を検知することにより呼吸の有無を検知し警報することが可能となる。
患者自身に生体異常の検知だけではなく、たとえばカニューラが途中で折れて十分な酸素流量が流れていない場合には、呼吸圧力検知手段が上限閾値を越えるなどで異常を検知したり、呼吸周期時間検知により異常を検知することが可能となる。」(段落【0015】?【0017】)

(5)刊行物5
本願出願前に頒布された刊行物であって、新たに引用する特開2000-217921号公報(以下、「刊行物5」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

5a:「この特開平9-51951号公報に開示される呼吸同調制御装置によると、酸素ボンベから送られる酸素ガスを使用者の呼吸に合わせて間欠的に鼻カニューラへ供給する。つまり、この呼吸同調制御装置では、検出部にて鼻カニューラを使用している者の吸気、即ち減圧を検出すると、鼻カニューラと検出部とを通常連通させる三方弁を切り替え、酸素ボンベ側からの酸素ガスが鼻カニューラ側へ供給されるように構成されている。」(段落【0004】)

5b:「出願人は、先の出願である特願平10-155320号明細書において、使用者にガスを導くガス導出路内の圧力変化を監視することによって、ガス供給源のガス圧の低下等を監視し、警報を発する警報手段を備えたガス供給制御装置を提案している。しかしながら、本出願人の先の出願であるガス供給制御装置によると、警報手段として警報を発する際に警報音を吹鳴することから、例えば音楽会場、劇場、図書館等の静寂な雰囲気に満ちた状況下でガス供給制御装置を使用しようとすると、その警報音が周囲の観客や利用者等に迷惑をかけることとなる」(段落【0007】)

5c:「図1は本発明の一実施態様に係るガス供給制御装置の構成を示している。ガス供給制御装置20は、酸素ボンベ40からの酸素ガスを、鼻カニューラ50を使用している者の呼吸に合わせて間欠的に供給するものである。このガス供給制御装置20は、筆箱大の筐体21内に収容され、小型の酸素ボンベ40と共に、鼻カニューラ50の使用者によって携帯可能に構成されている。・・・このガス導出路36は、鼻カニューラ50へのチューブ52に接続されている。このガス導出路36には、このガス導出路36-チューブ52-鼻カニューラ50内の圧力を検出するための圧力センサ34が連結されている。」(段落【0019】?【0020】)

5d:「このように、使用者の吸気に伴うガス導出路36の減圧をきっかけにした電磁弁31の開弁制御が、制御回路22、電磁弁制御回路25および圧力検出回路26により行われ、後述する一連のガス供給処理によって酸素ボンベ40からの酸素ガスを、鼻カニューラ50を介し使用者の呼吸に合わせて間欠的に供給している。」(段落【0024】)

5e:「ステップ56では、使用者の吸気が30秒以上ないか否かを圧力センサ34からの信号によって判断し、30秒以上吸気がなければ(S56でYes)、使用者に吸気を促すために次ステップ57により所定のレジスタ等にAF2をセットし、所定のアラーム処理を行う(S58)。」(段落【0037】)


5.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「酸素吸引器」は、文言の意味又は機能からみて本願発明の「医療機器」に相当し、以下同様に、「異常監視結果を報知する」は「異常警報を知らせる」に、「電池で駆動する」は「電池駆動で」に、「持ち運び可能な」は「携帯可能な」にそれぞれ相当する。

引用発明の「異常監視部」は、「酸素供給異常を監視する」に当たり、「マイクロコンピュータのROMに格納された制御プログラムに従いCPUが行う供給酸素圧力低下判定処理」(記載事項1k)を行うのであるから、酸素供給異常を自動検知するものといえ、また、引用発明の「異常報知部」は、「音声により異常監視結果を報知する」のであるから、音を発生して報知を行っていることも明らかである。
よって、引用発明の「異常監視部と」「異常報知部とを含む異常監視手段」は、その機能からみて本願発明の「警報音発生手段」に相当する。

また、本願発明の「患者の吸気を感知して吸気時に高濃度酸素を供給し、呼気時にはその供給を止める機能を有する医療機器」と引用発明の「患者に対して高濃度酸素を常時吸引させる酸素吸引器」とは、“患者に高濃度酸素を供給する医療機器”という点で共通する。

さらに、本願明細書段落【0007】の「酸素供給管の捩れ、折れにより流量制御装置が吸気を感知できない場合」の記載及び刊行物1の「「酸素流量異常が発生しています。チューブの状態を確認してください。」という音声メッセージ」(上記摘記事項1i)の各記載を参酌すれば、本願発明の「吸気が感知できない異常」と引用発明の「酸素流量異常」とは、“医療機器の作動異常”という点で共通する。

したがって、本願発明の用語を用いて表現すると、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。

(一致点)
患者に高濃度酸素を供給する医療機器であって、医療機器の作動異常を自動検知して異常警報を知らせる警報音発生手段を備え、電池駆動で携帯可能な医療機器。

(相違点1)
警報音発生手段の発生する警報音について、本願発明では、「警報音の音圧レベルが最小音圧レベルP1から最大音圧レベルPnまで経時的に大きくなる手段であって、最小音圧レベルP1および最大音圧レベルPnが、無響音室内で1m離した状態で12.5-20kHzの1/3オクターブバンド測定値のオーバーオール値がA特性で、それぞれ30dBAから50dBAの範囲、40dBAから80dBAの範囲であり、かつP1<Pnである」のに対し、引用発明では、警報音がどのような音圧レベルであるのか不明である点。

(相違点2)
本願発明の医療機器は、「患者の吸気を感知して吸気時に高濃度酸素を供給し、呼気時にはその供給を止める機能を有する医療機器」であり、その作動異常は、「吸気が感知できない異常」であるのに対し、引用発明の医療機器は、「患者の吸気を感知して吸気時に高濃度酸素を供給し、呼気時にはその供給を止める機能を有する」ものではなく、また、医療機器の作動異常は、酸素流量異常ではあるものの、「吸気が感知できない異常」ではない点。


6.相違点の判断
上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
例えば、刊行物2の上記摘記事項2a、刊行物3の上記摘記事項3a等に示されるように、各種情報を伝達するために報知音を発生させるに当たり、報知音の音圧レベルを最小音圧レベルから最大音圧レベルまで経時的に大きくなるよう発生させる手段を用いることは、周囲の人々への迷惑を抑制しつつ騒音の大きい環境でも確実に報知音を認識させるための技術として、従来より周知の技術事項である。
そして、引用発明の医療機器も屋外で使用されることを踏まえれば、周囲の人々への迷惑防止や患者本人への警報音の確実な報知は、当然に配慮されるべき事項であるから、引用発明における警報音の音圧レベルとして斯かる周知技術を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。また、この適用に際し、最小音圧レベル及び最大音圧レベルの具体的な数値範囲を、医療機器の使用が想定される周囲の各環境に応じてそれぞれ最適化することは、当業者による通常の創作能力の発揮にすぎない。

なお、請求人は、平成23年12月26日付け意見書において、「審判官は、引用文献2および引用文献3を例示しつつ、『報知音の発生に当たり、報知音の音圧レベルを最小音圧レベルから最大音圧レベルまで経時的に大きくなるよう発生させる手段を用いることは、周囲の人への迷惑を抑制しつつ騒音の大きい環境でも確実に報知を認識させるための技術として周知の事項である』と述べています。
しかし、仮にそのような周知事項が存在したとしても、引用文献1に記載の発明における『音声により異常監視結果を報知する』対象が『周囲の人々』である以上、はじめから周囲の人々に異常発生が報知されなければ意味をなさないので、『周囲の人への迷惑を抑制しつつ』警告音を発するような当該周知技術を採用するはずはありません。」と主張する。
しかしながら、刊行物1における「異常監視部Meが酸素供給圧力低下を認めたならば、異常報知部Alは酸素供給系に確認メッセージを音声にて患者に報知させる。」(上記摘記事項1d参照)、「ここで音声メッセージに気が付いたならばチューブ9を正常な状態にした後に、流量計1の図示しないリセットボタンの押下に基づきリセット信号を音声合成出力器SPcに出力して音声メッセージを停止し」(上記摘記事項1i参照)、「異常報知部Alに酸素供給系の確認メッセージを音声にて患者に報知させることで、早期に酸素供給系のトラブルに気が付くため、酸素供給停止に陥るという事態を回避することができる」(摘記事項1j参照)の各記載によれば、引用発明における「異常監視結果を報知する」対象が先ずは患者自身であることは明らかであるから、請求人の当該主張は採用できない。

(相違点2について)
例えば、刊行物4における上記摘記事項4a?4b、刊行物5における上記摘記事項5a?5e等の各記載を参照すれば、患者に高濃度酸素を供給する携帯用医療機器において、酸素節約のためにデマンドレギュレータないし呼吸同調制御装置を付加すること、即ち、医療機器を「患者の吸気を感知して吸気時に高濃度酸素を供給し、呼気時にはその供給を止める機能を有する医療機器」とすること、さらに、デマンドレギュレータないし呼吸同調制御装置に付属する圧力センサにより患者の吸気が感知できない場合に警報を行うことは、いずれもこの出願前より、周知の技術事項にすぎない。
引用発明の医療機器も屋外で使用される携帯可能な医療機器であり、酸素の節約や機器の正常な作動は当然に要請されるところであるから、引用発明にデマンドレギュレータないし呼吸同調制御装置に関する上記周知の技術を適用し、患者の吸気を感知しつつ酸素の節約を図るとともに、警報が必要な医療機器の作動異常の一状態として、患者の吸気が感知できない状態を選択することにより、上記相違点2における本願発明の特定事項とすることは、当業者であれば必要に応じて適宜になし得たことである。

そして、本願発明による効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、当審で通知した上記の拒絶理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-23 
結審通知日 2012-03-27 
審決日 2012-04-10 
出願番号 特願2004-207030(P2004-207030)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 田合 弘幸
関谷 一夫
発明の名称 医療機器  
代理人 為山 太郎  

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