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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1257357
審判番号 不服2011-7773  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-13 
確定日 2012-05-24 
事件の表示 特願2005-325566「画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月31日出願公開、特開2007-130861〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年11月10日の出願であって、平成22年12月8日付けで手続補正がなされ、平成23年1月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月13日付けで拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
なお、請求人は、当審における平成23年6月1日付けの審尋に対して同年6月28日付けで回答書を提出している。

第2 平成23年4月13日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成23年4月13日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成23年4月13日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするもので、特許請求の範囲については、本件補正前の請求項1に、
「記録液の液滴を吐出するノズルを有する記録ヘッドと、
この記録ヘッドのノズル面をキャッピングするキャップ部材を含み、前記記録ヘッドの回復動作を行う維持回復機構と、
前記記録ヘッドが前記キャップ部材によりキャッピングされていない状態の非キャッピング累積時間に基づいて前記キャップ部材内に記録液を供給する制御をする手段と、を備え、
前記制御をする手段は、前記維持回復機構による回復動作で、前記キャップ部材内に所定量以上の記録液が供給されたときには前記非キャッピング累積時間をリセットし、前記所定量以上の記録液が供給されないときには前記非キャッピング累積時間をリセットしない、
ことを特徴とする画像形成装置。」とあったものを、

「記録液の液滴を吐出するノズルを有する記録ヘッドと、
この記録ヘッドのノズル面をキャッピングするキャップ部材を含み、前記記録ヘッドの回復動作を行う維持回復機構と、
前記記録ヘッドが前記キャップ部材によりキャッピングされていない状態の非キャッピング累積時間を計測し、前記非キャップ累積時間が予め定めた所定時間に達したときには前記キャップ部材内に記録液を供給する動作を行わせる制御をする手段と、を備え、
前記制御する手段は、
前記非キャッピング累積時間を計測している間に、前記キャップ部材内に所定量以上の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作が行われたときには、前記非キャッピング累積時間の計測値をリセットし、前記キャップ部材内に所定量未満の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作が行われたときには、前記非キャッピング累積時間の計測を継続する
ことを特徴とする画像形成装置。」とする補正を含むものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「制御をする手段」が行う「前記記録ヘッドが前記キャップ部材によりキャッピングされていない状態の非キャッピング累積時間に基づいて前記キャップ部材内に記録液を供給する制御」について、前記非キャッピング累積時間を「計測」し、前記非キャップ累積時間が「予め定めた所定時間に達したときには」前記キャップ部材内に記録液を供給する「動作を行わせる」ものであるとの限定を付加するとともに、前記「制御をする手段」が、「前記維持回復機構による回復動作で、前記キャップ部材内に所定量以上の記録液が供給されたときには前記非キャッピング累積時間をリセット」すること及び「前記所定量以上の記録液が供給されないときには前記非キャッピング累積時間をリセットしない」ことを、「前記非キャッピング累積時間を計測している間に、前記キャップ部材内に所定量以上の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作が行われたときには、前記非キャッピング累積時間の計測値をリセット」すること及び「前記キャップ部材内に所定量未満の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作が行われたときには、前記非キャッピング累積時間の計測を継続する」こととして、それぞれ具体化して限定するものである。

2 本件補正の目的
本件補正後の請求項1に係る上記(1)の本件補正は、上記1(2)のとおり、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

3 引用刊行物及び引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-17543号公報(以下「引用例1」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【請求項1】
圧力発生室内の保湿成分を含有している液体が加圧されることにより噴射される多数のノズル開口を有するとともに、上記ノズル開口が保湿材を有するキャッピング装置で封止される液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置であって、上記保湿材の保湿量の低下に相関させて、上記液体噴射装置の使用の終了後、上記ノズル開口から上記液体を上記保湿材に補給するように構成したことを特徴とする液体噴射装置。
…(略)…
【請求項3】
上記保湿量の低下は、上記キャッピング装置が設置されている場所の環境条件やキャッピング装置の開放時間に基づいて把握される請求項1または2記載の液体噴射装置。
…(略)…
【請求項13】
上記ノズル開口から保湿材への液体補給は、上記キャッピング装置からノズル開口に負圧を作用させてなされる液体吸引によって実行される請求項1?8のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
…(略)…
【請求項16】
上記液体が印字用インクであり、インクジェット式記録装置として用いられる請求項1?15のいずれか一項に記載の液体噴射装置。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧力発生室で加圧された液体をノズル開口から液滴として吐出させる液体噴射装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
圧力発生室で加圧された液体をノズル開口から液滴として吐出させる液体噴射装置は、種々な液体を対象にしたものが知られているが、そのなかでも代表的なものとして、インクジェット式記録装置をあげることができる。そこで、従来の技術を上記インクジェット式記録装置を例にとって、図9?図12にしたがって説明する。
【0003】
この記録ヘッドは、ノズル開口2を有する流路ユニット1と、この流路ユニット1が貼着されるヘッドケース9とから構成されている。
【0004】
上記流路ユニット1は、ノズル形成面3Aにノズル開口2が列設されたノズルプレート3と、各ノズル開口2に連通する圧力発生室4が列設された流路基板5と、各圧力発生室4の下部開口を塞ぐ振動板6とが積層されて構成されている。
流路基板5には、各圧力発生室4とインク流路7を介して連通し、各圧力発生室4に導入されるインクを貯留するインク貯留室8が形成されている。なお、記録ヘッド全体は符号Hで示されている。
【0005】
上記記録ヘッドHの基部材をなすヘッドケース9は、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が射出成形されてなり、上下に貫通する収容空間10に圧力発生素子11が収容されるようになっている。圧力発生素子11は、後端側がヘッドケース9に取り付けられた固定基板12に固着されるとともに、先端面が振動板6下面の島部6Aに固着されている。
【0006】
上記各圧力発生室4,圧力発生素子11,ノズル開口2は、図10における紙面に垂直な方向に多数配列されている。すなわち、この例では2列のノズル列が形成され、各ノズル列を1単位として同種のインクを吐出するようになっている。
【0007】
上記圧力発生素子11の各々には、入力用の導通線13が接続され、各導通線13はヘッド基板14の通孔14Aに挿通されてからヘッド基板14上のプリント配線15に接続されている。このプリント配線15が集約されてコネクター16を介してフレキシブルフラットケーブル17に接続されている。このフレキシブルフラットケーブル17は図示していない駆動回路に接続され、この駆動回路からの駆動信号が圧力発生素子11に入力されると、圧力発生素子11が長手方向に伸縮させられ、圧力発生室4内の圧力を変動させることにより、圧力発生室4内のインクをノズル開口2からインク滴として吐出させる。
【0008】
図9および図10において、18は振動板6を介して吐出時のインク貯留室8内の圧力変動を逃がすダンパ用凹部であり、19は上記ダンパ用凹部18を大気に連通させてダンパ用凹部18内の圧力低下を防止する外部連通路である。
【0009】
上記のような記録ヘッドHでは、印刷動作を行わない状態で記録ヘッドHを休止状態でおいておくと、ノズル開口2付近のインクが乾燥して目詰まりが生じてしまう。このため、印刷動作を行わない間は、記録ヘッドHのノズル開口2を、キャッピング装置38で封止することが行われる。ところが、上記キャッピング装置38によりノズル開口2を封止していたとしても放置期間が長くなると、ノズル開口2近傍のインクの溶媒(水分)がすこしづつ揮散して粘度が上昇し、すぐには印刷できなかったり、印刷品質が低下する等のトラブルが発生しやすくなる。そこで、図11に示すように、キャッピング装置38の内部空間に保湿材40を設け、この保湿材40の保湿効果により、ノズル開口2近傍のインクの乾燥を低減させることが行われている。
【0010】
上記保湿材40への保湿は、印刷とは無関係に各ノズル開口2から強制的にインク滴を吐出させることにより、ノズル開口2の目詰まりを解消し、インク滴吐出能力を回復させる「フラッシング動作」や、各ノズル開口2に吸引ポンプで負圧を与えることにより、圧力発生室4内等の増粘したインクをあらかじめ強制的に吸引する「クリーニング動作」に伴うインクの含浸によって行われることになる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、図11の符号41は、キャッピング装置38の略中央部に形成した吸引口であり、吸引ポンプ39の吸引力で吸引された廃インクをこの吸引口41から廃インク貯留部(図示していない)に流出させる。この吸引口41は、図示の配管や吸引ポンプ39を経て大気に連通しているので、キャッピング装置38内の保湿材40に含浸されているインクの水分も、長期にわたるインクジェット式記録装置の使用休止においては徐々に蒸発し、ノズル開口2およびその近傍に対する保湿効果が低下してくる。
【0012】
このような保湿効果の低下を補うために、上記のフラッシング動作やクリーニング動作が利用されているが、フラッシング動作やクリーニング動作が終了した直後から記録ヘッドHがキャッピング装置38から離れて印刷動作を実行するので、キャッピング装置38は開放状態となり、そのあいだにインク中の水分が蒸発する。このようにインク中の水分の蒸発が進行した状態のキャッピング装置38で、記録ヘッドHを封止しても、封止した時点ではインク中の水分が相当量蒸発してしまっているので、結果的には、本来の保湿作用を果たすべきキャッピング機能に不足を来すこととなる。上述のような現象は、フラッシング動作やクリーニング動作によるインク補給の時期が、保湿材40へのインク補給にとって相応しくない時期であることに起因している。
【0013】
一方、保湿材40へのインクの補給量についても、上記フラッシング動作やクリーニング動作が、本来、ノズル開口2近傍のインク粘度を正常化することが目的とされて実行されているので、これらのフラッシング動作やクリーニング動作の際にノズル開口2から流出するインクの量は、ノズル開口2近傍の回復に必要な量とされている。したがって、フラッシング動作やクリーニング動作を機会にして保湿材40に補給されたインクの量は、満足な保湿効果をもたせるためのインクの量としては、不十分になる可能性が高くなる。また、上記の印刷動作中における開放されたキャッピング装置38からの水分蒸発の現象から見ても、フラッシング動作やクリーニング動作の機会に適正なインクの補給量を確保することは困難である。
【0014】
図12は、インクジェット式記録装置を休止させてキャッピング装置38がノズル開口2を封止している「キャッピング放置時間」と、ノズル開口2からインク中の水分が蒸発する「ノズル蒸発量」との関係を示す線図である。同図の時間L1は、保湿材40の保湿量が十分に確保されている時間であり、したがって、このあいだのノズル蒸発量はごくわずかであり、ノズル開口2近傍のインク粘度上昇も低くとどめられる。時間L1を経過すると、上記保湿量が減少するので、ノズル蒸発量が急上昇しノズル開口2近傍のインク粘度上昇が急激に高くなる。このようにノズル蒸発量が急上昇した場合でも、比較的少ない回数のクリーニング動作で印字可能となる程度すなわち時間L2とすることが望まれる。したがって、保湿量をより増量かつ適正化して時間L1を長期化することが重要となる。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、保湿材に含浸されている液体の保湿成分を適正に補給することができる液体噴射装置の提供をその目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明の液体噴射装置は、圧力発生室内の保湿成分を含有している液体が加圧されることにより噴射される多数のノズル開口を有するとともに、上記ノズル開口が保湿材を有するキャッピング装置で封止される液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置であって、上記保湿材の保湿量の低下に相関させて、上記液体噴射装置の使用の終了後、上記ノズル開口から上記液体を上記保湿材に補給するように構成したことを要旨とする。
【0017】
すなわち、本発明の液体噴射装置は、上記保湿材の保湿量の低下に相関させて、上記液体噴射装置の使用の終了後、上記ノズル開口から上記液体を上記保湿材に補給するように構成されている。このため、上記液体を保湿材に補給する量は、上記保湿量の低下に適応した量となり、不足のない補給量が確保できて適正な保湿量を維持することができる。さらに、液体の補給時期が上記液体噴射装置の使用の終了後であるから、液体補給から保湿機能を開始するまでの時間を可及的に短縮することができて、液体中の保湿成分が無駄に蒸発することがなく、保湿効果のある時間をより一層長く確保することができ、液体噴射装置の使用再開時の液体変質度合いを少なくとどめることができる。また、ノズル開口から液体を補給するので、ノズル開口近傍の変質液体を除去することと兼ねて保湿材への液体補給を行うことも可能で、動作効率が良くなる。
…(略)…
【0019】
本発明の液体噴射装置において、上記保湿量の低下が、上記キャッピング装置が設置されている場所の環境条件やキャッピング装置の開放時間に基づいて把握される場合には、上記キャッピング装置が設置されている場所の例えば気温のような環境条件や、キャッピング装置が開放されて保湿成分の蒸発が進行している時間等に基づいて保湿量の低下が把握されるので、保湿量を改めて設定することにとって最適である。
…(略)…
【0029】
本発明の液体噴射装置において、上記ノズル開口から保湿材への液体補給が、上記キャッピング装置からノズル開口に負圧を作用させてなされる液体吸引によって実行される場合には、作用させた負圧により強制的に液体吸引がなされるので、吸引時には液体が大量に流れる。したがって、保湿材の保湿量が著しく低下したようなときには、大量の液体補給ができて保湿材の機能回復に適した量の液体が確保でき、同時に、補給時間短縮にとって有効である。
…(略)…
【0032】
本発明の液体噴射装置において、上記液体が印字用インクであり、インクジェット式記録装置として用いられる場合には、上記保湿材の保湿量の低下に相関させて、上記記録ヘッドの使用の終了後、上記ノズル開口から上記インク液体を上記保湿材に補給するように構成されている。このため、上記インクを保湿材に補給する量は、上記保湿量の低下に適応した量となり、不足のない補給量が確保できて適正な保湿量を維持することができる。さらに、インクの補給時期が上記記録ヘッドの使用の終了後であるから、インク補給からキャッピング機能を開始するまでの時間を可及的に短縮することができて、インク中の保湿成分である水分が無駄に蒸発することがなく、保湿効果のある時間をより一層長くすることができ、記録ヘッドの使用再開時のインク変質度合いを少なくとどめることができる。また、ノズル開口からインクを補給するので、ノズル開口近傍の高粘度化インクを除去することと兼ねて保湿材へのインク補給を行うことも可能で、動作効率が良くなる。」

ウ 「【0033】
【発明の実施の形態】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0034】
各図は、本発明の液体噴射装置の一実施の形態を示し、図1?図7は第1の実施の形態を示す。
【0035】
本発明の液体噴射装置は、上述のように種々な液体を対象にして機能させることができ、図示の実施の形態においてはその代表的な事例として、本液体噴射装置をインクジェット式記録装置に適用した例を示している。
【0036】
図1は、本発明が適用されるインクジェット式記録装置の周辺構造の一例を示す図である。また、図2は、図9,図10に基づいて説明した記録ヘッドHと同様の記録ヘッド36を示す断面図であり、図9,図10と同様の機能を果たす部材には、図2に同じ符号が記載してある。
【0037】
上記インクジェット式記録装置は、上部に6個のインクカートリッジ37が搭載され、下面に記録ヘッド36が取り付けられたキャリッジ31と、上記記録ヘッド36を封止等するキャッピング装置38とを備えている。上記インクカートリッジ37は、インクの色によって、シアン(C),ライトシアン(LC),マゼンタ(M),ライトマゼンタ(LM),イエロー(Y),ブラック(BK)の6種類のものが搭載されている。
【0038】
上記キャリッジ31は、タイミングベルト32を介してステッピングモータ33に接続され、ガイドバー34に案内されて記録用紙35の紙幅方向に往復移動するようになっている。また、上記キャリッジ31には、記録用紙35と対向する面(この例では下面)に、記録ヘッド36が取り付けられている。そして、この記録ヘッド36に各インクカートリッジ37からインクが供給され、キャリッジ31を移動させながら記録用紙35上面にインク滴を吐出させて記録用紙35に画像や文字をドットマトリックスにより印刷するようになっている。
【0039】
上記キャッピング装置38は、キャリッジ31の移動範囲内の非印刷領域に設けられ、印刷休止中に記録ヘッド36のノズル開口2を封止することによりノズル開口2の乾燥をできるだけ防ぐようになっている。また、このキャッピング装置38は、フラッシング動作によって記録ヘッド36から吐出されたインク滴を受ける容器としても作用する。さらに、上記キャッピング装置38は、吸引ポンプ39に接続され、クリーニング動作時には記録ヘッド36のノズル開口2に負圧を与えてノズル開口2からインクを吸引するようになっている。
【0040】
図2は、上記記録ヘッド36の一例を示す図である。この記録ヘッド36は、図10に基づいて説明した記録ヘッドHと同様のものであり、図10と同様の機能を果たす部材には、図2に同じ符号が記載してある。なお、同図には、キャッピング装置38や吸引ポンプ39が2点鎖線で図示してある。
【0041】
上記キャッピング装置38は浅い深さの略箱型の形状をなしており、例えば、半硬質の合成ゴム材料でつくられている。そして、図2に示したように、キャッピング装置38の上縁がノズル形成面3Aに密着できるようになっている。キャッピング装置38の底部には、平たい形状の保湿材40が敷き詰められたような状態で配置され、同底部の略中央部には吸引口41があけられている。この保湿材40は、インクの含浸性にすぐれた部材であればよく、たとえば、スポンジのような発泡材やフェルトのような不織布を使用するのが適当である。上記吸引口41は配管42を介して廃インク貯留部(図示していない)に接続され、この配管42の途中に吸引ポンプ39が挿入されている。
【0042】
図3は、インクジェット式記録装置のシステム構成を示すブロック図である。図において、45はホスト(図示せず)からの印刷データを受信する受信バッファであり、46は上記印刷データをビットマップデータに変換するビットマップ生成手段、47は上記ビットマップデータを一時格納する印刷バッファである。
【0043】
49はヘッド駆動手段であり、上記印刷バッファ47からの印刷信号に対応して、圧力発生素子11に駆動電圧を印加して記録ヘッド36からインク滴を吐出させる印刷動作を実行する。また、フラッシングのタイミングが到来した時点で、圧力発生素子11に印刷信号とは無関係の駆動電圧を印加し、記録ヘッド36の各ノズル開口2からインク滴を吐出させるフラッシング動作を実行する。
【0044】
50はポンプ駆動手段であり、吸引ポンプ39によりキャッピング装置38に封止された状態の記録ヘッド36に負圧を与え、全ノズル開口2からインクを強制的に吸引するクリーニング動作を実行する。クリーニング制御手段59は、上記ポンプ駆動手段50を制御して、ノズル開口2からのインクの吸引時間や吸引量,負圧等を制御する。
【0045】
48はキャリッジ制御手段であり、印刷時にステッピングモータ33によりキャリッジ31を移動させて記録ヘッド36を走査させるとともに、フラッシング動作時や印刷終了時に、キャッピング装置38と記録ヘッド36が対向する位置にキャリッジ31を移動させるように制御する。
【0046】
51はキャッピング装置開放時間計測手段として機能する印刷タイマであり、ヘッド駆動手段49ならびにキャリッジ制御手段48からの信号等により印刷開始を検知して起動され、記録ヘッド36がキャッピング装置38から開放されてから再びキャッピング装置38に封止されるまでの間の印刷時間を計測する。このように記録ヘッド36が印刷動作をしているときには、キャッピング装置38が開放されているので、この開放時間を計測することにより、キャッピング装置38に配置された保湿材40からの水分の蒸発量すなわち保湿材40の保湿量の低下を把握することができる。なお、この印刷タイマ51は、インクジェット式記録装置の電源をオンにしてからオフにするまでのあいだに、キャッピング装置38の開放と封止が複数回なされても、電源をオフにするまでは複数の開放時間を累積するようになっている。
…(略)…
【0049】
上記印刷タイマ51で計測されたキャッピング装置38の開放時間を示す信号が、インク補給量設定手段52に入力される。また、環境条件検知手段53によりインクジェット式記録装置が設置された場所の気温が計測され、それを示す信号が上記インク補給量設定手段52に入力される。上記開放時間と上記気温との各信号がインク補給量設定手段52に入力されると、同手段52において保湿量回復のためのインク補給量が設定される。このインク補給量設定手段52において補給量を設定する具体的な方法としては、例えば、上記開放時間と気温との相関でインク補給量が設定できるテーブルを用いるのが適当である。
…(略)…
【0054】
なお、図4においては、保湿量の低下を、キャッピング装置38の開放時間と気温とを複合させて把握しているが、これをキャッピング装置38の開放時間だけに関連させて把握することができる。この場合は、気温変化の少ない環境にインクジェット式記録装置が設置されている。さらに、図4において、保湿量の回復目標値をTW2まで高めることにより、保湿材40の保湿量が増量されるので、図12に示した保湿効果の高い時間L1をより長くすることができる。このような補給インクの増量は、インク補給量設定手段52に増量のための信号を投入することにより簡単に実施することができ、インクジェット式記録装置の使用休止期間が著しく長期化するときの対応策として有用である。
…(略)…
【0065】
以上に説明した実施の形態は、フラッシング動作によって補給インクが保湿材40に吐出される場合であるが、以下に説明する第2の実施の形態は、図8に示したように、クリーニング動作で保湿材40に補給インクが供給される場合である。
【0066】
すなわち、インク補給量設定手段52からの補給信号がクリーニング制御手段59へ送られて、直ちにクリーニング動作が開始される。
【0067】
あるいは、インク補給量設定手段52において補給インク量が設定され、しかも、保湿材40の乾燥が著しく進行していたりすると、インク補給量は大量に設定される。このようなときには、インク補給量設定手段52においてクリーニング制御手段59が選定され、ノズル開口2に負圧を作用させた強くて流量の多いインク補給流が形成されて、短時間で大量の補給インクが供給される。この事例は、インク補給量設定手段52にクリーニング動作またはフラッシング動作のいずれかを選択する機能をもたせた場合である。
【0068】
上記のクリーニング動作で補給インクを供給する場合には、インク補給流が高速流であったりするので、キャッピング装置38への補給インク量が過剰になるおそれがある。このようなときには、キャッピング装置38の開放通路43に配置した開閉弁44を開いてから吸引ポンプ39を動作させると、過剰インクが配管42から廃インク貯留部に排出されて、保湿作用に適したインク含浸量となる。それ以外は、上記実施の形態と同様であり、同様の部分には同じ符号を付している。また、作用効果においても、それ以外は、上記実施の形態と同様の作用効果を奏する。
…(略)…
【0081】
上記ノズル開口2から保湿材40へのインク補給が、上記キャッピング装置38からノズル開口2に負圧を作用させてなされるインク吸引によって実行される場合には、作用させた負圧により強制的にインク吸引がなされるので、吸引時にはインクが大量に流れる。したがって、保湿材40の保湿量が著しく低下したようなときには、大量のインク補給ができて保湿材40の機能回復に適した量のインクが確保でき、同時に、補給時間短縮にとって有効である。
【0082】
上記ノズル開口2からのインク吸引後に余剰のインクを除去して保湿材40の保湿量を適正化する場合には、積極的に負圧が作用するインク吸引であることから、保湿材40に必要以上のインクが補給されることがあり、このようなときに余剰のインクを除去することによって、適正なインク量に基づく正常な保湿機能がえられる。
【0083】
上記インクジェット式記録装置の使用の終了が、同装置の電源を切るときである場合には、インクジェット式記録装置の使用終了時に必ず操作される電源オフをトリガーにしていることから、保湿材40へのインク補給が確実になされる。
【0084】
上記液体が印字用インクであり、インクジェット式記録装置として用いられる場合には、上記保湿材40の保湿量の低下に相関させて、上記記録ヘッド36の使用の終了後、上記ノズル開口2から上記インク液体を上記保湿材40に補給するように構成されている。このため、上記インクを保湿材40に補給する量は、上記保湿量の低下に適応した量となり、不足のない補給量が確保できて適正な保湿量を維持することができる。さらに、インクの補給時期が上記記録ヘッド36の使用の終了後であるから、インク補給からキャッピング機能を開始するまでの時間を可及的に短縮することができて、インク中の保湿成分である水分が無駄に蒸発することがなく、保湿効果のある時間をより一層長くすることができ、記録ヘッド36の使用再開時のインク変質度合いを少なくとどめることができる。また、ノズル開口2からインクを補給するので、ノズル開口2近傍の高粘度化インクを除去することと兼ねて保湿材40へのインク補給を行うことも可能で、動作効率が良くなる。
【0085】
上述の実施の形態は、インクジェット式記録装置に使用される記録ヘッドであるが、本発明による液体噴射ヘッドは、インクジェット式記録装置用のインクだけを対象にするのではなく、グルー,マニキュア,導電性液体(液体金属)等を噴射することができる。」

エ 上記アないしウから、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「圧力発生室内の保湿成分を含有しているインクが加圧されることにより噴射される多数のノズル開口を有し、印刷動作を行わない状態で記録ヘッドを休止状態でおいておくと、ノズル開口付近のインクが乾燥して目詰まりが生じてしまうため、印刷動作を行わない間は、記録ヘッドのノズル開口を、キャッピング装置で封止し、印刷とは無関係に各ノズル開口から強制的にインク滴を吐出させることにより、ノズル開口の目詰まりを解消し、インク滴吐出能力を回復させる“フラッシング動作”や、各ノズル開口に吸引ポンプで負圧を与えることにより、圧力発生室内等の増粘したインクをあらかじめ強制的に吸引する“クリーニング動作”に伴うインクの含浸によって保湿される保湿材をキャッピング装置の内部空間に設け、この保湿材の保湿効果により、ノズル開口近傍のインクの乾燥を低減させるとともに、フラッシング動作やクリーニング動作が終了した直後から記録ヘッドがキャッピング装置から離れて印刷動作を実行するようになっているインクジェット式記録装置において、
フラッシング動作やクリーニング動作によるインク補給の時期が、保湿材へのインク補給にとって相応しくない時期であることに起因して、フラッシング動作やクリーニング動作が終了した直後からキャッピング装置は開放状態となり、そのあいだにインク中の水分が蒸発し、記録ヘッドを封止した時点ではインク中の水分が相当量蒸発してしまっているので、結果的には、本来の保湿作用を果たすべきキャッピング機能に不足を来たし、
前記フラッシング動作やクリーニング動作が、本来、ノズル開口近傍のインク粘度を正常化することが目的とされて実行されているので、これらのフラッシング動作やクリーニング動作の際にノズル開口から流出するインクの量は、ノズル開口近傍の回復に必要な量とされており、フラッシング動作やクリーニング動作を機会にして保湿材に補給されたインクの量は、満足な保湿効果をもたせるためのインクの量としては不十分で、適正なインクの補給量を確保することは困難であったので、
このような事情に鑑み、保湿材に含浸されているインクの保湿成分を適正に補給することができるインクジェット式記録装置の提供を目的として、
前記キャッピング装置が設置されている場所の環境条件やキャッピング装置の開放時間に基づいて把握される前記保湿材の保湿量の低下に相関させて、前記インクジェット式記録装置の使用の終了後、前記キャッピング装置からノズル開口に負圧を作用させてなされるインク吸引によって、前記ノズル開口から前記インクを前記保湿材に補給するように構成したインクジェット式記録装置であって、
記録ヘッドがキャッピング装置から開放されてから再びキャッピング装置に封止されるまでの間の印刷時間を計測し、インクジェット式記録装置の電源をオンにしてからオフにするまでのあいだに、キャッピング装置の開放と封止が複数回なされても、電源をオフにするまでは複数の開放時間を累積するようになっているキャッピング装置開放時間計測手段として機能する印刷タイマと、
インクジェット式記録装置が設置された場所の気温を計測する環境条件検知手段と、
前記印刷タイマで計測されたキャッピング装置の開放時間を示す信号及び前記環境条件検知手段で計測された気温を示す信号が入力され、これらの信号が入力されると保湿量回復のためのインク補給量を設定するインク補給量設定手段と、
インク補給量設定手段からの補給信号が送られるクリーニング制御手段とを備え、
前記クリーニング制御手段は、前記補給信号を受信すると前記キャッピング装置からノズル開口に負圧を作用させてなされるインク吸引によるクリーニング動作を実行し、作用させた負圧により強制的にインク吸引を行ってインクを大量に流し、保湿材の保湿量が著しく低下したようなときには、大量のインク補給をして保湿材の機能回復に適した量のインクを確保すると同時に補給時間を短縮できるようにした、インクジェット式記録装置。」(以下「引用発明1」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-90359号公報(以下「引用例2」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【請求項1】
吐出口からインクを吐出する記録ヘッドを用い、記録データに基づいて記録媒体上にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、
前記記録ヘッドのインク吐出性能を保持するための回復処理を行う回復手段と、
前記記録ヘッドの吐出口をキャップするためのキャップ部材と、
前記キャップ部材を前記記録ヘッドに対し、近接させる方向及び離間させる方向へ移動させるキャッピング手段と、
前記キャップ部材により前記吐出口をキャップしていないキャップオープン状態の経過時間であるキャップオープン時間を計測する計測手段と、
前記キャップオープン時間の累積した累積時間(審決注「累積手段」は「累積時間」の明らかな誤記であるので訂正して摘記した。以下同じ。)が所定時間より長くなった場合に前記回復手段により前記回復処理を行う制御手段と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記キャップオープン時間を累積している間に、前記回復処理が行われた場合、前記累積時間をリセットすることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。」

イ 「【0003】
インクジェット方式の記録装置においては、記録ヘッドの吐出口からインクが蒸発することにより吐出口が目詰まりし、その結果として記録状態が劣化したり、場合によっては記録が行えない状態となることが従来より知られており、このインクの蒸発を抑えるため、記録ヘッドの吐出口をキャップする部材、機構を設けているのが一般的である。このような構成では、キャップ部材を記録ヘッドの吐出口が形成された面に密着させることで吐出口をキャップして外気から遮断した状態(キャップクローズ状態、もしくはクローズ状態という)と、キャップ部材を記録ヘッドの吐出口が形成された面から離した状態(キャップオープン状態、もしくはオープン状態という)とするようキャップ部材と記録ヘッドとを相対移動させる機構により、記録動作中や待機状態などの状態に応じてクローズ状態とオープン状態とに切り替えることが知られている。
【0004】
このキャップの機構によりインクの蒸発を抑えているものの、時間の経過に応じてインクノズル内に気泡が徐々に発生し、その気泡により印字不良を起こすことや、時間の経過に応じてインクノズル内のインクが増粘し、その増粘により印字不良を起こすことがあった。この時間の経過に応じた気泡の発生は、液体であるインク中に溶存していた気体が気泡となって現れるものである。また、印字不良による印字状態の劣化は、吐出口内のノズルに存在するインクの増粘により吐出が不安定となったり不吐出が生じることや、インクの溶剤の蒸発に伴ってインクの色材やインク中の不純物が吐出口周囲に析出することによって生じるものである。このように印字状態が劣化した場合には、外部から強制的にインクを吸引して回復させることで印字を可能にする方法が多くのインクジェット記録装置で採用されている。
【0005】
ここで、吸引による回復動作は一度の動作で多量のインクが排出されることから、回復動作によるインクの消費量を抑えるために、吸引回数はできるだけ少なくすることが好ましい。回復動作によるインク排出量を抑えることで、特に、ランニングコストを低く抑えることや、排出されたインクを収容する部材である廃インク収容部の容量の小型化に貢献することができるからである。そのため、従来の記録装置において、記録装置内にタイマー、もしくはタイマーと同様に時間の計時を行う構成を設け、前回の吸引動作からの経過時間を計測して、その経過時間に応じて吸引を行うかどうかを判定することが知られている。この一例としては、例えば2日、5日と経過しても吸引動作が行われない場合は、経過時間に応じた吸引量の吸引回復動作の制御(タイマー吸引と称する)を行い、また、経過時間が2日よりも短い場合は、インクの吐出動作による回復動作である予備吐出動作を経過時間によって制御するタイマー予備吐を行うことで、ノズル内のインクの増粘やインクの色材や不純物がノズル周りに析出することを防止している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従来の記録装置の構成では、吸引動作を行うタイミングを基に前回の吸引動作からの経過時間を計測していたため、装置の状態に起因してインクの蒸発の程度が異なった場合を想定しておらず、記録ヘッドの吐出状態を良好に回復できない場合があった。また、記録ヘッドの吐出状態を回復させることを優先した場合には、インクの蒸発の程度が進んでいることを想定して比較的短い経過時間でも吸引回復を行うように予め設定することが考えられるが、インクの蒸発の程度からすると吸引回復を必要としない場合においても吸引回復が実行される可能性もあり、必要以上にインクを消費してしまうという問題がある。
【0007】
また、インクの消費量を抑えるためには、吸引回数はできるだけ少なくすることが好ましく、経過時間がある程度長い時間に達した場合にのみ吸引回復動作が実行されるよう制御することとなるが、十分な回復が行われない場合が発生してしまう。例えば、黒文字のみのプリントを連続で印字(例えば、2、3時間の連続印字)した後に、カラーの記録を行うような場合、カラー側のノズルは、記録を行わないでキャップオープンされた状態であり、ノズルにおいては、インクの蒸発に起因して、インクの色材や不純物がノズル周りに析出してしまい、蒸発の条件によっては前記色材や不純物が結晶化する。従って、これらの析出物や、色材、不純物の結晶化によって印字不良が生じてしまうこととなる。同様に、光沢メディアのような特殊紙では、顔料ブラックを用いて印刷を行わないよう制御されるのが一般的であり、この特殊紙でカラープリントを連続して記録(例えば、2、3時間の連続記録)した後に、顔料ブラックを用いた印字を行うような場合、ブラック側のノズルでは記録を行われないでキャップオープンされた状態である。よって、ノズルにおいては、インク乾燥によるインクの増粘や固着によって目詰まりが発生してしまい、印字不良が起きてしまう。よって、吸引が行われない期間が短い場合、前記タイマー予備吐が行われているが、それだけでは不十分であり、前記の印字不良が起きてしまう。
【0008】
このように、記録動作によってはキャップがオープンされた状態が続くこともある。このキャップがオープンされた状態とキャップがクローズされた状態とでは、経過時間におけるインクの蒸発、乾燥の程度や、析出物の発生の程度が異なるため、従来のように経過時間を基に吸引回復動作の実行を決定する構成においては、吸引回復動作においてインクが無駄に消費されてしまったり、吐出不良の発生の頻度が高くなってしまう、という問題があった。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は上述の問題点に鑑み、適切な回復動作の制御の実行を目的としてなされたものであり、回復動作の実行を適切に制御することにより、回復動作におけるインクの消費量を抑え、且つ、吐出不良の発生を抑え、ランニングコストを抑えながら信頼性の高いインクジェット記録装置、ならびに回復制御方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は上記目的を達成するために、吐出口からインクを吐出する記録ヘッドを用い、記録データに基づいて記録媒体上にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、前記記録ヘッドのインク吐出性能を保持するための回復処理を行う回復手段と、前記記録ヘッドの吐出口をキャップするためのキャップ部材と、前記キャップ部材を前記記録ヘッドに対し、近接させる方向及び離間させる方向へ移動させるキャッピング手段と、前記キャップ部材により前記吐出口をキャップしていないキャップオープン状態の経過時間であるキャップオープン時間を計測する計測手段と、前記キャップオープン時間の累積した累積時間が所定時間より長くなった場合に前記回復手段により前記回復処理を行う制御手段と、を備えたことを特徴とする。」

ウ 「【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成を示す概観斜視図であり、この図1におうては、装置の外装である上ケースを除いた状態を示している。
【0014】
図1において、給紙トレイ11にセットされたシート(被記録媒体)は給紙ローラ(不図示)の回転によって給紙され、この給紙されたシートは搬送ローラ(不図示)によってプラテン31上を搬送される。この搬送の間にキャリッジ20に搭載された記録ヘッド21から、その走査に伴なってインクが吐出されシート上に画像などの記録(形成)がなされる。
【0015】
また、図1において、キャリッジ20は上記記録ヘッド21およびこれに供給するインクを貯留したインクタンク22を着脱自在に搭載するものである。このキャリッジ20は走査レール33と摺動可能に係合すると共に、キャリッジモータ(不図示)の駆動力がベルトなどの伝達機構を介して伝達されることにより、上記記録ヘッド21の走査を行うことができる。また、キャリッジ20の移動範囲の一方の端部には、記録ヘッド20の吐出機能を良好に維持する吐出回復処理を行うための回復系50が設けられている。
【0016】
なお、キャリッジ20には、上述のように記録ヘッド21及びインクタンク22が着脱自在に搭載されるものであるが、本実施形態では、記録ヘッド21を一体に取り付けたホルダに、さらにインクタンク22が取り付けられたタンクホルダが装着され、これらが一体でキャリッジ20に搭載される形態を採用している。また、記録ヘッド21及びインクタンク22は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各インクにそれぞれ対応して記録を行うものである。さらに、本実施形態における記録ヘッド21は、熱エネルギーを利用してインクに気泡を生じさせ、この気泡の圧力によってインクを吐出する、所謂バブルジェット(R)方式の記録ヘッドである。従って、記録ヘッド21には、インクを吐出させる気泡を発生させる為の熱エネルギーを付与する電気・熱変換体(図示略)が設けられている。また、個々の記録ヘッドには、吐出口に連通するノズルに対してインクを供給するための液室が設けられており、インクタンク22から供給されたインクは一旦液室内に収容され、インクの吐出に伴って液室から各ノズルへインクが再充填(リフィル)される。本発明においては、各インクに対応させて記録ヘッドを備えており、液室はインク毎に対応して備えられていることとなる。
【0017】
図2は、図1に示したインクジェットプリンタの回復系50の構成例を示す模式図である。
【0018】
図2において、24は走査レール33と係合するためのキャリッジ20の軸受け部である。51は記録ヘッドの吐出口面を覆うことのできるキャップで、矢印A方向に移動可能であり、キャリッジ20がホームポジションに設けられた回復系上に位置する時に不図示の上昇下降機構にて上昇することで吐出口面を密着し、下降することで吐出口面から離脱できるような構成となっている。
【0019】
図2において、56はキャップに連通した吸引チューブ、57はキャップに連通した大気連通チューブ、58は大気連通弁機構であり、大気連通チューブ57に連結されている。この大気連通弁は不図示のカム機構で開閉できるようになっている。52は吸引ポンプであり、チューブポンプを形成している。51はポンプベースであり、内側にチューブガイド面51aが半円形状で形成されている。53はコロホルダーであり、これに2個のコロ(ローラ)55が回転軸54を中心とする回転に応じて吸引チューブ56をしごきながら移動することでキャップ40内に負圧を発生させている。70はブレード、71はブレードを保持しているブレードホルダーであり、キャップ40が下方に移動して待機しているときに矢印B方向にブレードホルダー71がスライドすることにより、ブレード70が吐出口面に当接しながら吐出口面に残留したインク滴や紙粉などのごみをワイピングするように構成されている。
【0020】
図3はキャップ40の構成を説明するためのキャップ部分の拡大断面図である。キャップ40には吸引用の連通口40aがあり、この連通口40aは図2に示した吸引チューブ56と連結されている。また、40bは大気連通用の連通口であり、図2に示した大気連通チューブ57と連結されている。また、キャップ40内部には多孔質の吸収体45が備えられている。
【0021】
図4は本実施例に用いたインクジェット記録ヘッドの吐出口面の部分を示した説明図であり、図4においては、吐出口側を正面から見た図を示している。また、図4に示す矢印はキャリッジ20の走査方向(主走査方向)を示しており、21-Bk、21-C、21-M、21-Yは、それぞれブラック、シアン、マゼンタ、イエローのノズル列を示している。このように、各色のノズルは主走査方向と異なる方向に沿って複数配列されてノズル列を形成しており、複数の色に対応した複数のノズル列は主走査方向へ沿って配置されている。
【0022】
本実施形態ではこれら4色のノズル列を一つのキャップで覆うようにキャップ40を吐出口面21aに密着させる。なお、本発明において、記録ヘッド21のノズル構成は特に図4に示される構成に限定されるものではなく、複数の色に対応したノズル列を一直線上に配置したり、各色のノズル列の順序を入れ替えた構成としてもよい。
【0023】
図5は本発明を適用可能なインクジェット記録装置の構成例を示すブロック図である。
【0024】
この図において、インクジェット記録装置の構成は、画像入力部63、それに対応する画像信号処理部64、中央制御部(CPU)60といったソフト系処理手段と、操作部66、回復系制御回路67、キャリッジ制御回路76、紙送り制御回路77、ヘッド駆動制御回路78といったハード系処理手段とに大別され、それぞれメインバスライン65に対しアクセスするよう構成されている。
【0025】
また、中央制御部60は制御プログラムを格納するプログラムROM61と記録ヘッド20に供給するプリントデータなどの各種データを保存しておくランダムアクセスメモリ(RAM)を有し、入力情報に対して適正記録条件をキャリッジ制御回路76、紙送り制御回路77、ヘッド駆動制御回路78に与えてそれぞれキャリッジモータ73、搬送モータ74、記録ヘッド21を駆動して記録を行う。ROM61には後述する回復動作タイミングチャートを実行するプログラムも保存されており、必要に応じて(例えば、操作部66からの吸引回復動作の実行命令)、回復系制御回路67や、ヘッド駆動制御回路78に制御条件を与え回復動作を実行する。回復系制御回路67は回復系モータ68を駆動し、不図示のカム機構などによりキャップ40、大気連通弁58、ブレード70、吸引ポンプ52を動作させ、ヘッド駆動制御回路77は記録ヘッド21の電気・熱変換体の駆動を行うもので、記録時のインク吐出や予備吐出を行うものである。これによって、以下に説明する回復動作を実行することができる。
【0026】
本発明の実施形態ではキャップを被嵌した状態で大気連通弁を開放する動作を、ポンプを一時停止してから行っていたが、特にこれに限定されることはなく、ポンプの吸引動作を行いながら大気連通弁を開放するような構成にしても良い。
【0027】
また、本発明の実施形態では説明の都合上、キャップが一つの構成の場合で説明したが、キャップが複数ある場合でもそれぞれのキャップでの吸引動作において本発明を適用することが出来るし、複数のキャップの何れかの吸引動作のみで適用することもできる。」

エ 上記アないしウから、引用例2には次の発明が記載されているものと認められる。
「吐出口からインクを吐出する記録ヘッドを用い、記録データに基づいて記録媒体上にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置であって、 記録ヘッドの吐出口からインクが蒸発することにより吐出口が目詰まりし、その結果として記録状態が劣化したり、場合によっては記録が行えない状態となることがあるため、このインクの蒸発を抑えるために、前記記録ヘッドのインク吐出性能を保持するための回復処理を行う回復手段と、前記記録ヘッドの吐出口をキャップするためのキャップ部材と、前記キャップ部材を前記記録ヘッドに対して近接させる方向及び離間させる方向へ移動させるキャッピング手段とを備え、印字状態が劣化した場合には、外部から強制的にインクを吸引して回復させることで印字を可能にする方法が採用されているインクジェット記録装置において、
吸引による回復動作は一度の動作で多量のインクが排出されるが、回復動作によるインク排出量を抑えることで、ランニングコストを低く抑え、排出されたインクを収容する部材である廃インク収容部の容量の小型化に貢献することができることから、吸引回数はできるだけ少なくすることが好ましいため、従来の記録装置において、記録装置内にタイマー、もしくはタイマーと同様に時間の計時を行う構成を設け、前回の吸引動作からの経過時間を計測して、その経過時間に応じて吸引を行うかどうかを判定していたところ、装置の状態に起因してインクの蒸発の程度が異なった場合を想定していなかったので、インクの消費量を抑えるために、吸引回数をできるだけ少なくするために、経過時間がある程度長い時間に達した場合にのみ吸引回復動作が実行されるよう制御すると十分な回復が行われない場合が発生してしまい記録ヘッドの吐出状態を良好に回復できないという問題や、インクの蒸発の程度からすると吸引回復を必要としない場合においても吸引回復が実行され、必要以上にインクを消費してしまうという問題があり、キャップがオープンされた状態とキャップがクローズされた状態とでは、経過時間におけるインクの蒸発、乾燥の程度や、析出物の発生の程度が異なるため、従来のように前回の吸引動作からの経過時間を基に吸引回復動作の実行を決定する構成では、吸引回復動作においてインクが無駄に消費されてしまったり、吐出不良の発生の頻度が高くなってしまう、という問題があったので、
上述の問題点に鑑み、回復動作の実行を適切に制御することにより、回復動作におけるインクの消費量を抑え、且つ、吐出不良の発生を抑え、ランニングコストを抑えながら信頼性の高いインクジェット記録装置を提供することを目的として、
前記キャップ部材により前記吐出口をキャップしていないキャップオープン状態の経過時間であるキャップオープン時間を計測する計測手段と、
前記キャップオープン時間の累積した累積時間が所定時間より長くなった場合に前記回復手段により前記回復処理を行う制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記キャップオープン時間を累積している間に、前記回復処理が行われた場合、前記累積時間をリセットするようにした、
インクジェット記録装置。」(以下「引用発明2」という。)

4 対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「インク」、「インクが加圧されることにより噴射される」、「ノズル」、「記録ヘッド」、「『圧力発生室内の保湿成分を含有しているインクが加圧されることにより噴射される多数のノズル開口を有』する『記録ヘッド』」、「『記録ヘッドのノズル開口』を『キャッピング装置で封止』する」、「キャッピング装置」、「『記録ヘッドのノズル開口を、キャッピング装置で封止し、印刷とは無関係に各ノズル開口から強制的にインク滴を吐出させることにより、ノズル開口の目詰まりを解消し、インク滴吐出能力を回復させる“フラッシング動作”や、各ノズル開口に吸引ポンプで負圧を与えることにより、圧力発生室内等の増粘したインクをあらかじめ強制的に吸引する“クリーニング動作”』を行う手段」、「記録ヘッドがキャッピング装置から開放されてから再びキャッピング装置に封止されるまでの間の印刷時間を計測し、インクジェット式記録装置の電源をオンにしてからオフにするまでのあいだに、キャッピング装置の開放と封止が複数回なされても、電源をオフにするまでは複数の開放時間を累積する」、「記録ヘッドのノズル開口を、キャッピング装置で封止し、印刷とは無関係に各ノズル開口から強制的にインク滴を吐出させることにより、ノズル開口の目詰まりを解消し、インク滴吐出能力を回復させる“フラッシング動作”や、各ノズル開口に吸引ポンプで負圧を与えることにより、圧力発生室内等の増粘したインクをあらかじめ強制的に吸引する“クリーニング動作”」、「『前記補給信号を受信すると前記キャッピング装置からノズル開口に負圧を作用させてなされるインク吸引によるクリーニング動作を実行し、作用させた負圧により強制的にインク吸引を行ってインクを大量に流』す『クリーニング制御手段』」、「『保湿材の保湿量が著しく低下したようなときには、大量のインク補給をして保湿材の機能回復に適した量のインクを確保すると同時に補給時間を短縮』できる『クリーニング動作』」、「『満足な保湿効果をもたせるためのインクの量としては不十分で、適正なインクの補給量を確保することは困難』であったままの『フラッシング動作』」及び「インクジェット式記録装置」は、それぞれ、本願補正発明の「記録液」、「記録液の液滴を吐出する」、「ノズル」、「記録ヘッド」、「記録液の液滴を吐出するノズルを有する記録ヘッド」、「ノズル面をキャッピングする」、「キャップ部材」、「記録ヘッドの回復動作を行う維持回復機構」、「前記記録ヘッドが前記キャップ部材によりキャッピングされていない状態の非キャッピング累積時間を計測」、「キャップ部材内に記録液を供給する動作」、「キャップ部材内に記録液を供給する動作を行わせる制御をする手段」、「前記キャップ部材内に所定量以上の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作」、「前記キャップ部材内に所定量未満の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作」及び「画像形成装置」に相当する。

(2)上記(1)に照らせば、本願補正発明と引用発明1とは、
「記録液の液滴を吐出するノズルを有する記録ヘッドと、
この記録ヘッドのノズル面をキャッピングするキャップ部材を含み、前記記録ヘッドの回復動作を行う維持回復機構と、
前記記録ヘッドが前記キャップ部材によりキャッピングされていない状態の非キャッピング累積時間を計測し、前記キャップ部材内に記録液を供給する動作を行わせる制御をする手段と、
を備える画像形成装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本願補正発明では、前記制御する手段が前記キャップ部材内に記録液を供給する動作を行わせるのは、「前記非キャップ累積時間が予め定めた所定時間に達したとき」であり、前記制御する手段は、「前記非キャッピング累積時間を計測している間に、前記キャップ部材内に所定量以上の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作が行われたときには、前記非キャッピング累積時間の計測値をリセットし、前記キャップ部材内に所定量未満の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作が行われたときには、前記非キャッピング累積時間の計測を継続する」ものであるのに対して、
引用発明1では、前記「制御する手段(クリーニング制御手段)」が「前記キャップ部材内に記録液を供給する動作を行わせる(前記キャッピング装置からノズル開口に負圧を作用させてなされるインク吸引によるクリーニング動作を実行し、作用させた負圧により強制的にインク吸引を行ってインクを大量に流す)」のは、前記「画像形成装置(インクジェット式記録装置)」の使用の終了後、インク補給量設定手段からの補給信号を受信したときであるから、前記「非キャップ累積時間」が予め定めた所定時間に達したときではなく、前記「制御する手段」は、前記「非キャッピング累積時間」を計測している間に、「前記キャップ部材内に所定量以上の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作(クリーニング動作)」が行われたときに、前記「非キャッピング累積時間」の計測値をリセットするかどうか、および、「前記キャップ部材内に所定量未満の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作(満足な保湿効果をもたせるためのインクの量としては不十分で、適正なインクの補給量を確保することは困難であったままのフラッシング動作)」が行われたときに、前記「非キャッピング累積時間」の計測を継続するかどうかも明らかでない点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)引用例2には、上記3(2)に記載したとおりの引用発明2(上記3(2)エ参照。)が記載されている。
引用発明2は、「インクジェット記録装置において、吸引による回復動作は一度の動作で多量のインクが排出されるが、回復動作によるインク排出量を抑えることで、ランニングコストを低く抑え、排出されたインクを収容する部材である廃インク収容部の容量の小型化に貢献することができることから、吸引回数はできるだけ少なくすることが好ましいため、従来の記録装置において、記録装置内にタイマー、もしくはタイマーと同様に時間の計時を行う構成を設け、前回の吸引動作からの経過時間を計測して、その経過時間に応じて吸引を行うかどうかを判定していたところ、装置の状態に起因してインクの蒸発の程度が異なった場合を想定していなかったので、インクの消費量を抑えるために、吸引回数をできるだけ少なくするために、経過時間がある程度長い時間に達した場合にのみ吸引回復動作が実行されるよう制御すると十分な回復が行われない場合が発生してしまい記録ヘッドの吐出状態を良好に回復できないという問題や、インクの蒸発の程度からすると吸引回復を必要としない場合においても吸引回復が実行され、必要以上にインクを消費してしまうという問題があり、キャップがオープンされた状態とキャップがクローズされた状態とでは、経過時間におけるインクの蒸発、乾燥の程度や、析出物の発生の程度が異なるため、従来のように前回の吸引動作からの経過時間を基に吸引回復動作の実行を決定する構成では、吸引回復動作においてインクが無駄に消費されてしまったり、吐出不良の発生の頻度が高くなってしまう、という問題があったので、上述の問題点に鑑み、回復動作の実行を適切に制御することにより、回復動作におけるインクの消費量を抑え、且つ、吐出不良の発生を抑え、ランニングコストを抑えながら信頼性の高いインクジェット記録装置を提供することを目的として、前記キャップ部材により前記吐出口をキャップしていないキャップオープン状態の経過時間であるキャップオープン時間を計測する計測手段と、前記キャップオープン時間の累積した累積時間が所定時間より長くなった場合に前記回復手段により前記回復処理を行う制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記キャップオープン時間を累積している間に、前記回復処理が行われた場合、前記累積時間をリセットするようにした」ものである。

(2)引用発明1は、インク補給量設定手段が、印刷タイマで計測されたキャッピング装置の開放時間を示す信号及び環境条件検知手段で計測された気温を示す信号が入力されると保湿量回復のためのインク補給量を設定するから、装置の状態に起因してインクの蒸発の程度が異なった場合を想定しているものといえるが、インクジェット式記録装置の使用の終了後、キャッピング装置からノズル開口に負圧を作用させてなされるインク吸引によって、前記ノズル開口から前記インクを保湿材に大量のインク補給をして保湿材の機能回復に適した量のインクを確保すると同時に補給時間を短縮できるように構成したものであるから、インクジェット式記録装置の使用が終了する毎に多量のインクが排出されるので、回復動作におけるインクの消費量を抑えてランニングコストを抑えることが困難なものであるといえる。
したがって、引用発明1において、回復動作の実行を適切に制御することにより、回復動作におけるインクの消費量を抑え、且つ、吐出不良の発生を抑え、ランニングコストを抑えながら信頼性の高いインクジェット記録装置を提供することを目的として、インクジェット式記録装置の使用の終了後インク吸引によってノズル開口からインクを保湿材に大量のインク補給をするのに代えて、前記「制御する手段(クリーニング制御手段)」が前記「キャッピング装置の開放時間(キャップオープン時間)」の累積した累積時間が所定時間より長くなった場合に「前記キャップ部材内に所定量以上の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作(保湿材の保湿量が著しく低下したようなときには、大量のインク補給をして保湿材の機能回復に適した量のインクを確保すると同時に補給時間を短縮できるクリーニング動作)」を行わせるようになすとともに、「前記記録ヘッドが前記キャップ部材によりキャッピングされていない状態の非キャッピング累積時間を計測(記録ヘッドがキャッピング装置から開放されてから再びキャッピング装置に封止されるまでの間の印刷時間を計測し、インクジェット式記録装置の電源をオンにしてからオフにするまでのあいだに、キャッピング装置の開放と封止が複数回なされても、電源をオフにするまでは複数の開放時間を累積)」している間に、「前記キャップ部材内に所定量以上の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作(保湿材の保湿量が著しく低下したようなときには、大量のインク補給をして保湿材の機能回復に適した量のインクを確保すると同時に補給時間を短縮できるクリーニング動作)」が行われた場合、前記「累積時間」をリセットするようにし、かつ、「前記キャップ部材内に所定量未満の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作(フラッシング動作)」が行われたときには、この「回復動作(フラッシング動作)」では、満足な保湿効果をもたせるためのインクの量としては不十分で、適正なインクの補給量を確保することは困難であるから、前記「累積時間」をリセットせずに、前記「非キャッピング累積時間」の計測を継続するようにすることは、当業者が引用発明2に基づいて容易に想到することができた程度のことである。
引用発明1において、インクジェット式記録装置の使用の終了後インク吸引によってノズル開口からインクを保湿材に大量のインク補給をするのに代えて、前記「制御する手段」が前記「キャッピング装置の開放時間」の累積した累積時間が所定時間より長くなった場合に「前記キャップ部材内に所定量以上の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作」を行わせるようになすとともに、「前記記録ヘッドが前記キャップ部材によりキャッピングされていない状態の非キャッピング累積時間を計測」している間に、「前記キャップ部材内に所定量以上の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作」が行われた場合、前記「累積時間」をリセットするようにし、かつ、「前記キャップ部材内に所定量未満の記録液が供給される前記維持回復機構による回復動作」が行われたときには、前記「非キャッピング累積時間」の計測を継続するようにすることは、引用発明1において、上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことに相当するから、引用発明1において、上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が引用発明2に基づいて容易になし得た程度のことである。

(3)本願補正発明の奏する効果は、引用発明1の奏する効果、引用発明2の奏する効果から、当業者が予測できた程度のものである。

(4)したがって、本願補正発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
本願補正発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 小括
本願補正発明は、上記5のとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成22年12月8日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5にそれぞれ記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年12月8日付けで補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明は、上記「第2〔理由〕1(2)」のとおり、本願発明を特定するために必要な事項を限定するものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2〔理由〕5」に記載したとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-22 
結審通知日 2012-03-27 
審決日 2012-04-09 
出願番号 特願2005-325566(P2005-325566)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松川 直樹藤本 義仁  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 星野 浩一
東 治企
発明の名称 画像形成装置  
代理人 稲元 富保  

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