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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1257495
審判番号 不服2010-13780  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-23 
確定日 2012-05-23 
事件の表示 特願2000-189842「半導体メモリ素子のキャパシタの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 2月 9日出願公開,特開2001- 36045〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成12年6月23日(パリ条約による優先権主張 1999年6月25日,大韓民国)の出願であって,平成21年10月1日付けで拒絶理由が通知され,平成22年1月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年2月17日付けで拒絶査定がなされ,それに対して,同年6月23日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明の認定
平成22年1月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲は請求項1ないし22からなるが,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,明細書及び図面の記載からみて,次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】 半導体基板上にキャパシタを製造する方法であって,半導体基板上に下部電極を形成する段階,前記下部電極上に誘電体膜としてTaON膜を蒸着する段階,及び前記TaON膜上に上部電極を形成する段階を含み,
前記TaON膜を蒸着する段階は,チャンバ内の気相反応を抑制しながらウェハ表面のみで化学反応が起きるよう,O_(2)ガス,NH_(3)ガス及び前駆体を所定の流量だけ前記チャンバに供給し,前記チャンバ内を所定の圧力と所定の温度に維持することにより前記TaON膜を蒸着することを特徴とする,半導体メモリ素子のキャパシタの製造方法。」

なお,請求項1には,「前記チェンバ」と2か所記載されているが,本願明細書の発明の詳細な説明には「チャンバ」との用語が記載されており,また,「前記」と付されていることから,「チェンバ」は請求項1の第4行の「チャンバ」と同一のものと解されるので,「前記チェンバ」は「前記チャンバ」の誤記であると認定し,請求項1に係る発明を,上記のとおり認定した。

3.引用例の記載と引用発明
(1)特開平7-263442号公報
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平7-263442号公報(以下「引用例1」という。)には,「タンタル系高誘電体材料及び高誘電体膜の形成方法並びに半導体装置」(発明の名称)について,図1とともに,次の記載がある。
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,タンタル系高誘電体材料及び高誘電体膜の形成方法,並びにかかるタンタル系高誘電体材料を用いた半導体装置に関する。
【0002】
【従来の技術】現在,半導体装置においては,絶縁膜や容量絶縁膜として窒化シリコン(Si_(3)N_(4))膜が用いられている。容量絶縁膜は,例えば,DRAMにおいて電荷を蓄積するためのキャパシタンスとして用いられる。そして,例えば次世代以降のULSI(特にDRAM)用の容量絶縁膜の材料として,シリコン窒化膜に代わり,一層大きな比誘電率を有するタンタル(Ta)を含む材料,例えばTa_(2)O_(5)から成る高誘電体膜の検討が進められている。容量絶縁膜の容量をC,比誘電率をε,面積をS,厚さをdとした場合,
C=ε×S/d
の関係が成立する。半導体装置が高密度になるに従い,容量絶縁膜の面積Sを小さくする必要がある。従って,容量絶縁膜の容量Cを同一に保持するためには,容量絶縁膜を構成する材料の比誘電率εを大きくしなければならない。例えば,バイポーラトランジスタにおいて,トランジスタ素子の面積が1/5になると,容量絶縁膜の面積はトランジスタ素子全体の1/2をも占めるようになる。
【0003】容量絶縁膜を構成するTa_(2)O_(5)は,比誘電率が20?30と高い。ちなみに,Si_(3)N_(4)及びSiO_(2)の比誘電率はそれぞれ,6?7,3.7?3.9である。通常,TaCl_(5)とO_(2)を原料ガスとして用いたCVD法にてTa_(2)O_(5)膜を成膜する。」
・「【0020】(実施例2)実施例2の高誘電体膜の形成方法は,実施例1にて説明した高誘電体膜の形成方法の変形に関する。実施例2においては,実施例1と異なり,減圧熱CVD法にて高誘電体膜を成膜した。タンタル系有機金属原料ガスとしてはCp_(2)Ta(N_(3))_(3)を用い,窒化のためのNH_(3)ガス,及び酸化のためのO_(3)ガスを原料ガスとして併せて用いた。成膜された高誘電体膜は,Ta_(X)O_(Y)N_(Z)の形態(X=0.5,Y=0.4,Z=0.1)の形態を有していた。減圧熱CVDの条件を以下に例示する。使用ガス : Cp_(2)Ta(N_(3))_(3)/NH_(3)/O_(3)=100?500/500?1000/100?500sccm圧力 : 10?200Pa基体温度 : 400?800゜Cこうして得られたTa_(X)N_(Y)O_(Z)から成るタンタル系の高誘電体膜の比誘電率は20?40であった。」
・「【0022】(実施例4)本発明の第1若しくは第2の態様に係る高誘電体膜の形成方法を応用して形成された容量絶縁膜を有するスタックトキャパシタセル構造を有するDRAMから成る半導体装置の模式的な一部断面図を図1に示す。容量絶縁膜は,Ta_(X)O_(Y)N_(Z)という形態を有するタンタル系高誘電体材料から成る。図1に示す半導体装置の作製方法の概要は以下のとおりである。
(A)シリコン半導体基板10にLOCOS構造の素子分離領域12を形成する。
(B)ゲート電極14及びゲート配線14A(ワード線)を,例えばポリシリコンから形成する。
(C)ソース・ドレイン領域16を形成する。
(D)全面に例えばSiO_(2)から成る層間絶縁層18を形成した後,ソース・ドレイン領域16の上方の層間絶縁層18に開口部を設け,この開口部及び層間絶縁層18の上に例えばポリシリコンから成るキャパシタ用の電極20を形成する。
(E)本発明の第1若しくは第2の態様に係る高誘電体膜の形成方法に基づき,電極20及び層間絶縁層18の上にTa_(X)O_(Y)N_(Z)という形態を有する高誘電体膜22を形成する。この場合,ポリシリコンから成る電極20及び層間絶縁層18が基体に相当する。また,高誘電体膜22が容量絶縁膜に相当する。
(F)次いで,ONOから成るキャパシタ用の電極24を形成する。
(G)最後に,SiNから成るパッシベーション膜30を全面に形成する。
【0023】以上,本発明を好ましい実施例に基づき説明したが,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例にて説明した原料ガスや成膜条件等は,使用するCVD装置やCVD法等に依存して適宜変更することができる。半導体装置の構造も実施例に限定されず,容量絶縁膜が必要とされる如何なる半導体装置にも本発明の高誘電体材料から成る高誘電体膜を適用することができる。実施例においては専ら本発明のタンタル系高誘電体材料を半導体装置の高誘電体膜に適用した例を示したが,本発明のタンタル系高誘電体材料は,その他,例えばディスクリート部品であるコンデンサーの製造に適用することも可能である。」

(2)引用発明
上記記載事項及び図1の内容を総合すれば,引用例1の実施例2においては,CVD装置を使用し,減圧熱CVD法でTa_(X)O_(Y)N_(Z)の高誘電体膜を形成しているから,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「高誘電体膜の容量絶縁膜を有するスタックトキャパシタセル構造を有するDRAMから成る半導体装置の製造方法において,
シリコン半導体基板10にキャパシタ用の電極20を形成し,
電極20の上にTa_(X)O_(Y)N_(Z)という形態を有する容量絶縁膜に相当する高誘電体膜22を形成し,
次いで,キャパシタ用の電極24を形成し,
高誘電体膜の形成方法が,
タンタル系有機金属原料ガスとしてはCp_(2)Ta(N_(3))_(3)を用い,窒化のためのNH_(3)ガス,及び酸化のためのO_(3)ガスを原料ガスとして併せて用い,成膜された高誘電体膜は,Ta_(X)O_(Y)N_(Z)(X=0.5,Y=0.4,Z=0.1)の形態を有し,
CVD装置を使用した減圧熱CVDの条件が,
使用ガス : Cp_(2)Ta(N_(3))_(3)/NH_(3)/O_(3)=100?500/500?1000/100?500sccm
圧力 : 10?200Pa
基体温度 : 400?800゜C
である方法。」

4.対比
(1)本願発明と引用発明との対応関係
ア 引用発明の「キャパシタ用の電極20」,「容量絶縁膜に相当する高誘電体膜22」,「キャパシタ用の電極24」は,それぞれ,本願発明の「下部電極」,「誘電体膜」,「上部電極」に相当する。
イ 引用発明の「Ta_(X)O_(Y)N_(Z)」,「Cp_(2)Ta(N_(3))_(3)」は,本願発明の「TaON膜」,「前駆体」に相当する。また,引用発明の「Ta_(X)O_(Y)N_(Z)という形態を有する容量絶縁膜に相当する高誘電体膜22を形成」することが,本願発明の「TaON膜を蒸着する」ことに相当する。
ウ TaON膜の蒸着に関して,引用発明の「タンタル系有機金属原料ガスとしてはCp_(2)Ta(N_(3))_(3)を用い,窒化のためのNH_(3)ガス,及び酸化のためのO_(3)ガスを原料ガスとして併せて用い」,「CVD装置を使用した減圧熱CVDの条件が,使用ガス : Cp_(2)Ta(N_(3))_(3)/NH_(3)/O_(3)=100?500/500?1000/100?500sccm 圧力 : 10?200Pa 基体温度 : 400?800゜C」であることは,本願発明の「チャンバ内の気相反応を抑制しながらウェハ表面のみで化学反応が起きるよう,O_(2)ガス,NH_(3)ガス及び前駆体を所定の流量だけ前記チャンバに供給し,前記チャンバ内を所定の圧力と所定の温度に維持すること」と,「酸化性ガス,NH_(3)ガス及び前駆体を所定の流量だけ装置に供給」する点において共通する。
エ 引用発明の「DRAM」は,本願発明の「半導体メモリ素子」に相当し,引用発明の「高誘電体膜の容量絶縁膜を有するスタックトキャパシタセル構造を有するDRAMから成る半導体装置の製造方法」は,実質的にキャパシタの製造方法を含んでいるから,本願発明の「半導体基板上にキャパシタを製造する方法であって」,「半導体メモリ素子のキャパシタの製造方法」に相当する。

(2)一致点及び相違点
上記対応関係によれば,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
〈一致点〉
「半導体基板上にキャパシタを製造する方法であって,半導体基板上に下部電極を形成する段階,前記下部電極上に誘電体膜としてTaON膜を蒸着する段階,及び前記TaON膜上に上部電極を形成する段階を含み,
前記TaON膜を蒸着する段階は,酸化性ガス,NH_(3)ガス及び前駆体を所定の流量だけ装置に供給し,前記TaON膜を蒸着することを特徴とする,半導体メモリ素子のキャパシタの製造方法。」

〈相違点1〉
・「TaON膜を蒸着する段階」において酸化性ガスが,本願発明では「O_(2)ガス」であるのに対し,引用発明では「O_(3)ガス」である点。
〈相違点2〉
・「TaON膜を蒸着する段階」を,本願発明では「チャンバ内の気相反応を抑制しながらウェハ表面のみで化学反応が起きるよう」,酸化性ガス,NH_(3)ガス及び前駆体を「所定の流量だけ前記チャンバに供給し,前記チャンバ内を所定の圧力と所定の温度に維持すること」により行っているのに対し,引用発明では,酸化性ガス,NH_(3)ガス及び前駆体を所定の流量だけCVD装置に供給しているものの,上記構成は明示されていない点。

5.相違点についての判断
(1)相違点1について
CVD法による酸化膜又は酸窒化膜の形成に係る技術分野において,酸化性ガスとして「酸素(O_(2))」と「オゾン(O_(3))」は等価のものとして利用できることは,以下の周知例1及び周知例2に記載されているように,当業者に良く知られたことであり,「O_(3)ガス」に替えて「O_(2)ガス」を使用することは,周知の技術事項にすぎない。
したがって,引用発明において,Ta_(X)O_(Y)N_(Z)の高誘電体膜を形成する際に,「O_(3)ガス」に替えて「O_(2)ガス」を採用することは,等価手段の変更に過ぎず,本願発明のごとく,「O_(2)ガス」とNH_(3)ガス及び前駆体を所定の流量だけ供給することは,当業者が容易になし得たことである。

・周知例1:特開平11-168073号公報
原審の拒絶査定時に周知文献として引用された,本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平11-168073号公報(以下「周知例1」という。)には,「半導体装置の製造方法」(発明の名称)について,次の記載がある。
・「【0033】そのようなCVD装置を用いて窒化チタン膜6を形成する場合には,制御回路30によって第1?第5のマスフローコントローラ41?45を制御して例えば図3に示すようなフローになるように流量調整と供給開始,供給停止の各動作が行われる。その動作を以下に説明する。まず,TaO_(5)膜5が形成されたシリコン基板1をCVD装置の反応チャンバ21内の下部電極22上に置いた後に,開閉弁25を開いてドラッグボンプ26,ドライポンプ27によって反応チャンバ21内を減圧するとともに,下部電極22の下のヒータHの加熱によってシリコン基板1の温度を500℃に設定する。」
・「【0042】TiCl_(4 )ガスの導入の開始から5秒経過した後にTiCl_(4 )ガスの流量を10sccmに増やし,さらにTiCl_(4 )ガスの導入の開始から10秒経過後にTiCl_(4 )ガス流量を20sccmまで増やす。これにより,図5(b) に示すように,酸素含有窒化チタン膜16が形成される。酸素含有窒化チタン(TiON)膜16の成長は,TiCl_(4 )ガスを導入した時点から開始する。TiON膜16の成長を開始してから55秒経過後に,TiON膜16の成長を終えるために,O_(2),TiCl_(4 ),MMH,NH_(3) ,Heのそれぞれのガスの導入を停止する。これにより,減圧雰囲気中のガス圧力が低下する。酸素の流量が5sccm以下の場合には,図4の二点鎖線に示すように,TiON膜16の形成後に停止させてもよい。」
・「【0063】図3及び図4のガスフローチャートでは,TiON膜又は酸素プリフロー処理によるTiN 膜を成長する前に酸素ガスを供給しているが,酸素原子を1原子以上含む構造の分子を含むガス,例えば水(H_(2) O),過酸化水素(H_(2) O_(2) ),オゾン(O_(3) ),一酸化炭素(CO),二酸化炭素(CO_(2) )又は酸化窒素(NO,N_(2)O又はNO_(2) )のガスを含むガスを用いてもよい。そのガスは,ヘリウム(He),アルゴン(Ar),窒素(N_(2))の少なくとも1つのガスによって希釈可能なガスが好ましい。」

よって,周知例1には以下の技術的事項が開示されている。
a CVD装置を用いて金属窒化膜又は金属酸窒化膜を形成する際に,シリコン基板を反応チャンバ内に置いて,成膜を行うこと。
b CVD装置により金属酸窒化膜を形成する際に,酸化性ガスとして,酸素(O_(2))とオゾン(O_(3) )が等価であり,代替可能であること。

・周知例2:特開平6-101048号公報
原審の拒絶査定時に周知文献として引用された,本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平6-101048号公報(以下「周知例2」という。)には,「絶縁膜の製造方法と製造装置」(発明の名称)について,次の記載がある。
・「【0002】
【従来の技術】たとえば酸化シリコン膜などの絶縁膜を常圧化学気相成長(CVD)法により成膜するには,モノシランなどのシリコンソースガスを,酸素ガスと共に,インジェクターから基板に向けて吹き出し,気相および基板表面における化学反応によって,基板上に,酸化シリコン膜を堆積する。」
・「【0010】
【作用】本発明の製造装置を用いた絶縁膜の製造方法では,オゾンおよび/または酸素を含むガスを吹き出す第3吹出口の外側に,基板に向けて不活性ガスを吹き出す第4吹出口を設けてあるので,この第4吹出口から吹き出される不活性ガスの吹き出しが,エアカーテンとなり,第3吹出口から吹き出されるオゾンおよび/または酸素を含むガスが周囲の雰囲気ガス中に拡散することを極力防止することが可能になる。その結果,基板表面でのオゾンおよび/または酸素を含むガスの濃度が向上し,基板表面において,オゾンおよび/または酸素を含むガスとソースガスとの反応が促進され,絶縁膜の膜質が向上する。また逆に,周囲の雰囲気ガス中のオゾンおよび/または酸素のガス濃度が低下することから,反応が基板表面に集中し,雰囲気ガス中での反応が減り,パーティクルの発生を抑制することができる。」

よって,周知例2には以下の技術的事項が開示されている。
a CVD法により絶縁膜(酸化膜)を形成する際に,「オゾンおよび/または酸素を含むガス」を使用すること,すなわち,酸化性ガスとして,酸素(O_(2))とオゾン(O_(3) )が等価であること。
b CVD装置において,基板表面でのオゾンおよび/または酸素を含むガスの濃度が向上すると,基板表面において,オゾンおよび/または酸素を含むガスとソースガスとの反応が促進され,絶縁膜の膜質が向上すること。
c 周囲の雰囲気ガス中のオゾンおよび/または酸素のガス濃度が低下すると,雰囲気ガス中での反応が減り,パーティクルの発生を抑制することができること。

(2)相違点2について
ア 引用発明に「チャンバ」の記載はないが,一般に,CVD法による膜の形成を,CVD装置の「チャンバ」内で実施することは,上記周知例1にも記載されるように,通常行われていることであるから,引用発明において,「チャンバ」内で減圧熱CVD法によりTaON膜を形成すること,すなわち,ガスを所定の流量だけ「チャンバ」に供給することは単なる慣用技術である。
イ また,CVD法により膜形成を行うときに,膜質が圧力や温度の影響を受けることは自明のことであるから,均一で良質な膜を形成するためにチャンバ内を所定の圧力と所定の温度に維持することは,周知の技術的事項にすぎず,引用発明においても減圧熱CVD法により高誘電体膜22を形成する際に温度,圧力等の条件を設定している。
そうすると,膜形成の期間中,均一で良質な膜を形成するためにチャンバ内を所定の圧力と所定の温度に維持することは,当業者が当然考慮すべき製造条件である。
ウ 次に,ウェハ表面のみでの化学反応に関して検討すると,本願明細書には,「この様な方法にてLPCVDチャンバ内に供給されたTa化学蒸気,反応ガスのO_(2)ガス(excess gas)及びNH3ガスは互いに反応して,HSG膜41上に非晶質状態のTaON膜43が約100乃至150Å厚さで形成される。このとき,パティクル発生を最小化する為に,Ta化学蒸気,O_(2)ガス及びNH_(3)ガスは,チャンバ内の気相反応(gas phase reaction)は抑制させながら,ウェーハ表面のみで化学反応が起きるようにする。ここで,気相反応は反応ガス等の流量とチャンバ内の圧力によって調節される。また,本実施例において,気相反応が抑制できる様に,反応ガスのO_(2)ガスとNH_(3)ガスは各々10乃至1000sccm程度の流量で供給され,LPCVDチャンバ内の温度は300乃至600℃,圧力は0.1乃至10Torrで維持させる。さらに,LPCVDチャンバ内で蒸着されたTaON膜43は非晶質状態である。」(段落【0016】)と記載されている。
エ しかしながら,上記周知例2に,周囲の雰囲気ガス中,すなわち,チャンバ内の雰囲気ガス中のガス濃度の低下により,雰囲気ガス中での反応が減り,パーティクルの発生が抑制されること,及び,基板表面での反応の促進により,絶縁膜の膜質が向上することが開示されており,また,以下の周知例3にも,圧力やガスの供給を制御して気相中での反応を抑制すると,成膜中のダストが低減できることが開示されているように,CVD法による成膜に係る技術分野において,成膜時に,チャンバ内の気相反応を抑制して,基板表面での反応とすることにより,パーティクルやダストの発生を低減することは,当業者にとって周知の技術的事項であり,良質の膜形成を行うために,パーティクルやダストの発生を低減する製造条件を選択することは,当業者が当然に考慮することといえる。

・周知例3:特開平11-74485号公報
原審の拒絶査定時に周知文献として引用された,本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平11-74485号公報(以下「周知例3」という。)には,「半導体装置よびその製造方法」(発明の名称)について,次の記載がある。
・「【0036】本発明の他の半導体装置の製造方法(請求項14)では,シリコン源および窒素源を交互に供給することで,ガスが混ざることがないために気相反応を抑制することができる。その結果,水素,塩素は膜表面にのみ残留し,かつ反応が一定量に制限されて(自己制限的に)進むため,熱処理時間を充分に長くすることにより,表面に残留した水素,塩素濃度を低減することができる。」
・「【0040】同様の理由で,圧力を高くすると,気相反応によりシリコンが堆積し,また逆に圧力が低すぎると,充分表面反応が進みにくく,一方窒素を含む熱処理では,できるだけ高温で熱処理を行うことが好ましい。」
・「【0042】また,所定の処理終了後,不活性ガスまたは塩化水素ガスまたは水素ガスにより,各原料ガスを置換することにより,各原料ガスが気相中で反応することを抑制することができる。その結果,Si-Cl,Si-H,N-Hといった不純物を含む結合は,最表面にのみ形成され,従って容易に除去可能になる。また,他の効果として,気相中での反応が抑制できるので,成膜中のダストが低減できる。」
・「【0109】しかしながら,この方法でも窒化膜中の塩素,およびN-H結合を減少させることは困難である。さらに,従来のCVD法では,原料ガスが混合された状態で供給されるため,気相中で反応が進み,基板表面にはクラスター化した分子が吸着し,反応がおこる。このため,一旦膜に取り込まれた水素,塩素などの除去が困難になる。
【0110】一方,デジタルCVDとして原料ガスを間欠的に供給して堆積する方法が知られている(Appl. Phys. Lett. 68(23) p.3257(1996) )。この方法を用いれば,反応を基板表面だけに限定することができる。」

オ そして,一般に,CVD装置のチャンバ内の反応は,ガス流量や,成膜時の温度や圧力に大きく依存することは自明のことであるから,これらを管理してチャンバ内の気相反応を制御することは,当業者が通常行うことと認められる。さらに,本願発明が,チャンバ内の気相反応を抑制するために,実施例(段落【0016】)において採用しているガス流量,温度,圧力は,引用発明で採用されているガス流量,温度,圧力と重複する部分を有しており,格別のものではない。
カ したがって,上記ア?オを考慮すると,引用発明のTaON膜の成膜工程において,パーティクルの発生の抑制を目的として,上記周知の技術的事項を考慮して,ガス流量,温度,圧力を制御すること,すなわち,本願発明のごとく,「チャンバ内の気相反応を抑制しながらウェハ表面のみで化学反応が起きるよう」,酸化性ガス,NH_(3)ガス及び前駆体を「所定の流量だけ前記チャンバに供給し,前記チャンバ内を所定の圧力と所定の温度に維持すること」は,当業者が容易になし得たことである。

6.小括
以上検討したとおり,相違点1及び2における本願発明の構成は,当業者が容易に想到し得たものであるから,本願発明は,引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

7.結言
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-16 
結審通知日 2011-12-20 
審決日 2012-01-06 
出願番号 特願2000-189842(P2000-189842)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮部 裕一  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官 近藤 幸浩
松田 成正
発明の名称 半導体メモリ素子のキャパシタの製造方法  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  

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