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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1257992
審判番号 不服2011-5251  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-08 
確定日 2012-06-07 
事件の表示 特願2005-279551「VTGタービン段を利用する多段ターボ過給装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月13日出願公開、特開2006- 97684〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成17年9月27日(パリ条約による優先権主張2004年9月27日、米国)の特許出願であって、平成17年11月9日付けで特許法第36条の2第2項の規定に基づく外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文が提出され、平成22年4月21日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、同年10月21日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書及び意見書が提出されたが、同年11月8日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、平成23年3月8日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2.本願発明
本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、平成22年10月21日付けで提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、並びに、平成17年11月9日付けで提出された明細書及び図面の翻訳文の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
内燃機関(10)において、
複数の燃焼シリンダと、
前記燃焼シリンダに連結された少なくとも1つの排気マニホルド(12)と、
前記燃焼シリンダに連結された少なくとも1つの吸気マニホルド(11)と、
入口及び出口を有する高圧タービン(21)と、入口及び出口を有する高圧コンプレッサ(22)とを備える高圧ターボ過給機(20)であって、前記高圧タービンの入口は、前記排気マニホルドと流体的に連結され且つその内部の流体の流れを変化させ得るよう配置された可変形態を有する高圧ターボ過給機(20)と、
入口及び出口を有する低圧タービン(31)と、入口及び出口を有する低圧コンプレッサ(32)とを備える低圧ターボ過給機(30)であって、前記低圧タービンの入口は前記高圧タービンの出口と流体的に連結された可変形態を有し、前記低圧コンプレッサの出口は、前記高圧コンプレッサの入口と流体的に連結され、前記高圧コンプレッサの出口は、前記吸気マニホルドと流体的に連結された低圧ターボ過給機(30)とを備え、
前記高圧コンプレッサの周りに流れの少なくとも一部をバイパスするため、バイパス管(3)が設けられ、前記バイパス管(3)には、前記バイパス管内に提供された制限手段(4)が設けられ、
前記高圧タービンの周りに流れの少なくとも一部をバイパスするため、バイパス管(1)が設けられ、前記バイパス管(1)には、前記バイパス管内に提供された制限手段(2)が設けられる、内燃機関(10)。」

第3.刊行物に記載された発明
1.引用文献1
(1)引用文献1に記載された事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物であって原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-100694号公報(公開日、平成16年(2004年)4月2日、以下、「引用文献1」という。)には、次のA.ないしF.の事項が図面とともに記載されている。
A.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ共通軸(15、18)を介して結合されている、排気側に配置された少なくとも一つのタービン(13、16)及び給気側に配置された少なくとも一つの圧縮機(14、17)を備え、
排気側でタービン(13、16)の後方に直列に設けられている少なくとも一つの第1の触媒(30)を備え、
内燃機関(1)の低温時に前記第1の触媒(30)を急速加熱するための装置(40)を備え、
前記装置(40)が、それぞれのタービン(13、16)をバイパスするための、少なくとも一つのタービン(13、16)に並列に配置された配管(41)を有し、及び
前記装置(40)が切換装置(42)を有し、切換装置(42)は、排気側で配管(41)及びタービン(13、16)からなる並列配置の手前に直列に設けられ、及び切換装置(42)により、排気ガスのどれだけの部分量が場合によりタービン(13、16)を介して、及びどれだけの部分量が場合により配管(41)を介して第1の触媒(30)に直接供給されるかを設定可能である、内燃機関(1)用過給装置(10)。
【請求項2】 ・・・(省略)・・・
【請求項3】
タービン(13、16)の少なくとも一つが可変タービン形状を有するタービンとして形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の過給装置。
【請求項4】 ・・・(省略)・・・
【請求項5】 ・・・(省略)・・・
【請求項6】 ・・・(省略)・・・
【請求項7】
過給装置(10)が、
第1の共通軸(15)を介して相互に結合されている、それぞれ一つの高圧タービン(13)及びそれぞれ一つの高圧圧縮機(14)を有する少なくとも一つの高圧段(11)を備え、及び
第2の共通軸(18)を介して相互に結合されている、それぞれ一つの低圧タービン(16)及びそれぞれ一つの低圧圧縮機(17)を有する、前記高圧段(11)の後方に配置された少なくとも一つの低圧段(12)を備えた、
二段ターボチャージャ(10)として形成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の過給装置。
【請求項8】 ・・・(省略)・・・
【請求項9】 ・・・(省略)・・・
【請求項10】 ・・・(省略)・・・
【請求項11】 ・・・(省略)・・・
【請求項12】 ・・・(省略)・・・
【請求項13】 ・・・(省略)・・・
【請求項14】 ・・・(省略)・・・
【請求項15】
少なくとも一つの給気入口(5、7)及び少なくとも一つの排気出口(6、8)を設けた少なくとも一つのシリンダ(2)を有するエンジン・ブロックを備え、
過給装置(10)のタービン(13、16)が排気出口(6、8)の後方に配置され且つ過給装置(10)の圧縮機(14、17)が給気入口(5、7)の手前に配置されている、上記請求項のいずれかに記載の過給装置(10)を備えた、内燃機関(1)。
【請求項16】
過給装置(10)が少なくとも一つのターボチャージャ(10)を有することを特徴とする請求項15に記載の内燃機関。
【請求項17】
内燃機関(1)がオットー・サイクル・エンジン又はディーゼル・エンジンとして形成されていることを特徴とする請求項15又は16に記載の内燃機関。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項17】)

B.「【発明の実施の形態】
【0014】
図面に示すすべての図において、特に指示がないかぎり、同じ要素ないし機能には同じ符号が付けられている。図面のすべての図において、さらに、排気流れないし給気流れの方向はそれぞれ対応する配管内の矢印により示されている。」(段落【0014】)

C.「【0015】
図1は本発明による内燃機関の第1の実施態様を略図で示す。
図1において、符号1により内燃機関が示されている。この実施態様においては、内燃機関1は四気筒内燃機関として列状に形成され、したがって相互に列状に配置された四つのシリンダ2を有している。内燃機関1はフレッシュ・エア側3及び排気側4を有し、この場合、フレッシュ・エア側3の入口7は給気マニホルド5と結合され、及び排気側4の内燃機関1の出口8は二つの排気マニホルド6と結合されている。
【0016】
内燃機関1は符号10が付されたターボチャージャにより過給される。この実施態様においては、ターボチャージャ10は単段で形成され、したがって、共通軸15を介して相互に結合されたタービン13及び圧縮機14を有している。排気マニホルド6は下流側で排気管20、21と結合され、排気管20、21を介して排気ガスを内燃機関1のシリンダ2から排出させることができる。同様に給気管23、24が設けられ、給気管23、24は下流側で給気マニホルド5と結合されている。給気管23、24及び圧縮機14を介
して内燃機関1のシリンダ2に給気を供給可能である。
【0017】
さらに給気冷却器26が設けられ、給気冷却器26は圧縮機14と内燃機関1の入口7との間において給気管24内に配置されている。
さらに、圧縮機14に並列に配置された配管33が設けられている。したがって、この配管33は圧縮機14の入口の手前において給気管23から分岐し且つ圧縮機14の後方で給気管24内に合流する。配管33内にさらにバイパス弁34が配置されている。したがって、その中に含まれているバイパス弁34ないし配管開閉装置34を備えた配管33は圧縮機14をバイパスしている。バイパス弁34は、例えば電気式、空気式又は油圧式で操作又は制御することができる。」(段落【0015】ないし【0017】)

D.「【0021】
・・・(省略)・・・
図1における配置とは異なり、図2に示すターボチャージャ過給式内燃機関1は、可変タービン形状(VTG)をもつターボチャージャ10を有している。このような可変タービン形状の機能はすべての図において矢印で表わされている。」(段落【0021】)

E.「【0024】
図1とは異なり、図4に示す配置は二段に形成されたターボチャージャ10を有している。このような二段ターボチャージャ10は高圧段11及び低圧段12を有している。高圧段11は、共通軸15を介して相互に剛に結合されている高圧タービン13及び高圧圧縮機14から構成されている。同様に、低圧段12は、共通軸18により相互に結合された低圧タービン16及び高圧タービン17(当審注:「低圧圧縮機17」の誤記であることは明らかである。)を有している。高圧段11は排気側において低圧段12の手前に配置されている。
【0025】
二段に形成されたターボチャージャ10を提供することにより、内燃機関1のトルク、それに伴って定格出力の上昇を達成することができる。
低圧タービン16のタービン羽根車直径は、この実施態様においては、高圧タービンのタービン羽根車直径より大きく、この場合、低圧タービンと高圧タービンとの間の羽根車直径比は典型的には1.2ないし1.8の範囲内にあるが、必ずしもこの範囲内にある必要はない。同様に、高圧圧縮機14の圧縮機羽根車は低圧圧縮機17の圧縮機羽根車より小さい直径を有している。
【0026】
両方のタービン13、16は相互に直列に配置され、この場合、高圧タービン13は排気管22を介して低圧タービン16と結合され、且つ排気ガスの流れ方向において低圧タービン16の手前に配置されている。同様に、低圧圧縮機17及び高圧圧縮機14は相互に直列に配置され且つ給気管25を介して相互に結合され、この場合、低圧圧縮機17は給気の流れ方向において高圧圧縮機14の手前に配置されている。」(段落【0024】ないし【0026】)

F.「【0027】
・・・(省略)・・・
図5は本発明による二段過給式内燃機関の特に好ましい第5の実施態様を略図で示す。図5における好ましい配置は、本質的に、図1-4に対応する内燃機関1の異なる形態の組み合わせから構成されている。ここでは、ターボチャージャ10は二段に形成された可変タービン形状を有するターボチャージャとして形成されている。ターボチャージャ10の両方のタービン13、16に並列に前置触媒31が配置されている。本発明により、この配置はバイパス装置40を有し、バイパス装置40は、中に含まれている切換装置42を有する配管部分41を含む。
【0028】
ここで、すべての実施態様において、高圧タービン13又は低圧タービン16も、いわゆる双流タービンとして形成されていてもよいことは当然であることを注記しておく。さらに、図4及び5において、追加態様又は代替態様として、低圧タービン16が可変タービン形状を有していてもよい。
【0029】
図5はさらに制御装置50を示す。制御装置50は、図5には示されていない制御ライン又はデータラインを介して、切換装置42及び/又はバイパス開閉装置34及び/又は可変タービン形状をもつタービン13と結合されている。これにより、ターボチャージャ10のこれらの要素は、制御信号又はデータ信号a1、a2、a3により、これらの要素が必要に応じて設定可能なように調節可能である。特にこれにより、切換装置42において、正確に設定された排気ガス量がそれぞれ、タービン13内を流れ、ないし配管部分41を介して分岐されることが保証される。配管部分41ないしタービン13内の流量のこの設定は無段に且つ有利な場合には制御装置50により動的に実行可能である。同様のことが、可変タービン形状をもつタービン13の、並びにバイパス開閉装置34のそれぞれの位置の設定においても当てはまる。このようにして、それぞれのエンジン出力、その時点のエンジン負荷及び排気ガス全流量の関数として、触媒30、31の最適加熱即ちできるだけ急速な加熱を達成することが可能である。」(段落【0027】ないし【0029】)

(2)引用文献1に記載された事項からわかること
上記(1)A.ないしF.に摘記した事項及び図1ないし5の記載からみて、引用文献1には、第5の実施態様として図5とともに、次のG.ないしJ.の事項が実質的に記載されていることがわかる。
G.上記(1)B.及びC.の段落【0015】の記載、並びに、図1及び図5の記載からみて、引用文献1の第5の実施態様として記載された内燃機関1は、四つのシリンダ2を有し、入口7を介して給気マニホルド5と、出口8を介して排気マニホルド6と、それぞれ結合していることがわかる。

H.上記(1)B.ないしF.の記載、並びに、図1、図2、図4及び図5の記載からみて、引用文献1の第5の実施態様として記載された内燃機関1の二段ターボチャージャ10の高圧段11は、高圧タービン13と高圧圧縮機14とを備えていること、その高圧タービン13の入口が排気管20を介して排気マニホルド6に流体的に結合していること、その高圧タービン13が可変タービン形状(VTG)をもつこと、がわかる。なお、高圧タービン13と高圧圧縮機14とがそれぞれ入口と出口を有していること、可変タービン形状(VTG)がタービン入口内部の流体の流れを変化させ得るよう配置されていることは、当業者にとって自明の事項である。

I.上記(1)B.、C.、E.及びF.の記載、並びに、図1、図4及び図5の記載からみて、引用文献1の第5の実施態様として記載された内燃機関1の二段ターボチャージャ10の低圧段12は、低圧タービン16と低圧圧縮機17とを備えていること、その低圧タービン16の入口が排気管を介して高圧タービン13の出口と流体的に結合していること、その低圧圧縮機17の出口が給気管を介して高圧圧縮機14の入口と流体的に結合していること、がわかる。また、高圧圧縮機14の出口は、給気管24を介して給気マニホルド5と流体的に結合していることがわかる。

J.上記(1)B.、C.及びF.の記載、並びに、図1、図5の記載からみて、引用文献1の第5の実施態様として記載された内燃機関1の二段ターボチャージャ10の高圧段11には、高圧圧縮機14の周りに流れの少なくとも一部をバイパスするための配管33が設けられ、その配管33には、配管33内に提供されたバイパス開閉装置34が設けられていることがわかる。また、図5の記載からみて、高圧タービン13の周りにも、高圧圧縮機14と同様に、流れの少なくとも一部をバイパスするための配管が設けられ、その配管には、配管内に提供されたバイパス開閉装置が設けられることがわかる。

(3)引用文献1に記載された発明
上記(1)及び(2)の記載及び図面の記載から、引用文献1には、第5の実施態様として図5とともに、次の発明(以下、「引用文献1に記載された発明」という。)が記載されているといえる。
「内燃機関1において、
四つのシリンダ2と、
前記シリンダ2に結合された排気マニホルド6と、
前記シリンダ2に結合された給気マニホルド5と、
入口及び出口を有する高圧タービン13と、入口及び出口を有する高圧圧縮機14とを備える二段ターボチャージャ10の高圧段11であって、前記高圧タービン13の入口は、前記排気マニホルド6と流体的に結合され且つその内部の流体の流れを変化させ得るよう配置された可変タービン形状をもつ二段ターボチャージャ10の高圧段11と、
入口及び出口を有する低圧タービン16と、入口及び出口を有する低圧圧縮機17とを備える二段ターボチャージャ10の低圧段12であって、前記低圧タービン16の入口は前記高圧タービン13の出口と流体的に結合され、前記低圧圧縮機17の出口は、前記高圧圧縮機14の入口と流体的に結合され、前記高圧圧縮機14の出口は、前記給気マニホルド5と流体的に結合された二段ターボチャージャ10の低圧段12とを備え、
前記高圧圧縮機14の周りに流れの少なくとも一部をバイパスするため、配管33が設けられ、前記配管33には、前記配管33内に提供されたバイパス開閉装置34が設けられ、
前記高圧タービン13の周りに流れの少なくとも一部をバイパスするため、配管が設けられ、前記配管には、前記配管内に提供されたバイパス開閉装置が設けられる、内燃機関1。」

2.引用文献2
(1)引用文献2に記載された事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物であって原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-225586号公報(公開日、平成16年(2004年)8月12日、以下、「引用文献2」という。)には、次のA.ないしC.の事項が図面とともに記載されている。
A.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のターボチャージャを直列に設けた多段ターボチャージャの制御装置であって、
エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、
該運転状態検出手段の検出結果に基づき制御領域を選択する制御領域選択手段と、
該制御領域選択手段により選択された所定の制御領域において、少なくとも一つのターボチャージャによる圧力比がほぼ一定となるように優先して制御すると共に、他のターボチャージャにより目標過給圧と実過給圧とに基づいてフィードバック制御するフィードバック制御手段と、
を備えることを特徴とする多段ターボチャージャの制御装置。
【請求項2】
前記複数のターボチャージャは、タービンノズル部に流量可変機構を有する可変容量ターボチャージャであることを特徴とする請求項1に記載の多段ターボチャージャの制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】)

B.「【0015】
図1は、本実施の形態に係る多段ターボチャージャの制御装置の概要を示す図であり、本発明を、可変ノズルを有する可変容量ターボチャージャを2台直列に配置した多段ターボチャージャに適用した例である。
【0016】
図示するように、エンジン10の排気経路12には、高圧段タービン14と低圧段タービン16とが排気ガスの流れ方向に間隔を隔てて直列に介設されており、エンジン10の吸気経路18には、高圧段コンプレッサ20と低圧段コンプレッサ22とが吸入空気の流れ方向に間隔を隔てて直列に介設されている。高圧段コンプレッサ20と高圧段タービン14とは回転軸24で連結されて高圧段ターボチャージャ26を構成し、低圧段コンプレッサ22と低圧段タービン16とは回転軸28で連結されて低圧段ターボチャージャ30を構成している。」(段落【0015】及び【0016】)

C.「【0021】
さらに、高圧段ターボチャージャ26の高圧段タービン14と低圧段ターボチャージャ30の低圧段タービン16とは、それらのタービンノズル部に流量可変機構としての可変ノズルVNHおよびVNLを有している。マイクロコンピュータ等で構成されるコントロールユニット40は、所定の過給圧を得るために、各センサから送られてきた出力値に応じて、可変ノズルVNHおよびVNLを後述のように制御する。」(段落【0021】)

(2)引用文献2に記載された事項からわかること
上記(1)A.ないしC.に摘記した事項及び図面の記載からみて、引用文献2には次のD.の事項が実質的に記載されていることがわかる。
D.引用文献2に記載されたエンジン10には、高圧段タービン14と高圧段コンプレッサ20とを備える高圧段ターボチャージャ26と、低圧段タービン16と低圧段コンプレッサ22とを備える低圧段ターボチャージャ30とが備えられていることがわかる。
また、高圧段タービン14及び低圧段タービン16は、それぞれのノズル部に可変ノズルVNH及び可変ノズルVNLを有することがわかる。なお、可変ノズルは、ノズル部の内部の流体の流れを変化させ得るよう配置されていることは明らかである。
さらに、エンジン10に、吸気経路18と排気経路12とがそれぞれ流体的に連結される燃焼室が設けられることは、明らかであることから、上記(1)B.段落【0016】の記載とあわせてみれば、低圧段コンプレッサ22の出口は高圧段コンプレッサ20の入口と流体的に連結され、以下同様に、高圧段コンプレッサ20の出口はエンジン10の燃焼室と、エンジン10の燃焼室は高圧段タービン14のノズル部と、高圧段タービン14の出口は低圧段タービン16のノズル部と、それぞれ流体的に連結されていることがわかる。

(3)引用文献2に記載された発明
上記(1)及び(2)の記載及び図面の記載から、引用文献2には次の発明(以下、「引用文献2に記載された発明」という。)が記載されているといえる。
「エンジン10において、
高圧段タービン14と、高圧段コンプレッサ20とを備える高圧段ターボチャージャ26であって、前記高圧段タービン14のノズル部は、エンジン10の燃焼室と流体的に連結され且つその内部の流体の流れを変化させ得るよう配置された可変ノズルVNHを有する高圧段ターボチャージャ26と、
低圧段タービン16と、低圧段コンプレッサ22とを備える低圧段ターボチャージャ30であって、前記低圧段タービン16のノズル部は前記高圧段タービン14の出口と流体的に連結された可変ノズルVNLを有し、前記低圧段コンプレッサ22の出口は、前記高圧段コンプレッサ20の入口と流体的に連結され、前記高圧段コンプレッサ20の出口は、エンジン10の燃焼室と流体的に連結された低圧段ターボチャージャ30と、を備えたエンジン10。」

第4.対比
本願発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明における「内燃機関1」は、その機能、構造及び技術的意義からみて、本願発明における「内燃機関(10)」に相当し、以下同様に、「四つのシリンダ2」は「複数の燃焼シリンダ」に、「結合」は「連結」に、「排気マニホルド6」は「少なくとも1つの排気マニホルド(12)」に、「給気マニホルド5」は「少なくとも1つの吸気マニホルド(11)」に、「高圧タービン13」は「高圧タービン(21)」に、「高圧圧縮機14」は「高圧コンプレッサ(22)」に、「二段ターボチャージャ10の高圧段11」は「高圧ターボ過給機(20)」に、「可変タービン形状をもつ」は「可変形態を有する」に、「低圧タービン16」は「低圧タービン(31)」に、「低圧圧縮機17」は「低圧コンプレッサ(32)」に、「二段ターボチャージャ10の低圧段12」は「低圧ターボ過給機(30)」に、「配管33」は「バイパス管(3)」に、「バイパス開閉装置34」は「制限手段(4)」に、「配管」は「バイパス管(1)」に、「バイパス開閉装置」は「制限手段(2)」に、それぞれ相当する。

してみると、本願発明と引用文献1に記載された発明とは、次の<一致点>で一致し、次の<相違点>で相違する。

<一致点>
「内燃機関において、
複数の燃焼シリンダと、
前記燃焼シリンダに連結された少なくとも1つの排気マニホルドと、
前記燃焼シリンダに連結された少なくとも1つの吸気マニホルドと、
入口及び出口を有する高圧タービンと、入口及び出口を有する高圧コンプレッサとを備える高圧ターボ過給機であって、前記高圧タービンの入口は、前記排気マニホルドと流体的に連結され且つその内部の流体の流れを変化させ得るよう配置された可変形態を有する高圧ターボ過給機と、
入口及び出口を有する低圧タービンと、入口及び出口を有する低圧コンプレッサとを備える低圧ターボ過給機であって、前記低圧タービンの入口は前記高圧タービンの出口と流体的に連結され、前記低圧コンプレッサの出口は、前記高圧コンプレッサの入口と流体的に連結され、前記高圧コンプレッサの出口は、前記吸気マニホルドと流体的に連結された低圧ターボ過給機とを備え、
前記高圧コンプレッサの周りに流れの少なくとも一部をバイパスするため、バイパス管が設けられ、前記バイパス管には、前記バイパス管内に提供された制限手段が設けられ、
前記高圧タービンの周りに流れの少なくとも一部をバイパスするため、バイパス管が設けられ、前記バイパス管には、前記バイパス管内に提供された制限手段が設けられる、内燃機関。」

<相違点>
本願発明においては、低圧ターボ過給機(30)の低圧タービン(31)の入口は、「可変形態」を有するのに対し、引用文献1に記載された発明(図5に基づく)における二段ターボチャージャ10の低圧段12の低圧タービン16の入口は、「可変タービン形状」を有していない点(以下、「相違点」という。)。

第5.判断
上記相違点について検討する。
本願発明と引用文献2に記載された発明とを対比すると、引用文献2に記載された発明における「エンジン10」は、その機能、構造及び技術的意義からみて、本願発明における「内燃機関(10)」に相当し、以下同様に、「高圧段タービン14」は「高圧タービン(21)」に、「高圧段コンプレッサ20」は「高圧コンプレッサ(22)」に、「高圧段ターボチャージャ26」は「高圧ターボ過給機(20)」に、「ノズル部」は「入口」に、「可変ノズルVNHを有する」は「可変形態を有する」に、「高圧段ターボチャージャ26」は「高圧ターボ過給機(20)」に、「低圧段タービン16」は「低圧タービン(31)」に、「低圧段コンプレッサ22」は「低圧コンプレッサ(32)」に、「低圧段ターボチャージャ30」は「低圧ターボ過給機(30)」に、「可変ノズルVHLを有し」は「可変形態を有し」に、それぞれ相当する。
してみると、引用文献2に記載された発明は、本願発明の発明特定事項を用いて、次のように表現することができる。
「内燃機関において、
高圧タービンと、高圧コンプレッサとを備える高圧ターボ過給機であって、前記高圧タービンの入口は、前記内燃機関の燃焼室と流体的に連結され且つその内部の流体の流れを変化させ得るよう配置された可変形態を有する高圧ターボ過給機と、
低圧タービンと、低圧コンプレッサとを備える低圧ターボ過給機であって、前記低圧タービンの入口は前記高圧タービンの出口と流体的に連結された可変形態を有し、前記低圧コンプレッサの出口は、前記高圧コンプレッサの入口と流体的に連結され、前記高圧コンプレッサの出口は、前記内燃機関の燃焼室と流体的に連結された低圧ターボ過給機とを備えた内燃機関。」

引用文献1に記載された発明と引用文献2に記載された発明とは、いずれも「高圧ターボ過給機と低圧ターボ過給機とを備えた内燃機関」であり、かつ、引用文献1の段落【0028】には、「図4及び5において、追加態様又は代替態様として、低圧タービン16が可変タービン形状を有していてもよい。」(上記第3.1.(1)F.を参照。)と記載されていることから、引用文献1に記載された発明において、引用文献2に記載された発明における「高圧タービン」及び「低圧タービン」の入口にそれぞれ可変形態を有する技術を適用し、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

また、本願発明を全体としてみても、その作用効果は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明から当業者が予測できる範囲のものである。
なお、本件審判請求人は、平成23年3月8日付けで提出の審判請求書において、作用・効果を縷々主張しているが、本願発明においては、例えば、エンジン速度やエンジン負荷に応じてバイパス流量や可変形態を具体的にどのように制御するかについて何ら特定されておらず、当該主張は、本願発明の発明特定事項に対応したものとは認められない。

第6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-13 
結審通知日 2012-01-16 
審決日 2012-01-27 
出願番号 特願2005-279551(P2005-279551)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水野 治彦  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 鈴木 貴雄
柳田 利夫
発明の名称 VTGタービン段を利用する多段ターボ過給装置  
代理人 富田 博行  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 千葉 昭男  
代理人 串田 幸一  

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