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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D06F
管理番号 1258000
審判番号 不服2011-7228  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-06 
確定日 2012-06-07 
事件の表示 特願2007- 57193号「洗濯乾燥機」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月12日出願公開、特開2007-175528号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年9月21日に出願した特願2004-273382号(以下「原出願」という。)の一部を平成19年3月7日に新たな特許出願としたものであって、平成22年12月22日付けで拒絶査定がなされ(発送:平成23年1月11日)、これに対し、平成23年4月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判請求と同時に手続補正がなされたものであり、さらに、平成24年1月4日付けで当審において拒絶理由が通知され(発送:1月10日)、これに対して、同年3月6日付けで手続補正書及び意見書が提出されたものである。。

第2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年3月6日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
外箱と、
前記外箱内に配置された洗濯槽と、
前記洗濯槽に設けられた吸込口及び吐出口と、
前記吸込口及び吐出口に両端部がそれぞれ接続された循環風路と、
前記循環風路内に設けられ前記洗濯槽内の空気を前記吸込口から前記循環風路内に吸い込んだ後、前記吐出口から前記洗濯槽内に戻すための送風機と、
前記循環風路内に配置された蒸発器と、
前記循環風路内のうち前記蒸発器よりも吐出口側に配置された凝縮器と、
前記蒸発器及び凝縮器と共にヒートポンプを構成する圧縮機及び減圧手段とを備え、
洗濯物の脱水のための前記ヒートポンプの運転のうち、初期運転時の設定を、安定運転時の冷媒流量よりも多い冷媒流量となる設定としたことを特徴とする洗濯乾燥機。」

3.引用刊行物とその記載事項
(1)当審における平成24年1月4日付けの拒絶理由(以下「当審における拒絶理由」という。)において引用した、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-201772号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。

ア.「【0019】
(実施例1)
図1から図4は本発明の実施例1である洗濯機能を付加した衣類乾燥機を示し、筐体1の内部に複数のサスペンション2によって弾性支持された円筒状の水槽3と、水槽3の内部に設けられた衣類等4を収納する円筒状で横軸型の回転可能な回転槽5と、回転槽5を回転駆動させる駆動モータ6と、放熱器7と吸熱器8と圧縮機27とからなり冷媒を用いたヒートポンプサイクルとで構成されている。なお、回転槽5の軸は水平に対して5?45度、前方高位に傾斜している。それにともない、水槽3も傾斜して配置している。
【0020】
サスペンション2は、洗濯・脱水時の振動を吸収するために設けられており、バネなどでできている。また筐体1、水槽3、回転槽5の前面にはそれぞれ衣類等4を出し入れする開口部1a、3a、5aを有し、筐体1の開口部1aにはこれを開閉する扉9が設けられている。また水槽3の開口部3aは、筐体1の開口部1aとベローズ10によって水が漏れないように水密に連結されている。水槽3の底部には洗濯水を排出する排水口11を有し、排水弁12に連結されている。
【0021】
また、回転槽5の内壁には、回転とともに衣類等4を持ち上げて落下させるバッフル(図示せず)と、洗濯水および乾燥空気を回転槽5の外へ流す通気孔14を多数設けている。
【0022】
ヒートポンプサイクルは、水槽3を前方高位に傾けたことによって形成された水槽3と筐体1の背面1bの間の下部に設けられ、放熱器7および吸熱器8は、筐体1の背面1bに平行方向に並んで配置され、前記圧縮機27は、水槽3の下部のサスペンション2と熱交換器である吸熱器8と放熱器7の間である筐体1の側面近くに配置されている。このような構成により、筐体1内のデッドスペースを有効に利用することができる。なお、放熱器7と吸熱器8はそれぞれ加熱ヒーター等と水冷器等でもよい。
【0023】
放熱器7から回転槽5へ空気を流す往路と、回転槽5から吸熱器8へ空気を流す復路からなる循環風路を形成し、前記往路は放熱器7に図2に示す矢印d方向に空気を流す放熱器風路16と往路ダクト21から構成され、前記復路は吸熱器8に矢印c方向に空気を流す吸熱器風路15と復路ダクト22から構成されている。
【0024】
前記往路ダクト21は筐体1の上面と側面、および水槽3とがなす空間に設けられている。このような構成により筐体1内のデッドスペースを有効に利用することができる。
【0025】
前記吸熱器風路15と前記放熱器風路16は、筐体1の背面1bに沿って平行方向に並んで配置し、吸熱器風路15と放熱器風路16を循環ダクト17によって連通するように循環風路が構成されている。このような構成によって、風路の圧力損失を小さくすることができる。
【0026】
前記放熱器風路16と前記往路ダクト21、および前記復路ダクト22と前記吸熱器風路15は、それぞれ伸縮自在な接続手段によって連通されている。このような構成をしているため、回転槽5の振動がヒートポンプサイクルへ直接伝わらないので、信頼性および耐久性を向上できる。ここで、伸縮自在な接続手段とは、例えば蛇腹構造の伸縮可能なフレキシブルホース23、24である。
【0027】
18は送風手段を構成する乾燥用送風機で、放熱器7と吸熱器8との間、つまり循環ダクト17部分に配置されており、放熱器7によって加熱された温風を回転槽5内へ供給する。このような構成により、コンパクトに送風機18を搭載することができる。
【0028】
送風機18によって空気を回転槽5内へ供給する水槽3の前方高位に設けられた往路口19と、送風機18によって回転槽5内へ供給された空気を通気孔14を介して回転槽5外へ排出する水槽3の背面部に設けられた復路口20があり、空気は回転槽5の前方高位から後方下位に矢印e方向に流れるように構成されている。」(段落【0019】?【0028】)

イ.「【0031】
図4は本実施例1のシステム概念図で、乾燥用空気の流れとヒートポンプサイクルの構成を示す。前記構成において図4の矢印で示すように、乾燥用空気は送風機18によって送風され、放熱器8を通り加熱された空気は往路ダクト21を通り往路口19から回転槽5内に矢印40方向に供給される。回転槽5内の衣類等4を通過し湿気を帯びた空気は、復路口20から復路ダクト22に矢印41方向に排出され、吸熱器8に至る。吸熱器8を通過し除湿された空気は、循環ダクト17を介して送風機18に至り、再び放熱器7に送風されて循環する。
【0032】
また、ヒートポンプサイクルは、冷媒を圧縮する圧縮機27と、圧縮された冷媒の熱を放熱する放熱器7と、高圧の冷媒の圧力を減圧するための絞り弁や毛細管等からなる絞り手段28と、減圧されて低圧となった冷媒が周囲から熱を奪う吸熱器8とを冷媒が循環するように管路29で連結するように構成されたものである。
【0033】
冷媒は矢印42方向に管路29を流れて循環し、ヒートポンプサイクルを形成する。ここで、炭酸ガスを冷媒として用いることで、ヒートポンプサイクルの冷凍サイクルの放熱側で超臨界状態をつくることにより高温の熱を放出することができるので、衣類等4の乾燥に適している。なお、冷媒にはフロン系のものを用いてもよい。
【0034】
以上のような構成において、本実施例1の動作について説明する。まず始めに洗浄工程では、排水弁12を閉じた状態で給水弁(図示せず)を制御して給水ホース(図示せず)から水槽3内に所定水位まで給水を行い、続いて衣類等4と洗剤と洗浄水の入った回転槽5を駆動モータ6によって回転させて洗浄を行う。所定時間後、駆動モータ6が停止し、排水弁12を開放して洗浄後の汚れた水を排水口11から筐体1外へ排出する。このとき、復路ダクト22内には、洗浄水が一部浸入するが、復路ダクト22は途中経路を上方に持ち上げているので、吸熱器8に洗浄水が浸入することはない。
【0035】
次のすすぎ工程では、洗浄工程と同様に再び水槽3内に給水し、駆動モータ6によって回転槽5を回転させて衣類等4のすすぎを行う。ここでも、吸熱器8に洗浄水が浸入することはない。
【0036】
脱水工程では、排水弁12を開放してすすぎ後の水を排水口11より筐体1外に排出する。その後、駆動モータ6によって回転槽5を高速に回転して衣類等4の脱水が行われる。
【0037】
前記洗浄・すすぎ・脱水工程時には、回転槽5の回転振動によって水槽3全体に振動が生じる。しかし、水槽3は複数のサスペンション2により弾性支持されているため振動は吸収され、筐体1の振動は抑制される。
【0038】
また、水槽3の振動がヒートポンプサイクルに与える影響はというと、放熱器風路16と往路ダクト21、および復路ダクト22と吸熱器風路15が伸縮可能なフレキシブルホース23、24によって接続されているので、振動が直接伝わることはなく、影響はない。
【0039】
以上の洗濯運転が終了した後の乾燥工程では、まずヒートポンプサイクルの圧縮機27を作動させると冷媒が圧縮され、高温高圧の状態になった冷媒が放熱器7において熱を放出する。送風機18によって送風された乾燥用空気は、放熱器風路16を通り放熱器7において冷媒と熱交換することにより加熱されて高温の空気になり、フレキシブルホース23、往路ダクト21を通過し往路口19から回転槽5内に供給される。一方、冷媒は常温高圧の状態になる。この間に回転槽5は駆動モータ6によって回転しており、衣類等4は攪拌されている。
【0040】
回転槽5内に送風された空気は、回転槽5内の雰囲気温度を高めるとともに、衣類等4の乾燥を促し、水分を吸収する。水分を吸収して湿った空気は、回転槽5の通気孔14を通り復路口20から復路ダクト22、フレキシブルホース24を通過後、エアフィルター25によってリント等が除去され、吸熱器風路15に至る。
【0041】
前記常温高圧の状態の冷媒は、絞り弁や毛細管等28によって急激に減圧されて、吸熱器8に至り、吸熱器8を通過する湿った空気から熱を奪い取り、圧縮機27に戻り圧縮される。一方、湿った空気は冷媒によって熱を奪われたことによって除湿され、乾いて冷えた空気と除湿水に分離する。分離した除湿水は吸熱器風路15の下流側下部つまり吸熱器風路15の循環ダクト17側に設けられた排出口26より筐体1外へ排出され、乾いて冷えた空気は循環ダクト17を通り送風機18によって放熱器風路16に送風され、再び放熱器7において加熱されて、フレキシブルホース23、往路ダクト21を通過し往路口19から回転槽5内へと循環する。」(段落【0031】?【0041】)

以上の摘記事項及び図1?4の図示事項を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「筐体1と、
前記筐体1内に配置された水槽3と 、
前記水槽3に設けられた復路口20及び往路口19と、
前記復路口20及び往路口19に両端部がそれぞれ接続された循環風路と、
前記循環風路内に配置され前記水槽3内の空気を前記復路口20から前記循環風路内に排出した後、前記往路口19から前記水槽3内に供給するための送風機18と、
前記循環風路内に配置された吸熱器8と、
前記循環風路内のうち前記吸熱器8よりも往路口19側に配置された放熱器7と、
前記吸熱器8及び放熱器7と共にヒートポンプサイクルを構成する圧縮機27及び減圧のための絞り手段28とを備え、
乾燥工程において前記ヒートポンプサイクルの運転を行う衣類乾燥機。」

(2)当審における拒絶理由にて引用した、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-299696号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。

ウ.「【0007】加温手段としては、乾燥風循環通路内に設けられ、乾燥風を生成する乾燥用ヒータ又は水槽内に設けられた洗浄用ヒータがある。
【0008】乾燥用ヒータ又は洗浄用ヒータの作動タイミングとしては、最終の脱水工程時に、乾燥風ヒータ又は洗浄用ヒータの内、少なくともいずれか一方で脱水槽内を加温する。
【0009】あるいは、最終の脱水工程時に、乾燥用ヒータ又は洗浄用ヒータの両者を同時に、又は、時間差を設けて脱水槽内を加温する。」(段落【0007】?【0009】)

エ.「【0016】
【作用】かかる洗濯乾燥機によれば、乾燥工程の前に、加温手段によって脱水槽内を予め加温するため、予熱が与えた状態で乾燥工程に入るようになり、乾燥工程初期の予熱期間が短縮され、乾燥時間の短縮が図れる。また、最終脱水工程の際に、加温されることで、洗濯物の温度上昇によって脱水率が上がり、被乾燥水量が減るため、乾燥時間は短くなる。(段落【0016】)

オ.「【0028】次に、図2に示すタイムチャートに基づき説明する。まず、給水栓15を開けて水槽3内へ給水し、給水後、洗浄工程に入り、所定時間洗浄を行なう。この場合、給水工程から洗浄工程において、洗浄用ヒータがオンであれば温水による洗浄が可能となる。洗浄完了後、排水、脱水し、再び給水した後、すすぎ工程に入る。すすぎ完了後、排水、脱水し、以下何回かすすぎ工程を繰返す。最終のすすぎ完了後、排水し、最終の脱水工程で脱水する。脱水完了後、乾燥工程で乾燥し、洗濯から乾燥までを連続して行なう。
【0029】この洗濯から乾燥までの一連の作業において、乾燥工程の前、即ち、最終の脱水と並行して乾燥用ヒータ45をオンとし、温風を脱水槽5内へ送風する。送風による加温時間は布量によって変化する。
【0030】これにより、乾燥工程前に、脱水槽5及び布地に熱が与えられ、予熱が与えられた状態で乾燥工程に入る。
【0031】したがって、図3に示す如く、乾燥工程初期の予熱期間が短縮されるため、乾燥時間は短くなる。さらに、最終の脱水工程の際に、加温された洗濯物の温度上昇により、脱水率が上がり、被乾燥水量が減るため乾燥時間が短縮される。ちなみに、例えば、布量が3kgの場合、約20分加温すると、乾燥工程の時間は約93分で済むようになり、加温をしない従来の乾燥時間約120分に比べて乾燥時間は短くなる。」(段落【0028】?【0031】)

(3)当審における拒絶理由にて引用した、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-85497号公報(以下「刊行物3」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。

カ.「【0006】かかる構成の洗濯乾燥機の脱水・乾燥行程は、プリヒート乾燥と通常乾燥とに分けられる。
【0007】先ず、プリヒート乾燥を説明する。マイコンは前述の脱水・乾燥行程となると、ファン102,熱交換器109及びヒータ111をオン駆動すると共に、駆動モータ104を高速回転駆動する(「衣類に働く遠心力≧衣類に働く重力」となる回転数)。
【0008】これによりファン102により風が形成され、この風は熱交換器109により除湿処理されると共に、ヒータ111により温風とされ、通風孔118を介して前述の高速回転される脱水槽107内に送り込まれる(矢印Wで示す)。脱水槽107内に送り込まれた温風は、回転駆動される脱水槽107の孔部116と温風取り出し孔105aを介してファン102に帰還され、以後、前述のように除湿処理及び温風化処理が施され、再度、脱水槽107内に送り込まれるように当該ドラム式洗濯乾燥機内を循環する(循環空気と称する)。
【0009】このようにすることにより、衣類は脱水槽107の高速回転による脱水と、水槽105に吹き込まれるヒータ111およびファン102からの温風による蒸発により乾燥が進む。また、蒸発した水は熱交換器109にて除湿されて水に変換され外部へ排出される。以上の行程(プリヒート乾燥)を所定時間行った後、マイコンは脱水槽107を低速回転(「衣類に働く遠心力<衣類に働く重力」となる回転数)による通常乾燥に切り替える。ところで、プリヒート乾燥の乾燥速度は、脱水槽107の回転脱水による脱水速度とヒータ111およびファン102の温風による蒸発速度とを加えたものである。ここに、乾燥速度は単位時間当りに衣類から出ていく水量と定義する。」(段落【0006】?【0009】)

(4)当審における拒絶理由にて引用した、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-197125号公報(以下「刊行物4」という。)には、図5、14と共に、以下の記載がある。

キ.「【0007】
【発明が解決しようとする課題】このような冷凍サイクルを設計するとき、蒸発器5中で過不足なく冷媒の蒸発を終えるように冷媒封入量を決定することは非常に重要である。例えば、不足冷媒の場合は、蒸発器5の途中で冷媒の蒸発が終了してしまい蒸発器5での吸熱量は少なくなり、蒸発器5の熱交換能力が十分発揮されず冷却不足となる。又、過剰冷媒の場合は、蒸発器5内だけで冷媒が蒸発しきれずに、圧縮機1の入口での吸入管において冷媒の蒸発が起こって吸入管が発露する。更に、過剰冷媒の場合、吸入管で冷媒が蒸発しきれずに圧縮機1は冷媒を液状態のまま吸入し破損する場合もある。
【0008】しかし乍ら、設計上同一の冷凍サイクルであっても、後述する各々の環境の違いにより適性冷媒充填量は一定ではない。例えば、一般的に、上記圧縮機1に封入している圧縮機油は、冷媒との相溶性があり、低温になるほど冷媒が溶け込む性質を持っている。圧縮機油の一部は、冷媒と一緒に冷凍サイクルを循環するが、冷凍サイクルの構造上、主に下部に配置する圧縮機1と凝縮器2に留まっている。即ち、冷凍冷蔵庫の周囲温度が高温のときは、圧縮機油に冷媒が溶け込む量は少なく過剰冷媒になる傾向があり、一方、周囲温度が低温のときは、圧縮機油に冷媒が溶け込む量は多く不足冷媒になる傾向にある。
【0009】しかも、圧縮機1が駆動開始時は、圧縮機1、凝縮器2の温度が駆動安定時に比べて温度が低く、圧縮機油に冷媒が溶け込む量が多く、冷媒はキャピラリーチューブ4で絞られて、蒸発器5に到達するので不足冷媒になる傾向がある。又、冷媒の特性により、蒸発器5での熱交換量が多いとき、冷媒は蒸発しやすく、熱交換量が少ないときは、蒸発し難い。即ち、冷凍冷蔵庫の冷蔵室11、冷凍室12に食品等の負荷が多い場合や、食品等の負荷を投入した直後は不足冷媒になる傾向がある。」(段落【0007】?【0009】)

ク.「【0060】[第7の実施の形態]
構成;この実施の形態では図5に示すように、上記図14で示した従来の冷凍冷蔵庫の冷凍サイクルの構成において、キャピラリーチューブ4に並列に該キャピラリーチューブ4より管の内径の大きなキャピラリーチューブ25を設けるとともにドライヤ3とこれらキャピラリーチューブとの間に設けた切換弁26で選択的に切り換えることができるようになっている。更に、この実施の形態では制御手段23を圧縮機1と切換弁26の間に設けている。
【0061】動作;この実施の形態では、制御手段23の制御により、圧縮機1が、冷凍室12の温度が設定された温度より高ければONして駆動するとともに、低ければOFFして駆動を停止する。この第7の実施の形態の発明においても、上記第1の実施の形態と同様に、冷凍冷蔵庫の冷媒充填量は、周囲温度が比較的高いときに、過剰冷媒にならないように決定しており、過剰冷媒による吸入管の発露対策は行っていない。
【0062】そのため、冷凍冷蔵庫の周囲温度が比較的低い圧縮機1の駆動開始時、即ち圧縮機1や凝縮器2の温度が低いときは、圧縮機1や凝縮器2に溜まっている圧縮機油に冷媒が沢山溶け込み不足冷媒になってしまう。上記圧縮機1の駆動開始からの一定時間(不足冷媒期間)は、冷凍冷蔵庫の周囲温度、冷蔵室11及び冷凍室12の温度、前回の圧縮機1のON/OFF時間等の影響を受けて変化する値であり、制御手段23に含まれるマイクロコンピュータ等で演算して求めることができる。
【0063】そこで、この第7の実施の形態の発明では、キャピラリーチューブの内径が異なれば、即ち、冷媒の循環量が変わる特性を利用する。圧縮機1の駆動開始から一定時間(不足冷媒期間)、冷媒をキャピラリーチューブ25より内径の大きなキャピラリーチューブ4に通すと冷媒循環量が増し、蒸発器2へ到達する冷媒量が増え、不足冷媒を解消される。
【0064】又、圧縮機1の駆動開始から一定時間が経過すると圧縮機1や凝縮器2の温度が更に上昇し、圧縮機1、凝縮器2に溜まっている圧縮機油に溶け込んでいる冷媒が更に蒸発することから、不足冷媒が解消され、過剰冷媒傾向になるので、上記切換弁26を駆動して冷媒の流れをキャピラリーチューブ25に切り換えることにより冷媒循環量を落とすことができる。
【0065】上記のように本第7の実施の形態の発明よれば、冷凍冷蔵庫の周囲温度が比較的高い時に過剰冷媒側にならないように冷媒充填量を決定することにより、過剰冷媒時の吸入管の発露対策に無駄な部品を追加する必要がなくなり、周囲温度が比較的低いときにも、不足冷媒にならず、蒸発器5の熱交換も効率良く行うことができる。」(段落【0060】?【0065】)

(5)当審における拒絶理由にて引用した、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-236965号公報(以下「刊行物5」という。)には、図8と共に、以下の記載がある。

ケ.「【0071】
(実施例8)
図8は本発明の実施例8の衣類乾燥装置の制御手段のフローチャートである。なお、前記実施例と同じ構成のものは同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0072】
本発明の衣類乾燥装置の制御手段35は、省エネ乾燥モード時には、乾燥開始時に圧縮機20の圧縮能力を最大にし、その後、所定時間経過後もしくは状態検知手段34からの情報に応じて、圧縮機の圧縮能力を所定値まで減じる制御を行うものである。
【0073】
図8で、制御手段35の動作を説明する。乾燥運転が開始されると、ステップS1で経過時間を測るため計時を開始し、ステップS2、S3で乾燥用の送風機28と圧縮機20を作動して乾燥を始める。圧縮機20は圧縮能力可変手段33で最大能力で運転される。ステップS4で熱バランス手段の放熱量を最小にする。ステップS5で計時結果もしくは状態検知手段34からの情報を入力し、所定時間が経過したか、もしくは、乾燥用空気が所定温度に到達したかを判定する。
【0074】
乾燥工程の開始直後では、放熱器21の放熱が少なくて加熱が十分でないため、乾燥用空気は所定温度に到達していない。ステップS4とS5を繰り返して、所定時間経過後もしくは状態が所定値に達した場合は、ステップS6に移行する。ステップS6では、モードを確認する。省エネモードではステップS7に移行して圧縮能力を所定値まで減じる。省エネモードでなければ短時間乾燥モードとしてステップS8で引き続き圧縮能力を最大とする。
【0075】
熱バランス手段の放熱量は圧縮機20の能力などに対応しながら、ステップS9とS10とS11において、状態検知手段の値が所定値で安定するように熱バランス手段の放熱量を増減させる。ステップS12で、乾燥終了などの次のステップ移行の要求があるまでこれを続けるものである。
【0076】
上記のような動作によって、乾燥初期の乾燥空気や冷媒の温度の立ち上がり途中では、圧縮機20の能力を最大にして放熱器での加熱量を大きくして、より速く温度を上昇させる。この間、熱バランス手段からの放熱は最小であり、無駄なく温度上昇ができる。立ち上がり時間を短縮することで、より速く乾燥できるとともに、短時間乾燥モードでは、圧縮機20の能力を最大として乾燥時間の短縮を図り、省エネモードでは、圧縮機20の能力を所定値まで減じることによって、トータルの必要エネルギーを最小にして、省エネ性を高めることができる。」(段落【0071】?【0076】)

3.発明の対比
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明における「筐体1」は本願発明における「外箱」に相当し、以下同様に、「水槽3」は「洗濯槽」に、「復路口20」は「吸込口」に、「往路口19」は「吐出口」に、「排出した」は「吸い込んだ」に、「供給するための」は「戻すための」に、「吸熱器8」は「蒸発器」に、「放熱器7」は「凝縮器」に、「ヒートポンプサイクル」は「ヒートポンプ」に、「減圧のための絞り手段28」は「減圧手段」に、「衣類乾燥機」は「洗濯乾燥機」に、各々相当する。

また、刊行物1記載の発明における「乾燥工程において前記ヒートポンプサイクルの運転を行う」も本願発明における「洗濯物の脱水のための前記ヒートポンプの運転のうち、初期運転時の設定を、安定運転時の冷媒流量よりも多い冷媒流量となる設定とした」も、共に「ヒートポンプの運転を行う」ということができる。

よって、両者の一致点、相違点は、次のとおりである。

(一致点)
外箱と、
前記外箱内に配置された洗濯槽と、
前記洗濯槽に設けられた吸込口及び吐出口と、
前記吸込口及び吐出口に両端部がそれぞれ接続された循環風路と、
前記循環風路内に設けられ前記洗濯槽内の空気を前記吸込口から前記循環風路内に吸い込んだ後、前記吐出口から前記洗濯槽内に戻すための送風機と、
前記循環風路内に配置された蒸発器と、
前記循環風路内のうち前記蒸発器よりも吐出口側に配置された凝縮器と、
前記蒸発器及び凝縮器と共にヒートポンプを構成する圧縮機及び減圧手段とを備え、
前記ヒートポンプの運転を行う洗濯乾燥機。

(相違点1)
ヒートポンプの運転が、本願発明においては「(乾燥工程に先行する)脱水のための行程」において開始されるのに対し、刊行物1記載の発明においては「(脱水行程に後続する)乾燥工程」において開始される点。

(相違点2)
ヒートポンプの運転に関して、本願発明においては「初期運転時の設定を、安定運転時の冷媒流量よりも多い冷媒流量となる設定とした 」と特定されているのに対し、刊行物1記載の発明においては、かかる特定事項を具備していない点。

4.判断
以下、各相違点につき検討する。

(相違点1について)
洗濯乾燥機の技術分野において、乾燥時間の短縮・脱水率の向上を図るため「乾燥工程に先行する脱水工程において加熱手段の運転を開始し、洗濯槽、洗濯物を加温すること」は、例えば、刊行物2、3記載のように、従来より周知の技術手段である。

よって、刊行物1記載の発明において、乾燥時間の短縮・脱水率の向上を図るために、加熱手段である「ヒートポンプ」の運転を「乾燥工程」に代えて「(乾燥工程に先行する)脱水のための行程」において開始することは、当業者が、上記周知の技術手段に倣って、容易に想到し得た事項である。

(相違点2について)
各種機器に応用がなされるヒートポンプの技術分野において、ヒートポンプ運転開始直後には凝縮器(放熱器)の温度上昇が不十分であるという問題点があり、これに対応するため「ヒートポンプの運転のうち、初期運転時の冷媒流量の設定を、安定運転時の冷媒流量よりも多い冷媒流量となる設定とする」ことは、
例えば、
刊行物4[冷媒を内径の大きなキャピラリーチューブ4に通す、圧縮機駆動開始から一定時間である「初期運転時(不足冷媒期間)」の冷媒流量(循環量)は、その管路抵抗の差に起因して、その後の冷媒をキャピラリーチューブ25に通す「安定運転時(適正冷媒期間)」の冷媒流量(循環量)より大きく設定されているといえる。また、刊行物4図5に図示される制御機構は、本願発明の図5に図示される実施例の制御機構と同じである。]、
刊行物5[乾燥工程初期には圧縮機が最大能力で運転され、その後圧縮能力を減じた「省エネモード(安定運転)」で運転されることから、初期運転時冷媒流量の設定が安定運転(省エネモード)時の冷媒流量よりも多いことは明らかである。]
記載のように、従来より周知の技術手段である。

よって、刊行物1記載の発明において、ヒートポンプ運転開始直後の凝縮器の温度上昇不足を速やかに解消するため「ヒートポンプの運転のうち、初期運転時の冷媒流量の設定を、安定運転時の冷媒流量よりも多い冷媒流量となる設定とする」ことは、当業者が、上記周知の技術手段に倣って、容易に想到し得た事項である。

さらに、本願発明により得られる効果も、刊行物1記載の発明及び上記周知の技術手段から、当業者であれば、予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。

6.結び
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1記載の発明及び周知の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-27 
結審通知日 2012-04-03 
審決日 2012-04-16 
出願番号 特願2007-57193(P2007-57193)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (D06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 秀明木戸 優華  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 松下 聡
前田 仁
発明の名称 洗濯乾燥機  
代理人 佐藤 強  
代理人 佐藤 強  
代理人 佐藤 強  

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