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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1258060 |
審判番号 | 不服2010-27174 |
総通号数 | 151 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-12-02 |
確定日 | 2012-06-06 |
事件の表示 | 平成11年特許願第127370号「化合物半導体薄膜のp型への活性化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 1月28日出願公開、特開2000- 31084〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件は,平成11年5月7日(パリ条約による優先権主張1998年5月8日,大韓民国)の出願であって,平成21年4月6日付けで手続補正がされ,平成22年3月9日付けで拒絶理由が通知され,同年7月15日付けで手続補正がされ,同年7月30日付けで,前記同年7月15日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶査定がされ,これに対して同年12月2日に審判請求がされるとともに手続補正がされたものである。 第2 平成22年12月2日付けの手続補正の却下について [補正却下の決定の結論] 平成22年12月2日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 本件補正は,特許請求の範囲及び明細書の段落【0010】を補正するものであって,特許請求の範囲の請求項1については,本件補正の前後で以下のとおりである。 〈補正前〉 「 【請求項1】 気相エピタキシ法で成長し,p型不純物がドーピングされた化合物半導体薄膜及び電極を使用して化合物半導体素子を製作する方法であって, 前記p型不純物をドーピングした半導体薄膜が,p型不純物としてMgを5×10^(19)cm^(-3)以上含有する場合,前記化合物半導体薄膜を200?850℃の範囲で熱処理する段階を含む,化合物半導体薄膜のp型への活性化方法。」 〈補正後〉 「 【請求項1】 気相エピタキシ法で成長し,p型不純物がドーピングされた化合物半導体薄膜及び電極を使用して化合物半導体素子を製作する方法であって, 前記p型不純物をドーピングした半導体薄膜が,p型不純物としてMgを5×10^(19)cm^(-3)以上含有する場合,紫外線の照射なしに,前記化合物半導体薄膜を200?850℃の範囲で熱処理する段階を含む,化合物半導体薄膜のp型への活性化方法。」 2.補正事項の整理 上記の,請求項1についての補正事項は,補正前の「前記化合物半導体薄膜を200?850℃の範囲で熱処理する段階を含む」を,補正後の「紫外線の照射なしに,前記化合物半導体薄膜を200?850℃の範囲で熱処理する段階を含む」とすることである。 3.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討 上記の補正事項は,「前記化合物半導体薄膜を200?850℃の範囲で熱処理する段階」について,その条件を「紫外線の照射なしに」として,より限定するものである。よって,前記補正事項は,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして,上記の補正事項に係る事項は,本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載されているから,上記の補正事項は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。 上記のとおり,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むから,以下,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかを,補正後の請求項1に係る発明について検討する。 4.独立特許要件についての検討 (1)本願補正発明 本件補正後の請求項1に係る発明は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりものである。(再掲。以下「本願補正発明」という。) 「 【請求項1】 気相エピタキシ法で成長し,p型不純物がドーピングされた化合物半導体薄膜及び電極を使用して化合物半導体素子を製作する方法であって, 前記p型不純物をドーピングした半導体薄膜が,p型不純物としてMgを5×10^(19)cm^(-3)以上含有する場合,紫外線の照射なしに,前記化合物半導体薄膜を200?850℃の範囲で熱処理する段階を含む,化合物半導体薄膜のp型への活性化方法。」 (2)刊行物に記載された発明 ・特開平10-12624号公報 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平10-12624号公報(以下「引用例」という。)には,図1?7とともに,以下の記載がある。(下線は当審において付加。以下同様) ア 発明の属する技術分野 「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は,窒化物系化合物半導体の熱処理方法に関し,特に,Mgなどのアクセプタ不純物がドープされたGaNなどの窒化物系III-V族化合物半導体中のアクセプタ不純物を活性化させるための熱処理に適用して好適なものである。」 イ 従来の技術 「【0002】 【従来の技術】GaN,AlGaN,GaInNなどの窒化物(ナイトライド)系III-V族化合物半導体は,その禁制帯幅が1.8eVから6.2eVに亘っており,赤色から紫外線の発光が可能な発光素子の実現が理論上可能であるため,近年,注目を集めている。 【0003】この窒化物系III-V族化合物半導体により発光ダイオード(LED)や半導体レーザなどを製造する場合には,AlGaN,GaInN,GaNなどを多層に積層し,発光層(活性層)をn型クラッド層およびp型クラッド層によりはさんだ構造を形成する必要がある。 【0004】さて,従来,有機金属化学気相成長(MOCVD)法などの気相成長法により例えばp型GaN層を成長させるには,水素(H_(2) )キャリアガスまたはH_(2) と窒素(N_(2) )との混合ガス中において,例えば,Ga原料としてのトリメチルガリウム(TMG,Ga(CH_(3) )_(3) ),N原料としてのアンモニア(NH_(3) )およびp型ドーパントとしてのシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp_(2) Mg)を,加熱された基板,例えばサファイア基板,SiC基板,GaAs基板などの上に供給し,熱分解反応によって,MgドープGaN層を成長させる。この成長直後におけるMgドープGaN層は高抵抗層であるので,その後に真空中または不活性ガス中において熱処理を行うことによりp型化する。この場合,この熱処理により,GaN結晶中に取り込まれたHが脱離することによりGaN中のMgが活性化されてキャリアが発生し,p型化するものとされている。」 ウ 発明が解決しようとする課題 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上述のようにして得られるp型GaN層のキャリア濃度は,現状では高々3×10^(17)cm^(-3)程度であり,その抵抗率は2Ωcm程度と高い。このため,例えば窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体レーザにおいては,次のような問題があった。第1に,この半導体レーザにおいては,p側電極のコンタクト層としてp型GaN層を用いるが,このp型GaN層の抵抗が高いので,高電流動作時にこのp型GaN層において大きな電圧損失が生じることである。第2に,p型GaN層のキャリア濃度が低いので,このp型GaN層とp側電極との間の接触抵抗は10^(-2)Ωcm^(2) 程度と高く,このため半導体レーザにおける典型的な注入電流密度である1kA/cm^(2) での動作時にこのp型GaN層とp側電極との界面で10V程度の電圧損失が生じ,レーザ特性の劣化が生じていた。」 エ 課題を解決するための手段 「【0008】 【課題を解決するための手段】本発明者は,上述の従来技術が有する問題を解決すべく,鋭意考察を行った。その概要について説明すると,次の通りである。 【0009】上述のようにMgドープGaN層を成長させただけでは,低キャリア濃度で高抵抗率のp型GaN層しか得られない理由は,成長時に結晶中に取り込まれた水素がMgの近傍に存在し,この水素との相互作用によりMgが不活性化されていることによる。そして,熱処理により正孔が生成されるのは,この水素が脱離してMgが活性化され,アクセプタ不純物として働くからである。一方,分子線エピタキシー(MBE)法により成長されたp型GaN層では,成長時に結晶中に水素が取り込まれることがないため,アクセプタ不純物の活性化のための熱処理を行わないでも,5×10^(18)cm^(-3)以上の正孔濃度が得られている。 【0010】ところで,上述の従来の熱処理方法によっても,熱処理時間を長くしたり,熱処理温度を高くしたりして結晶中に取り込まれた水素を脱離させることにより,p型窒化物系化合物半導体の正孔濃度の増大および抵抗率の低減を図ることが可能である。しかしながら,結晶中に取り込まれた水素を十分に脱離させるために長時間または高温の熱処理を行うと,主として窒素が脱離することにより結晶自体が劣化してしまうという問題がある。 【0011】したがって,もし,結晶の劣化を抑えつつ,長時間または高温の熱処理で結晶中の水素を100%脱離させることができれば,MBE法により成長されたp型GaN層並みの正孔濃度が得られると予想される。 ・・・ 【0027】上述のように構成されたこの発明による窒化物系化合物半導体の熱処理方法においては,窒素放出過程において水素を放出しない窒素含有炭化水素を含む雰囲気中において窒化物系化合物半導体を熱処理するようにしていることにより,熱処理時に窒化物系化合物半導体から窒素が脱離するのを防止することができ,この窒素の脱離による窒化物系化合物半導体の結晶の劣化を抑えることができる。このため,より長時間,より高温の熱処理が可能となるので,成長時に窒化物系化合物半導体の結晶中に取り込まれた水素を十分に脱離させることができ,これによって水素により不活性化されていたアクセプタ不純物を十分に活性化させることができる。」 オ 発明の実施の形態 「【0028】 【発明の実施の形態】以下,この発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。この一実施形態においては,この発明をp型GaN層の作製に適用した場合について説明する。 ・・・ 【0031】次に,基板温度を例えば1000℃まで上昇させた後,図1Bに示すように,GaNバッファ層2上に例えば厚さ2μmのp型GaN層3をMOCVD法により成長させる。 【0032】これらのGaNバッファ層2およびp型GaN層3の成長においては,Ga原料としてトリメチルガリウム(TMG),N原料としてアンモニア(NH_(3) ),p型ドーパントとしてシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp_(2) Mg)を用いる。また,成長時のキャリアガスとしては,8l/分の流量のH_(2) ガスと8l/分の流量のN_(2) ガスとの混合ガスを用いる。また,原料ガスおよびp型ドーパントガスの流量は,例えば,TMGは40μ-mol/分,アンモニアは0.4mol/分,Cp_(2) Mgは約40μ-mol/分である。さらに,成長圧力は例えば250Torrである。 【0033】このようにして成長されたMgドープp型GaN層3中のMg濃度を二次イオン質量分析(SIMS)法により分析したところ,9×10^(19)cm^(-3)であった。また,この成長直後のp型GaN層3は,ホール(Hall)測定によるキャリア濃度の測定をすることができず,高抵抗であった。」 カ 発明の実施の形態(続き) 「【0034】次に,図1Cに示すように,上述のようにしてp型GaN層3が成長されたc面サファイア基板1を窒素(N_(2) )ガスとトリメチルアミン(N(CH_(3) )_(3) )のガスとの混合ガス雰囲気中において熱処理することにより,p型GaN層3中のMgを活性化させる。 【0035】図2はこの熱処理に用いる熱処理装置を示す。図2に示すように,この熱処理装置においては,赤外線ランプによる加熱炉11内に石英管12が設けられている。この石英管12内にはカーボンサセプタ13が置かれ,このカーボンサセプタ13上に熱処理を行うべき基板14が載せられるようになっている。この図2に示す熱処理装置により熱処理を行うには,p型GaN層3が成長されたc面サファイア基板1をカーボンサセプタ13上に載せ,このカーボンサセプタ13を石英管12内に入れた後,この石英管12内にN_(2) ガスを2l/分の流量,トリメチルアミン(N(CH_(3) )_(3) )を200ml/分の流量で流しながら,加熱炉11内で赤外線ランプによる赤外線照射によりc面サファイア基板1を急速加熱する。ここで,トリメチルアミンは0℃で1気圧程度の蒸気圧を有するが,ここでは,このトリメチルアミンをボンベに充填し,このボンベの温度を40℃に温め,流量制御器を用いてその供給を制御した。 【0036】図3および図4は,それぞれ,熱処理温度を1000℃に固定し,熱処理時間を1分から100分まで変化させたときのp型GaN層3の抵抗率および正孔濃度の変化を示す。図3および図4から明らかなように,抵抗率および正孔濃度とも,熱処理時間の増加によって著しく改善され,熱処理時間が100分間では正孔濃度は約5×10^(18)cm^(-3),抵抗率は0.2?0.3Ωcmとなっている。」 キ 従来の方法との比較 「【0038】一方,比較のために,従来の方法により熱処理を行ったp型GaN層3の熱処理温度による抵抗率の変化,熱処理時間による抵抗率の変化および熱処理時間による正孔濃度の変化をそれぞれ図5,図6および図7に示す。 【0039】すなわち,図5は熱処理温度を800?1100℃の範囲で変えて熱処理を3分間および10分間行ったときの熱処理温度によるp型GaN層3の抵抗率の変化を示す。図5から明らかなように,熱処理温度が800?900℃のときには抵抗率は約10Ωcmに減少するが,熱処理温度がより高くなると,抵抗率は逆に上昇する。そして,熱処理温度が1000℃以上になると,熱処理時間が3分間のものより,10分間のものの方が抵抗率の上昇は著しくなっている。 ・・・ 【0041】図7は,p型GaN層3の正孔濃度の熱処理時間による変化を示す。図7から明らかなように,熱処理時間が長くなるにしたがって正孔濃度は減少し,熱処理温度が1000℃の場合の最適熱処理時間は1分以下であることがわかる。」 ここで,上記ア?ウを参照すると,「Mgなどのアクセプタ不純物がドープされたGaNなどの窒化物系III-V族化合物半導体中のアクセプタ不純物を活性化させるための熱処理」が,「窒化物系III-V族化合物半導体により発光ダイオード(LED)や半導体レーザなどを製造する」に際してなされる技術であることは明らかである。また,上記ウに記載されているように,「半導体レーザ」などの半導体素子が「電極」を備えることも明らかである。よって,引用例に記載された「窒化物系III-V族化合物半導体中のアクセプタ不純物を活性化させるための熱処理」が,窒化物系III-V族化合物半導体からなり電極を備える半導体素子の製造に際して用いられることは明らかである。 また,上記ア?ウを参照すると,上記キの「従来の方法により熱処理を行ったp型GaN層3」は,当該熱処理前には「Mgなどのアクセプタ不純物がドープされた」GaN層として「有機金属化学気相成長(MOCVD)法などの気相成長法により」成長されたことは明らかである。さらに,上記キとともに図5を参照すると,「従来の方法」によって800℃で熱処理されたp型GaN層3は約10Ωcmの抵抗率となっていることが読み取れる。 以上によれば,上記キに示される,「従来の方法」によって800℃で熱処理を行うことに注目すると,引用例には,以下の発明が記載されているものと認められる。(以下「引用発明」という。) 「窒化物系III-V族化合物半導体からなり電極を備える半導体素子の製造に際して用いられる,窒化物系III-V族化合物半導体中のアクセプタ不純物を活性化させるための熱処理方法であって, 有機金属化学気相成長(MOCVD)法などの気相成長法によって成長された,Mgなどのアクセプタ不純物がドープされたGaN層を真空中または不活性ガス中において800℃で熱処理を行うことによりp型化する,窒化物系III-V族化合物半導体中のアクセプタ不純物を活性化させるための熱処理方法。」 (3)本願補正発明と引用発明との対比 ア 引用発明の「窒化物系III-V族化合物半導体からなり電極を備える半導体素子の製造に際して用いられる,窒化物系III-V族化合物半導体中のアクセプタ不純物を活性化させるための熱処理方法」は,「窒化物系III-V族化合物半導体からなり電極を備える半導体素子の製造」方法を構成しているから,本願補正発明の「p型不純物がドーピングされた化合物半導体薄膜及び電極を使用して化合物半導体素子を製作する方法」に対応する。 イ 引用発明の「有機金属化学気相成長(MOCVD)法などの気相成長法によって成長された,Mgなどのアクセプタ不純物がドープされたGaN層」は,本願補正発明の「気相エピタキシ法で成長し,p型不純物がドーピングされた化合物半導体薄膜」に対応する。また,引用発明の「800℃で熱処理を行うこと」は,本願補正発明の「200?850℃の範囲で熱処理」する温度範囲内においてなされている。よって,引用発明の「Mgなどのアクセプタ不純物がドープされたGaN層を真空中または不活性ガス中において800℃で熱処理を行うことによりp型化する」ことと,本願補正発明の「前記p型不純物をドーピングした半導体薄膜が,p型不純物としてMgを5×10^(19)cm^(-3)以上含有する場合,紫外線の照射なしに,前記化合物半導体薄膜を200?850℃の範囲で熱処理する段階」とは,「前記p型不純物をドーピングした半導体薄膜が,p型不純物としてMgを含有する場合,前記化合物半導体薄膜を200?850℃の範囲で熱処理する段階」である点で共通する。 ウ 引用発明の「窒化物系III-V族化合物半導体中のアクセプタ不純物を活性化させるための熱処理方法」は,本願補正発明の「化合物半導体薄膜のp型への活性化方法」に相当する。 エ したがって,引用発明と本願補正発明とは, 「気相エピタキシ法で成長し,p型不純物がドーピングされた化合物半導体薄膜及び電極を使用して化合物半導体素子を製作する方法であって, 前記p型不純物をドーピングした半導体薄膜が,p型不純物としてMgを含有する場合,前記化合物半導体薄膜を200?850℃の範囲で熱処理する段階を含む,化合物半導体薄膜のp型への活性化方法。」 である点で一致する。 オ 一方,両者は,以下の各点で相違する。 《相違点1》 本願補正発明においては「p型不純物をドーピングした半導体薄膜が,p型不純物としてMgを5×10^(19)cm^(-3)以上含有する場合」としているが,引用発明においてはMgの含有量が明らかではない点。 《相違点2》 本願補正発明においては「紫外線の照射なしに」「熱処理」するが,引用発明においては紫外線の照射の有無が明らかではない点。 (4)当審の判断 〈相違点1について〉 前記第2 4.(2)イ?エに摘示した引用例の記載によれば,「従来の技術」によって熱処理してもp型GaN層のキャリア濃度「高々3×10^(17)cm^(-3)程度」であるのは,「従来の技術」では,「熱処理時間を長くしたり,熱処理温度を高くしたりして結晶中に取り込まれた水素を脱離させることにより,p型窒化物系化合物半導体の正孔濃度の増大および抵抗率の低減を図ることが可能である。しかしながら,結晶中に取り込まれた水素を十分に脱離させるために長時間または高温の熱処理を行うと,主として窒素が脱離することにより結晶自体が劣化してしまうという問題がある」(段落【0010】)ためである。引用例には,「結晶の劣化を抑えつつ,長時間または高温の熱処理で結晶中の水素を100%脱離させることができれば,MBE法により成長されたp型GaN層並みの正孔濃度が得られると予想される。」(段落【0011】)という発想のもと,「窒素放出過程において水素を放出しない窒素含有炭化水素を含む雰囲気中において窒化物系化合物半導体を熱処理するようにしていることにより,熱処理時に窒化物系化合物半導体から窒素が脱離するのを防止することができ,この窒素の脱離による窒化物系化合物半導体の結晶の劣化を抑えることができる。このため,より長時間,より高温の熱処理が可能となるので,成長時に窒化物系化合物半導体の結晶中に取り込まれた水素を十分に脱離させることができ,これによって水素により不活性化されていたアクセプタ不純物を十分に活性化させ」(段落【0027】)て,「従来の技術」の課題を解決することが記載されている。 ところで,前記第2 4.(2)オ,カに摘示した引用例の「発明の実施の形態」によれば,熱処理の対象とされた「Mgドープp型GaN層3中のMg濃度を二次イオン質量分析(SIMS)法により分析したところ,9×10^(19)cm^(-3)であ」り,熱処理後には「正孔濃度は約5×10^(18)cm^(-3),抵抗率は0.2?0.3Ωcm」となっている。一方,前記第2 4.(2)キに摘示したとおり,「比較のために,従来の方法により熱処理を行った」ものにおいては「熱処理温度が800?900℃のときには抵抗率は約10Ωcmに減少する」が,Mg濃度は明らかではない。しかしながら,当該「比較のため」の「従来の方法」による熱処理においては,上述の「より長時間,より高温の熱処理が可能となるので,成長時に窒化物系化合物半導体の結晶中に取り込まれた水素を十分に脱離させることができ,これによって水素により不活性化されていたアクセプタ不純物を十分に活性化」させていることが確認できるように,「発明の実施の形態」と同じく,熱処理前のMgドープp型GaN層3中のMg濃度を少なくとも9×10^(19)cm^(-3)とすることは当然になされることといえる。すなわち,仮に,「従来の方法」による熱処理について,GaN層3中のMg濃度が9×10^(19)cm^(-3)に満たないものであれば,「発明の実施の形態」に比して劣る「約10Ωcm」という抵抗率が,熱処理方法の差によるものか,あるいは,そもそもドープされたMg濃度が低かったためかが判別できず,「比較」して発明の優位性を確認することができないからである。 また,「発明の実施の形態」に係る熱処理が,「水素により不活性化されていたアクセプタ不純物を十分に活性化」させるものであることを考慮すると,キャリア濃度に対するMg濃度の比は,「発明の実施の形態」に係る熱処理によって熱処理されたものより「従来の方法」(すなわち引用発明)によって熱処理されたもののほうが大きくなるといえ,同程度ということはできない。それゆえ,これを同程度として「従来の方法」におけるMg濃度を推定した審判請求人の主張は当たらない。 したがって,引用発明の認定の基となった,上記前記第2 4.(2)キに示される,「従来の方法」によって800℃で熱処理を行うことにおいて,Mg濃度は少なくとも9×10^(19)cm^(-3)であるといえるから,相違点1は実質的な相違点ではない。 仮に,相違点1が実質的な相違点であるとしても,有機金属化学気相成長法によって成長させるGaN層について,p型とすべく含有させるMgの濃度として5×10^(19)cm^(-3)以上の値は,以下の周知例1及び2にも示されているように,従来より普通に採用される値である。 周知例1: 特開平9-36423号公報 本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平9-36423号公報には,図1,2とともに,以下の記載がある。 「【0010】次に,この構造の発光ダイオード10の製造方法について説明する。上記発光ダイオード10は,有機金属化合物気相成長法( 以下「M0VPE 」と記す) による気相成長により製造された。 ・・・ 【0015】続いて,温度を1100℃に保持し,N_(2)又はH_(2)を20 liter/分,NH_(3) を 10liter/分,TMG を1.12×10^(-4)モル/分,TMA を0.47×10^(-4)モル/分,及び,CP_(2)Mg を2×10^(-4)モル/分で30分間導入し,膜厚約0.5 μmのマグネシウム(Mg)ドープのAl_(0.08)Ga_(0.92)N から成るp層61を形成した。p層61のマグネシウムの濃度は 5×10^(20)/cm^(3)である。この状態では,p層61は,まだ,抵抗率10^(8) Ωcm以上の絶縁体である。 【0016】続いて,温度を1100℃に保持し,N_(2)又はH_(2)を20 liter/分,NH3 を 10liter/分,TMG を1.12×10^(-4)モル/分,及び,CP_(2)Mg を 4×10^(-3)モル/分の割合で 4分間導入し,膜厚約1 μmのマグネシウム(Mg)ドープのGaN から成るコンタクト層62を形成した。コンタクト層62のマグネシウムの濃度は 5×10^(21)/cm^(3)である。この状態では,コンタクト層62は,まだ,抵抗率10^(8) Ωcm以上の絶縁体である。」 周知例2: 特開平9-153645号公報 本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平9-153645号公報には,図2とともに,以下の記載がある。 「【0017】次に,この構造の発光ダイオード10の製造方法について説明する。上記発光ダイオード10は,有機金属化合物気相成長法( 以下「M0VPE 」と記す) による気相成長により製造された。用いられたガスは,NH3 とキャリアガスH_(2)又はN_(2) とトリメチルガリウム(Ga(CH_(3))_(3))(以下「TMG 」と記す) とトリメチルアルミニウム(Al(CH_(3))_(3))(以下「TMA 」と記す) とシラン(SiH_(4))とジエチル亜鉛( 以下「DEZ 」と記す) とシクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C_(5)H_(5))_(2))(以下「CP_(2)Mg 」と記す)である。 ・・・ 【0022】続いて,温度を1100℃に保持し,N_(2)又はH_(2)を20 liter/分,NH_(3) を 10liter/分,TMG を1.12×10^(-4)モル/分,TMA を0.47×10^(-4)モル/分,及び,CP_(2)Mg を2×10^(-4)モル/分で60分間導入し,膜厚約1.0 μmのマグネシウム(Mg)ドープのAl_(0.3)Ga_(0.7)N から成るp層61を形成した。p層61のマグネシウムの濃度は1 ×10^(20)/cm^(3)である。この状態では,p層61は,まだ,抵抗率10^(8) Ωcm以上の絶縁体である。 【0023】続いて,温度を1100℃に保持し,N_(2)又はH_(2)を20 liter/分,NH_(3) を 10liter/分,TMG を1.12×10^(-4)モル/分,及び,CP_(2)Mg を 4×10^(-4)モル/分の割合で 4分間導入し,膜厚約0.2 μmのマグネシウム(Mg)ドープのGaN から成るコンタクト層62を形成した。コンタクト層62のマグネシウムの濃度は 2×10^(20)/cm^(3)である。この状態では,コンタクト層62は,まだ,抵抗率10^(8) Ωcm以上の絶縁体である。 【0024】このようにして,図2に示す断面構造のウエハが得られた。次に,このウエハを,450℃で45分間,熱処理した。・・・。」 それゆえ,引用発明において,p型不純物としてMgを5×10^(19)cm^(-3)以上含有させることは,当業者が適宜になし得たことである。 よって,相違点1は実質的な相違点ではなく,そうでないとしても,当業者が適宜になし得る範囲に含まれる程度のものである。 〈相違点2について〉 引用例に記載されたものにおいては,前記第2 4.(2)カに摘示したとおり,赤外線ランプによる加熱炉11を用いて加熱処理を行っているところ,当該加熱処理において照射される光について,引用例は他に何ら言及していないから,前記照射される光は赤外線であり,紫外線は実質的に照射されていないものといえる。そして,引用発明の認定の基となった,上記前記第2 4.(2)キに示される,「従来の方法」によって800℃で熱処理を行うことにおいても,同じ加熱炉を用いることは,「比較のために」当然になされ,同様に,紫外線は実質的に照射されていないものといえる。また,仮にそうではないとしても,紫外線を実質的に照射しないことは,当業者が適宜になし得たことである。 よって,相違点2は実質的な相違点ではなく,そうでないとしても,当業者が適宜になし得る範囲に含まれる程度のものである。 (5)小括 以上のとおり,本願補正発明は引用発明と同一であるから特許法第29条第1項第3号に該当し,仮にそうでないとしても,本願補正発明は,技術常識を勘案して,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 よって,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5.むすび したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.平成22年12月2日付けの手続補正は,上記のとおり却下され,また,平成22年7月15日付けの手続補正は,同年7月30日付けで却下されているので,本願の請求項1に係る発明は,平成21年4月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載から見て,その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 気相エピタキシ法で成長し,p型不純物がドーピングされた化合物半導体薄膜及び電極を使用して化合物半導体素子を製作する方法であって, 前記p型不純物をドーピングした半導体薄膜が,p型不純物としてMgを5×10^(19)cm^(-3)以上含有する場合,前記化合物半導体薄膜を200?850℃の範囲で熱処理する段階を含む,化合物半導体薄膜のp型への活性化方法。」 2.引用発明 引用発明は,前記第2の4.「(2)刊行物に記載された発明」に記載したとおりのものである。 3.対比・判断 前記第2「1.本件補正の内容」?第2「3.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討」において記したように,本願補正発明は,本件補正前の請求項1(本願発明)について,補正前の「前記化合物半導体薄膜を200?850℃の範囲で熱処理する段階を含む」を,補正後の「紫外線の照射なしに,前記化合物半導体薄膜を200?850℃の範囲で熱処理する段階を含む」とする限定を付したものである。言い換えると,本願発明は,本願補正発明から前記限定を除いたものである。 そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が,前記第2の4.「(3)補正発明と引用発明との対比」?第2の4.「(5)小括」において検討したとおり,引用発明と同一であり,仮にそうでないとしても,技術常識を勘案して,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明と同一であり,仮にそうでないとしても,当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって,本願発明は特許法第29条第1項第3号に該当し,仮にそうでないとしても,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-01-04 |
結審通知日 | 2012-01-10 |
審決日 | 2012-01-23 |
出願番号 | 特願平11-127370 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 後谷 陽一、加藤 浩一、池渕 立 |
特許庁審判長 |
齋藤 恭一 |
特許庁審判官 |
小川 将之 近藤 幸浩 |
発明の名称 | 化合物半導体薄膜のp型への活性化方法 |
代理人 | 稲積 朋子 |
代理人 | 小野 由己男 |