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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1258616
審判番号 不服2009-18666  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-02 
確定日 2012-06-13 
事件の表示 特願2004-568891「ロイシンに富んだ栄養的組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年4月1日国際公開、WO2004/026294、平成18年1月26日国内公表、特表2006-503105〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年9月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年9月20日、米国、2002年10月9日、米国、2003年3月19日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年8月28日付けで拒絶理由が通知され、これに応答して、平成21年3月6日付けで手続補正がなされ、その後、平成21年5月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年10月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成21年10月2日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年10月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正の概略
本件補正により、特許請求の範囲は、
補正前(平成21年3月6日付けの手続補正書参照。)の
「【請求項1】
遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸を含む組成物であって、遊離型及び/又は塩型のロイシンは、全アミノ酸の重量に基づき少なくとも25から95重量%の量で存在し、かつ全必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率が0.60から0.90の範囲である、前記組成物。
【請求項2】
遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸を含む組成物であって、全ロイシンは、全アミノ酸の重量に基づき少なくとも25から35重量%の量で存在し、かつ全必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率は0.60から0.90の範囲である、前記組成物。
【請求項3】
a)遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸、及び場合により、遊離型及び/又は塩型のチロシン、システイン、アルギニン及びグルタミンからなる群より選択される少なくとも一つの条件的必須アミノ酸、並びに
b)カゼイン、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コラーゲン又はコムギタンパク質からなる群より選択される少なくとも一つの完全タンパク質、を含む組成物であって、全必須アミノ酸、場合によっては全必須アミノ酸及び全条件的必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率は0.60?0.90の範囲であり、かつ遊離型及び/又は塩型のロイシンは、完全タンパク質の重量に基づき少なくとも25重量%の量で存在する、前記組成物。
【請求項4】
必須アミノ酸が、ロイシン、及びイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンの少なくとも一つを含む、請求項3の組成物。
【請求項5】
全アミノ酸の重量に基づき少なくとも5から40重量%の量で遊離型及び/又は塩型のアルギニンをさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
全アミノ酸の重量に基づき少なくとも0.5から5重量%の量で遊離型及び/又は塩型のメチオニンをさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
n-3多価不飽和脂肪酸をさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
n-3多価不飽和脂肪酸が、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸より選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
一食分当たり少なくとも1gのエイコサペンタエン酸又は1日用量当たり少なくとも2gのエイコサペンタエン酸をさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項10】
トコフェロールをさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項11】
トコトリエノールをさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項12】
一食分当たり少なくとも50mg、又は1日用量当たり少なくとも150mgのトコフェロールを含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
1日用量当たり15gから55gの遊離型及び/又は塩型のアミノ酸を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項14】
一食分当たり36gから72gの全必須アミノ酸及び/又は条件的必須アミノ酸を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項15】
a)1)遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸、及び場合により、遊離型及び/又は塩型のチロシン、システイン、アルギニン及びグルタミンからなる群より選択される少なくとも一つの条件的必須アミノ酸、並びに
2)カゼイン、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コラーゲン又はコムギタンパク質からなる群より選択される少なくとも一つの完全タンパク質、を含む第一組成物であって、全必須アミノ酸、場合によっては全必須アミノ酸及び全条件的必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率は0.60?0.90の範囲であり、かつ遊離型及び/又は塩型のロイシンは、完全タンパク質の重量に基づき少なくとも25重量%の量で存在する前記第一組成物:並びに
b)抗癌薬を含む第二組成物であって、前記抗癌薬は5-フルオロウラシル、マイトマイシン-C、アドリアマイシン、クロロエチルニトロソ尿素又はメトトレキサートである前記第二組成物を含むキット。
【請求項16】
請求項3に記載の組成物を含む、悪液質及び/又は食欲不振に関連する状態の緩和のための組成物。
【請求項17】
前記状態が、腫瘍により誘導された体重減少または筋肉の減損である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
経腸投与で使用される、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
請求項3に記載の組成物を含む、筋肉タンパク質合成を刺激するための組成物。
【請求項20】
請求項3に記載の組成物を含む、栄養失調の食事管理のための組成物。
【請求項21】
遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸を本質的に含む組成物であって、遊離型及び/又は塩型のロイシンは、全アミノ酸の重量に基づき少なくとも25重量%の量で存在する、前記組成物。
【請求項22】
遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸を本質的に含む組成物であって、全ロイシンは、全アミノ酸の重量に基づき少なくとも25重量%の量で存在する、前記組成物。
【請求項23】
a)遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸、及び場合により、遊離型及び/又は塩型のチロシン、システイン、アルギニン及びグルタミンからなる群より選択される少なくとも一つの条件的必須アミノ酸であって、ここで前記遊離型及び/又は塩型のロイシンは少なくとも25%の量で存在し、並びに
b)カゼイン、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コラーゲン又はコムギタンパク質からなる群より選択される少なくとも一つの完全タンパク質、を本質的に含む組成物であって、全必須アミノ酸、場合によっては全必須アミノ酸及び全条件的必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率は0.60?0.90の範囲である、前記組成物。
【請求項24】
1日用量当たり12gから15gの遊離型及び/又は塩型のロイシンを含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項25】
全アミノ酸の重量に基づき少なくとも5から7重量%の量で遊離型及び/又は塩型のメチオニンをさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項26】
a)1)遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸、及び場合により、遊離型及び/又は塩型のチロシン、システイン、アルギニン及びグルタミンからなる群より選択される少なくとも一つの条件的必須アミノ酸であって、ここで前記遊離型及び/又は塩型のロイシンは少なくとも25%の量で存在し、並びに
2)カゼイン、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コラーゲン又はコムギタンパク質からなる群より選択される少なくとも一つの完全タンパク質、を本質的に含む第一組成物であって、全必須アミノ酸、場合によっては全必須アミノ酸及び全条件的必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率が0.60?0.90の範囲である前記第一組成物:並びに
b)抗癌薬を含む第二組成物であって、前記抗癌薬は5-フルオロウラシル、マイトマイシン-C、アドリアマイシン、クロロエチルニトロソ尿素又はメトトレキサートである前記第二組成物を含むキット。」
から、補正後(平成21年10月2日付け手続補正書参照。)の
「【請求項1】
遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸を含む、腫瘍により誘導された悪液質及び/又は食欲不振による体重減少の影響を治療、予防及び緩和するための医薬組成物であって、遊離型及び/又は塩型のロイシンは、全アミノ酸の重量に基づき少なくとも25から95重量%の量で存在し、かつ全必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率が0.60から0.90の範囲である、前記医薬組成物。
【請求項2】
遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸を含む、腫瘍により誘導された悪液質及び/又は食欲不振による体重減少の影響を治療、予防及び緩和するための医薬組成物であって、全ロイシンは、全アミノ酸の重量に基づき少なくとも25から35重量%の量で存在し、かつ全必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率は0.60から0.90の範囲である、前記医薬組成物。
【請求項3】
a)遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸、及び場合により、遊離型及び/又は塩型のチロシン、システイン、アルギニン及びグルタミンからなる群より選択される少なくとも一つの条件的必須アミノ酸、並びに
b)カゼイン、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コラーゲン又はコムギタンパク質からなる群より選択される少なくとも一つの完全タンパク質、を含む、腫瘍により誘導された悪液質及び/又は食欲不振による体重減少の影響を治療、予防及び緩和するための医薬組成物であって、全必須アミノ酸、場合によっては全必須アミノ酸及び全条件的必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率は0.60?0.90の範囲であり、かつ遊離型及び/又は塩型のロイシンは、完全タンパク質の重量に基づき少なくとも25重量%の量で存在する、前記医薬組成物。
【請求項4】
必須アミノ酸が、ロイシン、及びイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンの少なくとも一つを含む、請求項3の医薬組成物。
【請求項5】
全アミノ酸の重量に基づき少なくとも5から40重量%の量で遊離型及び/又は塩型のアルギニンをさらに含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
全アミノ酸の重量に基づき少なくとも0.5から5重量%の量で遊離型及び/又は塩型のメチオニンをさらに含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項7】
n-3多価不飽和脂肪酸をさらに含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項8】
n-3多価不飽和脂肪酸が、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸より選択される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
一食分当たり少なくとも1gのエイコサペンタエン酸又は1日用量当たり少なくとも2gのエイコサペンタエン酸をさらに含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項10】
トコフェロールをさらに含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項11】
トコトリエノールをさらに含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項12】
一食分当たり少なくとも50mg、又は1日用量当たり少なくとも150mgのトコフェロールを含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
1日用量当たり15gから55gの遊離型及び/又は塩型のアミノ酸を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項14】
一食分当たり36gから72gの全必須アミノ酸及び/又は条件的必須アミノ酸を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項15】
a)1)遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸、及び場合により、遊離型及び/又は塩型のチロシン、システイン、アルギニン及びグルタミンからなる群より選択される少なくとも一つの条件的必須アミノ酸、並びに
2)カゼイン、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コラーゲン又はコムギタンパク質からなる群より選択される少なくとも一つの完全タンパク質、を含む第一組成物であって、全必須アミノ酸、場合によっては全必須アミノ酸及び全条件的必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率は0.60?0.90の範囲であり、かつ遊離型及び/又は塩型のロイシンは、完全タンパク質の重量に基づき少なくとも25重量%の量で存在する前記第一組成物:並びに
b)抗癌薬を含む第二組成物であって、前記抗癌薬は5-フルオロウラシル、マイトマイシン-C、アドリアマイシン、クロロエチルニトロソ尿素又はメトトレキサートである前記第二組成物を含む、腫瘍により誘導された悪液質及び/又は食欲不振による体重減少の影響を治療、予防及び緩和するためのキット。
【請求項16】
請求項3に記載の医薬組成物を含む、悪液質及び/又は食欲不振に関連する状態の緩和のための医薬組成物。
【請求項17】
前記状態が、腫瘍により誘導された体重減少または筋肉の減損である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
経腸投与で使用される、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項19】
請求項3に記載の医薬組成物を含む、筋肉タンパク質合成を刺激するための医薬組成物。
【請求項20】
請求項3に記載の医薬組成物を含む、栄養失調の食事管理のための医薬組成物。
【請求項21】
1日用量当たり12gから15gの遊離型及び/又は塩型のロイシンを含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項22】
全アミノ酸の重量に基づき少なくとも5から7重量%の量で遊離型及び/又は塩型のメチオニンをさらに含む、請求項3に記載の医薬組成物。」
と補正された。

(2)補正の目的
本件補正は、
(a)まず、補正前の請求項21?23、26に係る発明を削除し、そして、削除に伴い、補正前の請求項24、25に係る発明を、請求項21、22に係る発明としてそれぞれ繰り上げ、
(b)次に、補正前の請求項1?3に係る発明における「組成物」について、その用途を、「腫瘍により誘導された悪液質及び/又は食欲不振による体重減少の影響を治療、予防及び緩和するための医薬」に限定し、そして、用途を限定したことに伴い、請求項3を引用する請求項4?14、16?20並びに繰り上げられた請求項21、22(補正前の請求項24、25)に係る発明における「組成物」についても、「医薬組成物」に限定し、
(c)さらに、補正前の請求項15に係る発明における「キット」についても、その用途を、「腫瘍により誘導された悪液質及び/又は食欲不振による体重減少の影響を治療、予防及び緩和するため」に限定して、
補正後の請求項1?22に係る発明とするものである。
そして、(a)の補正は、請求項の削除であって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。
また、「組成物」並びに「キット」の用途を限定する(b)及び(c)の補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて、以下に検討する。

(3)本願補正発明
本願補正発明は、
「遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸を含む、腫瘍により誘導された悪液質及び/又は食欲不振による体重減少の影響を治療、予防及び緩和するための医薬組成物であって、遊離型及び/又は塩型のロイシンは、全アミノ酸の重量に基づき少なくとも25から95重量%の量で存在し、かつ全必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率が0.60から0.90の範囲である、前記医薬組成物。」
である。

(4)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された(文献1)、本願優先日前に頒布された刊行物である、特表平11-508282号公報(以下、「引用例A」という。)には、以下の事項が記載されている。
A-1
「1.ヒトにおける、悪液質及び/又は食欲不振の徴候を予防するかまたは既存の悪液質及び/又は食欲不振を治療する方法であって、該方法が、1日につき、少なくとも、
(a)・・・油ブレンド;
(b)アミノ-窒素源であって、該アミノ-窒素源のアミノ酸の15?50重量%が分岐鎖アミノ酸であるアミノ-窒素源;および
(c)・・・抗酸化剤成分;
を、ヒトに小腸内投与することを含んで成り、
少なくとも該油ブレンドおよび該抗酸化剤が、液体栄養マトリックス中に存在する方法。」(【特許請求の範囲】)

A-2
「本発明は、悪液質および食欲不振の、予防および治療方法、ならびに栄養組成物に関する。本発明の実施において、・・・ω-3脂肪酸が、・・・抗酸化剤;バリン、ロイシン、およびイソロイシンのような分岐鎖アミノ酸を高レベルで有し、・・・アミノ-窒素源;との組み合わせにおいて、患者に小腸内投与される。」(第6頁第3?12行)

A-3
「本発明は、有効量の、分岐鎖アミノ酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、またはそれらの混合物を・・・含んで成る栄養組成物を投与することにも関する。」(第10頁第1?3行)

A-4
「他の側面においては、本発明は、バリン、ロイシン、イソロイシン、またはそれらの混合物から選択される分岐鎖アミノ酸約5?25gが、栄養組成物中に存在するアミノ-窒素の総量の約15?約50重量%、好ましくは約15?25%の量で存在するアミノ-窒素を含んで成り、・・・」(第10頁下から第4行?最下行)

A-5
「「悪液質」は、全身的な不健康および栄養失調の状態を意味する。それは、悪性癌に付随し、およびそれによって誘発されることが多く、食欲減少、体重、特に無脂肪体質量の減少、筋肉衰弱を特徴とする。」(第13頁第10?12行)

A-6
「本発明は、癌悪液質の予防および治療が所望される癌患者における、早期満腹および癌悪液質及び/又は食欲不振を防止または阻害するために、有効量の分岐鎖アミノ酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、またはそれらの混合物を、少量のトリプトファンを伴ってまたは伴わずに投与することによって、脳内トリプトファンおよびセロトニン濃度を減少させる方法も提供する。
本発明の方法および組成物は、本発明の栄養組成物中において、(i)血液脳関門の通過に対してトリプトファンと競合する分岐鎖アミノ酸を増加し;(ii)分岐鎖アミノ酸に対してトリプトファンおよび5-ヒドロキシトリプトファンのレベルを減少させることによって;脳内トリプトファン濃度を操作する方法を提供する。そのような介入が、食欲を増加させ、従って癌悪液質を予防/および治療する。」(第16頁第1?11行)

A-7
「本発明に有用な栄養組成物のアミノ酸プロフィールが、表4に示されている。
表4:アミノ酸プロフィール
アミノ酸 g/100gタンパク質
アスパラギン酸 7.08
トレオニン 4.34
セリン 5.68
グルタミン酸 20.58
プロリン 10.55
グリシン 1.81
アラニン 3.04
バリン 5.90
メチオニン 2.78
イソロイシン 4.77
ロイシン 9.08
チロシン 4.79
フェニルアラニン 4.96
ヒスチジン 2.67
リシン 7.27
アルギニン 3.15
トリプトファン 0.99
シスチン 0.56
合計BCAA 19.75 」(第20頁最下行?第21頁)

A-8
「本発明に有用な分岐鎖アミノ酸(BCAA)の総量は、約15?50g/100gタンパク質(即ち、パーセント)であり、・・・。従って、栄養組成物の8oz容器は、最大約8gBCAA/16g総タンパク質を含有する。・・・その様な多い量のBCAAを投与するために、およびBCAAは
不快な味がするので、栄養組成物は、BCAAを含有する1?3個のゼラチンカプセルを伴って、液体製剤に存在する固有量を越えて必要とされる追加量を与えてもよい。好ましいBCAAは、そられに限定はされないが、ロイシン、イソロイシン、およびバリンであり、主に苦い味がする。従って、カプセル封入形態の追加BCAAの投与は、液体製剤中において20g/100gタンパク質より多い量のBCAAの使用に際して生じる味覚の問題が回避される。」(第21頁第1行?最下行)

原査定の拒絶の理由に引用された(文献5)、本願優先日前に頒布された刊行物である、惣中一郎、アミノ酸の新しい薬理作用、ファルマシア、1999、Vol.35、No.11、p.1141-1145(以下、「引用例B」という。)には、以下の事項が記載されている。
B-1
「1 はじめに
アミノ酸が、糖質、脂質、ビタミン、ミネラルと並んで五大栄養素と称され、タンパク質の構成成分として認識されたのは20世紀初頭のことで、続いて体内で合成できる非必須アミノ酸と合成できない必須アミノ酸の同定及び必須アミノ酸の所要量が・・・報告されてから約50年が経過する。^(1))・・・ヒトではヒスチジン(L-His)、・・・、バリン(L-Val)の9種のアミノ酸が必須アミノ酸であることが確立されている。・・・また一方で、アミノ酸がタンパク質合成の素材としてだけではなく、それ自身が薬理的活性を発現して、各種の細胞機能を調節していることが明らかになりつつある。そこで本稿では、研究が進められている、分岐鎖アミノ酸(BCAA:L-Ile、L-Leu、L-Val)・・・の現況について紹介する。」(第1141頁左欄第1行?最下行)

B-2
「2 分岐鎖アミノ酸(BCAA)
我々はこれまで・・・肝不全や外科侵襲といった異化期にはBCAAの所要量が健常人に比べて高くなっていることを基礎的に確認してきた。^(3))例えば、・・・BCAA高含有アミノ酸輸液は・・・術後異化期に顕著に低下する筋肉のタンパク合成率を改善することが認められた。・・・
筋肉のタンパク代謝(合成・分解)に対するBCAAの同化作用はタンパク質の素材としてではなく、それ自身が代謝を制御する薬理作用によるものであることが知られている。」(第1141頁右欄第1?19行)

B-3
「Goldbergらが・・・筋タンパク合成率と筋タンパク分解率に対するL-Leu の作用について検討した実験結果を表1に示す。L-Leuは筋タンパク合成率を46%促進し、筋タンパク分解率を26%抑制した。一方、L-Leuが脱アミノ化されて生成されるα-ケトイソカプロン酸(α-KIC)は筋タンパク合成率に対しては影響を及ぼさないが、筋タンパク分解率を19%抑制した。このことから、筋タンパク合成促進にはL-Leuが、筋タンパク分解の抑制にはα-KICがおのおの関与してBCAAの筋タンパク同化作用が発現されるものと考えられている。^(5))」(第1141頁右欄下から第11行?第1142頁左欄第1行)

(5)対比
引用例Aには、バリン、ロイシン及びイソロイシンからの分岐鎖アミノ酸(BCAA)を15?50重量%で含有するアミノ-窒素源、油ブレンド及び抗酸化剤成分を含んでなり、癌により誘導された悪液質および食欲不振を予防及び治療するための栄養組成物が記載されている(上記A-1?A-4)。
さらに、栄養組成物中に含有されるアミノ-窒素源の具体例として、タンパク質(全アミノ酸)100gあたり、BCAAを19.75g(バリン5.90g/イソロイシン4.77g/ロイシン9.08g)含む必須アミノ酸を42.76g(BCAA19.75g/トレオニン4.34g/メチオニン2.78g/フェニルアラニン4.96g/ヒスチジン2.67g/リシン7.27g/トリプトファン0.99g)含ませ、必須アミノ酸以外のアミノ酸を57.24(100-42.76)g含ませることが記載されており(上記A-7)、全アミノ酸中にBCAAが19.75重量%含まれており、また、全アミノ酸に対する全必須アミノ酸の比率は0.4276であることが理解できる。
(なお、本願明細書の【0016】には、「「全ロイシン」又は「全アミノ酸・・・」という用語は、本明細書において使用されるように、遊離型及び/又は塩型のロイシン又はアミノ酸と、完全タンパク質に由来するか又は完全タンパク質内に結合しているロイシン又はアミノ酸とを合わせたものをさす。」と記載されており、「全」が付く場合、遊離型及び/又は塩型のものとタンパク質由来のものとを合わせたものであることが理解できる。
したがって、上記したように、「19.75重量%」並びに「0.4276」と算出できる。)

よって、引用例Aの上記事項より、引用例Aには、
「バリン、ロイシン及びイソロイシンからの分岐鎖アミノ酸(BCAA)を含む必須アミノ酸、及び、必須アミノ酸以外のアミノ酸から構成されるアミノ-窒素源;油ブレンド;および抗酸化剤成分;を含んで成り、癌により誘導された悪液質及び食欲不振による体重減少の影響を治療及び予防するための栄養組成物であって、全アミノ酸中にBCAAが19.75重量%含まれており、全必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率が0.4276である、前記栄養組成物。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「栄養組成物」の用途は、「癌により誘導された悪液質及び食欲不振による体重減少の影響を治療及び予防するため」であるが、「癌」と「腫瘍」とは同義であるから、この用途は、本願補正発明における組成物の用途である「腫瘍により誘導された悪液質及び食欲不振による体重減少の影響を治療、予防及び緩和するための医薬」に実質的に相当するといえる。
(なお、本願明細書の【0030】及び【0034】の記載(「・・・本発明の組成物は・・・栄養的製剤の形態、例えば、医用の食用もしくは飲用の製品の形態で・・・提供され得る。」、「場合により、本発明に係る組成物は、栄養的に完全であってもよい、即ち、必要とされる1日量のビタミン、ミネラル、炭水化物、脂肪及び/又は脂肪酸、タンパク質等を本質的に全て供給する唯一の栄養源として使用され得るよう、窒素、炭水化物及び脂肪及び/又は脂肪酸の起源は、もちろんのこと、ビタミン、ミネラル、微量元素を含んでいてもよい。」)を参照すれば、本願補正発明における「医薬組成物」は、引用発明と同じく、アミノ酸のみならず脂肪酸(油)やタンパク質等の他の栄養源を含み得るものであるし、また、栄養剤として用いられるものでもあることが理解できる。)
また、引用発明は、必須アミノ酸と必須アミノ酸以外のアミノ酸とを含むものであるが、本願補正発明における「全必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率が0.60から0.90の範囲である」との事項より、本願補正発明も、必須アミノ酸と必須アミノ酸以外のアミノ酸とを含むことが理解でき、共に、必須アミノ酸と必須アミノ酸以外のアミノ酸とを含む点でも共通する。
よって、両者は、
「腫瘍により誘導された悪液質及び食欲不振による体重減少の影響を治療、予防及び緩和するための医薬組成物であって、必須アミノ酸と必須アミノ酸以外のアミノ酸とを含む、前記医薬組成物。」
である点で一致し、以下の3点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明は、「遊離型及び/又は塩型のロイシン」を含むものであって([相違点1-1])、その量が「全アミノ酸の重量に基づき少なくとも25から95重量%」である([相違点1-2])のに対し、引用発明では、遊離型及び/又は塩型のロイシンを前記量で含ませることについては特定していない点。

[相違点2]
本願補正発明は、「遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸を含む」のに対し、引用発明では、これら遊離型及び/又は塩型の必須アミノ酸を含ませることについては特定していない点。

[相違点3]
本願補正発明は、「全必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率が0.60から0.90の範囲」であるのに対し、引用発明では、全必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率は、「0.4276」であり、本願補正発明で特定する比率には届いていない点。

(6)判断
[相違点1]?[相違点3]について
まず、「遊離型及び/又は塩型のロイシン」及び「遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸」を配合すること([相違点1-1]及び[相違点2])について判断すると、引用例Aには、栄養組成物に含まれるロイシン、イソロイシン及びバリンの分岐鎖アミノ酸(BCAA)によって、癌患者の早期満腹、癌悪液質及び食欲不振を防止・阻害して、食欲を増加させ、癌悪液質を予防および治療し、筋肉の減少・衰弱に対処できることが記載されており(上記A-5、A-6)、さらに、BCAAを加えて、その比率を高めることも記載されている(上記A-8)。
よって、引用発明において、悪液質が原因となる筋肉衰弱等の問題に対してより優れた効果を得ることを期待して、ロイシン、イソロイシン及びバリンの3種のアミノ酸を加えること、つまり、[相違点1-1]で挙げた遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び、[相違点2]で挙げた遊離型及び/又は塩型の必須アミノ酸(イソロイシン及びバリン)を含ませることは、当業者が容易になし得ることである。
さらに、引用例Aには、上記したことに加えて、BCAAの比率について、全アミノ酸の50重量%までにすることも記載されている(上記A-1、A-4、A-8)。
加えて、引用例Bには、五大栄養素の一つであるアミノ酸のうちのBCAAに関して(上記B-1)、肝不全や外科侵襲の病態時においては、BCAAの所要量が健常人に比べて高くなっていることや、BCAA高含有アミノ酸輸液により、術後異化期に顕著に低下する筋タンパク合成率を改善できたこと、及び、筋タンパク代謝(合成・分解)においては、BCAAが代謝を制御して、BCAAの筋タンパク同化作用が生じることが記載されており(上記B-2)、さらに、BCAAのうちのロイシン、並びに、ロイシンから生成されるα-KICは、筋タンパク合成率の促進や筋タンパク分解率の抑制に関与する成分であり、ロイシンによって、BCAAの筋タンパク同化作用が発現するとされていることも記載されている(上記B-3)。
そして、引用例Bのこれら記載より、BCAAについて、特に病態時に必要とされるアミノ酸であることが理解でき、また、病態時に顕著に低下する筋タンパク合成に有効であることも理解でき、さらに、BCAAのうちのロイシンは、筋タンパク同化に重要なアミノ酸であることも理解できる。
よって、BCAAを加えるにおいて、BCAAによる効果、特にロイシンによる効果を期待して、ロイシンの割合を高めたBCAAを最大値の50重量%になるまで加えること、つまり、[相違点1-2]及び[相違点2]として挙げた本願補正発明で特定するロイシン並びに全必須アミノ酸の各比率にすることは、当業者が容易になし得ることである。
(なお、引用発明(全アミノ酸100g中にBCAA及び全必須アミノ酸を、それぞれ、19.75g及び42.76g含む。)において、BCAAの比率を50重量%にするには、BCAAを60.5g加えれば良く((19.75+60.5)÷(100+60.5)≒50重量%となる。)、そして、その際の全必須アミノ酸の比率は、約0.64((42.76+60.5)÷(100+60.5))となり、[相違点3]として挙げた本願補正発明で特定する全必須アミノ酸比率の範囲(0.60から0.90)と重複する。
さらに、ロイシンについては、加えるBCAAのうちの約2/3(40.1g)以上にしさえすれば、[相違点1-2]として挙げた本願補正発明で特定するロイシン比率の下限値(25重量%)に達することになる(40.1÷(100+60.5))≒25重量%となる。)。)

そして、本願補正発明による効果について検討すると、本願明細書の【実施例3】には、本願補正発明に対応するといえる試験結果が記載されており(【0084】?【0091】)、外科的手技により誘導したウサギストレスモデルにおいて、ロイシンを25%又は35%含んだバランスアミノ酸を投与することにより、筋肉におけるタンパク質合成が有意に高まることが把握できる。
しかし、上記したように、引用例Aには、ロイシンを含むBCAAが食欲を向上させ、悪液質が原因となる筋肉の減少・衰弱に対して有効であることが記載されているし、さらに、引用例Bには、ロイシンを含むBCAAが、術後異化期に顕著に低下する筋肉のタンパク合成率を改善したことが記載されているに加えて、ロイシンは筋タンパク合成促進に関与するアミノ酸であることも記載されているから、上記効果は、引用例A、Bの記載事項より、当業者が予測し得る程度のものであるといえる。
よって、本願補正発明は、格別な効果を奏するものであるとはいえない。

なお、審判請求人は、審判請求書に対する平成21年12月17日受付けの手続補正書(方式)において、引用例A及び引用例Bに対して、下記(a)及び(b)を主張している。
(a)「引用文献1(審判注:引用例A)には、ロイシンの量の範囲や全必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率を本願発明の範囲に特定することについて記載も示唆もないものと思料する。また、実施例IIには、ロイシン、イソロイシン及びバリンの混合物を添加した組成物も開示されている。しかし、斯かる組成物については味覚試験を実施しているのみであり、しかもその結果は評価者全員が、分岐鎖アミノ酸に起因する苦味及び酸味が経口栄養組成物にとって理想的でないということに合意し、引用文献1の上記組成物とは別個の丸剤又はカプセルの形態で投与しなければならないというものであった。斯かる記載は、組成物において分岐鎖アミノ酸の増量をむしろ阻害するものである。」
(b)「引用文献5(審判注:引用例B)には、・・・L-Leuが筋タンパク合成率を46%促進し、筋タンパク分解率を26%抑制したことが記載されている(・・・)。しかしながら、腫瘍による筋タンパク分解に対する効果については全く記載も示唆もない。また、斯かる筋タンパク合成及び分解に影響を与えるL-Leuの具体的量についても、0.5mMとの記載があるのみで、他のアミノ酸やタンパク質等についての記載は全くなく、まして、他のアミノ酸に対する含有率及び全必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率を本願発明の範囲に特定する動機付けとなるような記載も示唆も与えられていない。」
しかし、以下に述べるように、上記(a)及び(b)の主張はいずれも採用できない。
<(a)の主張について>
引用例Aには、ロイシンを含む分岐鎖アミノ酸(BCAA)の比率を50重量%までにすることが記載されていることは既に述べたとおりであるし、さらに、引用例Bには、BCAAは筋肉合成に関係するアミノ酸であることに加え、中でもロイシンが筋肉合成促進に関係することが記載されていることも既に述べたとおりであるから、「ロイシンの量の範囲や全必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率を本願発明の範囲に特定することについて記載も示唆もない」との主張は採用できない。
また、引用例Aには、「栄養組成物の8oz容器は、最大約8gBCAA/16g総タンパク質を含有する。・・・その様な多い量のBCAAを投与するために、およびBCAAは不快な味がするので、栄養組成物は、BCAAを含有する1?3個のゼラチンカプセルを伴って、液体製剤に存在する固有量を越えて必要とされる追加量を与えてもよい。」(上記A-8)と記載されており、この記載より、味覚の点でカプセル剤にしても良いし、また、BCAAを50重量%含んだ栄養組成物を調製しても良いことが理解できる。
さらに、本願明細書の【0055】には、「本発明に係る栄養的組成物は、全ての要素・・・を含有している単一組成物の形態で投与されてもよいし、又は各要素が個々に投与されてもよい。例えば・・・液状の栄養的製剤は、必須アミノ酸を除く、例えば、存在するのであれば分枝鎖アミノ酸・・・を除く、全ての要素を含有し得る。例えば、分枝鎖アミノ酸・・・は、存在する場合、固形経口投与剤形の形態で、例えば、カプセル剤・・・の形態で投与され得る。」と記載されており、この記載より、本願補正発明における「組成物」には、BCAA等を別途用意した形態も含まれると解釈できる。
よって、「組成物において分岐鎖アミノ酸の増量をむしろ阻害するものである」との主張も採用できない。
以上のことより、上記(a)の主張は採用できない。

<(b)の主張について>
引用例Bには、ロイシンを含むBCAAより、術後異化期、つまり、病態時の筋タンパク合成率が改善したこと、並びに、ロイシンが筋タンパク合成促進に関与することが記載されていることは、既に述べたとおりであり、そして、これら記載より、病態時の筋タンパク合成率の改善に貢献するBCAA中で、ロイシンが特に重要であることは、当業者であれば、予測し得ることである。
さらに、引用例Aには、腫瘍による体重減少の抑制に、BCAAを高い割合で含む栄養組成物が有効であることや、必須アミノ酸でもあり、ロイシンを成分として含むBCAAの比率を50重量%にまで高めることについて記載されていることも、既に述べたとおりである。
よって、上記(b)の主張により、上記した判断が変わることはない。

したがって、本願補正発明は、引用例A及び引用例Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(7)むすび
以上のとおり、本件補正発明は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成21年10月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1?26に係る発明は、平成21年3月6日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?26に記載されたとおりのものである。
そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、
「遊離型及び/又は塩型のロイシン、及び遊離型及び/又は塩型のイソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン又はヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一つの必須アミノ酸を含む組成物であって、遊離型及び/又は塩型のロイシンは、全アミノ酸の重量に基づき少なくとも25から95重量%の量で存在し、かつ全必須アミノ酸の全アミノ酸に対する比率が0.60から0.90の範囲である、前記組成物。」
である。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例A、B、及び、その主な記載事項は、上記2.(4)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、「腫瘍により誘導された悪液質及び/又は食欲不振による体重減少の影響を治療、予防及び緩和するための医薬」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(6)」に記載したとおり、 引用例A及び引用例Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例A及び引用例Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用例A及び引用例Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-12 
結審通知日 2012-01-17 
審決日 2012-01-30 
出願番号 特願2004-568891(P2004-568891)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関 景輔安藤 倫世  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 平井 裕彰
内藤 伸一
発明の名称 ロイシンに富んだ栄養的組成物  
代理人 大崎 勝真  
代理人 小野 誠  
代理人 金山 賢教  
代理人 川口 義雄  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 坪倉 道明  

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