• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1259081
審判番号 不服2009-16524  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-08 
確定日 2012-06-22 
事件の表示 特願2003-548876「抗PepT抗体を含有する細胞増殖抑制剤」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月12日国際公開、WO03/47621〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権を伴う平成14年12月4日(優先日2001年12月4日 特願2001-369608号、2002年6月5日 特願2002-164834号)を国際出願日とする国際出願であって、平成21年3月25日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが、平成21年6月4日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成21年9月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

2.平成21年9月8日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年9月8日付の手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により特許請求の範囲の請求項1は、
補正前の「PepT1に結合し、かつCDC活性を有する抗体を有効成分として含有する細胞増殖抑制剤。」から、
「PepT1の細胞外領域に結合し、かつCDC活性を有する抗体を有効成分として含有する癌細胞増殖抑制剤。」へと補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、抗体が結合する「PepT1」について、その抗体結合領域を「細胞外領域」に、「細胞増殖抑制剤」の「細胞」を「癌細胞」に、それぞれ限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の当該請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)特許法第29条第2項
(2-1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前の1998年に頒布された刊行物であるPharma. Res., 1998, Vol.15, No.2, pp.338-342(以下、「引用例1」という。)
には、
(i-1)「抗原性ペプチドの選択及び合成
PepT1の1次配列より親水性、可変性及び接近可能性を考慮することで2つのペプチド部分を選択した。(図1)」(338頁右欄下から17行?下から14行)、
(i-2)「免疫及び血清の調製
ペプチドはm-maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide(MBS)をリンカー化合物として用いてキャリアー蛋白であるキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に結合させた。BALB/cマウスは、完全フロイドアジュバントとコンジュゲートしたペプチド-KLH結合体により1回免疫し、隔週の時間間隔で、不完全フロイドアジュバント中の同一抗原により2回ブーストした。」(338頁右欄下から4行?339頁左欄4行)、
(i-3)「PepT1の大きな細胞外ループのペプチド部分(p474-488及びp536-547)に対する、2つのポリクローナル抗体が調製された。」(340頁左欄15?17行)、
(i-4)「これらのデータは、PepT1の細胞外ドメインに対して作られた抗PepT1抗体が、トランスポーター分子を、線状系及びそのネイティブな立体構造の両者を認識したことを提案するものである。結果として、これらのデータは、このトランスポーター蛋白が表面に発現していることを確かなものとしている。」(341頁右欄下から6行?下から1行)と記載されている。

同じく原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用された本願優先日前の1998年に頒布された刊行物であるCancer Res.,1998,Vol.58,pp.519-525(以下、「引用例4」という。)には、
(iv-1)「2つの膵臓癌細胞株AsPc-1及びCapan-2を用いて、そのような癌への抗癌剤の輸送の標的として有効であることの可能性について検証した。」(要約の項2?5行)、
(iv-2)「AsPc-1及びCapan-2において、複数グリコシル化体(Mr?90,000-120,000)としてのPEPT1蛋白が、Caco-2 培養細胞と比較して、高度な発現レベルであることがウエスタン免疫ブロットで確認された。」(要約の項10?13行)、
(iv-3)「蛋白発現レベルを評価するために、ヒトPEPT1のCOOH末端領域を認識するポリクローナル抗体を用いて、細胞膜溶解物のウェスタン免疫ブロット分析がなされた。これらのブロットはAsPc-1及びCapan-2細胞が、確かに、高いレベルでPEPT1が発現していることを裏付けた(Fig.2)。」(521頁左欄下から7行?3行)と記載されている。

同じく原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用された本願優先日前の1998年に頒布された刊行物であるParmaceutical Research,1998,Vol.15,No.6,p.816-818(以下、「引用例5」という。)には、
(v-1)「2つの最近の刊行物が癌細胞における機能的なオリゴペプチドトランスポーターの発現を記載している。・・・2つ目の研究は膵臓腺癌細胞株におけるPepT1オリゴペプチドトランスポーターの高発現レベルを示した(2)。・・・その観察結果は、抗癌療法の選択的標的のための新しいアプローチの可能性を広げるものである。この点に関しては、癌細胞の表面に存在する、特異的に、かつ、頻繁に過剰発現している抗原に対する抗体が、癌細胞の標的のための最初の手法である。」(816頁左欄1?18行)と記載されている。
ここで、(2)として参照される文献は、上記の引用例4のことである。

同じく原査定の拒絶の理由で引用文献6として引用された本願優先日前の2001年10月に頒布された刊行物であるCritical Reviews in Oncology/Hematology,2001,Vol.40,p.3-16(以下、「引用例6」という。)には、
(vi-1)「キメラ抗CD20抗体であるリッキシマブは、あらゆる悪性腫瘍の治療のために、規制認可された最初のモノクローナル抗体である。」(要約の項1?2行)、
(vi-2)「CD20はB細胞特異的な表面蛋白である。」(6頁左欄18行)、
(vi-3)「リッキシマブはヒトC1qに結合し、ヒトのEBV感染したBリンパ球に対して補体依存性細胞障害を活性化する。」(7頁左欄9?11行)と記載されている。

同じく原査定の拒絶の理由で引用文献7として引用された本願優先日前の1989年に頒布された刊行物であるJpn.J.Cancer Res.,1989,Vol.80,p.627-631(以下、「引用例7」という。)には、
(vii-1)「ヒト薬物耐性癌に対する効果的な治療のための手法の開発の取り組みにおいて、我々は、多剤トランスポーター蛋白であるP-グリコプロテインに対して結合するモノクローナル抗体MRK16及び17を開発した。」(要約の項1?2行)、
(vii-2)「補体依存性細胞障害活性(MRK16)及び抗体依存性細胞障害活性(MTK16及び17)がこれらの抗体について観察された。これらのモノクローナル抗体はP-グリコプロテインを有する多剤耐性のヒトの腫瘍に対する治療のツールとしての可能性を有するかもしれない。」(要約の項6?8行)、
(vii-3)「mdrと名付けられた多剤耐性遺伝子は、種々の細胞毒性を有する薬剤を細胞から排出するポンプとして機能する膜糖タンパク(P-グリコプロテイン)をコードしている。」(627頁左欄5?9行)、
(vii-4)「2780^(AD) 細胞に対する補体依存性細胞障害活性(CDC)は、in vitroにおいて、MRK16(マウスIgG2a)及びウサギの補体を用いることで、明らかに観察された(Fig.2)一方、MRK17(マウスIgG1)では検出されなかった。」(629頁左欄1?5行)、
(vii-5)「マウスIgG2aモノクローナル抗体は、他のマウスIgGサブクラスに比較して、抗体依存性細胞障害メカニズムによる腫瘍細胞殺傷において、より効果的であった。22)これらの以前の報告は、MRK16(IgG2a)がMRK17(IgG1)より腫瘍の治療においてより効果的であるという我々の観察結果と合致するものである。」(629頁左欄11?17行)と記載されている。

(2-2)対比
そこで、本願補正発明と引用例1に記載された事項とを対比すると、後者における「細胞外ループのペプチド部分」は、前者における「細胞外領域」に相当し、引用例1に記載の抗体は記載事項(i-3)にあるように、細胞表面上に存在するPepT1タンパク質の細胞外領域に結合するから、両者は、PePT1の細胞外領域に結合する抗体に関連するものである点で一致する。
一方、前者では、当該抗体が、CDC活性を有し、癌細胞増殖抑制剤の有効成分として用いるものであるのに対し、後者では、CDC活性を有すること、及び、癌細胞増殖抑制剤の有効成分として用いることは記載されていない点で相違する。

(2-3)判断
引用例4記載事項(iv-1)及び引用例5には、膵臓腺癌細胞の細胞表面においてPEPT1タンパク質が高度に発現していることから、当該タンパク質が癌治療の標的となる旨が記載され、特に引用例5には、癌細胞の表面に過剰発現している抗原に対する抗体を標的のために用いることが記載されている。さらに、引用例6又は7には、それぞれPePT1と同じく細胞膜上に存在するタンパク質であるCD20又はP-グリコプロテインに結合するモノクローナル抗体が、CDC活性を有していることが記載され、特に、引用例7には、その記載事項(vii-5)にあるように、CDC活性を有するモノクローナル抗体MRK16が腫瘍の治療においてより効果的であることが記載されている。
そうすると、細胞表面上のタンパク質に結合し、CDC活性を有するモノクローナル抗体を腫瘍細胞殺傷のために用いたという引用例6、7の記載に接した当業者が、引用例1において、その細胞外領域にエピトープが存在することが証明されている細胞表面抗原であって、しかも、引用例4、5において癌細胞の表面に過剰に発現しているPepT1に対し、同様にその細胞外領域に結合するモノクローナル抗体を作成し、その中からCDC活性を有するものを選択し、これを有効成分とする膵臓腺癌細胞の増殖抑制剤を作成しようとすることは、容易に想到し得ることである。
そして、細胞表面タンパク質の細胞外領域に結合するモノクローナル抗体を調製する際に、当該タンパク質を発現する細胞そのものを免疫原とすることも本願優先日前既に周知の技術であり(要すれば、国際公開98/11218号の実施例9、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1986,Vol.83,pp7785-7789(引用例7の抗体の調製法が示された文献である。)、及び、Cell,1996,Vol.87,p.745-75の特にp.753右欄「Antibodies」の項参照。)、また、上記引用例7記載事項(vii-5)や、拒絶査定で示した文献である「金光修著,抗体工学入門,株式会社地人書館,1994,pp.33-36」にもあるように、IgG抗体がCDC活性を有するか否かは、IgG抗体のクラスに依存することは、本願優先日当時の技術常識であるから、細胞表面タンパク質の細胞外領域に結合し、CDC活性を有するモノクローナル抗体を製造することは、当業者が困難なくなし得たことである。
そして、本願補正発明において奏されるCDC活性を有し、癌細胞増殖抑制効果については、引用例1、4?7の記載から予測し得ない程の格別なものとは言えない。
したがって、本願補正発明は、引用例1、4?7の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものではない。

(2-4)審判請求人の主張
審判請求人は、平成21年11月26日付で提出した審判請求書の手続補正書において、以下(i)(ii)の点を主張している。

(i)「しかしながら、本願の優先日(2001年12月4日)当時、「細胞表面に存在するタンパク質であれば、どのようなものでも癌治療の標的として有効である」といった技術常識は存在しておらず、当業者が引用文献6又は7の記載から、PepT1に結合し、CDC活性を有する癌治療用抗体を作製する動機付けを得ることはなかったものと請求人は思量いたします。
この点に関しては、まず、CDC活性を惹起するためには一定量を超える抗原が細胞上に発現していることが必要とされる点を認識しておくことが重要です(例えば、添付資料1のFig. 4(C)等をご参照ください)。原審審査官の述べておられるように、「ターゲットについては、特別なものである必要はなく、補体系がアクセス可能なように細胞表面に存在すればよい」ものではありません。本願の優先日当時は、PepT1に関する抗原量の定量データは存在していなかった上に、抗原量の高低の基準も定かでなく、PepT1を標的としてCDC活性を惹起できると当業者が合理的に予期することは不可能でした。」、「引用文献6?7に記載のCD20、P-glycoproteinはいずれもPepT1とは機能・性質が異なるタンパク質であり、これらの文献からは、細胞表面におけるPepT1の抗原量やCDC活性に関する示唆は全く何も得られません。」

審判請求人が示す添付資料1のFig.4(c)を参照すると、確かに、CDC活性を惹起するためには一定量を超える抗原が細胞上に発現していることが必要とされることが伺え、そのことは、本願優先日当時の技術常識であると言えるものの、引用例4のFig.2には、PePT1が膵臓癌細胞において高度に発現していることが示されているのであるから、例えPePT1に関する抗原量について定量的な知見が存在しなかったとしても、PePT1を標的としてCDC活性を惹起できる抗体の取得を期待して、新たな抗体の調製を試みることは、当業者の自然な発想であるから、審判請求人の上記(i)の主張は採用できない。

(ii)「ADCC活性は多くの抗体で見られるものの、CDC活性を示す抗体は多くありません(添付資料2のFig. 3もご参照ください)。本発明のPepT1抗体に関しては、予想外にも、CDC活性の発現に都合の良いエピトープがPepT1の細胞外領域に存在していると考えるのが素直な解釈であると考えます。先の意見書でも述べましたとおり、先行文献に抗PepT1抗体がCDC活性を有するとの記載も示唆も存在しない状況で、本願発明の抗PepT1抗体にCDC活性を見出し、「癌細胞増殖抑制剤」という具体的有用性を示したこと自体が、格別顕著な効果と認められるべきものであると請求人は思量いたします。」

審判請求人が示す添付資料2のFig.3を参照すると、CDC活性を示す抗体は、29クローンのうち、概ね17クローンがCDC活性を示すと読み取れ、そうすると、全てのクローンがCDC活性を有するものではないが、むしろ半分以上のクローンがCDC活性を示すことが明らかである。
そして、引用例7の記載(vii-5)や拒絶査定で挙げた文献である「金光修著,抗体工学入門,株式会社地人書館,1994,pp.33-36」にもあるように、抗体がCDC活性を有するか否かが、抗体のクラスによることは、当業者の技術常識である。
してみれば、請求人が述べるように予想外にCDC活性の発現に都合の良いエピトープがPePT1の細胞外領域に存在するのではなく、PePT1を免疫原として用いて得られたモノクローナル抗体の中には、ある程度の割合で、CDC活性を有するものが含まれることが予期されるのであるから、請求人の上記(ii)の主張は採用できない。

さらに、審判請求人は、平成23年12月9日付回答書において、以下(iii)の点を主張している。
(iii)「しかしながら、仮に高親和性の抗体を新たに取得することが当該技術分野における自明な課題であったとしても、引用文献1には、細胞表面上に当該タンパク質を発現させる技術を用いて抗体を取得することについて、何の教示も示唆もなく、他の引用文献にもそのような技術の示唆がないことから、高親和性のモノクローナル抗体を新たに取得することが当業者にとって容易であったと言うことはできないものと思量されます。
本願優先日における技術常識として、一般に、受容体やトランスポーターなどで細胞膜を何度も貫通するタイプ(多数回膜貫通型)の分子の細胞外領域に対する抗体は、通常のマウス等の動物への免疫法では作製しにくいことが知られていました。例えば、このような分子は精製が難しく、不完全なもので免疫をしても抗体は得にくいといったことや、発現細胞を用いて免疫しても、発現量が少ない、細胞外領域が小さい、アミノ酸配列がヒトと似ている等の理由で抗体ができにくいと考えられていました。そして実際、このような分子に対する抗体は、ごく少数しか作製されていませんでした。
引用文献1の第338頁左欄「INTRODUCTION」の第2段落にも、「モノクローナル抗体は見事な特異性を有するものの、それらは一般に作製がはるかに難しい。また、モノクローナル抗体は、特定のコンフォメーションをとったペプチドを認識するため、その本来のコンフォメーションをとったトランスポータータンパク質を必ずしも認識しない。… ジペプチドトランスポーターに対するモノクローナル抗体の作製に関する報告はない。」という明確な記載があり、抗体の取得困難性を裏付けています。
引用文献1では、このような状況をふまえ、ポリクローナル抗体を使用することが選択されました(第338頁右欄第3?5行)。しかしながら、我々の知る限り、本願優先日当時、CDC活性を備えたポリクローナル抗体医薬や、ポリクローナル抗体を含む癌細胞増殖抑制剤は全く存在していませんでした。当時の技術水準の下では、そのようなポリクローナル抗体をCDC活性を備えた癌細胞増殖抑制剤として利用できるとの合理的な成功の期待を当業者が抱くことはなかったと言えます。引用文献1の開示は、本願発明に係る癌細胞増殖抑制剤を開発する動機付けを何ら与えるものではなく、むしろ、その実現が極めて困難であることを教示しているとさえ言えるものです。
一方、以前に提出した「請求の理由」中でも述べましたとおり、本願において発明者らは、細胞もしくはウイルス上に発現させたPepT1を抗原として用いて抗体を作製し、その結果、予想外にもCDC活性を有するモノクローナル抗体を得ることに成功いたしました。また、本願では特に、gp64トランスジェニックマウス/バキュロウイルスの系を用いることで抗PepT1抗体の作製効率が飛躍的に向上しています。」

確かに、引用例1には、 細胞表面上に当該タンパク質を発現させる技術を用いて抗体を取得することについては何ら記載されていないものの、上記(2-3)で述べた通り、細胞表面タンパク質に対するモノクローナル抗体を調製するに際し、当該タンパク質を発現する細胞そのものを免疫原とする技術は周知であったし、特に、引用例7のモノクローナル抗体MRK16は、まさに、P-グリコプロテインを高発現している細胞を免疫原として用いることにより得られたものである(引用例7の参照文献16に挙げられているProc.Natl.Acad.Sci.USA,1986,Vol.83,pp.7785-7789参照)。また、引用例1Fig.1には、PepT1のモデルが示されており、これを見れば、PepT1の細胞外ループは大きいものであって、引用例1により少なくとも細胞外ループの一部分により抗体を誘導するエピトープが存在することが示されているのであるから、細胞外領域に対する抗体が予想外に得られたものとはいえない。
また、引用例1の第338頁左欄下から8行?右欄14行をみると、一般論としてモノクローナル抗体の調製が難しいこと、引用例1の筆者がポリクローナル抗体を選択したことが記載されているものの、モノクローナル抗体の調製がポリクローナル抗体の調製に比して困難であることも本願優先日当時の技術常識であって、引用例1のこの記載から、他のタンパク質に比してPepT1が格別にモノクローナル抗体の調製が困難であるという事情があるとも読み取れるものではないから、この記載により、PepT1に対するモノクローナル抗体の調製の動機付けが阻害されるものではない。また、審判請求人が主張するように、CDC活性を備えたポリクローナル抗体を含む癌細胞増殖抑制剤が本願優先日当時存在しないとしても、上記(2-3)で述べた通り、引用例1、4?7に基づいて、PepT1の細胞外領域に結合し、かつCDC活性を有するモノクローナル抗体を有効成分とする癌細胞増殖抑制剤は、容易に発明をすることができたものである。
よって、審判請求人の上記(iii)の主張も採用できない。

(3)小括
以上のように、本願補正発明は、引用例1、4?7の記載から当業者であれば容易に発明することができたものであり、独立して特許を受けることができるものではない。

(4)むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成21年9月8日付の手続補正は上記の通り却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成21年3月25日付手続補正書の特許請求の範囲請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
PepT1に結合し、かつCDC活性を有する抗体を有効成分として含有する細胞増殖抑制剤。」
(以下、「本願発明」という。)

そして、本願発明は、既に検討した本願補正発明と比較して、抗体が結合する対象の「PepT1」について、その「細胞外領域」との限定がないものであり、かつ、「細胞増殖抑制剤」の「細胞」が「癌細胞」に限定されないものであって、本願補正発明を包含するものである。
したがって、請求項1に係る発明は、(2)で検討したのと同様の理由により、引用例1、4?7に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
 
審理終結日 2012-04-17 
結審通知日 2012-04-18 
審決日 2012-05-11 
出願番号 特願2003-548876(P2003-548876)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 大輔引地 進  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 田中 晴絵
鵜飼 健
発明の名称 抗PepT抗体を含有する細胞増殖抑制剤  
代理人 渡邉 伸一  
代理人 清水 初志  
代理人 大関 雅人  
代理人 新見 浩一  
代理人 刑部 俊  
代理人 小林 智彦  
代理人 井上 隆一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ