ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D21F 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 D21F |
---|---|
管理番号 | 1259329 |
審判番号 | 不服2010-20566 |
総通号数 | 152 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-09-13 |
確定日 | 2012-06-25 |
事件の表示 | 特願2006-517569「抄紙機に用いるエンドレスベルト用の基材」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月20日国際公開、WO2005/005721、平成19年 8月30日国内公表、特表2007-524768〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,2004年6月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年7月2日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成22年5月11日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。 2 平成22年9月13日付けの手続補正(以下,「本件手続補正」という。)についての補正却下の決定 〔補正却下の決定の結論〕 本件手続補正を却下する。 〔理由〕 (1)補正後の本願発明 本件補正により,補正前の特許請求の範囲の請求項24は, 「 【請求項24】 抄紙機に適用するのに使用されるエンドレスベルトの基材を製造する方法であって: a.構造体を形成するように,プレポリマー及び硬化剤のマトリックスを有する布地材料の3層以上の成形層を組み合わせるステップと; b.積層体を形成するように,前記構造体を処理するステップと; c.前記構造体を硬化するステップと; を有することを特徴とする方法。」 と補正された。 上記補正は,補正前の請求項24に記載された発明を特定する事項である,「複数の成形層」について,「3層以上の成形層」と限定するものである。また,補正後の請求項24に記載された発明は,補正前の請求項24に記載された発明と,発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではない。 したがって,上記補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件手続補正後の上記請求項24に記載された事項により特定される発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。 (2)引用例の記載事項,及び引用例に記載された発明 ア.原査定における拒絶の理由に引用された特開平6-287885号公報(以下,「引用例1」という。)には,以下の事項が図面とともに記載されている。 (a)「【0001】【産業上の利用分野】この発明は,エクステンデット・ニップ・プレス(Extended Nip Press)またはインテンサ・エス・プレス(Intensa S Press )などの抄紙工程で湿紙(ウェブ)を脱水するためのプレス装置に用いることができるエンドレスベルトに関するものである。」 (b)「【0018】この発明において,筒状のエンドレス弾性体層は,繊維材料に液状弾性体前駆体を含浸し,この液状弾性前駆体を硬化させて形成させることができる。 【0019】液状の弾性体前駆体を含浸させる繊維材料としては,たとえば不織布を用いることができる。」 (c)「【0022】この発明において,弾性体層に用いられる弾性体または弾性体前駆体としては,ポリウレタンエラストマ,・・・などを用いることができる。」 (d)「【0025】この発明の好ましい実施態様の1つに従えば,液状の弾性体前駆体を含浸した不織布テープは,筒状に巻付けて積層され,含浸された弾性体前駆体を硬化することにより,積層された不織布テープが一体化される。」 (e)「【0030】この発明に従う製造方法は,液状の弾性体前駆体をテープ状繊維材料に含浸する工程と,弾性体前駆体を含浸したテープ状繊維材料をエンドレスの周面を有する支持体に巻付けて積層する工程と,積層したテープ状繊維材料に含浸された弾性体前駆体を硬化し弾性体層にする工程と,弾性体層を支持体から取外す工程とを備えている。」 (f)「【0041】この発明において,弾性体前駆体の硬化は,たとえば加熱または常温放置などにより行なうことができる。」 (g)「【0047】この製造方法に従えば,支持体の形状および寸法を変えたり,あるいはテープ繊維材料の幅や積み重ねる層の数を変化させることにより,自由に所望の形状および構造のエンドレスベルトを得ることができる。」 (h)「【0052】この実施例では,不織布テープとして,幅165mmのスティッチボント不織布が用いられる。ウェブはポリエステル繊維であり,綴糸はポリアミド繊維であり,目付は115g/m^(2)の不織布テープ(ボンヤーンC-3512TA3:日本不織布株式会社製)が用いられる。 【0053】含浸させるポリウレタンエラストマとしては,ポリウレタンプレポリマとしてのハイプレン-100(登録商標:三井東圧化学工業(株)製)100重量部に,硬化剤としてのメチレンビスオルソクロロアニリン12.5重量部を混合したものを用いる。 【0054】支持体への含浸不織布テープ巻付けにおいては,送りピッチを20mmとして,巻付けの張力を10kgにして巻付ける。不織布テープの巻付け後,ポリウレタンエラストマを硬化させ,硬化後その表面を切削および研磨した後,支持体から取出す。」 (i)「【0055】図3は,この実施例に従い得られるベルトを示す断面図である。図3に示すエンドレスベルト30において,一点鎖線で示される線は,不織布テープの層を示したものであるが,最終的なエンドレスベルトにおいては,このような境界面はもはや認識されないものであり,ポリウレタンエラストマ中に不織布テープを構成する繊維材料は均一に分散し含有されている。」 イ.ここで,上記記載事項及び図3から,次のことが分かる。 (j)上記(d),(i)の記載及び図3から,3層以上の不織布テープの層を積層することが分かる。 ウ.以上の(a)ないし(j)及び図3によれば,引用例1には,次の発明(以下,これを「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「抄紙工程で使用されるエンドレスベルトを製造する方法であって, 所望の形状および構造を形成するように,ポリウレタンプレポリマ及び硬化剤を含浸させた繊維材料の3層以上の不織布テープの層を積層する工程と, 筒状のエンドレス弾性体層を形成するように,積層した不織布テープに含浸された弾性体前駆体を加熱または常温放置などにより硬化する工程と, を有する方法。」 (3)対比 引用発明における「抄紙工程で使用される」は,本願補正発明の「抄紙機に適用するのに使用される」に相当する。 引用発明における「エンドレスベルトを製造する方法」は,「硬化後その表面を切削および研磨」(上記(h)参照)する過程を経て最終的なエンドレスベルトとなるのであるから,本願補正発明の「エンドレスベルトの基材を製造する方法」との要件を満たす。 引用発明における「所望の形状および構造」は,本願補正発明の「構造体」に相当する。 引用発明における「ポリウレタンプレポリマ」,「繊維材料」は,それぞれ本願補正発明の「プレポリマー」,「布地材料」に相当し,引用発明の「ポリウレタンプレポリマ及び硬化剤を含浸させた繊維材料の3層以上の不織布テープの層を積層する工程」は,本願補正発明の「プレポリマー及び硬化剤のマトリックスを有する布地材料の3層以上の成形層を組み合わせるステップ」との要件を満たす。 引用発明における「筒状のエンドレス弾性体層」,「積層した不織布テープに含浸された弾性体前駆体を加熱または常温放置」は,それぞれ本願補正発明の「積層体」,「構造体を処理する」に相当する。よって,引用発明の「積層した不織布テープに含浸された弾性体前駆体を加熱または常温放置などにより硬化する工程」は,本願補正発明の「構造体を処理するステップ」及び「構造体を硬化するステップ」との要件を満たす。 (4)一致点・相違点 ア.したがって,本願補正発明と,引用発明とは,本願補正発明の記載に倣うと, 「 抄紙機に適用するのに使用されるエンドレスベルトの基材を製造する方法であって: a.構造体を形成するように,プレポリマー及び硬化剤のマトリックスを有する布地材料の3層以上の成形層を組み合わせるステップと; b.積層体を形成するように,前記構造体を処理するステップと; c.前記構造体を硬化するステップと; を有する方法。」である点で一致し,相違するところがない。 イ.また仮に,本願補正発明の「3層以上の成形層」が,連続した一体のものではなくて,個々の「成形層」が3層以上であることを意味するものとした場合は,引用発明の「不織布テープ」は連続した一体のものであるから,上記(3)対比で示したところの,引用発明の「3層以上の不織布テープの層を積層する工程」は,本願補正発明の「3層以上の成形層を組み合わせるステップ」との要件を満たさないことになる。 そうすると,本願補正発明と,引用発明とは,本願補正発明の記載に倣うと, 「 抄紙機に適用するのに使用されるエンドレスベルトの基材を製造する方法であって: a.構造体を形成するように,プレポリマー及び硬化剤のマトリックスを有する布地材料の層を組み合わせるステップと; b.積層体を形成するように,前記構造体を処理するステップと; c.前記構造体を硬化するステップと; を有する方法。」である点で一致し,以下の点で相違する。 <相違点> 本願補正発明は「3層以上の成形層を組み合わせる」のに対して,引用発明はそのように特定されていない点。 (5)判断 ア.上記(4)ア.の場合について,本願補正発明と引用発明とは,実質的な相違点がなく,同一である。 イ.上記(4)イ.の場合について,引用例1にはさらに,「【0040】また,一旦支持体の上にテープ状繊維材料を巻付けた後に,さらにテープ状繊維材料をその上から巻付けてもよい。この場合,テープ状繊維材料や含浸させる弾性体前駆体の種類を変えてもよい。」との記載があり,段落【0082】及び図11には,2層の弾性体層36a及び36bを形成することが記載されている。ここで「弾性体層36a及び36b」は,個々の層であるから,本願補正発明の「成形層」に相当する。 そして,積層体において層の数を単に増やすことは当業者が試みるであろう設計的事項であって,2層の弾性体層において,層の数を単に増やして,3層以上の弾性体層として上記相違点に係る構成とすることに格別の困難性は認められない。 しかも,全体として本願補正発明が奏する効果も,引用発明から当業者が予測できたものであって,格別顕著なものとはいえない。 (6)独立特許要件について したがって,本願補正発明は,引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定に該当し,特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 また,本願補正発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 (7)まとめ 以上のとおり,本件手続補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3 本願発明について (1)本願発明 上記のとおり,本件手続補正は却下されたので,本願の請求項1ないし請求項40に係る発明は,平成22年3月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項40に記載された事項により特定されるところ,請求項24は次のとおり記載されている。 「 【請求項24】 抄紙機に適用するのに使用されるエンドレスベルトの基材を製造する方法であって: a.構造体を形成するように,プレポリマー及び硬化剤のマトリックスを有する布地材料の複数の成形層を組み合わせるステップと; b.積層体を形成するように,前記構造体を処理するステップと; c.前記構造体を硬化するステップと; を有することを特徴とする方法。」 (以下,請求項24に係る発明を,「本願発明」という。) (2)引用例の記載事項,及び引用例に記載された発明 原査定における拒絶の理由に引用された特開平6-287885号公報(引用例1)に記載された事項,及び引用例1に記載された発明は,上記2(2)に記載したとおりである。 (3)対比・検討 本願発明は,本願補正発明を特定する事項である「3層以上の成形層」について,「複数の成形層」と拡張するものである。 そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,さらに「複数の成形層」を「3層以上の成形層」に限定したものに相当する本件補正発明が,引用文献1に記載された発明であり,また引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用文献1に記載された発明であり,また引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)むすび 以上のとおりであって,本願発明は,引用文献1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定により,また引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-02-02 |
結審通知日 | 2012-02-03 |
審決日 | 2012-02-14 |
出願番号 | 特願2006-517569(P2006-517569) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(D21F)
P 1 8・ 113- Z (D21F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 前田 知也 |
特許庁審判長 |
鈴木 由紀夫 |
特許庁審判官 |
亀田 貴志 紀本 孝 |
発明の名称 | 抄紙機に用いるエンドレスベルト用の基材 |
代理人 | 永井 道雄 |