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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1259388
審判番号 不服2011-1336  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-19 
確定日 2012-07-05 
事件の表示 特願2005-243803「磁気ディスク用基板および磁気ディスクの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月 6日出願公開、特開2006- 92722〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成17年8月25日の出願であって、平成22年1月26日付けで通知した拒絶理由に対して、同年4月5日付けで意見書が提出されたが、同年10月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成23年1月19日付けで拒絶査定不服審判が請求された。

その後、当審において、平成24年1月25日付けで拒絶理由を通知したところ、同年4月2日付けで手続補正書及び意見書が提出されたものである。


2.本願発明

本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成24年4月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
主表面の周縁部に形成された外周端部形状が、該主表面の他の平坦部を基準にして、
外周端部スキージャンプ値が0μm以下、
外周端部ロールオフ値が-0.2?0.0μm、および
外周端部ダブオフ値が0?120Å、
であり、主表面(データ面)と外周端面(ストレート面)との間に、チャンファー(面取り)面を有するガラス基板であって該ガラス基板のデータ面とチャンファー面との間に、曲率が0.013?0.080mmのR面を有することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板。
ここで、該外周端部スキージャンプ値、外周端部ロールオフ値、外周端部ダブオフ値および曲率は次のように定義される:
図3において主表面の輪郭線上の記録エリア内に2点の基準点を設定し、中心から近い順にR1、R2とし、R2からさらに外周方向に一定の距離をとった点R3を設定し、主表面とチャンファー面の交点の位置をR4とし、R1とR2を結ぶ平面形状プロファイルに対して、最小二乗法で一番近い直線を求め、それを0ラインとする;
外周端部スキージャンプ値は、R2からR4までの領域においてディスク平面形状プロファイルの0ラインからの変位量最大値(凸形状を+、凹形状を-)をいう;
外周端部ロールオフ値は、R3の位置における、ディスク平面形状プロファイルの0ラインからの変位量(凸形状を+)をいう;
図4において、主表面とチャンファー面の交点の位置(R4)よりも内周方向の領域で1.6mm離れた2点(R5およびR6)を設定し、外周端部ダブオフ値は2点を通る直線R5?R6を基準線とし、基準線から曲線R5?R6までの変位最大値(絶対値)をいう;そして
図5の模式断面図に示すように、ガラス基板の主表面(データ面)の延長線を引き、ガラス基板のR面に基づく曲率により、該R面の形状曲線が上記延長線と離れる位置をA点とする。そのA点から10μm離れた位置を、それぞれB点およびC点として、これらの点A、BおよびCを通る円を求め、その円の半径を曲率という。」


3.当審の拒絶理由

当審において、平成24年1月25日付けで通知した拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

(1)
「A.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」

「<理由Aに対して>

請求項1及び従属請求項について、以下の不備がある。

(1)課題を解決できた例として、サンプルNo.1が1つ開示されているにとどまる。
よって、表1を参酌しても、R曲面率、スキージャンプ値、ロールオフ値、ダブオフ値について、請求項1に記載された数値範囲にまで、拡張できる根拠を見出せず、また、明細書及び図面を精査しても、請求項1に記載された数値範囲にまで、拡張できる合理的な理由を見出すことができない。
(例えば、R曲面率のパラメータについて、表1には、「0.060mm」では歩留まりの低下はなく、「0.005mm」では歩留まりが低下することが記載されているが、例えば、下限とされる「0.013mm」では歩留まりの低下はないことまでは裏付けられていないので、当該下限にまで拡張できない。
ここで、平成22年4月5日付け意見書において、「Rはデータ面とチャンファー面の境界の曲率を定義するパラメーターであるので、Rがある範囲より小さいものは尖っているということで、バーニッシュ工程の加圧用コンタクトヘッドとディスクに挟まれてテープから砥粒を削り落とし、これが発塵することになる。」と説明しているが、当該説明からR曲面率がある範囲より小さいものは歩留まりが低下することは理解できたとしても、「0.013mm」より小さいものが歩留まりが低下することまでは定かでないので、当該下限にまで拡張できない。
なお、R曲面率のパラメータの上限、他のパラメータの上限・下限についても、同様に、拡張できない。)
以上のとおりであるから、本発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」

(2)
「B.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」

「<理由Bに対して>

請求項1及び従属請求項について、以下の不備がある。」

(ア)
「(1)「外周部スキージャンプ値」の定義(【0019】-【0022】、図3)が明記されておらず、発明の範囲が明確でない。
(特に、(a)R1とR2の値が特定されていないので、0ラインを特定することができない。(b)主表面とチャンファー面の間にR面を有しているので、主表面とチャンファー面の交点の位置R4を特定することができない。(c)R4の値が特定されてもいないので、R4の位置を特定することができない。
したがって、本願発明でいう「外周部スキージャンプ値」を特定することができず、発明が明確でない。)」

(イ)
「(2)「外周部ロールオフ値」の定義(【0019】-【0022】、図3)が明記されておらず、発明の範囲が明確でない。
(特に、(a)R1とR2の値が特定されていないので、0ラインを特定することができない。(b)R3の値が特定されていないので、R3の位置を特定することができない。
したがって、本願発明でいう「外周部ロールオフ値」を特定することができず、発明が明確でない。)」

(ウ)
「(3)「外周部ダブオフ値」の定義(【0023】-【0024】、図4)が明記されておらず、発明の範囲が明確でない。
(特に、(a)主表面とチャンファー面の間にR面を有しているので、主表面とチャンファー面の交点の位置R4を特定することができない。(b)R5とR6の値が特定されていないので、基準線を特定することができない。
したがって、本願発明でいう「外周部ダブオフ値」を特定することができず、発明が明確でない。)」

(エ)
「(4)「曲率」の定義(【0026】、図45)が明記されておらず、発明の範囲が明確でない。
(特に、(a)「ガラス基板の主表面(データ面)の延長線を引き、ガラス基板のR面に基づく曲率により、該R面の形状曲線が上記延長線と離れる位置」の内容が理解できないので、A点を特定することができない。(b)B点およびC点の位置が特定されていないので、測定の対象とする円を特定することができない。
したがって、本願発明でいう「曲率」を特定することができず、発明が明確でない。)」


4.当審の判断

(1)上記「3.」の(1)について
請求人は、平成24年4月2日付け意見書において、「表1は本願発明を説明するベストモードの具体例にすぎないものである。すなわち、本願発明者は、基板の加工条件により、スキージャンプ値、ロールオフ値、ダブオフ値、および曲率の値の、多数の組み合わせを試験して本願明細書に記載の数値範囲を見出し、これにより、従来の端部形状によるヘッド浮上性(段落[0007])を確保するとともに、発塵による検査歩留まり低下を抑制できる形状を提示するものである。」と主張している。
しかしながら、「発塵による検査歩留まり低下を抑制できる」「数値範囲を見出し」た基となる「スキージャンプ値、ロールオフ値、ダブオフ値、および曲率の値の、多数の組み合わせを試験」した実験結果は、明細書及び図面には記載されていないので、当該主張は採用できない。
本願の明細書及び図面には、発塵による検査歩留まり低下が見られなかった例がただ1つ開示されているにとどまり、また、R曲面率、スキージャンプ値、ロールオフ値、ダブオフ値が、発塵による検査歩留まり低下に影響する原理が記載されてもいないため、発明の詳細な説明の記載が不足しており、出願時の技術常識に照らしても、R曲面率、スキージャンプ値、ロールオフ値、ダブオフ値について、本願発明に記載された数値範囲にまで、拡張できる根拠や合理的な理由を見出すことができない。
したがって、本願発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

なお、補足すると、R曲面率、スキージャンプ値、ロールオフ値、ダブオフ値が、発塵による検査歩留まり低下に影響する原理について、請求人は、平成22年4月5日付け意見書において、「本願明細書の段落[0007]には、バーニッシュテープとガラス基板の外周端部が接触した際にテープから発塵しやすく、発生したパーティクルが磁気ディスク表面上に付着し、これによって当該磁気ディスクが最終検査にて不合格となってしまう、旨が記載されている。」、「そこで、この現象について以下に具体的に説明すると、テープバーニッシュ工程は、ディスクをバーニッシュテープに押し当てて、媒体表面の突起等を除去する工程である。その際に、基板の端部の形状がスキージャンプ形状、またはロールオフ形状(データ面に対して出っ張りがある形状)になっていると、ディスクとの接触によってバーニッシュテープ中に入っている砥粒を脱落させ、これが発塵の原因となる。また、ダブオフについても同様であり、ダブオフ値を0?120Å(マイナスではない)と定義しているのは、マイナスのダブオフは、スキージャンプ形状を意味することになるからである。一方、Rはデータ面とチャンファー面の境界の曲率を定義するパラメーターであるので、Rがある範囲より小さいものは尖っているということで、バーニッシュ工程の加圧用コンタクトヘッドとディスクに挟まれてテープから砥粒を削り落とし、これが発塵することになる。」と説明している(なお、下線は当審で付した。)。しかし、当該説明は、本願発明(「外周端部ダブオフ値は2点を通る直線R5?R6を基準線とし、基準線から曲線R5?R6までの変位最大値(絶対値)」である)と明らかに矛盾するから、原理を十分理解できない。
また、当審による、例えば、R曲面率のパラメータについて、下限とされる「0.013mm」では歩留まりの低下はないことまでは裏付けられていないので、当該下限にまで拡張できない旨の指摘に対して、請求人は、「その臨界的意義を示す具体例が示されていなくても、「0.060mm」と「0.005mm」の間に下限値があるであろうことは明らかである」と主張しているが、請求人は、別途、「本願発明は、上記のとおり、スキージャンプ値、ロールオフ値、ダブオフ値および曲率の値が特定範囲にあることを要件とするが、1つのパラメータが製品歩留まりに及ぼす影響は、他のパラメータと独立するものではない。」とも説明しており、当該説明によれば、R曲面率と発塵による歩留まりの低下とが、スキージャンプ値、ロールオフ値、ダブオフ値に応じて異なる関係を有するといえることから、R曲面率と発塵による歩留まりの低下とが、1対1の相関関係を有しない(R曲面率の減少に伴い、発塵による歩留まりが単調に低下するとは限らない)ことになるので、「0.013mm」まで歩留まりの低下がないとはいえず、当該主張を採用できない。

(2)上記「3.」の(2)について
請求人は、平成24年4月2日付け意見書において、「請求項1において、「外周端部スキージャンプ値」、「外周端部ロールオフ値」、「外周端部ダブオフ値」および「曲率」を定義したので、理由Bに係る拒絶理由は解消した」と主張している。
しかしながら、
(ア)「外周端部スキージャンプ値」について、
(a)「主表面の輪郭線上の記録エリア内に2点の基準点を設定し、中心から近い順にR1、R2とし」とあるが、R1とR2の値が特定されていないので、その結果、「0ライン」を一意に特定できないことは明らかであり、
(b)「主表面とチャンファー面の交点の位置をR4とし」とあるが、主表面とチャンファー面の間にR面を有しているので、主表面とチャンファー面の交点の位置R4を一意に特定することができず(一方で、(c)R4の値が特定されてもいないので、R4の位置を一意に特定できず)、その結果、「R2からR4までの領域」を一意に特定できないことは明らかであり、
これを明確に把握することができない。
(「外周端部スキージャンプ値」は、「0ライン」や測定範囲である「R2からR4までの領域」に応じて変化するところ、これらが一意に特定できないと、ある具体的な磁気ディスク用ガラス基板が、本願発明の範囲に入るか否かを理解できない。)
(イ)「外周端部ロールオフ値」について、
(a)「主表面の輪郭線上の記録エリア内に2点の基準点を設定し、中心から近い順にR1、R2とし」とあるが、R1とR2の値が特定されていないので、その結果、「0ライン」を一意に特定できないことは明らかであり、
(b)「R2からさらに外周方向に一定の距離をとった点R3を設定し」とあるが、「一定の距離」が特定されておらず、また、R3の値が特定されてもいないので、その結果「R3の位置」を一意に特定できないことは明らかであり、
これを明確に把握することができない。
(「外周端部ロールオフ値」は、「0ライン」や測定位置である「R3の位置」に応じて変化するところ、これらが一意に特定できないと、ある具体的な磁気ディスク用ガラス基板が、本願発明の範囲に入るか否かを理解できない。)
(ウ)「外周端部ダブオフ値」について、
(a)主表面とチャンファー面の間にR面を有しているので、主表面とチャンファー面の交点の位置R4を一意に特定することができず、その結果、「主表面とチャンファー面の交点の位置(R4)よりも内周方向の領域」を一意に特定できないことは明らかであり、
(b)「1.6mm離れた2点(R5およびR6)を設定し」とあるが、R5とR6の値が特定されていないので、その結果、「基準線」を一意に特定できないことは明らかであり、
これを明確に把握することができない。
(「外周端部ダブオフ値」は、測定範囲である「(R4)よりも内周方向の領域」や「基準線」に応じて変化するところ、これらが一意に特定できないと、ある具体的な磁気ディスク用ガラス基板が、本願発明の範囲に入るか否かを理解できない。)
(エ)「曲率」について、
(a)「図5の模式断面図に示すように、ガラス基板の主表面(データ面)の延長線を引き、」とあるが、図5を参酌しても、「ガラス基板の主表面(データ面)」がどのように定義され、どのようにして「延長線」を引くのか理解できない(例えば、図3のようなディスク平面形状プロファイルにおいて、どのように「延長線」を引くのか理解できない)ので、その結果、「A点」を特定できず、
これを明確に把握することができない。
したがって、当該主張は採用できず、本願発明は、発明の範囲が明確でない。


5.むすび

以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-27 
結審通知日 2012-05-08 
審決日 2012-05-22 
出願番号 特願2005-243803(P2005-243803)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 羽鳥 友哉  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 馬場 慎
蔵野 雅昭
発明の名称 磁気ディスク用基板および磁気ディスクの製造方法  
代理人 古賀 哲次  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 石田 敬  
代理人 田崎 豪治  
代理人 青木 篤  
代理人 小林 良博  

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