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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01N
管理番号 1259965
審判番号 無効2011-800087  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-05-31 
確定日 2012-06-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4477291号発明「殺卵剤及び殺卵方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4477291号の請求項1ないし2に係る発明についての出願は、平成14年6月28日に出願され、平成22年3月19日に特許権の設定登録がなされたものであって、以後の手続の経緯は次のとおりである。

平成23年 5月31日 無効審判請求(請求人)
平成23年 7月21日 手続補正書提出(請求人)
平成23年10月 3日 審判事件答弁書、訂正請求書提出(被請求人)
平成23年11月17日 審判事件弁駁書提出(請求人)
平成23年12月27日 通知書(審理事項通知書)
平成24年 2月 1日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成24年 2月 1日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成24年 2月13日 上申書提出(被請求人)
平成24年 2月15日 口頭審理
平成24年 2月20日 上申書提出(請求人)
平成24年 2月24日 上申書提出(被請求人)
平成24年 3月23日 上申書提出(請求人)
平成24年 3月23日 上申書(被請求人)

第2 訂正の適否についての当審の判断
1.訂正の内容
被請求人が求めている訂正(以下、「本件訂正」という。)の趣旨は、本件特許に係る明細書(以下、「本件特許明細書」という。)を、平成23年10月3日付けの訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるであって、その内容は以下の訂正事項1?3からなるものである。

(1)訂正事項1
本件特許明細書の【請求項1】の
「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素を有効成分としたことを特徴とする衛生害虫又は衣類害虫の卵が存在する領域に蒸散させて用いる殺卵剤。」を、
「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素を有効成分としたことを特徴とするゴキブリ又はイガの卵が存在する領域に蒸散させて用いる殺卵剤。」と訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許明細書の【請求項2】の
「請求項1記載の殺卵剤を衛生害虫又は衣類害虫の卵が存在する領域に蒸散させることを特徴とする殺卵方法。」を、
「請求項1記載の殺卵剤をゴキブリ又はイガの卵が存在する領域に蒸散させることを特徴とする殺卵方法。」と訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許明細書の【0005】における
「(1)炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素を有効成分としたことを特徴とする衛生害虫又は衣類害虫の卵が存在する領域に蒸散させて用いる殺卵剤。
(2)(1)記載の殺卵剤を衛生害虫又は衣類害虫の卵が存在する領域に蒸散させること
を特徴とする殺卵方法。」との記載部分を、
「(1)炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素を有効成分としたことを特徴とする衛生害虫又は衣類害虫の卵が存在する領域に蒸散させて用いる殺卵剤。
(2)(1)記載の殺卵剤を衛生害虫又は衣類害虫の卵が存在する領域に蒸散させること
を特徴とする殺卵方法。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否
訂正事項1及び2は、訂正前の「衛生害虫又は衣類害虫」を「ゴキブリ又はイガ」に限定するものであるから、これらの訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項3は、特許請求の範囲の訂正に伴い、発明の詳細な説明における記載を整合させるものであるから、同項ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
次に、本件特許明細書の【0018】の「ゴキブリ等の衛生害虫、イガ等の衣類害虫」との記載からみて、訂正前の「衛生害虫又は衣類害虫」を「ゴキブリ又はイガ」に限定する訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものと認められるから、訂正事項1?3は、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定に適合するものである。
そして、訂正前の「衛生害虫又は衣類害虫」を「ゴキブリ又はイガ」に限定している以上、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとは認められないから、訂正事項1?3は、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

3.訂正に係るまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件発明
本件特許第4477291号の請求項1ないし2に係る発明(以下、請求項の番号に応じて「本件発明1」などという。)は、訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】 炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素を有効成分としたことを特徴とするゴキブリ又はイガの卵が存在する領域に蒸散させて用いる殺卵剤。
【請求項2】 請求項1記載の殺卵剤をゴキブリ又はイガの卵が存在する領域に蒸散させることを特徴とする殺卵方法。」

第4 請求人の主張の要点
1.本件審判の請求の趣旨
請求人が主張する本件審判における請求の趣旨は、「特許第4477291号の訂正後の請求項1ないし2に係る発明についての特許は無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」である。

2.請求人が主張する無効理由の概要
請求人は、平成23年5月31日付けの審判請求書において主張する、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号についての無効理由、及び甲第1号証を主引用例とした場合の特許法第29条第2項についての無効理由を、平成24年2月15日の口頭審理において撤回した。
しかして、請求人が主張する無効理由1?4は、次に示すとおりである。

(1)無効理由1
「訂正後の本件請求項1ないし2に係る発明は、甲第5号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、よって、訂正後の本件請求項1ないし2に係る発明についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」

(2)無効理由2
「訂正後の本件請求項1ないし2に係る発明は、甲第6号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、よって、訂正後の本件請求項1ないし2に係る発明についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」

(3)無効理由3
「訂正後の本件請求項1ないし2に係る発明は、甲第7号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、よって、訂正後の本件請求項1ないし2に係る発明についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」

(4)無効理由4
「訂正後の本件請求項1ないし2に係る発明は、甲第8号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、よって、訂正後の本件請求項1ないし2に係る発明についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」

3.請求人の証拠方法の概要
請求人は、平成23年5月31日付けの審判請求書に添付して甲第1?14号証及び参考資料1を、平成23年11月17日付けの審判事件弁駁書に添付して甲第15?16号証を、平成24年2月1日付けの口頭審理陳述要領書に添付して甲第17?28号証を、平成24年3月23日付けの上申書に添付して甲第29?34号証を提出した。
しかして、請求人が提出した証拠方法は、次のとおりである。
甲第1号証: Journal of Economic Entomology,Vol.32,No.2(1939),
pp.219-222
甲第2号証: Journal of Economic Entomology,Vol.11(1918),pp.299-307
甲第3号証: Journal of Economic Entomology,Vol.11(1918),pp.70-75
甲第4号証: Annual Review of Entomology,Vol.11(1966),pp.331-347
甲第5号証: Journal of Economic Entomology,Vol.56(1963),pp.885-888
甲第6号証: 特開平10-287507号公報
甲第7号証: 特開昭62-26201号公報
甲第8号証: 特開平11-269009号公報
甲第9号証: 住友化学1983-II(1983),pp.12-26
甲第10号証:新版 溶剤ポケットブック(1994),pp.226-227
編者:社団法人有機合成化学協会、発行:株式会社オーム社
甲第11号証:無機有機工業材料便覧(1960),pp.1269-1270
編集代表:永井彰一郎、発行:東洋経済新報社
甲第12号証:特開昭57-42603号公報
甲第13号証:Agricultural Applications of Petroleum Products(1952),
pp.12-24
甲第14号証:試験結果報告書、平成23年3月29日付、
試験日:平成23年3月8日?3月22日、
試験者及び報告書作成者:早味知子
甲第15号証:Journal of Economic Entomology,Vol.88(1995),pp.140,144
甲第16号証:Annual Review of Entomology,Vol.11(1966),
pp.333,336-338
甲第17号証:Annual Review of Entomology,Vol.11(1966),pp.343
甲第18号証:特開昭50-24436号公報
甲第19号証:特開2001-199807号公報
甲第20号証:特公昭60-19721号公報
甲第21号証:繊消誌Vol.23 No.3(1982),pp.8-12
甲第22号証:Agricultural Applications of Petroleum Products(1952),
pp.12-13,20-21,23
甲第23号証:Journal of Agricultural Reserch,Vol.X,No.7(1917),
pp.365,370-371
甲第24号証:Journal of Agricultural Reserch,Vol.XII,No.9(1918),
pp.579,585-586
甲第25号証:ブルースター有機化学要論(改訂版)(1978),pp.40-41
訳者:佐々木慎一ら、発行:株式会社東京化学同人
甲第26号証:新版 溶剤ポケットブック(1994),pp.200-203
編者:社団法人有機合成化学協会、発行:株式会社オーム社
甲第27号証:15509の化学商品(2009),pp.342-343
甲第28号証:URL:https://scifinder.cas.org/
甲第29号証:繊消誌Vol.19 No.1(1978),pp.20-27
甲第30号証:環動昆第1巻第1号(1989),pp.20-26
甲第31号証:試験結果報告書(1)、平成24年3月19日付、
試験日:平成24年3月6日?3月16日、
試験者及び報告書作成者:杉岡弘基
甲第32号証:試験結果報告書(2)、平成24年3月19日付、
試験日:平成23年3月2日?3月16日、
試験者及び報告書作成者:早味知子
甲第33号証:Journal of Agricultural Reserch,Vol.X,No.7(1917),
pp.365-371
甲第34号証:Journal of Agricultural Reserch,Vol.XII,No.9(1918),
pp579-587
参考資料1 :特許第4477291号公報(本件公報)

第5 被請求人の主張の要点
1.答弁の趣旨
被請求人が主張する答弁の趣旨は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」である。

2.被請求人の証拠方法の概要
被請求人は、平成23年10月3日付けの審判事件答弁書に添付して乙第1?8号証を、平成24年2月1日付けの口頭審理陳述要領書に添付して乙第9?33号証を、平成24年2月13日付けの上申書に添付して乙第34?38号証を、平成24年3月23日付けの上申書に添付して乙第39号証を提出した。
しかして、被請求人が提出した証拠方法は、次のとおりである。
乙第1号証 :ねずみ衛生害虫駆除ハンドブック(1987),pp.344-349
乙第2号証 :家庭用殺虫剤概論II(1996),pp.31-35
乙第3号証 :改訂 衛生害虫と衣食住の害虫(1995),pp.154-155
乙第4号証 :家庭害虫よサヨナラ!(1997),pp.98-99
乙第5号証 :住環境の害虫獣対策(2001),pp.240-241
乙第6号証 :ポピュラーサイエンス 家の中のダニ(1989),pp.134-135
乙第7号証 :新農学シリーズ 害虫防除(1997),pp.102-107
乙第8号証 :病害虫・雑草防除の基礎(2000),pp.126-131
乙第9号証 :特許第3523866号公報
乙第10号証:特開2004-175745号公報
乙第11号証:昆虫レファレンス事典(2005)
乙第12号証:昆虫レファレンス事典II(2011)
乙第13号証:特開2002-12506号公報
乙第14号証:特開2004-323464号公報
乙第15号証:特開2008-239501号公報
乙第16号証:Journal of Economic Entomology,Vol.85,No.2(1992),
pp.539-543
乙第17号証:東北農業研究58(2005),pp.145-146
乙第18号証:北日本病中研報58(2007),pp.156-158
乙第19号証:日本応用動物昆虫学会誌第19巻第2号(1975),pp.91-96
乙第20号証:日本応用動物昆虫学会誌第28巻第3号(1984),pp.131-136
乙第21号証:日本応用動物昆虫学会誌第33巻第3号(1989),pp.152-154
乙第22号証:日本応用動物昆虫学会誌第49巻第1号(2005),pp.29-32
乙第23号証:日本生態学会誌59(2009),pp.249-257
乙第24号証:農薬時代第190号(2008),pp.37-42
乙第25号証:日本応用動物昆虫学会誌第6巻第1号(1962),pp.78-79
乙第26号証:植物防疫64(2)(2010),pp.51
乙第27号証:特公昭63-9485号公報
乙第28号証:遺伝39巻1号(1985),pp.80-82
乙第29号証:URL:www4.pref.fukushima.jp/
乙第30号証:URL:http://www.pps.go.jp/
乙第31号証:URL:http://www.fruit.affrc.go.jp/
乙第32号証:花と緑の病害図鑑(2001),pp.386
乙第33号証:特開平8-119812号公報
乙第34号証:実験成績証明書、平成24年2月10日付、
試験日 平成24年1月6日?1月20日、
試験者及び報告書作成者 鈴木優八
乙第35号証:実験成績証明書、平成24年2月10日付、
試験日 平成24年1月24日?1月31日、
平成24年2月6日?2月10日、
試験者及び報告書作成者 鈴木優八
乙第36号証:特表平7-507283号公報
乙第37号証:第28回日本応用動物昆虫学会大会講演要旨 昭和59年度
日本農学会大会分科会(1984),pp.16-21,81
乙第38号証:URL:https://www.pref.nagano.lg.jp/
乙第39号証:実験成績証明書、平成24年3月23日付、
試験日 平成24年3月5日?3月12日、
試験者及び報告書作成者 鈴木優八

第6 甲号証及び乙号証に記載された事項
1.甲第1?8、13、21及び31?34号証に記載された事項
(1)甲第1号証
甲第1号証として全頁(全訳添付)が提出された、本件特許出願前に頒布された刊行物である「Journal of Economic Entomology,Vol.32,No.2(1939),pp.219-222」には、和訳にして、次の記載がある。

摘記1a:表題
「石油が或る種の蚊の卵を如何に死滅させるか」

摘記1b:第221頁左欄第5?8行
「然しながら、実用の観点から、これら揮発性油の開放された適用は高い絶滅を生じさせる結果にならないことは明らかであると思われる。」

摘記1c:第222頁右欄下から14?10行
「結論-この研究より以下の事項が結論付けられる。
(1)Aedes aegyptiの卵は、石油によって被覆されたとき、酸素窮乏によって死滅する。」

(2)甲第2号証
甲第2号証として全頁(全訳添付)が提出された、本件特許出願前に頒布された刊行物である「Journal of Economic Entomology,Vol.11(1918),pp.299-307」には、和訳にして、次の記載がある。

摘記2a:表題
「蚊の幼虫への石油の作用効果」

摘記2b:第307頁第5?12行
「結論
(1)蚊の殺幼虫剤としての石油の毒性は、揮発性の増加により増大するものであり、揮発性のより高い油は、より顕著な致死効果を生ぜしめる。
(2)油の揮発性構成成分は、主要な致死効果を生ぜしめる主物を含有する。
(3)致死効果は、油の揮発性ガスによる気管組織の浸透により生じる。」

(3)甲第3号証
甲第3号証として全頁(全訳添付)が提出された、本件特許出願前に頒布された刊行物である「Journal of Economic Entomology,Vol.11(1918),pp.70-75」には、和訳にして、次の記載がある。

摘記3a:表題
「ケロシンの毒性についての研究」

摘記3b:第73頁第21?22行
「蒸気を試験するにおいて家蠅Musca Domestica Linnが使用された。」

(4)甲第4号証(甲第16号証・甲第17号証)
甲第4号証として全頁(抄訳添付)が提出され、その後に甲第16号証及び甲第17号証として一部頁の抜粋(抄訳添付)が提出された、本件特許出願前に頒布された刊行物である「Annual Review of Entomology,Vol.11(1966),pp.331-347」には、和訳にして、次の記載がある。

摘記4a:表題
「殺卵剤の使用法と作用」

摘記4b:第334頁第8?10行
「卵と孵化後の形態における呼吸システムには顕著な違いがあり、このシステムは少なくとも一種の殺卵剤、即ち、石油の作用機序と密接に関係する。」

(5)甲第5号証
甲第5号証として全頁(全訳添付)が提出され、本件特許出願前に頒布された刊行物である「Journal of Economic Entomology,Vol.56(1963),pp.885-888」には、和訳にして、次の記載がある。

摘記5a:表題
「飽和石油及び合成イソパラフィンの殺卵有効性に影響する幾つかの要因」

摘記5b:第885頁左欄下から24?1行
「要約 高度精製された狭い沸点範囲の石油及び合成イソパラフィン類の殺卵有効性を、実験室条件の下で東洋フルーツ蛾 Grapholitha molesta (Busck) の卵に対して研究した。試験油には、ナフテン、パラフィン及びイソパラフィンである画分が含まれており、性状において、その分子量は226乃至352の範囲であり、560°F乃至688°Fの沸点(760mm水銀)を有する。主たる目的は、およそ80°Fでの揮発性と殺卵効率との関係を決定することにある。ガラス表面上に付着された卵は、染色油で沈降タワー技術により処理された。油の付着は、分光学的に測定された。揮発速度は、アルミニウム箔上に残留する付着油を定期的に計量することにより計測された。限度内において、殺卵効率と揮発性との間には負の相関関係が存在することが見出された。殺卵効率は揮発性が減少するにつれて増加する。この関係は、揮発性が油の殺卵効率に影響する要因であり、320あたりの分子量で“零”未満に下降することを示している。重質油の中では、該効率は分子の立体配置によって影響を及ぼされ、鎖形態で存在する炭素原子の、環構造のものに対する百分率が増加するにつれて該効率が増加する。この関係は、イソパラフィン類を石油画分と対比することで最も良好に証明される。」

摘記5c:第886頁右欄第10?25行
「8枚の、卵を持つカバースリップを、付着油が回収されうる12.7cm直径のガラスディスクの上に配置した。小さな紙ディスクを各カバースリップの下側に置き、その除去を容易なものとした。アルミニウム箔の3.97cm^(2)片を加え、回収面積(カバースリップ又はアルミニウム箔で覆われていないガラスディスクの面積)が100cm^(2)となるようにした。処理のための組立てユニットを図3に示す。その後、単一のディスクを沈降タワーの中に置き、そして染色された非乳化油で10psi.で噴霧処理された。噴霧時間を1秒間から120秒間まで変えることにより、付着量を制御した。処理後、卵を持つカバースリップを注意深く取り外し、そしておよそ80%相対湿度及び80°Fで孵化を行った。手順は各反復ごとに凡そ50個の卵という投与量で以って、8回反復して為された。5回の適用量は、各々、投与量-死滅率曲線を定めるために使用された。」

摘記5d:第887頁下段の表1




(6)甲第6号証
甲第6号証として提出された、本件特許出願前の1998年に頒布された刊行物である「特開平10-287507号公報」には、次の記載がある。

摘記6a:請求項1
「次の群(1)?(7)、
(1)炭素数15以下の多環式芳香族炭化水素;
(2)炭素数15以下の塩素化芳香族炭化水素;
(3)炭素数15以下の鎖式アルコール;
(4)炭素数5ないし12の鎖式カルボニル化合物;
(5)1個のエステル結合の他に、1個以上の不飽和結合および/または酸素原子を有する炭素数4ないし15の鎖式エステル;
(6)分子内に3個以上の酸素原子を有する鎖式または環式エーテル;および
(7)分子内に1個以上の酸素原子と、窒素原子、硫黄原子およびハロゲン原子から選ばれた原子の1個または2個以上を含む化合物;
から選ばれた化合物の1種または2種以上を有効成分として含有する繊維害虫卵孵化抑制剤。」

摘記6b:段落0016及び0020
「上記化合物のうち、ナフタリン、パラジクロルベンゼン、リナロール、シトロネロール、シトラール等は、繊維害虫の幼虫に対して有効であることが知られている化合物である。しかし、これらについても、幼虫に対して防虫効果を奏するために必要な量よりも、有意に少ない量で卵の孵化を抑制しうるのである。…
本発明の繊維害虫卵孵化抑制剤の剤形としては、例えば、多孔質担体や昇華性固体等に含浸担持させた固形製剤、不織布等に含浸させたシート状製剤、成分をそのままあるいは適当な溶剤に溶解もしくは可溶化させた液体製剤、この液体製剤をゲル化させたゲル状剤、スプレー状製剤等が挙げられる。また、上記液体製剤は、液芯型揮散剤としてもよい。」

摘記6c:段落0027及び0031?0032
「実施例1?48 卵孵化基礎試験:直径4cmの金属製のかごの中に、所定量の試験物質を含浸させた濾紙を入れ、これを内容積0.5リットルのガラス製ふた付き容器のほぼ中央に置き、その底部に産卵後1日のイガの卵20個をのせた1辺2.5cmの正方形のサージを置いた。温度25℃、相対湿度60%RHの条件下に12日間保持した後容器のふたを開け、孵化した卵の数を数えて、孵化率を算出した。孵化していた場合には、孵化直後の若齢幼虫の生死を判別し、これより卵の通算の生存率を算出した。その試験結果を表1に示す。…
実施例50 卵孵化実用試験:所定量の試験物質を含浸させた濾紙を片面ポリエチレン片面ポリエステルのフィルムに包み、防虫剤とした。市販のプラスチック製引き出しタイプの衣裳ケースの中に、約80%の容量の羊毛製の衣類を入れ、その上に1辺4cmの正方形の試験用サージと防虫剤を置いた。衣裳ケースの外寸は、巾43cm、奥行き64cm、高さ23cmであり、正面引き出し上部と外枠の間に5mmの隙間がある。衣裳ケースを25℃、60%RHの恒温恒湿室に入れて、7日間保った後、産卵後1日のイガの卵50個を衣裳ケース内のサージの上に置いた。さらに12日間同温湿度に保持した後、衣裳ケースを開け、孵化した卵の数を数えて、孵化率を算出した。孵化していた場合には、孵化直後の若齢幼虫の生死を判別し、これより卵の通算の生存率を算出した。その試験結果を表3に示す。…
【表3】
────────────────────────────────
実施例 試験物質 供試量 孵化率 生存率
番 号 (mg)(%) (%)
────────────────────────────────
50 マロン酸ジエチル 3.0 0 0
────────────────────────────────


(7)甲第7号証
甲第7号証として提出された、本件特許出願前の1987年に頒布された刊行物である「特開昭62-26201号公報」には、次の記載がある。

摘記7a:請求項1
「C_(5)以下のアルコールを密閉容器内で揮散させてなる防虫剤」

摘記7b:第2頁右下欄下から6行?第3頁左上欄の第3表
「実施例2 340mm×240mm×40μmの低密度ポリエチレン袋に約1lの空気とイガ卵10頭、幼虫10頭および各種防虫剤4gを入れた(ピレスロイド系、脱酸素剤は実施例1と同条件)。20℃恒温槽に袋を入れ1週間静置した結果を第3表に示す。



(8)甲第8号証
甲第8号証として提出された、本件特許出願前の1999年に頒布された刊行物である「特開平11-269009号公報」には、次の記載がある。

摘記8a:請求項4
「カルボン及びその異性体の少なくとも1種を有効成分としたことを特徴とする衣類害虫の殺卵剤。」

摘記8b:段落0008及び0010
「従来、前記した天然精油や香料成分が、殺虫剤或いは防虫剤として有効であることは古くから知られており、色々と検討されている。例えば、住居内のダニ類に対して、すぎ、ヒノキ、マツ科等の植物体の有機溶媒抽出物等が駆除能力、忌避効果を持つこと、また精油中の揮散性のテルペン系の化合物などが致死効力、忌避効力を持つことが知られている。他にもベンズアルデヒド、ペリラアルデヒド、1-カルボン等を有効成分とした殺ダニ、殺虫、忌避剤が知られている。…
また薬液を吸液芯で吸い上げ、吸液芯の上端を加熱して薬剤を揮散させる吸液芯方式を採用することもできる。」

摘記8c:段落0012?0013
「実施例1(イガの卵に対する孵化阻害作用) 内容積が18リットルの容器の中に有効成分100mgを含浸させたマットを吊るし、羊毛布とともにイガの卵を入れて2週間飼育した。2週間後における孵化数を測定した。試験に用いた化合物名及び測定結果を第1表に示す。第1表によれば、これらの化合物はいずれもイガの卵に対してほとんどのものが100%、悪いもので83%孵化を阻害していることがわかった。…



摘記8d:段落0027
「本発明の増殖阻害剤は、衣類の保存場所で、イガ等の衣類害虫の交尾や卵からのハッチ等の増殖行為を有効に阻害するという優れた効果を有する。衣類害虫に対してその増殖を阻害する結果、衣類が衣類害虫による食害を受けることがない。テルペン系化合物を用いて十分な作用を行わせることができる。本発明の殺卵剤は殺卵作用が優れており、卵自体を殺滅する効果がある。」

(9)甲第13号証(甲第22号証)
甲第13号証として全頁(抄訳添付)が提出され、その後に甲第22号証として一部頁の抜粋(抄訳添付)が提出された、本件特許出願前に頒布された刊行物である「Agricultural Applications of Petroleum Products(1952),pp.12-24」には、和訳にして、次の記載がある。

摘記13a:表題
「石油画分及び合成イソパラフィンの殺虫有効性」

摘記13b:第12頁下から10?8行
「イソパラフィン類 1分子あたり16個乃至34個の炭素原子を有する11種のイソパラフィンを、600乃至1000グラムの量で準備した。」

(10)甲第21号証
甲第21号証として提出され、本件特許出願前に頒布された刊行物である「繊消誌Vol.23 No.3(1982),pp.8-12」には、次の記載がある。

摘記21a:第10頁右欄第10行?第11頁の3表
「ベンゼン,ナフタレン,樟脳はいずれも防虫剤として効果があるが,まずガス濃度が異なることでその濃度と殺虫,忌避の関係を知る必要がある.飽和ガス濃度を3図に示した.ガス濃度がもっとも高いのはパラジクロールベンゼンである.これら3種の飽和ガス濃度中でのイガの50%致死時間,99%致死時間を調べ殺虫力を検討した.結果は3表に示したがパラジクロールベンゼンの殺虫力がもっとも大きく,イガの卵,幼虫,成虫いずれに対してもすぐれた殺虫力を発揮する.樟脳についても飽和ガス中であれば致死時間は長くなるが殺虫力も認められた.…



(11)甲第31号証
甲第31号証として提出された、本件特許出願後の平成24年3月19日付けで杉岡氏によって作成された「試験結果報告書(1)」という実験報告書には、次の記載がある。

摘記31a:第3頁の表1




(12)甲第32号証
甲第32号証として提出された、本件特許出願後の平成24年3月19日付けで早味氏によって作成された「試験結果報告書(2)」という実験報告書には、次の記載がある。

摘記32a:第3頁の表1




(13)甲第33号証(甲第23号証)
甲第23号証として一部頁の抜粋(抄訳添付)が提出され、その後に甲第33号証として全頁(全訳添付)が提出された、本件特許出願前に頒布された刊行物である「Journal of Agricultural Reserch,Vol.X,No.7(1917),pp.365-371」には、和訳にして、次の記載がある。

摘記33a:第366頁第5?22行
「試験に用いる昆虫は、自然な条件下で飼育したイエバエ(Musca domestica L)とした。…
化学物質は、便宜上、炭化水素系、エステル系、酸系、エーテル系、水酸基を含む炭化水素誘導体系、アルデヒド系、ケトン系、ハロゲン系、硫黄または窒素系、テルペンまたはテルペン誘導体系、アルカロイド系に分類できる。以下の表のように分類した。
炭化水素系:
石油エーテル(ペンタンおよびヘキサン)
ガソリン(多くはヘプタン)
ケロシン(多くはノナンおよびデカン)」

摘記33b:第370頁の表1
「表1.有機化合物の揮発性とその毒性との関係
─────────────────────────────────
化合物名 揮発性[…] 毒性[400分間に死滅する
グラム分子量の百万分の一]
─────────────────────────────────

石油エーテル 3.5841 713.3 …
ガソリン .0520 42.0 …
ブロモホルム .0486 7.7 …
ナフタレン .0013 3.9
ニコチン .0010 2.4
樟脳 .00068 5.2
ケロシン .00067 11.9 …
─────────────────────────────────


摘記33c:第371頁第12?22行
「要約
一般に、揮発性有機化合物の毒性は、その揮発性と密接に相関する。
揮発性が減少すると、毒性の増加を伴う。
化学物質の沸点は、その揮発性の一般的な指標である。
225℃?250℃の沸点を有する化合物は通常、僅かな揮発性であり、大変長い期間の曝露を除いて、死滅を生じさせるものではない。
昆虫の呼吸組織の構造が、揮発性有機化合物の上記の毒性に対する揮発性の顕著な影響については、おそらく重要となる。」

(14)甲第34号証(甲第24号証)
甲第24号証として一部頁の抜粋(抄訳添付)が提出され、その後に甲第34号証として全頁(全訳添付)が提出された、本件特許出願前に頒布された刊行物である「Journal of Agricultural Reserch,Vol.XII,No.9(1918),pp579-587」には、和訳にして、次の記載がある。

摘記34a:第579頁第7?10行
「油類は、一部の卵に殺卵作用を示し、他の卵が孵化しても、孵化中または孵化直後に殺幼虫作用を示した。石灰硫黄合剤は、殺卵作用がないが、孵化直後に殺幼虫作用を示した。高純度ケロシンは、明らかな殺卵作用を示さなかった。」

摘記34b:第580頁第15行?第582頁第3行
「ジャガイモの害虫ハムシの卵(Leptinotarsa decemlineata Say)は、最終的にすべての条件に適合すると考えられた。これらの実験では50,000個の卵が用いられ、すべての場合、非投与卵は100%孵化することが見出された。…
表I.ジャガイモハムシの卵について、浸漬および噴霧による有機化合物の毒性に対する沸点の関連性
───────┬───────┬───┬─────────────
有機化合物 │ 沸点 │ … │噴霧した卵からの孵化率%
───────┼───────┼───┼─────────────
│ ℃ │ │ …
石油エーテル │ 40-70 │100│ ・・・・ …
ガソリン │ 70-90 │ 44│ 88 …
ブロモホルム │ 151.2 │・・・│ 20 …
ケロシン │150-300│ 83│ 100 …
ニコチン │ 250 │ 0│ 0 …
───────┴───────┴───┴─────────────
ケロシンは、150?300℃と高い沸点を持つが、浸漬卵で83%、噴霧卵で100%の孵化率を示した。」

摘記34c:第585頁の表V
「表V.特定の有機化合物の蒸気の毒性(15時間曝露で殺卵に要するグラム分子量の百万分の一)。化合物は沸点の順に従い並べられている。
───────┬───────┬─────────────────
化合物 │ 沸点 │毒性(グラム分子量の百万分の一)
───────┼───────┼─────────────────
│ ℃ │ …
石油エーテル │ 40-70 │ 243.2 …
ガソリン │ 70-90 │ 41.1 …
ブロモホルム │ 151.2 │ 3.9 …
ニコチン │ 250 │ 1.8 …
───────┴───────┴─────────────────


摘記34d:第586頁下から15?1行
「要約
(1)一般に、高い沸点及び僅かな揮発性を有する化合物は、低い沸点及び高い揮発性を有する化合物よりも、浸漬及び噴霧した昆虫卵に対してより有効である。…
(5)有機化合物の蒸気の昆虫卵に対する毒性は、沸点及び揮発性に相関している。沸点が上昇し、また揮発性が減少するにつれて、毒性が増加する。」

2.乙19、27及び35?36号証に記載された事項
(1)乙第19号証
乙第19号証として提出された、本件特許出願前に頒布された刊行物である「日本応用動物昆虫学会誌第19巻第2号(1975),pp.91-96」には、次の記載がある。

摘記A1:第91頁右欄下から2行?第92頁左欄第25行
「供試昆虫:東京都目黒区駒場地区で採集したヨトウガ…のうち次に示すように産卵成績のよい雌3匹を選びそれぞれ3系統,A(卵数1,145,ふ化率89.3%),B(卵数2,405,ふ化率88.5%),C(卵数1,492,ふ化率91.5%)として用いた。…その他の供試昆虫として次の6種のりん翅目昆虫を用いた。モンシロチョウ…,スジグロシロチョウ…,ツトガ…,コナガ…,スジモンヒトリ…,シロシタヨトウ」

摘記A2:第92頁右欄第18?22行
「飼育方法:1令から5令まではコルベン内で無菌的に飼育した。無菌飼育をするにあたって,卵の殺菌と接種の方法は次のように行った。まずパラフィン紙に産卵させた約200卵を70%エタノールに数十秒間浸漬し,次に0.1%昇こう水で約3分間滅菌した。」

(2)乙第27号証
乙第27号証として提出された、本件特許出願前の1988年に頒布された刊行物である「特公昭63-9485号公報」には、次の記載がある。

摘記B1:請求項1
「有機リン系殺虫剤を含有する灯油組成物を桑樹休眠期に散布することを特徴とするキボシカミキリ殺卵方法。」

摘記B2:第3欄第18?22行
「周知のとおり、灯油単味ではキボシカミキリ越冬卵に対して殺卵効力示さないのであるが、これと有機リン系殺虫剤を組合せた場合、驚くべき相乗作用を示すことはきわめて意外な事実であつた。」

摘記B3:第9欄第15?18行
「灯油単剤では散布当時の幼虫に対しては効果が認められるが、卵に対して効果が劣るため4月上旬に付加したと思われる5mm以下幼虫の生存虫が多数みられる。」

摘記B4:第10欄第28行?第12欄末行
「実施例5 殺虫剤含有油剤の発芽散布による蚕児に対する影響…上表のとおり、発芽前の桑株に各2%油剤を散布し、カイコ3令2日目幼虫に7日間連続給与したが、いずれも異常虫はみられずカイコに対して悪影響をおよぼさなかつた。」

(3)乙第35号証
乙第35号証として提出された、本件特許出願後の平成24年2月10日に鈴木氏によって作成された「実験成績証明書」には、次の記載がある。

摘記C1:第1頁の【使用薬剤】の項
「イソドデカン:炭素数12の分岐鎖飽和炭化水素
(マルカゾールR、丸善石油化学株式会社製)」

摘記C2:第2頁の【結果】の項の表1




(4)乙第36号証
乙第36号証として提出された、本件特許出願前の1995年に頒布された刊行物である「特表平7-507283号公報」には、次の記載がある。

摘記D1:第3頁右下欄第4?14行
「化合物が昆虫(成虫又は幼虫)に及ぼす活性から、卵に及ぼす活性を推測することはできない。例えば、カルバリル又はリン酸殺虫剤のような殺虫剤は殺卵性ではない。ピレトロイドも殺卵性ではなく、殺卵性であるとみなされる場合があったとしても、単に卵から孵化するときに幼虫を殺すことができるに過ぎず、これは真の殺卵作用とは言えない。チオジカーブは殺卵作用と殺虫作用とを兼備するとみなされているが、むしろ例外である。例えば、殺虫剤は特許出願第WO91/04965号に記載されているが、このような殺虫剤が殺卵作用を有するか否かを知ることは上記理由で不可能である。」

第7 当審の判断
1.無効理由1について
(1)甲第5号証に記載された発明
摘記5bの「高度精製された狭い沸点範囲の石油及び合成イソパラフィン類の殺卵有効性を、実験室条件の下で東洋フルーツ蛾 Grapholitha molesta (Busck) の卵に対して研究した。試験油には、ナフテン、パラフィン及びイソパラフィンである画分が含まれており、性状において、その分子量は226乃至352の範囲であり」との記載、及び摘記5cの「噴霧処理された。噴霧時間を1秒間から120秒間まで変えることにより、付着量を制御した。」との記載、並びに技術常識からみて「Grapholita molesta (Busck)」が鱗翅目ハマキガ科の農業害虫である「ナシヒメシンクイ」を意味し、その「殺卵有効性」は「殺卵剤」を意味しているものと認められることから、
甲第5号証には、『イソパラフィン(MW=226?352)を有効成分としたナシヒメシンクイ〔Grapholita molesta (Busck)〕の卵が存在する領域に噴霧処理させて用いる殺卵剤。』についての発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されているものと認められる。

(2)本件発明1と引用発明5との対比
本件発明1と引用発明5とを対比する。
ここで、技術常識からみて、引用発明5の「イソパラフィン(MW=226?352)」は「炭素数16?25の分岐鎖飽和炭化水素」に相当するものと認められる。
してみると、両者は『分岐鎖飽和炭化水素を有効成分とした殺卵剤。』に関するものである点においてのみ一致し、
有効成分が、本件発明1は「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」であるのに対して、引用発明5は『炭素数16?25の分岐鎖飽和炭化水素』である点、
適用領域が、本件発明1は「ゴキブリ又はイガの卵が存在する領域」であるのに対して、引用発明5は『ナシヒメシンクイ(鱗翅目ハマキガ科の農業害虫)の卵が存在する領域』である点、
適用方法が、本件発明1は「蒸散させて用いる」ものであるのに対して、引用発明5は「噴霧処理させて用いる」ものである点、
の3つの点において相違する。

(3)上記3つの相違点に関する判断
a.有効成分を「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」にする点
まず、請求人の平成24年2月1日付けの口頭審理陳述要領書(訂正後のもの。口頭審理調書参照。)の第9頁第5?12行においては、「(i)甲第1?28号証に記載のない点 通知書に示されるとおり、甲第1号証乃至甲第28号証(甲第14号証を除く)には、『炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素を有効成分とした殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所はない。また甲第1号証乃至甲第28号証(甲第14号証を除く)には、『石油類を蒸散させて用いる殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所も、さらに甲第1号証乃至甲第28号証(甲第14号証を除く)には、『石油類を有効成分としたイガ又はゴキブリの卵が存在する領域に用いる殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所もない。」との主張がなされているところ、
その後、新たに提出された甲第29?34号証のうち、甲第29?30号証は専ら甲第7号証の「樟脳の殺虫効果」に関する記載が妥当ではないことを証明するために提出された刊行物であり、甲第31?32号証は乙第35号証の追試を目的として本件特許出願後に作成された実験報告書であり、甲第33?34号証は専ら甲第23?24号証(一部頁の抜粋)の全内容を証明するために全文(全訳添付)を提出したものであるから、
第一に、甲第1?34号証のうちの公知文献には、『炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素を有効成分とした殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所がなく、
第二に、甲第1?34号証のうちの公知文献には、『炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素(又は石油類ないしケロシン類)を蒸散させて用いる殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所がなく、
第三に、甲第1?34号証のうちの公知文献には、『炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素(又は石油類)を有効成分としたイガ又はゴキブリの卵が存在する領域に用いる殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所がないものと認められる。

なお、請求人が提出した平成24年3月23日付けの上申書の第7頁第6?9行の「(3)甲第33号証及び甲第34号証より判るように、これら甲号証には、ヘプタン主体のガソリンの蒸気や、ノナン及びデカン主体のケロシンの蒸気が、高い殺虫効力及び殺卵効力を発揮し、毒性がある点が報告されている(甲第33号証の表1、甲第34号証の表V及び表VI参照)。」との主張に関して、
摘記33bの「ガソリン…42.0」及び「ケロシン…11.9」の結果は、その「ナフタレン…3.9」及び「樟脳…5.2」の結果よりも低い毒性(イエバエに対するの殺虫効力)を裏付けているにすぎないから、摘記7bの「ナフタリン」及び「樟脳」の結果(イガの卵及び幼虫に対して実用上の殺卵効力及び殺幼虫効力を示さないという結果)をも参酌するに、当該甲第33号証の結果は、ガソリンないしケロシンの(イエバエに対する)実用上の殺虫効力を裏付けるものとはいえず、
同様に、摘記34cの「ガソリン…41.1」の結果は、その「ニコチン…1.8」の結果、並びに摘記34bの「ガソリン…88」及び「ニコチン…0」の結果をも参酌するに、ガソリンの低い殺卵効力を裏付けているにすぎないから、当該甲第34号証の結果も、ガソリンないしケロシンの(ジャガイモハムシに対する)実用上の殺卵効力を裏付けるものとはいえない。

そして、甲第34号証の摘記34aの「油類は、一部の卵に殺卵作用を示し、他の卵が孵化しても、孵化中または孵化直後に殺幼虫作用を示した。石灰硫黄合剤は、殺卵作用がないが、孵化直後に殺幼虫作用を示した。高純度ケロシンは、明らかな殺卵作用を示さなかった。」との記載は、特定の害虫において孵化した形態(幼虫)は卵よりも油類等に対して感受されやすく死滅しやすいことを教示するものであり、
乙第27号証の摘記B2の「周知のとおり、灯油単味ではキボシカミキリ越冬卵に対して殺卵効力示さない」との記載、及び摘記B3の「灯油単剤では散布当時の幼虫に対しては効果が認められるが、卵に対して効果が劣るため…幼虫の生存虫が多数みられる。」との記載からみて、キボシカミキリという特定の害虫において幼虫は卵よりも灯油(ケロシン)に対して感受されやすいものと認められ、
甲第21号証の摘記21aの「3表 防虫剤飽和ガス中における致死時間」の記載では、有効成分が樟脳(なお、表中の「樟腕」の記載は「樟脳」の誤記と推認される。)の場合に、99%致死時間が、イガの卵で約2千3百時間、イガの幼虫(50日令)で約8百時間となっていることから、イガという特定の繊維害虫において幼虫は卵よりも樟脳に対して感受されやすい場合があるものと認められ、
乙第36号証の摘記D1の「化合物が昆虫(成虫又は幼虫)に及ぼす活性から、卵に及ぼす活性を推測することはできない。…チオジカーブは殺卵作用と殺虫作用とを兼備するとみなされているが、むしろ例外である。」との記載からみて、殺卵作用と殺虫作用とを兼備する有効成分は「例外」的に存在するにすぎないものと認められ、
甲第4号証の摘記4bの「卵と孵化後の形態における呼吸システムには顕著な違いがあり、このシステムは少なくとも一種の殺卵剤、即ち、石油の作用機序と密接に関係する。」との記載をも参酌すると、
呼吸器官などが十分に発達した幼虫ないし成虫に対して殺虫剤としての殺虫効力を発揮し得る有効成分が、呼吸器官などが十分に発達していない同じ種の卵に対しても殺卵効力を発揮し得ることについては、科学的に一般化できないものと推認せざるを得ない。
してみると、請求人が提出した平成24年3月23日付けの上申書の第13頁第3?5行の「一般に同じ種の害虫において卵は孵化した形態(幼虫)よりも感受されやすく死滅しやすいという通則」については、その科学的成立それ自体を否定せざるを得ない。

しかして、甲第2号証の摘記2bの「(1)蚊の殺幼虫剤としての石油の毒性は、揮発性の増加により増大するものであり、揮発性のより高い油は、より顕著な致死効果を生ぜしめる。」との記載からみて、「石油」を有効成分として「蚊」の「幼虫」を殺虫できるという発明が、本件特許出願前の技術水準において刊行物公知ないし技術常識になっていたとしても、
幼虫に対する殺虫効力から、卵に対する殺卵効力を科学的に予測し得ない以上、石油類(ましてや炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素)を有効成分とした場合に、イガ又はゴキブリの「卵」を殺卵できるか否かは、当業者といえども容易に想到し得ないものと認められる。

加えて、当該「石油」に含まれている多数の構成成分のうち何れの成分が殺虫効力を発揮しているのかについては甲第2号証に示唆を含めて記載がなく、当該「石油」に含まれている芳香族成分等の他の成分によって殺虫効力を発揮し得ているのか、単独成分ではなく複数成分の相乗効果によって殺虫効力を発揮し得ているのか、等々の点の蓋然性も不明確であるから、
少なくとも、単独の「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」が、蚊の幼虫とは全く種類の異なる「イガ又はゴキブリの卵」に対して、殺卵効力を発揮することについては、甲第2号証及び甲第5号証に示唆を含めて記載がな
い。

したがって、引用発明5の「イソパラフィン(MW=226?352)」という有効成分を「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」に変更することが、当業者にとって容易になし得るということはできない。

b.適用領域を「ゴキブリ又はイガの卵が存在する領域」にする点
まず、特定の有効成分の異なる種類の害虫に対する殺卵効力の共通性について検討するに、甲第31号証の摘記31aの「表1.ハスモンヨトウ卵に対する各供試薬剤の補正孵化率および殺卵率」では、鱗翅目ヤガ科の「ハスモンヨトウ」の卵に対する殺卵率が、供試薬剤が「イソヘキサン」で、処理方法が「蒸散処理」の場合において『66.7%』であることが示され、
これに対して、甲第32号証の摘記32aの「表1.イガ卵に対する各供試薬剤の補正孵化率および殺卵率」では、鱗翅目ヒロズコガ科の「イガ」の卵に対する殺卵率が、供試薬剤が「イソヘキサン」で、処理方法が「蒸散処理」の場合において『0%』であることが示されている。
すなわち、ある特定の有効成分(少なくとも「イソヘキサン」という炭素数6の分岐鎖飽和炭化水素)の鱗翅目の昆虫の卵に対する感受性は、同じ鱗翅目に属する昆虫同士であってさえも大きく異なるという「科学的事実」が純然として存在しているので、
少なくとも鱗翅目の昆虫の卵については、その種類によらず、分岐鎖飽和炭化水素に対して感受されやすいということを、科学的に一般化し得ないものと推認せざるを得ない。
してみると、請求人が提出した平成24年3月23日付けの上申書の第13頁第7?9行の「鱗翅目の種の卵は、石油類及びその揮発性成分(分岐鎖飽和炭化水素)などに対して感受されやすい(つまり死滅しやすい)ものであるという当業者の知識」については、その科学的成立それ自体を否定せざるを得ない。
また、仮に甲第31号証及び甲第32号証の結果に対する考察が妥当性を欠いているとしても、当該「当業者の知識」の成立を科学的に証明する直接的な証拠については、これを認めるに足る程度の証拠が請求人によって提示されていないので、少なくとも請求人の証拠方法によっては、当該「当業者の知識」の存在を認めるに至らない。

しかして、甲第5号証に「炭素数16?25の分岐鎖飽和炭化水素」を有効成分として鱗翅目ハマキガ科の「ナシヒメシンクイ」の「卵」を殺卵できることが記載され、甲第2号証に「石油」を有効成分として双翅目の「蚊」の「幼虫」を殺虫できることが記載されていたとしても、本件発明1の「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」を有効成分とした場合に、鱗翅目ヒロズコガ科の「イガ」ないしゴキブリ目の「ゴキブリ」の「卵」を殺卵できるか否かは、当業者といえども容易に想到し得ないものと認められる。

したがって、引用発明5の「ナシヒメシンクイの卵が存在する領域」という適用領域を「ゴキブリ又はイガの卵が存在する領域」に変更することが、当業者にとって容易になし得るということはできない。

c.適用方法を「蒸散させて用いる」にする点
まず、請求人が提出した平成24年2月1日付けの口頭審理陳述要領書の第3頁第15?19行の「(iii)殺卵(孵化抑制)において、卵への直接接触による場合には、殺卵剤の有効成分が僅かな揮発性を有する化合物であるとき、その殺卵効力は高いものとなり、一方、有効成分を蒸散させて用いる殺卵剤の場合には、該有効成分がそれよりも高い揮発性を有する化合物であるとき、その殺卵効力は高いものとなること。」という当業者の知識に鑑みれば、有効成分の使用形態(直接接触か蒸散か)と殺卵効力の相関は、直接接触の場合は揮発性の低い化合物が、蒸散の場合は揮発性の高い化合物が、各々、殺卵効力が高くなるということになるので、その殺虫効力の大小は、その適用方法が「直接接触」の場合と「蒸散」の場合とで全く逆の関係にあることになる。
してみると、上記請求人が主張する(iii)の当業者の知識に鑑みる限りにおいて、引用発明5の「噴霧処理」という「直接接触」によって殺卵効力を発揮させてなる発明の「適用方法」を「蒸散」に変えてみるという着想に至ることが、合理的になし得るとは認められない。

加えて、甲第1号証の摘記1bの「実用の観点から、これら揮発性油の開放された適用は高い絶滅を生じさせる結果にならないことは明らかである」との記載、及び摘記1cの「(1)Aedes aegyptiの卵は、石油によって被覆されたとき、酸素窮乏によって死滅する。」との記載からみて、ある種の害虫(甲第1号証においては「蚊」という衛生害虫)の卵の殺卵において、石油の被覆という有効成分の「直接接触」によって酸素呼吸が阻害され、その結果として殺卵効力が発揮され得るということが、本件特許出願前の技術水準において公知ないし周知であったとしても、同じ有効成分の「蒸散」によって実用上の高い絶滅を生じさせる結果になることについては、当業者といえども容易に予測し得ないものと認められる。

また、乙第35号証の摘記C2の「表1.試験結果」において、
イエバエ(双翅目)の「蒸散処理」の殺卵率が「11%」であるのに対して「直接噴霧」の殺卵率が「100%」であるという結果、及び
ハスモンヨトウ(鱗翅目)の「蒸散処理」の殺卵率が「0%」であるのに対して「直接噴霧」の殺卵率が「100%」であるという結果、並びに、
甲第32号証の摘記32aの「表1.イガ卵に対する各供試薬剤の補正孵化率および殺卵率」の「イソヘキサン」の結果において、
イガ(鱗翅目)の「蒸散処理」の殺卵率が「0%」であるのに対して「直接噴霧」の殺卵率が「5.1%」であるという結果からみて、
ある種の害虫の卵の殺卵において、適用方法が「直接噴霧」である場合に殺卵効力を発揮し得たからといって、適用方法が「蒸散処理」である場合に殺卵効力を発揮し得るか否かについては、当業者といえども容易に予測し得ないものと認められる。

したがって、引用発明5の「噴霧処理させて用いる」という適用方法を「蒸散させて用いる」に変更することが、当業者にとって容易になし得るということはできない。

(4)まとめ
以上総括するに、本件発明1は、甲第5号証及び甲第2号証に記載された発明並びに本願出願時の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明2についての検討
本件発明2は、本件発明1の「殺卵剤」を蒸散させる「殺卵方法」に関するものであるから、本件発明1と同様に、甲第5号証及び甲第2号証に記載された発明並びに本願出願時の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.無効理由2について
(1)甲第6号証に記載された発明
摘記6aの「次の群(1)?(7)、(1)炭素数15以下の多環式芳香族炭化水素;(2)炭素数15以下の塩素化芳香族炭化水素;(3)炭素数15以下の鎖式アルコール;(4)炭素数5ないし12の鎖式カルボニル化合物;(5)1個のエステル結合の他に、1個以上の不飽和結合および/または酸素原子を有する炭素数4ないし15の鎖式エステル;(6)分子内に3個以上の酸素原子を有する鎖式または環式エーテル;および(7)分子内に1個以上の酸素原子と、窒素原子、硫黄原子およびハロゲン原子から選ばれた原子の1個または2個以上を含む化合物;から選ばれた化合物の1種または2種以上を有効成分として含有する繊維害虫卵孵化抑制剤。」との記載、摘記6bの「本発明の繊維害虫卵孵化抑制剤の剤形としては、…液芯型揮散剤としてもよい。」との記載、及び摘記6cの「実施例1?48 卵孵化基礎試験:直径4cmの金属製のかごの中に、…産卵後1日のイガの卵20個をのせた1辺2.5cmの正方形のサージを置いた。…孵化した卵の数を数えて、孵化率を算出した。…実施例50…マロン酸ジエチル」との記載からみて、
甲第6号証には、『(1)炭素数15以下の多環式芳香族炭化水素;(2)炭素数15以下の塩素化芳香族炭化水素;(3)炭素数15以下の鎖式アルコール;(4)炭素数5ないし12の鎖式カルボニル化合物;(5)1個のエステル結合の他に、1個以上の不飽和結合および/または酸素原子を有する炭素数4ないし15の鎖式エステル;(6)分子内に3個以上の酸素原子を有する鎖式または環式エーテル;および(7)分子内に1個以上の酸素原子と、窒素原子、硫黄原子およびハロゲン原子から選ばれた原子の1個または2個以上を含む化合物;から選ばれた化合物の1種または2種以上を有効成分としたイガの卵が存在する領域に揮散させて用いる繊維害虫卵孵化抑制剤。』についての発明(以下、「引用発明6」という。)が記載されているものと認められる。

(2)本件発明1と引用発明6との対比
本件発明1と引用発明6とを対比する。
ここで、技術常識からみて、引用発明6の「(1)炭素数15以下の多環式芳香族炭化水素;(2)炭素数15以下の塩素化芳香族炭化水素;(3)炭素数15以下の鎖式アルコール;(4)炭素数5ないし12の鎖式カルボニル化合物;(5)1個のエステル結合の他に、1個以上の不飽和結合および/または酸素原子を有する炭素数4ないし15の鎖式エステル;(6)分子内に3個以上の酸素原子を有する鎖式または環式エーテル;および(7)分子内に1個以上の酸素原子と、窒素原子、硫黄原子およびハロゲン原子から選ばれた原子の1個または2個以上を含む化合物;から選ばれた化合物の1種または2種以上」の有効成分(以下、「マロン酸ジエチルなど」と略記する。)も、本件発明1の「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」という有効成分も、両者ともに「化合物」に相当するものと認められ、引用発明6の「繊維害虫卵孵化抑制剤」は「殺卵剤」に相当するものと認められる。
してみると、両者は『化合物を有効成分としたイガ又はゴキブリの卵が存在する領域に蒸散させて用いる殺卵剤。』に関するものである点において一致し、
有効成分が、本願発明1は「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」であるのに対して、引用発明6は「マロン酸ジエチルなど」である点、において相違する。

(3)相違点に関する判断
第一に、甲第1?34号証のうちの公知文献には、『炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素を有効成分とした殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所がなく、
第二に、甲第1?34号証のうちの公知文献には、『炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素(又は石油類ないしケロシン類)を蒸散させて用いる殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所がなく、
第三に、甲第1?34号証のうちの公知文献には、『炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素(又は石油類)を有効成分としたイガ又はゴキブリの卵が存在する領域に用いる殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所がないことについては、前述のとおりである。

また、甲第5号証に「炭素数16?25の分岐鎖飽和炭化水素」を有効成分として、鱗翅目ハマキガ科に属する農業害虫の「ナシヒメシンクイ」の卵を殺卵できることが記載されていたとしても、
甲第31号証の摘記31aの「表1.ハスモンヨトウ卵に対する各供試薬剤の補正孵化率および殺卵率」では、鱗翅目ヤガ科の「ハスモンヨトウ」の卵に対する殺卵率が、供試薬剤が「イソヘキサン」で、処理方法が「蒸散処理」の場合において『66.7%』であることが示されているのに対して、
甲第32号証の摘記32aの「表1.イガ卵に対する各供試薬剤の補正孵化率および殺卵率」では、鱗翅目ヒロズコガ科の「イガ」の卵に対する殺卵率が、供試薬剤が「イソヘキサン」で、処理方法が「蒸散処理」の場合において『0%』であることが示されており、同様に、
乙第35号証の摘記C2の「表1.試験結果」では、使用薬剤が「イソドデカン」で、処理方法が「蒸散処理」である場合の殺卵率が、供試試料が「ハスモンヨトウ」である場合に「0%」であるのに対して、供試試料が「イガ」である場合に「100%」であることが示されているところ、
分岐鎖飽和炭化水素が有効成分である場合の鱗翅目の昆虫の卵に対する感受性は、同じ鱗翅目に属する「ハスモンヨトウ」と「イガ」の2種類の害虫の間であってさえも大きく異なるという「科学的事実」が純然として存在していることから、
甲第5号証の「ナシヒメシンクイ」という鱗翅目ハマキガ科に属する農業害虫に対する分岐鎖飽和炭化水素の殺卵効力の知見から、本件発明1の「イガ」という鱗翅目ヒロズコガ科に属する衣類害虫に対する分岐鎖飽和炭化水素の殺卵効力を科学的に予測することは、当業者といえども容易になし得ないものであり、
甲第32号証の摘記32aの「表1.イガ卵に対する各供試薬剤の補正孵化率および殺卵率」では、供試薬剤が「イソドデカン」又は「イソデカン」で、処理方法が「蒸散処理」である場合の殺卵率が『100%』であり、供試薬剤が「イソヘキサン」で、処理方法が「蒸散処理」である場合の殺卵率が『0%』であることが示されているところ、
分岐鎖飽和炭化水素が有効成分である場合の「イガ」の卵に対する感受性は、炭素数が12個(イソドデカン)又は10個(イソデカン)の場合に殺卵効力があり、炭素数がより少ない6個(イソヘキサン)の場合に殺卵効力がないという「科学的事実」が純然として存在していることから、
甲第5号証の「炭素数16?25の分岐鎖飽和炭化水素」という有効成分の殺卵効力についての知見から、これより炭素数が少ない「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」という有効成分の殺卵効力を科学的に予測することは、当業者といえども容易になし得ないものと認められる。

なお、乙第19号証の摘記A1の「供試昆虫:…ヨトウガ…その他の供試昆虫として次の6種のりん翅目昆虫を用いた。モンシロチョウ…,スジグロシロチョウ…,ツトガ…,コナガ…,スジモンヒトリ…,シロシタヨトウ」との記載、及び摘記A2の「飼育方法:…まずパラフィン紙に産卵させた約200卵を70%エタノールに数十秒間浸漬し,次に0.1%昇こう水で約3分間滅菌した。」との記載にあるように、鱗翅目の昆虫(少なくともヨトウガ、モンシロチョウ、スジグロシロチョウ、ツトガ、コナガ、スジモンヒトリ及びシロシタヨトウの7種類)の「卵」は「パラフィン」という成分(石油類に含まれる飽和炭化水素成分)に対して感受性が実用上全くないことが普通に知られており、
乙第27号証の摘記B1の「有機リン系殺虫剤を含有する灯油組成物を桑樹休眠期に散布することを特徴とするキボシカミキリ殺卵方法。」との記載、及び摘記B4の「実施例5 殺虫剤含有油剤の発芽散布による蚕児に対する影響…上表のとおり、発芽前の桑株に各2%油剤を散布し、カイコ3令2日目幼虫に7日間連続給与したが、いずれも異常虫はみられずカイコに対して悪影響をおよぼさなかつた。」との記載にあるように、鱗翅目の昆虫(カイコ)の幼虫は「灯油組成物」を有効成分とした「殺虫剤含有油剤」によって実用上の「悪影響」が及ぼされないことも普通に知られており、
甲第32号証の摘記32aの「表1.イガ卵に対する各供試薬剤の補正孵化率および殺卵率」では、供試薬剤が「イソヘキサン」で、処理方法が「蒸散処理」である場合の殺卵率が『0%』であるという「科学的事実」が純然として存在しているから、
鱗翅目の昆虫の卵は、パラフィンやケロシン(灯油)等の石油類や、その成分の分岐鎖飽和炭化水素に対して感受されやすい(死滅しやすい)ということを、科学的に一般化し得ないものと推認せざるを得ない。
してみると、請求人が提出した平成24年3月23日付けの上申書の第8頁第26?28行の「鱗翅目の昆虫の卵は全般に、ケロシン等の石油類や、その成分の分岐鎖飽和炭化水素などに対して感受されやすい(死滅しやすい)ものであるという当業者の知識」は、その科学的成立それ自体を否定せざるを得ない。

したがって、引用発明6の「マロン酸ジエチルなど」という有効成分を「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」に変更することが、当業者にとって容易になし得るということはできない。

(4)まとめ
以上総括するに、本件発明1は、甲第6号証及び甲第5号証に記載された発明並びに本願出願時の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明2についての検討
本件発明2は、本件発明1の「殺卵剤」を蒸散させる「殺卵方法」に関するものであるから、本件発明1と同様に、甲第6号証及び甲第5号証に記載された発明並びに本願出願時の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.無効理由3について
(1)甲第7号証に記載された発明
摘記7aの「C_(5)以下のアルコールを密閉容器内で揮散させてなる防虫剤」との記載、及び摘記7bの「実施例2…イガ卵10頭、幼虫10頭および各種防虫剤4gを入れた」との記載からみて、
甲第7号証には、『C_(5)以下のアルコールを有効成分としたイガの卵が存在する領域に揮散させて用いる防虫剤。』についての発明(以下、「引用発明7」という。)が記載されているものと認められる。

(2)本件発明1と引用発明7との対比
本件発明1と引用発明7とを対比する。
ここで、技術常識からみて、引用発明7の「C_(5)以下のアルコール」の有効成分も、本件発明1の「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」という有効成分も、両者ともに「化合物」に相当するものと認められ、摘記7bの結果では、引用発明7の「防虫剤」が「殺卵剤」として機能している。
してみると、両者は『化合物を有効成分としたイガ又はゴキブリの卵が存在する領域に蒸散させて用いる殺卵剤。』に関するものである点において一致し、
有効成分が、本件発明1は「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」であるのに対して、引用発明7は「C_(5)以下のアルコール」である点、において相違する。

(3)相違点に関する判断
第一に、甲第1?34号証のうちの公知文献には、『炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素を有効成分とした殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所がなく、
第二に、甲第1?34号証のうちの公知文献には、『炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素(又は石油類ないしケロシン類)を蒸散させて用いる殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所がなく、
第三に、甲第1?34号証のうちの公知文献には、『炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素(又は石油類)を有効成分としたイガ又はゴキブリの卵が存在する領域に用いる殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所がないことについては、前述のとおりである。

また、甲第5号証に「炭素数16?25の分岐鎖飽和炭化水素」を有効成分として、鱗翅目ハマキガ科に属する農業害虫の「ナシヒメシンクイ」の卵を殺卵できることが記載されていたとしても、
甲第5号証の「ナシヒメシンクイ」という鱗翅目ハマキガ科に属する農業害虫に対する分岐鎖飽和炭化水素の殺卵効力についての知見から、本件発明1の「イガ」という鱗翅目ヒロズコガ科に属する衣類害虫に対する分岐鎖飽和炭化水素の殺卵効力までをも科学的に予測し得ないものであり、
甲第5号証の「炭素数16?25の分岐鎖飽和炭化水素」という有効成分の殺卵効力についての知見から、これより炭素数が少ない「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」という有効成分の殺卵効力までをも科学的に予測し得ないものと認められる。

したがって、引用発明7の「C_(5)以下のアルコール」という有効成分を「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」に変更することが、当業者にとって容易になし得るということはできない。

(4)まとめ
以上総括するに、本件発明1は、甲第7号証及び甲第5号証に記載された発明並びに本願出願時の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明2についての検討
本件発明2は、本件発明1の「殺卵剤」を蒸散させる「殺卵方法」に関するものであるから、本件発明1と同様に、甲第7号証及び甲第5号証に記載された発明並びに本願出願時の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4.無効理由4について
(1)甲第8号証に記載された発明
摘記8aの「カルボン及びその異性体の少なくとも1種を有効成分としたことを特徴とする衣類害虫の殺卵剤。」との記載、摘記8bの「揮散性のテルペン系の化合物などが致死効力、忌避効力を持つことが知られている。…また薬液を吸液芯で吸い上げ、吸液芯の上端を加熱して薬剤を揮散させる吸液芯方式を採用することもできる。」との記載、及び摘記8cの「イガの卵に対する孵化阻害作用」との記載からみて、
甲第8号証には、『揮散性のテルペン系の化合物若しくはカルボン及びその異性体の少なくとも1種を有効成分としたイガの卵が存在する領域に揮散させて用いる殺卵剤。』についての発明(以下、「引用発明8」という。)が記載されているものと認められる。

(2)本件発明1と引用発明8との対比
本件発明1と引用発明8とを対比する。
ここで、技術常識からみて、引用発明8の「揮散性のテルペン系の化合物若しくはカルボン及びその異性体の少なくとも1種」の有効成分も、本件発明1の「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」という有効成分も、両者ともに「化合物」に相当するものと認められる。
してみると、両者は『化合物を有効成分としたイガ又はゴキブリの卵が存在する領域に蒸散させて用いる殺卵剤。』に関するものである点において一致し、
有効成分が、本件発明1は「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」であるのに対して、引用発明8は「揮散性のテルペン系の化合物若しくはカルボン及びその異性体の少なくとも1種」である点、において相違する。

(3)相違点に関する判断
第一に、甲第1?34号証のうちの公知文献には、『炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素を有効成分とした殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所がなく、
第二に、甲第1?34号証のうちの公知文献には、『炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素(又は石油類ないしケロシン類)を蒸散させて用いる殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所がなく、
第三に、甲第1?34号証のうちの公知文献には、『炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素(又は石油類)を有効成分としたイガ又はゴキブリの卵が存在する領域に用いる殺卵剤。』それ自体を直接明記する記載箇所がないことについては、前述のとおりである。

また、甲第5号証に「炭素数16?25の分岐鎖飽和炭化水素」を有効成分として、鱗翅目ハマキガ科に属する農業害虫の「ナシヒメシンクイ」の卵を殺卵できることが記載されていたとしても、
甲第5号証の「ナシヒメシンクイ」という鱗翅目ハマキガ科に属する農業害虫に対する分岐鎖飽和炭化水素の殺卵効力についての知見から、本件発明1の「イガ」という鱗翅目ヒロズコガ科に属する衣類害虫に対する分岐鎖飽和炭化水素の殺卵効力までをも科学的に予測し得ないものであり、
甲第5号証の「炭素数16?25の分岐鎖飽和炭化水素」という有効成分の殺卵効力についての知見から、これより炭素数が少ない「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」という有効成分の殺卵効力までをも科学的に予測し得ないものと認められる。

したがって、引用発明8の「揮散性のテルペン系の化合物若しくはカルボン及びその異性体の少なくとも1種」という有効成分を「炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素」に変更することが、当業者にとって容易になし得るということはできない。

(4)まとめ
以上総括するに、本件発明1は、甲第8号証及び甲第5号証に記載された発明並びに本願出願時の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明2についての検討
本件発明2は、本件発明1の「殺卵剤」を蒸散させる「殺卵方法」に関するものであるから、本件発明1と同様に、甲第8号証及び甲第5号証に記載された発明並びに本願出願時の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5.無効理由1?4についてのまとめ
以上検討したように、本件発明1?2は、甲第2及び5?8号証に記載された発明並びに本願出願時の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはえいないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1?4は理由がない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により請求人が負担すべきものとする。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
殺卵剤及び殺卵方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素を有効成分としたことを特徴とするゴキブリ又はイガの卵が存在する領域に蒸散させて用いる殺卵剤。
【請求項2】
請求項1記載の殺卵剤をゴキブリ又はイガの卵が存在する領域に蒸散させることを特徴とする殺卵方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、害虫の卵を殺すための殺卵剤及び殺卵方法に関し、特に衛生害虫、衣類害虫の卵に対して優れた殺卵効果を奏する殺卵剤及び殺卵方法に関する。
【0002】
【従来技術】
従来から害虫の卵を殺すための手段については様々なものが検討されている。例えば、ダニ、シラミ、その卵を殺すのにポリオキシプロピレン誘導体を用いること(特公昭63-40163号公報)、ホウ酸と有機リン剤を併用することでゴキブリの卵の孵化率を低く抑えること(特開昭63-166812号公報)等が知られている。
【0003】
ところがこれらの手段は、有効成分を害虫に直接接触させたり、体内に摂取させる必要があることから、その摂取量等による影響を受けやすく十分な殺卵効果を得ることが難しいものであった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、優れた殺卵効果を奏する新たな殺卵剤及び殺卵方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素が害虫の卵を殺す効果(卵が孵化しない)に優れており、蒸散させることでゴキブリ等の衛生害虫、イガ等の衣類害虫の卵を殺すのに有効であることを見出し本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の構成により達成されるものである。
(1)炭素数7?13の分岐鎖飽和炭化水素を有効成分としたことを特徴とするゴキブリ又はイガの卵が存在する領域に蒸散させて用いる殺卵剤。
(2)(1)記載の殺卵剤をゴキブリ又はイガの卵が存在する領域に蒸散させることを特徴とする殺卵方法。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の有効成分であるパラフィン系炭化水素としては、炭素数7?17のものが好ましい。パラフィン系炭化水素が炭素数7?17の分岐鎖飽和炭化水素であるのが、より好ましい。具体的には、アイソパーE(主として炭素数7?9の分岐鎖飽和炭化水素を含有、エクソン社製、商品名)、アイソパーG(主として炭素数9?11の分岐鎖飽和炭化水素を含有、エクソン社製、商品名)、アイソパーH(主として炭素数11?13の分岐鎖飽和炭化水素を含有、エクソン社製、商品名)、アイソパーM(主として炭素数13?17の分岐鎖飽和炭化水素を含有、エクソン社製、商品名)、アイソパーV(主として炭素数13?17の分岐鎖飽和炭化水素を含有、エクソン社製、商品名)、キョーワゾルC-900(主として炭素数9?11の分岐鎖飽和炭化水素を含有、協和発酵社製、商品名)、スーパーゾルFP25(主として炭素数11?13の分岐鎖飽和炭化水素を含有、出光興産社製、商品名)、IP1620(主として炭素数9?12の分岐鎖飽和炭化水素を含有、出光石油化学社製、商品名)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0007】
本発明の殺卵方法は、害虫の卵が存在する領域(空間)にパラフィン系炭化水素を蒸散(自然蒸散、送風機(ファン)による蒸散、加熱蒸散等)させることで達成されるものであり、殺卵(卵が孵化しない)の有効量としては、ゴキブリでは1mg/m^(3)以上でよくて1?10mg/m^(3)が好ましく、イガでは2mg/m^(3)以上でよくて2?30mg/m^(3)が好ましい。また短時間に有効量を放出できるという点から、トータルリリース剤(全量噴射型エアゾール剤等)とすることも有用である。
パラフィン系炭化水素を蒸散させるためには、適切な担体、装置等を用いて、自然蒸散剤(マット、シート等)、ファン製剤(ファンによる気流を用いて蒸散させるもの)、加熱蒸散剤(燻蒸剤、燻煙剤、線香、マット製剤、錠剤、ブロック剤、吸液芯用製剤、ゲル剤、ゾル剤等)等として、目的とする領域に処理すればよい。例えば、タンス、衣類ケース等の密閉領域であれば、自然蒸散剤からの蒸散レベルでよく、部屋等の開放領域であれば、加熱蒸散剤として蒸散レベルを高めたものとするのがよい。
【0008】
前記の担体としては、水、アルコール類、ペンタン類、グリコール類等の液体担体;無機粉体、有機粉体等の固体担体;液化ガス、ジメチルエーテル、圧縮ガス等の噴射剤;酸化カルシウム、塩化マグネシウム、鉄粉と酸化剤との混合物、硫化ソーダと炭化鉄との混合物等の発熱剤;アゾジカルボンアミド等の有機発泡剤;非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤、BHT、BHA等の酸化防止剤、増粘剤、結合剤、皮膜形成剤等の添加剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。
【0009】
また必要に応じて、ピレスロイド系殺虫剤、有機リン系殺虫剤、カーバメイト系殺虫剤、オキサジアゾール系殺虫剤、ピラゾール系殺虫剤、スルホンアミド系殺虫剤、精油類、四級アンモニウム塩、サリチル酸ベンジル、フッ素化合物(商品名;バートレルXF、三井・デュポンフロロケミカル社製)等の殺虫剤;ジエチルメタトルアミド、ジ-n-ブチルサクシネート、ヒドロキシアニソール等の忌避剤;PCMX、IPBC等の殺菌剤;ラウリルメタクリレート、ゲラニルクロトネート、カテキン等の消臭剤;バラ油、ラベンダー油等の精油;ピネン、リモネン、リナロール、メントール、オイゲノール等の香料等の1種又は2種以上を混合したものを併用することができる。
【0010】
本発明の対象としては、衛生害虫、衣類害虫等の各種害虫に適用することができ、これらの中でもゴキブリ、イガに対して優れたものである。
【0011】
【実施例】
以下に実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0012】
(1)ゴキブリの卵に対する殺卵試験
容量860mlの逆円錐台状プラスチック容器内の底部にクロゴキブリの卵鞘1個を置いた。なお、試験に用いた卵鞘は産卵後1週間以内のものを用いた。次に前記容器の蓋内面にアイソパーH(炭素数11?13)を70mg含浸させた直径55mmの濾紙を貼り付け、前記容器の開口に蓋をして30℃、50%RH条件下に置いて卵鞘からのゴキブリの孵化を90日間観察した。試験は10反復行い、孵化したものを「○」、孵化しなかったものを「×」として、その結果を表1に示した。
【0013】
【表1】

【0014】
表1のとおり、無処理では卵鞘から孵化したゴキブリが7区であったのに対して、アイソパーH処理では0区であった。本試験は、ゴキブリの卵鞘とアイソパーHとが直接接触しない条件で実施されていることから、自然蒸散したアイソパーHによりゴキブリの卵鞘が死滅した(卵が孵化しない)ことが明らかとなった。
【0015】
(2)イガの卵に対する殺卵試験
容量860mlの逆円錐台状プラスチック容器内の底部にイガの卵30個を置いた。次に前記容器の蓋内面にアイソパーE(炭素数7?9)、アイソパーG(炭素数9?11)、アイソパーH(炭素数11?13)の各々を140mg含浸させた直径55mmの濾紙を貼り付け、前記容器の開口に蓋をして30℃、50%RH条件下に置いて卵からのイガの孵化を14日間観察し、孵化しなかった卵数から殺卵率(%)を求め、その結果を表2に示した。試験は2反復行った。
【0016】
【表2】

【0017】
試験の結果、無処理ではイガは卵から孵化したが、アイソパーE、G、Hで処理したいずれにおいてもイガの孵化は全く見られず、殺卵率(%)は100であった。本試験もイガの卵とアイソパーE、G、Hとが直接接触しない条件で実施されていることから、自然蒸散したアイソパーE、G、Hによりイガの卵が死滅した(卵が孵化しない)ことが明らかとなった。
【0018】
【発明の効果】
本発明の殺卵剤、殺卵方法は、ゴキブリ等の衛生害虫、イガ等の衣類害虫等の各種害虫の卵に対して優れた殺卵効果(卵が孵化しない)を奏するものである。これによって害虫の増殖、被害を抑制することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-03-30 
結審通知日 2012-04-03 
審決日 2012-05-08 
出願番号 特願2002-189402(P2002-189402)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 周一郎  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 村守 宏文
木村 敏康
登録日 2010-03-19 
登録番号 特許第4477291号(P4477291)
発明の名称 殺卵剤及び殺卵方法  
代理人 萼 経夫  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 伴 知篤  
代理人 加藤 勉  
代理人 宮崎 嘉夫  
代理人 古下 智也  
代理人 清水 義憲  
代理人 鈴木 洋平  
代理人 阿部 寛  
代理人 鈴木 洋平  
代理人 古下 智也  
代理人 池田 正人  
代理人 城戸 博兒  
代理人 城戸 博兒  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 阿部 寛  
代理人 池田 正人  
代理人 清水 義憲  

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