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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1260316
審判番号 不服2009-10428  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-01 
確定日 2012-07-19 
事件の表示 特願2003-552420号「濾過膜容器およびそれを使用する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年6月26日国際公開、WO03/51497、平成17年4月28日国内公表、特表2005-511296号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年12月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年12月14日 オランダ)を国際出願日とする出願であって、平成16年6月24日付けで国際出願翻訳文提出書が提出され、平成18年8月25日付けで拒絶理由が通知され、平成19年2月23日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成21年2月25日付けで拒絶査定され、平成21年6月1日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成21年7月1日付けで手続補正書が提出されたものであり、その後、平成23年7月29日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、平成23年10月25日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成21年7月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年7月1日付けの手続補正を却下する。
[理由]
平成21年7月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に係る補正を含み、補正前後の請求項1の記載は、次のとおりである。
(補正前)
「【請求項1】 供給水入口と透過水出口を有する容器と、容器内に設けられた少なくとも2つの膜フィルタモジュールとで構成されたデッドエンド式膜フィルタであって、濾過される水は供給水入口を介して膜フイルタモジュールに供給され、透過水は透過水出力から排出され、
a)供給水入口が濾過膜容器の中央に位置し、透過水出口が濾過膜容器の両端に位置するか、または
b)供給水入口が濾過膜容器の両端に位置し、透過水出口が濾過膜容器の中央に位置することを特徴とするデッドエンド式膜フィルタ。」(当審注:「透過水出力」の「出力」は誤記であって、正しくは「出口」であることは明らかであるので、以下、「出口」と読み替える。)

(補正後)
「【請求項1】 供給水入口と透過水出口を有する容器と、容器内に設けられた膜フィルタモジュールとで構成されたデッドエンド式膜フィルタであって、
1つの膜フィルタモジュールを容器内に装着し、容器の一端に供給水入口を、他端に透過水出口を設けたものを単位モジュールとしたとき、
a)前記単位モジュールの前記供給水入口を相互に接続して容器対を構成し、供給水入口が前記容器対の中央部分に位置し、透過水出口が前記容器対の両端に位置し、又は
b)前記単位モジュールの前記透過水出口を相互に接続して容器対を構成し、供給水入口が前記容器対の両端に位置し、透過水出口が前記容器対の中央に位置し、
濾過される水は供給水入口を介して前記膜フイルタモジュールに供給され、透過水は透過水出口から排出され、
供給水入口又は透過水出口に弁を設け、透過水の流量を制御可能にした
ことを特徴とするデッドエンド式膜フィルタ。」

本件補正は、補正前の請求項1の「デッドエンド式膜フィルタ」について「供給水入口又は透過水出口に弁を設け、透過水の流量を制御可能にした」なる補正事項を付加することを含むものである。
そこで、この補正事項が、国際出願翻訳文提出書に付された明細書・請求の範囲の翻訳文および国際出願日における図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてするものであるかについて、以下に検討する。
当初明細書には、「【0016】「クロスフロー」濾過が可能な図2Cに示す濾過システムに追加して別の実施形態を図2Dに示す。このため、濾過膜容器1、1’、1’’、1’’’の端に追加の接続部10を配置して取り付ける。供給入口2から供給水が供給され、各濾過膜容器1、1’、1’’、1’’’に含まれる膜モジュール4、4’、4’’、4’’’を通り抜けて中心透過水導管5、5’、5’’、5’’’に導かれる。続いて透過水は透過水出口3に流れる。供給水はそれぞれ膜モジュール4、4’、4’’、4’’’のそばを通って流れ、それぞれ11,11’および12,12’付近に濃縮水として排出される。膜モジュールのそばを通過する供給水の流速を変化させることができる。このために、例えば弁を供給側2に設けるか、または濃縮水排出側に設けることができる。または、透過水の流れを、例えば透過水排出側3に設けた弁によって制御することができる。種々の流れを正確に制御することによって装置全体に渡って圧力勾配を制御することが可能になる。供給水および/または透過水の流速を正しい方法で制御することによって、装置全体に渡る圧力降下は一定に保てる。この方法で非常に均等な膜クロスフローが達成できる。」との記載がある。
ここで、上記【0016】における「例えば弁を供給側2に設けるか、または濃縮水排出側に設けることができる。または、透過水の流れを、例えば透過水排出側3に設けた弁によって制御することができる。種々の流れを正確に制御することによって装置全体に渡って圧力勾配を制御することが可能になる。供給水および/または透過水の流速を正しい方法で制御することによって、装置全体に渡る圧力降下は一定に保てる。」との記載からして、「供給水入口又は透過水出口に弁を設け、透過水の流量を制御可能に」することの開示はなされているものの、これは、上記【0016】における「「クロスフロー」濾過が可能な図2Cに示す濾過システムに追加して別の実施形態を図2Dに示す。このため、濾過膜容器1、1’、1’’、1’’’の端に追加の接続部10を配置して取り付ける。」および「この方法で非常に均等な膜クロスフローが達成できる。」との記載からして、「クロスフロー式膜フィルタ」に関するものであることは明らかである。
つまり、当初明細書の【0016】には、「クロスフロー式膜フィルタ」において「供給水入口又は透過水出口に弁を設け、透過水の流量を制御可能に」することの開示があるということができる。
しかしながら、当初明細書の【0016】には、「デッドエンド式膜フィルタ」において「供給水入口又は透過水出口に弁を設け、透過水の流量を制御可能に」することの開示があるとはいえず、また、この【0016】以外の当初明細書等のいずれにも、「デッドエンド式膜フィルタ」において「供給水入口又は透過水出口に弁を設け、透過水の流量を制御可能に」することの開示はなく、これが自明の事項であるとはいえない。
さらに、平成19年2月23日付け手続補正書によって補正された明細書中には、当初明細書の【0016】の記載に相当する記載がなく、これからして、当初明細書の【0016】自体、当初より不可欠なものではなかったとみることができる。
よって、当該補正事項は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものではない。
したがって、当該補正事項を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成21年7月1日付けの手続補正は前記2.のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年2月23日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「供給水入口と透過水出口を有する容器と、容器内に設けられた少なくとも2つの膜フィルタモジュールとで構成されたデッドエンド式膜フィルタであって、濾過される水は供給水入口を介して膜フイルタモジュールに供給され、透過水は透過水出口から排出され、
a)供給水入口が濾過膜容器の中央に位置し、透過水出口が濾過膜容器の両端に位置するか、または
b)供給水入口が濾過膜容器の両端に位置し、透過水出口が濾過膜容器の中央に位置することを特徴とするデッドエンド式膜フィルタ。」

4.引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2001-29750号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 濾過器槽体と、該槽体中央部に位置する被処理水流入部と、該槽体両端に位置する処理水流出部と、該槽体内部両端側に設けられた複数の濾過エレメントとを備えた復水濾過器であって、
該槽体中央部は濾過エレメントの着脱及びメンテナンス作業領域を兼ねていることを特徴とする復水濾過器。」

(イ)「【0017】本実施の形態の復水濾過器では、略円筒状のケーシング(槽体)10が、水平横長に設置されている。ケーシング10の中央部には被処理水(復水)の導入口11と1個又は複数個のマンホール12とが設けられている。このマンホール12には蓋がボルト等によって着脱可能に装着されている。ケーシング10の両端には処理水(濾過水)の取出口13A,13Bが設けられている。この取出口13A,13B近傍にケーシング10内を上下に延在する管板14A,14Bが配置されている。」

(ウ)「【0019】この管板14A,14Bには、濾過エレメント15の差込孔14aが多数設けられている。濾過エレメント15は、略筒状であり、一端側15Aが封じられ、他端側には処理水の取出ポート16が設けられている。この取出ポート16は筒状であり、外周面にOリングが装着されている。この取出ポート16を管板14A,14Bの差込孔14aに差込み、Oリングを差込孔14aの内周面に水密的に押し付けることにより、濾過エレメント15が管板14A,14Bに取り付けられる。なお、濾過エレメント15の前記一端側15Aには把手(図示略)が設けられており、この把手を掴んで引くことにより濾過エレメント15の取出ポート16を差込孔14aから抜き出すことが可能となっている。」

(エ)「【0022】このように構成された復水濾過器にあっては、導入口11から流入した被処理水(復水)は、濾過エレメント15で濾過され、エレメント15内から取出ポート16を経て両端の処理水取出口13A,13Bから取り出される。」

(オ)「【0023】運転を継続することにより、濾過エレメント15の点検や交換が必要となった場合には、図示しない水抜き口からケーシング10内の水を抜き出した後、マンホール12から作業員がケーシング10内に入り、スペース17で、両端の濾過エレメント15の図示されない把手を掴んで引くことにより、濾過エレメント15を該スペース17側に抜き出し、ケーシング10内にて濾過エレメント15の点検、交換等を行える。」

(カ)上記(イ)ないし(オ)の記載事項からして、運転時には、水抜き口やマンホール12は閉じられていて、復水濾過器からの被処理水の取り出しは為されていないということができることから、復水濾過器がデッドエンド式であることは明らかであるので、引用例には、「デッドエンド式復水濾過器」が記載されているということができる。

上記(ア)ないし(オ)の記載事項および上記(カ)の検討事項より、引用例には、
「ケーシング10と、該ケーシング10中央部に位置する被処理水(復水)の導入口11と、該ケーシング10両端に位置する処理水(濾過水)の取出口13A,13Bと、該ケーシング10内部両端側に設けられた複数の濾過エレメント15とを備えたデッドエンド式復水濾過器であって、被処理水の導入口11から流入した被処理水が濾過エレメント15で濾過され、処理水が取出口13A,13Bから取り出されるデッドエンド式復水濾過器。」の発明(以下、「引用例記載の発明)という。)が開示されている。

5.対比・判断
本願発明と引用例記載の発明とを対比する。
引用例記載の発明の「被処理水(復水)」、「処理水(濾過水)」、「ケーシング10」、「導入口11」、「取出口13A,13B」、「濾過エレメント15」、「デッドエンド式復水濾過器」は、本願発明の「濾過される水」、「透過水」、「容器」、「供給水入口」、「透過水出口」、「膜フイルタモジュール」、「デッドエンド式膜フィルタ」にそれぞれ相当する。

上記より、引用例記載の発明は、
「容器と、該容器中央部に位置する供給水入口と、該容器両端に位置する透過水出口と、該容器内部両端側に設けられた複数の膜フイルタモジュールとを備えたデッドエンド式膜フィルタであって、供給水入口から流入した濾過される水が膜フイルタモジュールで濾過され、透過水が透過水出口から取り出されるデッドエンド式膜フィルタ。」であり、これを言い換えると、「供給水入口と透過水出口を有する容器と、容器内に設けられた少なくとも2つの膜フィルタモジュールとで構成されたデッドエンド式膜フィルタであって、濾過される水は供給水入口を介して膜フイルタモジュールに供給され、透過水は透過水出口から排出され、供給水入口が濾過膜容器の中央に位置し、透過水出口が濾過膜容器の両端に位置するデッドエンド式膜フィルタ。」であるということができ、そして、「供給水入口が濾過膜容器の中央に位置し、透過水出口が濾過膜容器の両端に位置する」ことについて、供給水入口および透過水出口の位置がこれと異なる場合と区別する観点より「a)」を付与することは、表現上の単なる便法であるということができる。
そうすると、本願発明と引用例記載の発明との間に何らの相違を見出すことができない。
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する。

以下、平成21年7月1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の事項により特定される同請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)の特許性について仮に検討する。
「供給水入口と透過水出口を有する容器と、容器内に設けられた膜フィルタモジュールとで構成されたデッドエンド式膜フィルタであって、
1つの膜フィルタモジュールを容器内に装着し、容器の一端に供給水入口を、他端に透過水出口を設けたものを単位モジュールとしたとき、
a)前記単位モジュールの前記供給水入口を相互に接続して容器対を構成し、供給水入口が前記容器対の中央部分に位置し、透過水出口が前記容器対の両端に位置し、又は
b)前記単位モジュールの前記透過水出口を相互に接続して容器対を構成し、供給水入口が前記容器対の両端に位置し、透過水出口が前記容器対の中央に位置し、
濾過される水は供給水入口を介して前記膜フイルタモジュールに供給され、透過水は透過水出口から排出され、
供給水入口又は透過水出口に弁を設け、透過水の流量を制御可能にした
ことを特徴とするデッドエンド式膜フィルタ。」
ここで、本願補正発明は、「1つの膜フィルタモジュールを容器内に装着し、容器の一端に供給水入口を、他端に透過水出口を設けたものを単位モジュールとしたとき、a)前記単位モジュールの前記供給水入口を相互に接続して容器対を構成し、供給水入口が前記容器対の中央部分に位置し、透過水出口が前記容器対の両端に位置」するものを発明特定事項にするものであり、これは、例えば、【図2A】をみるならば、膜フィルタモジュールが容器に装着されると共にこの容器がさらに別の容器内に設けられ、かつ、膜フィルタモジュールを装着する容器と別の容器の両方がデッドエンド式であることを想起させるものであるものの、明細書および図面には、この点を具体的に示す記載がない。
そして、請求人は、2009年(平成21年)9月9日付け応対記録に添付されている請求人提出のファクシミリにおいて、平成21年7月21日付け手続補正書の新請求項1における用語の定義をされているものの、これは、図2に示されている内容と一部相違するものであって、発明の内容を変更するものであることから、上記定義を採用することはできない。
したがって、平成21年7月1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、明細書および図面において具体的に記載されていない事項を想起させるものであることから、本願は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものではない。

なお、請求人は回答書において、特許請求の範囲の補正案を提示している。
ここで、上記2.で示したように、平成21年7月1日付けの手続補正は却下すべきものであることから、この補正案が、平成21年7月1日付けの手続補正と同じく、補正前の請求項1の「デッドエンド式膜フィルタ」について「供給水入口又は透過水出口に弁を設け、透過水の流量を制御可能にした」なる補正事項を付加することを含むものであることを考慮すれば、この補正案も、平成21年7月1日付けの手続補正についての補正却下の決定理由と同じ理由で、当初明細書等に記載された範囲内においてするものではない。
したがって、この補正案についても却下すべきものであるから、補正案は採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-17 
結審通知日 2012-02-21 
審決日 2012-03-05 
出願番号 特願2003-552420(P2003-552420)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小松 円香  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 吉川 潤
中澤 登
発明の名称 濾過膜容器およびそれを使用する方法  
代理人 原田 洋平  
代理人 森本 義弘  

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