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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1260325
審判番号 不服2010-3971  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-24 
確定日 2012-07-19 
事件の表示 特願2005-332698「野菜汁及び/又は果汁飲料」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月 7日出願公開、特開2007-135457〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年11月17日の出願であって、平成21年11月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年2月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成22年2月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成22年2月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
加熱処理後における、ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー法で測定したピークトップ分子量が3万以上4万未満であるアルギン酸塩を1?10質量%含有する野菜汁飲料であって、当該加熱処理が、容器詰してから食品衛生法に定められた殺菌条件で行われるか、又はプレート式熱交換器を用いて行われるものである、野菜汁飲料。」
(下線は、補正箇所を示す。)と補正された。

上記補正は、平成21年10月30日付け手続補正書の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「加熱処理」が、「容器詰してから食品衛生法に定められた殺菌条件で行われるか、又はプレート式熱交換器を用いて行われるものである」ことに限定したものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に、独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2 引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物1には以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。

(1)刊行物1:特開平6-7093号公報の記載事項

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 平均分子量1万?90万のアルギンを含有することを特徴とするアルギン含有食品。
【請求項2】 高分子量の原料アルギンを加圧下に 100?200 ℃で熱処理することにより低分子量化して得た平均分子量1万?90万のアルギンを使用することを特徴とする、請求項1記載のアルギン含有食品の製造方法。
【請求項3】 平均分子量1万?90万の水溶性アルギンを1?50重量%含有することを特徴とする、アルギン含有健康食品飲料。
【請求項4】 高分子量の原料アルギンを加圧下に 100?200 ℃で熱処理することにより低分子量化して得た平均分子量1万?90万の水溶性アルギンを使用することを特徴とする、請求項3記載のアルギン含有健康食品飲料の製造方法。」

(1b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はアルギン含有機能性食品に関する。より詳しくは、本発明は、アルギン酸、アルギン酸塩等のアルギン類の食物繊維としての機能性を保持したまま低分子量化されたアルギンを含有する食品、特に健康食品飲料に関する。このアルギン含有食品は肥満防止および糖尿病予防の効果がある。」

(1c)「【0003】アルギン酸は、褐藻類〔例、ジャイアント・ケルプ(Macrocystis pyrifera)〕を炭酸ナトリウム水溶液で抽出し、塩酸または塩化カルシウムで沈澱させることにより得られる。遊離のアルギン酸は水に難溶性でゲル化し易いため、通常は水溶性とするためにアルカリ金属塩 (例、ナトリウム塩) とし、水溶液の形態で使用される。この水溶液は高い粘性を持ち、たとえば、サイジング剤、食品加工、塗料など多方面に用途が開かれており、その使用量は漸次増大している。本明細書においては、アルギン酸ならびにその塩およびエステルを総称してアルギンと言う。
【0004】アルギンは保健上多くの効用をもつことが知られている。アルギンが体内に入ると、胃酸により遊離アルギン酸となり、ゲル化する。哺乳動物はアルギン酸を分解する酵素を有していないため、ゲル化したアルギン酸は人体では吸収されずに排出される。従って、アルギンは食物繊維として、整腸・便秘予防効果を示す。また、アルギンはストロンチウムやカドミウムといった有害金属の体内吸収抑制作用や高血圧の原因となるナトリウムの体外排出作用を示し、さらには消化性潰瘍、逆流性食道炎治療剤としても有用である。 (食品開発、Vol. 20, No. 3,p.20?23参照) 。」

(1d)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】従来、アルギン酸をナトリウムなどのアルギン酸塩として水溶性化しても、その使用可能な水溶液の濃度は数%以下であるため、アルギンはこれまで希薄溶液としてしか使用できなかった。アルギン酸塩の水溶液の濃度をそれ以上に高めると、溶液の粘性が著しく高まり、とても飲用には適さなくなる。そのため、高濃度が必要な場合には、アルギンを粉体としてそのまま使用することになる。
【0008】従って、上述したアルギンの保健上の機能を利用した健康食品飲料を開発する場合、アルギン濃度が5重量%でも溶液粘度が高すぎ、飲みにくいものとなるので、薬用としてはともかく、多量に飲用する健康食品飲料の場合には、実際上は数%程度がアルギン濃度の限界であった。かかる低濃度のアルギン含有飲料ではアルギンの有用な機能は発揮できない。
【0009】本発明の目的は、高濃度のアルギンを含有し、アルギンの保健上有用な機能、特に食物繊維機能を充分に発揮できる、アルギン含有食品、特に健康食品飲料およびその製造方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、従来より利用されてきたアルギンの溶解度が低く、またその水溶液の粘度が高いことの原因がアルギンの高分子量にあることに着目し、低分子量化により溶解度を増加させ、かつ粘度を低下させて、上記目的を達成すべく検討した。
【0011】アルギンの低分子量化の方法として、酸による加水分解法と分解酵素を用いた生分解法が従来より公知である。加水分解法は酸を使用するため、得られた低分子量アルギン酸の回収時に中和操作が必要であり、生分解法は分解に長時間を要する。また、いずれの方法でも、アルギンが分子量が1万未満のオリゴマーまで低分子量化してしまうため、アルギンの食物繊維としての機能を期待できなくなる。
【0012】そこで、さらに検討を重ねた結果、加圧下で熱処理することにより、食物繊維機能を保持できる1万?90万の範囲内の所望の平均分子量にアルギンを選択的に分解できることを知り、本発明に至った。また、本発明者等は、このように低分子量化したアルギンが、従来のアルギンの保健上の機能を維持しうることに加え、肥満および糖尿病の予防にも効果があり、機能性食品として使用できることも見出した。
【0013】本発明は、平均分子量1万?90万のアルギンを含有するアルギン含有食品である。この食品の好適な態様は、平均分子量1万?90万の水溶性アルギンを1?50重量%含有する、アルギン含有健康食品飲料である。かかる低分子量のアルギンは、高分子量の原料アルギンを加圧下に 100?200 ℃で熱処理することにより得られる。なお、前述したように、アルギンとは、アルギン酸、アルギン酸塩およびアルギン酸エステルを包含する。」

(1e)「【0014】
【作用】以下、本発明の構成をその作用と共に詳述する。本発明で用いる、平均分子量1万?90万のアルギンは、従来より利用されてきた高分子量の原料アルギンを加圧下に熱処理することにより得ることができる。勿論、平均分子量がこの範囲内であれば、別の処理により得られたアルギンを本発明の健康食品飲料に使用することもできる。飲料としての飲みやすさ等の点からは、使用するアルギンの好ましい平均分子量は、1万?15万の範囲内である。アルギン酸塩としては、原理的には、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、さらには鉄、スズ等の金属塩などが可能であるが、飲料に用いる関係から食品添加物として指定されているものを使用する必要がある。従って、現在使用可能なアルギン酸塩はアルギン酸ナトリウムである。アルギン酸エステルとしては、プロピレングリコールエステルが例示される。
【0015】原料となる高分子量アルギン、例えばアルギン酸もしくはその塩は、褐藻類から既知の方法で抽出することにより得るか、或いは市販品を利用することができる。従来のアルギンは分子量が高いため、そのまま飲料化したのでは、アルギン含有量が数%以下とごく低い飲料しか製造できず、アルギンの食物繊維機能を充分に発揮できない。
【0016】これに対して、本発明で用いる平均分子量1万?90万のアルギン酸またはその塩は、溶解度が高く、高濃度にしても飲料に適した粘度にとどまり、高濃度水溶液として飲料化できる。本発明の健康食品飲料における好適なアルギン含有量は、使用するアルギンの平均分子量によっても異なるが、一般には1?50重量%であり、約5?20重量%の範囲内が好ましい。1重量%未満では、アルギンの食物繊維機能が充分に発揮されない。また、50重量%を超えると、粘度が高くなり、飲料として適さない。使用するアルギンの平均分子量が低いほど、アルギン含有量を高くすることができる。」

(1f)「【0018】本発明によれば、原料のアルギン酸またはその塩 (例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などの任意の塩) もしくはエステルを、好ましくは水溶液状態において、加圧下に 100?200 ℃で熱処理して分解することにより低分子量化する。反応温度が100 ℃以下では分解反応の進行が遅く、200 ℃以上ではアルギン酸の低分子量化が進みすぎて平均分子量が1万未満となり、アルギン酸の食物繊維としての機能が失われてしまう。反応液の濃度は任意であるが、好ましくは0.1 ?50重量%である。0.1 重量%以下では濃度が薄すぎて、多量処理時の反応効率が悪く、50重量%以上では反応後の液が粘稠すぎて取り扱いが困難となる。反応中の圧力は0.1 ?15kg/cm^(2)Gの範囲内が適当である。従って、反応中の圧力が低い場合には高温高圧反応装置は必要なく、高圧蒸気滅菌装置 (オートクレーブ) で充分に反応を進行させることができる。反応装置は、連続式、半連続式、回分式のいずれでもよく、攪拌なし、攪拌ありのいずれでもよい。反応は、原料アルギンが所望の平均分子量に達するまで続ける。反応時間は、反応温度、圧力、濃度などの他の反応条件に応じて変動するが、一般に1分から100 時間の範囲内である。」

(1g)「【0024】
【実施例】次に実施例により本発明をさらに説明する。
アルギンの低分子量化
(実験例1?7)ジャイアント・ケルプから製造された市販アルギン酸ナトリウム5gと水95gとをよく混合してからオートクレーブに入れた。オートクレーブを作動させ、表1に示す条件下でこのアルギン酸塩を熱処理して分解させた。オートクレーブ内の圧力は、使用温度条件での自生圧力であり、処理温度100 ℃の場合で約0.1kg/cm^(2)G、130 ℃では約2kg/cm^(2)Gであった。熱処理終了後、得られた低分子量化アルギン酸ナトリウムの溶液から採取した試料を用いて、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)法により生成物の平均分子量を、また回転粘度計により30℃における溶液粘度を測定した。
【0025】(実験例8)アルギン酸ナトリウム10gと水90gを使用して実験例6を繰り返した。
(比較例)比較例として、未処理アルギン酸ナトリウムの分子量および粘度を測定した結果を表1に示した。
【0026】
【表1】

【0027】表1に示した結果からわかるように、分子量270万のアルギン酸ナトリウムを、加圧下での熱処理により分子量1万?180万に低分子量化することができ、生成物の分子量は、処理温度が高いほど、また処理時間が長いほど低下した。従って、処理条件を適当に設定することにより、アルギンの平均分子量を、飲料に適した1万?90万の範囲内の所望の値まで選択的に低分子量化させることができることが判明した。なお、この平均分子量は重量平均分子量であり、得られた生成物の分子量範囲は比較的狭かった。また、平均分子量が90万以下の本発明で用いるアルギンの溶液粘度は1,000 cP以下と低かったのに対し、平均分子量が140万および180万のアルギンの溶液粘度は8,000 および14,800cPと著しく高く、飲用には不適であった。」

(1h)「【0056】(実施例)種々の平均分子量のアルギン酸ナトリウムを用いて、下記処方の健康食品飲料を調製した。
【0057】
例1 分子量6万のアルギン酸ナトリウム水溶液(5.2%) 1 00g
クエン酸ナトリウム 5g
リンゴ果汁 10g
ハチミツ 5g
例2 分子量5万のアルギン酸ナトリウム水溶液(5.2%) 200g
クエン酸ナトリウム 5g
リンゴ果汁 10g
ハチミツ 5g
例3 分子量10万のアルギン酸ナトリウム水溶液(5.2%) 200g
クエン酸ナトリウム 5g
リンゴ果汁 10g
ハチミツ 5g
例4 分子量5万のアルギン酸ナトリウム水溶液(5.2%) 200g
クエン酸ナトリウム 5g
朝鮮人参エキス 1g
ローヤルゼリー 100mg
例5 分子量10万のアルギン酸ナトリウム水溶液(5.2%) 200g
クエン酸ナトリウム 5g
ドクダミエキス 10g
ローヤルゼリー 100mg
例6 分子量10万のアルギン酸ナトリウム水溶液(5.2%) 200g
クエン酸ナトリウム 5g
ハトムギエキス 10g
ハチミツ 5g
上記の成分を混合し、飲料とした。得られた健康食品飲料は、清涼な感じがする飲み易いものであった。」

(1i)「【0058】
【発明の効果】従来のアルギン含有飲料では、アルギンの分子量が高く、溶液粘度が高くなり過ぎるため、アルギン濃度を高くすることができず、アルギンの持つ食物繊維機能を有効に発揮させることができなかった。これに対し、本発明により、食物繊維機能を保持したまま低分子量化されたアルギンを使用することで、保健上に有効な高濃度で食物繊維機能を持ったアルギンを含有する健康食品飲料を提供することができる。また、本発明の低分子量化アルギンは、グルコース負荷時の血中グルコースおよびインスリン値の上昇を抑制する。従って、本発明のアルギン含有食品は、肥満および糖尿病予防のための機能性食品として有用である。」

3 対比・判断
刊行物1の上記記載事項(特に上記(1a))から、刊行物1には、
「平均分子量1万?90万の水溶性アルギンを1?50重量%含有するアルギン含有健康食品飲料であって、高分子量の原料アルギンを加圧下に 100?200 ℃で熱処理することにより低分子量化して得た平均分子量1万?90万の水溶性アルギンを使用したアルギン含有健康食品飲料」
の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願補正発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)刊行物1発明の「水溶性アルギン」について、刊行物1には、アルギンとは、アルギン酸、アルギン酸塩およびアルギン酸エステルを包含すること(1c,1d)、また、遊離のアルギン酸は水に難溶性でゲル化し易いため、通常は水溶性とするためにアルカリ金属塩 (例、ナトリウム塩) として水溶液の形態で使用されることが(1c)記載されているので、刊行物1発明の「水溶性アルギン」は、本願補正発明の「アルギン酸塩」に相当する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
加熱処理後のアルギン酸塩を含有する飲料。

(相違点1)
飲料が、本願補正発明では「野菜汁飲料」であるのに対し、刊行物1発明では「健康食品飲料」である点。

(相違点2)
飲料に含有させる、加熱処理後のアルギン酸塩が、本願補正発明では「加熱処理後における、ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー法で測定したピークトップ分子量が3万以上4万未満であるアルギン酸塩」であるのに対して、刊行物1発明では、平均分子量1万?90万の水溶性アルギンである点。

(相違点3)
アルギン酸塩の含有量が、本願補正発明では「1?10重量%含有する」のに対し、刊行物1発明では「1?50重量%含有する」点。

(相違点4)
加熱処理が、本願補正発明では「容器詰してから食品衛生法に定められた殺菌条件で行われるか、又はプレート式熱交換器を用いて行われるものである」のに対し、刊行物1発明では「加圧下に 100?200 ℃で熱処理する」ものである点。

そこで、上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物1発明のアルギン酸塩を含有した「健康食品飲料」として、刊行物1にはリンゴ果汁を添加したものが例示されているが(1h)、健康上の効能が期待される健康食品飲料として果汁を用いたものの他、トマトやニンジンなどの野菜汁を用いたものも例えば特開2003-116496号公報(【0002】,【0004】?【0005】)、特開2005-204663号公報(【0010】?【0011】)、特開2002-291452号公報(【0010】【0013】)などに記載されているように、本願出願前の周知の技術である。
そうすると、刊行物1発明の健康食品飲料に野菜汁を用い、野菜汁飲料とすることは、周知技術を参照して、当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
刊行物1発明の、平均分子量1万?90万の水溶性アルギンを使用することについて、刊行物1には、従来、アルギンは、ナトリウムなどのアルギン酸塩として水溶性化してもその使用可能な水溶液の濃度は数%以下にとどまり、それ以上に高めると溶液の粘性が著しく高くなりとても飲用には適さなくなるため、健康食品飲料ではアルギンの有用な機能を発揮できなかったところ、水溶液の粘度が高いことの原因がアルギンの高分子量にあることに着目し、低分子量化により溶解度を増加させ、かつ粘度を低下させたものであって、加圧下で熱処理することにより、食物繊維機能を保持できる1万?90万の範囲内の所望の平均分子量にアルギンを選択的に分解でき、従来のアルギンの保健上の機能を維持し、機能性食品として使用できること(1d)、分子量270万のアルギン酸ナトリウムを、加圧下での熱処理により分子量1万?180万に低分子量化することができ、また、生成物の分子量は処理温度が高いほど、また処理時間が長いほど低下するため、処理条件を適当に設定することにより、アルギンの平均分子量を飲料に適した1万?90万の範囲内の所望の値まで選択的に低分子量化させることができること(1g)、得られた健康食品飲料は清涼な感じがする飲み易いものであったこと(1h)、が記載されており、従来、アルギン酸塩の水溶液の粘度が高くて飲用に適さなかったものを、加圧下での熱処理を行うことにより、飲料に適した平均分子量に低分子量化することができ、また熱処理の処理条件を適宜に設定することにより飲料に適した平均分子量1万?90万の範囲内の所望の値まで選択的に低分子量化することができることが記載されている。
そうすると、熱処理の処理条件を適宜に変更することにより、他に含ませる野菜汁の種類や分量あるいはし好等に応じて、所望の飲み易さの健康食品飲料を得ることを考え、刊行物1発明の水溶性アルギンの平均分子量を、飲料に適した平均分子量1万?90万の範囲内の、所望の飲み易さとなる平均分子量の値に設定することは、刊行物1の記載事項から当業者が容易に想到し得たことである。
そして、刊行物1には、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)法を用いて平均分子量を測定したこと(1g)、また、得られた生成物の分子量範囲は比較的狭かったこと(1g)が記載されていることから、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)法で把握される分子量分布の指標として、数平均分子量や重量平均分子量などと共によく用いられるピークトップ分子量を指標とする程度のことは慣用技術の選択に過ぎず、このピークアップ分子量の値で3万以上4万未満の数値範囲に設定することは、他に含ませる野菜汁の種類や分量あるいはし好等に応じ、所望の飲み易さの健康食品飲料を得ることを考えて、当業者が通常なし得た数値範囲の最適化であって、適宜になし得たことである。

(相違点3について)
刊行物1発明の、水溶性アルギンを1?50重量%含有させることについて、刊行物1には、アルギン含有量は使用するアルギンの平均分子量によっても異なるが、一般には1?50重量%であり、約5?20重量%の範囲内が好ましいこと、1重量%未満ではアルギンの食物繊維機能が充分に発揮されず、50重量%を超えると粘度が高くなり飲料として適さないことが記載されている(1e)。
そうすると、飲料におけるアルギン酸塩の含有量として、本願補正発明の1?10重量%は刊行物1発明に含まれるものであるし、さらに、1?10重量%の数値範囲に設定することも、刊行物1の上記記載事項から、アルギンの植物繊維機能を発揮する程度であって、かつ、粘度が高くなりすぎず、飲用として適した所望の飲みやすさの健康食品飲料を得ることを考えて、当業者が通常なし得た数値範囲の最適化であって、適宜になし得たことである。

(相違点4について)
下記4 のとおり、本願補正発明では「当該加熱処理が、容器詰してから食品衛生法に定められた殺菌条件で行われる」と規定しているが、食品衛生法では殺菌条件を定めた条項はなく、当該記載でどのような殺菌条件を規定しているのか不明である。よって、本願補正発明は、特許を受けようとする発明が明確ではないが、仮に、本願補正発明の「当該加熱処理が、容器詰してから食品衛生法に定められた殺菌条件で行われる」ことが、食品衛生法第7条1項及び第10条の規定に基づく厚生労働省の告示である「食品、添加物等の規格基準」において定められる清涼飲料水の製造基準を満たすために通常行われる殺菌条件で行うこと、と解釈した場合、内容物を容器に充填した後に加圧加熱装置内で高温加熱を行うレトルト殺菌法は、例えば特開2002-96807号公報(【0002】)、特開2003-164272号公報(【0002】)、特開平11-171295号公報(【0002】)にも記載の通り、本願出願前において当該製造分野においてよく行われている殺菌方法である。また、本願の明細書の【0012】段落には「加熱処理は、野菜汁及び/又は果汁飲料の製造時に行われる。この製造時の加熱は、容器詰飲料の場合、加熱殺菌工程における加熱でもよい。例えば、(1)金属缶容器等の加熱殺菌できる容器は、容器詰してからの食品衛生法に定められた殺菌条件で加熱殺菌して製造する;(2)PETボトル、紙容器等のレトルト殺菌できない容器は、あらかじめ飲料を殺菌、例えばプレート式熱交換器等を用い高温短時間で殺菌する工程を経て、一定の温度まで冷却して容器に充填する製造等が挙げられる。」と記載され、PETボトル、紙容器等がレトルト殺菌できない容器であるとする(2)との対比からして、(1)の金属缶容器等の加熱殺菌できる容器はレトルト殺菌できる容器であって、容器詰してから行われる加熱殺菌はレトルト殺菌を意味していると解することができる。そして、レトルト殺菌法は、高温高圧の飽和水蒸気による滅菌処理であるオートクレーブ滅菌法である。
一方、刊行物1発明の「加圧下に 100?200 ℃で熱処理する」ことについて、刊行物1には、高温蒸気滅菌装置(オートクレーブ)で行うことが記載されている(1f)。
そうすると、本願補正発明の「容器詰してから食品衛生法に定められた殺菌条件で行われる」加熱処理は、刊行物1発明のオートクレーブによる熱処理を含むものであるので、本願補正発明と刊行物1発明とは、加熱処理において実質的に相違するものではない。

(発明の効果について)
刊行物1には、食物繊維機能を保持したまま低分子量化されたアルギンを使用することで、保健上に有効な高濃度で食物繊維機能を持ったアルギンを含有する健康食品飲料を提供することができること(1i)、アルギンは食物繊維として整腸・便秘予防効果を示すことが記載されている(1c)。そして、従来、粘度が高くて飲料としては適さなかったものを低分子化により粘度を低下させたこと(1d)、これにより、飲料としては飲みやすい粘度のものとなり(1e)、得られた健康食品飲料は清涼な感じがする飲みやすいものであったこと(1h)が記載されていることから、感覚的にも飲みやすい粘度の飲料が得られたものである。
そうすると、本願補正発明の「良好な便通改善効果を有しながらも、粘度感が少なくすっきりとし、ほど良い酸味の摂取し易い食物繊維摂取用野菜汁及び/又は果汁飲料が提供される」との効果は、刊行物1の記載事項から予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 特許法第36条第6項第2号についての独立特許要件
本願補正後の請求項1は「当該加熱処理が、容器詰してから食品衛生法に定められた殺菌条件で行われる」と記載しているが、食品衛生法には殺菌条件を定めた条項はなく、当該記載でどのような殺菌条件を規定しているのか不明である。
よって、本願補正後の請求項1の記載は特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項2号の規定に適合したものではないから、独立して特許を受けることができないものである。

5 むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年2月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1ないし2に係る発明は、平成21年10月30日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。

「【請求項1】
加熱処理後における、ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー法で測定したピークトップ分子量が3万以上4万未満であるアルギン酸塩を1?10質量%含有する野菜汁飲料。」
(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及びその記載事項は、前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明の「加熱処理」が、「容器詰してから食品衛生法に定められた殺菌条件で行われるか、又はプレート式熱交換器を用いて行われるものである」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含んだ本願補正発明が、前記「第2 3」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-17 
結審通知日 2012-05-22 
審決日 2012-06-04 
出願番号 特願2005-332698(P2005-332698)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A23L)
P 1 8・ 537- Z (A23L)
P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 正展今村 玲英子  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 菅野 智子
齊藤 真由美
発明の名称 野菜汁及び/又は果汁飲料  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 村田 正樹  
代理人 高野 登志雄  
代理人 山本 博人  
代理人 有賀 三幸  

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