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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24F
管理番号 1260377
審判番号 不服2011-25809  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-30 
確定日 2012-07-19 
事件の表示 特願2008-144529号「空調室内機の可動パネル」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月17日出願公開、特開2009-293807号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成20年6月2日の出願であって、平成23年9月6日付けで拒絶査定がなされ(発送:9月13日)、これに対し、平成23年11月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり、さらに、平成24年2月14日付けで当審において拒絶理由が通知され(発送:2月21日)、これに対して、同年4月19日付けで手続補正書及び意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年4月19日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
本体の下面だけを天井面に露出させ、前記下面に形成された単一の空気吸込口(20a)から空気を吸い込み、前記下面に形成された単一の空気吹出口(20b)へ空調空気を吹き出す天井埋込型の空調室内機に搭載され、前記空気吸込口(20a)の近傍に吊り部材(71)を介して吊られ、前記吊り部材(71)の動作によって、昇降および/または前記空気吸込口(20a)の開閉を行う空調室内機の可動パネルであって、
下面が常に外部に露出しているパネル本体(241)と、
前記パネル本体(241)の上面を覆うパネルカバー(247)と、
を備え、
前記空気吹出口(20b)に近い後方から前方に向って厚みが細くなっており、運転時には後方端部を中心にして前方端部が下方に降下するように回動し、前記空気吸込口(20a)を開く、
空調室内機の可動パネル(24)。」

3.引用刊行物とその記載事項
(1)当審における平成24年2月14日付けの拒絶理由(以下「当審における拒絶理由」という。)において引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-227772号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。

ア.「【0010】
【発明の実施の形態】図1、図2はこの発明の第一の実施の形態である換気機能付き埋込型空気調和機の室内機の構成図であり、従来例と同様に天井埋込型空気調和機である。図1は平面図であり、図2は断面図である。表1は、第一の実施の形態に係る換気機能付き埋込型空気調和装置を用いた換気空調システムの各モード設定の一覧表である。
【0011】従来装置同様、天井1内に埋設された室内機本体2の内部には、遠心ファン3、熱交換器7、ベルマウス5、モータ4、ドレインパン8、吸込口フィルタ6a、が内蔵され、この室内機本体2に対して吸込グリル10a、開閉ダンパ10c、10dを有するパネル10が天井面に面して装着されている。モータ4は室内機本体2の天板2aに固定され、また遠心ファン3の円錐部3aは、モータ4の軸4aに固定されている。さらに、換気機構として、屋外21から壁22を貫通し、室内機内部の遠心ファン3の吸込側流路にいたる吸気流路12が形成されている。本実施例では、室内機本体2の吸込グリル10aとベルマウス5との間の吸込側流路に吸気流路12の一端を連通接続する構成としている。さらに、遠心ファン3の吹出側流路から壁22を貫通して屋外21にいたる排気流路11が形成されている。ここで、吹出側流路とは、遠心ファン3の吹出口から室内機の吐出口9までの間の流路であり、この流路に排気流路11の一端が連通接続されている。」(段落【0010】?【0011】下線は当審にて付与、以下同じ。)

イ.「【0012】前記吸気流路12及び排気流路11には、開閉手段として外部から室内機への気流を制御するバルブ14及び室内機から外部への気流を制御するバルブ13がそれぞれ配設されている。また、室内機本体2に装着されたパネル10に設けられている吸込口6及び吐出口9には、開閉手段として、それぞれ開閉ダンパ10c、10dが配設されており、例えば、図示しないモータにより制御されている。」(段落【0012】)

ウ.「【0016】ここで、各モードの説明をしておく。まず、開閉ダンパ10cを「開」、開閉ダンパ10dを「開」、バルブ13を「閉」、バルブ14を「閉」とすると、遠心ファン3の運転により、室内20の空気が吸込口6から室内機本体2内に吸い込まれ、熱交換器7により温度調和された後、吹出口9から室内へ吹き出されて、(A)室内空調が行われる。」(段落【0016】)

エ.「【0020】ダンパ10d回転軸取付位置を図1と逆にし、ダンパ10dの開く向きを逆方向とすることにより冷房又は暖房時の吹出し風を吸込口6から遠ざける方向に向けられるためショートサーキットが防止できる。(段落【0020】)

オ.図1、2には、
・室内機本体2下面に装着されたパネル10だけが天井面に露出されてること
・パネル10に設けられている単一の吸込口6から空気が吸い込まれること
・パネル10に設けられている上記吸込口6の周囲に配された四つの吐出口9から空気が吹き出されること
・開閉ダンパ10cは、吸込口6の近傍に配設されるとともに、その下面は常に外部に露出していること
・開閉ダンパ10cは、一対のダンパ10c、10cからなり、運転時には、各々吐出口9、9に近い後方端部を中心にして前方端部が下方に降下するように回動すること
が図示されている。

以上の事項を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「室内機本体2下面に装着されたパネル10だけを天井面に露出させ、前記パネル10に設けられている単一の吸込口6から空気を吸い込み、前記パネル10に設けられている前記吸込口6の周囲に配された四つの吐出口9へ空気を吹き出す天井埋込型空気調和機に配設され、前記吸込口6の近傍に配設され、モータにより制御されて前記吸込口6の開閉を行う一対の開閉ダンパ10c、10cであって、
常に外部に露出する下面を備え、
運転時には、各々吐出口9に近い後方端部を中心にして前方端部が下方に降下するように回動し、前記吸込口6を開く、
空気調和機の開閉ダンパ10c、10c。」

(2)本願の出願前に頒布された刊行物である特公平6-94935号公報(以下「周知刊行物1」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。

カ.「本発明は、居室内の空調を行う空気調和機において、特にインテリア性を向上する空気調和機に関するものである。」(第4欄第47行?第49行)

キ.「また、他の構成として、前面グリル103の前面を平担にし、吸込口を上面等に設けて正面から直接吸込口の開口部が見えないように配慮し、インテリア性の向上をはかった構成も知られている(実公昭62-38176号公報)。」(第5欄第30行?第33行)

ク.「また前記グリル3は、前記本体2の風回路5から制御室6の全体にわたって延出した開口部11と、この開口部11を開閉するパネル部12からなる吸込部13と、前記風回路5と連通し、かつ開口部11と同様に延出した吹出部14より構成されている。
前記吸込部13におけるパネル部12は、前記吹出部14に近い下端両側が回動軸となるよう開口部11の両側縁に軸支されている。その詳細は、第8図に示すように、パネル部12に設けた軸部16がグリル3のボス部17へ嵌合した構成となっている。」(第6欄第26行?第35行)

ケ.「また、前記パネル部12は、吸込部13側を軸支側として吸気を行わないようにしているため、吹出口25からの風が直接吸気孔20へ吸入されるといったショートサーキットはなく、熱交換性能が阻害されることもない。」(第8欄第17行?第20行)

コ.「また、パネル部12は、閉塞状態においてグリル3より若干その厚さ分だけ突出している構成となっているが、必要に応じて開口部11の周囲に、パネル部12の全周が嵌合する段部を設け、閉塞状態においてグリル3と面一となるようにしてもよい。
また、上記各実施例における室内ユニットは、グリル3の前面部を除き全体を天井内,壁内等に埋込むいわゆるビルトイン形とすれば、一層活居内のインテリア性を高めることができる。」(第9欄第21行?第29行)

(3)本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-361011号公報(以下「周知刊行物2」という。)には、図1?4と共に、以下の記載がある。

サ.「【0023】
そして、第二の空気吸込み口となる下部空気吸込み口16がフロントパネル2の下部で空気吹出し口15に近接して設けられている。下部空気吸込み口16は横長に形成され、空気吹出し風路14とほぼ同じ横幅に形成されている。この下部空気吸込み口16は室内ユニット10の正面の下部から室内空気を吸い込み、複数に分割されて配置されている熱交換器5の下部を有効に活用しようとするものである。
【0024】
しかし、下部空気吸込み口16はフロントパネル2の下部で空気吹出し口15に近接して設けられているため、常時開口した状態で単に設けた場合には、図5に示すように、空調運転時に空気吹出し口15から吹出してくる調和された空気を直に吸い込むショートサーキットを形成し、室内の温湿度を調和するのに役立たない空気の流れを作ることになる。これを防止するとともに、室内ユニット10の美観を向上させるためにフラップ11を設けている。
【0025】
フラップ11は、前部ケーシング8と後部ケーシング9とで構成される空気吹出し風路14の先端部にあたる空気吹出し口15の上縁部に、空気吹出し口15のほぼ全幅にわたって回動可能に設けられている。そして、フラップ11の大きさは下部空気吸込み口16を完全に被うことのできる大きさになっていて、フラップ11をフラップ11の回動範囲の最上位である回動位置aに移動した場合、下部空気吸込み口16はフラップ11で完全に被われ、人が生活する生活空間から見えなくなるようになっている。この状態で、フラップ11はフロントパネル2とほぼ同一の平面部を形成する。」(段落【0023】?【0025】)

(4)本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-12060号公報(以下「周知刊行物3」という。)には、図1、2と共に、以下の記載がある。

シ.「【0027】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は第1の実施形態における室内ユニット100の構成を説明する断面図である。図に示される符号110は室内ユニット100の外観形状をなす筐体、120は筐体110の正面に位置するフロントパネル、123は回転軸111により筐体110に対して回動可能に支持された導風板を示している。なお、その他に示される符号の一部は、図6にて説明した従来の室内ユニット10の構成と同様であるので、同一符号を用いてその説明を一部省略する。
【0028】
筐体110の正面に位置するフロントパネル120は、上下高さ方向のほぼ中央である分割部Dにて分割されている。そして、分割部Dに対して上側の部分は、筐体110に固定されたメインフロントパネル121である。このメインフロントパネル121には、筐体110内に室内空気を取り込むためのフィン状に形成されたグリルが備えられている。また、筐体110の上面に位置する上面パネル122についても、筐体110内に室内空気を取り込むためのフィン状に形成されたグリルが備えられている。
【0029】
破線にて示される分割部Dの下側に位置する導風板123は、例えば、運転停止時での位置であって、メインフロントパネル121の壁面と自らの壁面とが連続する状態でフロントパネル120の一部として格納されている。そして、この導風板123は、運転開始に合わせて回転軸111を中心に回動することが可能とされる。より詳細には、分割部Dに位置する導風板123の上端部は回動動作における自由端であり、フロントパネル120の一部として導風板123が位置している状態であれば、導風板123の下端部に回転軸111が設けられている。従って、導風板123は、実線の矢印に示すように回動することが可能とされ、回動によって吹出口Bの近傍に配置されることになる。
また、導風板123の回転軸111の位置を筐体110側から特定すると、筐体110に形成された吹出口Bの開口する上部に位置している。」(段落【0027】?【0029】)

ス.「【0039】
以上説明した本実施形態における室内ユニット100によれば、吹出口Bから送風される空気を室内の要所とされた位置、特に暖房運転時での床面に確実に到達させることができる。そして、暖房運転時での温風を室内の上方に浮き上がらせることもなくなり、吹き出された空気がすぐに吸い込まれるような問題を回避することができる。また、制御装置が判断する運転状況、例えば、風量や吹出温度に応じて導風板123の回動位置を自動変更することもでき、空気の吹き出し方向が適宜変更されることで運転に適した吹き出し方向が導かれ、且つ、送風する空気を目標とする位置に的確に到達させることができる。
従って、ユーザが要求する室内空気の調和を確実に得る空気調和機の室内ユニットを実現することができる。」(段落【0039】)

(5)本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-34153号公報(以下「周知刊行物4」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。

セ.「【0061】すなわち、上記室内ユニットは、吹出口3と吸込口6aとが、かなり近くで隣合っているので、暖房運転時、冷房運転時の際、吹出口3から吹出された吹出空気の一部が、再び吸込口6aから吸込まれてしまうという現象、いわゆるショートサーキットが発生しやすい傾向があるが、開いたパネル8でなされる吹出流と吸込流との相互間の規制により、吹出流が吸込流と干渉しなくなるから、上記ような現象は起きずにすむ。これは、特に暖房運転時の下吹出特性の向上に大きく貢献する。」(段落【0061】)

(6)本願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-285629号公報(以下「周知刊行物5」という。)には、図7と共に、以下の記載がある。

ソ.「【0047】
<可動パネル57の動作>
運転開始に先立ち、モータ10aが回転し、ワイヤ10bが巻き取られ、第1可動パネル58と、第2可動パネル59との自由端がケーシング下部4内部へ引き上げられる。これによって、第1可動パネル58が、左端58aを軸にして、反時計方向に回転する。同様に、第2可動パネル59が、右端59aを軸にして、時計方向に回転する。」(段落【0047】)

(7)本願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-292327号公報(以下「周知刊行物6」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。

タ.「【0025】
<可動パネル移動機構4の構成>
可動パネル移動機構4は、図4に示すように、可動パネル3を第1位置Iと第2位置IIとの間を移動させる機構である。可動パネル移動機構4は、例えば、ステップモータ13と、ステップモータ13の駆動力を可動パネル3に伝達する駆動力伝達機構14とから構成されている。駆動力伝達機構14としては、例えば、ステップモータ13の回転駆動力をスライド部材11の往復駆動力へ変換して駆動力の伝達を行なうための機構、具体的には、ラックとピニオンとからなる機構、またはケーブルとプーリとからなる機構などが採用される。」(段落【0025】)

(8)当審における拒絶理由において引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-264602号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。

チ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は空気調和機に関し、さらに詳しく言えば、例えば室内の天井に据え付けられる比較的大型の天井吊り下げ型室内ユニットにおける風向板駆動手段の取付構造および大型室内ユニットに好適な風向板に関するものである。」(段落【0001】)

ツ.「【0083】ヒンジ板311は、フラップ30の水平回転軸線X上に位置する回転軸313を有するとともに、梁部材312を介して本体基板31の幅方向Wに掛け渡されている。本体基板31の裏面は、中央のヒンジ板311にて見掛け上2つに分割された状態となっているため、それに対応して、本体基板31の裏面には2枚の裏面カバー32,32が取り付けられるようになっている。
【0084】裏面カバー32,32は同一構成であり、図14を併せて参照すると、本体基板31と裏面カバー32,32の各対向面のほぼ中央部には、弾性的に係合して両者を結合する係合手段33が設けられている。この実施例において、係合手段33は本体基板31側に形成された矢尻状係止爪324と、裏面カバー32側に形成された矢尻状係止爪321とからなり、いわゆるワンタッチ的な操作で結合することができる。」(段落【0083】?【0084】)

テ.図1、14には、下面が常に外部に露出している本体基板31の下面が常に外部に露出していること、及び上記本体基板31の上面を裏面カバー32が覆っていることが図示されている。

以上の事項を総合すると、刊行物2には、天井吊り下げ型室内ユニットにおける風向板に関する発明として、次の発明(以下「刊行物2記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「下面が常に外部に露出している本体基板31と、上記本体基板31の上面を覆う裏面カバー32にて構成されたフラップ30。」

(9)当審における拒絶理由において引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である実公平3-11655号公報(以下「刊行物3」という。)には、第2図と共に次の記載がある。

ト.「以下、本考案に係る空気調和機の2つの実施例を第2図及び第3図に基づいて説明すると、第2図には第1図に示す天井埋込型の室内機1の空気吹出口5近傍(Aで示される)が拡大図示されている。この室内機1は、天井10を貫通して上方から下方に床面方向に向けて延びる下降空気通路4aと該下降空気通路4aの下端部から天井面に沿つて水平方向に延びる水平空気通路4bよりなる空気通路4を有しており、この水平空気通路4bの開口端を空気吹出口5としている。この空気吹出口5の上端部5aには、風向き調整用の片持ちレバー状の偏向翼6が、その後端6b側を軸として上下方向に所定角度(例えば30゜,45゜,60゜等)回動自在に取付けられており、先端部6aの上下動により適宜その傾斜角を調整し得るようになつている。」(第3欄第34行?第4欄第5行)

ナ.図2には偏向翼6が、後方から前方に向かって厚みが細くなっており、後端6b部を中心に回動するものとして図示されている。

以上の事項を総合すると、刊行物3には、空気調和機の偏向翼に関する発明として次の発明(以下「刊行物3記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「後方から前方に向かって厚みが細くなっており、後端部を中心に回動し、風向きを調整する偏向翼6。」

4.発明の対比
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明における「室内機本体2下面に装着されたパネル10」は本願発明における「本体の下面」に相当し、以下同様に、「設けられている」は「形成された」に、「吸込口6」は「吸込口(20a)」に、「空気」は「空調空気」に、「空気調和機」は「空調室内機」に、「配設され」は「搭載され」に、各々相当する。

また、刊行物1記載の発明における「パネル10に設けられている前記吸込口6の周囲に配された四つの吐出口9」も本願発明における「単一の空気吹出口(20b)」も共に「空気吹出口」といえ、同様に、「近傍に配設され」も「近傍に吊り部材(71)を介して吊られ」も共に「近傍に配設され」と、「一対の開閉ダンパ10c、10c」も「空調室内機の可動パネル」も共に「空調室内機の可動パネル」と、「常に外部に露出する下面を備え」も「下面が常に外部に露出しているパネル本体(241)と、を備え」も共に「下面が常に外部に露出している下面部分を備え」と、「運転時には、各々吐出口9に近い後方端部を中心にして前方端部が下方に降下するように回動し、前記吸込口6を開く」も「運転時には後方端部を中心にして前方端部が下方に降下するように回動し、前記空気吸込口(20a)を開く」も共に「運転時には(空気吹出口に近い)後方端部を中心にして前方端部が下方に降下するように回動し、前記空気吸込口を開く」といえる。

よって、両者の一致点、相違点は、次のとおりである。

(一致点)
本体の下面だけを天井面に露出させ、前記下面に形成された単一の空気吸込口から空気を吸い込み、前記下面に形成された空気吹出口へ空調空気を吹き出す天井埋込型の空調室内機に搭載され、前記空気吸込口の近傍に配設され、前記空気吸込口の開閉を行う空調室内機の可動パネルであって、
下面が常に外部に露出している下面部分を備え、
運転時には(空気吹出口に近い)後方端部を中心にして前方端部が下方に降下するように回動し、前記空気吸込口を開く、
空調室内機の可動パネル。

(相違点1)
空気吹出口が、本願発明においては「単一の空気吹出口」であるのに対し、刊行物1記載の発明においては「吸込口6の周囲に配された四つの吐出口9」である点。

(相違点2)
運転時に「単一の空気吸込口を(空気吹出口に近い)後方端部を中心にして前方端部が下方に降下するように回動し、前記空気吸込口を開く可動パネル」が、本願発明においては「単一の可動パネル」であるのに対し、刊行物1記載の発明においては「一対の開閉ダンパ10c、10c」である点。

本願発明においては可動パネルが「単一の可動パネル」である旨の明文の記載はないが、「単一の空気吹出口(20b)に近い後方端部を中心にして回動し、単一の空気吸込口(20a)の開閉を行う」ものであるので、「単一の可動パネル」であるものと解し、相違点2とした。

(相違点3)
可動パネルの配設、駆動機構が、本願発明においては「吊り部材(71)を介して吊られ、前記吊り部材(71)の動作によって」と特定されているのに対し、刊行物1記載の発明においては駆動が「モータにより制御されて」とされているのみで、詳細は不明な点。

(相違点4)
可動パネルの構造が、
本願発明においては
「下面が常に外部に露出しているパネル本体(241)と、
前記パネル本体(241)の上面を覆うパネルカバー(247)と、
を備え、
前記空気吹出口(20b)に近い後方から前方に向って厚みが細くなっており」
と特定されているのに対し、
刊行物1記載の発明においては
「常に外部に露出する下面を備え」
とされているのみで、詳細は不明な点。

5.当審の判断
(相違点1について)
刊行物1記載の発明において、空気吹出口として「吸込口6の周囲に配された四つの吐出口9」としている理由は、部屋の天井中央に設けられた場合、空調機の四方向(四周)に均一に風を吹き出すことを可能とするためと解される。

しかし天井埋込型の空調室内機の設置位置は必ずしも天井中央とは限らず、設置位置、及び、部屋の大きさ、必要な風向きによっては、天井埋込型の空調室内機「吹出口」の数を一つ(単一)とすることも、従来より周知の技術手段である。[例えば、特公昭62-62262号公報(吹出口9)、特開平6-221611号公報(吹出口11)参照。]

よって、刊行物1記載の発明において、空気吹出口を「吸込口6の周囲に配された四つの吐出口9」に代え「単一の空気吹出口」とすることは、天井埋込型の空調室内機の設置位置、部屋の大きさ、必要な風向き等を考慮して、当業者が、通常の創作能力の範囲内で適宜なし得た事項である。

(相違点2について)
空気調和機の室内機においては、従来よりデザイン性が重視され(摘記事項キ、サ参照)、停止時おいて空気調和機内部を見えなくするために、「単一の空気吹出口に近い後方端部を中心にして回動し、空気吸込口の開閉を行う単一の可動パネル」を設けることは、周知刊行物1?4記載のように、従来より周知の技術手段である。

かつ、この技術手段が、室内型空気調和機の一種である「天井埋込型の空調室内機」にも適用可能であることは、周知刊行物1に「実施例における室内ユニットは、グリル3の前面部を除き全体を天井内,壁内等に埋込むいわゆるビルトイン形とすれば、一層活居内のインテリア性を高めることができる。」と記載されているように、当業者に、自明の事項である。

よって、刊行物1記載の発明において「単一の空気吸込口を(空気吹出口に近い)後方端部を中心にして前方端部が下方に降下するように回動し、前記空気吸込口を開く」可動パネルを「単一の可動パネル」として構成することは、上記周知の技術手段に倣って、当業者が、容易に想到し得た事項である。

(相違点3について)
天井設置型の空調室内機の吸い込み口を開閉する可動パネルの配設、駆動機構として「吊り部材」を用いることは、例えば、周知刊行物5(摘記事項ソ、ワイヤ10b)、刊行物4(摘記事項タ、ケーブル)記載のように、ラック、ピニオン等と同様、従来より周知の技術手段である。

よって、刊行物1記載の発明において、可動パネルの配設、駆動機構として、吊り部材を採用することは、当業者が、上記周知の技術手段に倣って、容易に想到し得た事項である。

(相違点4について)
まず、パネル本体、パネルカバーの二体構造につき検討する。

流体通路において凹凸部が存在すると気流が乱れ騒音・振動等の原因となることは周知の事項であり、この解決のため、凹凸部を有する部材をカバー部材で覆って流れを平滑なものすることは、流体機械の技術分野において、従来より慣用されている技術手段(以下「慣用技術」という。)である。

また、刊行物2記載の発明と本願発明を対比すると、刊行物2記載の発明における「本体基板31」は本願発明における「パネル本体(241)」に相当し、以下同様に、「裏面カバー32」は「パネルカバー(247)」に、「フラップ30」は「可動パネル」に、各々相当する。

よって、流路の平滑さを要求される空気調和機のフラップに関する発明である刊行物2記載の発明は、次のように言い換えることができる。

「下面が常に外部に露出しているパネル本体と、上記パネル本体の上面を覆うパネルカバーにて構成された可動パネル。」

よって、刊行物1記載の発明における「常に外部に露出する下面を備えた可動パネル(可動ダンパ)」の構造を、騒音、振動等の発生を防止するため、カバーで覆った二重構造として「下面が常に外部に露出しているパネル本体と、上記パネル本体の上面を覆うパネルカバーにて構成された可動パネル。」とすることは、上記慣用技術及び刊行物2記載の発明に倣って、当業者が、容易に想到し得た事項である。

次に、可動パネル形状につき検討する。

流路内に設けられる流れ方向調整部材や流量調整部材は、その設置場所(吸込口、吐出口等)によらず、いずれに配置されるものであっても、要求される流れ方向、流量を実現するように、適宜、その形状(翼形状:平板翼、対称翼、レバー状等)が、決定されるべきものであることは、流体機械の技術分野における技術常識である。

また、刊行物3記載の発明と本願発明を対比すると、刊行物3記載の発明における「偏向翼6」が本願発明における「可動パネル」に相当するものであるので、刊行物3記載の発明は、次のように言い換えることができる。

「後方から前方に向かって厚みが細くなっており、後方端部を中心に回動し、流れ方向を調整する可動パネル。」

よって、刊行物1記載の発明において、上記慣用技術及び刊行物2記載の発明を適用するに際して、可動パネルの形状を「後方から前方に向って厚みが細くなった」ものとすることは、上記技術常識を踏まえ、刊行物3記載の発明に倣って、当業者が、容易に想到し得た事項である。

さらには、本願発明により得られる効果も、刊行物1?3記載の発明及び上記周知の技術手段、技術常識から、当業者であれば、予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。

なお、請求人は、平成24年4月19日付け意見書にて、次のように本願発明のショートサーキット発生阻止の効果を主張している。

「可動パネルは空気吹出口に近い後方から前方に向って厚みが細くなっており、運転時には後方端部を中心にして前方端部が下方に降下するように回動して空気吸込口を開くので、後端が空気吹出口と空気吸込口とを結ぶ最短経路上に突出します。吹出空気は、空気吸込口の吸い込み圧力に引かれて空気吸込口へ向かおうとしますが、その経路上に突出した可動パネルの後方端部によって行く手が塞がれます。つまり、可動パネルの後方端部は、ショートサーキットの発生を阻止する遮蔽板の機能を果たします。
さらに、可動パネルは空気吸込口を開けるとき、空気吹出口から遠い側を大きく開けるので、空気吸込圧が強力になった場合でも空気吹出口と反対位置にある側の空気を吸い込むので、吹出空気が空気吹出口に吸い込まれるショートサーキットの発生の可能性は極めて低いといえます。

他方、引用発明については、刊行物1-10のうちの刊行物2に記載の発明だけが、空気を単一の吸込口から吸い込んで空調された空気を単一の吹出口へ吹き出す空調室内機に関する発明です。しかし、刊行物2の空調室内機は天井埋込型でなはなく、さらには吸込口の開閉機能はありません。また、刊行物2のような常時開放型の空気吸込口と空気吹出口とが一定の距離を隔てて隣接している場合、吹出空気が空気吸込口の吸い込み圧力に引かれて空気吸込口に吸い込まれ、ショートサーキットが発生する恐れがあります。
つまり、刊行物1-10の記載の発明を組合せても、ショートサーキット発生の懸念は解消されません。」(意見書第4頁44行?第5頁第13行)

しかしながら、吸込口、吹出口が隣接することが多い空気調和機においては、空調性能を維持するために「ショートサーキット発生を阻止する」ことは、従来より周知の技術的課題であり、刊行物1にもかかる課題は記載されている(摘記事項エ参照)。

また、刊行物1(審決注:当審拒絶理由では刊行物7として引用)記載の発明においても空気調和機の「開閉ダンパ10c」は「運転時には吐出口9に近い後方端部を中心にして前方端部が下方に降下するように回動し、前記吸込口6を開く」ものであるため、この部分では、本願発明同様「ショートサーキット発生を阻止」しているものと解される。

さらに、相違点2の項で検討したように、可動パネルを「単一の空気吹出口に近い後方端部を中心にして回動し、空気吸込口の開閉を行う単一の可動パネル」とすることは、室内型空気調和機の技術分野において従来より周知の技術手段であり、この周知の技術手段を刊行物1に適用することは、当業者が容易に想到し得た事項である。かつ、この周知の技術手段が、同時に、ショートサーキット発生を阻止する効果を有することは、当業者に自明な事項である(摘記事項ケ、サ、ス、セ参照)。

したがって、請求人の上記主張は採用できない。

6.結び
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1?3記載の発明及び上記周知の技術手段、技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-18 
結審通知日 2012-05-22 
審決日 2012-06-07 
出願番号 特願2008-144529(P2008-144529)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 直欣  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 長崎 洋一
前田 仁
発明の名称 空調室内機の可動パネル  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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