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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02B
管理番号 1260630
審判番号 不服2010-16051  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-16 
確定日 2012-07-25 
事件の表示 特願2000-595038「二行程式内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 7月27日国際公開、WO00/43650、平成14年10月22日国内公表、特表2002-535546〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明
本願は、2000年1月14日(パリ条約による優先権主張1999年1月19日、スウェーデン)を国際出願日とする出願であって、平成13年7月19日付けで特許法第184条の4第1項に規定する明細書及び要約の翻訳文が提出され、平成21年8月7日付けで拒絶理由が通知され、平成22年2月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年3月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年7月16日付けで拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において平成23年6月20日付けで拒絶理由が通知され、平成23年12月21日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

そして、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年12月21日付けの手続補正書により補正された明細書及び国際出願日における図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】 ピストンに設けられた流路が新気用の空気入口(2)と多数の移送ダクト(3、3’)の上部との間に配置されている、吸気ポート(23)を通した空燃混合物の吸気期間を有するクランクケース掃気型二行程式内燃機関において、
前記空気入口には、例えばキャブレタのスロットル制御などの少なくとも一つの機関パラメータによって制御される制限弁(4)が設けられており、前記空気入口は、機関のシリンダ壁(12)内の少なくとも一つの接続ポート(7、7’;8、8’)に少なくとも一つの接続ダクト(6、6’)を介して延びており、前記少なくとも一つの接続ポート(7、7’;8、8’)は、上死点のピストンの位置と関連して、ピストン(13)中に埋め込まれている流路(9、9’)と接続され、多数の移送ダクト(3、3’)の上部へ延びるように前記接続ポート(7、7’)が配置され、クランク角又は時間で数えられる、空燃混合物の吸気期間と本質的に等しい期間又は空燃混合物の吸気期間より長い期間だけ新気の空気供給がされるように、各移送ダクトポート(31、31’)に合う、ピストンに設けられた流路の一形態の凹所(9、9’、10、10’)が配置されており、
前記各移送ダクトポート(31、31’)に合う、前記ピストンに設けられた前記凹所(9、9’、10、10’)は、前記各移送ダクトポート(31、31’)の高さの1.5倍よりも大きい軸線方向高さを前記ポート(31、31’)において局所的に有することを特徴とするクランクケース掃気型二行程式内燃機関(1)。」


第2 引用文献
平成23年6月20日付けで当審において通知した拒絶理由で引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第98/57053号(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。なお、下線は理解の一助のために当審にて付した。

(a)「 技 術 分 野
本発明は、層状掃気2サイクルエンジンに関し、特には、混合気と、掃気のための空気とを分けて吸気するように構成した層状掃気2サイクルエンジンに関する。」(第1ページ第3ないし6行)

(b)「 背 景 技 術
従来のこの種の層状掃気2サイクルエンジンは、シリンダ室とクランク室とを接続する掃気流路を有し、混合気を供給する混合気流路がクランク室に接続され、空気を供給する空気流路が掃気流路に接続されている。そして、シリンダ室には、掃気流路の掃気ポートが開口しているとともに、排気管の排気ポートが開口している。また、上記空気流路には、掃気流路側への空気の流れのみを許容する図12に示すリードバルブ(逆止弁)80が設けられている。
上記のように構成された層状掃気2サイクルエンジンにおいては、ピストン3が上昇することによって、クランク室20内の圧力が低下し始めるとともに、シリンダ室10の圧力が上昇し始め、また、ピストン3の上昇により掃気ポート81及び排気ポートが順次閉じている。この際、圧力の低下したクランク室20内には、混合気が流入するとともに、空気流路83からリードバルブ80を押し開き、掃気流路85を通って空気が流入している。
そして、ピストン3が上死点付近に達すると、シリンダ室10内の混合気に点火された後、ピストン3が下降することになる。ピストン3が下降することによって、クランク室20内の圧力が上昇し始めるとともに、ピストン3の下降の途中で排気ポート及び掃気ポート81が順次開き、まず排気ポートから燃焼ガスが排出される。次に、掃気ポート81が開くと、まず掃気流路85内に溜まっていた空気がクランク室20内の圧力によってシリンダ室10内に噴出する。これにより、シリンダ室10内に残っている燃焼ガスが追い出されることになる。次いでクランク室20内の混合気が掃気流路85を通ってシリンダ室10内に充填される。そしてまた、ピストン3が下死点から上昇し始めると、クランク室20内の圧力が低下し始め、前述したようなサイクルを再び繰り返すことになる。
上記のように構成された層状掃気2サイクルエンジンによれば、まず空気によってシリンダ室10内を掃気することができるから、混合気の吹き抜けによって未燃焼ガスが排出されるのを防止することができ、排気ガスが綺麗になるという利点がある。」(第1ページ第7行ないし第2ページ第9行)

(c)「本発明は、上記の問題点に着目してなされたものであり、混合気と、掃気のための空気とを分けて吸気するとともに、掃気流路内を空気で充満させて混合気の大気中への排出をなくし、かつ、空気の吸入抵抗を低減することができ、部品点数の低減を図って安価な層状掃気2サイクルエンジンを提供することを目的としている。
上記の目的を達成するために、本発明に係る層状掃気2サイクルエンジンは、エンジンのシリンダ室に接続する空気用吸気ポート、掃気ポート、および排気ポートと、クランク室に接続する混合気用吸気ポートと、シリンダ室とクランク室とを接続する掃気流路とを備える層状掃気2サイクルエンジンにおいて、シリンダの軸線方向で、掃気ポートよりも所定距離だけクランク室側の位置に空気用吸気ポートに設けるとともに、ピストンを介して掃気ポートと空気用吸気ポートとを接続し、吸入行程の際に、空気用吸気ポートから掃気ポートを経て掃気流路に空気を供給することを特徴とする。
かかる構成によれば、空気用吸気ポートはシリンダ室に、混合気用吸気ポートはクランク室に、それぞれ分けて接続し、かつ、シリンダ室とクランク室とを接続する掃気流路に、ピストンを介して空気を供給するように構成しているから、吸入行程の際に掃気流路内の少なくともシリンダ室側を空気で充満させることができる。また、空気用吸気ポートが掃気ポートよりも所定距離だけクランク室側の低い位置にあけられているため、掃気行程の際に、ピストンの頂部が掃気ポートを開口したとき、既に空気用吸気ポートが閉じているので、空気あるいは混合気が空気流路に逆流することがなくなり、リードバルブが不要になっている。
したがって、掃気流路内の空気で、掃気行程においては、まず空気によってシリンダ室の燃焼ガスを掃気することができ、混合気が大気中に流出することがなくなる。また、空気を掃気流路に吸入させるためのリードバルブが不要であるから、空気の吸入抵抗を低減することができるとともに、部品点数の低減を図ることができる。
また、ピストンは外周に溝を有し、溝は、吸入行程の際に、掃気ポートと空気用吸気ポートとを接続し、かつ、混合気用吸気ポートと掃気ポートとが非接続とすることを特徴とする。
かかる構成によれば、吸入行程において、混合気用吸気ポートと掃気ポートとが非接続となっているため、掃気流路に混合気が溜まることがなくなり、掃気流路は空気によって充満することができる。
したがって、掃気行程において、掃気流路内の空気でシリンダ室の燃焼ガスを掃気することができ、混合気が大気中に流出することがなくなる。
また、混合気用吸気ポートは、ピストンにより開閉されることを特徴とする。
かかる構成によれば、掃気行程において、ピストンの頂部が掃気ポートを開口したとき既に混合気用吸気ポートが閉じているので、混合気が混合気流路に逆流することがなくなり、リードバルブを不要にすることができる。
また、混合気をクランク室に供給するためのリードバルブが不要であるから、部品点数の低減を図ることができる。」(第2ページ第21行ないし第4ページ第7行)

(d)「以下、この発明の実施の形態を図1?図11を参照して説明する。まず、この第1実施例の形態で示す層状掃気2サイクルエンジンを、図1?図6に示す。図において、シリンダ1の下側にはクランクケース2が設けられている。シリンダ1には、ピストン3が摺動自在で、かつ、枢密に挿入されて設けられており、このピストン3はコネクティングロッド41を介してクランクケース2内のクランク42に連結されている。そして、シリンダ1内におけるピストン3の上側の容積が変化する空間部分がシリンダ室10になっており、ピストン3の下側のシリンダ1及びクランクケース2によって囲まれた空間部分がクランク室20になっている。(中略)
シリンダ1及びクランクケース2には、図3に示すように、シリンダ室10とクランク室20とを接続する掃気流路50が2つ設けられている。そして、シリンダ室10(シリンダ1の内周面)には、掃気流路50が掃気ポート51として開口している。また、シリンダ1の内周面には、空気用吸気ポート11及び混合気用吸気ポート12が設けられている。この空気用吸気ポート11及び混合気用吸気ポート12は、図5に示すように、シリンダ1の軸線方向に沿って所定距離Laだけ離れて上下に並べられている。また、空気用吸気ポート11の開口している位置は、シリンダ1の軸線方向で、掃気ポート51の開口している位置よりも所定距離Lbだけ低い位置に設けられている。掃気ポート51の開口している位置は、図4に示すように円周方向で、それぞれ90度の角度だけズレた位置に2個設けられている。(中略)
空気用吸気ポート11は、ピストン3の移動によって開閉し、同ピストン3の外周に形成された溝(通路)30への接続、遮断がなされるようになっている。この溝30は、図4の平面図及び図5の側面図で示すごとく、側面視でT字形状でピストン3の外周に形成され、平面視で所定の深さで、かつ、ピストン3の外周にほぼ半円周に形成されている。
ピストン3の外周に形成されたT字形状の溝30は、掃気ポート51よりも所定距離Lbだけ低い位置にあけられている空気用吸気ポート11を接続し、吸入行程の際に、空気用吸気ポート11と 2つの掃気ポート51とを接続し、これにより空気が空気用吸気ポート11、溝30、および2つの掃気流路50を通ってクランク室20内に吸入(実線の矢印Yで示す)されるのを許容するようになっている。掃気行程の際に、空気用吸気ポート11が掃気ポート51よりも所定距離Lbだけクランク室20側の低い位置にあけられているため、ピストン3の頂部が掃気ポート51を開口したときに既に空気用吸気ポート11が閉じている。このため、従来ではリードバルブ80により逆流を防止していたが、本発明では、ピストン3が空気用吸気ポート11を閉じ、空気あるいは混合気が空気流路に逆流するのを防止しているので、リードバルブ80が不要になる。さらに、T字形状の溝30が下方の混合気用吸気ポート12に開口するときには、掃気ポート51の開口して幅Baが空気用吸気ポート11及び混合気用吸気ポート12の離間している所定距離Laよりも小さいため、図6に示すように、溝30の端部30aは掃気ポート51に接続せずに、掃気ポート51はピストン3により閉じられている。したがって、吸入行程の際に、混合気が溝30を通って掃気流路50に流れ込むことはない。上記のように、溝30は、上記掃気行程の際に、空気用吸気ポート11と2つの掃気ポート51との接続を断つ状態(図6でピストン3が若干下がった位置の状態)になるようになっている。これにより、空気が空気用吸気ポート11側に逆流するのを防止するとともに、混合気用吸気ポート12は、掃気ポート51との接続を断つ状態になるようになっている。
上記において、上記空気用吸気ポート11と溝30によって、掃気流路50に空気を供給する空気流路が構成されている。
混合気用吸気ポート12は、シリンダ1の内周面にほぼ長方形形状に形成され、ピストン3のスカート部によって開閉するようになっており、ピストン3が上昇してクランク室20内の圧力が低くなる吸入行程の際に開いて、混合気がクランク室20内に吸入(点線の矢印Wで示す)されるのを許容し、ピストン3が下降してクランク室20内の圧力が高くなる掃気行程の際に閉じて、混合気がキャブレター側に吹き返されるのを防止するようになっている。」(第5ページ第8行ないし第7ページ第14行)

(e)「上記のように構成された層状掃気2サイクルエンジンにおいては、ピストン3が下死点(図6に示す位置の近傍)から上昇することによって、クランク室20の圧力が低下し始めるとともに、シリンダ室10の圧力が上昇し始め、掃気ポート51及び排気ポート13が順次閉じる。そして、この際に図5に示すように上死点の下方の近傍の位置で、空気用吸気ポート11が溝30及び掃気ポート51を介して掃気流路50に接続された状態になるとともに、混合気用吸気ポート12が開口してクランク室20に接続された状態になる。このため、空気が空気用吸気ポート11から溝30及び掃気流路50を通ってクランク室20内に吸入される。この際、掃気流路50に溜まっていた混合気は空気によってクランク室20内に押し流され、掃気流路50内は空気が充満した状態になる。
そして、さらにピストン3が上昇し、ピストン3が上死点付近に達するとシリンダ室10内の混合気に点火され爆発し、ピストン3が下降を始めることになる。そうすると、クランク室20の圧力が上昇し始めるとともに、溝30が空気用吸気ポート11及び掃気ポート51に対して遮断された状態になり、かつ混合気用吸気ポート12がピストン3によって閉じた状態になるとともに、下降してクランク室20の圧力が上昇する。」(第7ページ第20行ないし第8ページ第8行)

(f)「次ぎに、この発明の第3実施例を図10を参照して説明する。ただし、上記第1実施例の構成要素と共通する要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。この第3実施例が第1実施例と異なる点は、第1実施例では空気用吸気ポート11と混合気用吸気ポート12とが上下に配列していたが、第3実施例では、空気用吸気ポート11が配管によって構成されており、その空気用吸気ポート11の位置が掃気ポート51の開口している位置よりも所定距離Lbだけ低い位置にあり、かつ、ピストン3の外周に沿って左右に延在する溝30に接続されるようになっている。したがって、空気用吸気ポート11の位置は円周方向に任意の位置に設けることができる。
上記のように構成された層状掃気2サイクルエンジンにおいても、上記第1実施例と同様の作用効果を奏する。」(第10ページ第2ないし12行)

(g)「上記のように構成された層状掃気2サイクルエンジンにおいては、掃気ポート51にピストン3の溝30を介して空気を供給することができるから、掃気流路50内の少なくともシリンダ室10側を空気で充満させることができる。好ましくは、掃気流路50内、あるいは掃気流路50に接続するシリンダ室10の一部を空気によって満たして燃焼ガスを掃気すると良い。したがって、掃気行程においては、まず空気によってシリンダ室10の燃焼ガスを掃気することができ、従来のリードパルブ80を用いていたときのように掃気流路50内に留まっていた混合気の排出を防止することができる。」(第10ページ第22行ないし第11ページ第2行)

(h)「 産業上の利用可能性
本発明は、混合気と、掃気のための空気とを分けて吸気し、混合気の大気中への排出をなくし、かつ、空気の吸入抵抗を低減することができ、部品点数の低減を図って安価な層状掃気2サイクルエンジンとして有用である。」(第11ページ第9ないし12行)

上記(a)ないし(h)及び図面から、次のことが分かる。

(ア)上記(a)ないし(h)及び図面から、引用文献には、混合気と、掃気のための空気とを分けて吸気するように構成した層状掃気2サイクルエンジンが記載されていることが分かる。

(イ)上記(a)ないし(h)及び図面から、引用文献に記載された層状掃気2サイクルエンジンは、ピストン3に設けられた通路(溝)30が新気用の空気入口と2つの掃気流路50の上部との間に配置されている、混合気用吸気ポート12を通した混合気の吸気期間を有するクランク室掃気型2サイクルエンジンであることが分かる。

(ウ)上記(a)ないし(h)及び図面から、引用文献に記載された層状掃気2サイクルエンジンにおいて、前記空気入口は、エンジンのシリンダ1壁内の少なくとも一つの空気用吸気ポート11に少なくとも一つの接続管を介して延びており、前記少なくとも一つの空気用吸気ポート11は、上死点のピストンの位置と関連して、ピストン3の外周に形成された通路(溝)30と接続され、2つの掃気流路の上部へ延びるように前記空気用吸気ポート11が配置されていることが分かる。

(エ)上記(e)及び図面から、引用文献に記載された層状掃気2サイクルエンジンにおいて、ピストン上昇時に、空気用吸気ポート11が掃気流路50に接続された状態になるタイミングと混合気用吸気ポート12がクランク室20に接続された状態になるタイミングとはほぼ同じであり、ピストン下降時に、空気用吸気ポート11と混合気用吸気ポート12とが閉じた状態になるタイミングがほぼ同じであることが分かる。したがって、混合気の吸気期間と、空気が供給される期間とはほぼ同じであるように、各掃気ポートに合う、ピストン3に設けられた通路30の一形態である溝30が配置されていることが分かる。すなわち、クランク角又は時間で数えられる、混合気の吸気期間とほぼ同じ期間だけ新気の空気供給がされるように、各掃気ポート51に合う、ピストン3に設けられた通路30の一形態である溝30が配置されていることが分かる。

(オ)上記(a)ないし(h)及び図面(特にFIG.3を参照。)から、引用文献に記載された層状掃気2サイクルエンジンにおいて、前記各掃気ポート51に合う、前記ピストン3に設けられた前記溝30は、前記各掃気ポート51それぞれの高さより大きい軸線方向高さを前記掃気ポート51において局所的に有することが分かる。

上記(a)ないし(h)及び(ア)ないし(オ)並びに図面から、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載の発明」という。)が記載されているといえる。

「ピストン3に設けられた通路30が新気用の空気入口と2つの掃気流路50の上部との間に配置されている、混合気用吸気ポート12を通した混合気の吸気期間を有するクランク室掃気型2サイクルエンジンにおいて、
前記空気入口は、エンジンのシリンダ1壁内の少なくとも一つの空気用吸気ポート11に少なくとも一つの配管を介して延びており、前記空気用吸気ポート11は、上死点のピストン3の位置と関連して、ピストン3の外周に形成された通路30と接続され、2つの掃気流路50の上部へ延びるように前記空気用吸気ポート11が配置され、クランク角又は時間で数えられる、混合気の吸気期間とほぼ同じ期間だけ新気の空気供給がされるように、各掃気ポート51に合う、ピストン3に設けられた通路30の一形態である溝30が配置されており、
前記各掃気ポート51に合う、前記ピストン3に設けられた前記溝30は、前記各掃気ポート51それぞれの高さよりも軸線方向高さを前記掃気ポートにおいて局所的に有する、クランク室掃気型2ストローク内燃機関。」


第3 対比・判断
1 本願発明と引用文献記載の発明との対比
本願発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「(ピストン3に設けられた)通路30」は、その機能・構造又は技術的意義からみて、本願発明における「(ピストンに設けられた)流路」に相当し、以下同様に、「(2つの)掃気流路50」は「(多数の)移送ダクト(3,3’)」に、「混合気用吸気ポート12」は「吸気ポート(23)」に、「混合気」は「空燃混合物」に、「クランク室20」は「クランクケース」に、「エンジン」は「内燃機関」及び「機関」に、「空気用吸気ポート11」は「接続ポート(7、7’;8、8’)」に、「配管」は「接続ダクト(6、6’)」に、「ピストン3の外周に形成された流路30」は「ピストン(13)に埋め込まれている流路(9、9’)」に、「掃気ポート51」は「移送ダクトポート(31、31’)」に、「(ピストン3に設けられた通路30の一形態である)溝30」は「(ピストンに設けられた流路の一形態の)凹所(9、9’;10、10’)」に、それぞれ相当する。
また、引用文献記載の発明における「クランク角又は時間で数えられる、混合気の吸気期間とほぼ同じ期間」は、「クランク角又は時間で数えられる、空燃混合物の吸気期間と本質的に等しい期間」である限りにおいて、本願発明における「クランク角又は時間で数えられる、空燃混合物の吸気期間と本質的に等しい期間又は空燃混合物の吸気期間より長い期間」に相当する。

したがって、本願発明と引用文献記載の発明とは、
「ピストンに設けられた流路が新気用の空気入口と多数の移送ダクトの上部との間に配置されている、吸気ポートを通した空燃混合物の吸気期間を有するクランクケース掃気型二行程式内燃機関において、
前記空気入口は、機関のシリンダ壁内の少なくとも一つの接続ポートに少なくとも一つの接続ダクトを介して延びており、前記少なくとも一つの接続ポートは、上死点のピストンの位置と関連して、ピストン中に埋め込まれている流路と接続され、多数の移送ダクトの上部へ延びるように前記接続ポートが配置され、クランク角又は時間で数えられる、空燃混合物の吸気期間と本質的に等しい期間だけ新気の空気供給がされるように、各移送ダクトポートに合う、ピストンに設けられた流路の一形態の凹所が配置されており、
前記各移送ダクトポートに合う、前記ピストンに設けられた前記凹所は、前記各移送ダクトポートの高さよりも大きい軸線方向高さを前記ポートにおいて局所的に有する、クランクケース掃気型二行程式内燃機関。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
(1)本願発明においては、「前記空気入口には、例えばキャブレタのスロットル制御などの少なくとも一つの機関パラメータによって制御される制限弁(4)が設けられて」いるのに対し、
引用文献記載の発明においては、空気入口に制限弁が設けられているかどうか明らかではない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)「クランク角又は時間で数えられる、空燃混合物の吸気期間と本質的に等しい期間だけ新気の空気供給がされるように、各移送ダクトポートに合う、ピストンに設けられた流路の一形態の凹所が配置されて」に関して、
本願発明においては、「クランク角又は時間で数えられる、空燃混合物の吸気期間と本質的に等しい期間又は空燃混合物の吸気期間より長い期間だけ新気の空気供給がされるように、各移送ダクトポート(31、31’)に合う、ピストンに設けられた流路の一形態の凹所(9、9’、10、10’)が配置されて」いるのに対し、
引用文献記載の発明においては、本願発明の「クランク角又は時間で数えられる、空燃混合物の吸気期間と本質的に等しい期間だけ新気の空気供給がされるように」に相当する「クランク角又は時間で数えられる、混合気の吸気期間とほぼ同じ期間だけ新気の空気供給がされるように」、本願発明の「各移送ダクトポート(31、31’)」に相当する「掃気ポート51」に合うように、本願発明の「ピストンに設けられた流路の一形態の凹所(9、9’、10、10’)」に相当する「ピストン3に設けられた通路30の一形態の溝30」が配置されているものの、「クランク角又は時間で数えられる、空燃混合物の吸気期間より長い期間だけ新気の空気供給がされるように」配置されているかどうか明らかではない点(以下、「相違点2」という。)。

(3)「前記各移送ダクトポートに合う、前記ピストンに設けられた前記凹所は、前記各移送ダクトポートの高さよりも大きい軸線方向高さを前記ポートにおいて局所的に有する」に関して、本願発明においては、「前記ピストンに設けられた前記凹所(9、9’、10、10’)は、前記各移送ダクトポート(31、31’)の高さの1.5倍よりも大きい軸線方向高さを前記ポート(31、31’)において局所的に有する」のに対し、
引用文献記載の発明においては、本願発明における「前記ピストンに設けられた前記凹所(9、9’、10、10’)」に相当する「前記ピストン3に設けられた前記溝30」は、本願発明における「前記各移送ダクトポート(31、31’)の高さ」に相当する「前記各掃気ポート51の高さ」よりも大きい軸線方向高さを前記ポートにおいて局所的に有するものの、「前記各移送ダクトポート(31、31’)の高さの1.5倍よりも大きい軸線方向高さ」を有するかどうか明らかではない点(以下、「相違点3」という。)。

2 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
空燃混合物を供給する吸気ポートとは独立して、掃気用の空気入口を設けた二行程式内燃機関において、掃気用の空気入口に、「少なくとも一つの機関パラメータによって制御される制限弁(4)」を取り付けることは、周知技術(以下、「周知技術1」という。例えば、平成23年6月20日付け拒絶理由通知書において引用した特開平10-252565号公報(特に段落【0017】、【0021】及び図面を参照。)、特開昭58-5424号公報(特に第2ページ右上欄第6行ないし右下欄第8行及び図面を参照。)、実願昭57-91944号(実開昭58-193015号)のマイクロフィルム(特に明細書第4ページ第16行ないし第5ページ第2行及び図面を参照。)、特開平9-125966号公報(特に段落【0013】及び図面等の記載を参照。))にすぎない。
してみれば、引用文献記載の発明において、上記周知技術1を適用し、相違点1に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

(2)相違点2について
引用文献記載の発明における「クランク角又は時間で数えられる、混合気の吸気期間とほぼ同じ期間だけ新気の空気供給がされる」は、本願発明における「クランク角又は時間で数えられる、空燃混合物の吸気期間と本質的に等しい期間又は空燃混合物の吸気期間より長い期間だけ空気供給がされる」に含まれるので、相違点2は実質的には相違点ではないとも考えられる。
また、空燃混合物を供給する吸気ポートとは独立して、掃気用の空気入口を設けた二行程式内燃機関において、空燃混合物の吸気期間より長い期間だけ新気の空気供給がされるように設定することは、周知の技術思想(以下、「周知技術2」という。例えば、平成23年6月20日付け拒絶理由通知書において引用した実願昭57-156094号(実開昭59-60352号)のマイクロフィルム(特に明細書第6ページ第1ないし11行及び図面を参照)、特開平10-252565号公報(特に段落【0022】及び図面を参照)、特開昭58-5424号公報(特に第2ページ右上欄第6行ないし右下欄第8行及び図面を参照。))にすぎない。
してみれば、引用文献記載の発明において、上記周知技術2を適用し、相違点2に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

(3)相違点3について
「前記ピストンに設けられた前記凹所は、前記各移送ダクトポートの高さの1.5倍よりも大きい軸線方向高さを前記ポートにおいて局所的に有する」という事項において、「移送ダクトポートの高さの1.5倍よりも大きい軸線方向高さ」という数値範囲には、格別の臨界的意義があるわけではない。また、凹所の高さを、移送ダクトポートの高さの1.5倍より大きい軸線方向高さとすることにより、格別の効果が得られるわけでもない。
(たとえば、本願の【FIG1】に示される実施例において、移送ダクトポート31’の高さを凹所9’の高さの半分になるように設計変更すれば、凹所9’の高さは移送ダクトポート31’の高さの1.5倍より大きい軸線方向高さを有することになるが、それにより格別の効果が得られるわけではない。)
してみれば、引用文献記載の発明において、凹所の高さと移送ダクトポートの高さを適宜設定することにより、相違点3に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

そして、本願発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。


第4 むすび
したがって、本願発明は、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
審理終結日 2012-02-24 
結審通知日 2012-02-28 
審決日 2012-03-12 
出願番号 特願2000-595038(P2000-595038)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 淳  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 川口 真一
金澤 俊郎
発明の名称 二行程式内燃機関  
代理人 青木 篤  
代理人 島田 哲郎  
代理人 鶴田 準一  
代理人 三橋 庸良  
代理人 篠崎 正海  

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