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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 F02K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02K
管理番号 1260645
審判番号 不服2011-5639  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-14 
確定日 2012-07-25 
事件の表示 特願2008-537695「赤外線抑制システム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月10日国際公開、WO2008/041964、平成21年 2月19日国内公表、特表2009-507179〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、2006年(平成18年)7月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2005年(平成17年)8月1日、米国)を国際出願日とする国際特許出願であって、平成20年1月31日付けで国内書面が提出され、同年3月31日付けで明細書、請求の範囲、図面及び要約書の翻訳文がそれぞれ提出され、平成22年6月18日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、同年9月17日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書及び意見書がそれぞれ提出されたが、同年11月9日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、平成23年3月14日付けで拒絶査定不服審判が請求され、当該審判の請求と同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において同年7月26日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、同年11月1日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成23年3月14日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年3月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
平成23年3月14日付けで提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、平成22年9月17日付けで提出された手続補正書により補正された)請求項1ないし10を、下記(2)に示す請求項1ないし8へと補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし10
「 【請求項1】
エンジンの長手方向軸に沿ってエンジン排気流を受ける排気マニホールドであって、機体の内側寄りの機内側部分と、機体の外側寄りの機外側部分と、を有し、ロータ回転軸と直交する排気マニホールド面が前記機内側部分と前記機外側部分とを横切って延びる排気マニホールドと、
前記排気マニホールド面から離れる方向に前記エンジン排気流を向けるように、前記排気マニホールド面の一方の側において前記エンジンの長手方向軸に対して横方向にかつ前記排気マニホールドから外側に延在する高アスペクト比の排気ダクトと、
を備え、
前記アスペクト比は、最大ノズル長さの、最大ノズル幅に対する比として定義され、前記最大ノズル長さは前記排気マニホールドに沿って定義される赤外線抑制システム。
【請求項2】
前記高アスペクト比の排気ダクトが、前記機内側部分と前記機外側部分との間の前記排気マニホールドの底部に対応して前記排気マニホールド面より上方にあることを特徴とする請求項1に記載の赤外線抑制システム。
【請求項3】
前記高アスペクト比の排気ダクトが、前記排気マニホールド面に対して所定の後方角および所定の機外方向角に前記エンジン排気流を向けるように、前記排気マニホールドから横方向に延在することを特徴とする請求項1に記載の赤外線抑制システム。
【請求項4】
前記所定の後方角が、約35°であることを特徴とする請求項3に記載の赤外線抑制システム。
【請求項5】
前記所定の機外方向角が、約45°であることを特徴とする請求項3に記載の赤外線抑制システム。
【請求項6】
前記高アスペクト比の排気ダクトが、前記排気マニホールド面に対して0°のロール角で排気ダクト開口面を画定する排気ダクト開口を画定することを特徴とする請求項1に記載の赤外線抑制システム。
【請求項7】
前記高アスペクト比の排気ダクトが、前記排気マニホールド面に対して5°の後方ピッチ角で排気ダクト開口面を画定する排気ダクト開口を画定することを特徴とする請求項1に記載の赤外線抑制システム。
【請求項8】
前記高アスペクト比の排気ダクトが、長手方向後方で傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の赤外線抑制システム。
【請求項9】
前記高アスペクト比の排気ダクトの周囲に少なくとも部分的に冷却ギャップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の赤外線抑制システム。
【請求項10】
前記冷却ギャップが、概ね直線的であることを特徴とする請求項9に記載の赤外線抑制システム。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし8
「 【請求項1】
エンジンの長手方向軸に沿ってエンジン排気流を受ける排気マニホールドであって、機体の内側寄りの機内側部分と、機体の外側寄りの機外側部分と、を有し、ロータ回転軸と直交する排気マニホールド面が前記機内側部分と前記機外側部分とを横切って延びる排気マニホールドと、
前記排気マニホールド面から離れる方向に前記エンジン排気流を向けるように、前記排気マニホールド面の上側において前記エンジンの長手方向軸に対して横方向にかつ前記排気マニホールドから外側に延在する高アスペクト比の排気ダクトと、
を備え、
前記アスペクト比は、最大ノズル長さの、最大ノズル幅に対する比として定義され、前記最大ノズル長さは前記排気マニホールドに沿って定義され、 前記高アスペクト比の排気ダクトが、前記排気マニホールド面に対して所定の後方角および所定の機外方向角に前記エンジン排気流を向けるように、前記排気マニホールドから前記横方向に延在することを特徴とする赤外線抑制システム。
【請求項2】
前記所定の後方角が、約35°であることを特徴とする請求項1に記載の赤外線抑制システム。
【請求項3】
前記所定の機外方向角が、約45°であることを特徴とする請求項1に記載の赤外線抑制システム。
【請求項4】
前記高アスペクト比の排気ダクトが、前記排気マニホールド面に対して0°のロール角で排気ダクト開口面を画定する排気ダクト開口を画定することを特徴とする請求項1に記載の赤外線抑制システム。
【請求項5】
前記高アスペクト比の排気ダクトが、前記排気マニホールド面に対して5°の後方ピッチ角で排気ダクト開口面を画定する排気ダクト開口を画定することを特徴とする請求項1に記載の赤外線抑制システム。
【請求項6】
前記高アスペクト比の排気ダクトが、長手方向後方で傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の赤外線抑制システム。
【請求項7】
前記高アスペクト比の排気ダクトの周囲に少なくとも部分的に冷却ギャップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の赤外線抑制システム。
【請求項8】
前記冷却ギャップが、概ね直線的であることを特徴とする請求項7に記載の赤外線抑制システム。」(なお、下線は本件補正箇所を示すために、本件審判請求人が付したものである。)

2.本件補正の適否(本件補正の目的要件について)
本件補正は、本件補正前の請求項1における「前記排気マニホールド面の一方の側において…延在する高アスペクト比の排気ダクト」との発明特定事項を、「前記排気マニホールド面の上側において…延在する高アスペクト比の排気ダクト」と限定するとともに、当該排気ダクトに関し「前記排気マニホールド面に対して所定の後方角および所定の機外方向角に前記エンジン排気流を向けるように、前記排気マニホールドから前記横方向に延在する」点を限定する補正を含むものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定される「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正を含むものに該当する。

3.本件補正の適否(本願補正発明の独立特許要件について)
上記2.のとおり、本件補正は「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正を含むものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。
(1)本願補正発明の認定
本願補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲、並びに、平成20年3月31日付けで提出された明細書及び図面の翻訳文の記載からみて、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記1.(2)の【請求項1】に記載されたとおりのものと認める。

(2)刊行物に記載された発明
A.引用文献に記載された事項
本件出願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である米国特許第6122907号明細書(以下、「引用文献」という。)には、次の(A)ないし(F)の事項が図面とともに記載されている。
(A)「Referring now to the drawings wherein like reference
characters identify corresponding or similar elements throughout
the several views, FIGS. 1 and 1a show a helicopter 10 having a
gas turbine engine 12 (only one of two such engines is viewable in
the perspective shown) for driving a main rotor system 14. An IR
Suppressor 20 in accordance with the teachings of the invention is
disposed in combination with the aft end of the gas turbine engine
12 and is operative to suppress the InfraRed (IR) signature
radiated from the high-temperature exhaust of the engine 12. In
the context used herein, "to suppress" means that the IR signature
emanating from the gas turbine engine 12 is reduced below some
predetermined threshold value which is indicative of the
acquisition, tracking and/or targeting capability of a particular
IR threat.」
(明細書第3欄下から第17行ないし下から第3行)
<仮訳>
「 対応部及び相当部に同一符号を付した図面を参照すると、図1,図1aは、メインロータ装置14を駆動するガスタービンエンジン12を有するヘリコプタ10を示している(図では2つのエンジンのうち1つのエンジンのみが示されている)。本発明に係るIR抑制器20がガスタービンエンジン12の後方端部と組み合わせて設けられており、エンジン12の高温排気から放射される赤外線(IR)特性を抑制するように機能する。ここでいう“抑制”とは、ガスタービンエンジン12から放射されるIR特性が、IRを利用する特定の脅威の捕獲、追跡、及び/または標的能力を示すある所定のしきい値よりも低減されるという意味である。」

(B)「In FIGS. 2 and 3, the IR Suppressor 20 includes a primary
exhaust manifold 22, first and second mixing ducts 24a, 24b, and a
secondary flow shroud 26. Before discussing the functional
interaction of the various elements, i.e., the effects on the
exhaust flow, a brief structural and geometric description of each
element follows.」
(明細書第3欄下から第2行ないし第4欄第4行)
<仮訳>
「 図2,図3では、IR抑制器20は、一次排気マニホルド22、第1及び第2の混合ダクト24a,24b、及び二次流れシュラウド26を含む。種々の要素の機能的な相互作用、即ち排気の作用について説明する前に、各要素の構造及び寸法に関して簡単に説明する。」

(C)「The primary exhaust manifold 22 (see in FIG. 2) defines
an elongate duct 28 which is adapted at an inboard end to receive
a primary flow of high temperature engine exhaust E_(PF) from the gas
turbine engine (not shown). The elongate duct 28 tapers in
cross-sectional area for delivering a uniform flow of engine
exhaust E_(PF) to at least two (2) high aspect ratio nozzles 30a, 30b.
In the context used herein "high aspect ratio" means that the ratio
of the maximum nozzle length L to the maximum nozzle width W is
greater than about 6.0. In the broadest interpretation of the
invention, the high aspect ratio nozzles 30a, 30b are integrated in
combination with the elongate duct 28 so as to define at least two
outlets at the same axial station along the length of the duct 28.
In the context used herein "axial station" means a cross-sectional
plane normal to longitudinal axis A of the duct 28.
In the preferred embodiment, each of the high aspect ratio
nozzles 30a, 30b comprises multiple segments 30s_(1), 30s_(2), 30s_(3)
which are tandemly or linearly arranged. Furthermore, each of
the segments 30s_(1), 30s_(2), 30s_(3) is preferably equal in length and
width to permit a substantially equal flow of exhaust. Moreover,
each of the high aspect ratio nozzles 30a, 30b comprises a
plurality of adjoined lobes 36 for improving the efficacy of the
engine exhaust dilution and, consequently, the degree of IR
suppression. The import of such nozzle segments 30s_(1), 30s_(2), 30s_(3)
and adjoined lobes 36 will be discussed in subsequent paragraphs.
In the preferred embodiment, the primary exhaust manifold 22
includes a bifurcated transition 40 disposed between and connecting
each of the high aspect ratio nozzles 30a, 30b to the elongate duct
28. While in the broadest sense of the invention the transition 40
is non-essential, the transition 40 provides a lateral extension of
the elongate duct 28 so as to situate the nozzles 30a, 30b
outwardly away from the helicopter fuselage (not shown in FIG. 2).」
(明細書第4欄第5ないし39行)
<仮訳>
「 一次排気マニホルド22(図2参照)は、ガスタービンエンジン(図示省略)から高温エンジン排気E_(PF)の一次流れを受け入れる細長いダクト28を機内側端部で構成している。細長いダクト28の断面積は、テーパ状に減少しており、縦横比が高い少なくとも2つのノズル30a,30bにエンジン排気E_(PF)の均一な流れを導く。ここでいう“縦横比が高い”とは、最大ノズル幅Wに対する最大ノズル長さLの比率が約6.0よりも大きいことを意味する。本発明の最も広い解釈では、高縦横比ノズル30a,30bは、細長いダクト28と一体となっており、ダクト28の長さに沿った同じ軸方向位置において少なくとも2つの出口を構成する。ここでいう“軸方向位置”とは、ダクト28の長手方向軸に垂直な断面をいう。
好適な実施例では、高縦横比ノズル30a,30bは、それぞれ複数のセグメント30S_(1),30S_(2),30S_(3)を含んでおり、これらのセグメントは、縦につまり線状に配置されている。また、各セグメント30S_(1),30S_(2),30S_(3)は、実質的に等しい排気流が流れるように、望ましくは長さや幅が等しい。更に、高縦横比ノズル30a,30bは、隣接する複数のローブ36を含み、これらのローブによって、エンジン排気の希釈効果、即ちIRの抑制度合いが向上する。このようなノズルセグメント30S_(1),30S_(2),30S_(3)及びローブ36の重要性については、以下で説明する。
好適実施例では、一次排気マニホルド22は、各高縦横比ノズル30a,30bと細長いダクト28との間に配置され、かつこれらをそれぞれ接続する分岐遷移部40を含む。遷移部40は、本発明を最も広く捕らえた場合には重要性が低いが、この遷移部40は、細長いダクト28を外側に延長し、ヘリコプタの胴体(図2では図示が省略されている)から外向きに離れるようにノズル30a,30bを位置づける。」

(D)「In FIGS. 2-4, the first and second mixing ducts 24a, 24b
are disposed over and proximal to the high aspect ratio nozzles
30a, 30b so as to define a mixer/ejector (FIG. 4 shows the various
components assembled in combination). As used herein, the
term "mixer/ejector" means the combination of the primary exhaust
manifold 22 and the mixing ducts 24a, 24b. More specifically, the
mixing ducts 24a, 24b are situated relative to nozzles 30a, 30b
such that an ejector inlet 44 is produced therebetween.
Furthermore, each of the mixing ducts 24a, 24b may include splitter
walls 46 which, when assembled in combination with the nozzles 30a,
30b lie between the various nozzle segments 30s_(1), 30s_(2), 30s_(3).」
(明細書第4欄第40行ないし下から第16行)
<仮訳>
「 図2?図4では、第1の混合ダクト24aと第2の混合ダクト24bとは、高縦横比ノズル30a,30bに隣接してその上に配置されており、混合器/エゼクタを構成する(図4では、組み合わせて配置した種々の部材を示している)。ここでいう“混合器/エゼクタ”は、一次排気マニホルド22と混合ダクト24a,24bの組み合わせを意味する。より詳細には、混合ダクト24a,24bは、ノズル30a,30bとの間にエゼクタ入口44が形成されるようにこれらのノズルに対して配置されている。更に、混合ダクト24a,24bは、スプリッタ壁46をそれぞれ含むことができ、これらのスプリッタ壁は、ノズル30a,30bと組み合せて配置されたときに各ノズルセグメント30S_(1),30S_(2),30S_(3)の間に位置する。」

(E)「In FIGS. 5 and 6, the adjoined lobes 36 define a primary
flow trough 36_(PF) (FIG. 6) for channeling the high energy primary
flow PF, and a secondary flow trough 36_(SF) for channeling the low
energy secondary flow SF of ambient air. The primary and
secondary flow troughs 36_(PF), 36_(SF) are alternately disposed about
the periphery of the respective nozzle segments such that thin
sheets of the high energy primary flow PF: (i) flow from the
trough outlets, (ii) transfer kinetic energy to the low energy
secondary flow SF, and, (iii) entrain/mix the secondary
flow SF with the primary flow PF. Aside from simple viscous
or shear mixing, the adjoined lobes 36 produce axial vortices
which rapidly admix the primary and secondary flows PF, SF.
As such, the adjoined lobes 36 function to augment thrust while
rapidly and thoroughly mixing the primary and secondary flows
PF, SF for ameliorating the degree of IR suppression. Various
nozzle configurations of the type described may be used including
those described and depicted in Presz et al. U.S. Pat. Nos.
4,835,961 and 4,830,315.
In the described embodiment, the mixed flow MF is directed at two
distinct angles relative to the horizontal, i.e., one of the
nozzles 30a directing the flow downwardly at about -45 degrees,
and the other of the nozzles directing the flow upwardly at about
+45 degrees (the precise angles are typically driven by other
design criteria such as momentum drag considerations). In the
preferred embodiment, it is desirable to turn the mixed flow MF
away from the fuselage structure so as to avoid impingement
thereon. As mentioned in the Background of the Invention, such
impingement can have the effect of creating another "hot spot" for
detection. The combination of the high aspect ratio nozzles and
the diverging sidewalls 52 effectively turns and directs the flow
away from the aircraft fuselage.」
(明細書第5欄第38行ないし第6欄第3行)
<仮訳>
「 図5,図6では、隣接するローブ36は、高エネルギの一次流れPFを方向づける一次流れトラフ36_(PF)(図6参照)と、低エネルギの大気の二次流れSFを方向づける二次流れトラフ36_(SF)と、を構成する。一次流れトラフ36_(PF)と二次流れトラフ36_(SF)とは、対応するノズルセグメントの周囲に交互に配置されており、高エネルギの一次流れPFの薄いシート状の流れが、(i)トラフ出口から流出し、(ii)低エネルギの二次流れSFに運動エネルギを伝達し、(iii)二次流れSFと一次流れPFとが混入/混合されるようにする。粘性または剪断による単純な混合の他に、隣接するローブ36によって軸方向の渦が形成され、この渦によって一次流れPFと二次流れSFが急速に混合される。このように、隣接するローブ36は、推力を増加させるように機能するとともに、IR抑制の度合いを向上させるように一次流れPFと二次流れSFとを迅速かつ完全に混合する。説明した種類であれば種々のノズル構成を使用することができ、このようなノズル構成には、プレツ等による米国特許第4,835,961号及び第4,830,315号に開示及び図示されたものも含まれる。
実施例では、混合された流れMFは、水平方向とは異なる2つの角度に向けられる。即ち、一方のノズル30aは、約-45度で下向きに流れを導き、他方のノズルは、約+45度で上向きに流れを導く(正確な角度は、運動量抵抗の問題などの他の設計基準によって一般に決定される)。好適実施例では、混合された流れMFが胴体構造体に衝突するのを避けるために、流れMFを胴体構造体から離れるように向けることが望ましい。背景技術において記載したように、このような衝突により、検知されるもう1つの“ホットスポット”が形成されるおそれがある。高縦横比ノズルと分岐する側壁52との組み合わせによって、流れが航空機の胴体から離れるように効果的に導かれる。」

(F)「Although the invention has been shown and described with
respect to exemplary embodiments thereof, it should be understood
by those skilled in the art that other changes, omissions and
additions may be made therein and thereto, without departing from
the spirit and scope of the present invention. For example, while
the IR Suppressor shows three segments which, in combination,
define a single high aspect ratio nozzle, it should be appreciated
that the nozzles may comprise a single or multiple segments.
While the described embodiment shows two high aspect ratio
nozzles 30a, 30b having equal length, it should be understood that
the one of the nozzles may be shorter or longer than the other
nozzle(s). Moreover, while the described embodiment depicts each
nozzle 30a and 30b beginning and terminating at the same axial
station, it should be appreciated that the nozzles may be axially
staggered relative to one another. While the preferred embodiment
of the invention employs blocking vanes 62 and splitter walls 46
to prevent direct line-of-sight viewing into the primary exhaust
manifold, it should be appreciated that such structures are
optional and/or will be modified for the specific application.
While the invention preferably employs both a lateral and forward
inlets 56 and 58, respectively, it will be appreciated that, for
other applications, the use of a forward inlet may not be necessary
or advantageous.」
(明細書第6欄下から第13行ないし第7欄第12行)
<仮訳>
「 本発明は、例示的な実施例に沿って開示及び説明したが、当業者であればわかるように、本発明の趣旨及び範囲から逸脱しない範囲で他の変更、省略、及び追加も可能である。例えば、IR抑制器は、組み合わさって単一の高縦横比ノズルを構成する3つのセグメントを示しているが、これらのノズルは、単一のまたは複数のセグメントを含み得る。また、実施例では、等しい長さを有する2つの高縦横比ノズル30a,30bを開示しているが、1つのノズルを他のものよりも短くまたは長くすることもできる。更に、実施例では、各ノズル30a,30bが同じ軸方向位置で始まるとともに終わっているが、これらのノズルは、互いに軸方向でずれていてもよい。本発明の好適な実施例では、直接的な照準線からの一次排気マニホルドの視察を防止するために遮断ベーン62やスプリッタ壁46を使用しているが、このような構造体は、任意に選択可能なものであり及び/または特定の用途のために改良できる。本発明では、横方向及び前方の入口56,58を両方使用することが望ましいが、他の用途では、前方の入口が不要もしくは有用でない場合もあり得る。」

B.引用文献の記載からわかること
上記A.(A)ないし(F)及び図面の記載から、引用文献には次の(G)ないし(J)の事項が記載されていることがわかる。
(G)上記A.(A)及び(B)の記載から、引用文献に記載されたIR抑制器20は、ガスタービンエンジン12の高温排気から放射される赤外線(IR)特性を所定のしきい値より低減させるように機能するものであって、一次排気マニホルド22、及び、混合ダクト24a、24bを備えていることがわかる。

(H)上記A.(C)及び図2の記載から、引用文献に記載された一次マニホルド22は、ガスタービンエンジン12の長手方向軸A(図2を参照のこと。)に沿ってエンジン排気E_(PF)を受け入れるものであることがわかる。また、上記A.(C)及び図2ないし4の記載から、当該一次マニホルド22は、ヘリコプターの胴体の内側寄りのダクト28と、ヘリコプタの胴体の外側寄りの分岐遷移部40及びノズル30a、30bと、を有していることがわかる。さらに、上記A.(C)並びに図1、図2及び図4の記載から、当該一次マニホルド22において、メインロータ装置14の回転軸と直交し、ダクト28と分岐遷移部40とを横切って延びる面(具体的には、図4において、ダクト28と分岐遷移部40とを略上下半分に横切る面、以下、「面α」という。)を規定することが可能であることがわかる。

(I)上記A.(C)及び(D)、上記(H)、並びに、図2ないし4の記載から、引用文献に記載された混合ダクト24a、24bは、それぞれ面αの下側及び上側に位置するものであって、ガスタービンエンジン12の長手方向軸Aに対して横方向に位置し、さらに、一次排気マニホルド22のノズル30a、30bが延びる外側方向に位置する、言い換えれば、一次排気マニホルド22から外側に延在するものであることがわかり、その構造により、面αから離れる方向にエンジン排気E_(PF)を向けるものであることがわかる。
また、上記A.(D)の記載から、引用文献に記載された混合ダクト24a、24bは、一次マニホルド22のノズル30a、30bにそれぞれ隣接して設けられるものであって、その両者が対向する面の形状は対応するものであるといえる。そして、上記A.(C)の記載から、引用文献に記載されたノズル30a、30bが、最大ノズル長さLの最大ノズル幅Wに対する比として定義される縦横比が高いものであって、さらに図2から、最大ノズル長さLは一次排気マニホルド22に沿って定義されるものであるといえることから、引用文献に記載された混合ダクト24a、24bは、ノズル30a、30bと同様に、高縦横比であって、その縦横比は、最大ノズル長さLの、最大ノズル幅Wに対する比として定義され、最大ノズル長さLは一次排気マニホルド22に沿って定義されるものであることがわかる。

(J)上記A.(D)及び図3の記載から、引用文献に記載された混合ダクト24a、24bはスプリッタ壁46を有するものであり、そのスプリッタ壁46は、エンジン排気E_(PF)を面αに対して所定の後方角に向ける形状を有していることがわかる。また、上記A.(D)及び(E)並びに図4の記載から、引用文献に記載された混合ダクト24a、24bは、エンジン排気E_(PF)を面αに対して所定の機外方向角に向けるものであることがわかる。

C.引用発明
上記A.及びB.並びに図面の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「ガスタービンエンジン12の長手方向軸Aに沿ってエンジン排気E_(PF)を受ける一次排気マニホルド22であって、ヘリコプタの胴体の内側寄りのダクト28と、ヘリコプタの胴体の外側寄りの分岐遷移部40及びノズル30a、30bと、を有し、メインロータ装置14の回転軸と直交する面αが前記ダクト28と前記分岐遷移部40とを横切って延びる一次排気マニホルド22と、
前記面αから離れる方向に前記エンジン排気E_(PF)を向けるように、前記面αの下側及び上側において前記ガスタービンエンジン12の長手方向軸Aに対して横方向にかつ前記一次排気マニホルド22から外側に延在する高縦横比の混合ダクト24a、24bと、
を備え、
前記縦横比は、最大ノズル長さLの、最大ノズル幅Wに対する比として定義され、前記最大ノズル長さLは前記一次排気マニホルド22に沿って定義され、
前記高縦横比の混合ダクト24a、24bが、前記面αに対して所定の後方角および所定の機外方向角に前記エンジン排気E_(PF)を向けるように、前記一次排気マニホルド22から前記横方向に延在するIR抑制器20。」

(3)対比、判断(特許法第29条第1項第3号)
本願補正発明と引用発明を対比すると、引用発明における「ガスタービンエンジン12」は、その機能及び構造からみて、本願補正発明における「エンジン」に相当し、以下同様に、「ガスタービンエンジン12の長手方向軸A」は「エンジンの長手方向軸」に、「エンジン排気E_(PF)」は「エンジン排気流」に、「一次排気マニホルド22」は「排気マニホールド」に、「ヘリコプタの胴体」は「機体」に、「ダクト28」は「機内側部分」に、「分岐遷移部40」及び「ノズル30a、30b」はそれぞれ「機外側部分」に、「メインロータ装置14の回転軸」は「ロータ回転軸」に、「面α」は「排気マニホールド面」に、「縦横比」は「アスペクト比」に、「最大ノズル長さL」は「最大ノズル長さ」に、「最大ノズル幅W」は「最大ノズル幅」に、「IR抑制器20」は「赤外線抑制システム」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「混合ダクト24a、24b」のうち、面αの上側に位置する「混合ダクト24b」は、本願補正発明における「排気ダクト」に相当する。

してみると、引用発明は、本願補正発明の発明特定事項を用いて、
「エンジンの長手方向軸に沿ってエンジン排気流を受ける排気マニホールドであって、機体の内側寄りの機内側部分と、機体の外側寄りの機外側部分と、を有し、ロータ回転軸と直交する排気マニホールド面が前記機内側部分と前記機外側部分とを横切って延びる排気マニホールドと、
前記排気マニホールド面から離れる方向に前記エンジン排気流を向けるように、前記排気マニホールド面の上側において前記エンジンの長手方向軸に対して横方向にかつ前記排気マニホールドから外側に延在する高アスペクト比の排気ダクトと、
を備え、
前記アスペクト比は、最大ノズル長さの、最大ノズル幅に対する比として定義され、前記最大ノズル長さは前記排気マニホールドに沿って定義され、
前記高アスペクト比の排気ダクトが、前記排気マニホールド面に対して所定の後方角および所定の機外方向角に前記エンジン排気流を向けるように、前記排気マニホールドから前記横方向に延在する赤外線抑制システム。」
と、表現することができるものであって、本願補正発明と引用発明とに実質的な差異はない。

なお、本件審判請求人は、例えば平成23年11月1日付けの回答書において、
「(3)…(省略)… これに対し、本願発明は、「赤外線エネルギーに対する地上脅威からの直接的な視線を掩蔽する」という明確な意図の下に、排気ダクトを、排気マニホールド面の上側のみに配置した点、さらには、後述するように、エンジン性能特性の維持を図るべく、排気ダクトを排気マニホールド面に対して所定の後方角および所定の機外方向角に指向させた点に大きな特徴を有するものであり、審査官の認定は明らかに失当である。」と主張する。
上記主張について検討する。まず、排気ダクトを排気マニホールド面の上側のみに配置した点についてみるに、平成23年3月14日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1においては、「前記排気マニホールド面の上側において前記エンジンの長手方向軸に対して横方向にかつ前記排気マニホールドから外側に延在する高アスペクト比の排気ダクト…を備え」と、本願補正発明を特定しているが、当該発明特定事項からは「排気ダクトを、排気マニホールド面の上側のみに配置した」とまで特定されているとはいえず、当該請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものとは認められない。
また、排気ダクトを排気マニホールド面に対して所定の後方角および所定の機外方向角に指向させた点についてみるに、上記(2)B.(J)において記載したとおり、引用発明における混合ダクト24bも、面αに対して所定の後方角および所定の機外方向角に指向させたものであるといえる。
よって、本件審判請求人の上記主張については、同意できない。

(4)対比、判断(特許法第29条第2項)
上記(3)のとおり、本願補正発明と引用発明とに差異はないと解されるが、仮に、本願補正発明が「排気ダクトを排気マニホールド面の上側のみに配置した」ものであると特定して解した場合、本願補正発明と引用発明とは、次の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点>
本願補正発明においては、「排気ダクトを排気マニホールド面の上側のみに配置した」のものであるのに対し、引用発明においては、「混合ダクト24a」を面αの下側に配置し、「混合ダクト24b」を面αの上側に配置した点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。
エンジンの排気流の赤外線エネルギーを検知される危険性を回避する状況下において、排気ダクトを排気マニホールド面の上側のみに配置することは、例えば、平成23年7月26日付けの書面による審尋において提示した特開昭61-247857号公報(例えば、第9ページ右上欄第11行ないし同ページ左下欄第8行、及び、第1図に記載された、エルボ25の最大上方変更位置を参照。)、特開平3-37334号公報(例えば第3ページ左上欄第16ないし19行、第3ページ左下欄第7行ないし同ページ右下欄第17行、第4ページ左下欄第12ないし18行、並びに、第1図ないし第6図に記載された、混合ダクト15、65を参照。)に記載されているように、本件出願の優先日前において周知の技術(以下、「周知技術」という。)であり、排気ダクトを排気マニホールド面の上側のみに配置することで、赤外線エネルギーに対する地上脅威からの直接的な視線を掩蔽できることは、当業者であれば自明の事項である。
そして、引用発明と周知技術とは、いずれも、エンジンの排気からの赤外線エネルギを掩蔽する技術であって、また、上記(2)A.(F)に「本発明の趣旨及び範囲から逸脱しない範囲で他の変更、省略、及び追加も可能である。」と記載されるとともに「2つの高縦横比ノズル30a,30b」について種々の態様が挙げられていることからみて、ノズル30a,30bと対応して配置される混合ダクト24a、24bについても、変更、省略、又は追加をすることは、当業者であれば適宜なし得ることであるといえることから、引用発明に上記周知技術を適用し、「混合ダクト24a」を省略して、上記周知技術のように「混合ダクト24b」のみとすることで、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

また、本願補正発明を全体としてみても、その作用効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

(5)小括
したがって、本願補正発明は、上記(3)に記載したとおり、引用発明との差異がないことから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
また、本願補正発明は、上記(4)に記載したとおり、引用発明及び周知の技術思想に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
上記3.のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成23年3月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年9月17日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記第2.[理由]1.(1)の【請求項1】に記載のとおりのものである。

2.刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(米国特許第6122907号明細書)の記載事項及び引用発明は、上記第2.[理由]3.(2)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願補正発明は、上記第2.[理由]2.に記したように、本願発明における「排気ダクト」の排気マニホールド面との配置の関係、及び、エンジン排気流の方向について減縮したものに相当する。
そうすると、本願発明を特定する事項をすべて含み、さらに本願発明を減縮したものに相当する本願補正発明が、上記第2[理由]3.(3)に記載したとおり、引用発明と差異がないものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明と差異がないものである。
また、仮に差異があるとしても、本願発明を特定する事項をすべて含み、さらに本願発明を減縮したものに相当する本願補正発明が、上記第2[理由]3.(4)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明との差異がないことから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-22 
結審通知日 2012-02-28 
審決日 2012-03-12 
出願番号 特願2008-537695(P2008-537695)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (F02K)
P 1 8・ 121- Z (F02K)
P 1 8・ 575- Z (F02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石黒 雄一  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 金澤 俊郎
鈴木 貴雄
発明の名称 赤外線抑制システム  
代理人 小林 博通  
代理人 富岡 潔  

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