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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1260698
審判番号 不服2010-7075  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-05 
確定日 2012-07-26 
事件の表示 特願2004-269929「発芽玄米の製造方法及びこれにより製造した発芽玄米」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月30日出願公開、特開2006- 81472〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成16年9月16日の出願であって、平成22年1月5日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月5日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

第2 平成22年4月5日付けの手続補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
搗精歩合3%とした玄米を37℃で8時間?20時間保温したことを特徴とする発芽玄米の製造方法。」(下線は、補正箇所を示す。)と補正された。

上記補正は、補正前の請求項1における「加熱」を「保温」に補正するものであって、「加熱」に代え、本願の出願当初の明細書中における記載と合わせ、「保温」であることを明確にしたものである。
したがって、本件補正は、明りょうでない記載の釈明に該当する。

第3 本願発明
本件補正は,上記のとおり適法になされたものと認められるので,本願の請求項1?2に係る発明は,その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,そのうち請求項1は,前記「第2」のとおりである。(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第4 刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。

(1)刊行物1:米国特許出願公開第2004/0105921号明細書の記載事項
(日本語訳は、刊行物1のパテントファミリーである特開2004-305205号公報の記載を参考にした。)

(1a)「1.食感、炊飯性、微生物汚染に対する安全性に優れた発芽玄米の製造方法において、以下のステップを含むことを特徴とする発芽玄米の製造方法:
搗精後の玄米の重量が元の玄米の重量に対して94.4%から98.8%になるように 玄米の外皮層の一部を除去する搗精段階と;
搗精後の玄米を弱酸性の発芽水に浸漬し、空気を注入して5ないし10時間間隔で発芽水を交換しながら10ないし30時間発芽させる段階;及び
発芽玄米を100ないし140℃で5ないし40分間高温高圧処理する段階
2.前記発芽段階の発芽水は、pHが3-7であり、温度が20ないし50℃であることを特徴とする請求項1記載の発芽玄米の製造方法。」(第6頁右欄第2行目?第21行目)

(1b)「[0006]
発芽玄米は、玄米を生育に適した条件に放置し、玄米内部の様々な生理的変化によって胚芽部位を発芽させたものである。発芽玄米は、通常の玄米に比べて体内消化及び吸収が優れ、各種作用により人体に有益な栄養成分、例えば、γ-アミノ酪酸(GABAという)、フェルラ酸 (ferulic acid)、食餌繊維(dietary fiber)等の含量が高いために機能性食品として認識されている。」

(1c)「[0014] しかし、前記のような様々な技術にもかかわらず、発芽するのに長時間がかかり、炊飯の際、長時間所要及び炊飯不便性、炊飯後、玄米の粗い食感の残留及び異臭が残るなど、多くの問題が完全に解決できておらず、発芽玄米の品質の向上が望まれている。
[0015] そこで、本発明者らは、従来の発芽玄米製品の持っていた技術的、品質的及び製造工程上の問題点を解決して、微生物汚染に対して安全で栄養学的に優れており、一般家庭でも手軽く高品質の玄米ご飯を楽しめることができる発芽玄米を開発するための研究を行った。その結果、玄米を軽く搗精して外皮層を一部除去することにより発芽玄米の食感を向上させることが可能であることを見出した。そして、発芽工程上の発芽条件、例えば、発芽水のpH、温度、空気注入、発芽水の交換などを適切に設定することにより、発芽玄米の腐敗防止及び異臭の除去が可能であることを見出した。さらに、発芽玄米を高温高圧処理することにより、微生物に対する安全性と炊飯性を向上させるのみならず、玄米の食感が2次的に改善されうることを見出し、本発明を完成した。」

(1d)「[0026] 図1を参考にして、本発明による発芽玄米の製造方法は、一旦玄米から不純物を選別する段階(S11)を進行することが可能であるが、これは選択的な過程である。次に、選別された玄米を搗精する玄米搗精段階(S12)が進行する。ここで搗精段階は、玄米を100%基準にした場合、搗精後の重量が94.4%-98.8%水準になるよう外表面の表皮層の一部を除去する工程を指し、好ましくは玄米を100%基準にした場合、搗精後の重量が96%-98.8%水準になるように搗精することである。 本発明で玄米を一定水準に搗精することは下記のような理由による。
[0027] すなわち、前に述べた水準に玄米を搗精処理しなかったり、それより少なく搗精処理した玄米をご飯に調理する場合には、口の中の食感が粗くて固いために食べ難く、一般家庭では調理の際、玄米を水に長時間ふやかすなど、調理が容易でないので好ましくない。反面、前記数値を超過した過度な搗精処理は、玄米の胚が除かれ、発芽玄米としての機能を喪失するため好ましくない。結局、搗精水準を玄米を100%基準にして94.4%-98.8%水準に搗精処理することにより、発芽に必須的な胚を保護し、多くの栄養成分などによる人間に有益な機能を失わずに軟らかい食感の発芽玄米を製造することが出来る。
[0028] 次に、本発明では、前記玄米搗精段階(S12)を経た玄米を発芽させる発芽段階(S13)を進行する。発芽玄米の製造方法のうち、一般的に発芽過程で玄米が水分を十分に吸収した状態で、一定温度で長期間維持されるので微生物増殖によりその保存性が悪くなり、発芽過程中に玄米の腐敗及び異臭発生の問題を引き起こす可能性がある。従って、発芽段階(S13)では上記問題を避けるため、発芽条件を適切に設定することが重要である。本発明の発芽段階(S13)では、搗精処理された玄米を20ないし50℃の温度で、pHが弱酸性の発芽水が満たされた発芽槽に浸漬させ、10ないし30時間発芽させながら、発芽工程中、発芽槽の下部に設置された空気注入装置によって空気を注入し、玄米が発芽段階(S13)中に腐敗するのを防止する。さらに5?10時間の間隔で使用済みの発芽水を自動的に交換して発芽玄米の異味、異臭の生成を防止する。さらに好ましい発芽条件は、25ないし45℃で、15ないし30時間空気を注入しながら、一定時間おきに発芽水を交換することであり、その際使用する発芽水のpHを3ないし7にする。
[0029] すなわち、前記発芽条件において、発芽水のpHが3以下の強酸性になる場合は、玄米の発芽作用が阻害され、GABAなどの栄養成分の含量の生成量が落ち、発芽が十分ではないために、発芽によって食感が軟らかくなる現象が微弱になり、発芽水のpHが7以上の場合は、発芽の際、玄米が腐敗する恐れがあるので好ましくない。
[0030] 発芽時間を10時間以下にした場合は、発芽が充分に起こらないために、栄養成分及び食感の改善が難しく、反対に発芽時間が30時間以上になると、過度な発芽により、食餌繊維以外の栄養的価値が落ち、芽が必要以上に成長して外観が悪く、製造効率性が落ちて好ましくなく、発芽の際の温度設定でも 20℃以下の場合は、一定の水準発芽するのに長い時間がかかり、反対に発芽の際、温度が50℃より高い場合は、玄米が発芽途中で腐敗する可能性が高いため、好ましくない。
[0031] 従って、本発明による発芽玄米の製造条件によって発芽玄米を製造すれば、品質的問題を引き起こす可能性のある発芽腐敗臭生成の抑制により、良好な品質の発芽玄米を短時間で効率的に製造可能であると共に、発芽段階を経て玄米内部に存在する人体に有益な色んな栄養成分の含量を増加させる。
[0032] 本発明により発芽が完了した玄米は高温高圧処理を施す前に、きれいな水で水洗した後、密封包装する段階(S14)を経る。また、水洗及び包装を終えた発芽玄米を高温高圧処理する段階(S15)を進行する。・・・(略)・・・」

(1e)「[0034] また、電気高温高圧処理工程に利用できる装備としては、一般加工食品の熱処理に利用される、レトルト(retort)、オートクレーブ(autoclave)などがある。高温高圧処理により発芽された玄米の澱粉がゼラチン化されて食感が軟らかくなり、発芽の際、増加した微生物の死滅により微生物的安全性の確保が可能になる。次に、熱処理した発芽玄米は、製品の劣化を防止するために急速冷却させるのが好ましい。」

第5 対比・判断
刊行物1の上記記載(特に上記(1a))から、刊行物1には、
「食感、炊飯性、微生物汚染に対する安全性に優れた発芽玄米の製造方法において、以下のステップを含むことを特徴とする発芽玄米の製造方法:
搗精後の玄米の重量が元の玄米の重量に対して94.4%から98.8%になるように 玄米の外皮層の一部を除去する搗精段階と;
搗精後の玄米を、pHが3-7であり、温度が20ないし50℃である、弱酸性の発芽水に浸漬し、空気を注入して5ないし10時間間隔で発芽水を交換しながら10ないし30時間発芽させる段階;及び
発芽玄米を100ないし140℃で5ないし40分間高温高圧処理する段階」
の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)刊行物1発明の「搗精後の玄米の重量が元の玄米の重量に対して94.4%から98.8%になるように 玄米の外皮層の一部を除去する搗精段階」において、刊行物1発明では、搗精後、元の玄米の質量に対して94.4%から98.8%の質量の玄米が得られるものである。
そうすると、刊行物1発明の、搗精後に得られる、元の玄米の質量に対して94.4%から98.8%の質量の搗精後の玄米は、本願発明の「搗精歩合3%とした玄米」と、搗精後の玄米である点で共通する。

(イ)刊行物1発明の「搗精後の玄米を、pHが3-7であり、温度が20ないし50℃である、弱酸性の発芽水に浸漬し、空気を注入して5ないし10時間間隔で発芽水を交換しながら10ないし30時間発芽させる段階」では、搗精後の玄米を20ないし50℃で、10ないし30時間、弱酸性の発芽水に浸漬させて発芽させるものである。
一方、本願発明の「37℃で8時間?20時間保温する」ことについて、本願の平成21年12月10日に補正された明細書を参照すると、以下が記載されている。なお、下線は当審が付した。

・「【0001】
この発明は、玄米の発芽を利用して、玄米中にグルタミン酸を適度に保ちながら精製するγ-アミノ酪酸の含有量を増大させることを目的とした発芽玄米の製造方法に関する。」
・「【0015】
従来Gabaについて相当の収量をあげるには70時間もの保温を必要としたが、この発明によれば4時間?24時間、好ましくは8時間?20時間でGabaの大きな収量を得ることができる効果がある。」
・「【0017】
この発明の実施例を説明すれば、搗精歩合3%、5%、10%の玄米(あきたこまち(登録商標))0.5gに、0.1M酢酸緩衝液(pH6.0)1mlを加え、37℃に保温した。保温後、1NHCl0.5mlを添加し、反応を停止した。」

以上の記載から、本願発明では、「37℃で8時間?20時間保温する」ことによって玄米を発芽させたものであり、また、搗精後の玄米を弱酸性の0.1M酢酸緩衝液(pH6.0)に浸漬させたものである。
そうすると、刊行物1発明の、搗精後の玄米を20ないし50℃で、10ないし30時間、弱酸性の発芽水に浸漬させて発芽させる段階は、本願発明の「37℃で8時間?20時間保温する」ことと、発芽させるために保温する点で共通する。

(ウ)刊行物1発明の「発芽玄米を100ないし140℃で5ないし40分間高温高圧処理する段階」は、刊行物1を参照すると、密封包装した後に行う微生物の死滅を目的とした高温高圧処理であることが記載されている(1d,1e)。
本願発明がこうした密封包装後の殺菌を目的とした高温高圧処理を排除するものではないことは明らかである。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
搗精後の玄米を保温した発芽玄米の製造方法。

(相違点1)
搗精後の玄米が、本願発明では「搗精歩合3%とした玄米」であるのに対し、刊行物1発明では、元の玄米の質量に対して94.4%から98.8%の質量の玄米である点

(相違点2)
搗精後の玄米の保温を、本願発明では「37℃で8時間?20時間」行うに対し、刊行物1発明では20ないし50℃で、10ないし30時間で行う点。

そこで、上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
(ア)本願発明における「搗精歩合3%とした玄米」について、平成21年12月10日に補正された本願明細書を参照すると、以下が記載されている。なお、下線は当審が付した。

・「【0001】
この発明は、玄米の発芽を利用して、玄米中にグルタミン酸を適度に保ちながら精製するγ-アミノ酪酸の含有量を増大させることを目的とした発芽玄米の製造方法に関する。」
・「【0007】
日常の食生活で高血圧などの生活習慣病が予防できれば消費者のメリットは大きい。その一つとして、発芽玄米から適量のGabaを摂取する方法が考えられる。しかし、玄米
を30℃前後で保温した場合、Gabaの含量を高めるためには、浸漬した状態で,70時間もの発芽時間を必要とした(秋田県総合食品研究所報告、1、85?86頁、1999年)。そこで発芽に必要な設備を最小限に絞り、かつ玄米のGabaの含量を高めるための技術開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、適度に搗精した玄米を35℃?45℃の温水に入れて4時間以上保温することにより、Gabaの高収量を得て、前記従来の問題点を解決したのである。」
・「【0014】
この発明において、搗精歩合を3%?5%としたのは、表1に示すように、Gabaの収量が多くなるからであり、表1には示されていないが、搗精歩合1%?3%又は5%?6%でも保温温度と時間の関係で相当の収量を示すので、搗精歩合は1%?6%であるが、好ましくは3%?5%とした。」
・「【0016】
この発明は、搗精歩合3%の玄米を、37℃で6時間?12時間保温した所、Gaba300nmol/ml?480nmol/mlを得た。
【実施例1】
【0017】
この発明の実施例を説明すれば、搗精歩合3%、5%、10%の玄米(あきたこまち(登録商標))0.5gに、0.1M酢酸緩衝液(pH6.0)1mlを加え、37℃に保温した。保温後、1NHCl0.5mlを添加し、反応を停止した。
【0018】
ついで超音波とブレンダーで1分間混合した後、この混合液を遠心分離(3000rpm、10分間)し、上澄水を得た。この上澄水を0.45μmのミソポアフィルターで濾過し、濾過済み試料を自動アミノ酸分析機(日本電子、JLC-500V)によりGabaおよびグルタミン酸を定量した所、表1の結果を得た。
【表1】



以上から、本願発明の「搗精歩合3%とした玄米」は、搗精した後に発芽させてγーアミノ酪酸(Gaba)の含量を高めたものであり、また、搗精歩合3%のものが、搗精歩合5%、搗精歩合10%のものよりも多くのγーアミノ酪酸(Gaba)が得られたものであることが把握できる。

ところで、丸善食品総合辞典(丸善株式会社,平成10年3月25日発行)によると、「搗精」とは「精白,精穀ともいう.玄穀より,ふ(※”ふ”を漢字で表記)を取り,ぬか層(果皮・種皮・糊粉層)を削り,胚芽を除いて食用にしやすい粒にする加工操作.搗精には精米機,精麦機など各種の搗精機が使われる.」(第750頁右欄「搗精」の項)ものであり、また、「精白米」は、「精米ともいう.玄米よりぬか(ぬか層と胚芽)を除去したもの.精米機により搗精(とうせい)される.ぬかが100%(十分)除かれたものが精白米(完全精米ともいう)で,精米(搗精)歩留まりは90?92%である.これに対し,ぬかの70%を除いたものを七分づき米,50%を除いたものを五分づき米(半つき米ともいう),30%除いたものを三分づき米とよぶ.七分?三分づき米は精米に比べ、外観,食味,消化吸収率が劣るが,ビタミンB_(1)などが多く含まれる.(以下略)」(第599頁左欄「精白米」の項)ものである。
そして、「精米歩合」については、平成元年11月22日国税庁告示第8号「清酒の製法品質表示基準を定める件」において、「精米歩合とは、白米(玄米からぬか、胚芽等の表層部を取り去った状態の米をいい、米こうじの製造に使用する白米(以下「こうじ米」という。)を含む。以下同じ。)のその玄米に対する重量の割合をいうものとする。」と定められている。

本願発明における「搗精歩合3%とした玄米」の「搗精歩合」について、「玄米」を「搗精」することによって「精米」とされることから、「搗精歩合」が上記平成元年11月22日国税庁告示第8号「清酒の製法品質表示基準を定める件」で定められた「精米歩合」と同義と解釈すると、「搗精歩合3%とした玄米」は、元の玄米に対する重量が3%の白米を意味することになり、これはぬかや胚芽が完全に除去された状態であって、発芽もできないものとなるため、本願の明細書から把握される「搗精歩合3%とした玄米」ではないことは明らかである。
そして、上記の通り本願明細書から把握される、本願発明の「搗精歩合3%とした玄米」は、発芽する玄米であって、また、搗精後の”3%のもの”が、5%、10%のものよりも発芽を利用して得られるγーアミノ酪酸を多く得られるものであることから、発芽に適したより多くのぬかが残存した玄米に近いものと把握され、そうすると、”3%”は、搗精によって除かれた量と解するのが自然であり、よって、「搗精歩合3%とした玄米」とは、搗精によって元の玄米から3%除去された玄米と解釈されるものである。

一方、刊行物1発明の「搗精後の玄米の重量が元の玄米の重量に対して94.4%から98.8%になるように 玄米の外皮層の一部を除去する搗精段階」について、刊行物1には、搗精処理が少ないと食べにくく調理も容易ではないため好ましくなく、また、過度に搗精処理を行うと玄米の胚が除かれ発芽玄米としての機能を喪失するため好ましくないため、搗精処理の程度を調整し、玄米を100%基準にして搗精後の質量が94.4%-98.8%水準になるように搗精することにより、発芽に必須的な胚を保護し、多くの栄養成分などによる人間に有益な機能を失わずに軟らかい食感の発芽玄米を製造できる旨(1d)、記載されている。
さらに、刊行物1には、胚芽部位を発芽させた発芽玄米にはγーアミノ酪酸(GABA)が多く含まれていること(1b)、また、玄米の発芽作用が阻害されるとGABAなどの栄養成分の含量の生成量が落ちること(1d)、発芽を充分に起こし過度な発芽も避けて、品質のよい発芽玄米を製造することで人体に有益な栄養成分の含量を増加させることができること(1d)が、記載されている。
そうすると、搗精後の玄米について、本願発明の元の玄米から3%除去された玄米、すなわち、元の玄米に対し97%とした搗精後の玄米は、刊行物1発明の、元の玄米の質量に対して94.4%から98.8%の範囲に含まれるものであるし、さらに、発芽玄米としての機能を喪失させることなく充分に発芽させることにより、人体に有用な栄養成分の中でも特にγーアミノ酪酸(GABA)の含量を増加させることを考えて、搗精処理の程度を最適化し、元の玄米に対し97%の重量の玄米とすること、すなわち、搗精によって元の玄米から3%除去された玄米とすることは、刊行物1の上記記載事項を参照して当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
刊行物1発明の「搗精後の玄米を、pHが3-7であり、温度が20ないし50℃である、弱酸性の発芽水に浸漬し、空気を注入して5ないし10時間間隔で発芽水を交換しながら10ないし30時間発芽させる段階」について、刊行物1には、発芽条件によって玄米の発芽作用が阻害されるとGABAなどの栄養成分の生成量が落ちること、発芽時間が10時間以下では発芽が充分に起こらないために栄養成分及び食感の改善が難しく、発芽時間が30時間以上になると過度な発芽により食餌繊維以外の栄養的価値が落ちること、発芽の際の温度設定でも 20℃以下の場合は一定の水準発芽するのに長い時間がかかり、温度が50℃より高い場合は玄米が発芽途中で腐敗する可能性が高いため好ましくないこと(1d)、発芽を充分に起こし過度な発芽も避けて、品質のよい発芽玄米を製造することで人体に有益な栄養成分の含量を増加させることができること(1d)が、記載されている。
そうすると、刊行物1発明について、発芽玄米に含まれる人体に有用な栄養成分の中でも特にγーアミノ酪酸の含量を増加させることを考えて、発芽条件である保温の温度や時間を最適化し、37℃で8?20時間に設定して、γーアミノ酪酸の含量を高めた発芽を促すことは、刊行物1の上記記載事項を参照して当業者が容易になし得たことである。

(本願発明の効果について)
刊行物1には、発芽玄米には通常の玄米よりも人体に有益な栄養成分であるγーアミノ酪酸を多く含んでいること(1b)、発芽前に搗精処理を行うと共に発芽条件も適切に設定することでGABAなどの多くの栄養成分を含んだ発芽玄米として機能させること(1d)、また、発芽条件を適切に設定することにより、良好な品質の発芽玄米を短時間で効率的に製造可能とし、また、栄養成分の含量も増加させたこと(1d)が記載されている。
したがって、本願発明の、70時間もの保温を必要とせず、かつ玄米のGabaの大きな収量を得ることができたとの効果は、刊行物1に記載された事項から当業者が予測し得た程度のものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶をすべきものである。
 
審理終結日 2012-05-23 
結審通知日 2012-05-29 
審決日 2012-06-11 
出願番号 特願2004-269929(P2004-269929)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三原 健治吉田 知美  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 菅野 智子
齊藤 真由美
発明の名称 発芽玄米の製造方法及びこれにより製造した発芽玄米  
代理人 鈴木 一永  
代理人 山本 典弘  
代理人 鈴木 正次  
代理人 涌井 謙一  

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