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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B05B
管理番号 1260704
審判番号 不服2010-24354  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-28 
確定日 2012-07-26 
事件の表示 特願2006-546824「粉末予熱装置が具備された低温スプレー装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月 7日国際公開、WO2005/061116、平成19年 6月28日国内公表、特表2007-516827〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本件出願は、2004年12月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年12月24日、大韓民国)を国際出願日とする出願であって、平成18年6月23日付けで特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出された後、平成18年8月18日付けで特許法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、図面及び要約書の翻訳文が提出され、平成18年9月4日付けで手続補正書が提出され、平成21年9月25日付けで拒絶理由が通知され、平成21年12月24日付けで意見書が提出されたが、平成22年6月15日付けで拒絶査定がなされ、平成22年10月28日付けで拒絶査定に対する審判請求がされ、さらに、当審において平成23年10月18日付けで拒絶理由が通知され、平成24年1月24日付けで意見書が提出されたものである。そして、本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、平成18年9月4日付けの手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに平成18年8月18日付けで提出された図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「 【請求項1】
主ガスと副ガス(主ガス側に供給されない残りのガス)の供給量を制御するガス制御部と、
前記ガス制御部のガス供給制御を通じて供給された主ガスを加熱するガスヒーターと、
前記ガス制御部の供給量制御により前記ガスヒーター側に供給されない残りのガス(副ガス)の供給を受け前記残りのガス(副ガス)と共にコーティング粉末を供給する粉末送給装置と、
前記粉末送給装置から供給されるコーティング粉末を予熱する粉末予熱装置と、
前記ガスヒーターから加熱された主ガスと前記粉末予熱装置から予熱されたコーティング粉末を混合する混合チャンバーと、
前記粉末予熱装置と前記ガスヒーターを制御して温度を調節する制御部、及び
前記混合チャンバーから混合されたコーティング粉末を噴射する噴射ノズルと、
を具備することを特徴とする粉末予熱装置が具備された低温スプレー装置。」

2.引用文献記載の発明及び技術
2-1.引用文献1記載の発明
(1)引用文献1の記載
当審の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-309364号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(a)「【0011】そこで、本発明の主たる目的は、低温高速溶射法の採用によって、基材表面に酸化物や分解生成物の含有が少ない緻密な溶射皮膜を高い密着性を確保して付着形成することにある。
【0012】また、本発明の他の目的は、基材表面に耐高温酸化性、耐食性、熱伝導性などの物理化学的性質に優れた溶射皮膜を被覆形成する有利な方法を提案することにある。」(段落【0011】及び【0012】)

(b)「【0013】
【課題を解決するための手段】上掲の目的に対し、その実現のために鋭意研究した結果、発明者らは、以下の要素構成に係る本発明に想到した。即ち、本発明は、被処理基材の表面に吹付け溶射材料の粒子を、温度を300℃以下という溶射法としては著しく低温に保持した状態で、飛行速度500m/s以上の高速溶射によって衝突させることにより付着させて、低温溶射皮膜を形成してなる低温溶射被覆部材である。
【0014】本発明において、上記低温溶射皮膜は、膜厚が3μm?10mm、酸化物含有量が酸素量として0.01未満?0.08wt%、気孔率が0.5%以下の性状を有し、表面の粗さRaが0.03?3μmの範囲内であり、そして、この皮膜中には熱処理によって析出する金属間化合物を分散含有していることが好ましい。
【0015】なお、本発明において、上記溶射材料粒子としては、
○1(当審注:原文は、「1」を丸で囲む。)融点が2000℃以下のIn、Sn、Zn、Te、Sb、Mg、Al、Sr、Ge、Ag、Au、Cu、Mn、Si、Ni、Co、Fe、Pa、Ti、Pt、Zr、Cr、Vから選ばれる1種の金属もしくは、2種以上からなる合金、
○2(当審注:原文は、「2」を丸で囲む。)または、TiC、WC、TaC、B_(4)C、SiC、ZrCおよびVCから選ばれる1種または2種の炭化物、TiN、ZrN、TaN、AlN、BN、Si_(3)N_(4)およびNbNから選ばれる1種または2種以上の窒化物、TiB_(2)、ZrB_(4)、CrB_(2)、NbB_(2)、WB_(2)(W_(2)B_(5))およびVB_(2)から選ばれる1種または2種以上の硼化物からなるセラミックス90?10wt%と残部が前記金属・合金とからなる非酸化物系サーメットを用いることが好ましい。
【0016】本発明は、被処理基材の表面に、金属・合金および/または非酸化物系サーメットからなる溶射材料粒子を、温度600℃以下の高速作動ガスを介して溶射する際、前記溶射材料粒子の温度を300℃以下の低温に保持した状態で、飛行速度500m/s以上の高速吹付けによる衝突力をもって付着させることによって、低温溶射皮膜を形成することを特徴とする低温溶射皮膜被覆部材の製造方法である。」(段落【0013】ないし【0016】)

(c)「【0018】
【発明の実施の形態】図1および図2は、本発明に係る低温溶射皮膜を形成するのに有効な装置の好適な実施例を示すものである。図示の1は、圧縮ガスボンベから供給される作動ガス源、2は溶射材料の供給器、3はガス加熱用熱交換器、4は溶射容器、5は噴射ガン、6はノズル、7は被処理体、8は消音器、9は作動ガス用主ガス管、10は溶射材料粉末搬送用の副ガス管、11は作動ガスの整流板、12、13はそれぞれのガス管に設けられた流量調整バルブである。
【0019】この装置は、ガス源から供給された高圧ガスを、2つに分け、その一方を作動ガスとして熱交換器に送って400?600℃に加熱し、超音速流の噴射ガスとしてノズル6から被処理体7に向けて噴射させる。この場合、断熱膨張に伴なう極端な低温化を防ぐように温度制御する。そして、他の一方のガスは、溶射粉末材料の搬送用ガスとして使用するが、噴射ガン5の直前で前記作動ガスと合流させ、(図1の場合)ノズル6中で超音速ガス流にして溶射材料粒子を高速度で被処理体に向けて飛行衝突させ、表面に喰い込むように楔着させながら肥厚化して、所定の厚みの溶射皮膜を形成する。また、図2のように、溶射材料粒子を噴射ガン5の出口(ノズル6の取付部近傍)の減圧部から投入してもよい。なお、超音速のガス発生部や被処理体は、鋼製の溶射容器4によって保護され、超音速ガスによって発生する衝撃波音は、消音器8の作用と相俟って外部には洩れないような構造にする。
【0020】使用する上記高圧ガスとしては、空気、N_(2)、ArあるいはHe単体のガスまたは、これらの混合ガスを使用することができ、また、これらのガスの圧力は1?4MPaの範囲内に制御することが好適である。
【0021】本発明において使用する溶射材粒子としての金属・合金は、融点が2000℃以下、好ましくは、1000℃以下、さらに好ましくは700℃以下を示す下記の実用金属に適用することが好適である。括弧内は、融点(℃)を示す。
In(157)、Sn(232)、Zn(420)、Te(450)、Sb(631)、Mg(651)、Al(660)、Sr(770)、Ge(936)、Ag(961)、Au(1063)、Cu(1083)、Mn(1244)、Si(1410)、Ni(1452)、Co(1493)、Y(1509)、Fe(1535)、Pa(1552)、Ti(1668)、Pt(1769)、Zr(1852)、Cr(1875)、V(1919)
【0022】また、サーメット溶射材料としては、前記金属またはそれらの合金と混在させる非金属化合物として、次のような非酸化物系セラミックスが好適である。
炭化物:TiC、WC、TaC、B_(4)C、SiC、ZrCおよびVCから選ばれた1種または2種以上
窒化物:TiN、ZrN、TaN、AlN、BN、Si_(3)N_(4)およびNbNから選ばれた1種または2種以上
硼化物:TiB_(2)、ZrB_(4)、CrB_(2)、NbB_(2)、WB_(2)(W_(2)B_(5))およびVB_(2)から選ばれた1種または2種以上
【0023】なお、上記非酸化物系サーメット溶射膜材料に添加する金属または合金類の添加量は、10wt%?90wt%の範囲が好適である。この理由は、金属質成分の量が10wt%未満では、炭化物、窒化物、硼化物などの硬質粒子による被処理体(基材)表面のブラスト作用が大きく、成膜することができないからである。また、90wt%以上の金属質を含む皮膜では、炭化物、窒化物、硼化物の特性が十分発揮されないからである。
【0024】溶射材料としての金属(合金)や非酸化物系サーメットの粒径は、1?50μmの範囲がよく、1μmより小さい粒子は、流動性が悪いため連続的にガス流体中へ投入することが困難であり、また50μmより大きい粒子では、衝突エネルギーが大きくなって被処理体表面を粗面化する現象が強く現れるため、均等で緻密な皮膜が得られないからである。」(段落【0018】ないし【0024】)

(d)「【0027】次に、図1の装置を用いて、低温高速作動ガスを駆動力として低温低速溶射皮膜を形成したときの各皮膜の特性とその成膜桟構の違いについて説明する。
【0028】この実験では、成膜用溶射材料としては、Al粉末(純度99.5%):粒径10?50μm、Cu粉末(純度99.8%):粒径10?45μm、Cr_(3)C_(2)(73%)-Ni(20%)-Cr(7%):粒径8?55μmを用い、被処理体(基材)としては、SS400(寸法50×100×6mmt)を用い、そして作動ガスとしては、高圧の圧縮空気を用い、図1の加熱器3によって500℃に加熱し、噴射ガンを通じて高速ガス流としたものを用いた。また、前記成膜用の溶射材料粉末は、粉末供給器2から供給して前記高速作動ガス流中へ添加した。なお、高速作動ガス中を飛行する粉末材料の速度は、バルブ12を調整することによって制御し、飛行速度はレーザー速度計を用いて測定した。
【0029】表1は、上記実験の結果を示すものであって、同一の溶射材料を用いた大気プラズマ溶射法によって得られた溶射皮膜と比較して示したものである。この結果から、次に示すようなことが判明した。すなわち、
○1(当審注:原文は、「1」を丸で囲む。) 低温の高速作動ガス流によって成膜するには、粒子の飛行速度を500m/s以上とすることが必要である。500m/s未満の速度では、基材表面がブラスト状態になるだけで、溶射皮膜が得られなかった。
○2(当審注:原文は、「2」を丸で囲む。) 成膜した溶射皮膜中の酸素含有量は、非常に少なく、ほぼ粉末材料中に含まれている程度の状態を維持している。これに対し、従来法に属するプラズマ溶射法では、高温の熱源と大気中の酸素によって甚しく酸化され、酸化物含有量の多い皮膜となっていた。
○3(当審注:原文は、「3」を丸で囲む。) 溶射皮膜の気孔率は、本発明に適合する低温の高速作動ガス流によって得られたものは、すべて0.3%程度の緻密な皮膜であるのに対し、大気プラズマ溶射皮膜では極めて多孔質であった。
【0030】これらのことから、従来の大気プラズマ溶射法では、溶射材料は飛行中に強い酸化反応を受けて、該粒子表面に酸化物を生成し、この酸化物が粒子の相互結合の妨げとなり、これが気孔の発生原因となっているものと考えられる。これに対し、本発明のような低温の高速作動ガスを用いる溶射法の下では、成膜用の粉末粒子は殆ど酸化せず、溶射材料が保有する物理化学的性質を全く変化させることなく、皮膜として利用することが可能であることがうかがえる。
【0031】
‥‥(中略)‥‥
【0032】次に、本発明では、溶射材料粒子の飛行速度を500m/s以上の超高速度とすることが必要である。この超高速溶射の下での成膜桟構については、表1に示す結果から次のように考えることができる。
○1(当審注:原文は、「1」を丸で囲む。) 500m/s未満の飛行速度で基材表面に衝突した粒子の運動エネルギーは、基材表面の変形と破壊のみに使用されて成膜に至らない。
○2(当審注:原文は、「2」を丸で囲む。) 500m/s以上の飛行速度で基材表面に衝突した粒子は、運動エネルギーが熱エネルギーに変化して瞬時に発熱し、軟化する。その結果、粒子は大きな変形能を受けて基材表面の微細な凹凸部へ強固に付着する。また、後続して衝突する粒子も同様の挙動を示すが、とくに先行して付着した粒子と基材との結合力が比較的弱い部分についてだけは、これをブラスト作用を発揮するので、皮膜として残存したものは、結果的に緻密で、密着性にも優れた皮膜のみとなる。」(段落【0027】ないし【0032】)

(e)「【0037】○2(当審注:原文は、「2」を丸で囲む。)熱源によって酸化したり分解したりしない(非酸化物系セラミックの場合)。
a:炭化物、窒化物、硼化物は溶射熱源中では、酸化したり、分解したりする。そのため、形成された溶射皮膜は、酸化物を含むと共に多孔質で耐熱性、耐摩耗性、耐食性に劣る。例えば、WCを溶射すると、W_(2)C、WO_(3)、CO_(x)(CO、CO_(2))となり、Cr_(3)C_(2)を溶射すると、Cr_(7)C_(3)、Cr_(2)O_(3)、CO_(x)(CO、CO_(2))となり、TiNを溶射するとTiO_(2)、NOx(NO、N_(2)O_(5))となり、そしてTiB_(2)を溶射するとTiO_(2)、BO_(2)となる。しかし、本発明の方法で得られる溶射皮膜は、酸化したり、分解することがないので、非酸化物系セラミックスが有するもともとの性質が変化することがなく、そのまま長時間にわたって、それぞれの機能を発揮させることができる。
b:皮膜表面の研削、研磨仕上面が良好であり、目的に応じてRa:0.03?3μmに調整可能である。
c:硬質のセラミックス粒子を溶射材料とすると、被処理体表面に深く喰いこむため、皮膜の密着性が非常に大きくなる。」(段落【0037】)

(f)「【0059】
【発明の効果】以上説明したように、低温-高速の作動ガスを駆動力として低温溶射して得た皮膜は、溶射材料粒子を酸化したり分解しないため、得られた溶射皮膜は酸化物や分解生成物が非常に少なく、ほぼ溶射材料の純度および化学成分に等しいものとなる。さらに、成膜に際し、大きな運動エネルギーによって衝突するため、皮膜が緻密になると共に、密着性にも優れた皮膜が形成される。このような低温溶射皮膜を被覆した部材は、同種・同質の溶射材料粒子を用いて形成された従来法に属する溶射皮膜のものに比較して、耐高温酸化性、耐食性、熱伝導性などの物理・化学的性質に優れた性能を発揮する。このため、現行の溶射皮膜が使用されている工業分野はもとより、より厳しくより優れた性能が求められる分野への新しい用途が期待できる。」(段落【0059】)

(2)引用文献1記載の事項
上記(1)(a)ないし(f)及び図1の記載を参酌すると、以下の事項が分かる。

(ア)(1)(a)ないし(c)及び図1の記載を参酌すると、低温溶射被膜を形成するのに有効な装置において、ガス源から供給された高圧ガスを作動ガスと搬送用ガスに分け、それぞれの供給量を流量調整バルブ12、13により制御可能であることが分かる。

(イ)(1)(c)及び(d)並びに図1の記載を参酌すると、低温溶射被膜を形成するのに有効な装置は、流量調整バルブ12を通じて供給された作動ガスを加熱するガス加熱用熱交換器3と、流量調整バルブ13から供給を受けた搬送用ガスと共に溶射粉末材料を供給する供給器2と、ガス加熱用熱交換器3から供給される加熱された作動ガスと供給器2から供給される溶射粉末材料を混合する噴射ガン5と、合流した溶射粉末材料を噴射するノズル6とを具備することが分かる。

(ウ)(1)(c)及び図1の記載を参酌すると、ガス加熱用熱交換器3にて作動ガスを加熱する際に、断熱膨張に伴う極端な低温化を防ぐように温度制御をするものであるから、ガス加熱用熱交換器3を制御して温度を調節する制御部を具備するものであることが分かる

(3)引用文献1記載の発明
上記(1)(a)ないし(f)、(2)(ア)ないし(ウ)並びに図1の記載を参酌すると、引用文献1には以下の発明が記載されているといえる。
「ガス源から供給された高圧ガスから分けられた作動ガスと搬送用ガスの供給量を制御する流量調整バルブ12、13と、
流量調整バルブ12を通じて供給された作動ガスを加熱するガス加熱用熱交換器3と、
流量調整バルブ13から供給を受けた搬送用ガスと共に溶射粉末材料を供給する供給器2と、
ガス加熱用熱交換器3から供給される加熱された作動ガスと供給器2から供給される溶射粉末材料を混合する噴射ガン5と、
ガス加熱用熱交換器3を制御して温度を調節する制御部、及び
合流した溶射粉末材料を噴射するノズル6と、
を具備する低温溶射被膜を形成するのに有効な装置。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

2-2.引用文献2記載の技術
(1)引用文献2の記載
当審の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-115248号公報(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(a)「【0009】
【発明の実施の形態】前述したように、第1発明に係る溶射方法によれば、溶射用材料が対象物に到達するまでに、溶射用材料の飛翔速度が増加するように、速度増加手段により溶射用材料にエネルギを付与する。溶射用材料の飛翔速度が増加すれば、溶射用材料が対象物に高速で衝突するようになり、対象物に対する溶射用材料の密着性が向上し、これにより溶射膜の密着強度を改善することができる。
【0010】好ましい形態によれば、溶射用材料を加熱した後に、速度増加手段により溶射用材料の飛翔速度を増加させる。即ち、溶射用材料を加熱する加熱位置を溶射用材料が通過した後に、溶射用材料の飛翔速度を増加させる。このように溶射用材料の飛翔速度を増加させる前に加熱すれば、溶射用材料を加熱する時間を確保することができる。
【0011】あるいは第1発明に係る溶射方法によれば、溶射用材料を加熱している間に、溶射用材料の飛翔速度を増加させる形態とすることもできる。場合によっては、溶射用材料の加熱が制約されるものの、溶射用材料の加熱前に、溶射用材料の飛翔速度を増加させる形態とすることもできる。」(段落【0009】ないし【0011】)

(b)「【0013】溶射用材料の材質は金属系が好ましい。特に金属粉末が好ましい。溶射用材料が金属系であれば、導電性をもつ。また、多くの金属は良好な透磁性をもつ。金属は、常温域で、強磁性体でも良いし、常磁性体でも良い。具体的には、溶射用材料を構成する金属としては、鋳鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、合金鋼等の鉄系を採用することができるが、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル系、チタン、チタン合金等の少なくとも1種で形成された非鉄系にすることもできる。
【0014】場合によっては、溶射用材料を構成する材質としては、セラミックス系、セラミックスと金属との混合物であるサーメット系を採用することもできる。セラミックスとしては酸化物系、窒化物系、炭化物系、ホウ化物系にでき、具体的にはアルミナ、シリカ、マグネシア、炭化珪素、窒化珪素、ホウ化チタン等の少なくとも1種を採用できる。溶射用材料がセラミックス系である場合であっても、溶射用材料が対象物に到達するまでの間において、溶射用材料の飛翔速度が増加するように溶射用材料にエネルギを付与すれば、対象物に衝突する溶射用材料の衝突速度が増加するため、溶射膜の密着強度の改善に有利となる。」(段落【0013】及び【0014】)

(c)「【0017】上記したように溶射用材料の加熱は第1のエネルギ源を用いて行われ、溶射用材料の速度の増加は第1のエネルギ源とは異なる第2のエネルギ源を用いて行われる形態を採用することができる。この場合には、第1のエネルギ源と第2のエネルギ源とをそれぞれ独立して調整すれば、溶射用材料の加熱と溶射用材料の速度の増加とを互いに独立して制御することができる。従って、溶射用材料の温度・速度を調整できる範囲を拡大することができる。すなわち、溶射用材料の飛翔速度を高速にしつつ溶射用材料の温度を高温にする形態、溶射用材料の飛翔速度を高速にしつつ溶射用材料の温度を低温にする形態、溶射用材料の温度を低めにしつつ溶射用材料の飛翔速度を高速化する形態等を任意に選択することができ、溶射膜の密着強度の改善に有利となる。」(段落【0017】)

(d)「【0028】
【実施例】(第1実施例)以下、第1実施例を図1?図5を参照して説明する。
【0029】まず、説明の便宜上、本実施例の溶射装置から説明する。図1に示すように、溶射装置は、粉末状の溶射用材料が通過する通路を形成する通路形成部材1と、通路形成部材1の通路を通過中の溶射用材料を加熱する加熱手段5(第1のエネルギ源)と、加熱手段5で加熱した溶射用材料の飛翔速度を加熱時点での飛翔速度よりも増加させる速度増加手段7(第2のエネルギ源)とを具備する。
【0030】溶射装置に係る通路形成部材1は、溶射用材料が通過する第1通路20を形成する第1通路形成部材として機能する溶射ガン2と、溶射用材料が通過する第2通路30を形成する管状の第2通路形成部材3とで形成されている。
【0031】溶射ガン2は、第1通路20に連通する高圧室23をもつガン本体22と、ガン本体22の先端部に設けられ高圧室23に連通するノズル孔24をもつノズル25とを備えている。ノズル25は、ジェットエンジン等の超音速ガス流体装置に使用されるラバルノズルで形成されている。図2に示すように、第2通路30の回りには高圧室23、第1通路20がほぼ同軸的配置で設けられており、第2通路30の出口31は溶射ガン2の第1通路20で包囲されている。
【0032】図1に示すように、第2通路形成部材3は、粉末供給装置8と溶射ガン2とを接続している。粉末供給装置8は、粉末室80をもつ容器81と、容器81の粉末室80に収容された粉末状の溶射用材料82と、容器81に設けられ容器81の粉末室80の内部の圧力を増加させる加圧部83とを備えている。溶射用材料82は、導電性及び透磁性をもち誘導加熱可能な鉄系の粉末(鉄-炭素系)とされている。
【0033】加圧部83を経て空気などの気体の圧力を容器81の粉末室80に作用させると、容器81内の粉末状の溶射用材料は、第2通路形成部材3の第2通路30内を飛翔しつつ、溶射ガン2へと搬送され、第2通路30の先端の出口31から吐出され、さらに溶射ガン2の第1通路20及びノズル25を経て前方に吹き出される。
【0034】溶射用材料を加熱するための加熱手段5は、電気を利用して溶射用材料を加熱するものであり、第2通路30の出口31側に位置する加熱位置30kに設けられている。この加熱手段5は、溶射ガン2の内部に治具2aにより加熱位置30kに設けられた誘導加熱コイルとして機能する導電コイル51と、導電コイル51に電流つまり交番電流を給電線52fを介して給電する給電手段52とを備えている。給電手段52は高周波の交番電流を発生させ得る高周波発振器で形成されている。導電コイル51は前記したように誘導加熱コイルとして機能するため、誘導加熱手段として働くものであり、コイル状に巻回されており、つまり、互いに直列に接続された複数の環状部51aで構成されている。
【0035】図2に示すように導電コイル51は、第2通路30の外側に位置しつつ第2通路30に対して同軸的となるように配置されている。すなわち、第2通路30を形成する第2通路形成部材3の出口31付近は、導電コイル51で包囲されている。従って導電コイル51に電流を給電すれば、導電コイル51の中心軸線に沿った、つまり、第2通路30の中心軸線に沿った磁力線が発生すると推察される。
【0036】前記した第2通路30を形成する第2通路形成部材3のうち、後述する導電コイル51で包囲されている部分は、石英系材料等の非導電性材料、あるいは、炭素系材料の導電性材料で形成することができる。導電性をもたない石英系材料等の非導電性材料は、実質的に誘導加熱されない。導電性をもつ炭素系材料等の導電性材料であれば、誘導加熱可能であり、高温(例えば1500℃以上、2000℃以上)となり、第2通路30を通過する溶射用粉末に輻射熱を伝達することもでき、輻射熱による溶射用材料の高温化にも貢献できる。
【0037】なお、第2通路30の内径は溶射用粉末の通過性、加熱性等の要因を考慮して適宜選択することができるが、例えば0.5?20mm、1?10mm、1?5mmにすることができる。但しこれに限定されるものではない。
【0038】前記した速度増加手段7は、第1のエネルギ源とは独立した第2のエネルギ源を利用して形成されている。図1に示すように、速度増加手段7は、高圧の気体を封入したガスボンベで形成された気体収容部70と、気体収容部70に中間通路70aを介して接続された圧縮機71と、圧縮機71に中間通路71aを介して接続され圧力増幅装置72とを備えている。圧力増幅装置72は、圧縮機71から供給された気体を加熱するための電気ヒータなどの加熱部73をもつ。
【0039】気体収容部70に収容されている気体は圧縮機71に連続的に送られ、圧縮機71で圧縮される。その後に、気体は圧力増幅装置72に送られ、圧力増幅装置72の加熱部73で高温に連続的に加熱される。このため気体は膨張し、気体の膨張圧は高圧となる。つまり気体の圧力は増幅される。このように圧力増幅装置72で増幅されて高圧となった気体は、中間通路72aを介して溶射ガン2の高圧室23に連続的に供給され、高速気流となって溶射ガン2の第1通路20を通過してノズル25から前方に連続的に吹き出される。
【0040】なお、気体収容部70に収容されている気体、つまり溶射用材料を増加させる際に使用する高速流体となる気体の種類としては、特に限定されず、例えばヘリウムガス、窒素ガス等の不活性のガス、空気、酸素ガス、水素ガス等の少なくとも1種を採用できる。ガス膨張による膨張圧を利用して高速流体を得ることを考慮すると、分子量が小さいガスが好ましく、例えばヘリウムガスが好ましい。コストを考慮すると空気が好ましい。
【0041】本実施例で用いる対象物9の被溶射面90は、予めブラスト処理(例えばショットブラスト処理、グリッドブラスト処理など)等の粗面化処理を施しておくことが好ましい。対象物9の材質は適宜選択できるが、一般的には金属にすることができる。金属としては、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金等の少なくとも1種からなる非鉄系、あるいは、鋳鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、合金鋼等の少なくとも1種からなる鉄系にすることができる。対象物9としては、摺動部品、ピストン、シリンダブロック、シリンダヘッド等を採用できるが、特に限定されるものではない。
【0042】次に溶射する場合について説明を加える。まず、図1に示すように、対象物9を溶射ガン2のノズル25の前方に配置し、対象物9と溶射ガン2のノズル25とを所定の間隔を隔てて対面させる。
【0043】また本実施例においては、給電手段52から導電コイル51に給電する。導電コイル51に給電する電流は交番電流(=交流)であり、高周波の交番電流である。周波数としては溶射用材料の材質、対象物9の材質、給電手段52に要するコスト等に応じて適宜選択することができる。導電コイル51に給電する周波数の上限値は例えば5000kHz、20MHz、100MHzにすることができ、周波数の下限値は例えば5KHz、20KHz、100KHz、200KHzにすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0044】また本実施例においては、溶射の際には、加圧部83を経て空気などの気体の圧力を容器81の粉末室80に作用させる。これにより容器81内の鉄系の粉末状の溶射用材料は第2通路形成部材3の第2通路30内を飛翔しつつ搬送される。更に、溶射用材料は、第2通路形成部材3の第2通路30の先端の出口31に至り、更に溶射ガン2の第1通路20及びノズル25を経て前方に吹き出される。本実施例においては、粉末状の溶射用材料が第2通路30の出口31付近つまり加熱位置30kを通過するときには、粉末状の溶射用材料は、導電コイル51により誘導加熱され、極く短時間のうちに高温となる。
【0045】溶射用材料の加熱温度は、導電コイル51に給電する電流の周波数などによっても相違するが、図8及び図9からも理解できるように、500℃以上、800℃以上、1000℃以上、1500℃以上、1700℃以上、2000℃以上、2400℃以上等のように任意の温度に容易に昇温させることができる。
【0046】本実施例においては、溶射の際には、気体収容部70の気体は圧縮機71に連続的に送られ、圧縮機71で圧縮された後に、圧力増幅装置72の加熱部73で高温に加熱されるため、気体の圧力は増幅され、溶射ガン2の高圧室23に高圧気体が連続的に送られ、高速気流がノズル25から前方に吹き出される。このため、導電コイル51により加熱位置30kにおいて高温に加熱された第2通路30の出口31付近の溶射用材料は、第2通路30の出口31から吐出されると、溶射ガン2の高圧室23からノズル25に向かう高速気流によりエネルギを付与されて加速される。つまり、溶射用材料の飛翔速度は、導電コイル51により加熱位置30kにおいて加熱された時点の飛翔速度よりも増加されてノズル25から吹き出される。すなわち本実施例においては、溶射用材料が対象物9に到達するまでに、溶射ガン2内の溶射用材料の飛翔速度が増加するように、溶射ガン2内の溶射用材料にエネルギを付与する。
【0047】増加された溶射用材料は、対象物9の被溶射面90に高速で衝突する。これにより溶射用材料が対象物9の被溶射面90に堆積し、溶射膜92が形成される。増加後の溶射用粉末の飛翔速度は、溶射用材料の種類、圧力増幅装置の種類等によっても相違するが、例えば400m/sec以上、500m/sec以上、600m/sec以上、700m/sec以上、800m/sec以上、900m/sec以上(例えば3000km/sec以下)にすることができる。ちなみに、速度増加手段7が設けられていない場合に比較して、速度増加手段7を設けた場合には、溶射用粒子の飛翔速度を1?70倍、5?100倍とすることができる。
【0048】以上説明したように本実施例においては、溶射用材料が対象物9に到達するまでに、溶射用材料の飛翔速度が増加するように、速度増加手段7により溶射用材料にエネルギを付与し加速させる。このためエネルギを付与された溶射用材料は、対象物9の被溶射面90に高速で衝突する。これにより溶射膜92の密着強度を高めることができる。
【0049】本実施例においては、加速された溶射用材料の飛翔速度は、加熱手段5により加熱位置30kにおいて加熱される飛翔速度よりも増加される。換言すれば、溶射用材料の加熱位置30kにおける飛翔速度は、加速後の飛翔速度よりも低いものである。このため、溶射用材料を目標温度域に加熱するのに要する時間を確保することができ、溶射用材料の加熱性を確保できる。
【0050】図5(A)は、対象物に形成された溶射膜の堆積形態の1例に係る写真を示す。図5(B)は倍率を大きくした場合である。本実施例に係る溶射方法を用いた場合には、図5(A)(B)に示すように、高速に加速された粒子状の溶射用材料が、対象物の被溶射面の表面よりも内方に位置するように、対象物の被溶射面に食い込んでいるのがわかる。これにより溶射膜の密着強度の向上を図り得る。溶射用材料の飛翔速度がかなり高速化されるためと推察される。」(段落【0028】ないし【0050】)

(e)「【0081】
【表1】
(当審注:表は省略するが、「実施例」の項に「○6(当審注:原文は、「6」を丸で囲む。)従来より使用されているプラズマ溶射法、HVOF溶射法よりも粒子温度が低温で、粒子速度が高速なレベル」との記載がある。)
【0082】上記した表1に示す条件を図13に示す。図13に示すように、試験条件では、溶射の際の粒子温度が2800K程度、粒子速度が240m/sec程度である。試験条件では、粒子温度が2000K程度、粒子速度が400m/sec程度である。試験条件では、粒子温度が1800K程度、粒子速度が200m/sec程度である。試験条件では、粒子温度が3400K程度、粒子速度が160m/sec程度である。試験条件?は比較例に相当する。試験条件は高速化されており、実施例に相当する。
【0083】実施例に係る試験条件では、粒子温度が3600K程度と高温であり、粒子速度が620m/sec程度と高速である。実施例に係る試験条件では、粒子温度が1000K未満と低温であり、粒子速度が780m/sec程度と高速である。粒子温度、粒子速度は、飛翔する粒子の温度を測定する機能と、粒子の飛翔速度を測定する機能とを備えた前記した測定装置97(溶射粒子温度・速度測定装置)により求めた。
【0084】更に表1及び図13に示す条件に基づいて形成した溶射膜の気孔率、密着強度を測定した。この場合には、対象物9はアルミニウム合金(JIS-AC2C)であり、溶射用材料はガスアトマイズで製造した鉄-炭素系粉末(炭素:1質量%)とし、溶射膜の厚みは0.2mmとした。
【0085】溶射膜の気孔率はレーザ顕微鏡における画像処理により測定した。密着強度は、溶射膜を被覆した所定の試験片を用い、溶射膜と対象物9との界面に沿って溶射膜にパンチにより外力を付加し、溶射膜が剥離したときの外力に基づいて、せん断密着強度として求めた。気孔率の試験結果を図14に示す。溶射膜の密着強度の試験結果を図15に示す。
【0086】図14に示すように、比較例に係る試験条件およびによれば、気孔率は8%以上であり高かった。殊に試験条件によれば、気孔率は20%以上であり、高かった。その理由は、粒子速度が遅く且つ粒子温度が低温であるためと推察される。これに対して実施例に係る試験条件およびによれば、気孔率は2%以下であり、低かった。溶射用材料の粒子速度が速いため、緻密化したものと推察される。
【0087】また図15に示すように、比較例に係る試験条件およびによれば、溶射膜の密着強度は必ずしも満足できる値ではなかった。殊に試験条件によれば、密着強度は34MPa程度であり、低かった。その理由は、粒子速度が遅く且つ粒子温度が低温であるためと推察される。これに対して実施例に係る試験条件およびによれば、溶射膜の密着強度は100MPaを超えており、かなり高かった。その理由は粒子速度が速いためであると推察される。実施例に係る試験条件ととを比較すると、実施例に係る試験条件は、粒粒子温度が800K程度ともっとも低温であるにもかかわらず、試験条件の密着強度に近い値をもつ優れた密着強度が得られた。このことから、溶射膜の密着強度を高めるためには、溶射用粉末材料の飛翔速度の高速化が有効であることがわかる。
【0088】(試験例6)上記した表1及び図に基づいた条件に基づいて形成した溶射膜の硬さ(ビッカース硬さ:荷重0.098N=10gf)を求めた。この場合には、水アトマイズにより製造した鉄-炭素系粉末(炭素:1質量%)を溶射用材料とした。溶射する前の溶射用材料は、組織がベイナイト組織であり、硬度がHv600程度であった。溶射膜の硬さの結果を図16に示す。本実施例に係る試験条件で製造した溶射膜の場合には、溶射膜の硬さはHv500を超えていた。試験条件で製造した溶射膜の場合には、粒子速度が700m/secを越えており、かなり高速であるものの、粒子温度が800K程度と低温であるため、溶射粉末の溶融は発生せず、溶射処理前の溶射用材料の組織、特性を維持し易いためであると推察される。」(段落【0081】ないし【0088】)

(2)引用文献2記載の技術
上記(1)(a)ないし(e)並びに図1ないし4、8、9及び13ないし15の記載を参酌すると、引用文献2には以下の技術が記載されているといえる。

「低温で予熱した溶射用材料の粉末を加熱された高速気流と混合してノズルから噴射することで溶射膜を形成することにより、溶射粉末の溶融を発生させず、溶射処理前の溶射用材料の組織、特性を維持しつつ、溶射膜の密着強度を高めるという技術。」(以下、「引用文献2記載の技術」という。)

3.対比
本願発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「作動ガス」は、その機能からみて、本願発明における「主ガス」に相当する。また、引用文献1記載の発明において、「作動ガスと搬送ガス」は「ガス源から供給された高圧ガスから分けられた」ものであるから、「搬送ガス」は作動ガス側に供給されない残りのガスであるということができ、本願発明における「副ガス(主ガス側に供給されない残りガス)」に相当する。
そして、引用文献1記載の発明における「ガス源から供給された高圧ガスから分けられた作動ガスと搬送用ガスの供給量をそれぞれ制御する流量調整バルブ12、13」と、本願発明における「主ガスと副ガス(主ガス側に供給されない残りのガス)の供給量を制御するガス制御部」は、主ガスと副ガス(主ガス側に供給されない残りのガス)の供給量を制御するガス供給量制御手段であるという限りにおいて相当する。
また、引用文献1記載の発明における「ガス加熱用熱交換器3」は、その構成及び機能からみて、本願発明における「ガスヒーター」に相当し、以下同様に、「溶射粉末材料」は「コーティング粉末」に、「供給器2」は「粉末送給装置」に、「ノズル6」は「噴射ノズル」に、「低温溶射被膜を形成するのに有効な装置」は「低温スプレー装置」にそれぞれ相当する。
さらに、引用文献1記載の発明における「ガス加熱用熱交換器3から供給される加熱された作動ガスと供給器2から供給される溶射粉末材料を混合する噴射ガン5」と、本願発明における「前記ガスヒーターから加熱された主ガスと前記粉末予熱装置から予熱されたコーティング粉末を混合する混合チャンバー」は、「ガスヒーターから加熱された主ガスとコーティング粉末を混合する混合チャンバー」という限りにおいて相当する。
そしてまた、引用文献1記載の発明における「引用文献1記載の発明における「ガス加熱用熱交換器3を制御して温度を調節する制御部」と、本願発明における「前記粉末予熱装置と前記ガスヒーターを制御して温度を調節する制御部」とは、「ガスヒーターを制御して温度を調節する制御部」という限りにおいて相当する。

したがって、本願発明と引用文献1記載の発明とは、
「 主ガスと副ガス(主ガス側に供給されない残りのガス)の供給量を制御するガス供給量制御手段と、
前記ガス供給量制御手段のガス供給制御を通じて供給された主ガスを加熱するガスヒーターと、
前記ガス供給量制御手段の供給量制御により前記ガスヒーター側に供給されない残りのガス(副ガス)の供給を受け前記残りのガス(副ガス)と共にコーティング粉末を供給する粉末送給装置と、
前記ガスヒーターから加熱された主ガスとコーティング粉末を混合する混合チャンバーと、
ガス加熱用熱交換器3を制御して温度を調節する制御部、及び
前記混合チャンバーから混合されたコーティング粉末を噴射する噴射ノズルと、
を具備する低温スプレー装置。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
(1)主ガスと副ガス(主ガス側に供給されない残りのガス)の供給量を制御するガス供給量制御手段に関し、本願発明においては、「主ガスと副ガス(主ガス側に供給されない残りのガス)の供給量を制御するガス制御部」を具備するのに対して、引用文献1記載の発明においては、「ガス源から供給された高圧ガスから分けられた作動ガスと搬送用ガスの供給量をそれぞれ制御する流量調整バルブ12、13」を具備する点(以下、「相違点1」という。)。
(2)本願発明においては、「粉末送給装置から供給されるコーティング粉末を予熱する粉末予熱装置」を具備し、ガスヒータから加熱された主ガスと前記粉末予熱装置から予熱されたコーティング粉末を混合チャンバーにおいて混合するとともに、前記粉末予熱装置は制御部で制御され温度を調節するのに対して、引用文献1記載の発明においては、溶射粉末材料を予熱せずにガス熱交換器3から供給される加熱された作動ガスと混合される点(以下、「相違点2」という。)。

4.判断
(1)相違点1について
上記相違点1について検討すると、引用文献1記載の発明における「ガス源から供給された高圧ガスから分けられた作動ガスと搬送用ガスの供給量を制御する流量調整バルブ12、13」をまとめてガス制御部とすることで、相違点1に係る本願発明の特定事項のようにすることは、当業者が格別な創意工夫を要することなく必要に応じて適宜設定しうる程度のものである。

(2)相違点2について
上記相違点2に関し、溶射用材料の粉末を低温で加熱し、加熱された高速気流と混合してノズルから噴射することで溶射膜を形成することにより、溶射粉末の溶融を発生させず、溶射処理前の溶射用材料の組織、特性を維持しつつ、溶射膜の密着強度を高めることは、上記したように引用文献2記載の技術として、本願の優先日前に公知となった事項である。
そして、「低温高速溶射法の採用によって、基材表面に酸化物や分解生成物の含有が少ない緻密な溶射被膜を高い密着性を確保して付着形成すること」(上記2-1(1)(a))を目的とする引用文献1記載の発明において、上記引用文献2記載の技術を適用して、上記相違点2に係る本願発明の特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願発明を全体としてみても、本願発明の奏する効果は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術から当業者が予想できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

なお、請求人は平成24年1月24日付けの意見書において、「本願発明と刊行物2を対比すると、刊行物2では溶射方法、即ち、コーティング粉末(材料)を溶融された状態まで加熱して噴射する方法が開示されており、本願発明のように低温高速噴射方法とは技術分野に差異があ」る旨、「刊行物2が溶射方法に関するものであるということは、セラミック素材をコーティング粉末として用いることができるという内容(刊行物2[0014]段落参照)及び、加熱温度を1000℃以上にできる(刊行物2[0051]段落参照)という内容から分か」る旨を主張している。しかし、上記したように、引用文献2には、溶射用材料の粉末を低温で加熱することにより、溶射粉末の溶融を発生させず、溶射処理前の溶射用材料の組織、特性を維持しつつ、溶射膜の密着強度を高めるという技術が記載されているから、請求人の上記主張は失当である。
また、請求人は同意見書において、本願発明はガスと粉末を混合する前に粉末を予熱する手段を備える点で、引用文献2記載の技術とは異なる旨を主張している。しかし、引用文献1記載の発明は、搬送用ガスと溶射粉末材料を混合した後に噴射ガン5において作動ガスと混合するものであるから、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の技術を適用する際に、搬送用ガスと溶射粉末材料を混合した後に、溶射粉末材料を予熱するようにすることは、単なる設計上の事項にすぎない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-27 
結審通知日 2012-02-28 
審決日 2012-03-13 
出願番号 特願2006-546824(P2006-546824)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌人  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 岡崎 克彦
柳田 利夫
発明の名称 粉末予熱装置が具備された低温スプレー装置  
代理人 好宮 幹夫  

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