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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M |
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管理番号 | 1260816 |
審判番号 | 不服2009-25091 |
総通号数 | 153 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-12-18 |
確定日 | 2012-07-31 |
事件の表示 | 平成10年特許願第545797号「アルキルホスホネートを含有する動力伝達液」拒絶査定不服審判事件〔平成10年10月29日国際公開、WO98/47989、平成14年1月15日国内公表、特表2002-501560〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は1998年3月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年4月21日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、 平成20年5月22日付けの拒絶理由通知に対し、平成20年12月3日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、 平成21年8月12日付けの拒絶査定に対し、平成21年12月18日付けで審判請求がなされ、さらに、平成22年2月15日付けで審判請求書の請求の理由を補正するための手続補正書の提出、及び平成22年6月15日付けで上申書の提出がなされ、 平成23年7月29日付けの審判合議体による拒絶理由通知に対し、平成24年2月1日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされたものである。 そして、本願請求項1?8に係る発明は、平成20年12月3日付けの手続補正及び平成24年2月1日付けの手続補正により補正された明細書(以下、当該補正後の明細書を「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。 また、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「(1)多量の潤滑油;及び(2)抗震動性を改善するのに有効量の、以下を含む添加剤の組合わせ: (a)下記式を有する油溶性アルキルホスホネート: (式中、Rは、C_(8)からC_(30)のアルキル、R_(1)はC_(1)からC_(20)のアルキル、及びR_(2)はC_(1)からC_(20)のアルキルである。) (b)無灰分散剤;及び (c)過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤: の混合物を含む自動変速機作動液を有効量使用することにより、連続スリップ式トルクコンバータークラッチを有する自動変速機装置の抗震動持続性を改善する方法。」 2.審判合議体による拒絶の理由 平成23年7月29日付けの審判合議体による拒絶の理由は、理由2として『この出願の請求項1?11に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。』という理由を含むものである。 3.引用刊行物及びその記載事項 (1)刊行物1 本願優先権主張日前に頒布された刊行物であって、上記審判合議体による拒絶理由通知において「刊行物1」として引用された「特開平9-3470号公報」には、次の記載がある。 摘記1a:請求項1、17、19、23、及び24 「【請求項1】 機能流体および潤滑剤添加剤パッケージとして使用する組成物であって、該組成物は、以下の(A)および(B)を含有する: (A)以下からなる群から選択した3種の化合物:アルコキシル化脂肪アミン、ホウ酸塩化脂肪エポキシド、脂肪亜リン酸エステル、脂肪エポキシド、脂肪アミン、ホウ酸塩化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ酸塩化グリセロールエステル、および脂肪イミダゾリン;および (B)リン含有酸、リン含有酸塩、リン含有酸エステル、またはそれらの誘導体またはそれらの混合物。… 【請求項17】 潤滑組成物または機能流体組成物であって、該組成物は、以下の(A)、(B)、(C)および(D)を含有する: (A)主要量の潤滑粘性のあるオイル; (B)3種の摩擦調整剤であって、該摩擦調整剤は、以下からなる群から選択される:アルコキシル化脂肪アミン、ホウ酸塩化脂肪エポキシド、脂肪亜リン酸エステル、脂肪エポキシド、脂肪アミン、ホウ酸塩化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ酸塩化グリセロールエステル、および脂肪イミダゾリン; (C)リン含有酸、リン含有酸塩、リン含有酸エステル、またはそれらの誘導体またはそれらの混合物;および (D)有機酸のオーバーベース化アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩。… 【請求項19】 前記金属塩が、約25と200の間のTBNを有するスルホン酸カルシウムである、請求項17に記載の組成物。… 【請求項23】 さらに、分散剤-粘度改良剤および/または粘度指数改良剤を含有する、請求項17に記載の組成物。 【請求項24】 潤滑組成物または機能流体組成物であって、該組成物は、以下の(A)、(B)、(C)、(D)および(E)を含有する: (A)主要量の潤滑粘性のあるオイル; (B)3種の摩擦調整剤であって、該摩擦調整剤は、以下からなる群から選択される:アルコキシル化脂肪アミン、ホウ酸塩化脂肪エポキシド、脂肪亜リン酸エステル、脂肪エポキシド、脂肪アミン、ホウ酸塩化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ酸塩化グリセロールエステル、および脂肪イミダゾリン; (C)リン含有酸、リン含有酸塩、リン含有酸エステル、またはそれらの誘導体またはそれらの混合物; (D)有機酸のオーバーベース化アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩;および (E)カルボン酸アシル化剤およびアミンの反応生成物。」 摘記1b:段落0005?0006及び0009?0010 「次いで、この基油には添加剤が配合されるが、配合される添加剤は、この流体を配合する者が獲得しようと努めている性質に依存する。添加剤は、一般に、大体、2つの群、すなわち、以下に挙げた化学的に活性な添加剤および化学的に不活性な添加剤に分けられ得る: 化学的に活性な添加剤 化学的に不活性な添加剤 酸化防止剤 粘度改良剤 腐食防止剤 摩擦調整剤 錆防止剤 消泡剤 耐摩耗剤 流動点降下剤 分散剤 清浄剤 シール膨潤剤。 … 化学的に活性な添加剤と化学的に不活性な添加剤との間の境界線は、それほど明瞭ではないことに注目しなければならない。また、添加剤は、おそらく多機能性であり、便宜上、上記のように分類しているにすぎない。… 本発明は、ATFに配合したとき、該ATFを充填したATの耐震動性能および震動永続性能を改良する、摩擦調整剤添加剤パッケージを含有する。この添加剤パッケージは、以下のAおよびBを含有する: A.スルホン酸塩、フェネート、サリチル酸塩、カルボン酸塩およびそれらの混合物からなる群から選択したオーバーベース化アルカリ金属塩成分またはアルカリ土類金属塩成分;および B.摩擦調整剤であって、該摩擦調整剤は、アルコキシル化脂肪アミン、および以下からなる群から選択した2種の摩擦調整剤を含有する:脂肪亜リン酸エステル、脂肪エポキシド、ホウ酸塩化脂肪エポキシド、脂肪アミン、ホウ酸塩化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸アミド、脂肪酸の金属塩、グリセロールエステル、ホウ酸塩化グリセロールエステル、および脂肪イミダゾリン。… 本発明の添加剤パッケージの重要な特徴は、摩擦調整剤の1成分としてアルコキシル化脂肪アミンを選択すること、および非ホウ酸塩化オーバーベース化金属塩を使用することにある。」 摘記1c:段落0001?0002及び0022?0023 「自動変速機(AT)の…震動(shudder)…は、該変速機において、本発明の機能流体を使用することにより、大きく低減されるかまたは取り除かれる。…自動変速機油(ATF)は、当該技術分野で周知である。… この添加剤パッケージで調製したATFは、連続スリップトルク変換器クラッチを有するATで用いたとき、震動に対して特に効果的である。 この添加剤パッケージ組成物は、数種の摩擦調整剤と、スルホン酸塩、フェネート、サリチル酸塩、カルボン酸塩およびそれらの混合物からなる群から選択したオーバーベース化アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩との混合物を含有し、これは、潤滑粘性のあるオイルに溶解したとき、震動特性および震動永続特性が著しく改良されたATFを提供する。」 摘記1d:段落0082?0083、0150?0152及び0157 「B.摩擦調整剤 このパッケージの第二の成分は、摩擦調整剤である。この摩擦調整剤は、アルコキシル化脂肪アミン、および以下からなる群から選択した2種の摩擦調整剤を含有する:脂肪亜リン酸エステル、脂肪エポキシド、ホウ酸塩化脂肪エポキシド、脂肪アミン、ホウ酸塩化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸アミド、脂肪酸の金属塩、グリセロールエステル、ホウ酸塩化グリセロールエステル、脂肪イミダゾリンおよびそれらの混合物。… 1.この亜リン酸エステルは、一般に、式(RO)_(2)PHOである。先の式に示すような、好ましいジアルキル化亜リン酸エステルは、典型的には、少量の式(RO)(HO)PHOのモノアルキル化亜リン酸エステルと共に存在する。… 最終の添加剤パッケージに特性を与え得る他の成分には、亜リン酸ジブチル耐摩耗剤(これは、この最終ATFの重量を基準にして、0.1?5重量%の範囲で含まれる);スルホネートまたはその等価物を含有する合成のシール膨潤剤(これは、この最終ATFの重量を基準にして、0.1?5重量%の量で含まれる)がある。… この潤滑組成物はまた、少なくとも1種のリン含有酸、それらのエステルまたは誘導体を含有し得る。このリン含有酸、それらのエステルまたは誘導体には、リン含有酸エステル…が挙げられる。…このリン含有酸には、…ホスホン酸、…が挙げられる。… この最終ATF配合物には、また、オイルを含有しない基準で、この最終配合物の約20重量%までの重量%で、分散剤またはその混合物が含有される。分散剤は、一般に、油溶性要素(例えば、ポリブテン)、極性基(例えば、ポリアミンまたはポリアルコールまたはそれらの混合物)、および前記2者を結合する架橋部分を含有する。この架橋部分は、通常、無水コハク酸分子などである。このポリブテンは、好ましくは、1000?2000の数平均分子量Mnを有するポリイソブチレンであるが、500?4000のMnが有用であり得る。」 摘記1e:段落0263 「他の合成潤滑油には、リン含有酸の液状エステル(例えば、リン酸トリクレシル、リン酸トリオクチル、デカンホスホン酸のジエチルエステルなど)、重合したテトラヒドロフランなどが包含される。」 摘記1f:段落0269?0271 「以下の表1は、本発明の組成物を含む配合ATFの好ましい組成の例を示す。… 【表1】 成分 範囲 潤滑粘性のあるオイル 主要量 45?90% アルコキシル化脂肪アミン 0.05?8% 他の摩擦調整剤(それぞれ) 0.01?4% 酸化防止剤 12%まで オーバーベース化金属有機酸塩 20%まで 分散剤 20%まで 粘度指数改良剤および/または 40%まで 分散剤-粘度改良剤 極圧剤 5%まで シール膨張剤 5%まで 85%リン酸 3%まで … 【発明の効果】本発明によれば、自動変速機油に耐震動摩擦永続性能を与え、機能流体および潤滑剤添加剤パッケージとして使用する組成物を提供することができる。本発明の組成物は、耐震動試験および耐震動永続性試験において、市販のATFよりも非常に優れていた。本発明の組成物は、潤滑剤および機能流体用の添加剤として有用であり、特に、自動変速機油のトルク特性を高めるために、自動変速機油用の添加剤とてして有用である。」 (2)刊行物2 本願優先権主張日前に頒布された刊行物であって、上記審判合議体による拒絶理由通知において「刊行物2」として引用された「特開平2-289691号公報」には、次の記載がある。 摘記2a:第1頁右下欄第16行?第2頁左下欄第15行 「燐酸のエステルは、耐摩耗性を付与するために潤滑剤に使用される。今回機能的液体の用途、例えばエステルをアルケニルサクシンイミド-サクシンアミド型の無灰分分散剤を含む油混合物を用いる場合の自動車の変速装置液(ATF)において、該液体はそれが安定な動的及び静的トルク特性を与える前に長期の試運転期間を経ねばならないということが発見された。… 本発明の方法で用いる燐酸エステルは、ジヒドロカルビルホスフアイト及びホスホネートエステルの双方を含むことができる。… 本発明に従つて使用しうるホスホネートエステルは、式R-PO(OR)_(2)(但しR基は普通炭素数1?30、好ましくは1?20の同一の又は異なるヒドロカルビル基)で表わすことのできるヒドロカルビルホスホン酸のジヒドロカルビルエステルである。この種の化合物の例は、ジメチルオクタデカンホスホネート、ジメチルオクタデセンホスホネート、ジエチルドデカンホスホネート、ジブチルテトラデカンホスホネート…などを含む。」 摘記2b:第3頁右上欄第16行?右下欄第14行 「本発明の実施において使用しうるアルコキシル化アミンは好ましくはエトキシル化又はプロポキシル化された1級脂肪族アミンである。…アルコキシル化アミン(随意):0.01?1;好ましくは0.1?0.2;」 摘記2c:第4頁右上欄第3行?左下欄第2行 「自動車の変速装置液に用いるのに適当な基油は技術的に公知であり、…精製鉱油及び合成油例えば液体の2-オレフイン重合体…を含む。他の典型的なATF添加剤は…(2)摩擦改変剤及び耐摩耗剤例えば硫化された脂肪族エステル、長鎖アミド及び長鎖アミン、…(7)洗浄剤例えば中性の及び過塩基性のアルキルベンゼンスルホン酸又はフエノールの塩…を含む。」 摘記2d:第5頁右上欄第1行?下から2行 「 第1表 時間(時) 実施例1 対照例 S T D T S T D T … 2 117 135 128 128 … 20 121 137 141 142 … このトルクのデータから、実施例1の混合物は約2時間後に試運転を達成した、即ちトルク値が経時的に比較的一定になった。」 (3)刊行物3 本願優先権主張日前に頒布された刊行物であって、審判合議体による拒絶理由通知において「刊行物3」として引用された「特開昭54-154406号公報」には、次の記載がある。 摘記3a:第2頁右上欄第6行?右下欄第10行 「ホスホネート添加剤は、過去において潤滑油組成物中にすでに使われた。例えば、英国特許第1247541号明細書には、ギヤオイルおよび自動変速流体(automatic transmission fluid)中におけるホスホネート類が開示されている。… (式中R^(1)は、炭素数約12?30のアルキルまたはアルケニル基であり、R^(2)およびR^(3)は、炭素数約1?4の低級アルキル基である)を有するホスホネート類の1種または混合物を含有する。… 最も好ましい添加剤は、ジメチルオクタデシルホスホネートである。 前記ホスホネートは、クランクケース内において、潤滑油の介動で稼働しているエンジンの摩擦を低下させる量で油に添加される。有用な濃度は約0.05?3重量%である。」 摘記3b:第6頁右上欄第7?18行 「基油およびジエチルオクタデシルホスホネート1%含有基油を用いて、数回これを繰返した。基油は、無灰分散剤としてのエチレンポリアミンのポリイソブチルこはく酸イミドおよび過塩基化アルカリールスルホン酸カルシウム清浄剤を含有する完全配合の市販クランクケース用潤滑油であつた。ジエチルオクタデシルホスホネートを添加した場合、…惰力運転停止時間(coast-down time)が2.7%延長された。このことは、エンジン摩擦の低減が顕著であることを示している。」 (4)刊行物4 本願優先権主張日前に頒布された刊行物であって、上記審判合議体による拒絶理由通知において「刊行物4」として引用された「特開平7-268375号公報」には、次の記載がある。 摘記4a:段落0005及び0007 「スリップ制御式ロックアップクラッチにおいては、相対すべり速度の減少に伴って摩擦係数が増加する場合に、シャダーが発生し易くなる。したがって、シャダーの発生を防ぐためには、ATFには、低速すべり性能に優れていること、すなわち、すべり速度の増加と共に摩擦係数が高くなるような摩擦特性と高トルク容量(高摩擦係数)が要求される。しかも、このような摩擦特性は、自動変速機内に使用されている機械部品(特に摩擦材)がATFになじむ前から、自動車走行距離が10万km以上となるまでの長期間、安定していなければならない。しかしながら、従来のATFは、μ(摩擦係数)-V(すべり速度)特性の良好な摩擦特性を欠如し、スリップ制御機構付き自動変速機用潤滑油として、シャダー防止性能及びその耐久性がいまだ不十分である。… 本発明者は、潤滑油基油に、…りん酸エステル…を必須成分としてを含有させることにより、…自動車走行距離が10万km以上となるまでの長期間、優れたシャダー防止性能を発揮し、しかも高トルク容量を有する潤滑油組成物が得られることを見い出し、その知見に基づいて本発明を完成するに至った。」 摘記4b:段落0060及び0064 「 …(5)*2:過塩基性Caスルフォネート(炭酸塩;塩基価300mgKOH/g)」 (5)刊行物5 本願優先権主張日前に頒布された刊行物であって、審判合議体による拒絶理由通知において「刊行物5」として引用された「特開平7-305082号公報」には、次の記載がある。 摘記5a:段落0022、0031及び0043 「〔A〕成分の作用は、金属摩擦表面に反応被膜を形成して、ATFに良好な摩擦特性を付与することにある。… 〔B〕成分は、摩耗防止剤としての作用を有する。… 〔C〕成分は、摩擦調整剤としての作用を有しており、」 摘記5b:段落0044 「本発明の潤滑油組成物は、これら〔A〕及び〔B〕に〔C〕を共存させて、3成分を必須成分として含有させることにより、ATFとして使用した場合、初期から優れた摩擦・摩耗特性を示し、しかも初期シャダー防止性能に優れ、特にスリップ制御機構付き自動変速機のシャダー防止にとって顕著な効果を奏する。本発明の自動変速機用潤滑油組成物には、必要に応じて、…無灰分散剤、金属系洗浄剤…などを適宜添加することができる。」 4.刊行物1に記載された発明 刊行物1には、その請求項17を引用する従属形式の請求項19及び23に記載されたとおりの発明、並びにその請求項24に記載されたとおりの発明が記載されている(摘記1a)。 そして、摘記1bの『化学的に活性な添加剤(耐摩耗剤)と化学的に不活性な添加剤(摩擦調整剤)との間の境界線は、それほど明瞭ではないことに注目しなければならない。また、添加剤は、おそらく多機能性であり、便宜上、上記のように分類しているにすぎない。』との記載、及び刊行物1の請求項1の「(A)以下からなる群から選択した3種の化合物:アルコキシル化脂肪アミン」との記載(摘記1a)を参酌すると、 刊行物1の請求項17及びその従属項に記載された発明、若しくはその請求項24に記載された発明の「(B)3種の摩擦調整剤であって、該摩擦調整剤は、以下からなる群から選択される:アルコキシル化脂肪アミン」との記載事項について、その「摩擦調整剤」という「添加剤」の「分類」は便宜上のものであると解されるから、当該記載事項は、刊行物1の請求項1に記載された事項と同様に『(B)以下からなる群から選択した3種の化合物:アルコキシル化脂肪アミン』を実質的に意味しているものと認められる。 また、摘記1cの「自動変速機(AT)…自動変速機油(ATF)は、当該技術分野で周知である。…この添加剤パッケージで調製したATFは、連続スリップトルク変換器クラッチを有するATで用いたとき、震動に対して特に効果的である。…震動特性および震動永続特性が著しく改良されたATFを提供する。」との記載からみて、 刊行物1の請求項17及びその従属項に記載された発明、若しくはその請求項24に記載された発明の「機能流体組成物」は、具体的には「自動変速機油(ATF)」を意味しているものと認められ、刊行物1の請求項1、17、19、23、及び24の一群の発明を含む刊行物1に記載された技術的思想の創作は、実質的に『連続スリップトルク変換器クラッチを有する自動変速機(AT)で用いたとき、震動特性および震動永続特性を著しく改良する添加剤パッケージで調製した自動変速機油(ATF)の提供』を意図したものを含むものと認められる。 さらに、摘記1dの「分散剤は、一般に、油溶性要素(例えば、ポリブテン)、極性基(例えば、ポリアミンまたはポリアルコールまたはそれらの混合物)、および前記2者を結合する架橋部分を含有する。この架橋部分は、通常、無水コハク酸分子などである。」との記載からみて、 刊行物1の請求項23に記載された発明の「分散剤-粘度改良剤および/または粘度指数改良剤」、及び同請求項24に記載された発明の「(E)カルボン酸アシル化剤およびアミンの反応生成物」は、具体的には『(E)分散剤(ポリブテンとポリアミンを結合する架橋部分として無水コハク酸分子を含有するもの)』を意味するものと認められる。 してみると、刊行物1には、 『連続スリップトルク変換器クラッチを有する自動変速機(AT)で用いたとき、震動特性および震動永続特性を著しく改良する添加剤パッケージで調製した自動変速機油(ATF)の提供であって、 (A)主要量の潤滑粘性のあるオイル; (B)以下からなる群から選択した3種の化合物:アルコキシル化脂肪アミン、ホウ酸塩化脂肪エポキシド、脂肪亜リン酸エステル、脂肪エポキシド、脂肪アミン、ホウ酸塩化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ酸塩化グリセロールエステル、および脂肪イミダゾリン; (C)リン含有酸、リン含有酸塩、リン含有酸エステル、またはそれらの誘導体またはそれらの混合物; (D)約25と200の間のTBNを有するスルホン酸カルシウムである有機酸のオーバーベース化アルカリ土類金属塩;および (E)分散剤(ポリブテンとポリアミンを結合する架橋部分として無水コハク酸分子を含有するもの): を含有する添加剤パッケージで調製したATFの提供。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 5.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 まず、引用発明の「(A)主要量の潤滑粘性のあるオイル;」は、本願発明の「(1)多量の潤滑油;」に相当し、 引用発明の「連続スリップトルク変換器クラッチを有する自動変速機(AT)」は、本願発明の「連続スリップ式トルクコンバータークラッチを有する自動変速機装置」に相当し、 引用発明の「震動特性および震動永続特性を著しく改良する添加剤パッケージで調製した自動変速機油(ATF)の提供」は、その「震動特性」の改良が本願発明の「抗震動性を改善」に、その「震動永続特性」の改善が本願発明の「抗震動持続性を改善」に、その「自動変速機油(ATF)」が本願発明の「自動変速機作動液」にそれぞれ相当するから、本願発明の「(2)抗震動性を改善するのに有効量の…添加剤の組合わせ:」及び「自動変速機作動液を有効量使用することにより…抗震動持続性を改善する方法」に相当する。 次に、引用発明の「(D)約25と200の間のTBNを有するスルホン酸カルシウムである有機酸のオーバーベース化アルカリ土類金属塩;」は、その「オーバーベース化」という用語が「過塩基性」と同義であること、及び摘記4bの「金属清浄剤 Caスルフォネート」との記載にあるように、その「スルホン酸カルシウム」ないし「Caスルフォネート」という化学物質が「金属清浄剤」として機能することが周知であることからみて、本願発明の「(c)過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤:」に相当する。 そして、引用発明の「(E)分散剤(ポリブテンとポリアミンを結合する架橋部分として無水コハク酸分子を含有するもの):」は、摘記2aの「アルケニルサクシンイミド-サクシンアミド型の無灰分分散剤」との記載、及び摘記4bの「無灰分散剤 こはく酸イミド」との記載、並びに、本願請求項6の「無灰分散剤が、α-オレフィンポリマー又はコポリマーから生成され、かつスクシンイミド又はアミド官能性を含む」との記載(なお、「スクシンイミド」と「コハク酸イミド」は同義である。)からみて、本願発明の「(b)無灰分散剤;」に相当する。 してみると、本願発明と引用発明は、 『(1)多量の潤滑油;及び(2)抗震動性を改善するのに有効量の、以下を含む添加剤の組合わせ: (b)無灰分散剤;及び (c)過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤: の混合物を含む自動変速機作動液を有効量使用することにより、連続スリップ式トルクコンバータークラッチを有する自動変速機装置の抗震動持続性を改善する方法。』に関するものである点において一致する。 そして、第一の観点からの相違点として、 (α)その「添加剤の組合わせ」が、本願発明においては「(a)下記式を有する油溶性アルキルホスホネート:」(式は省略)を含むのに対して、引用発明においては「(B)以下からなる群から選択した3種の化合物:アルコキシル化脂肪アミン、ホウ酸塩化脂肪エポキシド、脂肪亜リン酸エステル、脂肪エポキシド、脂肪アミン、ホウ酸塩化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ酸塩化グリセロールエステル、および脂肪イミダゾリン;(C)リン含有酸、リン含有酸塩、リン含有酸エステル、またはそれらの誘導体またはそれらの混合物;」を含む点においてのみ相違する。 若しくは、第二の観点からの相違点として、 (β)リン含有化合物が、本願発明においては「(a)下記式を有する油溶性アルキルホスホネート」(式は省略)であるのに対して、引用発明においては「(C)リン含有酸、リン含有酸塩、リン含有酸エステル、またはそれらの誘導体またはそれらの混合物;」であると同時に、 (γ)その「添加剤の組合わせ」が、引用発明においては「(B)以下からなる群から選択した3種の化合物:アルコキシル化脂肪アミン、ホウ酸塩化脂肪エポキシド、脂肪亜リン酸エステル、脂肪エポキシド、脂肪アミン、ホウ酸塩化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ酸塩化グリセロールエステル、および脂肪イミダゾリン;」を必須成分としているのに対して、本願発明においては当該成分を必須成分としていない点においてのみ相違する。 6.判断 (1)上記(α)若しくは(β)の相違点について 刊行物2の「燐酸のエステルは、耐摩耗性を付与するために潤滑剤に使用される。…本発明の方法で用いる燐酸エステルは、ジヒドロカルビルホスフアイト及びホスホネートエステルの双方を含むことができ…ジメチルオクタデカンホスホネート、ジメチルオクタデセンホスホネート、ジエチルドデカンホスホネート、ジブチルテトラデカンホスホネート…などを含む。」との記載(摘記2a)、及び 刊行物3の「最も好ましい添加剤は、ジメチルオクタデシルホスホネートである。前記ホスホネートは…摩擦を低下させる量で油に添加される。」との記載(摘記3a)にあるように、本願発明の「式」において、RがC_(18)のアルキル(オクタデシル基)、R_(1)及びR_(2)がC_(1)のアルキル(メチル基)である「ジメチルオクタデカンホスホネート」などの『アルキルホスホネート』を、添加剤成分(耐摩耗剤ないし摩擦調整剤)として潤滑油に添加することは、刊行物2?3に記載されるように普通に知られている。 なかんづく、摘記2aの「燐酸のエステルは、耐摩耗性を付与するために潤滑剤に使用される。今回機能的液体の用途、例えばエステルをアルケニルサクシンイミド-サクシンアミド型の無灰分分散剤を含む油混合物を用いる場合の自動車の変速装置液(ATF)において、該液体はそれが安定な動的及び静的トルク特性を与える」との記載、及び摘記2dの「トルク値が経時的に比較的一定になった。」との記載にあるように、 刊行物2には、その「ジメチルオクタデカンホスホネート」などのリン系化合物の添加剤成分を、コハク酸イミドなどの「無灰分分散剤」を含む油混合物に適用することによって、自動車の変速装置液(ATF)に経時的に安定なトルク特性を与えることまでもが記載されているものと認められる。 しかも、摘記1eの「リン含有酸の液状エステル(例えば、…デカンホスホン酸のジエチルエステルなど)」との記載、及び摘記1dの「リン含有酸、それらのエステルまたは誘導体を含有し得る。…このリン含有酸には、…ホスホン酸…が挙げられる。」との記載からみて、刊行物1には、その「リン含有酸」の化学構造部分が「ホスホン酸」である場合の「ホスホン酸のエステル」ないし「デカンホスホン酸のジエチルエステル」を、その「潤滑組成物」に配合することが記載されているものと認められるところ、技術用語として「ホスホン酸」と「ホスホネート」は同義であるから、 刊行物1には、引用発明の「(C)…リン含有酸エステル」として『アルキルホスホネート』を使用する場合も記載されているものと認められ、さらに、刊行物1には、本願発明の「式」において、RがC_(10)のアルキル(デシル基)、R_(1)及びR_(2)がC_(2)のアルキル(エチル基)である「デカンホスホン酸のジエチルエステル」という『アルキルホスホネート』の使用も記載されている。 以上のことからみて、本願発明の特定の式で表される「油溶性アルキルホスホネート」という化合物ないし添加剤成分は、刊行物1?3に記載されるように当該技術分野における周知慣用の添加剤成分(耐摩耗剤ないし摩擦調整剤)であると認められる。 しかして、刊行物5の「優れた摩擦・摩耗特性を示し、…特にスリップ制御機構付き自動変速機のシャダー防止にとって顕著な効果を奏する。」との記載(摘記5b)にあるように、優れた摩擦・摩耗特性を示し得る添加剤成分(耐摩耗剤ないし摩擦調整剤)を潤滑油組成物に含有させることで「スリップ制御機構付き自動変速機のシャダー防止」にとって顕著な効果が得られることは、当業者にとって普通に知られているところ、 引用発明の(B)の脂肪亜リン酸エステルなどの化合物(ないし摩擦調整剤)及び(C)のリン含有酸エステルという化合物からなる『添加剤パッケージ』は、摘記1bの「境界線は、それほど明瞭ではないことに注目しなければならない。また、添加剤は、おそらく多機能性であり、便宜上、上記のように分類しているにすぎない。」との記載にあるように、その添加剤としての機能は多機能性であり便宜的なものではあるが、摘記1cの「この添加剤パッケージ組成物は、…潤滑粘性のあるオイルに溶解したとき、震動特性および震動永続特性が著しく改良されたATFを提供する。」との記載をも参酌すると、引用発明の(B)及び(C)の一群の化合物からなる『添加剤パッケージ』は、当該「震動特性および震動永続特性が著しく改良されたATFを提供する」という機能性を発揮するための添加剤成分(耐摩耗剤ないし摩擦調整剤)のパッケージを意図したものであると認められる。 してみると、上記(α)の相違点について、引用発明の「(B)以下からなる群から選択した3種の化合物:アルコキシル化脂肪アミン、ホウ酸塩化脂肪エポキシド、脂肪亜リン酸エステル、脂肪エポキシド、脂肪アミン、ホウ酸塩化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ酸塩化グリセロールエステル、および脂肪イミダゾリン;(C)リン含有酸、リン含有酸塩、リン含有酸エステル、またはそれらの誘導体またはそれらの混合物;」という一群の化合物からなる『添加剤パッケージ』を、刊行物1?3に記載された「ジメチルオクタデカンホスホネート」などの『アルキルホスホネート』という周知慣用の添加剤成分(耐摩耗剤ないし摩擦調整剤)に置き換えてみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内のことである。 また、上記(β)の相違点について、引用発明の「C)リン含有酸、リン含有酸塩、リン含有酸エステル、またはそれらの誘導体またはそれらの混合物;」という化合物の選択肢の中には、上述のように「ホスホン酸のエステル」が含まれることから、これを刊行物1?3に記載された「ジメチルオクタデカンホスホネート」などの『アルキルホスホネート』という周知慣用の添加剤成分(耐摩耗剤ないし摩擦調整剤)に特定してみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内のことである。 (2)上記(γ)の相違点について ア.既存の構成要素の組合せの一部省略の容易想到性 既に知られた既存の構成要素の組合せから、その一部の構成要素を必須でないとして特定することは、当業者にとって、求める性能水準などを勘案して適宜変更し得る設計事項にすぎない。 そして、本願発明において、引用発明の(B)成分に相当する成分を必須でないとすることによって、予想外の飛躍的な作用効果が得られた等の『他に進歩性の存在を推認できる根拠』があるとも認められない。 してみると、引用発明の構成要素の組合せから、その(B)成分を必須でないとして特定したにすぎない上記(γ)の相違点については、当業者にとって単なる設計事項の変更にすぎないから、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内のことである。 イ.本願優先権主張日前の技術水準からみた容易想到性 刊行物4には、スリップ制御式ロックアップクラッチにおける「シャダーの発生」を防ぐためには、所定の摩擦特性が要求され、このような摩擦特性は、自動車走行距離が10万km以上となるまでの長期間、安定していなければないため、自動変速機油(ATF)のシャダー防止性能及びその耐久性を十分なものとするためには『良好な摩擦特性を付与する』ことが必要である旨の記載がなされている(摘記4a)。 そして、その実施例9?11の具体例においては、基油(鉱油)、リン系化合物の添加剤成分、無灰分散剤(こはく酸イミド)、及び金属清浄剤(Caスルフォネート)を含有する自動変速機油潤滑油組成物の「シャダー防止性能寿命」が、金属清浄剤の増量にともなって長くなることが記載されているところ(摘記4b)、これらの具体例には、刊行物1に記載された「アルコキシル化脂肪アミン」のようなアミン系化合物の添加剤成分が使用されていない。 また、刊行物2にも、耐摩耗性を付与するための燐酸エステル(ホスホネートエステルを含む)と、コハク酸イミド又はコハク酸アミド系の無灰分散剤の双方を用いた自動車用変速装置液(ATF)が、トルク特性の経時的な安定性において優れるという発明が記載されるとともに(摘記2a)、 他の典型的なATF添加剤として、(2)長鎖アミンなどの摩擦改変剤及び耐摩耗剤、(7)過塩基性のアルキルベンゼンスルホン酸の塩などの洗浄剤が例示されているところ(摘記2c)、 その「(2)長鎖アミンなどの摩擦改変剤及び耐摩耗剤」に相当する「アルコキシル化アミン」の添加は「随意」であるとされている(摘記2b)。 してみると、本願優先権主張日前の技術水準において、引用発明の「アルコキシル化脂肪アミン」などの複数種の化合物ないし添加剤成分(摩擦調整剤)が無くても、リン系化合物の添加剤成分(耐摩耗剤ないし摩擦調整剤)が存在すれば、自動変速機用潤滑油のシャダー防止性能及びその耐久性を不十分としない程度の良好な摩擦特性が得られるということは、当業者にとって技術常識の範囲内のこと認められる。 したがって、引用発明の(B)の3種の化合物の使用を必須とせず、引用発明の(C)のリン含有酸エステルのみによって、自動変速機作動液(ATF)の摩擦特性を良好なものとして、そのシャダー防止性能及びその耐久性を十分なものとするようにしてみることは、当業者にとって格別困難なことではない。 ウ.請求人の主張について ここで、平成24年2月1日付けの意見書においては、『同刊行物に記載の発明の重要な特徴が「摩擦調整剤の1成分としてアルコキシル化脂肪アミンを選択すること、および非ホウ酸塩化オーバーベース化金属塩を使用することにある」と示されているように、刊行物1の発明は、本願発明の必須構成要件ではない成分を必要とします。』との主張がなされている。 しかしながら、当該「非ホウ酸塩化オーバーベース化金属塩」は、引用発明の「(D)約25と200の間のTBNを有するスルホン酸カルシウムである有機酸のオーバーベース化アルカリ土類金属塩」に相当する成分であって、本願発明の「(c)過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤」に相当する成分であることから、本願発明の必須構成要件である成分といえ、 当該「アルコキシル化脂肪アミン」は、引用発明の「(B)以下からなる群から選択した3種の化合物:アルコキシル化脂肪アミン、ホウ酸塩化脂肪エポキシド、脂肪亜リン酸エステル、脂肪エポキシド、脂肪アミン、ホウ酸塩化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ酸塩化グリセロールエステル、および脂肪イミダゾリン;」との記載にあるように、当該「(B)」の選択肢の一つにすぎないから、引用発明は当該「アルコキシル化脂肪アミン」を必須構成要件とするものではない。 加えて、本願明細書の第19頁下から7?6行の「本発明の添加剤の組合わせは、他の望ましい潤滑油添加剤と一緒に濃厚物を形成する。」との記載、及び本願明細書の第21頁の「表1」で示された実施例の「試験配合物」の具体的な組成について、ホスホネート、金属清浄剤、及び無灰分散剤の3つの成分以外の他の成分が明らかにされていないところ、果たして、本願発明の「添加剤の組合わせ」が「他の望ましい潤滑油添加剤と一緒の濃厚物を形成する」ことなしに本願所定の課題解決ないし作用効果を達成し得るという発明が実際に完成しているとは認められないし、 本願請求項1に記載された「以下を含む添加剤の組合わせ」という発明特定事項は、その(a)?(c)の三成分以外の添加剤成分の存在を除外するものではなく、本願明細書の第19頁第10?11行の「当該技術分野において公知の他の添加剤も、本発明の動力伝達液に添加することができる。」との記載にあるように、本願発明は当該「アルコキシル化脂肪アミン」を使用する場合をも包含するので、この点について実質的な差異があるとは認められない。 したがって、上記意見書の主張は妥当ではない。 (3)本願発明の効果について 本願発明の効果について検討するに、本願明細書の第21頁の「表1」には、試験1?4の4つの実験例が示されており、このうち、 試験1は、 (a)Rが炭素数10のホスホネート(A-1)2.5質量%、 (b)無灰分散剤(D-1)3.25質量%、 (c)金属清浄剤(スルホン酸Ca)0.1質量%、 を配合したものであって、不良となる時間が110時間、 試験2は、 (a)Rが炭素数18のホスホネート(A-6)2.5質量%、 (c)金属清浄剤(スルホン酸Ca)0.1質量%、 を配合したものであって、不良となる時間が49時間、 試験3は、 (a)Rが炭素数18のホスホネート(A-6)2.5質量%、 (b)無灰分散剤(D-1)3.25質量%、 を配合したものであって、不良となる時間が0時間、 試験4は、 (a)Rが炭素数18のホスホネート(A-6)2.5質量%、 (b)無灰分散剤(D-1)3.25質量%、 (c)金属清浄剤(スルホン酸Ca)0.1質量%、 を配合したものであって、不良となる時間が200時間以上となっている。 すなわち、本願明細書の発明な詳細な説明には、本願発明の(a)のホスホネート及び(b)の無灰分散剤のみを組み合わせた「試験3」が抗震動持続性0時間となるのに対して、これに(c)の金属清浄剤を組み合わせた「試験4」が抗震動持続性200時間以上となり、本願発明の(a)のホスホネート及び(c)の金属清浄剤を組み合わせた「試験2」が抗震動持続性49時間であるという結果よりも優れていること、並びに本願発明の(a)のホスホネートとしては、炭素数が10のものより18のものの方が抗震動持続性の点で若干好ましくなるということまでが示されているものである。 このため、リン系化合物の種類を、本願発明の「(a)下記式を有する油溶性アルキルホスホネート」に特定することによって、他のリン系化合物の添加剤成分よりも格段に優れた選択的効果が得られたとは認められない。 そして、引用発明は、摘記1fの「本発明によれば、自動変速機油に耐震動摩擦永続性能を与え、機能流体および潤滑剤添加剤パッケージとして使用する組成物を提供することができる。本発明の組成物は、耐震動試験および耐震動永続性試験において、市販のATFよりも非常に優れていた。」という効果を有するものであり、 刊行物4の実施例7?12の実験データにおいては、そのシャダー防止性能の長寿命化が、専ら金属清浄剤(Caスルフォネート)の量に比例して増大することが示されており(摘記4b)、 刊行物2?3において具体的に例示された「ジメチルオクタデカンホスホネート」ないし「ジエチルオクタデカンホスホネート」は、炭素数が18のアルキル基を有するアルキルホスホネートである。 してみると、本願発明に当業者にとって格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 7.むすび したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-03-01 |
結審通知日 | 2012-03-05 |
審決日 | 2012-03-19 |
出願番号 | 特願平10-545797 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C10M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安田 周史 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
東 裕子 木村 敏康 |
発明の名称 | アルキルホスホネートを含有する動力伝達液 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 浅井 賢治 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 田代 玄 |
代理人 | 山崎 一夫 |
代理人 | 小川 信夫 |