• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1260998
審判番号 不服2009-16856  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-11 
確定日 2012-08-03 
事件の表示 特願2005-126884「スケール付着を防止する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月 2日出願公開、特開2006-297346〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年4月25日の出願であって、平成21年7月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日に手続補正がなされたものである。その後、平成23年8月22日付けで特許法第164条第3項に基づく報告書を引用した審尋がなされ、同年9月13日に回答書が提出されたものである。

2.平成21年9月11日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年9月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
補正前の平成21年6月1日付け手続補正書の「飲料用水又は工業用水の流速がある一過性水系または循環水系において、該水系の経路に磁束密度0.8T乃至2.0Tの磁場を作用させ、スケール生成物質を析出させて浮遊させるとともに、常時、流れの一部の3%以上乃至15%以下を濾過して、浮遊・析出物である前記スケール生成物質を除去して管内壁へのスケール生成物の付着を防止することを特徴とするスケール付着を防止する方法。」から
「全硬度80mgCaCO_(3)/L以上、または、イオン状シリカ40mgSiO_(2)/L以上からなる飲料用水又は工業用水の0.5m/sec以上流速がある一過性水系または循環水系において、該水系の経路に磁束密度0.8T乃至2.0Tの磁場を作用させ、少なくとも硬度系又はシリカ系スケール生成物質を析出させて浮遊させ、浮遊・析出物である前記スケール生成物質を除去して管内壁へのスケール生成物の付着を防止することを特徴とするスケール付着を防止する方法。」と補正された。
しかしながら、補正後の請求項1は、補正前の請求項1に記載された発明特定事項である、「常時、流れの一部の3%以上乃至15%以下を濾過して」を、その発明特定事項に含んでいないので、本件補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的としたものとは認められない。
また、本件補正は、請求項の削除、誤記の訂正、あるいは明りょうでない記載の釈明の、いずれを目的としたものとも認められない。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に適合しないので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下する。

(2)請求人が提示した補正案について
ただし、平成23年9月13日付け回答書には、審判請求人(出願人)の意見として、「(イ) 前置報告書の内容の要旨に、審判請求時の補正で、「常時、流れの一部の3%以上乃至15%以下を濾過」するという限定事項を削除するものであるので、特許請求の範囲を拡張、変更するものであり、限定的減縮を目的とするものとは認めれない旨が報告されております。
この削除の趣旨は、本件の拒絶査定文で、審査官が「流れの一部のどの程度の量を濾過するのかは、処理水系全体の構成、濾過器の種類等から、当業者が適宜選定する設計的事項であり、濾過水量のみを3%以上15%以下に規定したところで、前記限定に格別な作用効果を有するものとは認められない。」と認定されましたので、出願人としても、この限定が無意味であり、且つ、不正確でもあったので、この数値限定を削除したのであって、実質的に拡大・変更はないと思料したものです。その指摘された無意味とも受け取れる箇所の削除について前置報告書で拡張・変更と認定されたことには大いに不満であります。この削除が拡張、変更に該当するのであれば、審判請求人としても「常時、流れの一部の3%以上乃至15%以下を濾過」の構成を復活して付加することに全く異存はなく、下記の補正案を提出する用意があります。

『特許請求の範囲
【請求項1】
全硬度80mgCaCO_(3)/L以上、または、イオン状シリカ40mgSiO_(2)/L以上からなる飲料用水又は工業用水の0.5m/sec以上流速がある一過性水系または循環水系において、該水系の経路に磁束密度0.8T乃至2.0Tの磁場を作用させ、少なくとも硬度系又はシリカ系スケール生成物質を析出させて浮遊させ、常時、流れの一部の3%以上乃至15%以下を濾過して、浮遊・析出物である前記スケール生成物質を除去して管内壁へのスケール生成物の付着を防止することを特徴とするスケール付着を防止する方法。
【請求項2】
飲料用水又は工業用水の流速がある一過性水系または循環水系において、分散剤、又は防食剤、又は防スライム剤、並びに、防スライム機器を併用したことを特徴とする請求項1に記載のスケール付着を防止する方法。』」と記載されており、仮に、上記補正案を採用した場合には、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当することになる。
そこで、念のために、上記補正案の請求項1に係る発明(以下、「本願補正案発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(3)引用例の記載事項
a.原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された刊行物である特開2001-47056号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【発明の属する技術分野】本発明は水処理装置に関し、特に、磁気式水処理器を使用して、設備の冷温水配管等の浄化する対象となる循環式導水系に着脱ことができるようにする技術と、主に循環式導水系に発生する水垢や錆等の不要物を速やかに取り除くとともに、磁気式水処理器の能力を永続させることができるようにする技術にに関するものである。
【従来の技術】従来から、冷凍機、熱交換機、建築設備、射出成形機、ダイキャストマシン等において水を通す配管が設けられている。これらの配管は、長く使用すると、配管内に含まれるミネラル分(カルシウム、珪素等)のイオン等が結晶化して、配管の管壁に付着するとともに、管内の腐食が進みスケールとなり、配管が詰まったり、管壁に穴があいたりする現象がある。このため、定期的に配管を薬品洗浄したり、水に防錆剤を入れたりして防止する方法と、磁気式水処理器を使って、水をある流速で強力な磁場の中を通すことによって配管内の腐食を防ぎ、スケールの発生を防ぐ方法が使用されていた。」(【0001】、【0002】)
(イ)「しかし、次の4つの課題が残されている。<1>磁気式水処理器でスケールやミネラル分が、0.1mmほどの細かい粉状になって水系配管内を浮遊しているために、水が流れていない所に堆積したり、細かい穴を塞いでしまうことがしばしばあった。<2>このため、磁気式水処理器も長年使用すると、前記スケールやミネラル分が磁気式水処理器内に堆積するため、熟練した技術者によって磁気式水処理器を定期的に分解して清掃する必要がある。<3>また、磁気式水処理器は導水系配管の所定個所に固定されて、当該導水系の一部として使用されるため、一つの磁気式水処理器を有効に使用して、複数の導水系の磁気式水処理を効率よく行うことができなかった。
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その課題は、水中のスケールやミネラル分等の浮遊物を捕らえて除去することができ、メインテナンスが容易であり、任意の導水系に着脱が容易な磁気式水処理装置を提供することである。」(【0004】、【0005】)
(ウ)「上記第1の発明の構成の水処理装置は、吸入口、ポンプ、フィルタ、磁気式水処理器及び吐出口を具備し、前記ポンプは前記吸入口から吸入した水を前記フィルタへ送り、前記フィルタは前記ポンプから送られた水を濾過し、前記磁気式水処理器は前記フィルタの出口と前記吐出口との間に接続され、前記磁気式水処理器は前記磁気式水処理器内にて水が磁界中を通過するように構成されるので、前記吸入口から吸入された水は、フィルタで濾過された後に、前記磁気式水処理器により磁気式水処理されて吐出口から吐出される。このため、前記吸入口及び吐出口を導水系に接続すると、ポンプにより磁気式水処理器内の水に流速を与えて、磁気式水処理器による水処理を行い、フィルターが水中のスケールやミネラル分等の浮遊物を捕らえて除去する。このため、第1の発明に係わる水処理装置により導水系の水を浄化することができる。」(【0007】)
(エ)「ポンプ12は水を吸入口11aから吸引し、吐出口11eへ送り出す。矢印11xは配管11内にて水が流れる方向を示している。フィルタ13は水を濾過して水中のスケール、ミネラル分、ごみ等の浮遊物を捕らえて除去する。磁気式水処理器14は、磁界(磁束密度6000乃至8000ガウス程度)中にて該磁界の方向に直角の方向に水を流して水処理をする。このため、磁気式水処理器14内には強い永久磁石で発生した磁束の通路となる強磁性体の磁気回路が形成され、この磁気回路のスリット(該磁気回路の磁束と直交する方向に水を通すスリット)に水を通すことにより水処理をする構成になっている。
この水処理では、正負の電荷を有するイオン(カルシウム、珪素等)を含む導電性ある水が磁界中を移動することによりフレミングの右手則による起電力が発生するとともに、該水に対しフレミング左手則による電磁力が働く。なお、フレフレミングの右手則による起電力の大きさ及びミングの左手則による電磁力の大きさは磁界中を移動する水の流速に比例する。そして、前記イオンが磁界により分極し、分極したイオンが水中で微細な結晶となり、水の流れとともに配管の外に排出される。(なお、このイオンは、磁気式処理をしないときには、導水用配管の管壁にスケールを形成する。)
流量計15は、配管11内を流れる水の流量を計測する。・・・なお、磁気式水処理器14を通過する水の流速が低いと磁気式水処理器14による水処理の効果が小さくなるが、流量計15が磁気式水処理器14を通過する水の流量を検出するので、該検出した流量から磁気式水処理器14を通過する水の流速を算出することにより、磁気式水処理器14を通過する水の流速を磁気式水処理器14の磁気処理の効果を得るための最適の値にすることができる。」(【0014】?【0016】)
(オ)「図4にて模式的に示されている水槽33内に水34が入れられている。34aは水34の水面である。配管36は2つの開口端36b、36cがある。ポンプ37は配管36内の水を矢印36x方向に送るように配管36に接続されている。クーリングタワー35は配管36内の水を冷却する働きをするように配設されている。熱交換器38は配管36内の冷水により熱交換器38内の流体(気体又は液体)を冷却する働きをする。配管36の螺旋形に湾曲した部分は熱交換部36aである。流体は矢印38x方向に吸入管38aから熱交換器38内に流入し、熱交換部36aにより冷却されて矢印38yで示すように吐出管38bから排出される。
このため、水処理装置10により水槽33内の水34が磁気式処理され、この磁気式処理された水34が熱交換系の配管36内を流れるので、配管36の内面にスケールが付着することを防ぐことができる。」(【0026】、【0027】)
(カ)「【発明の効果】本願の第1の発明に係わる水処理装置では、水処理装置の吸入口から吸入された水はフィルタで濾過された後に磁気式水処理器を通過して吐出口から吐出される。また、前記吸入口及び前記吐出口は任意の導水系の水槽等に着脱自在に配置可能であるので、任意の導水系の水を浄化し、その配管内のスケール付着を防ぐことができる。特に、循環式導水系は、ミネラル分やスケールが配管内に付着したり、配管を腐食する度合いが非循環式導水系とは比較にならないほど大きい。本願の第1の発明にかかわる水処理装置はスケールなどを含みヘドロ状態になった錆等や鉄錆を含んだ赤色をした水を、1mm以下の細かなサラサラの粒子にして捕獲して除去するため、フィルターの交換サイクルが延び、導水系は短時間でヘドロ状態がなくなり、使用している水も透明な水に変えることができる。
このため、本願の第1の発明に係わる磁気式水処理装置を利用して冷凍機、熱交換機、建築設備、射出成形機、ダイキャストマシン等の循環式導水系におけるミネラルの析出物やスケールによる配管内の目詰まりを防ぐとともに、スケールによる該配管の腐食を防ぐことができる。」(【0034】、【0035】)

b.さらに、原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された刊行物である特開平2-214593号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(キ)「このように、複雑な性質をもつ水に対して、その流れに直角の強力な直流磁気を加えることにより、水中にイオンの状態で溶解しているカルシウム、マグネシウム、シリカ等のミネラル分のイオン結晶化を促進させ、無処理の場合に比べ、より微細な粉体結晶を安定した状態で作り出し、水中に浮遊させて管やポンプの内壁に付着しにくい結晶とすることができる。
磁気により処理された結晶は、粉体結晶となり、付着性の悪い、ばらばらと崩れ易い、機械的強度をもたない特性を有する結晶となる。そして、これらの性質の変った析出結晶がスケールとならないで水中に浮遊し、タンクに沈澱したり、ブロー排水によって外部に排出され、管、ポンプ等の内壁でのスケール形成が抑制される。
磁気水処理装置は、このような原理を応用して、工場や排水処理施設等の配管設備を形成するパイプ、ポンプ、ボイラー、熱交換器、クーリングタワー等の内部を流れる水に強力な磁場を加えることにより水の性質を変え、スケール等の付着防止および熱効率の低下防止を図るものである。」(第2ページ左上欄15行?同ページ右上欄15行)
(ク)「(発明が解決しようとする課題)
以上のような磁気による水処理は磁場の強い方が効果が大きいことが知られている。このため、第5図および第6図に示された従来の永久磁石形の磁気水処理装置(ノルウェー製のポーラ磁気水処理装置が有名である)は、効果的な磁気処理を行うために6000ガウスもの高磁束密度をもつコバルト磁石12を使用しているが、このコバルト磁石12は非常に高価である。また、強力な磁場が得られるように、磁極部13の通水孔14を狭く形成する必要があるので、この通水孔14で水中のごみ類が詰り易く、年に1?2回は分解掃除する必要がある。
・・・
本発明は、管内に何の障害物もない直管構造の通水管に対して、電磁石で発生した磁場を強力に作用できる構造の磁気水処理装置を提供し、磁気によるスケール抑制能力を大幅に向上することを目的とする。」(第2ページ左下欄17行?第3ページ左上欄2行)
(ケ)「試験的運転では、DC114ボルト、3.42アンペアで10000ガウスもの高磁束密度が得られた。このような強力な直流磁場を通水管56内を通る水に対し直角に作用させると、得られる磁気処理効果も大きい。
第4図に示された例では、磁気水処理装置Aにおいて再使用水が強力な磁場を通過するとき、イオン変化が起って水の性質が変わり、すなわち水中にイオンとして溶解している、スケールとなる溶解固形分(炭酸カルシウム、マグネシウム、シリカ、鉄等)が、磁場中を通過することにより水中に浮遊する微細結晶として析出し、ポンプ46、配管47等の内壁に付着せずに槽45,48の底部に沈澱したり、外部に流出したりする。このように、スケールが付着しにくいともに、磁気処理された結晶は粉体形の結晶となり、もろくくずれやすい形となる。磁気水処理装置Aを使用しない無処理の場合は、スケールがポンプ46、配管41等の内壁に固くこびりついて容易に取れない。」(第4ページ右上欄5行?同ページ左下欄3行)

c.さらに、原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された刊行物である特開平1-262987号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
(コ)「冷却塔(1)から取り出された冷却水を浄化して再び冷却塔(1)へ戻す浄化装置(2)が、冷却水の一部を通す濾過装置(3)と、濾過水にオゾンを注入するオゾン発生装置(4)と、冷却水の残部を処理する磁気式水処理装置(5)とよりなる、冷却水浄化装置。」(特許請求の範囲)
(サ)「冷却塔(1)の底部からポンプ(9)を介して冷凍機(7)へ、さらにこれから冷却塔(1)へ、主流路(8)が設けられている。また、冷却塔(1)の底部には、磁気式水処理装置(10)を有する補給水供給管(11)が設けられている。
冷却塔(1)の外部には、ここから冷却水を浄化装置(2)へ取り出し浄化された冷却水を再び冷却塔(1)へ戻す循環路(6)が設けられている。循環路(6)はその始端寄りに循環ポンプ(12)を有し、同ポンプ(12)の後流側で2本に分岐せられ、終端部で再び1本化され、冷却塔(1)底部に置かれたエアストーン(18)に接続している。
一方の分岐管(6a)には、ジェットストレーナ-(3)と、これの後流側のディフューザー(13)と、これの後流側のオゾン反応室(14)とが設けられ、ディフューザー(13)にはオゾン発生装置(4)が接続されている。・・・
他方の分岐管(6b)には、磁気式水処理装置(5)が設けられている。
上記構成の冷却水浄化装置において、冷却塔(1)から冷却水が、主流路(8)の循環流量の5?40%の流量で取り出され、循環路(6)の一対の分岐管(6a)(6b)によって2分される。そして、冷却水の一部は、一方の分岐管(6a)に主流路(8)の循環流量の1?10%の流量で流入し、まずジェットストレーナ-(3)によって濾過処理される。その結果、冷却水中のSS分、オゾンを消費する有機物、藻類などが可及的に除去される。
ついで、・・・
他方、冷却水の残部は、他方の分岐管(6b)に主流路(8)の循環流量の5?30%の流量で流入し、磁気式水処理装置(5)によって磁化処理せられる。」(第2ページ左上欄20行?同ページ右下欄3行)

(4)引用発明の認定
引用例1には、記載事項(ウ)に「水処理装置は、吸入口、ポンプ、フィルタ、磁気式水処理器及び吐出口を具備し、前記ポンプは前記吸入口から吸入した水を前記フィルタへ送り、前記フィルタは前記ポンプから送られた水を濾過し、前記磁気式水処理器は前記フィルタの出口と前記吐出口との間に接続され、前記磁気式水処理器は前記磁気式水処理器内にて水が磁界中を通過するように構成されるので、前記吸入口から吸入された水は、フィルタで濾過された後に、前記磁気式水処理器により磁気式水処理されて吐出口から吐出される。このため、前記吸入口及び吐出口を導水系に接続すると、ポンプにより磁気式水処理器内の水に流速を与えて、磁気式水処理器による水処理を行い、フィルターが水中のスケールやミネラル分等の浮遊物を捕らえて除去する。」と記載されている。
そして、記載事項(エ)によれば、上記「磁気式水処理器」は、磁束密度6000乃至8000ガウス程度の磁界中に水を流して水処理をすると、正負の電荷を有するイオン(カルシウム、珪素等)を含む導電性ある水が磁界中を移動することにより、前記イオンが磁界により分極し、分極したイオンが水中で微細な結晶となり、水の流れとともに配管の外に排出され、スケールの形成が防止されるが、磁気式処理をしないときには、このイオンは、導水用配管の管壁にスケールを形成するといえる。
この磁気式水処理器による水処理によってできる「微細な結晶」については、記載事項(イ)によれば、磁気式水処理器を使用すると、磁気式水処理器でスケールやミネラル分が、0.1mmほどの細かい粉状になって水系配管内を浮遊することが記載されることから、「微細な結晶」は、0.1mmほどの細かい粉状になって水系配管内を浮遊するものであり、記載事項(ウ)によれば、水処理装置のフィルタは、水系配管内を浮遊する「微細な結晶」を捕らえて除去するものといえる。
さらに、記載事項(ア)及び(カ)によれば、記載事項(ウ)の上記「導水系に接続」とは、冷凍機、熱交換機等の設備の冷温水配管等の浄化対象となる循環式導水系の水槽等に着脱自在に配置可能なことを意味するものといえ、さらに、記載事項(オ)によれば、循環式導水系の具体例として、クーリングタワーを含む熱交換系の配管内を流れる水の水槽が例示されるといえる。
以上のことから、引用例1に記載された事項を本願補正案発明に則して整理し直すと、引用例1には、
「吸入口、ポンプ、フィルタ、磁気式水処理器及び吐出口を具備し、前記ポンプは前記吸入口から吸入した水を前記フィルタへ送り、前記フィルタは前記ポンプから送られた水を濾過し、前記磁気式水処理器は前記フィルタの出口と前記吐出口との間に接続され、前記磁気式水処理器は前記磁気式水処理器内にて水が磁束密度6000乃至8000ガウス程度の磁界中を通過するように構成された水処理装置を用いることで、前記吸入口から吸入された水は、フィルタで濾過された後に、前記磁気式水処理器により水処理されて吐出口から吐出されるため、前記吸入口及び吐出口を循環式導水系であるクーリングタワーを含む熱交換系の水槽に接続すると、ポンプにより磁気式水処理器内の水に流速を与えて、磁気式水処理器で水中のイオン(カルシウム、珪素等)が微細な結晶となることで0.1mmほどの細かい粉状として浮遊させ、フィルタが水中の細かい粉状の浮遊物を捕らえて除去することにより導水用配管の管壁にスケールが形成されるのを防止する方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(5)対比
そこで、本願補正案発明と引用発明とを比較する。
引用発明の「循環式導水系であるクーリングタワーを含む熱交換系の水」は、「ポンプにより磁気式水処理器内の水に流速を与え」ることから、本願補正案発明の「飲料用水又は工業用水の0.5m/sec以上流速がある一過性水系または循環水系」のうち、「工業用水の流速がある循環水系」に相当するといえる。
次に、引用発明の「磁束密度6000乃至8000ガウス程度」は、磁束密度0.6乃至0.8T程度のことであるから、引用発明の磁束密度の上限値である「8000ガウス」は、本願補正案発明の磁束密度の範囲である「0.8T乃至2.0T」と、「磁束密度0.8T」で重複するといえる。
次に、引用発明の「磁気式水処理器で水中のイオン(カルシウム、珪素等)が微細な結晶となることで0.1mmほどの細かい粉状として浮遊させ」は、本願補正案発明の「少なくとも硬度系又はシリカ系スケール生成物質を析出させて浮遊させ」に相当するといえる。
次に、引用発明の「水中の細かい粉状の浮遊物を捕らえて除去することにより導水用配管の管壁にスケールが形成されるのを防止する」は、本願補正案発明の「浮遊・析出物である前記スケール生成物質を除去して管内壁へのスケール生成物の付着を防止する」に相当するといえる。
以上のことを総合すると、本願補正案発明と引用発明は、
「工業用水の流速がある循環水系において、該水系の経路に磁束密度0.8Tの磁場を作用させ、少なくとも硬度系又はシリカ系スケール生成物質を析出させて浮遊させ、常時、流れを濾過して、浮遊・析出物である前記スケール生成物質を除去して管内壁へのスケール生成物の付着を防止するスケール付着を防止する方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]本願補正案発明は、「全硬度80mgCaCO_(3)/L以上、または、イオン状シリカ40mgSiO_(2)/L以上からなる飲料用水又は工業用水の0.5m/sec以上流速がある一過性水系または循環水系」を対象とするのに対し、引用発明は、「水中にイオン(カルシウム、珪素等)を含み、ポンプにより流速が与えられたクーリングタワーなどの循環式導水系」を対象とする点。
[相違点2]本願補正案発明と引用発明の磁束密度の範囲は、0.8Tで重複するものの、本願補正案発明は、「磁束密度0.8T乃至2.0Tの磁場」であるのに対し、引用発明は、「磁束密度6000乃至8000ガウス程度の磁界」である点。
[相違点3]本願補正案発明は、「常時、流れの一部の3%以上乃至15%以下を濾過」するのに対し、引用発明は、フィルタで濾過する割合が特定されていない点。

(6)判断
[相違点1]について
まず、引用発明の処理対象水の含有成分についてみると、記載事項(エ)に「正負の電荷を有するイオン(カルシウム、珪素等)を含む導電性ある水」と記載されることから、処理対象水は、カルシウムイオン、珪素イオン等を含む水であるといえる。
そこで、導水用配管の管壁にスケールが形成されるのを防止する際に、配管内を流れる水の全硬度及びイオン状シリカ濃度がどの程度のものであるかみると、例えば、特開平10-296266号公報には、全硬度が161?378CaCO_(3)mg/l(表10)であることが記載され、特開2003-170192号公報には、循環水中のシリカ濃度を110?250mgSiO_(2)/Lの範囲で調整すること、ここでシリカとは、水中に存在するシリカを意味し、イオン状シリカ(イオン状ケイ酸)、溶存シリカ及びコロイド状シリカを含む全シリカを指すこと(【0005】)が記載されることから、処理対象水として全硬度80mgCaCO_(3)/L以上、または、イオン状シリカ40mgSiO_(2)/L以上からなる水を処理対象水とすることは、当該技術分野において周知のことといえる。
次に、引用発明の与えられる流速についてみると、記載事項(エ)に「磁気式水処理器14を通過する水の流速が低いと磁気式水処理器14による水処理の効果が小さくなるが、流量計15が磁気式水処理器14を通過する水の流量を検出するので、該検出した流量から磁気式水処理器14を通過する水の流速を算出することにより、磁気式水処理器14を通過する水の流速を磁気式水処理器14の磁気処理の効果を得るための最適の値にすることができる。」と記載されることから、磁気式水処理器を通過する水の流速を磁気処理に最適な値にする必要があることがわかる。
そこで、磁気式水処理器を通過する水の流速についてみると、例えば、特公平7-94039号公報(【0008】)及び特開2002-143890号公報(請求項1)には、磁界中を0.5m/sec(秒)以上の流速で通過させることが記載されることから、磁気式水処理器を通過する水の流速を0.5m/sec以上とすることは、当該技術分野において周知のことといえる。
したがって、相違点1に係る本願補正案発明の発明特定事項は、引用発明に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものであり、これにより、格別の効果を奏するものともいえない。

[相違点2]について
管内壁へのスケール生成物の付着を防止するために行われる磁気処理において、水に作用させる磁場の強さについてみると、引用例2には、記載事項(キ)によれば、磁気水処理装置は、工場や排水処理施設等の配管設備を形成するパイプ、ポンプ、ボイラー、熱交換器、クーリングタワー等の内部を流れる水に強力な磁場を加えることにより、水中にイオンの状態で溶解しているカルシウム、マグネシウム、シリカ等のミネラル分のイオン結晶化を促進させ、無処理の場合に比べ、より微細な粉体結晶を安定した状態で作り出し、水中に浮遊させて、スケール等の付着防止を図るものであり、記載事項(ク)及び(ケ)によれば、磁気による水処理は磁場の強い方が効果が大きいことが知られ、従来の磁気水処理装置は、6000ガウスであったのに対して、実施例では10000ガウスもの高磁束密度が得られ、通水管を流れる水に作用させると、磁気処理効果が大きいことが記載されているといえる。
そして、引用発明の磁気式水処理器は、水が磁束密度6000乃至8000ガウス程度の磁界中を通過するものであるが、引用例2に記載された磁気水処理装置に倣って10000ガウス(1T)の磁束密度を得られるようにすれば、より高い磁気処理効果を得られることは当業者にとって容易に予測できることといえ、どの程度まで高磁束密度の磁場を水に作用させるかは、費用対効果を勘案して容易に設定し得る設計的事項であり、磁束密度0.8T乃至2.0Tの磁場とすることより、予測を超える効果を奏するものともいえない。
したがって、相違点2に係る本願補正案発明の発明特定事項は、引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点3]について
引用発明の水処理装置は、吸入口及び吐出口を循環式導水系であるクーリングタワーを含む熱交換系の水槽に接続して用いるものであり、記載事項(オ)によれば、クーリングタワー35を循環する水は、水槽33から配管36を通って流れるのに対して、水処理装置10は、水槽33内の水を別の配管で濾過及び磁気式処理するものといえることから、引用発明の水処理装置は、クーリングタワーを循環する水の一部をフィルタで濾過していることは明らかである。
そこで、クーリングタワーを循環する水の一部を濾過する場合、従来どの程度の割合で濾過することが行われているかをみると、引用例3には、記載事項(コ)に「冷却塔(1)から取り出された冷却水を浄化して再び冷却塔(1)へ戻す浄化装置(2)が、冷却水の一部を通す濾過装置(3)と、濾過水にオゾンを注入するオゾン発生装置(4)と、冷却水の残部を処理する磁気式水処理装置(5)とよりなる、冷却水浄化装置」が記載されている。
そして、記載事項(サ)によれば、上記冷却水浄化装置は、冷却塔(1)の底部からポンプ(9)を介して冷凍機(7)へ、さらにこれから冷却塔(1)へ戻るように設けられた主流路(8)に対して、冷却塔(1)から冷却水を浄化装置(2)へ取り出し浄化された冷却水を再び冷却塔(1)へ戻す循環路(6)が設けられ、循環路(6)からは、主流路(8)の循環流量の5?40%の流量で取り出され、一対の分岐管(6a)(6b)によって2分され、冷却水の一部は、一方の分岐管(6a)に主流路(8)の循環流量の1?10%の流量で流入し、濾過処理され、他方、冷却水の残部は、他方の分岐管(6b)に主流路(8)の循環流量の5?30%の流量で流入し、磁気式水処理装置(5)によって磁化処理されるように構成されているものといえる。
上記引用例3の記載事項から、クーリングタワーを循環する水の一部を濾過する場合、冷却塔の主流路の循環流量の1?10%とすることが従来から知られていたといえるので、引用発明の水処理装置において、クーリングタワーを循環する水の3%以上乃至15%以下をフィルタで濾過することは、必要に応じて適宜設定し得る事項であり、格別の効果を奏するものともいえない。
したがって、相違点3に係る本願補正案発明の発明特定事項は、引用発明及び引用例3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

(7)むすび
以上のとおり、本願補正案発明は、引用発明、引用例2及び3に記載された事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正案は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成21年9月11日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?2に係る発明は、平成21年6月1日付け手続補正書の、特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「飲料用水又は工業用水の流速がある一過性水系または循環水系において、該水系の経路に磁束密度0.8T乃至2.0Tの磁場を作用させ、スケール生成物質を析出させて浮遊させるとともに、常時、流れの一部の3%以上乃至15%以下を濾過して、浮遊・析出物である前記スケール生成物質を除去して管内壁へのスケール生成物の付着を防止することを特徴とするスケール付着を防止する方法。」

4.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及び、その記載事項は、上記2.(3)に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明1は、上記2.(2)で検討した本願補正案発明の発明特定事項である「全硬度80mgCaCO_(3)/L以上、または、イオン状シリカ40mgSiO_(2)/L以上からなる飲料用水又は工業用水の0.5m/sec以上流速がある一過性水系または循環水系」を「飲料用水又は工業用水の流速がある一過性水系または循環水系」に拡張するとともに、「少なくとも硬度系又はシリカ系スケール生成物質を析出させて」を「スケール生成物質を析出させて」に拡張したものである。
そうすると、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正案発明が、上記2.(5)(6)に記載したとおり、引用発明、引用例2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様に、引用発明、引用例2及び3に記載された事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明、引用例2及び3に記載された事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-08 
結審通知日 2012-06-11 
審決日 2012-06-22 
出願番号 特願2005-126884(P2005-126884)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (C02F)
P 1 8・ 575- Z (C02F)
P 1 8・ 121- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 富永 正史  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 田中 則充
斉藤 信人
発明の名称 スケール付着を防止する方法  
代理人 小原 英一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ