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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1261170
審判番号 不服2008-32808  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-26 
確定日 2012-08-09 
事件の表示 特願2000-596908「理髪剤」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月10日国際公開、WO00/45787、平成14年10月29日国内公表、特表2002-536314〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、2000年1月13日を国際出願日(優先権主張 平成11年2月4日 ドイツ)とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成20年3月5日付け 拒絶理由通知
平成20年6月10日 意見書、手続補正書
平成20年9月29日付け 拒絶査定
平成20年12月26日 審判請求書
平成21年1月23日 手続補正書
平成21年2月27日 手続補正書(方式)
平成21年3月4日付け 前置審査移管
平成21年3月31日付け 前置報告書
平成21年4月3日付け 前置審査解除
平成22年11月24日付け 審尋


第2 平成21年1月23日付け手続補正書についての補正の却下の決定
1 本件補正
平成21年1月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の

「0.01?10.0重量%の間の量の、下記の一般式(Ia)及び/又は(Ib):
【化1】

〔上式にて、R1は、分枝していても分枝していなくても、飽和であっても不飽和であってもよい、8?24個の炭素原子を有するアシル残基又はアルキル残基であり、この際、当該アシル残基及び/又はアルキル残基は、少なくとも1個のOH‐基を含むことができ、R2、R3及びR4は、同じものであっても異なるものであっても、飽和であっても不飽和であってもよい、1?4個の炭素原子を有するアルキル残基又はHであり、X^(-)はアニオンで、nは、1?10の間の整数を示す〕
のアミン及び/又は第4級アミンと、脂肪族性の、線状又は分枝のあるカルボン酸と第1級又は第2級で、分枝のある又は分枝のないアルコールとのエステルの少なくとも1種と、シリコーン及び/又はアミノシリコーン及びその誘導体の少なくとも1種とを組み合わせて含有し、しかも、前記のカルボン酸とエステル化した、第1級又は第2級で、分枝のある又は分枝のない前記アルコールが、1?6個の炭素原子を有していることを特徴とする理髪組成物。」

「0.01?10.0重量%の間の量の、下記の一般式(Ia)及び/又は(Ib):
【化1】

〔上式にて、R1は、分枝していても分枝していなくても、飽和であっても不飽和であってもよい、8?24個の炭素原子を有するアシル残基又はアルキル残基であり、この際、当該アシル残基及び/又はアルキル残基は、少なくとも1個のOH‐基を含むことができ、R2、R3及びR4は、同じものであっても異なるものであっても、飽和であっても不飽和であってもよい、1?4個の炭素原子を有するアルキル残基又はHであり、X^(-)はアニオンで、nは、1?10の間の整数を示す〕
のアミン及び/又は第4級アミンと、脂肪族性の、線状又は分枝のあるカルボン酸と第1級又は第2級で、分枝のある又は分枝のないアルコールとのエステルの少なくとも1種と、シリコーン及び/又はアミノシリコーン及びその誘導体の少なくとも1種とを組み合わせて含有し、しかも、前記のカルボン酸とエステル化した、第1級又は第2級で、分枝のある又は分枝のない前記アルコールが、1?6個の炭素原子を有していること、及び
前記シリコーンが、下記の一般式(II)、(III) 及び(IV):
【化2】

〔上式にて、R6は、トリメチルシリル又はOHであり、R7は、メチル又はOHであり、R8は、トリメチルシリル又はHであり、aは、1?8の間の整数であり、bは、1?5の間の整数であり、x及びyは、任意の整数値を示す〕
【化3】

〔上式にて、x及びyは、任意の整数値を示す〕
【化4】

〔上式にて、R9は、メチル又はOHであり、R10は、メチル又はフェニルであり、n=任意の整数値を示す〕
で表される化合物群から選ばれたものであること
を特徴とする理髪組成物。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)補正の目的の適否
上記補正は、補正前の「シリコーン」について、「下記の一般式(II)、(III) 及び(IV):
【化2】

〔上式にて、R6は、トリメチルシリル又はOHであり、R7は、メチル又はOHであり、R8は、トリメチルシリル又はHであり、aは、1?8の間の整数であり、bは、1?5の間の整数であり、x及びyは、任意の整数値を示す〕
【化3】

〔上式にて、x及びyは、任意の整数値を示す〕
【化4】

〔上式にて、R9は、メチル又はOHであり、R10は、メチル又はフェニルであり、n=任意の整数値を示す〕
で表される化合物群から選ばれたものであること」と限定するものである。
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であり、補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項である「シリコーン」について、具体的な化学構造を有する化合物に限定するものである。
したがって、上記補正は、平成18年法律55号改正附則第3条第1項により、なお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」といい、本願の明細書を「本願明細書」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項の規定に適合するか否か)、具体的には、本願補正発明が、本願出願前に頒布された刊行物に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか否かについて、以下に検討する。

(2)刊行物に記載された事項
(ア)刊行物1に記載された事項
本願の優先日前である1997年3月18日に頒布された刊行物である特開平9-71516号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)「(A)下記一般式(I)
【化1】

(式中、R^(1) は炭素原子数13?23の高級脂肪酸の残基を表し;R^(2) は炭素原子数1?4のアルキル基を表し;mは2?4の整数である)で表されるアミドアミン化合物と、(B)高級脂肪酸と、(C)有機酸と、(D)下記一般式(II)
【化2】

(式中、R^(3) 、R^(4) はそれぞれ独立にメチル基または水酸基を表し;nは3,000?10,000の整数である)で表される高分子量ジメチルポリシロキサンを含有してなる、毛髪化粧料。」(【請求項1】)

(1b)「本発明の毛髪化粧料は、必要に応じて、上記必須成分に加えて、毛髪化粧料で一般に使用される他の成分を本発明の効果を損なわない質的、量的範囲内で使用することができる。例えば、流動パラフィン、ワセリン、スクワラン等の炭化水素;イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート等のエステル油;ツバキ油、オリーブ油、アボガド油等の植物油;ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等の非イオン界面活性剤;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;カチオン化セルロース等のカチオン化ポリマー、プロピレングリコール、グリセリン等の保湿剤;ポリペプチド、その他の殺菌剤、ふけとり剤、キレート剤、紫外線吸収剤、着色剤、香料等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を任意に配合することができる。」(段落【0026】)

(1c)「【実施例】以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれによってなんら限定されるものではない。なお、配合量は重量%である。
下記実施例、比較例に示す組成の試料を常法により調製した。これら各試料を用いて、下記評価基準に従って滑らか感、柔軟性、毛髪への光沢付与効果、毛髪保護効果の評価を行った。結果を表1?3に示す。なお、表1?3中、「高分子量ジメチルポリシロキサン」として上記一般式(II)中、R^(3 )、R^(4) がともにメチル基で、n=6,000のものを使用した。
[滑らか感]各試料を女性20名の専門パネラーにて1週間連用後、使用中および使用後(乾燥後)の毛髪の滑らか感を官能評価した。
評価
A: 18名以上が、滑らか感があると回答
B: 14?17名が、滑らか感があると回答
C: 8?13名が、滑らか感があると回答
D: 7名以下が、滑らか感があると回答。
[柔軟性]各試料を女性20名の専門パネラーにて1週間連用後、使用中および使用後(乾燥後)の毛髪の柔軟性を官能評価した。
評価
A: 18名以上が、柔軟性があると回答
B: 14?17名が、柔軟性があると回答
C: 8?13名が、柔軟性があると回答
D: 7名以下が、柔軟性があると回答。」(段落【0028】?【0031】)

(1d)「実施例21(ヘアリンス)
(配合成分) (重量%)
ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド 2.0
ステアリン酸 3.0
ベヘニン酸 3.0
高分子量ジメチルポリシロキサン 3.0
(一般式(II)中、R^(3) はメチル基、R^(4) は水酸基、n=5,000 )
ジメチルポリシロキサン(6cs) 15.0
セチル2-エチルヘキサノエート 2.0
POE(60)硬化ヒマシ油誘導体 0.5
プロピレングリコール 5.0
L-グルタミン酸 1.0
クエン酸 0.5
ヒドロキシエチルセルロース 0.2
防腐剤 適 量
色素 適 量
香料 適 量
精製水 残 余
このヘアリンスは、滑らか感、柔軟性、光沢付与効果および毛髪保護効果に優れるものであった。」(段落【0040】)

(イ)刊行物2に記載された事項
本願の優先日前である1998年1月13日に頒布された刊行物である特開平10-7532号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a)「実施例1?14および比較例1?11 ヘアコンディショナー(洗い流しタイプ)
表1、表2および表3に示す組成および下記製法にてヘアコンディショナーを調製し、使用試験によりすすぎ時の髪の感触(滑らかさ、柔らかさ、しっとり感)、乾燥直後の仕上り時の髪の感触(滑らかさ、柔らかさ、しっとり感)および12時間後の髪の感触(滑らかさ、柔らかさ、しっとり感)を評価し、また組成物の安定性、使用性について評価した。結果を表1、表2および表3に併記する。
【表1】

」(段落【0020】?【0021】)

(ウ)刊行物3に記載された事項
本願の優先日前である1995年2月28日に頒布された刊行物である特開平7-53330号公報(以下、「刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(3a)「【表4】
ヘアトリートメント: (%)
ジメチルポリシロキサン(重合度3300) 1.5
ジメチルポリシロキサン(重合度30) 5.0
片末端アイオネン変性シリコーン(参考例2) 1.5
ペンタエリスリトール・イソステアリル
グリシジルエーテルの1モル付加体 3.0
ジエチレングリコールエチルエーテル 5.0
ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド 2.0
ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド^(*1) 1.0
セタノール 5.0
パルミチン酸イソプロピル 1.0
ポリオキシエチレンステアリルエーテル(S.E.O) 0.5
メチルパラベン 0.2
香料 0.5
水 バランス
・・・
本発明のヘアトリートメントは、平滑性、柔軟性に優れ、しっとり感、サラサラ感が良好であった。

【表5】
コンディショニングムース: (%)
ジメチルポリシロキサン(重合度3300) 0.5
ジメチルポリシロキサン(重合度40) 1.5
カチオン化シリコーン重合体(参考例2) 0.8
ペンタエリスリトール・イソステアリル
グリシジルエーテルの1モルの付加体 1.0
グリセリン 2.5
パルミチン酸イソプロピル 2.5
2-ヘキシルデシルトリメチルアンモニウムクロリド 0.5
モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン 0.2
95%エタノール 5.0
メチルパラベン 0.1
香料 0.1
LPG(4.0kg/cm^(2)G、20℃) 10.0
水 バランス
本発明のコンディショニングムースは、平滑性に優れ、パサつきのない、しっとり、サラサラした良好な感触を示した。

【表6】
スタイリングムース: (%)
ジメチルポリシロキサン(重合度3300) 0.5
オクタメチルシクロテトラシロキサン 1.5
カチオン化シリコーン重合体(参考例2) 0.5
フィタントリオール 0.8
イソプレングリコール 0.5
2-ドデシルヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド 0.5
ミリスチン酸イソプロピル 0.5
ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル(E.O.=10) 0.5
プラサイズ L53P 8.0
エタノール 5.0
香料 0.2
色素 0.01
水 バランス
LPG(4.0kg/cm^(2)G、20℃) 10.0
本発明のスタイリングムースは、くし通り性、平滑性に優れ、パサつきがなく、しっとり感、サラッと感も良好であった。」(段落【0166】?【0171】)

(エ)刊行物4に記載された事項
本願の優先日前である1983年10月18日に頒布された刊行物である特開昭58-177909号公報(以下、「刊行物4」という。)には、以下の事項が記載されている。

(4a)「試験例2
下記表-2に示す配合のヘア・リンス組成物を調製し、その粒子径を評価した。その結果、このヘア・リンス組成物は、粒子径の評価基準を満足していた。

」(第4頁左上欄第8行?右上欄)

(オ)刊行物5に記載された事項
本願の優先日前である1998年2月3日に頒布された刊行物である特開平10-29916号公報(以下、「刊行物5」という。)には、以下の事項が記載されている。

(5a)「実施例4(ヘアトリートメント剤)
下記成分を均一に混合することにより、下記組成のヘアトリートメント剤を調製した。得られたヘアトリートメント剤は、しっとり感、柔軟性、平滑性に優れ、油性感、湿潤状態でのきしみ感もなく、良好な感触を与えるものであった。
成 分 配合量(重量%)
──────────────────────────────────
両末端3-C_(1)-C_(45)変性ジメチルポリシロキサン^(*1) 3.0
ジメチルポリシロキサン(重合度3000) 1.5
ジメチルポリシロキサン(重合度300) 5.0
ジエチレングリコールエチルエーテル 5.0
ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド 2.0
ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド^(*2) 1.0
セタノール 4.0
パルミチン酸イソプロピル 1.0
ポリオキシエチレンステアリルエーテル(S.E.O) 0.5
メチルパラベン 0.2
香料 0.5
水 バランス
──────────────────────────────────
計 100
注)・・・

実施例5(コンディショニングムース)
下記成分から常法により、下記組成のコンディショニングムースを調製した。得られたコンディショニングムースは、しっとり感、柔軟性、平滑性に優れ、油性感、湿潤状態でのきしみ感もなく、良好な感触を与えるものであった。
成 分 配合量(重量%)
──────────────────────────────────
両末端 C_(40)変性ジメチルポリシロキサン^(*1 ) 1.0
ジメチルポリシロキサン(重合度120) 1.5
グリセリン 2.5
パルミチン酸イソプロピル 2.5
2-ヘキシルデシルトリメチルアンモニウムクロライド 0.5
モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン 0.2
95%エタノール 5.0
メチルパラベン 0.1
香料 0.1
LPG^(*2 ) 10.0
水 バランス
──────────────────────────────────
計 100.0
注)・・・」(段落【0043】?【0045】)

(オ)刊行物6に記載された事項
本願の優先日前である1998年10月13日に頒布された刊行物である特開平10-273426号公報(以下、「刊行物6」という。)には、以下の事項が記載されている。

(6a)「【従来の技術】従来、毛髪処理剤に使用される第4級アンモニウム有機酸塩として、長鎖アルキル基を有する第4級アンモニウム塩で、対イオンにカルボン酸、スルホン酸、リン酸を有するもの(特開平8-208443号公報)が知られている。
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これらの第4級アンモニウム塩は、生分解性、人に対する刺激性、使用性(毛髪のスベリ、しっとり感等に代表される使用後の風合い)について、従来のクロライド塩に比較して改良できているが、いまだ充分とはいえない。また、製品粘度が上がらず乳化安定性が悪い点や、乳化しにくい点等の問題点があった。
【課題を解決するための手段】本発明者らは、これらの問題点を解決すべく鋭意検討した結果、第4級アンモニウムの対イオンがアミノ酸のアニオンであるアミノ酸アンモニウム塩を必須成分とする毛髪処理剤が、生分解性、使用性に優れ、かつ製品粘度が上がり乳化安定性も優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、下記一般式(1)で表される、第4級アンモニウムのアミノ酸塩(A)を必須成分とする毛髪処理剤である。
【化1】

式中、X^(1 )は、アミド基を表す。R^(1 )は、アルキル基、アルケニル基又はヒドロキシアルキル基を表し、R^(2) は、アルキレン基、アルケニレン基又はヒドロキシアルキレン基を表し、かつ、R^(1) とR^(2) の炭素数の合計は6?32である。R^(3) 及びR^(4) は、同一若しくは異なって、R^(1) -X^(1) -R^(2) -基(式中、R^(1) 、X^(1) 、R^(2 )は、前記と同じ)、R^(6 )-X^(2) -R^(7) -基(式中、X^(2 )は、エステル基を表す。R^(6) は、アルキル基、アルケニル基又はヒドロキシアルキル基を表し、R^(7) は、アルキレン基、アルケニレン基又はヒドロキシアルキレン基を表し、かつ、R^(6) とR^(7) の炭素数の合計は6?32である)、炭素数1?4のアルキル基、又は、炭素数1?4のヒドロキシアルキル基を表す。R^(5) は、炭素数1?4のアルキル基又は炭素数1?4のヒドロキシアルキル基を表す。Q^(-) は、アミノ酸のアニオンを表す。」(段落【0002】?【0007】)

(6b)「上記第4級アンモニウムのアミノ酸塩(A)は、単独で使用しても、生分解性、人に対する低刺激性、使用性(毛髪のスベリ、しっとり感等に代表される使用後の毛髪の風合い)等の性能を充分発揮する。」(段落【0044】)

(3)刊行物1に記載された発明
刊行物1の上記摘記事項(1d)には、「
ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド 2.0重量%
ステアリン酸 3.0重量%
ベヘニン酸 3.0重量%
高分子量ジメチルポリシロキサン 3.0重量%
(一般式(II)中、R^(3) はメチル基、R^(4 )は水酸基、n=5,000 )
ジメチルポリシロキサン(6cs) 15.0重量%
セチル2-エチルヘキサノエート 2.0重量%
POE(60)硬化ヒマシ油誘導体 0.5重量%
プロピレングリコール 5.0重量%
L-グルタミン酸 1.0重量%
クエン酸 0.5重量%
ヒドロキシエチルセルロース 0.2重量%
防腐剤 適 量
色素 適 量
香料 適 量
精製水 残 余
からなるヘアリンス」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(4)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ヘアリンス」は、「組成物」であり、また、本願補正明細書の段落【0010】の「本発明の化粧用理髪剤は、スプレー‐又は発泡可能であり、通常、毛髪に関する公知のあらゆる化粧品用用途に対して添加することができる。例えば、スプレー養生剤、泡状養生剤、リンス又はトリートメントの形態のものである」、段落【0051】の「上記の本発明の理髪剤は、液体状の理髪剤において公知の塗布形態、特にリンス、スプレー‐及び泡状養生剤又はトリートメントとすることができる」との記載からみて、本願補正発明の「理髪組成物」に相当するといえる。

引用発明の「ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド」は、本願補正発明の「下記の一般式(Ia)及び/又は(Ib):
【化1】

〔上式にて、R1は、分枝していても分枝していなくても、飽和であっても不飽和であってもよい、8?24個の炭素原子を有するアシル残基又はアルキル残基であり、この際、当該アシル残基及び/又はアルキル残基は、少なくとも1個のOH‐基を含むことができ、R2、R3及びR4は、同じものであっても異なるものであっても、飽和であっても不飽和であってもよい、1?4個の炭素原子を有するアルキル残基又はHであり、X^(-)はアニオンで、nは、1?10の間の整数を示す〕
のアミン及び/又は第4級アミン」の一般式(Ia)における、R1が分岐していない飽和の18個の炭素原子を有するアシル残基であり、R2及びR3が同じものであって飽和の2個の炭素原子を有するアルキル残基であり、nが2である化合物である。
また、引用発明において、「ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド」は「2.0重量%」配合されているから、本願補正発明と同様に、「0.01?10重量%」の範囲内で配合されているといえる。

引用発明の「高分子量ジメチルポリシロキサン(一般式(II)中、R^(3) はメチル基、R^(4 )は水酸基、n=5,000 )」及び「ジメチルポリシロキサン(6cs)」は、刊行物1の上記摘記事項(1a)の一般式(II)と併せてみると、本願補正発明の「シリコーン及び/又はアミノシリコーン及びその誘導体の少なくとも1種」であって「前記シリコーンが、下記の一般式(II)、(III) 及び(IV):
【化2】

〔上式にて、R6は、トリメチルシリル又はOHであり、R7は、メチル又はOHであり、R8は、トリメチルシリル又はHであり、aは、1?8の間の整数であり、bは、1?5の間の整数であり、x及びyは、任意の整数値を示す〕
【化3】

〔上式にて、x及びyは、任意の整数値を示す〕
【化4】

〔上式にて、R9は、メチル又はOHであり、R10は、メチル又はフェニルであり、n=任意の整数値を示す〕
で表される化合物群から選ばれたものであること」のうちの一般式(IV)の化合物に相当する。

また、引用発明の「セチル2-エチルヘキサノエート」は、「セチルアルコール」(16個の炭素原子を有する直鎖アルコール)と「2-エチルヘキサン酸」とのエステルであるから、本願補正発明の「脂肪族性の、線状又は分枝のあるカルボン酸と第1級又は第2級で、分枝のある又は分枝のないアルコールとのエステル」であって、「前記のカルボン酸とエステル化した、第1級又は第2級で、分枝のある又は分枝のない前記アルコールが、1?6個の炭素原子を有している」ものとは、「アルコール」の「炭素原子」数で異なるものの、「脂肪族性の、線状又は分枝のあるカルボン酸と第1級又は第2級で、分枝のある又は分枝のないアルコールとのエステル」である点で共通する。

そして、引用発明の「ヘアリンス」は、上記成分以外の成分を含むものであるが、本願補正発明も、本願明細書の段落【0037】の「本発明による理髪剤には、少なくとも1種の粘性付与剤(Konsistenzgeber) を更に含有させることができる」、段落【0045】の「もちろん、本発明の理髪剤は、頭髪化粧料において通常で、しかも公知のあらゆる助剤、作用物質及び添加剤を含有することができる」の記載からみて、これらの成分を含む態様を包含しているといえる。

したがって、両者は、
「0.01?10.0重量%の間の量の、下記の一般式(Ia)及び/又は(Ib):
【化1】

〔上式にて、R1は、分枝していても分枝していなくても、飽和であっても不飽和であってもよい、8?24個の炭素原子を有するアシル残基又はアルキル残基であり、この際、当該アシル残基及び/又はアルキル残基は、少なくとも1個のOH‐基を含むことができ、R2、R3及びR4は、同じものであっても異なるものであっても、飽和であっても不飽和であってもよい、1?4個の炭素原子を有するアルキル残基又はHであり、X^(-)はアニオンで、nは、1?10の間の整数を示す〕
のアミン及び/又は第4級アミンと、脂肪族性の、線状又は分枝のあるカルボン酸と第1級又は第2級で、分枝のある又は分枝のないアルコールとのエステルの少なくとも1種と、シリコーン及び/又はアミノシリコーン及びその誘導体の少なくとも1種とを組み合わせて含有していること、及び
前記シリコーンが、下記の一般式(II)、(III) 及び(IV):
【化2】

〔上式にて、R6は、トリメチルシリル又はOHであり、R7は、メチル又はOHであり、R8は、トリメチルシリル又はHであり、aは、1?8の間の整数であり、bは、1?5の間の整数であり、x及びyは、任意の整数値を示す〕
【化3】

〔上式にて、x及びyは、任意の整数値を示す〕
【化4】

〔上式にて、R9は、メチル又はOHであり、R10は、メチル又はフェニルであり、n=任意の整数値を示す〕
で表される化合物群から選ばれたものであること
を特徴とする理髪組成物。」

という点で一致するが、以下の点で相違する。

相違点:「脂肪族性の、線状又は分枝のあるカルボン酸と第1級又は第2級で、分枝のある又は分枝のないアルコールとのエステル」について、本願補正発明では、「アルコール」が「1?6個の炭素原子を有している」ものであるのに対し、引用発明では、「セチル2-エチルヘキサノエート」、すなわち、「アルコール」である「セチルアルコール」の炭素数が16である点。

(5)判断
(ア)相違点について
刊行物1の上記摘記事項(1b)には、「本発明の毛髪化粧料は、必要に応じて、上記必須成分に加えて、毛髪化粧料で一般に使用される他の成分を本発明の効果を損なわない質的、量的範囲内で使用することができる。例えば、・・・;イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート等のエステル油;・・・等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を任意に配合することができる」と記載されており、「1?6個の炭素原子を有」するアルコールと脂肪族カルボン酸との「エステル」である「イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート等のエステル油」を配合できることが記載されている。

また、刊行物2の上記摘記事項(2a)、刊行物3の上記摘記事項(3a)、刊行物4の上記摘記事項(4a)、刊行物5の上記摘記事項(5a)に記載されているように、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、ヘアトリートメント、コンディショニングムース、スタイリングムース等の理髪剤において、「イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート等のエステル油」を配合することは、本願の優先日前から行われていたことといえる。

そうすると、引用発明において、「脂肪族性の、線状又は分枝のあるカルボン酸と第1級又は第2級で、分枝のある又は分枝のないアルコールとのエステル」として、「セチル2-エチルヘキサノエート」に代えて、又は、加えて、「1?6個の炭素原子を有」するアルコールと脂肪族カルボン酸との「エステル」である「イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート等のエステル油」を配合することは当業者が容易に想到し得たことといえる。

(イ)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、本願補正明細書の段落【0057】?【0063】の実施例・比較例の【表3】の「片側試験の結果」からみて、「湿潤時の手触り」、「湿潤時の櫛通り性」、「乾燥時の手触り」、「乾燥時の櫛通り性」、「柔軟性」に優れたものが得られることであるといえる。
しかしながら、刊行物1の上記摘記事項(1d)には、引用発明の「ヘアリンス」について、「滑らか感、柔軟性、光沢付与効果および毛髪保護効果に優れるものであった」と、(1c)には、「滑らか感」について「各試料を女性20名の専門パネラーにて1週間連用後、使用中および使用後(乾燥後)の毛髪の滑らか感を官能評価した」こと、「柔軟性」について「各試料を女性20名の専門パネラーにて1週間連用後、使用中および使用後(乾燥後)の毛髪の柔軟性を官能評価した」ことが記載されている。「滑らか感」と「柔軟性」に優れれば、「手触り」や「櫛通り性」も優れたものとなると認められるから、本願補正発明の効果は、引用発明に比べて格別顕著なものと認めることはできない。

(6)その他
平成20年12月26日付け審判請求書に対する平成21年2月27日付け手続補正書において、請求人は、「本願発明の課題は、これまでカチオン性理髪物質として幅広く添加されてきたジステアリルジメチルアンモニウムクロリド(DSDMAC)の良くない生体分解性の問題(出願当初明細書の段落番号0003)、及び、スプレーや発泡性を必要とする液体化粧用薬剤の場合にはカチオン性界面活性剤を使用しないと安定したエマルジョンが得られないという問題(同書、段落番号0004)を解決し、「DSDMAC及び/又は構造類似化合物を含まないにもかかわらず、非常に優れた理髪特性を有した理髪剤を提供すること」(同書、段落番号0005)である」と主張する。
しかしながら、「DSDMAC」は4級アンモニウム塩であるが、カチオン性の毛髪処理剤として、「ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド」等の本願補正発明の一般式(Ia)及び/又は(Ib)のアルキロイルアミドアミン化合物が、4級アンモニウム塩に比べて、生分解性に優れることは、本願の優先日前から知られていたことであるから(刊行物6の上記摘記事項(6a)?(6b)の他、特開平6-316511号公報の段落【0002】?【0007】、【0009】を参照)、請求人のこの主張を採用することはできない。

さらに、平成20年12月26日付け審判請求書に対する平成21年2月27日付け手続補正書において、請求人は、「本願発明の理髪組成物が、これら引用文献記載の理髪剤では得られない格別の作用効果を発揮する優れた製品であることは明らかである。このように、上記の3成分が併含された場合の優れた理髪効果は、本願発明者等によってはじめて見い出されたものであり、前記引用文献1?6及び/又は引用文献12?18のいずれにも、前述の3成分を併含させることで優れた理髪効果が発揮されることについては開示も示唆もされていないのだから、本願発明は進歩性を有するものである」と主張する。
しかしながら、上記(5)(ア)で検討したとおり、引用発明において、「セチル2-エチルヘキサノエート」に代えて、又は、加えて、「1?6個の炭素原子を有」するアルコールと脂肪族カルボン酸との「エステル」である「イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート等のエステル油」を配合することは当業者が容易に想到し得たことといえる。また、本願発明の効果も、上記(5)(イ)で検討したとおり、引用発明に比べて、格別顕著なものと認めることはできないから、請求人のこの主張も採用することはできない。

(7)まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物1?5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおり、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、本件補正は、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成21年1月23日付け手続補正書は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?9に係る発明は、平成20年6月10日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「0.01?10.0重量%の間の量の、下記の一般式(Ia)及び/又は(Ib):
【化1】

〔上式にて、R1は、分枝していても分枝していなくても、飽和であっても不飽和であってもよい、8?24個の炭素原子を有するアシル残基又はアルキル残基であり、この際、当該アシル残基及び/又はアルキル残基は、少なくとも1個のOH‐基を含むことができ、R2、R3及びR4は、同じものであっても異なるものであっても、飽和であっても不飽和であってもよい、1?4個の炭素原子を有するアルキル残基又はHであり、X^(-)はアニオンで、nは、1?10の間の整数を示す〕
のアミン及び/又は第4級アミンと、脂肪族性の、線状又は分枝のあるカルボン酸と第1級又は第2級で、分枝のある又は分枝のないアルコールとのエステルの少なくとも1種と、シリコーン及び/又はアミノシリコーン及びその誘導体の少なくとも1種とを組み合わせて含有し、しかも、前記のカルボン酸とエステル化した、第1級又は第2級で、分枝のある又は分枝のない前記アルコールが、1?6個の炭素原子を有していることを特徴とする理髪組成物。」

2 原査定の概要
原査定における拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された以下の刊行物である引用文献1?6、10?19に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることを含むものである。

1.特開平09-071516号公報(上記「刊行物1」と同じ。以下も「刊行物1」という。)
2.特開平09-071517号公報
3.特開平05-271035号公報
4.特開平10-273426号公報(上記「刊行物6」と同じ。以下も「刊行物6」という。)
5.国際公開第98/24401号
6.国際公開第98/24402号
10.特開昭52-041243号公報
11.特開平03-058908号公報
12.特開平04-134020号公報
13.特開平04-134022号公報
14.特開平04-283237号公報
15.特開平10-007532号公報(上記「刊行物2」と同じ。以下も「刊行物2」という。)
16.特開平07-053330号公報(上記「刊行物3」と同じ。以下も「刊行物3」という。)
17.特開昭58-177909号公報(上記「刊行物4」と同じ。以下も「刊行物4」という。)
18.特開平10-029916号公報 (上記「刊行物5」と同じ。以下も「刊行物5」という。)
19.特開平06-107525号公報

3 引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、4、15?18(「刊行物1?6」と同じ)の記載事項は、「第2 平成21年1月23日付け手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(2)刊行物に記載された事項」に記載したとおりであり、引用発明は同「(3)刊行物1に記載された発明」に記載したとおりである。

4 対比・判断
前記「第2 平成21年1月23日付け手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(1)補正の目的の適否」で検討したように、本願補正発明は、本願発明を特定するために必要な事項を限定したものであるから、本願発明は本願補正発明を包含するものである。

そうすると、本願発明の構成要件の全てを含み、さらに構成要件を減縮したものに相当する本願補正発明は、前記「第2 平成21年1月23日付け手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(4)対比」?「(5)判断」に記載したとおり、刊行物1?5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これを包含する本願発明も、同様の理由により、本願の出願前に頒布された刊行物1?5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余のことについて検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-08 
結審通知日 2012-03-14 
審決日 2012-03-28 
出願番号 特願2000-596908(P2000-596908)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安川 聡平林 由利子胡田 尚則  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 杉江 渉
関 美祝
発明の名称 理髪剤  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  

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