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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1261183
審判番号 不服2010-18547  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-18 
確定日 2012-08-09 
事件の表示 特願2006-110526「回転センサ付き転がり軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月1日出願公開、特開2007-285337〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成18年4月13日の出願であって、平成22年5月13日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成22年8月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

II.平成22年8月18日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年8月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
内輪が軸部材に外嵌され、外輪の内径面の両端部にシールを装着するためのシール溝が設けられた転がり軸受における、前記内輪と外輪の軌道輪のうちの回転軌道輪に、円周方向で交互にN極とS極に着磁された磁気エンコーダを装着し、この磁気エンコーダの回転に伴う磁束の変化を検出するセンサ素子を収納したセンサユニットを固定軌道輪に装着して、前記回転軌道輪の回転を検出する回転センサ付き転がり軸受において、前記外輪の内径面の一方のシール溝に芯金を加締めて固定し、この芯金に前記磁気エンコーダまたはセンサユニットを装着し、前記磁気エンコーダの磁極と前記センサユニットのセンサ素子とを、相対的に内外方向に対向する配置としたことを特徴とする回転センサ付き転がり軸受。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
内輪が軸部材に外嵌され、外輪の内径面の両端部にシールを装着するためのシール溝が設けられた転がり軸受における、前記内輪と外輪の軌道輪のうちの回転軌道輪に、円周方向で交互にN極とS極に着磁された磁気エンコーダを装着し、この磁気エンコーダの回転に伴う磁束の変化を検出するセンサ素子を収納したセンサユニットを固定軌道輪に装着して、前記回転軌道輪の回転を検出する回転センサ付き転がり軸受において、前記外輪の内径面の一方のシール溝に芯金を加締めて固定し、この芯金に前記磁気エンコーダまたはセンサユニットを装着し、前記磁気エンコーダの磁極と前記センサユニットのセンサ素子とを、相対的に内外方向に対向する配置とし、前記センサ素子の出力ケーブルのうち、前記センサユニットから外部に延びた部分の途中、または、前記センサ素子の出力ケーブルのうち、前記センサユニットから外部に延びた部分の先端に取り付けたコネクタの内部に、センサ素子の検出出力を処理する処理回路を設けたことを特徴とする回転センサ付き転がり軸受。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項であるセンサ素子に関し、「前記センサ素子の出力ケーブルのうち、前記センサユニットから外部に延びた部分の途中、または、前記センサ素子の出力ケーブルのうち、前記センサユニットから外部に延びた部分の先端に取り付けたコネクタの内部に、センサ素子の検出出力を処理する処理回路を設け」とその構成を限定的に減縮するものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、図1(a)、図2、図3(a)の記載とともに、「前記センサ素子の出力ケーブルの途中、または、出力ケーブルの先端に取り付けたコネクタの内部に、センサ素子の検出出力を処理する処理回路を設け」(請求項4、段落【0014】、及び段落【0018】)、「その出力ケーブル8bの途中に、センサ素子8aの検出出力を処理する処理回路8cが設けられている。」(段落【0020】)、「センサユニット8の出力ケーブル8bの先端に、センサ素子8aの検出出力を処理する処理回路を内蔵するコネクタ8dが取り付けられている。」(段落【0023】)、「図3(a)、(b)は、第3の実施形態を示す。この回転センサ付き転がり軸受は、基本的な構成は第1の実施形態のものと同じであり」(段落【0024】)、及び「上述した各実施形態では、センサ素子の検出出力を処理する処理回路をセンサユニットの出力ケーブルに設けたが、この処理回路はセンサユニットの内部に収納してもよい。」(段落【0025】)と記載されている。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特表2004-522963号公報
(2)刊行物2:国際公開第2005/043088号
(3)刊行物3:特開2002-349557号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「回転要素の回転速度の検出装置」に関して、図面(特に、FIG.1及び6を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「【0001】
本発明は、回転要素の回転速度の検出装置に関し、ローラスケート、スケートボード、自転車あるいはスクータに用いられることができ、該装置ではホイールの回転の検知が可能となっている。」(第3頁第37?40行、段落【0001】参照)
(b)「【0033】
図1に見られるように、インラインスケートのホイール1には孔部2が形成されていて、この孔部は、ころがり軸受5,6の組込みのために、両端で円筒状の軸受座面3,4によって延長されている。二つの円筒状の座面3,4はホイールの回転軸線と同一の中央線を有し、これらの直径は互いに正確に同じとなっており、ホイールの上記孔部2よりも若干大きくなっている。ころがり軸受5,6は同じであり、該軸受は、転動軌道8が形成されている回転外輪7と、転動軌道10が形成されている非回転内輪9と、二つの転動軌道8,10の間に一列に配され、保持器12によって周方向で互いに離間保持されている複数の転動体11、例えばボールとを有している。
【0034】
各ころがり軸受の外輪7は、その外円筒面7aにて、ホイール1の対応座面3,4に装着されている。ホイール1は一部材から成っていて、同一軸線上に孔部2と軸受支持面とを有している。
【0035】
ころがり軸受5,6の内輪9は、該ころがり軸受5,6の組込みのために両端で円筒状の軸受座面14,15が形成されたスリーブ状のスペーサ13によって支持されている。スペーサ13は、該スペーサ13とホイール1から両側に突出するスピンドル16に組み付けられている。スペーサ13から突出するスピンドルの突出部分はサポート20の各フランジ18,19に形成された孔部17に入り込んでいる。スピンドル16は一端側ではその頭部21によってそして他端側ではスピンドル16の端部に螺合するねじ体22によって正規位置に保たれている。上記ねじ体22はサポート20のフランジ19の孔部17の直径よりも大きい直径の頭部23を有しており、上記フランジ19のラジアル面に当接して、スピンドル16を正規位置に固定している。
【0036】
ころがり軸受6は、転動体11の両側に、側板24,25の形態のシール要素を備えている。シール側板24が外側に位置し、シール側板25はころがり軸受5に向いて内側に位置している。ころがり軸受5もまた、外側に側板26そして内側に側板27の形態のシール要素を備えている。
【0037】
シール側板24?27はシート材から作られていて、対応外輪に形成された溝に取り付けられる部分と、内方に延びるラジアル部分と、対応内輪の外円筒面に近接する短い円筒部とを有している。
【0038】
スペーサ13は合成樹脂材料から作られていて、円筒状の軸受座面14,15部分をなす薄肉な部分と、ころがり軸受5,6の間で、ホイール1の孔部に外周面が近接するように半径外方に厚く形成された厚肉の中央部13bとを有している。スペーサ13の孔部13aはスピンドル16の外周面に接している。
【0039】
センサ支持ブロックを形成する中央部13bには、互いに結線されたセンサ28、エミッタ29そしてバッテリ30が配設されている。エミッタ29とバッテリ30は中央部13bの合成樹脂内に埋設されている。センサ28は上記合成樹脂に対して挿入されていて、ころがり軸受5の側板27に面する環状ラジアル面13cと同一面をなす外面を有している。
【0040】
環状のエンコーダ要素31がころがり軸受5のシール側板27のラジアル部分に取り付けられている。このエンコーダ要素31は、ホイール1の孔部2に当接する外円筒面32と、対応外輪7の前面7bに当接するラジアル面33と、シール側板27のラジアル部分に当接するラジアル面34と、センサ28と対向し該センサとの間に空隙を形成するラジアル面35とを有している。
【0041】
エンコーダ要素31は、強磁性板から作られたシール側板27のラジアル部分に該エンコーダ要素を取り付けるために用いられる二つのマグネット36,37を有している。マグネット36,37はエンコーダ要素31を形成する合成樹脂に埋設されており、ホイール1及び軸受と同心位置で金属シール側板と接している。標準ホイールが検知装置を備えるようにするに必要なことは、上述のエンコーダ要素を二つの軸受の一方の側板に隣接して配し、そしてスペーサを替えることが全てである。もし、エンコーダ自身が磁性型ならばホール効果プローブのような磁気感知センサが使用できる。エンコーダ要素の能動部は局所的に磁化されたプラストフェライトからも作ることができる。
【0042】
組立て作業はきわめて簡単で、エンコーダ要素をホイールの孔部に挿入し、それを磁性側板に接触するように位置づけるだけである。エンコーダ要素31はホイールの孔部2に関して芯出しされているので、マグネットは側板に対して半径方向で完全に位置づけられる。マグネットは側板に接触するようになるので、マグネット36,37はエンコーダ要素を軸受の回転部に対して接触状態を維持するに十分な軸方向力を生じ、該側板は外輪7に固定されたままで、それ自身はホイール1に固定される。明らかなことではあるが、側板とエンコーダ要素との間の接続は、エンコーダ要素31のラジアル面34に接着剤を用いること、そして/あるいは、エンコーダ要素31の外円筒面32とホイール1の孔部2との間で直径方向で干渉せしめて若干のしまり嵌めせしめることにより、補強できる。
【0043】
エンコーダ要素は単一体でも、二つ以上のマグネットを有するようにしても良いことは明らかである。また、マグネットと同一質量の非磁化部材を該マグネットと直径方向で反対側に配すれば、質量不釣合を回避できる。」(第6頁第25行?第7頁第46行、段落【0033】?【0043】参照)
(c)「【0046】
図6に示される実施形態では、マグネット36は、軸受がホイール1に組み込まれる前に、ころがり軸受5の金属側板27に直接接着されている。接着剤の接着能力との関連での磁力は側板27とマグネット36を一体に固着するのに十分である。マグネット36はエンコーダ要素の能動部としても機能する。換言すれば、エンコーダ要素は、単に、磁力と接着による一つもしくはいくつかのマグネットの側板27への固着により成る。マグネットの磁力特性は、側板への取付手段を提供し、また、検知能力を有するセンサでの信号発生手段とをも提供する。」(第8頁第9?16行、段落【0046】参照)
(d)「【0055】
図1ないし4そして図7ないし9に示される実施形態では、マグネットホルダーエンコーダを含む変換キットと、センサとトランスミッタを有するスペーサとを購入するだけでよい。次にすべきことは、エンコーダ要素を一方のころがり軸受に当接して配し、スペーサを二つの軸受の間に配するだけである。スケートは、ホイールの回転速度を示す信号を発するようになり、これは腕時計のように身につけられたレシーバを用いて受信する。
【0056】
図5,6,10そして11で示された実施形態では、キットが予め一つもしくはそれ以上のマグネットが設けられたころがり軸受を有している。この場合は、一方のころがり軸受を交換して、上記したセンサとトランスミッタを有するスペーサを装着するだけでよい。
【0057】
一つの変形例で、少なくとも一つのころがり軸受の少なくとも一つの回転外輪とサポートに組まれたスピンドルに取り付けられたころがり軸受の非回転内輪によって支持されるホイールの回転速度の検知装置は、軸受に隣接する非回転センサと回転エンコーダ手段を有する。エンコーダ手段は回転輪に取り付けられたサポートに固定される。エンコーダ手段は、半径方向そして周方向に位置しセンサ手段に向け位置するサポートの面に至近して配されたサポートの部分を越えるように延び少なくとも一つのマグネットを有する。マグネットはサポートの室に圧入されていて、該エンコーダ手段を上記側板に当接するようにクランプ力を確保している。上記サポートはシール手段を有していてもよい。」(第9頁第3?21行、段落【0055】?【0057】参照)
したがって、回転外輪7の内径面の溝にシール側板を加締めて取り付けことは普通に行われていることに鑑みれば、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
非回転内輪9がスペーサ13を介してスピンドル16に支持され、回転外輪7の内径面の両端部にシール側板26,27を装着するための溝が設けられたころがり軸受5における、前記回転外輪7に、円周方向で二つ以上のマグネット36,37により着磁されたエンコーダ要素31を装着し、このエンコーダ要素31の回転に伴う磁束の変化を検出するセンサ素子を収納したセンサ28を前記スペーサ13に挿入して、前記回転外輪7の回転を検出する回転要素の回転速度の検出装置において、前記回転外輪7の内径面の一方の溝にシール側板27を加締めて取り付け、このシール側板27に前記エンコーダ要素31を磁力と接着により固着し、前記エンコーダ要素31のマグネット36,37と前記センサ28のセンサ素子とを、相対的に軸方向に対向する配置とし、前記センサ28を前記スペーサ13内に埋設されたエミッタ29及びバッテリ30と結線した回転要素の回転速度の検出装置を備えた転がり軸受。

(刊行物2)
刊行物2には、「高分解能の多回転測定システム及びこのシステムを有する軸受」に関して、図面(特に、FIG.1を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、仮訳にあたっては、パテントファミリーである特表2007-509336号公報(以下、「日本公表公報」という。)の記載を参照した。
(e)「本発明は、回転可能部の絶対位置を表わす出力信号を供出できる電子カウンタとストレージを有する、多回転センサの技術分野に関する。かかるセンサは、例えば、回転可能な電気機械を有するリニアジャッキの位置を供出するために用いられる。」(第1頁第3?8行、日本特表公報の第3頁第10?12行、段落【0001】参照)
(f)「さらには、エンコーダが多くの数の磁極をもっているので、各磁極により検出された磁界は弱いが、極がどんな磁気プロファイルであるにせよ、極とセンサの間の距離が大きい程、正弦波に相当するセンサ検出信号が大きくなり、これは三角関数による補間手段の場合、測定の精度を向上させる。」(第4頁第21?27行、日本特表公報の第5頁第3?6行、段落【0019】参照)
(g)「内輪4が外輪2に対して回転すると、エンコーダ16の能動部18はセンサ要素14の前面を通過し、該センサ要素は電気信号を出力する。」(第8頁第4?8行、日本特表公報の第6頁第31及び32行、段落【0034】参照)
(h)「センサブロック11は中央部材15に埋設された電子モジュール22をも有しており、これは一方ではセンサ要素14と、他方ではワイヤ20によりコネクタ21と接続されている。電子モジュール22はセンサ要素にて発生した信号を処理する手段を有している。」(第8頁第12?16行、日本特表公報の第6頁第36?38行、段落【0035】参照)

(刊行物3)
刊行物3には、「センサー付き転がり軸受ユニット」に関して、図面(特に、図1を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(i)「【0001】
この発明は、センサー付き転がり軸受ユニット、さらに詳しくは、センサーを含むセンサー装置が転がり軸受の固定輪側に、被検出部が転がり軸受の回転輪側に一体的に設けられたユニットに関する。」(第2頁第1欄第12?17行、段落【0001】参照)
(j)「ホール素子(14)は、ケース(12)から露出した保持部材(13)の内周面に埋め込み式に固定されて、径方向内側を向いており、ホール素子(14)に接続されたケーブル(15)が、ケース(12)の外に引き出されている。
【0017】
内輪(5)の右端部の外径に、短円筒状の支持部材(16)が固定されている。パルサーリング(3)は、内輪(5)より右側に張り出した支持部材(16)の部分の外径に固定され、ホール素子(14)に径方向内側から近接して対向している。図2に示すように、ホール素子(14)に対向するパルサーリング(3)の外周面には、多数の磁極(N極およびS極)が等間隔をおいて交互に形成されている。」(第3頁第3欄第6?18行、段落【0016】及び【0017】参照)

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「非回転内輪9」は本願補正発明の「内輪」に相当し、以下同様にして、「スペーサ13を介してスピンドル16に支持」は「軸部材に外嵌」に、「回転外輪7」は「外輪」及び「(内輪と外輪の軌道輪のうちの)回転軌道輪」に、「シール側板26,27」は「シール」に、「溝」は「シール溝」に、「ころがり軸受5」は「転がり軸受」に、「エンコーダ要素31」は「磁気エンコーダ」に、「マグネット36,37」は「磁極」に、「センサ28」は「センサユニット」に、「回転要素の回転速度の検出装置を備えた転がり軸受」は「回転センサ付き転がり軸受」に、「取り付け」は「固定」に、「磁力と接着により固着」は「装着」に、それぞれ相当する。また、引用発明の「シール側板27」は、金属側板27であるから、本願補正発明の「芯金」に実質的に相当すること、引用発明の「センサ28をスペーサ13に挿入」は、センサ28は固定軌道輪側である非回転内輪9を支持するスピンドル16に組み付けられたスペーサ13に装着されていることから、本願補正発明の「センサユニットを固定軌道輪に装着」に実質的に相当すること、及び本願補正発明に係る「磁気エンコーダまたはセンサユニット」は選択的記載であることに鑑みれば、両者は、下記の一致点、及び相違点1?3を有する。
<一致点>
内輪が軸部材に外嵌され、外輪の内径面の両端部にシールを装着するためのシール溝が設けられた転がり軸受における、前記内輪と外輪の軌道輪のうちの回転軌道輪に、円周方向で着磁された磁気エンコーダを装着し、この磁気エンコーダの回転に伴う磁束の変化を検出するセンサ素子を収納したセンサユニットを固定軌道輪に装着して、前記回転軌道輪の回転を検出する回転センサ付き転がり軸受において、前記外輪の内径面の一方のシール溝に芯金を加締めて固定し、この芯金に前記磁気エンコーダまたはセンサユニットを装着し、前記磁気エンコーダの磁極と前記センサユニットのセンサ素子とを、相対的に対向する配置とした回転センサ付き転がり軸受。
(相違点1)
本願補正発明は、「円周方向で交互にN極とS極に着磁された磁気エンコーダ」を具備しているのに対し、引用発明は、円周方向で二つ以上のマグネット36,37により着磁されたエンコーダ要素31を具備しているものの、本願補正発明の構成を具備していない点。
(相違点2)
前記磁気エンコーダの磁極と前記センサユニットのセンサ素子に関し、本願補正発明は、相対的に「内外方向に」対向する配置としているのに対し、引用発明は、相対的に軸方向に対向する配置としている点。
(相違点3)
本願補正発明は、「前記センサ素子の出力ケーブルのうち、前記センサユニットから外部に延びた部分の途中、または、前記センサ素子の出力ケーブルのうち、前記センサユニットから外部に延びた部分の先端に取り付けたコネクタの内部に、センサ素子の検出出力を処理する処理回路を設けた」のに対し、引用発明は、センサ28をスペーサ13内に埋設されたエミッタ29及びバッテリ30と結線している点。
以下、上記相違点1?3について検討する。
(相違点1について)
エンコーダにおいて、円周方向で交互にN極とS極に着磁することは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物2の上記摘記事項(f)及びFIG.2、刊行物3の上記摘記事項(j)及び図2、特開2006-17536号公報の段落【0003】、図6を参照)にすぎない。
してみれば、引用発明のエンコーダ要素31に、上記従来周知の技術手段を適用することにより、円周方向で交互にN極とS極に着磁し、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点2について)
回転センサ付き転がり軸受において、磁気エンコーダの磁極とセンサユニットのセンサ素子に関し、相対的に内外方向に対向する配置とすることは、周知の技術手段(例えば、刊行物2には、「内輪4が外輪2に対して回転すると、エンコーダ16の能動部18はセンサ要素14の前面を通過し、該センサ要素は電気信号を出力する。」[上記摘記事項(g)参照]と記載されるとともに、FIG.1から、エンコーダ16の能動部18とセンサ要素14が相対的に内外方向に対向する配置となっていることが看取できる。また、刊行物3には、「パルサーリング(3)は、内輪(5)より右側に張り出した支持部材(16)の部分の外径に固定され、ホール素子(14)に径方向内側から近接して対向している。」[上記摘記事項(j)参照]と記載されているとともに、図1から、パルサーリング3の磁極とセンサー装置2のホール素子14に関し、相対的に内外方向に対向する配置となっていることが看取できる。特開2006-17536号公報の段落【0004】、図6にも同趣旨の記載がある。)にすぎない。
してみれば、引用発明のエンコーダ要素31及びセンサ28に、上記従来周知の技術手段を適用することにより、相対的に内外方向に対向する配置として、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点3について)
回転センサ付き転がり軸受において、センサ素子の信号出力線のうち、センサから外部に延びた部分の途中、または、センサ素子の信号出力線のうち、センサから外部に延びた部分の先端に取り付けたコネクタの内部に、センサ素子の検出出力を処理する処理回路を設けることは、従来周知の技術手段(例えば、特開2006-17536号公報には、「検出出力は外部回路16に含まれる処理回路に与えられ、処理回路で相対角度や回転速度や回転方向などを示す信号が出力され、ケーブル17を介して外部に取出される。」[第5頁第24及び25行、段落【0025】参照]と記載され、図1(a)及び3(a)には、渦電流センサ15のケーブル17のうち、渦電流センサ15から外部に延びた部分の途中に、渦電流センサ15の検出出力を処理する外部回路16が設けられていることが図示されている。特開2005-348521号公報には、「このコネクタ68に出力用の回路を一体化させることで、既存の回転センサ付軸受の内部構成を変更することなく、ラインドライバIC48による検出信号とその反転信号の生成が可能となる。」[第9頁第9?11行、段落【0069】参照]と記載され、図6及び7には、コネクタ68が図示されている。実願平3-67014号[実開平5-19040号]のCD-ROMには、「信号処理回路部10bは、シールドされたケーブル10cで、検出部10aに継ながれている。」[第7頁第21及び22行、段落【0019】参照]、及び「この実施例は、前述の第1実施例の信号回路部10bをコネクタ20に内蔵させ、信号処理回路部10bとコネクタ20を一体にした点のみが、図1に示す第1の実施例と異なる。・・・上記第2の実施例は、信号処理回路10bとコネクタ20を一体にしたので、信号処理回路10bとABS等の制御装置との接続に必要な部品点数を削減できる。」[第8頁第6?14行、段落【0021】及び【0022】参照]と記載され、図1には、ケーブル10cの途中の信号処理回路部10bが、図2には、コネクタ20の内部の信号処理回路部10bが、それぞれ図示されている。つまり、相当多数の文献が存在し、又は業界に知れわたり、あるいは、例示する必要がない程よく知られている技術である。)にすぎない。
してみれば、引用発明のセンサ28の信号出力線に、上記従来周知の技術手段を適用することにより、センサ素子の出力ケーブルのうち、センサユニットから外部に延びた部分の途中、または、センサ素子の出力ケーブルのうち、センサユニットから外部に延びた部分の先端に取り付けたコネクタの内部に、センサ素子の検出出力を処理する処理回路を設けることにより、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。(ちなみに、本願明細書には、「上述した各実施形態では、センサ素子の検出出力を処理する処理回路をセンサユニットの出力ケーブルに設けたが、この処理回路はセンサユニットの内部に収納してもよい。」(段落【0025】参照)と記載されている。)

本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、当審における審尋に対する平成23年1月28日付けの回答書(以下、「回答書」という。)において、「審判請求時の補正後の請求項1に係る発明(注:本審決の「本願補正発明」に対応する。)をさらに限定的に減縮する補正案を提示します。」と述べ、当初明細書等の図1(a)、(b)、図2、図3(a)の図示内容を根拠として、本願補正発明の発明特定事項に加えて、「前記外輪(2)の内径面の一方のシール溝(2b)に、当該外輪(2)よりも軸方向に突き出る円筒部が形成された芯金(6)を当該円筒部の外径側に生じている空間より加締めて固定し、この芯金(6)の前記円筒部の内径面に前記磁気エンコーダ(7)またはセンサユニット(8)を装着」(下線部のみ)すること(以下、「補正案事項」という。)を特定しようとする補正案を提示している。
そこで、念のため、補正案に係る発明の特許性について、一応の判断を示す。
引用発明において認定したように、引用発明は、発明特定事項として、「前記回転外輪7の内径面の一方の溝にシール側板27を加締めて取り付け」た構成を具備している。(ちなみに、審判請求人は、審判請求書の請求の理由[平成22年9月29日付けで手続補正(方式)された。]において、「引用文献1(注:本審決の「刊行物1」に対応する。)には、審査で認定された通り、外輪の内径面の一方のシール溝に芯金を加締めて固定し、この芯金に磁気エンコーダを装着した回転センサ付き転がり軸受が記載されている(FIG.1,FIG.6)。」(「(4)引用文献の開示内容」「1.引用文献1について」)と述べている。)
一方、芯金として、外輪よりも軸方向に突き出る円筒部が形成されたものを用い、その円筒部の内径面を磁気エンコーダ等の装着部分とすることは、従来から知られている技術手段(例えば、特開2006-17536号公報の図1(a)及び3(a)等には、外輪3よりも軸方向に突き出る円筒状の外環13が形成され、その外環13の内径面にセンサハウジング14等の装着部分が設けられていることが記載されている。)にすぎない。(ちなみに、審判請求人は、回答書において、「芯金(6)として、外輪(2)よりも軸方向に突き出る円筒部が形成されたものを用い、その円筒部の内径面を磁気エンコーダ(7)等の装着部分とする要素技術は、従来から採用されています。」[「3.本補正案の詳細」「C.補正案に係る発明(中略)の詳細説明」の項参照]と述べている。)
引用発明に、上記従来から知られている技術手段を適用して、回転外輪7の内径面の一方のシール溝に、回転外輪7よりも軸方向に突き出る円筒部が形成された芯金を加締めて固定しようとする場合に、加締めて固定する作業がし易いように、作業用の空間が必要であることは技術的に自明の事項にすぎないので、補正案は受け入れられないことを付記する。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成22年8月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成22年4月21日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
内輪が軸部材に外嵌され、外輪の内径面の両端部にシールを装着するためのシール溝が設けられた転がり軸受における、前記内輪と外輪の軌道輪のうちの回転軌道輪に、円周方向で交互にN極とS極に着磁された磁気エンコーダを装着し、この磁気エンコーダの回転に伴う磁束の変化を検出するセンサ素子を収納したセンサユニットを固定軌道輪に装着して、前記回転軌道輪の回転を検出する回転センサ付き転がり軸受において、前記外輪の内径面の一方のシール溝に芯金を加締めて固定し、この芯金に前記磁気エンコーダまたはセンサユニットを装着し、前記磁気エンコーダの磁極と前記センサユニットのセンサ素子とを、相対的に内外方向に対向する配置としたことを特徴とする回転センサ付き転がり軸受。」

1.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである


2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明のセンサ素子に関する限定事項である「前記センサ素子の出力ケーブルのうち、前記センサユニットから外部に延びた部分の途中、または、前記センサ素子の出力ケーブルのうち、前記センサユニットから外部に延びた部分の先端に取り付けたコネクタの内部に、センサ素子の検出出力を処理する処理回路を設け」た構成を省くことにより拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?5に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-08 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2012-06-27 
出願番号 特願2006-110526(P2006-110526)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 勇  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
倉田 和博
発明の名称 回転センサ付き転がり軸受  
代理人 田川 孝由  
代理人 鎌田 文二  
代理人 飛永 充啓  

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