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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N |
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管理番号 | 1261304 |
審判番号 | 不服2010-22692 |
総通号数 | 153 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-10-07 |
確定日 | 2012-08-08 |
事件の表示 | 特願2006-226664「移動式燃料分析装置および該移動式燃料分析装置を用いた燃料の品質を測定する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月19日出願公開、特開2007-183242〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成18年8月23日(パリ条約に基づく優先権主張 平成17年12月29日 台湾)に特許出願されたものであって,平成22年5月24日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年10月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。そして,当審において,平成22年10月28日付け前置報告の内容を平成22年11月15日付けで審尋し,平成23年8月5日付けで拒絶理由を通知したところ,請求人から同年11月9日に意見書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?11に係る発明は,平成22年10月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。 「【請求項1】 (a)輸送手段と、イオウ、密度、引火点、蒸留、セタン価、リサーチオクタン価、ベンゼン、メチルベンゼンおよび溶存酸素の分析により得られる複数の供給者からの燃料試料の品質パラメータから変換した近赤外スペクトルを構築してなるデータベースと、および前記輸送手段に装備された近赤外分光器とを含む移動式燃料分析装置を準備する工程と、 (b)前記輸送手段により前記近赤外分光器を燃料供給地点に移動する工程と、 (c)前記燃料供給地点からの燃料試料の近赤外スペクトルを収集する工程と、 (d)前記収集したスペクトルを前記データベース中の前記近赤外スペクトルと比較し、前記収集したスペクトルを対応する品質パラメータに変換することで、前記燃料試料のイオウ、密度、引火点、蒸留、セタン価、リサーチオクタン価、ベンゼン、メチルベンゼンおよび溶存酸素を得る工程と を含み、 ガソリン燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯が1100?1670nmまたは1790?2100nmであり、ディーゼル燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯が1100?1670nmまたは1825?2200nmである燃料の品質を測定する方法。」(以下「本願発明」という) 第3 当審の拒絶理由通知 当審における拒絶理由通知の概略は,以下のとおりである。 本願の請求項1?11に係る発明は,本願優先日前に頒布された刊行物である特開平9-305567号公報(以下「刊行物1」という),特開2003-292110号公報(以下「刊行物2」という)および特開2000-74828号公報(以下「刊行物3」という)に記載された発明ならびに周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 第4 引用刊行物およびその記載事項 1 刊行物1には,「炭化水素燃料の評価方法」に関して,以下の事項が記載されている。 (1-ア) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ガソリン、ディーゼル燃料、ケロシン、ナフサ、ジェットエンジンのうちから選択される炭化水素燃料の一つの種類から、レイド蒸気圧、疑似蒸留値、リサーチオクタン価、モーターオクタン価、酸素成分、比重オクタン価、臭素価、アニリン点、スモーク点、及びこれらの任意の組み合わせ、のいずれかから選択される所望のパラメータを測定するための、炭化水素燃料の評価方法であって、 (1)ニューラルネットワークを構成するコンピュータを用意するステップと、 (2)前記の種類の炭化水素燃料から前記所望のパラメータを測定するために、前記炭化水素燃料ニューラルネットワークの学習を行うステップであって、(a)評価される炭化水素燃料種から複数の炭化水素燃料を選択するステップと、(b)前記複数の炭化水素燃料のそれぞれのNIRスペクトルを得るステップと、(c)ベースライン補正及びその後のベースライン補正されたスペクトルを、評価されるパラメータに対応する所望数のポイントに減縮することで、前記各得られたNIRスペクトルのそれぞれをコード化するステップと、(d)前記所望数のポイントから第一の行列を生成するとともに、この第一の行列は順次前記ニューラルネットワークに入力されるものであるステップと、(e)前記複数の炭化水素燃料の分析的評価によるパラメータ値からなる第二の行列を得るステップと、(f)前記第一の行列と前記第二の行列とを、前記第一の行列と前記第二の行列との間の関数的相関が得られるように前記ニューラルネットワークによって処理して重み付け行列を得るようにするステップと、(g)最適重み付け行列が得られるように、前記ステップ(b)?(f)を繰り返すステップと、 を有するステップとを含むことを特徴とする方法。」 (1-イ) 「【0017】図2に示されるように、ステップ18は測定及び評価される炭化水素を、好ましくはオンライン方式によって、要求する。本発明によれば、炭化水素のNIRスペクトルは、ステップ20において約800nm?約1600nmの範囲の波長において測定される。この範囲において、波長約800nm?約1050nm(第三のオーバートーン及びその再結合バンドに対応)、または波長役1100nm?1500nm(第二のオーバートーン及びその再結合バンドに対応)の範囲を選択することが好ましい。上述した範囲は、メチル、メチレン、親油性及び芳香族の成分が集中していることから、特に好ましい。」 (1-ウ) 「【0049】試験例2 この試験例においては、リサーチオクタン価(RON)の予測値を本発明により求め、ASTM D-2699による実測値と比較した。予測値と測定値とのプロット結果を図7に示す。図示されるように、殆どの予測値は、ASTMの許容範囲内にある。更に、上述したように、第三のオーバートーン、約800nm?約1050nmの範囲内のスペクトル範囲、及びその再結合バンドもまた本発明による予測値の生成に好適である。この例では、RONは、図9に示される第三のオーバートーンから予測される。 【0050】図8において、有効性確認のためのセットにおける値もまた、ASTMの許容範囲内にプロットされている。上記結果は、上述した試験例1のRVPの測定時と同様にして、各ガソリンのスペクトルを1600のポイントから47のポイントに減縮してニューラルネットワークに入力することで得られた。表6?9は、ニューラルネットワークに対する学習セット及び有効性確認セットにおける予測値及びASTMによる値を示す。 【0051】表6、8において、RON予測値は、対応するASTM実測値と比較され、本発明に係るニューラルネットワークの構築に用いられた。平均誤差及び標準偏差値も測定された。これらの値は、ASTM試験により容認される偏差内にあった。ガソリンの個々のサブセットのRON値はその後ニューラルネットワークを用いて予測された。表7及び9に予測値とASTMの実測値とを示す。これらにより、本発明に係るニューラルネットワークの優れた性能を有することが、比較結果から十分に示される。 【0052】 【表6】表6 ガソリン RON ASTM RON予測値 誤差 レギュラー D 2699 gM.001 79.6 79.6 -0.002 gM.002 79.0 79.0 -0.009 gM.003 80.5 80.4 0.060 gM.004 82.2 82.2 -0.009 gM.006 83.0 83.0 0.019 gM.008 81.0 81.0 0.014 gM.009 80.6 80.7 -0.075 gM.010 80.8 80.7 0.059 gM.011 83.6 83.6 0.026 gM.012 84.7 84.4 0.298 gM.014 84.0 83.8 0.209 gM.015 85.0 84.8 0.184 gM 018 83.0 82.8 0.160 gM.020 84.0 84.1 -0.082 gM.021 85.2 85.8 -0.605 gM.022 86.2 85.9 0.273 gM.023 86.9 86.8 0.098 gM.025 87.0 86.9 0.094 平均誤差 0.039 誤差標準偏差 0.2 【0053】 【表7】表7 ガソリン RVP ASTM RON予測値 誤差 レギュラー D 2699 gM.002 79.0 79.0 -0.009 gM.005 82.2 82.5 -0.339 gM.012 84.7 84.4 0.298 gM.016 85.0 84.3 0.739 gM.021 85.2 85.8 -0.605 平均誤差 0.017 誤差標準偏差 0.5 【0054】 【表8】表8 ガソリン RON ASTM RON予測値 誤差 スーパー D 2699 gA.001 95.0 95.2 -0.195 gA.002 94.4 94.3 0.059 gA.003 93.3 93.6 -0.284 gA.004 94.5 94.4 0.106 gA.005 95.3 95.1 0.214 gA.006 95.2 95.2 -0.021 gA.007 95.7 95.5 0.220 gA.008 96.0 96.1 -0.122 gA.010 96.3 96.2 0.053 gA.O11 96.4 96.7 -0.289 gA.012 97.3 97.3 0.024 gA.014 95.7 97.6 -0.116 gA.015 97.0 97.4 -0.386 gA.016 97.4 97.6 -0.239 gA.017 98.4 98.1 0.261 gA.019 98.5 98.5 0.036 gA.020 97.6 97.8 -0.247 gA.022 98.8 98.5 0.257 gA.023 99.0 99.0 0.050 gA.025 98.0 97.8 0.167 gA.026 98.1 98.3 -0.215 平均誤差 -0.032 誤差標準偏差 0.2 【0055】 【表9】表9 ガソリン RON ASTM RON予測値 誤差 スーパー D 2699 gA.013 97.3 97.9 -0.573 gA.018 98.4 97.8 0.647 gA.021 98.5 98.6 -0.118 gA.024 99.0 98.9 0.060 平均誤差 0.014 誤差標準偏差 0.5」 そして,上記記載事項(1-ア)?(1-ウ)および図1?9を総合すると,刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。 「ガソリン,ディーゼル燃料,ケロシン,ナフサ,ジェットエンジンのうちから選択される炭化水素燃料の一つの種類から,レイド蒸気圧,疑似蒸留値,リサーチオクタン価,モーターオクタン価,酸素成分,比重,オクタン価,臭素価,アニリン点,スモーク点,及びこれらの任意の組み合わせ,のいずれかから選択される所望のパラメータを測定するための炭化水素燃料の評価方法であって,ニューラルネットワークを構成するコンピュータと近赤外分光器とを含む燃料分析装置を準備し,約800nm?約1600nmの範囲の波長における前記炭化水素燃料の試料の近赤外スペクトルを収集し,前記コンピュータにより前記収集したスペクトルに対応する前記パラメータに変換する方法。」(以下「引用発明」という) 2 刊行物2には,「PETボトルの回収方法及び専用回収車」に関して,以下の事項が記載されている。 (2-ア) 「【請求項1】 廃棄PETボトルを専用回収車で回収し、該専用回収車に備えられた分別手段で異種素材ボトルと該PETボトルを分別し、該専用回収車に備えられた破砕手段で該PETボトルを破砕し、得られた破砕物を該専用回収車内に貯蔵し、再生工場に運ぶことを特徴とするPETボトルの回収方法。 【請求項2】 上記廃棄PETボトルが、地方自治体又は民間会社が収集したベール化されていないボトルである請求項1に記載のPETボトルの回収方法。 【請求項3】 PETボトルを選別するための分別手段と、該PETボトルを破砕するための破砕手段と、得られた破砕物を貯蔵するための貯蔵手段とを含んでなるPETボトル専用回収車。 【請求項4】 上記分別手段が、近赤外線又はX線を利用した分別装置である請求項3に記載のPETボトル専用回収車。」 (2-イ) 「【0013】専用回収車に備えられた分別手段は、PETボトルを異種ボトルと選別することができる手段であればよい。ここで、異種ボトルとは、主にポリ塩化ビニル(PVC)ボトルであり、PVCボトルが混入した場合、加熱すると塩素を発生し、設備を腐食させる等の問題を生じる。また、PVCは、PETとほとんど同じ比重を有しているため、フレーク化後に分別することは困難である。従って、破砕前にPVCボトルを排除し、PETボトルのみを分別する分別手段が必要となる。分別手段としては、好ましくは近赤外線吸収ピークの違いを用いる分光器を用いる。若しくは、X線の透過度の差で識別する選別装置を用いても良い。PETの近赤外線吸光ピークは1660?1669nmに現れるのに対しPVCの吸光ピークは1716?1729nmと1746?1754nmの二つが現れることにより分別が容易に出来ることがわかる(図4)。更にこの手法を用いるとPP、PE、PS等の異種プラスチックボトルの分別も可能となり、よってそれらの異種ボトルの除去も可能となる。具体的な分別手法は、整列して搬送するベルト上のPETボトルの胴側に近赤外線を照射し、その吸光度によって識別するものである。その際、判別した異種ボトルは高圧空気により、若しくは、搬送ルートを切り替えることによって装置外へ除去される。」 3 刊行物3には,「近赤外スペクトル法による炭化水素の物性値の分析方法」に関して,以下の事項が記載されている。 (3-ア) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はガソリン等の製品およびガソリン基材等の原料で代表される炭化水素類の物性値、例えばオクタン価、密度、蒸気圧等を近赤外分析法によって分析する方法に関する。」 (3-イ) 「【0017】近赤外スペクトル測定条件 装置:回折格子式(UOP-Guided Wave InSite IV) 波長範囲:1000?2100nm、1nm毎、201点 セル:1cmギャップ、プローブ式 温度:15℃ スペクトル処理 ベースライン位置補正、スムージング 統計解析 手法:PLS(部分二乗回帰分析) 波長:1100?1500nm、2nm毎 ・・・・・ 【0020】近赤外スペクトル測定条件 装置:回折格子式(UOP-Guided Wave InSite IV) 波長範囲:1000?2100nm、1nm毎 セル:1cmギャップ、プローブ式 温度:15℃ スペクトル処理 ベースライン位置補正、スムージング 統計解析 手法:PLS(部分二乗回帰分析) 波長:1100?1500nm、2nm、201点」 第5 対比・判断 1 対比 本願発明と引用発明を対比すると, (1)本願発明の「・・、蒸留・・の分析」および「・・、蒸留・・を得る」という特定は,「蒸留」が燃料試料に対する処理操作であって,燃料試料の「品質パラメータ」ではないものの,発明の詳細な説明および図面の記載を参照すると,本願発明の「蒸留」とは,燃料試料の含有成分の違いを知ることのできる所定%量まで蒸留が行われる蒸留温度を意味しているといえる。 (2)引用発明の「ガソリン,ディーゼル燃料,ケロシン,ナフサ,ジェットエンジンのうちから選択される炭化水素燃料の一つの種類」が,本願発明の「複数の供給者からの燃料試料」に相当することは明らかである。 (3)引用発明の「レイド蒸気圧,疑似蒸留値,リサーチオクタン価,モーターオクタン価,酸素成分,比重,オクタン価,臭素価,アニリン点,スモーク点,及びこれらの任意の組み合わせ,のいずれかから選択される所望のパラメータ」と,本願発明の「イオウ、密度、引火点、蒸留、セタン価、リサーチオクタン価、ベンゼン、メチルベンゼンおよび溶存酸素の分析により得られる複数の供給者からの燃料試料の品質パラメータ」とは,「燃料試料の品質パラメータ」である点で共通することは明らかである。 (4)「炭化水素燃料の評価」とは,「燃料の品質を測定」することを意味するから,引用発明の「所望のパラメータを測定し炭化水素燃料の評価方法」は,本願発明の「燃料の品質を測定する方法」に相当するといえる。 (5)引用発明の「ニューラルネットワークを構成するコンピュータを準備」することと本願発明の「構築してなるデータベース」を準備することとは,「コンピュータを準備」する点にて共通するといえる。 (6)「約800nm?約1600nm」の範囲と「1100?1670nm」の範囲は,すくなくとも「1100?約1600nm」にて重複するから,引用発明の「約800nm?約1600nmの範囲の波長における前記炭化水素燃料の試料の近赤外スペクトルを収集し」と,本願発明の「ガソリン燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯が1100?1670nmまたは1790?2100nmであり、ディーゼル燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯が1100?1670nmまたは1825?2200nmである燃料の品質を測定する」とは,「ガソリン燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯が1100?約1600nmであり、ディーゼル燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯が1100?約1600nmである燃料の品質を測定する」点にて共通するといえる。 そうすると,両者は (一致点) 「 (a)燃料試料の品質パラメータから変換した近赤外スペクトルを構築し,および近赤外分光器を含む燃料分析装置を準備する工程と, (c)前記燃料試料の近赤外スペクトルを収集する工程と, (d)前記収集したスペクトルを前記データベース中の前記近赤外スペクトルと比較し,前記収集したスペクトルを対応する品質パラメータに変換することで,前記燃料試料の品質パラメータを得る工程と を含み, ガソリン燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯が1100?約1600nmであり,ディーゼル燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯が1100?約1600nmである燃料の品質を測定する方法。」 次の点で一致し,以下の点にて相違するといえる。 (相違点1) 本願発明は「近赤外分光器が装備された輸送手段が燃料分析装置に含まれている移動式燃料分析装置が準備される工程があり、前記輸送手段により前記近赤外分光器を燃料供給地点に移動する工程と、前記燃料供給地点からの燃料試料の近赤外スペクトルを収集する工程」を有するのに対し,引用発明はそのような工程を有しない点。 (相違点2) 本願発明では「複数の供給者からの燃料試料の品質パラメータから変換した近赤外スペクトルを構築してなるデータベース」を準備し「前記収集したスペクトルを前記データベース中の前記近赤外スペクトルと比較し、前記収集したスペクトルを対応する品質パラメータに変換する」であるのに対し,引用発明では「ニューラルネットワークを構成するコンピュータ」を準備し「前記コンピュータにより前記収集したスペクトルに対応する前記パラメータに変換する」点。 (相違点3) 本願発明では「イオウ、密度、引火点、蒸留温度、セタン価、リサーチオクタン価、ベンゼン、メチルベンゼンおよび溶存酸素」である品質パラメータのに対し,引用発明では「レイド蒸気圧,疑似蒸留値,リサーチオクタン価,モーターオクタン価,酸素成分,比重,オクタン価,臭素価,アニリン点,スモーク点,及びこれらの任意の組み合わせ,のいずれかから選択される所望のパラメータ」である点。 (相違点4) 「燃料のスペクトルを収集するための前記近赤外分光器の波長帯」について,本願発明では「ガソリン燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯が1100?1670nmまたは1790?2100nmであり、ディーゼル燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯が1100?1670nmまたは1825?2200nmである」のに対し,引用発明では「約800nm?約1600nmの範囲」である点。 2 判断 (1)相違点1 検査や分析を行う対象物を検査や分析を行う装置が設置されている施設等に輸送して該施設等で検査や分析を行う代わりに,検査や分析を行う装置を輸送手段に装備して,検査や分析を行う対象物が存在する地点へ移動し,該地点で輸送手段に装備された検査や分析を行う装置を用いて検査や分析を行うことは,必要に応じて行われている周知の事項にすぎない。 例えば,特開平5-209873号公報の段落【0008】には「【課題を解決するための手段、作用、及び効果】本発明の実施に使用できる車両を、大きなバンまたはセミトレーラー10として図1に示す。・・・・・水処理ユニット(機能的に別の種類のもの)は、それで処理された水の品質を試験するための分析装置(記述されるような)と一緒に、タンク上部のトレーラー内部に収容されている。」と記載され,実願平4-91779号(実開平6-47844号)のCD-ROMの段落【0005】には「本考案はエアーサスペンション付きのトラック、バス等の自動車に例えば大気下イオン化質量分析装置、超高感度露点計、パーティクルカウンター等の高感度な分析装置を搭載し、・・・・・」と記載され,特開2002-214199号公報の段落【0005】には「【課題を解決するための手段】・・・・・また本発明は、土壌中に含まれる揮発性有機化合物を定量し、その結果に基づき土壌汚染域を確定する方法において、揮発性有機化合物の定量に際し、調査現場で車載した熱脱着ーガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて1,1-ジクロロエチレン、ジクロロメタン、trans-1、2-ジクロロエチレン、cis-1、2-ジクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼンのうちの少なくとも一種を定量することを特徴とするものである。」と記載され,特開2002-350421号公報の段落【0009】には「本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、移動可能な大型の試験用チャンバを備えた車載型有機汚染物質測定装置およびこれを用いた有機汚染物質測定方法を提供することを課題とする。」と記載されている。 そして,上記記載事項(2-ア)および(2-イ)よれば,「近赤外スペクトルを収集する近赤外分光器も,輸送手段に装備できる分析装置である」ことが,刊行物2に記載されているといえるから,引用発明において,上記周知の事項および刊行物2記載の事項を適用して,「近赤外分光器を輸送手段に装備し、燃料分析装置として近赤外分光器が装備された輸送手段を含む移動式燃料分析装置を準備する工程、前記輸送手段により前記近赤外分光器を燃料供給地点に移動する工程、そして前記燃料供給地点からの燃料試料の近赤外スペクトルを収集する工程を設ける」ようなことは,何ら困難性がなく,当業者が容易に想到し得る事項であるといえる。 (2)相違点2について 「複数の燃料試料の品質パラメータから変換した近赤外スペクトルを構築してなるデータベースを準備し,収集した近赤外スペクトルを前記データベース中の前記近赤外スペクトルと比較し、前記収集したスペクトルを対応する品質パラメータに変換する」ことは,本願優先日前周知の事項である。例えば,特開2004-132921号公報の段落【0027】および特開2000-9637号公報の段落【0003】の記載参照。 そして,「ニューラルネットワークを構成するコンピュータ」を上記周知のデータベースに変更することには,システムを簡素化するという,当業者ならば通常考慮する動機付けがあり,また,何ら困難性もないといえる。 してみると,引用発明に上記周知のデータベースを事項を適用して,相違点2における本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る事項であるといえる。 (3)相違点3について 本願発明の「溶存酸素」とは,炭化水素の混合物である燃料中の酸素の含有量を表しているいえるから,引用発明の「酸素成分」と実質的に同一であるといえる。また,「比重」は基準となる物質の「密度」を1としたときの測定対象物質の密度との比であるから,「比重」の測定と「密度」の測定とは,実質的に同一であるといえる。 そうすると,引用発明では,本願発明において測定している品質パラメータのうち,イオウ,引火点,蒸留温度,セタン価,ベンゼンおよびメチルベンゼンを測定することは特定されていないものの,それらが燃焼性や走行性能,エンジン等の清浄性(メンテナンス性),環境性能など燃料に要求される様々な性能に関係する成分の含有量や,それらの存在割合が関係する物性であって,燃料の品質を測定しようとする際に普通に測定される燃料の品質パラメータであるといえる。 そして,上記刊行物1には,「【0009】正確に測定されるべきパラメータは、NIR信号と線形関係にある必要はなく、このパラメータとしては、レイド蒸気圧、疑似蒸留値、リサーチオクタン価、モーターオクタン価、酸素成分、比重、セタン価、臭素価、アニリン点、スモーク点、及びこれらの任意の組み合わせ、及びその他の種々のパラメータのうちから選択され得る。」と記載されているから,刊行物1に記載されていないイオウ,引火点,蒸留温度,セタン価,ベンゼンおよびメチルベンゼンについても,引用発明において測定してみようすることは,当業者ならば何ら困難性なく必要に応じてなし得る設計的事項であるというべきである。 (4)相違点4について 原油から精製されて得られる燃料は,種類により含まれている炭化水素やその他の成分組成が異なるものである。また,近赤外スペクトルを構成する近赤外光の吸収は,上記刊行物1にも示唆されているように,倍音,結合音によりスペクトル上に現れるものであるから,燃料試料がガソリン燃料である場合とディーゼル燃料をである場合に,どのような波長帯で走査した近赤外スペクトルで,燃料の品質パラメータを測定したらよいか,倍音,結合音についても考慮して,反復実験等により適切な波長帯を決定することは当業者であれば普通に行う技術的創作活動にすぎない。 そうすると,ガソリン燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯が1100?1670nmまたは1790?2100nmであり,ディーゼル燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯が1100?1670nmまたは1825?2200nmであるようにするという相違点4の特定事項も,当業者が燃料試料がガソリン燃料である場合とディーゼル燃料である場合について,当業者が普通に行った技術的創作活動の結果にすぎないものであるといえる。 また,それぞれ燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯の一方である1100?1670nmは,引用発明の「約800nm?約1600nmの範囲」に含まれるものであって,そのような波長帯の縮小選択による効果も格別なものとはいえない。 しかも,測定する燃料試料がガソリン燃料とディーゼル燃料でない場合には,本願発明は,燃料のスペクトルを収集するための前記近赤外分光器の波長帯が特に限定されている発明ではない。 また,燃料の近赤外スペクトルを収集するための近赤外分光器の波長帯が約1600nmの範囲の波長を超える範囲のものも,刊行物3に記載されている。 そして,相違点1?4により奏する効果も,刊行物1?3記載の事項および周知の事項から当業者ならば予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。 3 請求人の主張について 請求人は,平成23年11月9日に提出した意見書において,「本願発明で要件とされているような、特定波長帯によってガソリン燃料およびディーゼル燃料の両方の品質を同時に測定することについての開示も示唆もない引用文献1?3によっては、本願発明を『当業者が普通に行った技術的創作活動にすぎないもの』とはいえないものと思料いたします。 さらに言えば、引用文献1に記載の発明は、例えば表6?9に記載された大きな波長範囲のみでガソリン燃料のリサーチオクタン価(RON)を測定するもので、引用文献3に記載された発明は、炭化水素の物性値分析のみを行うものです(引用文献3の明細書の段落[0012]?[0028]をご参照)。つまり、引用文献1および3に記載された波長帯の範囲は、本願発明の波長帯を含みますが、本願の特徴E?Fの特定波長帯、つまり、引用文献1および3に記載されている波長帯の下位概念の波長帯を導く根拠には成り得ないため、『ガソリン燃料の品質のみ』を測定することはできますが、ガソリン燃料とディーゼル燃料の品質を同時に精確に測定することは困難であり、この点についても一切考慮されていないと言えます。」と主張している。 しかしながら,本願発明は,「ガソリン燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯が1100?1670nmまたは1790?2100nmであり、ディーゼル燃料を走査するための前記近赤外分光器の波長帯が1100?1670nmまたは1825?2200nmである」と特定されているのみであって,「ガソリン燃料とディーゼル燃料の品質を同時に測定する」と特定されているとは到底いえない。また,「同時に」に対応する記載は,本願の発明の詳細な説明には全く見当たらず,その具体的な意味も不明であるといわざるを得ない。 したがって,前記請求人の主張は,特許請求の範囲および発明の詳細な説明に基づかないものであって,採用することが出来ない。 4 まとめ 以上のことから,本願発明は,引用発明および刊行物2,3記載の事項および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。 第6 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-03-08 |
結審通知日 | 2012-03-13 |
審決日 | 2012-03-26 |
出願番号 | 特願2006-226664(P2006-226664) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G01N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 西村 直史 |
特許庁審判長 |
岡田 孝博 |
特許庁審判官 |
横井 亜矢子 信田 昌男 |
発明の名称 | 移動式燃料分析装置および該移動式燃料分析装置を用いた燃料の品質を測定する方法 |
代理人 | 谷 征史 |
代理人 | 河村 洌 |
代理人 | 藤森 洋介 |