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審決分類 審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  G06K
審判 全部無効 2項進歩性  G06K
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  G06K
管理番号 1261730
審判番号 無効2008-800196  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-10-03 
確定日 2012-06-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4097281号「非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造及びこれを構成する接続方法」の特許無効審判事件についてされた平成23年 3月 9日付け審決に対し,東京高等裁判所において審決取消の判決(平成23年(行ケ)第10149号 平成23年12月22日判決言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4097281号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 経緯
本件は,特許第4097281号(発明の名称「非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造及びこれを構成する接続方法」,平成20年3月21日設定登録)の請求項1ないし4(本件の登録時の請求項5は,後記のとおり,平成21年3月23日の訂正請求により削除され,確定した。)に記載された発明についての特許を無効とするとの審決を求めるものである。
その経緯概要は,次のとおりである。
平成18年 4月 6日 特許出願(特願2006-105177号)
平成20年 3月21日 設定登録(特許第4097281号)
平成20年10月 3日 無効審判請求書
平成20年12月26日 訂正請求書(第1回)・答弁書(第1回)
平成21年 2月12日 弁駁書(第1回)
平成21年 2月20日 補正許否の決定
(弁駁書による請求の理由の補正を認める旨の決定)
平成21年 3月23日 訂正請求書(第2回)・答弁書(第2回)
平成21年 4月23日 弁駁書(第2回)
平成21年 6月 4日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成21年 6月 4日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成21年 6月 8日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成21年 6月18日 口頭審理
平成21年 7月 2日 上申書(被請求人,第1回)
平成21年 7月 3日 上申書(請求人,第1回)
平成21年 8月18日 審決(「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」以下,「1次審決」という。)
平成21年 8月29日(審決送達日)
平成21年 9月25日 知的財産高等裁判所出訴(請求人原告,平成21年(行ケ)第10295号)
平成22年 5月26日 判決言渡(1次審決取消。以下,「1次判決」という。)
平成22年 6月14日 訂正請求申立書
平成22年 7月15日 訂正請求書(第3回)
平成22年 8月20日 弁駁書(第3回)
平成22年 9月24日 答弁書(第3回)
平成22年10月22日 訂正拒絶理由通知
平成22年11月22日 意見書・手続補正書
平成22年12月22日 上申書(請求人)
平成23年 3月 9日 審決(「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」以下,「2次審決」という。)
平成23年 3月29日(審決送達日)
平成23年 4月28日 知的財産高等裁判所出訴(請求人原告,平成23年(行ケ)第10149号。)
平成23年12月22日 判決言渡(2次審決取消。以下,「2次判決」という。)

2 判決言渡(平成23年12月22日)以降の経緯
上記のとおり,平成23年12月22日に,平成23年(行ケ)第10149号事件について,「特許庁が無効2008-800196号事件について平成23年3月9日にした審決を取り消す。」旨の判決(2次判決)が言渡され,同判決は確定した。
その後,特許法134条の3第1項に規定された期間が経過したが,被請求人から,同規定に基づく申立てはなかった。
また,平成24年3月22日付けで,請求人から上申書が提出された。その内容は,上記裁判事件において,請求人から提出された証拠(甲10号証ないし甲15号証)の写しを提出するものである。

第2 訂正の適否
平成22年7月15日付け訂正請求(以下,「本件訂正請求」という。)の可否について検討する。

1 訂正の内容について
(1)本件訂正請求の内容は,特許請求の範囲,明細書及び図面の記載を,平成22年7月15日付けの訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり,その内容は以下のとおりである。ただし,同訂正請求書の訂正事項は,平成22年11月22日付け手続補正書によって補正された。
なお,本件登録時の請求項5及び明細書の段落【0016】,【0021】を削除する訂正は,1次審決の謄本が送達された平成21年8月29日に確定した。

ア 特許請求の範囲の訂正
(ア)本件訂正前の特許請求の範囲請求項1ないし4の記載は,次のとおりである。(以下,本件訂正前の請求項1ないし4に係る発明を,順に「本件発明1」ないし「本件発明4」といい,総称して「本件発明」という。)
「【請求項1】
銅(Cu)製の巻線型コイルとICチップの最外層が金(Au)で構成された接続端子とを,両者の界面付近に加熱加圧によって形成したAu/Cu全率固溶体を介して,接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造。
【請求項2】
銅(Cu)製の巻線型コイルをICチップの最外層が金(Au)で構成された接続端子に,前者を後者上に載せ,かつ前者の上から加熱しながら加圧し,両者の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させることにより,直接接合して,請求項1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造を構成することとした,非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。
【請求項3】
前記加熱しながら加圧する操作を傍熱型抵抗溶接によって行うこととした請求項2の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。
【請求項4】
前記加熱しながら加圧する操作に於ける加熱温度及び加圧力を,それぞれ,前記巻線型コイルと前記ICチップの接続端子との相互の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させ得るように実験的に決定する請求項2又は3の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。」

(イ)本件訂正後の特許請求の範囲請求項1ないし4の記載は,次のとおりである(ただし,平成22年11月22日付け手続補正後のものである。)。(下線は,訂正部分である。以下,本件訂正後の請求項1ないし4に係る発明を,順に「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明4」といい,総称して「本件訂正発明」という。
「【請求項1】
線径60?70μmの銅(Cu)製の巻線型コイルとICチップの最外層が厚さ10?15μmの金(Au)膜で構成された接続端子とを,該巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱させつつ,平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面外にはみ出ることのない範囲に形成され,塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧することによって,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の1/2以上のエリアに形成したAu/Cu全率固溶体を介して,接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造。
【請求項2】
線径60?70μmの銅(Cu)製の巻線型コイルをICチップの最外層が厚さ10?15μmの金(Au)膜で構成された接続端子に,前者を後者上に載せ,かつ前者の上から該巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱しながら,平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面を越えない範囲に形成され,塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧し,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の少なくとも1/2を超えるエリアにAu/Cu全率固溶体を形成させることにより,直接接合して,請求項1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造を構成することとした,非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。
【請求項3】
前記加熱しながら加圧する操作を傍熱型抵抗溶接によって行うこととした請求項2の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。
【請求項4】
前記加熱しながら加圧する操作に於ける加熱温度及び加圧力を,それぞれ,前記巻線型コイルと前記ICチップの接続端子との相互の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させ得るように実験的に決定する請求項2又は3の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。」

イ 明細書の訂正
本件訂正は,本件発明に係る明細書について,次の訂正事項を含むものである。(以下,本件発明に係る明細書を「本件明細書」と,また,本件訂正発明に係る明細書を「本件訂正明細書」という。)
(ア)段落【0012】の
「本発明の1は,銅(Cu)製の巻線型コイルとICチップの最外層が金(Au)で構成された接続端子とを,両者の界面付近に加熱加圧によって形成したAu/Cu全率固溶体を介して,接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造である。」との記載を,
「本発明の1は,線径60?70μmの銅(Cu)製の巻線型コイルとICチップの最外層が厚さ10?15μmの金(Au)膜で構成された接続端子とを,該巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱させつつ,平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面外にはみ出ることのない範囲に形成され,塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧することによって,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の1/2以上のエリアに形成したAu/Cu全率固溶体を介して,接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造である。」とする訂正。

(イ)段落【0013】の
「本発明の2は,銅(Cu)製の巻線型コイルをICチップの最外層が金(Au)で構成された接続端子に,前者を後者上に載せ,かつ前者の上から加熱しながら加圧し,両者の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させることにより,直接接合して,請求項1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造を構成することとした,非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法である。」との記載を,
「本発明の2は,線径60?70μmの銅(Cu)製の巻線型コイルをICチップの最外層が厚さ10?15μmの金(Au)膜で構成された接続端子に,前者を後者上に載せ,かつ前者の上から該巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱しながら,平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面を越えない範囲に形成され,塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧し,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の少なくとも1/2を超えるエリアにAu/Cu全率固溶体を形成させることにより,直接接合して,請求項1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造を構成することとした,非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法である。」とする訂正。

(ウ)段落【0017】の
「本発明の1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造によれば,巻線型コイルとICチップの接続端子とを,前者と後者の最外層のAu膜との界面付近に形成したAu/Cu全率固溶体を介して接続するものであるため,その高い機械的強度の接続を確保し,かつ良好な電気的接続を確保することができる。先に述べた半田付けその他を用いた接合の場合の諸問題の発生の余地がないのは云うまでもない。」との記載を,
「本発明の1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造によれば,線径60?70μmの巻線型コイルとICチップの最外層が厚さ10?15μmのAu膜である接続端子とを,該巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱しながら,平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面を越えない範囲に形成され,塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧し,巻線型コイルと接続端子の最外層のAu膜とを,両者の界面全体の少なくとも1/2を越えるエリアに形成させたAu/Cu全率固溶体を介して接続するものであるため,その高い機械的強度の接続を確保し,かつ良好な電気的接続を確保することができる。先に述べた半田付けその他を用いた接合の場合の諸問題の発生の余地がないのは云うまでもない。」とする訂正。

(エ)段落【0018】の
「本発明の2の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法によれば,巻線型コイルとICチップの接続端子の最外層のAu膜との界面付近に容易かつ確実にAu/Cu全率固溶体を形成することが可能であり,これによって低コストで良好に本発明の1の非接触ICカード用巻線型コイルとICチップとの接続構造を作製することができる。」との記載を,
「本発明の2の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法によれば,線径60?70μmの巻線型コイルとICチップの接続端子の最外層の厚さ10?15μmのAu膜との界面付近に該界面全体の少なくとも1/2を超えるエリアに容易かつ確実にAu/Cu全率固溶体を形成することが可能であり,これによって低コストで良好に本発明の1の非接触ICカード用巻線型コイルとICチップとの接続構造を作製することができる。」とする訂正。

(オ)段落【0022】の
「本発明は,図3及び図4に示すように,銅製の巻線型コイル1とICチップ2の最外層がAu膜(金膜)3aで構成された接続端子3とを,両者の界面付近に加熱加圧によって形成したAu/Cu全率固溶体の合金層5を介して,接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造,並びに,図1に示すように,銅製の巻線型コイル1をICチップ2の最外層がAu膜3aで構成された接続端子3に直接接合して該接属構造を作製する非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法である。」との記載を,
「本発明は,図3及び図4に示すように,線径60?70μmの銅製の巻線型コイル1とICチップ2の最外層が厚さ10?15μmのAu膜(金膜)3aで構成された接続端子3とを,両者の界面付近に,その界面全体の少なくとも1/2を超えるエリアに加熱加圧によって形成したAu/Cu全率固溶体の合金層5を介して,接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造,並びに,図1に示すように,銅製の巻線型コイル1をICチップ2の最外層がAu膜3aで構成された接続端子3に直接接合して該接属構造を作製する非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法である。」とする訂正。

(カ)段落【0023】の
「なお,該接続方法に於ける接続は,図1に示すように,巻線型コイル1を接続端子3上に載せた上で,前者の上から加熱しながら加圧する操作で行うものであり,これによって両者の界面付近にAu/Cu全率固溶体の合金層5を形成させることにより,前記接続構造を作製し,巻線型コイル1と接続端子3との確実な接続を確保するものである。」との記載を,
「なお,該接続方法に於ける接続は,図1に示すように,巻線型コイル1を接続端子3上に載せた上で,該巻線型コイルの上から,その絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱しながら,平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイル1に生じる圧痕6が該接続端子3の最外層の金膜3aの上面を越えない範囲に形成され,塑性変形後の巻線型コイル1の該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧する操作で行うものであり,これによって両者の界面付近に,前記のように,その界面全体の少なくとも1/2を越えるエリアにAu/Cu全率固溶体の合金層5を形成させることにより,前記接続構造を作製し,巻線型コイル1と接続端子3との確実な接続を確保するものである。」とする訂正。

(キ)段落【0028】の
「前記加熱しながら加圧する操作は,前記巻線型コイル1の所定部位を接続端子3上に載せた上で,図1に示すように,前者の上から行うものであり,これによって,図3及び図4に示すように,両者の界面付近にAu/Cu全率固溶体の合金層5を形成させることができる手段を自由に採用することができる。」との記載を,
「前記加熱しながら加圧する操作は,前記巻線型コイル1の所定部位を接続端子3上に載せた上で,図1に示すように,前者の上から行うものであり,これによって,図3及び図4に示すように,両者の界面付近に,その界面全体の少なくとも1/2を超えるエリアにAu/Cu全率固溶体の合金層5を形成させる。」とする訂正。

(ク)段落【0029】の
「例えば,この手段として,図1に示すように,傍熱型抵抗溶接を採用し,その電極4で,これに,矢印a1に示すように電流を流して発熱させ,その熱を矢印a2に示すように該電極4から巻線型コイル1及びこれを介した接続端子3に伝えながら,矢印a3に示すように,該電極4で該巻線型コイル1を加圧する方法を採用することができる。これを採用した場合は,電極4を高抵抗で耐熱性の良い,例えば,タングステン(W)やモリブデン(Mo)等の金属で適切に構成すれば,実用レベルの電流で,所望の高温度を容易に発生し得,ICチップ2の接続端子3上に配した巻線型コイル1に必要な加熱及び加圧を行うことができる。」との記載を,
「例えば,この手段として,図1に示すように,傍熱型抵抗溶接を採用し,その電極4で,これに,矢印a1に示すように電流を流して発熱させ,その熱を矢印a2に示すように該電極4から巻線型コイル1及びこれを介した接続端子3に伝えながら,矢印a3に示すように,該電極4で該巻線型コイル1を加圧する方法を採用することができる。これを採用した場合は,電極4を高抵抗で耐熱性の良い,例えば,タングステン(W)やモリブデン(Mo)等の金属で適切に構成すれば,実用レベルの電流で,所望の高温度を容易に発生し得,ICチップ2の接続端子3上に配した巻線型コイル1に必要な加熱及び加圧を行い,図2?図4に示すように,圧痕6を形成することができる。」とする訂正。

(ケ)段落【0032】の
「また前記Au/Cu全率固溶体の合金層5を形成させる「界面付近」は,銅製の巻線型コイル1の所定部位と接続端子3との当接面の範囲の観点からは,その全面積の内の少なくとも1/2以上の面積を占めるエリアであり,このエリアはできるだけ広いことが望ましい。該当接面の両側の範囲の観点からは,当接界面から数原子層から数十原子層の厚さの範囲であり,この範囲で前記Au/Cu全率固溶体の合金層5が形成されれば実用上十分な接着強度が得られる。」との記載を
「また前記Au/Cu全率固溶体の合金層5を形成させる「界面付近」は,前記したように,銅製の巻線型コイル1の所定部位と接続端子3との当接面の範囲の観点からは,その全面積の内の少なくとも1/2以上の面積を占めるエリアであり,このエリアはできるだけ広いことが望ましい。該当接面の両側の範囲の観点からは,当接界面から数原子層から数十原子層の厚さの範囲であり,この範囲で前記Au/Cu全率固溶体の合金層5が形成されれば実用上十分な接着強度が得られる。」とする訂正。

(コ)段落【0037】の
「従って本発明の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造,並びに,非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法によれば,巻線型コイル1とICチップ2の接続端子3とについて,前者の銅芯線1bと後者の最外層のAu膜3aとの界面付近にAu/Cu全率固溶体の合金層5を形成することにより,低コストで高い接着強度の機械的接続を確保し,かつ電気的にも良好な接続を確保することができる。より具体的に述べれば,巻線型コイル1とICチップ2の接続端子3との接合部の融点が,その界面付近に形成したAu-Cu全率固溶体の合金層5により,1000℃を越え,該接合部の半田を介した接続の欠点である,低い使用可能温度域の問題や脆い化合物層形成の問題も回避されるので,その信頼性は著しく高いものとなる。」との記載を,
「従って本発明の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造,並びに,非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法によれば,巻線型コイル1とICチップ2の接続端子3とについて,前者の銅芯線1bと後者の最外層のAu膜3aとの界面付近に,その界面全体の少なくとも1/2を超えるエリアにAu/Cu全率固溶体の合金層5を形成することにより,低コストで高い接着強度の機械的接続を確保し,かつ電気的にも良好な接続を確保することができる。より具体的に述べれば,巻線型コイル1とICチップ2の接続端子3との接合部の融点が,その界面付近に形成したAu-Cu全率固溶体の合金層5により,1000℃を越え,該接合部の半田を介した接続の欠点である,低い使用可能温度域の問題や脆い化合物層形成の問題も回避されるので,その信頼性は著しく高いものとなる。」とする訂正。

(サ)段落【0050】の
「1 巻線型コイル
1a 絶縁膜
1b 銅芯線
2 ICチップ
3 接続端子
3a Au膜(金膜)
3b 中間層
3c 最下層
4 電極
5 Au/Cu全率固溶体の合金層
a1 電流の流れる方向を示す矢印
a2 熱の伝達方向を示す矢印
a3 加圧方向を示す矢印」との記載を,
「1 巻線型コイル
1a 絶縁膜
1b 銅芯線
2 ICチップ
3 接続端子
3a Au膜(金膜)
3b 中間層
3c 最下層
4 電極
5 Au/Cu全率固溶体の合金層
6 圧痕
a1 電流の流れる方向を示す矢印
a2 熱の伝達方向を示す矢印
a3 加圧方向を示す矢印」とする訂正。

ウ 図面の訂正
本件訂正は,添付された図面について,図1ないし図5を,圧痕の位置を示すために図面番号を付した図1ないし図5とする訂正を含むものである。

(2)本件訂正の内容
上記(1)によれば,本件訂正は,以下の訂正事項よりなるものである。
[訂正事項1]
請求項1,2の「銅(Cu)製の巻線型コイル」を,「線径60?70μmの銅(Cu)製の巻線型コイル」とする訂正。
[訂正事項2]
請求項1,2の「最外層が金(Au)膜で構成された接続端子」を,「最外層が厚さ10?15μmの金(Au)膜で構成された接続端子」とする訂正。
[訂正事項3]
請求項1の「加熱加圧」及び請求項2の「加熱しながら加圧」を,それぞれ「該巻線形コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱させつつ,塑性変形後の巻線形コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧」(請求項1)及び「該巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱しながら,塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧」(請求項2)とする訂正。
[訂正事項4]
請求項1の「両者の界面付近に・・・形成したAu/Cu全率固溶体」及び請求項2の「両者の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成」を,それぞれ「平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面外にはみ出ることのない範囲に形成され,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の1/2以上のエリアに形成したAu/Cu全率固溶体」(請求項1)及び「平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面を越えない範囲に形成され,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の少なくとも1/2を超えるエリアにAu/Cu全率固溶体」(請求項2)とする訂正。
[訂正事項5]
発明の詳細な説明を,上記訂正事項1ないし訂正事項4の訂正事項に整合させる訂正。
[訂正事項6]
上記訂正事項4に伴い,「圧痕」の位置を示すための図面及び明細書の訂正。

2 訂正の適否について
(1)訂正の目的の適否
ア 訂正事項1ないし訂正事項4の目的
訂正事項1は,請求項1,2の「銅(Cu)製の巻線型コイル」を,線径60?70μmのものに限定するものである。
訂正事項2は,請求項1,2の「最外層が金(Au)膜で構成された接続端子」を厚さ10?15μmの金膜のものに限定するものである。
訂正事項3は,請求項1,2の「加熱加圧」あるいは「加熱しながら加圧」を,「巻線形コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲」で加熱し,「塑性変形後の巻線形コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力」で加圧するものに限定するものである。
訂正事項4は,請求項1,2の,「両者の界面付近に・・・形成したAu/Cu全率固溶体」あるいは「両者の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成」を,「平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面外にはみ出ることのない範囲に形成され,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の1/2以上のエリアに」(請求項1)あるいは「平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面を越えない範囲に形成され,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の少なくとも1/2を超えるエリアに」(請求項2)形成したものに限定するものである。
したがって,訂正事項1ないし訂正事項4は,訂正前の発明を特定するための事項を,その下位概念のものに訂正するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項5,訂正事項6の目的
訂正事項5及び訂正事項6は,訂正事項1ないし訂正事項4の訂正に伴い,特許請求の範囲の記載と,発明の詳細な説明及び図面の記載を整合させるためのものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(2)新規事項の追加の有無
ア 特許明細書の記載事項
(ア)本件特許がされた明細書(以下,「本件特許明細書」という。)及び図面には以下のとおり記載されている。
「【0011】本発明は、以上の観点から、非接触ID識別装置用アンテナコイルとして、銅電線を巻線する方法で作成されたコイル抵抗のばらつきの少ない巻線型コイルを採用し、更にICチップの接続端子として保管中の劣化の少ない最外層がAuであるメタライゼーションを備えたそれを用い、コストの低い直接法による相互の接続を選択し、かつこれを改良して電気的及び機械的に良好な接続を確保することのできる非接触ID識別装置用巻線型コイルとICチップとの接続構造、並びにこれを容易かつ確実に作製することのできる非接触ID識別装置用巻線型コイルとICチップとの接続方法を提供することを解決の課題とする。」
「【0012】本発明の1は,銅(Cu)製の巻線型コイルとICチップの最外層が金(Au)で構成された接続端子とを,両者の界面付近に加熱加圧によって形成したAu/Cu全率固溶体を介して,接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造である。」
「【0013】本発明の2は,銅(Cu)製の巻線型コイルをICチップの最外層が金(Au)で構成された接続端子に,前者を後者上に載せ,かつ前者の上から加熱しながら加圧し,両者の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させることにより,直接接合して,請求項1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造を構成することとした,非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法である。」
「【0022】本発明は,図3及び図4に示すように,銅製の巻線型コイル1とICチップ2の最外層がAu膜(金膜)3aで構成された接続端子3とを,両者の界面付近に加熱加圧によって形成したAu/Cu全率固溶体の合金層5を介して,接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造,並びに,図1に示すように,銅製の巻線型コイル1をICチップ2の最外層がAu膜3aで構成された接続端子3に直接接合して該接属構造を作製する非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法である。」
「【0032】また前記Au/Cu全率固溶体の合金層5を形成させる「界面付近」は,銅製の巻線型コイル1の所定部位と接続端子3との当接面の範囲の観点からは,その全面積の内の少なくとも1/2以上の面積を占めるエリアであり,このエリアはできるだけ広いことが望ましい。該当接面の両側の範囲の観点からは,当接界面から数原子層から数十原子層の厚さの範囲であり,この範囲で前記Au/Cu全率固溶体の合金層5が形成されれば実用上十分な接着強度が得られる。」
「【0033】前記加熱しながら加圧する操作に於ける加熱温度及び加圧力は,それぞれ,前記巻線型コイル1と前記ICチップ2の接続端子3との相互の界面付近にAu/Cu全率固溶体の合金層5を形成させ得るように,実験的に決定する。より具体的には,前記加熱温度は,前記傍熱型抵抗溶接に於ける電極4を含む加熱加圧手段を接続端子3上の巻線型コイル1に当接し,その熱を該巻線型コイル1→接合面→Au膜3aと伝達した場合に,加圧された該巻線型コイル1の銅芯線1bをAu膜3aに対して相対的に塑性流動させ得る温度とすべきものであり,絶縁膜1aを溶融させてAu膜3aと銅芯線1bとの界面で金と銅との原子を直接接触させ得る温度とすべきものである。一方,銅芯線1bの表面を酸化させたり,ICチップ2に損傷を与えることのない温度とすべきでもある。また前記加圧力は,同様の場合に,十分に塑性流動させ得ると共に,ICチップ2に損傷を与えることのないそれとすべきである。」
「【0034】前記加熱温度は,以上のように制御すべきものであるが,前記のように,傍熱型抵抗溶接法を用いる場合は,これに供給する電流及び供給時間を制御し,これによって発生する熱量を制御し,それによって得られた接合結果からより適切な電流値及び供給時間を決定するというやり方が適当である。またこのような電流の制御は通常電圧を制御することによって行うことになる。それ故,加熱温度の制御は,多くの場合,直接的には,電極4に加える電圧及び印加時間を適切な加熱温度に対応する電圧及び印加時間に制御することで行うことになる。」
「【0035】電線の元の線径φDに対する塑性変形後の厚さtの割合は,接合部の信頼性を左右する重要なパラメータであることが知られている。Au膜3a及び銅芯線1bの融点より著しく低い温度で接続が行われる本発明の接続方法では特に重要である。これは,材料の種類,組み合わせ,材料の性質に左右されるが,本件の最外層がAu膜3aである接続端子3と銅製の巻線型コイル1との組み合わせについては,図5に示すように,t/D(電線の元の線径φDに対する塑性変形後の厚さtの比率)は0.1を越え,かつ0.8以下の広い範囲で安定した接合強度が得られている。」
「【0036】前記加圧力は,各々の融点以下の比較的低い温度(実験結果からは500℃以下の界面温度と推定される)での金と銅の原子の相互拡散をその界面近傍に於ける塑性流動によって助長・促進させるためには,前記のような塑性変形の範囲内になるように設定すべきものである。もっともt/Dが0.1に近づくと接続端子3を介してICチップ2にストレスがかかり,チップ不良率が若干高くなる傾向があるので,近づきすぎないようにするのが好ましい。」
「【実施例1】【0038】図1に示すように,巻線型コイル1として銅芯線1bに絶縁膜1aを施した銅電線で作製したそれを採用し,該巻線型コイル1の所定部位をICチップ2の接続端子3の最外層のAu膜3a上に載置した上で,その巻線型コイル1の上から電極4を当接させ,該電極4に電流を流して発熱させつつ加圧した。」
「【0039】<接合対象>
巻線型コイル1の線径:φ70μm±3μm(絶縁膜1a:ポリウレタン皮膜) ICチップ2:□1000μm,Ti-W-Au(接続端子3,Au膜3aの厚さ10μm)
<加熱・加圧手段>
電極4:W(タングステン)製,傍熱型
<溶接条件>
溶接電圧:1.8V
通電時間:0.5秒
加圧力 :80g」
「【0040】以下の表1に示すように,この実施例1によって接合したICチップ2の接続端子3と巻線型コイル1との接合には,従来の半田付け,熱圧着及び超音波溶接によって接合した場合と比較して,いずれにも劣らない十分に強力な接着強度が得られ,かつ温度サイクル不良率も極めて低く,これによって本発明の有効性が理解される。」
「【実施例2】【0044】巻線型コイル1として銅芯線1bに絶縁膜1aを施した銅電線で作製したそれを採用し,該巻線型コイル1の所定部位とICチップ2の接続端子3との接合を,実施例1と同様の操作で行った。」
「【0045】<接合対象>
巻線型コイル1の線径:φ60μm±3μm(絶縁膜1a:ポリウレタン被膜)ICチップ2:□900μm,Cr-Ni-Au(接続端子3,Au膜3aの厚さ15μm)
<加熱・加圧手段>
電極4:Mo(モリブデン)製,傍熱型
<溶接条件>
溶接電圧:1.1V
通電時間:0.9秒
加圧力 :70g」
「【0046】以下の表2に示すように,この実施例2によって接合したICチップ2の接続端子3と巻線型コイル1との接合には,実施例1のそれと同様に,十分な接着強度が得られ,かつ温度サイクル不良率も極めて低い。これによって更に本発明の有効性が理解される。」

(イ)上記記載事項から,本件特許明細書には,次のことが記載されている。
a 本件発明は,非接触ID識別装置用アンテナコイルとして,コイル抵抗のばらつきの少ない巻線型コイルを採用し,ICチップの接続端子として保管中の劣化の少ない最外層が金であるメタライゼーションを備えたそれを用い,電気的及び機械的に良好な接続を確保することのできる非接触ID識別装置用巻線型コイルとICチップとの接続構造等を提供することを課題とするものである(【0011】)。
b 本件発明1は,銅製の巻線型コイルとICチップの最外層が金で構成された接続端子とを,両者の界面付近に加熱加圧によって形成したAu/Cu全率固溶体を介して接合した非接触ID識別装置用巻線型コイルとICチップとの接続構造であり,本件発明2は,ICチップの最外層が金で構成された接続端子の上に銅製の巻線型コイルを載せ,かつ,巻線型コイルの上から加熱しながら加圧し,両者の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させることにより,直接接合して,請求項1の非接触ID識別装置用巻線型コイルとICチップとの接続構造を構成することとした接続方法である(【0012】,【0013】)。
c 巻線型コイルの線径を70μm±3μmとし,金膜の厚さを10μmとする実施例1と,巻線型コイルの線径を60μm±3μmとし,金膜の厚さを15μmとする実施例2では,いずれの場合も,従来の半田付け,熱着圧又は超音波溶接による接合に劣らない十分に強力な接着強度が得られ,かつ,温度サイクル不良率も極めて低く,本件発明の有効性が理解される(【0038】?【0040】,【0044】?【0046】)。

新規事項の追加の有無についての検討
(ア)訂正事項1について
本件特許明細書には,本件特許明細書には,線径70μmの巻線型コイルを接続端子のAu膜上に載置し,加熱加圧することにより全率固溶体を生成し,巻線型コイルと接続端子を接続する実施例(「実施例1」。【0038】?【0040】),及び線径60μmの巻線型コイルを接続端子のAu膜上に載置し,加熱加圧することにより全率固溶体を生成し,巻線型コイルと接続端子を接続する実施例(「実施例2」。【0044】?【0046】)が示されている。
本件特許明細書には,線径が60μmないし70μmの間の数値の巻線型コイルについては,直接的な記載はないものの,上記各実施例の記載からすると,本件明細書に接した当業者にとっては,巻線型コイルの線径が60μmないし70μmの間の数値の場合についても,各実施例と同様の作用効果を奏することは自明であるということができるから,本件明細者には,巻線型コイルの線径が60μmないし70μmの間の数値の場合についても,実質的に示されているといえる。
したがって,「銅(Cu)製の巻線型コイル」を,「線径60?70μmの銅(Cu)製の巻線型コイル」とする訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてするものであり,新規事項を追加するものではない。

(イ)訂正事項2について
a 本件特許明細書には,本件発明について,概略,次の記載がある。
(a)本件発明は,非接触ID識別装置用アンテナコイルとして,コイル抵抗のばらつきの少ない巻線型コイルを採用し,ICチップの接続端子として保管中の劣化の少ない最外層が金であるメタライゼーションを備えたそれを用い,電気的及び機械的に良好な接続を確保することのできる非接触ID識別装置用巻線型コイルとICチップとの接続構造等を提供することを課題とするものである(【0011】)。
(b)本件発明1は,銅製の巻線型コイルとICチップの最外層が金で構成された接続端子とを,両者の界面付近に加熱加圧によって形成したAu/Cu全率固溶体を介して接合した非接触ID識別装置用巻線型コイルとICチップとの接続構造であり,本件発明2は,ICチップの最外層が金で構成された接続端子の上に銅製の巻線型コイルを載せ,かつ,巻線型コイルの上から加熱しながら加圧し,両者の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させることにより,直接接合して,請求項1の非接触ID識別装置用巻線型コイルとICチップとの接続構造を構成することとした接続方法である(【0012】?【0013】)。
(c)巻線型コイルの線径を70μm±3μmとし,金膜の厚さを10μmとする実施例1と,巻線型コイルの線径を60μm±3μmとし,金膜の厚さを15μmとする実施例2では,いずれの場合も,従来の半田付け,熱着圧又は超音波溶接による接合に劣らない十分に強力な接着強度が得られ,かつ,温度サイクル不良率も極めて低く,本件発明の有効性が理解される(【0039】【0040】【0045】【0046】)。
b 訂正事項2は,本件発明の請求項1,2の「最外層が金(Au)で構成された接続端子」を,「最外層が厚さ10?15μmの金(Au)膜で構成された接続端子」と訂正するものである。
本件特許明細書には,金膜の厚さを10μmと15μmの間の数値とした場合についての実施例等の記載はないものの,10μm又は15μmの厚さの金膜で構成されたICチップの接続端子の場合には,いずれもAu/Cu全率固溶体を介して巻線型コイルと接合したという上記各実施例についての記載からすると,本件特許明細書に接した当業者にとっては,金膜の厚さを10μmないし15μmの間の数値とした場合についても,上記実施例と同様の作用効果を奏することは自明であるということができる。
したがって,訂正事項2の訂正は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内での訂正であり,新規事項の追加に当たるものとは認められない。

(ウ)訂正事項3について
本件特許明細書には,加熱温度及び加圧力に関し,加圧された該巻線型コイルの銅芯線をAu膜に対して相対的に塑性流動させ得る温度であって,絶縁膜を溶融させてAu膜と銅芯線との界面で金と銅との原子を直接接触させ得る温度とすべきものであること(【0033】),及び,電線の元の線径φDに対する塑性変形後の厚さtの割合として,t/D(電線の元の線径φDに対する塑性変形後の厚さtの比率)は0.1を越え,かつ0.8以下の広い範囲で安定した接合強度が得られることが記載されている(【0035】,【0036】)。
したがって,「加熱加圧」を,「該巻線形コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱させつつ,塑性変形後の巻線形コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧」(請求項1)あるいは「該巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱しながら,塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧」(請求項2)とする訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてするものであり,新規事項を追加するものではない。

(エ)訂正事項4について
a 「圧痕」について
本件特許明細書には,「加圧された該巻線型コイル1の銅芯線1bをAu膜3aに対して相対的に塑性流動させ」(【0033】),「電線の元の線径φDに対する塑性変形後の厚さtの割合は,接合部の信頼性を左右する重要なパラメータ」(【0034】)と記載されている。ここで,図3を参照すれば,元の線径Dと塑性変形後の厚さtが図示されており,巻線型コイルに形成された凹部の底面と接続端子の最外層までの厚さがtであることから,当該凹部は巻線型コイルの銅と接続端子のAuを塑性流動させるための加熱加圧によって生じたものであることが理解でき,本件発明における「圧痕」の用語が,上記凹部の呼称であることは,特許請求の範囲の記載から明らかである。
b 「圧痕」が形成される範囲について
また,本件特許明細書には,「圧痕」が形成される範囲については,明示されていないものの,圧痕は,上記のとおり,巻線型コイルの銅と接続端子のAuを塑性流動させるための加熱加圧によって生じるものであって,図面,特に図3,図4を参照すれば,接続端子のAu/Cu全率固溶体は接続端子の最外層の金膜上面内に形成されていることから,実質的に,「接続端子の最外層の金膜上面外にはみ出ることのない範囲」又は「接続端子の最外層の金膜上面を越えない範囲」に形成されていると認められる。
したがって,本件特許明細書及び図面の記載を総合すれば,「圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面外にはみ出ることのない範囲に形成され」(請求項1)又は「圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面を越えない範囲に形成され」(請求項2)は,本件特許明細書又は図面に記載された範囲内のものである。
c Au/Cu全率固溶体を「該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の1/2以上のエリアに形成」について
本件特許明細書には,「また前記Au/Cu全率固溶体の合金層5を形成させる「界面付近」は,銅製の巻線型コイル1の所定部位と接続端子3との当接面の範囲の観点からは,その全面積の内の少なくとも1/2以上の面積を占めるエリアであり,このエリアはできるだけ広いことが望ましい。該当接面の両側の範囲の観点からは,当接界面から数原子層から数十原子層の厚さの範囲であり,この範囲で前記Au/Cu全率固溶体の合金層5が形成されれば実用上十分な接着強度が得られる。」(【0032】)と記載されていることから,Au/Cu全率固溶体が「界面付近」,すなわち「巻線型コイルと接続端子の最外層の金膜との界面全体の1/2以上のエリア」に形成されることは明らかである。
d 以上のことから,「両者の界面付近に形成したAu/Cu全率固溶体」を,「平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面外にはみ出ることのない範囲に形成され,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の1/2以上のエリアに形成したAu/Cu全率固溶体」(請求項1)あるいは「平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面を越えない範囲に形成され,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の少なくとも1/2を超えるエリアにAu/Cu全率固溶体」(請求項2)とする訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてするものであり,新規事項を追加するものではない。

(オ)訂正事項5及び訂正事項6について
訂正事項5は,発明の詳細な説明を上記訂正事項1ないし訂正事項4の訂正事項に整合させるための訂正であって,新規事項を追加するものではない。
また,訂正事項6は,上記訂正事項4に伴い,「圧痕」の位置を示すための図面及び明細書の訂正であるから,訂正事項6と同様の理由により,新規事項を追加するものではない。

(3)拡張・変更の存否
上記(1)(2)のとおり,各訂正事項は,特許請求の範囲を減縮する訂正,又は特許請求の範囲の減縮に伴い,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を整合させるための訂正であって,特許請求の範囲を実質上拡張したり変更するものではない。

3 訂正の適否についての請求人の主張
(1)審判請求人は,平成22年8月20日付け審判事件弁駁書及び平成22年12月22日付け上申書において,上記訂正事項は,以下の理由により,訂正要件を満たしていない旨主張している。
ア 訂正事項1に対する主張
本件特許明細書には,巻線型コイルの線径として「φ70μm±3μm」と「φ60μm±3μm」がそれぞれ別個に記載されているものの,「線径60?70μm」の数値範囲,すなわち,巻線型コイルの線径の数値範囲の下限値が60μmであり,かつ上限値が70μmであることが記載されているとはいえず,さらに,巻線型コイルの線径として60μmと70μmの間の数値の線径を含むことについても記載されていない。
したがって,訂正事項1は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてするものではなく,新規事項を追加するものであり,特許法134条の2第5項で準用する特許法126条3項の要件に反する。

イ 訂正事項2に対する主張
本件特許明細書には,Au膜の厚さとして「10μm」と「15μm」がそれぞれ別個に記載されているものの,「厚さ10?15μm」の数値範囲,すなわち,Au膜の厚さの数値範囲の下限値が10μmであり,かつ上限値が15μmであることは記載されておらず,さらに,Au膜の厚さとして10μmと15μmの間の数値の厚さを含むことについても記載されていない。
したがって,訂正事項2は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてするものではなく,新規事項を追加するものであり,特許法134条の2第5項で準用する特許法126条3項の要件に反する。

ウ 訂正事項4に対する主張
(ア)本件特許明細書には,「圧痕」又はそれに関する文言がなく,本件特許明細書の記載を参酌しても,「圧痕」の技術的意味,定義を理解することができない。したがって,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面を参酌しても,被請求人が追加した符号「6」が指す部位が「圧痕」であるか否かを理解することができない。
(イ)「圧痕」なる文言を用いて本件請求項1に係る発明の「加圧力」を限定することは,新たな技術的事項を導入するものである。訂正事項4の根拠する図面の図3を参照すれば,「圧痕」が巻線コイルに形成される凹部全体とすれば,「圧痕」が金膜上面外にはみ出ており,図3は訂正の根拠となり得ない。
(ウ)本件特許明細書の段落【0032】の記載によれば,Au/Cu全率固溶体は「巻線型コイルの所定部位と接続端子3との当接面の1/2以上のエリア」に形成されることは記載されているものの,Au/Cu全率固溶体が「界面全体の1/2以上のエリア」に形成されることは記載されておらず,また自明な事項ともいえない。

(2)上記請求人の主張について検討する。
ア 訂正事項1について
訂正事項1については,上記2(2)イ(ア)のとおりであり,請求人の主張は,理由がない。

イ 訂正事項2について
(ア)請求人は,訂正事項2について,訂正事項2の訂正が新規事項の追加に当たらないとするには,本件特許明細書から,10μmと15μmとがAu/Cu全率固溶体の生成との関係で金膜の厚さの下限,上限の境界値を示していることが読み取れることが必要である旨主張する。
しかしながら,訂正事項2の訂正が新規事項の追加に当たるか否かは,これが明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であるかを判断すれば足り(特許法134条の2第5項,126条3項),10μmと15μmとがAu/Cu全率固溶体の生成との関係で金膜の厚さの範囲の下限値,上限値であることが本件特許明細書に明示されていることを要するものではない。
(イ)また,請求人は,訂正事項2の訂正の適否については,本件訂正発明1において把握される巻線型コイルの線径と金膜の厚さとの組合せが,本件特許明細書に記載された事項の範囲内であるか否かについても検討されるべきである旨主張する。
しかしながら,巻線型コイルについては,訂正事項1により,「銅(Cu)製の巻線型コイル」から「線径60?70μmの銅(Cu)製の巻線型コイル」と訂正されているところ,上記1の本件特許明細書の各実施例の記載からすると,本件特許明細書に接した当業者にとっては,巻線型コイルの線径が60μmないし70μmの間の数値の場合についても,各実施例と同様の作用効果を奏することは自明であるということができるから,本件特許明細書には,金膜の厚さが10μmないし15μmの範囲にあり,かつ,巻線型コイルの線径が60μmないし70μmの範囲にある両者の組合せについては,いずれもAu/Cu全率固溶体を介して接合するとの事項が示されているといえる。
(ウ)以上のとおりであるから,訂正事項2についての請求人の主張は,理由がない。

ウ 訂正事項4について
上記(2)イ(エ)aのとおり,本件発明における「圧痕」の用語が,請求人が主張する「凹部」の呼称であることは明らかであり,「圧痕」の用語を用いたことにより新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
「圧痕」が生じる範囲について,確かに,図面の図2ないし4のみによってはその範囲が明確とはいえないが,圧痕は,上記(2)イ(エ)bのとおり,その技術的意義から,実質的に,「接続端子の最外層の金膜上面外にはみ出ることのない範囲」又は「接続端子の最外層の金膜上面を越えない範囲」に形成されているということができる。また,「圧痕」は,上記のとおり,「凹部」の呼称にすぎず,同用語によって「加圧力」を特定するものとはいえない。
また,上記(2)イ(エ)aのとおり,Au/Cu全率固溶体が「界面付近」,すなわち「巻線型コイルと接続端子の最外層の金膜との界面全体の1/2以上のエリア」に形成されることは明らかである。
したがって,訂正事項4についての請求人の主張は,理由がない。

4 小結
以上のとおりであるから,上記各訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とし,願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面の記載の範囲においてするものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
また,他に本件訂正請求を拒絶すべき理由を発見しない。
したがって,平成22年7月15付けの訂正請求によって求められる請求は,特許法134条の2第5項の規定によって準用される特許法126条3項及び4項の規定に適合する。

第3 本件特許の無効事由の有無
1 本件特許発明
本件特許発明は,上記平成22年7月15日付け訂正請求(平成22年11月22日付け手続補正書により補正)によって訂正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された,前記第2の1(1)ア(イ)のとおりのものと認める。

2 請求人の主張
請求人は,本件特許第4097281号の特許(全請求項数4)を無効とするとの審決を求め,その理由として,本件請求項1から4に係る発明は,甲1ないし甲3号証に記載された発明に基づいて,出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものであると主張し,その証拠方法として,以下の甲1ないし甲3号証を提出している。
・甲1号証:特開2002-92578号公報(平成14年3月29日出願公開)
・甲2号証:特開昭57-109351号公報(昭和57年7月7日出願公開)
・甲3号証:特表平7-506919号公報(平成7年7月27日公表)

3 被請求人の主張の概要
被請求人は,本件審判の請求は成り立たないとの審決を求めるものであり,答弁書において,甲1ないし甲3号証によって,本件請求項1ないし4の発明の進歩性(特許法29条2項)を否定することはできないと主張している。

4 各証拠の記載事項
(1)甲1号証(特開2002-92578号公報)
・記載事項1:
「【発明の属する技術分野】本発明は,非接触式ICカードなどの情報担体に搭載されるICモジュールと当該ICモジュールの製造方法とに関する。」(段落【0001】)
・記載事項2:
「甲第1号証記載事項8:「【0024】巻線コイル5は,図2及び図3に示すように,銅線5aが絶縁被膜5bで被覆された被覆導線をもって形成される。銅線5aの直径は20μm乃至100μm,絶縁被覆5bの膜厚は約5μmであり,これをICチップ1の特性に合わせて1回乃至数十回ターンさせることによって,巻線コイル5が形成される。巻線コイル5の端部は,図2及び図3に示すように,銅線5aの中心線X-Xを入出力端子2の開口幅W内に配置して,バンプ4と直接接続される。・・・」
・記載事項3:
「本例のICモジュール製造方法は,バンプ4と巻線コイル5とを溶接することを特徴とするものであって,まず,図4に示すように,巻線コイル5を構成する被覆導線の中心X-Xを入出力端子2の開口幅W内にして,被覆導線をバンプ4上に設置する。次いで,図5に示すように,当該被覆導線の上方より加熱ヘッド11を当接し,バンプ4上に被覆導線を固定する。加熱ヘッド11は,図5に示すように,絶縁部材12を介して対向に配置された電極13,14と,これら各電極13,14の先端部に接するように配置された例えばモリブデンテープなどの抵抗発熱体15とから構成されており,前記抵抗発熱体15を介して前記各電極13,14の先端部が前記被覆導線に当接され,バンプ4と被覆導線との間に所要の押圧力を負荷する。次いで,前記抵抗発熱体15を介して前記各電極13,14間に通電し,前記抵抗発熱体15を加熱する。この熱によって,被覆導線の絶縁被覆5bが局部的に蒸発又は昇華されるため,該部の絶縁被覆5bが除去されて導線5aが露出され,露出された導線5aと抵抗発熱体15及びバンプ4とが互いに直接接触する。この状態からさらに押圧力と熱とを加えると,導線5aとバンプ4の表面に形成された金めっき層4bとが溶融して合金化され,電気的に接続される。」(段落【0028】)

(2)甲2号証(特開昭57-109351号公報)
・記載事項1:
「銅もしくは銅合金の単体からなる素子配設基材に上面に電極を有する半導体素子をマウントし,かつ該半導体素子の電極と前記素子配設基材とを金もしくは金合金のワイヤで接続したことを特徴とする半導体装置」(特許請求の範囲)
・記載事項2:
「本発明は半導体装置に関し,特に半導体素子がマウントされ,かつ該素子の電極に接続したワイヤがボンデイングされる素子配設基材を改良した半導体装置に係る。」(1頁左下欄11行?14行)
・記載事項3:
「本発明は・・・素子配設基材のポストボンデイング部に銀層を被覆せず,該基材の素地(銅もしくは銅合金の単体)に直接金や金合金のワイヤをボンデイングした半導体装置を提供しようとするものである。」(2頁左下欄17行?右下欄2行)
・記載事項4:
「銅製薄片板をプレス加工して銅単体からなるリードフレームを作製する。つづいて複数個のnpnバイポーラトランジスタが形成されたシリコン基板のマウント面に厚さ約600Åのバナジウム層,厚さ約2000Åのニツケル層,厚さ約1.0μmの金・ゲルマニウム(Ge12wt%)合金層及び厚さ1000Åの金層を順次真空蒸着した後,シリコン基板をその上面(マウント面と反対側の面)よりダイヤモンドスクライブ又はブレードダイサースクライブにより割断して第5図に示す半導体素子104を作製する。なお,これら半導体素子は塩化ビニール等で被覆して保管する。次いで,前記リードフレームをH2-N2のフオーミングガス(還元性雰囲気)中で370?400℃に加熱した状態で,このリードフレームのアイランド部に前記半導体素子を振動を与えずに50?80gの加重で押圧してマウントする。その後,マウントされた半導体素子のAl電極に金ワイヤの一端をボンディングし,更に金ワイヤの他端を銅単体のリードフレームのリード部に還元性雰囲気中,300?350℃下でポストボンディングし,更に樹脂封止を施した後,延出したリード部等を半田浴に浸漬し半田処理を施して第4図に示す半導体装置を造る。」(3頁右上欄7行?左下欄11行)
・記載事項5:
「本発明によれば半導体素子104上面のAl電極110a,110bに一端が接続された金ワイヤ111a,111bを銅単体からなるリードフレーム101のリード部103a,103bに夫々Au-Cuの全率固溶体を介して良好にボンディングされた半導体素子を得ることができるため,以下に列挙する種々の効果を有するものである。・・・(5)銅単体からなるリードフレームのリード部に金ワイヤをボンディングしたことにより形成された接合層は金と銅の全率形の固溶体で金属間化合物とならない。このため,ボンデイングの接合層に金属間化合物ができないので,電気抵抗が小さく,化学的に安定し,機械的強度の劣化のない高信頼性の半導体装置を得ることができる。」(3頁左下欄12行?4頁左上欄15行)

(3)甲3号証(特表平7-506919号公報)
・記載事項1:
「1.少なくともアンテナコイルと共振コンデンサとを含んで成る共振回路から成る無線周波数検出ラベルを製造する方法であって,絶縁素線から作られたアンテナコイルが用いられ,アンテナ回路の共振コンデンサを含む,他の全ての電気部品がチップ上で集積回路(IC)として配置され,そしてコイルリードが,ICとコイルリードとを載置するために余分な基板またはリードフレームの介在なしに,電気的接続でもって,集積回路に直接接続されることを特徴とする方法。
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11.絶縁素線で形成されるアンテナコイルリードが,予め絶縁を裸にされることなしに,接続表面の絶縁を除去し,そして続いてコイルリードと接続表面の接続を達成する加熱された半田ごての先を用いて,ICの接続表面に接続されることを特徴とする請求項1記載の無線周波数検出ラベルの製造方法。
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13.接続表面が貴金属層を予め備えており,そしてコイルリードが熱圧着溶接を達成するために接続表面に対して強く押付けられることを特徴とする請求項11記載の方法。
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18.電気的にコード化された同定ラベルとして構成される請求項17に記載された無線周波数検出ラベル」(請求の範囲)
・記載事項2:
「図6そして図7は,絶縁物質を予め除去することなしに,半田付手法そして熱圧着溶接手法を使用することを模式的に示す。必ずしも最初に銅線から絶縁性物質を除去する必要はないもようである。」(5頁左下欄10行?14行)
・記載事項3:
「図7は熱圧着溶接が行われる模様を模式的に例示する。IC11の接続表面12には好ましくは貴金属の薄い層(たとえば金)である適当な金属層(凸部)32が提供される。銅線21は,まだ絶縁性の鞘を保持しながら,接続表面に対して加熱された半田ごての先31でもって押し当てられる。半田の先は比較的高温度,たとえば500℃程度を,有する。半田の先は22において示すように,接続表面12に素線が若干変形される程度の力をもって押し付けられる。高温度のために,絶縁層20がこの領域で消失する。絶縁層は半田の先から間隔をおいてそれのいずれかの側に位置28の方に引離される。裸となった銅線は,前にそうであったように,凸部と一緒になり,そして接点が形成される。」(5頁右下欄6行?20行)

5.甲3号証に記載された発明
(1)甲3号証には,上記4(3)の記載事項1のとおり,「少なくともアンテナコイルと共振コンデンサとを含んで成る共振回路から成る無線周波数検出ラベルを製造する方法であって,絶縁素線から作られたアンテナコイルが用いられ,アンテナ回路の共振コンデンサを含む,他の全ての電気部品がチップ上で集積回路(IC)として配置され,そしてコイルリードが,ICとコイルリードとを載置するために余分な基板またはリードフレームの介在なしに,電気的接続でもって,集積回路に直接接続されることを特徴とする方法」が記載されているところ,当該方法はアンテナコイルリードによって集積回路とアンテナコイルとを接続するものであるから,当該方法は「集積回路とアンテナコイルとの接続構造」を開示しているということができる。そして,アンテナコイルと集積回路によって構成されたものは,「電気的にコード化された同定ラベルとして構成される」ものであるから,「非接触ID識別装置用のアンテナコイルと集積回路との接続構造」にほかならない。

(2)記載事項3によれば,アンテナコイルは銅線からなり,アンテナコイルリードは絶縁性の鞘を有しており,集積回路の接続表面には貴金属の薄い層(たとえば金)が形成されている。

(3)記載事項1及び記載事項3によれば,絶縁性の鞘を有する銅線は,集積回路の接続表面に対して加熱された半田ごての先を若干変形される程度の力をもって押し当てられ,熱圧着溶接によって接続されるものである。

(4)記載事項2,3によれば,銅線の絶縁層は半田ごての先の高温度のために消失するとされているので,半田ごてはアンテナコイルリードの絶縁層を消失させる温度以上になっている。

よって,甲3号証には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。
「銅製のアンテナコイルリードと集積回路の接続表面を形成する薄い金の層とを,アンテナコイルリードの絶縁層を消失させる温度以上の半田ごてをアンテナコイルリードの銅線が若干変形される程度の力をもって押し当て,アンテナコイルリードと集積回路の接続表面とを熱圧着溶接によって接続した非接触ID識別装置用のアンテナコイルと集積回路との接続構造。」

6 本件訂正発明1について
(1)本件訂正発明1
平成22年7月15日付け訂正請求によって訂正された,本件の請求項1に係る発明(本件訂正発明1)は,前記第2の1(1)ア(イ)の請求項1に記載されたとおりのものと認める。
再掲すれば,次のとおり。
「線径60?70μmの銅(Cu)製の巻線型コイルとICチップの最外層が厚さ10?15μmの金(Au)膜で構成された接続端子とを,該巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱させつつ,平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面外にはみ出ることのない範囲に形成され,塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧することによって,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の1/2以上のエリアに形成したAu/Cu全率固溶体を介して,接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造。」

(2)対比
本件訂正発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「アンテナコイル」「集積回路」「絶縁層」は,それぞれ,本件訂正発明1の「巻線型コイル」「ICチップ」「絶縁膜」に相当する。
引用発明ではアンテナコイルリードを接続する「集積回路の接続表面」は薄い金の層で形成されており,薄い金の層は接続表面の最外層に位置するものであるから,本件訂正発明1の「ICチップの最外層が金(Au)膜で構成された接続端子」に相当する。
引用発明では,半田ごての温度はアンテナコイルリードの絶縁層を消失させる温度以上であるから,本件訂正発明1における「巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上」と実質的に同等のものである。また,引用発明は,熱圧着によってアンテナコイルリードと集積回路の接続表面を接続するものであり,熱圧着とは「複数の部材を融点以下の適当な温度で圧力を加え密着させて,塑性変形を起こさせ,双方の清浄面の接触によって接合する方法」であるから,引用発明の加熱温度は塑性流動を生じさせうる温度範囲のものである。
引用発明では,半田ごてをアンテナコイルリードの銅線が若干変形される程度の力をもって押し当てているから,本件訂正発明1における「平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金属上面外にはみ出ることのない範囲に形成され,塑性変形後の巻線形コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧」とは,本件訂正発明1においては変形後の形状に限定が付されている点を除き,巻線型コイルが変形する加圧力で加圧する点で共通している。
引用発明は,熱圧着によってアンテナコイルリードと集積回路の接続表面を接続するものであり,熱圧着とは「複数の部材を融点以下の適当な温度で圧力を加え密着させて,塑性変形を起こさせ,双方の清浄面の接触によって接合する方法」である。そして,本件訂正発明1における加熱加圧によってAu/Cu全率固溶体を介して接合する方法も熱圧着の範疇のものであるから,引用発明の「アンテナコイルリードと集積回路の接続表面とを熱圧着溶接によって接続した非接触ID識別装置用のアンテナコイルと集積回路との接続構造」と,本件訂正発明1の「該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の1/2以上のエリアに形成したAu/Cu全率固溶体を介して,接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造」とは,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜とを熱圧着によって接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造である点で共通している。

してみると,本件訂正発明1と引用発明とは,
「銅(Cu)製の巻線型コイルとICチップの最外層の金(Au)膜で構成された接続端子とを,該巻線形コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱させつつ,巻線型コイルが変形する加圧力で加圧し,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜とを熱圧着によって接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

相違点A:銅製の巻線コイルの線径が,本件訂正発明1では60?70μmであるのに対し,引用発明では線径の限定がない点

相違点B:ICチップの接続端子の最外層の金膜の厚さが,本件訂正発明1では10?15μmであるのに対し,引用発明では厚さの限定がない点

相違点C:巻線コイルを変形させる加圧力が,本件訂正発明1では平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金属上面外にはみ出ることのない範囲に形成され,塑性変形後の巻線形コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力であるのに対し,引用発明では変形後の形状と加圧力との関係が不明である点

相違点D:巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜とを熱圧着によって接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造として,本件訂正発明1では該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の1/2以上のエリアに形成したAu/Cu全率固溶体を介して接合されているのに対し,引用発明では接合面の状態が不明である点

(3)相違点についての検討
ア 相違点Aについて(当審の判断)
本件特許明細書には,本件訂正発明1の巻線型コイルの線径が60?70μmであることの意義や効果等についての記載はない。そして,例えば甲1号証には,前記4(1)記載事項2のとおり,非接触式ICカードの巻線コイルとして銅線の直径が20μm乃至100μmのものが開示されている。
してみると,本件訂正発明1のような非接触ID識別装置の巻線型コイルの線径として60?70μmの銅線を用いることは通常のことにすぎない。
したがって,相違点Aは格別のものではない。

イ 相違点Bについて
(ア)当審の判断
a 本件特許出願当時,ICチップの接続端子の金膜の厚さについては,次の技術が知られていた。
(a)特表平6-510364号公報(以下「周知例1」という。)
また,周知例1には次の記載があり,小型トランスポンダに利用される集積回路チップに対する電磁アンテナ・リード線の取り付けを容易にするための方法及び装置に関し,強化接触パッドは,厚さが約25μmになるまで,金または銅の被着が施され,ハンダ付け,熱圧縮ボンディング又は溶接により,細い銅線が取り付けられることが記載されている。
「【請求項1】カプセルに収容された小形トランスポンダの一部を形成する集積回路装置に強化接触パッドを設ける方法において,該装置の表面に絶縁材料の追加層を被着させるステップと,前記絶縁層にホールを開けて,該装置の標準的な回路接触パッドを露出させるステップと,前記絶縁層の上に重なり,前記ホールを介して前記標準的な接触パッドとつながる強化接触パッドを形成して,電気的相互接続リード線を直接接続することが可能なダイ装置を得るステップから構成される強化接触パッドを設ける方法。
【請求項2】前記強化接触パッドが,まず,前記標準的な接触パッドとの電気的接触部にフィールド金属を被着させ,その上に前記強化パッドを直接メッキすることによって形成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】前記追加絶縁層が,厚さが10,000オングストロームを超える窒化珪素の層であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】前記強化パッドが,金または銅から構成されるグループから選択された,厚さが少なくとも20ミクロンの金属で製造されることを特徴とする請求項3に記載の方法。」(1頁左欄「特許請求の範囲」)
・「本発明は,一般に,小形電子装置の製造に関するものであり,とりわけ,生きている動物への移植を含む多種多様な用途に用いるのに適した小形トランスポンダに利用される,集積回路チップに対する電磁アンテナ・リード線の取り付けを容易にするための方法及び装置に関するものである。」(2頁右下欄5行?9行)
・「強化接触パッド22及び24は,さらに,厚さが約25ミクロンになるまで,金または銅の被着が施される。例示の特定の用途の場合,パッド22及び24は,長さが約16ミリ・インチ,幅6ミリ・インチであり,ハンダ付け,熱圧縮ボンディング,または,溶接によって,細い導線14及び16を取り付けることを可能にする十分な表面積を提供する。留意すべきは,パッド22及び24が回路の活性領域の上に直接メッキされる本発明にとって,窒化珪素層34の厚さがとりわけ重要であるということである。」(3頁左下欄11行?17行)
・「引き続き,厚さ25ミクロンの強化パッド22及び24が,フィールド金属に
電気メッキされる。・・・リード線14及び16は,それぞれ,ハンダ付け,熱圧縮ボンディング,または,溶接によって強化パッド22及び24に取り付けられる。」(3頁右下欄9行?15行)

(b)特表2006-505933号公報(以下,「周知例2」という。)
周知例2には,次の記載があり,基板と信号処理回路とを有する集積回路において(【0001】),ICには,窒化シリコンを備えた保護層が設けられ,厚みは約1.5μmであること(【0016】),IC内に設けられた表面コンタクトパッドは,チタン・タングステンを備えた約1μmの厚みの基礎層と,この基礎層上に金(Au)を備えた主部を有し,保護層上で表面コンタクトパッドが立ち上がる高さは18μmであり,この高さは,15μmしかなくてもよく,また,この高さは,20μm,23μm又は25μmから選ばれてもよいこと(【0017】),及び各表面コンタクトパッドは,熱圧縮ボンディング処理により線端に直接接続されること(【0017】)が記載されている。

・「この発明は,基板と信号処理回路とを有する集積回路であって,前記信号処理回路は前記基板の表面の近傍の前記基板の領域内に形成され,そして,複数の回路素子と少なくとも一つの第一のコンタクトパッドとを有し,・・・前記第一のコンタクトパッドは,前記集積回路の外部の回路素子の素子コンタクトから前記信号処理回路への電導的接続のためのものであり,・・・そして,各第一のコンタクトパッドに対して,高さが少なくとも15μmであり,素子コンタクトへの直接接続のために,そして,対応する孔を介して前記第一のコンタクトパッドまで拡張され,そして,前記第一のコンタクトパッドに電導的に接続され,そして,前記孔を越えて横方向に突出する重複領域により前記保護層上に置かれ,そして,リング状に閉ざされている表面コンタクトパッド(第二のコンタクトパッド)(バンプ)が設けられている集積回路に関する。」(段落【0001】)
・「・・・トランスポンダは,この目的のために適する通信局と非接触通信を行うために設けられ,基本的に,IC1と,これに接続され,物理的な接触無しに動作する伝送手段である伝送コイルとを備え,伝送コイルは複数巻きのコイルと二つの接続コンタクトとを備える。伝送コイルは,この場合,IC1外部の回路素子を形成し,各々が素子コンタクトを形成する二つのコイル接続コンタクトを有する。伝送コイルは,コイル線の一端においてコイル接続コンタクトの各々が形成されたコイル線がまかれたものとする。・・・」(段落【0013】)
・「IC1には,さらに,保護層12が設けられ,ここでは,保護層12は窒化シリコン(SiN)を備え,厚みは約1.5μmである。」(段落【0016】)
・「・・・ここでは,各表面コンタクトパッド14は,チタン・タングステンを備えて約1μmの厚み(1.5μm又は2μmの厚みでもよいが)の基礎層15と,この基礎層15上に主部16を有し,これは,ここでは,金(Au)を備える。保護層12上で各表面コンタクトパッド14が立ち上がる高さhは,ここでは,公称高さの18μmである。この高さ,しかし,15μmしかなくてもよい。さらに,この高さhは18μmより高く,例えば,20μm又は23μm又は25μmから選ばれてもよい。各表面コンタクトパッド14は,素子コンタクト,即ち,ここでは,線端2に直接接続されるものである。この場合,各表面コンタクトパッド14と対応する線端2との接続は熱圧縮ボンディング処理により行われる。・・・」(段落【0017】)

(c)製品仕様書「mifare(R) Standard Card IC MF1 IC S50 05 Bumped Wafer Specification」(翻訳:mifare(登録商標)スタンダードカードIC MF1 IC S50 05バンプウエハー仕様書),第3.1版,2002年10月,フィリップス セミコンダクターズ発行(以下,「周知例3」という。)
周知例3には,次の記載がある。
・「The MF1 ICS 50 05 is a contactless Smart Card IC designed for card IC coils following the MIFARE(R) Card IC Coil Design Guide ・・・」(3頁左欄)
(翻訳:MF1 ICS 50 05は,MIFARE(登録商標)カードICコイル設計ガイドに従ってカードICコイル用に設計された非接触スマートカードICであり,・・・)
・「3.5 Au Bump
・ Bump meterial: >99.9% pure Au
・・・
・ Bump height: 18μm
・ Bump height uniformity:
- within a die: ±2μm
- within a wafer: ±3μm」(3頁右欄)
(翻訳:3.5 金バンプ
・バンプ材料:99.9%超の純金
・・・
・バンプ高:18μm
ダイ内:±2μm
ウエハー内:±3μm)

b 以上のとおり,周知例1には,集積回路装置の強化接触パッドが少なくとも20μmになるまで金の被着が施され,これが熱圧縮等の溶接により,銅線が取り付けられることが示されている。また,周知例2及び周知例3には,ICチップの接続端子の最外層の金膜の厚さについて,これを15μmとする例,あるいは18μmとする例が示されている。これらの記載からすると,巻線型コイルとICチップとの接続構造において,ICチップの接続端子の最外層を金膜で構成し,その厚さを15μm程度とすることは,本件特許出願当時の技術常識であったといえる。
また,本件訂正明細書には,本件訂正発明1の「最外層が金(Au)膜で構成された接続端子」における金膜の厚さを10μm又は15μmとした場合の実施例が記載されているだけで,金膜の厚さを10μmないし15μmとすることにより,その数値範囲外のものと比較して,金膜と巻線型コイルの銅との塑性流動や全率固溶体の生成において,格別の作用効果を奏するとの記載がないことからすると,本件訂正発明1において,ICチップの接続端子の最外層の金膜の厚さを10μmないし15μmとした点に,銅製の巻線型コイルとの接合において,格別の技術的意義があるとは認められない。
そうすると,本件訂正発明1において,ICチップの接続端子の最外層の金膜の厚さを10μmないし15μmとしたことは,上記技術常識を勘案して,当業者が適宜想到し得たものであるということができる。

c また,「銅もしくは銅合金の単体からなる素子配設基材に上面に電極を有する半導体素子をマウントし,かつ該半導体素子の電極と前記素子配設基材とを金もしくは金合金のワイヤで接続したことを特徴とする半導体装置」の発明が記載された引用例2には,「銅単体からなるリードフレームのリード部に金ワイヤをボンディングしたことにより形成された接合層は,金と銅との全率形の固溶体で金属間化合物とならないため,電気抵抗が小さく,化学的に安定し,機械的強度の劣化のない高信頼性の半導体装置を得ることができる。」との記載があり,金と銅との全率固溶体は,金属間化合物に比べて,電気的,機械的特性が良好であることが開示されているところ,これは金と銅との接合層に関する一般的な知見であると解されるから,接続端子の最外層の厚さを10μmないし15μm程度とした金膜と巻線型コイルの熱圧着について,金属間化合物を避け,加熱温度及び加圧力を適切に選択して,Au/Cu全率固溶体が形成されるようにすることも,当業者において容易に想到することができたものということができる。

(イ)被請求人の主張について
被請求人は,平成22年7月15日付けの訂正請求書において,接続端子の最外層の金膜を10μmないし15μmとすることにより,これに加えることが可能な加圧力により良好に塑性流動し,金膜と導線の銅との相互拡散によるAu/Cu全率固溶体の生成を良好にするものであるが,本件特許出願前に,このような塑性流動の観点ないしこれによる全率固溶体の生成の観点から金膜の厚さについて記載した文献はない旨主張している。
しかしながら,上記a,bのとおり,巻線型コイルとICチップとの接続構造において,銅製の巻線型コイルに接続されるICチップの接続端子の最外層を構成する金層の厚さを10μmないし15μmとすることは,本件特許出願当時,適宜想到することができた事項であり,また,厚さを10μmないし15μm程度とした金膜と巻線型コイルとの熱圧着について,Au/Cu全率固溶体が形成されるようにすることも,当業者において容易に想到することができたものであるから,そうであるにもかかわらず,金膜と巻線型コイルの銅との塑性流動やAu/Cu全率固溶体の生成との関係で,金膜の厚さを10μmないし15μmとする本件訂正発明1の構成が進歩性を有するとするためには,本件訂正明細書の記載に基づき,金膜の厚さを10μmないし15μmとすることによる格別の作用効果の有無が検討されるべきであり,10μmを下回る厚さや15μmを上回る厚さの金膜が接続端子等の下地上に配された場合にも塑性流動することを示す証拠がない以上,本件訂正発明1の上記構成は進歩性を有するとの被請求人の主張は採用できない。
そして,本件訂正明細書からは,金膜の厚さを10μmとした実施例1及び15μmとした実施例2において,銅製の巻線型コイルと接続端子の金膜との界面付近で塑性流動が生じてAu/Cu全率固溶体が生成されたことは読みとることができるものの(【0033】?【0036】【0039】【0045】),金膜の厚さを10μmから15μmの間の数値とした場合に,その範囲外の数値とした場合に比して,金膜と巻線型コイルの銅との塑性流動性やAu/Cu全率固溶体の生成において格別の作用効果を奏するとの記載はないから,本件訂正発明1の上記構成が進歩性を有するということはできない。

ウ 相違点Cについて
(ア)当審の判断
相違点Cに係る構成のうち,「塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力」で加圧する点については,熱圧着においてワイヤ等の変形率がその信頼性等に影響を与えることが,例えば,特開昭57-062550号公報,特開2003-133364号公報等に記載されていることに鑑みれば,「比率t/D」の範囲は,当業者が適宜設計し得る範囲内のものである。
また,「平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面外にはみ出ることのない範囲に形成」については,加熱加圧により巻線型コイルに生じた変形の状態を規定するものであるが,当該構成は,巻線型コイルを接続端子の最外層の金膜の中心に位置あわせし,金膜及び巻線型コイルの中心位置を加熱しながら,当業者が通常採用し得る程度の加圧力で加圧すれば,当然に達せられる構成にすぎない。
したがって,相違点Cに係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであり,格別のことではない。

(イ)被請求人の主張について
被請求人は,平成22年7月15日付けの訂正請求書において,相違点Cに係る構成により,適切な加圧力で,ICチップに損傷を与えることなく,接続端子上のきわめて狭い範囲内に極力大きな体積を確保し,巻線型コイル と接続端子の最外層の金膜との境界に良好にAu/Cu全率固溶体を形成することができ,これによって高い接続強度を獲得することでき,また,圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面を越えない範囲に形成されるか否かは,外観検査で確認可能であり,これによって加圧が適切に行えたかの確認が容易になるとともに,接続端子上に巻線型コイル との所定部位が正確に載っているかの確認も同時に行い得る旨主張している。
しかしながら,本件訂正明細書には,「比率t/D」の範囲及び圧痕とAu/Cu全率固溶体の形成との関係については何ら記載されておらず,また,上記のとおり,熱圧着においてワイヤ等の変形率がその信頼性等に影響を与えることが知られていたこと,また,電極を正確に位置合わせし,適切な加圧力で加圧することは,当業者が当然に考慮することであり,電子機器等の製造において,外観検査により製品の品質をチェックすることが常とう手段であることからすれば,相違点Cに係る構成とすることは,当業者が当然になし得る設計事項というべきである。請求人の主張は,採用できない。

エ 相違点Dについて
(ア)当審の判断
引用発明において,集積回路の接続表面は金の薄い層で形成されており,銅線とは熱圧着溶接によってAu/Cu合金を介して接合されているものと認められる。
ここで,前記4(2)の甲2号証の記載事項5において,金と銅との接合層の特性を全率固溶体と金属間化合物との対比において記載されており,その記載は金と銅との接合層に関する一般的な特性であると解されることからすると,引用発明における,金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱させつつ,加圧することによって形成された接続構造であるAu/Cu合金についても,全率固溶体か金属間化合物か,そのいずれかの相であると解することができる。
また,同記載事項5には,「銅単体からなるリードフレームのリード部に金ワイヤをボンディングしたことにより形成された接合層は金と銅の全率形の固溶体で金属間化合物とならない。このため,ボンデイングの接合層に金属間化合物ができないので,電気抵抗が小さく,化学的に安定化し,機械的強度の劣化のない高信頼性の半導体装置を得ることができる。」と記載されており,全率固溶体は,金属間化合物に比べて電気的特性や機械的強度に優れ,高信頼性の半導体装置を得ることができることが開示されているから,引用発明における接合のAu/Cu合金についても,Au/Cu全率固溶体が形成されるようにすることは,当業者であれば,当然に考えることである。
また,上記記載事項5の記載からも明らかなように,金属端子とワイヤとの接続構造において,接合部の強度に信頼性が要求されることは技術常識であり,接合部を構成する面積が大きいほど接合強度が強くなることは自明のことであり,本件訂正発明1において,その面積を「界面全体の1/2以上のエリア」とした点に,格別の臨界的意義は認められない。
したがって,引用発明において,加熱温度及び加圧力を適切に選択して,Au/Cu全率固溶体が,巻線型コイルと接続端子の最外層の金膜との界面全体の1/2以上のエリアに形成されるように構成することは当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)被請求人の主張について
被請求人は,平成22年7月15日付けの訂正請求書において,相違点Cに係る構成により,十分な接合強度を得ることができると主張している。
しかしながら,上記のとおり,接合部を構成する面積が大きいほど接合強度が強くなることは自明であるとともに,本件訂正明細書には,接合部を界面全体の1/2以上のエリアに形成した場合と,1/2未満のエリアに形成した場合との間に顕著な差異があるとは説明されておらず,接合部の面積を「界面全体の1/2以上のエリア」に特定した点に,当然に予想される以上の格別の技術的意義があるとは認められない。請求人の主張は,採用できない。

オ そして,各相違点を総合的に勘案しても,本件訂正発明1の奏する作用効果は,引用発明,甲2号証に記載された発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。その作用効果も格別顕著なものということはできない。

(4)小結
以上のとおりであるから,本件訂正発明1は,甲2ないし甲3号証に記載された発明,周知技術及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 本件訂正発明2について
(1)本件訂正発明2
平成22年7月15日付け訂正請求によって訂正された,本件の請求項2に係る発明(本件訂正発明2)は,本件訂正発明1を引用する「方法」のカテゴリーの発明であって,前記第2の1(1)ア(イ)の請求項2に記載されたとおりのものと認める。
再掲すれば,次のとおり。
「線径60?70μmの銅(Cu)製の巻線型コイルをICチップの最外層が厚さ10?15μmの金(Au)膜で構成された接続端子に,前者を後者上に載せ,かつ前者の上から該巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱しながら,平面視で,前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面を越えない範囲に形成され,塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが,0.1を越え,かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧し,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の少なくとも1/2を超えるエリアにAu/Cu全率固溶体を形成させることにより,直接接合して,請求項1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造を構成することとした,非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。」

すなわち,本件訂正発明2は,本件訂正発明1の「接続構造」を引用し,さらに,巻線型コイルを接続端子の「上に載せ,かつ前者(巻線型コイル)の上から」,加熱しながら加圧する点,及び巻線型コイルを接続端子に「直接接合」する点を限定した「接続方法」の発明である。

(2)引用発明2
甲3号証に記載された発明は,前記4(2)の記載事項3及び図面から,アンテナコイルリードを集積回路の接続表面上に載せ,熱圧着溶接することにより,「直接」接続していることは明らかである。
そうすると,甲3号証に記載された発明を,その記載事項から,「方法」のカテゴリーの発明として表現すれば,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているということができる。
「銅製のアンテナコイルリードを集積回路の接続表面を形成する薄い金の層上に載せ,アンテナコイルリードの上から,アンテナコイルリードの絶縁層を消失させる温度以上の半田ごてをアンテナコイルリードの銅線が若干変形される程度の力をもって押し当て,アンテナコイルリードと集積回路の接続表面とを熱圧着溶接によって直接接続した非接触ID識別装置用のアンテナコイルと集積回路との接続方法。」

(3)対比
本件訂正発明2と引用発明2とを対比する。
本件訂正発明2は,「接続方法」に係る発明であり,カテゴリーは異なるものの,実質的には,本件訂正発明1の接続構造において,巻線型コイルを接続端子の上に載せ,かつ巻線型コイルの上から加熱しながら加圧する点,及び巻線型コイルを接続端子に直接接合する点を限定したものである。
他方,引用発明2は,上記のとおり,アンテナコイルリードを集積回路の接続表面上に載せ,熱圧着溶接することにより,「直接」接続する構成を含むものである。
してみると,本件訂正発明2と引用発明2とは,本件訂正発明2が,本件訂正発明1を引用している点を考慮すれば,
「銅(Cu)製の巻線型コイルとICチップの最外層の金(Au)膜で構成された接続端子に,前者を後者上に載せ,かつ前者の上から該巻線形コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱しながら,巻線型コイルが変形する加圧力で加圧し,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜とを熱圧着によって直接接合して,
銅(Cu)製の巻線型コイルとICチップの最外層の金(Au)膜で構成された接続端子とを,該巻線形コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱させつつ,巻線型コイルが変形する加圧力で加圧し,該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜とを熱圧着によって接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造を構成することとした,
非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。」
である点で一致し,前記6(1)の相違点AないしDで相違する。

(4)相違点についての当審の判断
相違点AないしDについての当審の判断は,前記6(2)ウで検討したとおりである。
そして,各相違点を総合的に勘案しても,本件訂正発明2の奏する作用効果は,引用発明2,甲2号証に記載された発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

(5)小結
以上のとおりであるから,本件訂正発明2は,本件訂正発明1と同様に,甲2ないし甲3号証に記載された発明,周知技術及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

8 本件訂正発明3について
(1)本件訂正発明3
平成22年7月15日付け訂正請求によって訂正された,本件の請求項3に係る発明(本件訂正発明3)は,前記第2の1(1)ア(イ)の請求項3に記載されたとおりのものと認める。
再掲すれば,次のとおり。
「前記加熱しながら加圧する操作を傍熱型抵抗溶接によって行うこととした請求項2の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。」

(2)引用発明2
甲3号証に記載された発明(引用発明2)は,前記7(2)のとおりである。

(3)対比
本件訂正発明3は,本件訂正発明2を引用していることから,本件訂正発明2と引用発明2とを対比すれば,両者は,前記7で検討した一致点で一致し,相違点AないしDに加え,次の相違点Eにおいて相違する。
相違点E:本件訂正発明3は,加熱しながら加圧する操作を傍熱型抵抗溶接によって行うのに対し,引用発明2は,熱圧着溶接を行うことが特定されているものの,傍熱型抵抗溶接については特定されていない点

(4)相違点についての当審の判断
ア 相違点AないしDについて
相違点AないしDについての当審の判断は,前記7で検討したとおりである。

イ 相違点Eについて
本件訂正発明3の発明特定事項である「傍熱型抵抗溶接」について,本件訂正明細書の記載を参酌すれば,「例えば,この手段として,図1に示すように,傍熱型抵抗溶接を採用し,その電極4で,これに,矢印a1に示すように電流を流して発熱させ,その熱を矢印a2に示すように該電極4から巻線型コイル1及びこれを介した接続端子3に伝えながら,矢印a3に示すように,該電極4で該巻線型コイル1を加圧する方法を採用することができる。」(段落【0029】)と記載されている。
他方,甲1号証には,前記4(1)の記載事項によれば,非接触式ICカードなどの情報担体に搭載されるICモジュールの製造方法における,バンプと巻線コイルとの溶接に関し,絶縁部材を介して対向配置された電極とこれら各電極の先端部に接するように配置された抵抗発熱体とから構成された加熱ヘッドの先端部を,抵抗発熱体を介して被覆導線に当接し,押圧した状態で各電極間に通電すると,抵抗発熱体の熱によって,導線とバンプの表面に形成された金めっき層とが溶融して合金化され,電気的に接続されることが記載されており,同甲号証に開示された溶接は,上記本件訂正明細書の記載からみて,「傍熱型抵抗溶接」にほかならない。
なお,被請求人も,甲1号証に記載された溶接が「傍熱型抵抗溶接」であることを,認めている(平成20年12月26日付け答弁書)。
そうすると,非接触式ICカードの製造方法に係る技術分野において,巻線コイルを加熱しながら加圧し,「傍熱型抵抗溶接」することが,上記のとおり公知であったことに鑑みれば,引用発明2における熱圧着溶接する方法として,「傍熱型抵抗溶接」を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。
そして,各相違点を総合的に勘案しても,本件訂正発明3の奏する作用効果は,引用発明2,甲1ないし甲2号証に記載された発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
(5)小結
以上のとおりであるから,本件訂正発明3は,甲1ないし甲3号証に記載された発明,周知技術及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

9 本件訂正発明4について
(1)本件訂正発明4
平成22年7月15日付け訂正請求によって訂正された,本件の請求項4に係る発明(本件訂正発明4)は,前記第2の1(1)ア(イ)の請求項4に記載されたとおりのものと認める。
再掲すれば,次のとおり。
「前記加熱しながら加圧する操作に於ける加熱温度及び加圧力を,それぞれ,前記巻線型コイルと前記ICチップの接続端子との相互の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させ得るように実験的に決定する請求項2又は3の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。」

(2)引用発明2
甲3号証に記載された発明(引用発明2)は,前記7(2)のとおりである。

(3)対比
本件訂正発明4は,本件訂正発明2及び3を引用していることから,本件訂正発明2と引用発明2とを対比すれば,両者は,前記8で検討した一致点で一致し,相違点AないしEに加え,次の相違点Fにおいて相違する。
相違点F:本件訂正発明4は,加熱しながら加圧する操作に於ける加熱温度及び加圧力を,それぞれ,巻線型コイルとICチップの接続端子との相互の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させ得るように実験的に決定するのに対し,引用発明2は,当該構成について特定されていない点

(4)相違点についての当審の判断
ア 相違点AないしEについて
相違点AないしEについての当審の判断は,前記8で検討したとおりである。

イ 相違点Fについて
巻線型コイルと前記ICチップの接続端子との相互の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させ得るように,加熱温度及び加圧力を設定し,非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとを接続することが,甲3号証及び甲2号証に記載された発明,周知技術及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであることは,前記7で検討したとおりである。
一般に,製造方法における設定条件を実験的に決定することは,常とう手段であり,本件訂正発明2又は本件訂正発明4において,巻線型コイルとICチップの接続端子との相互の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させ得るように,加熱温度及び加圧力を実験的に決定することに困難性はない。
そして,各相違点を総合的に勘案しても,本件訂正発明4の奏する作用効果は,引用発明2,甲1ないし甲2号証に記載された発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

(5)小結
以上のとおり,本件訂正発明4は,甲1ないし甲3号証に記載された発明,周知技術及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから,訂正された本件特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,同法123条1項2号の規定に該当し,その特許を無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造及びこれを構成する接続方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、多くのサービス産業、物品販売業、製造業、物流業及び金融業等の種々の分野で、物品や人物に関する個体の自動認識の手段として用いられる非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップの接続端子とを接続する非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造、並びにこれを構成するための非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、個体の自動認識(自動ID識別)は、多くのサービス産業、物品販売業、流通業、製造業及び物流等の種々の産業分野で、取り扱う種々の物品やサービス、或いは関係する人物等の識別のために一般的に利用されるようになってきている。このような個体の自動認識の手段としてバーコード・ラベルが広く用いられてきたが、現在では、圧倒的に記憶容量が大きく、かつ再度プログラムが可能なICカードが有力視され、これに移行しつつある。
【0003】
前記ICカードには、接触型と非接触型のそれがあるが、後者の非接触型のそれが、データキャリヤ装置への電力供給及びカード・リーダとデータキャリヤ装置との間のデータ交換に物理的接触を必要としないため、接触面の腐食の問題や汚れの問題が完全に回避可能となり極めて高い実用性が認められる。
【0004】
前記非接触ICカードに於いて、そのキャリヤ装置のアンテナコイルと対応するカード・リーダのアンテナとの最適電磁誘導結合を確保し、これによって確実な情報交換(電力供給)を行うためには、そのアンテナコイルの電気抵抗をできるだけ小さくすることが望まれる。そしてこのような観点からは、アンテナコイルの材料として、電気抵抗の大小の順に従って、銀、銅、金、アルミニウムがその順で相応しいことになるが、使用環境下での安定性及び経済的観点から銅が最も実用的なものとして選択されるべきものと考える。
【0005】
このようなアンテナコイルの製法には、銅電線を巻線する方法(特許文献1、2、3)、銅箔をエッチングして形成する方法、導電性ポリマー・インクを用いた印刷による方法等がある。これらの内、銅箔エッチングによる方法は、フォトリソグラフィー技術を用いるものであるため量産性に富み、かつ低い電気抵抗のコイルが得られるが、その電気抵抗のばらつきが大きく、加えて製造工程で生じる廃水の処理の問題もある。また前記導電性ポリマー・インクを用いた印刷による方法も、エッチングによる方法と同様に、量産性には富むが、銀粉を用いるものは環境安定性に乏しく、金粉や金繊維を用いるものは経済的に競争力が乏しい上に、得られるコイルの電気抵抗が大きく実用性に乏しい。前記銅電線を用いて巻線する方法は、他の二者ほどの量産性はないが、得られるコイルの電気抵抗のばらつきが小さく、本発明者は、現時点では、安定して高性能の非接触ICカードを提供する上で、最も優れたアンテナコイルの製造方法であると考えている。
【0006】
他方、ICチップの接続端子は、複数の金属を積層させたメタライゼーションによって構成されており、最下層から順に、チタン、タングステン及び金を積層させたTi-W-Auによる接続端子、Cr-Ni-Agによる接続端子、Cr-Ni-Auによる接続端子等を備えたICチップが供給されている。それぞれAuやAgの最外層の金属の性質を考慮してコイルとの接続方法を選択すべきであるが、本発明者は、保管中の劣化の少ない最外層がAuであるメタライゼーションを備えた接続端子を採用することが好ましいと考えている。
【0007】
前記のような銅電線を巻線する方法で製造された非接触ICカード用巻線型コイルとICチップの以上のような接続端子との接続方法には間接法と直接法とが知られている。この場合の間接法とは接続端子とコイルとの間に中間橋部材(インタポーザ)を介して接続する方法であり、直接法は、コイルと接続端子とを半田付けや導電性接着剤によって接続する方法である。
【0008】
上記直接法の接続方法の内、半田付けによる接続方法には、レーザ(特許文献4)や抵抗溶接電源を用いたそれが知られているが、接続端子がAu最外層のメタライゼーションを備えたものである場合には、半田とAuとの合金化による接合部の脆化の問題がある上に、半田の融点によって使用温度域が制限される。また前記熱圧着による接続方法には、コイルを構成する銅電線先端部にボールを安定して形成する技術が未完成であり、接合部の信頼性に不安がある。更にアルミニウム電線によく用いられる超音波溶接による接続方法には、コイルを構成する銅電線のアルミニウム電線に比べて大きな剛性によってチップ及び接続端子に損傷を与える虞があるという問題がある。
【0009】
また前記間接法には、接続端子とコイルを構成する銅電線との間に別工程で製造される中間橋部材を用いることによるコストの上昇及び切断作業や接続個所の増加等の作業工数の増加の問題がある。更に中間橋部材は量産性が特に要求されるため、アンテナコイルの製造について述べた印刷法又はエッチング法を用いざるを得ず、既述のそれぞれに特有の欠点を有しており、使用条件が著しく制限される。
【0010】
【特許文献1】特開2005-184427号公報
【特許文献2】特開2003-303731号公報
【特許文献3】特開2002-352203号公報
【特許文献4】特開2001-047221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上の観点から、非接触ID識別装置用アンテナコイルとして、銅電線を巻線する方法で作成されたコイル抵抗のばらつきの少ない巻線型コイルを採用し、更にICチップの接続端子として保管中の劣化の少ない最外層がAuであるメタライゼーションを備えたそれを用い、コストの低い直接法による相互の接続を選択し、かつこれを改良して電気的及び機械的に良好な接続を確保することのできる非接触ID識別装置用巻線型コイルとICチップとの接続構造、並びにこれを容易かつ確実に作製することのできる非接触ID識別装置用巻線型コイルとICチップとの接続方法を提供することを解決の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1は、線径60?70μmの銅(Cu)製の巻線型コイルとICチップの最外層が厚さ10?15μmの金(Au)膜で構成された接続端子とを、該巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱させつつ、平面視で、前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面外にはみ出ることのない範囲に形成され、塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが、0.1を越え、かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧することによって、該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の1/2以上のエリアに形成したAu/Cu全率固溶体を介して、接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造である。
【0013】
本発明の2は、線径60?70μmの銅(Cu)製の巻線型コイルをICチップの最外層が厚さ10?15μmの金(Au)膜で構成された接続端子に、前者を後者上に載せ、かつ前者の上から該巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱しながら、平面視で、前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面を越えない範囲に形成され、塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが、0.1を越え、かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧し、該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の少なくとも1/2を越えるエリアにAu/Cu全率固溶体を形成させることにより、直接接合して、請求項1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造を構成することとした、非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法である。
【0014】
本発明の3は、本発明の2の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法において、前記加熱しながら加圧する操作を傍熱型抵抗溶接によって行うこととしたものである。
【0015】
本発明の4は、本発明の2又は3の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法において、前記加熱しながら加圧する操作に於ける加熱温度及び加圧力を、それぞれ、前記巻線型コイルと前記ICチップの接続端子との相互の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させ得るように実験的に決定するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造によれば、線径60?70μmの巻線型コイルとICチップの最外層が厚さ10?15μmのAu膜である接続端子とを、該巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱しながら、平面視で、前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面を越えない範囲に形成され、塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが、0.1を越え、かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧し、巻線型コイルと接続端子の最外層のAu膜とを、両者の界面全体の少なくとも1/2を越えるエリアに生成させたAu/Cu全率固溶体を介して接続するものであるため、その高い機械的強度の接続を確保し、かつ良好な電気的接続を確保することができる。先に述べた半田付けその他を用いた接合の場合の諸問題の発生の余地がないのは云うまでもない。
【0018】
本発明の2の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法によれば、線径60?70μmの巻線型コイルとICチップの接続端子の最外層の厚さ10?15μmのAu膜との界面付近に該界面全体の少なくとも1/2を越えるエリアに容易かつ確実にAu/Cu全率固溶体を形成することが可能であり、これによって低コストで良好に本発明の1の非接触ICカード用巻線型コイルとICチップとの接続構造を作製することができる。
【0019】
本発明の3の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法によれば、加熱しながら加圧する操作を傍熱型抵抗溶接によって行うこととしたため、電極を高抵抗で耐熱性の良い金属で適切に構成することにより、実用レベルの電流を流すことで、所望の高温度を容易に発生し得、ICチップの接続端子上に配した巻線型コイルに必要な熱量及び加圧力を容易に加えることができる。
【0020】
本発明の4の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法によれば、ICチップの接続端子上に配した巻線型コイルに加える温度及び加圧力を容易かつ適切に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、図3及び図4に示すように、線径60?70μmの銅製の巻線型コイル1とICチップ2の最外層が厚さ10?15μmのAu膜(金膜)3aで構成された接続端子3とを、両者の界面付近に、その界面全体の少なくとも1/2を越えるエリアに加熱加圧によって形成したAu/Cu全率固溶体の合金層5を介して、接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造、並びに、図1に示すように、銅製の巻線型コイル1をICチップ2の最外層がAu膜3aで構成された接続端子3に直接接合して該接属構造を作製する非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法である。
【0023】
なお、該接続方法に於ける接続は、図1に示すように、巻線型コイル1を接続端子3上に載せた上で、該巻線型コイルの上から、その絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱しながら、平面視で、前記線径60?70μmの巻線型コイル1に生じる圧痕6が該接続端子3の最外層の金膜3aの上面を越えない範囲に形成され、塑性変形後の巻線型コイル1の該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが、0.1を越え、かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧する操作で行うものであり、これによって両者の界面付近に、前記のように、その界面全体の少なくとも1/2を越えるエリアにAu/Cu全率固溶体の合金層5を形成させることにより、前記接続構造を作製し、巻線型コイル1と接続端子3との確実な接続を確保するものである。
【0024】
前記非接触ID識別装置は、マイクロプロセッサを含むICチップを内蔵するカード型又はタグ型ID識別装置であって、該ICチップと外部のカードリーダとの間の電力の授受及び情報の交換を前記巻線型コイルを介して行う装置を云うものとする。
【0025】
前記巻線型コイル1は、先に述べたように、銅製の電線で作製するものであるが、この銅製電線は、通常、銅芯線1bを絶縁膜1aで被覆したものであり、それ故、該銅製電線は、その銅芯線1bが、云うまでもなく、実質的に銅製である電線を称するものとする。従って、意図の有無を問わず導電率が純銅のそれの±10%以内となる少量の不純物を含む銅芯線1bを備えた銅製電線も当然この範疇に属する。なお前記絶縁膜1aは、種々の熱可塑性樹脂によって構成されている。
【0026】
前記ICチップ2の接続端子3は、前記したように、その最外層がAu膜3aで構成されている必要があるが、中間層3b及び最下層3cの金属の種類は限定されない。この技術分野でよく知られているように、概ね、最下層3cはチップ2とのオーミック接合を確保する趣旨で、中間層3bはAu膜3aと最下層3cとの相互拡散を阻止する趣旨で素材が選択される。この種の接続端子3を構成するメタライゼーションは、前記したように、最下層からTi-W-Auの順で、Cr-Ni-Agの順で、或いはCr-Ni-Auの順で、それぞれ積層被覆したもの等が供給されているが、これらの内では、Ti-W-Auの順で積層被覆したもの又はCr-Ni-Auの順で積層被覆したものが採用可能である。
【0027】
なお最外層の金(Au)は、通常、カラット法で云う24金が採用されるが、その純度は99.99%以上である。もっともここで云う金は、このような純度のものに限定されるわけではなく、実質的に金と称することができる純度のそれの全てを指すものである。
【0028】
前記加熱しながら加圧する操作は、前記巻線型コイル1の所定部位を接続端子3上に載せた上で、図1に示すように、前者の上から行うものであり、これによって、図3及び図4に示すように、両者の界面付近に、その界面全体の少なくとも1/2を越えるエリアにAu/Cu全率固溶体の合金層5を形成させる。
【0029】
例えば、この手段として、図1に示すように、傍熱型抵抗溶接を採用し、その電極4で、これに、矢印a1に示すように電流を流して発熱させ、その熱を矢印a2に示すように該電極4から巻線型コイル1及びこれを介した接続端子3に伝えながら、矢印a3に示すように、該電極4で該巻線型コイル1を加圧する方法を採用することができる。これを採用した場合は、電極4を高抵抗で耐熱性の良い、例えば、タングステン(W)やモリブデン(Mo)等の金属で適切に構成すれば、実用レベルの電流で、所望の高温度を容易に発生し得、ICチップ2の接続端子3上に配した巻線型コイル1に必要な加熱及び加圧を行い、図2?図4に示すように、圧痕6を形成することができる。
【0030】
なお、前記したように、前記巻線型コイル1は銅芯線1bを絶縁膜1aで被覆した銅製電線で構成されているため、以上の場合に、前記電極4による加熱で該絶縁膜1aが溶融して接続端子3のAu膜と銅芯線1bとの界面から排除され、該界面付近にAu/Cu全率固溶体の合金層5が形成され得ることになる。
【0031】
なお、このような加熱・加圧操作として、直熱型パラレルギャップ抵抗溶接を用いるのは不適当である。それは、巻線型コイル1の所定部位の絶縁膜1aを予め除去して電気的接続を確保するという厄介な作業の必要性がある上に、該巻線型コイルの銅芯線1bとこれを載置する接続端子3との接触面間の電気抵抗が極めて小さいため、これらの間にその発熱のために供給し得る実用的な電流で、該接触面に十分な発熱量を得ることができないからである。また、二つの電極の内の一方は巻線型コイル1の銅芯線1bに当接接触させるものであるが、他方は、当然、接続端子3に接触させなければならず、それ故、接続端子3にそのための接触エリアを確保する必要があり、接続端子3が大型化するからである。以上のような理由から、前記したように、このような場合に直熱型パラレルギャップ抵抗溶接は実用性を認めることができない。
【0032】
また前記Au/Cu全率固溶体の合金層5を形成させる「界面付近」は、前記したように、銅製の巻線型コイル1の所定部位と接続端子3との当接面の範囲の観点からは、その全面積の内の少なくとも1/2以上の面積を占めるエリアであり、このエリアはできるだけ広いことが望ましい。該当接面の両側の範囲の観点からは、当接界面から数原子層から数十原子層の厚さの範囲であり、この範囲で前記Au/Cu全率固溶体の合金層5が形成されれば実用上十分な接着強度が得られる。
【0033】
前記加熱しながら加圧する操作に於ける加熱温度及び加圧力は、それぞれ、前記巻線型コイル1と前記ICチップ2の接続端子3との相互の界面付近にAu/Cu全率固溶体の合金層5を形成させ得るように、実験的に決定する。より具体的には、前記加熱温度は、前記傍熱型抵抗溶接に於ける電極4を含む加熱加圧手段を接続端子3上の巻線型コイル1に当接し、その熱を該巻線型コイル1→接合面→Au膜3aと伝達した場合に、加圧された該巻線型コイル1の銅芯線1bをAu膜3aに対して相対的に塑性流動させ得る温度とすべきものであり、絶縁膜1aを溶融させてAu膜3aと銅芯線1bとの界面で金と銅との原子を直接接触させ得る温度とすべきものである。一方、銅芯線1bの表面を酸化させたり、ICチップ2に損傷を与えることのない温度とすべきでもある。また前記加圧力は、同様の場合に、十分に塑性流動させ得ると共に、ICチップ2に損傷を与えることのないそれとすべきである。
【0034】
前記加熱温度は、以上のように制御すべきものであるが、前記のように、傍熱型抵抗溶接法を用いる場合は、これに供給する電流及び供給時間を制御し、これによって発生する熱量を制御し、それによって得られた接合結果からより適切な電流値及び供給時間を決定するというやり方が適当である。またこのような電流の制御は通常電圧を制御することによって行うことになる。それ故、加熱温度の制御は、多くの場合、直接的には、電極4に加える電圧及び印加時間を適切な加熱温度に対応する電圧及び印加時間に制御することで行うことになる。
【0035】
電線の元の線径φDに対する塑性変形後の厚さtの割合は、接合部の信頼性を左右する重要なパラメータであることが知られている。Au膜3a及び銅芯線1bの融点より著しく低い温度で接続が行われる本発明の接続方法では特に重要である。これは、材料の種類、組み合わせ、材料の性質に左右されるが、本件の最外層がAu膜3aである接続端子3と銅製の巻線型コイル1との組み合わせについては、図5に示すように、t/D(電線の元の線径φDに対する塑性変形後の厚さtの比率)は0.1を越え、かつ0.8以下の広い範囲で安定した接合強度が得られている。
【0036】
前記加圧力は、各々の融点以下の比較的低い温度(実験結果からは500℃以下の界面温度と推定される)での金と銅の原子の相互拡散をその界面近傍に於ける塑性流動によって助長・促進させるためには、前記のような塑性変形の範囲内になるように設定すべきものである。もっともt/Dが0.1に近づくと接続端子3を介してICチップ2にストレスがかかり、チップ不良率が若干高くなる傾向があるので、近づきすぎないようにするのが好ましい。
【0037】
従って本発明の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造、並びに、非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法によれば、巻線型コイル1とICチップ2の接続端子3とについて、前者の銅芯線1bと後者の最外層のAu膜3aとの界面付近に、その界面全体の少なくとも1/2を越えるエリアにAu/Cu全率固溶体の合金層5を形成することにより、低コストで高い接着強度の機械的接続を確保し、かつ電気的にも良好な接続を確保することができる。より具体的に述べれば、巻線型コイル1とICチップ2の接続端子3との接合部の融点が、その界面付近に形成したAu-Cu全率固溶体の合金層5により、1000℃を越え、該接合部の半田を介した接続の欠点である、低い使用可能温度域の問題や脆い化合物層形成の問題も回避されるので、その信頼性は著しく高いものとなる。
【実施例1】
【0038】
図1に示すように、巻線型コイル1として銅芯線1bに絶縁膜1aを施した銅電線で作製したそれを採用し、該巻線型コイル1の所定部位をICチップ2の接続端子3の最外層のAu膜3a上に載置した上で、その巻線型コイル1の上から電極4を当接させ、該電極4に電流を流して発熱させつつ加圧した。
【0039】
<接合対象>
巻線型コイル1の線径:φ70μm±3μm(絶縁膜1a:ポリウレタン皮膜)
ICチップ2:□1000μm、Ti-W-Au(接続端子3、Au膜3aの厚さ10μm)
<加熱・加圧手段>
電極4:W(タングステン)製、傍熱型
<溶接条件>
溶接電圧:1.8V
通電時間:0.5秒
加圧力 :80g
【0040】
以下の表1に示すように、この実施例1によって接合したICチップ2の接続端子3と巻線型コイル1との接合には、従来の半田付け、熱圧着及び超音波溶接によって接合した場合と比較して、いずれにも劣らない十分に強力な接着強度が得られ、かつ温度サイクル不良率も極めて低く、これによって本発明の有効性が理解される。
【0041】
【表1】

【0042】
以上の表1に示した半田付け、熱圧着及び超音波溶接の接合部に対する測定結果は、いずれも実施例1と同様の巻線型コイルをICチップの接続端子に、それぞれそれらの標準的な方法で接合操作を行って得た接合部に対するものである。
【0043】
<表1及び以下の表2に示した接着強度の測定方法>
感度1Nのデジタル・テンション・ゲージを用い、ICチップを固定した状態で、室温に於いて、コイルを接続端子面に垂直な方向に引っ張って、該コイルと該接続端子の接続部が剥がれるか又はコイルが切れた時のゲージの読みをその接続部の接着強度とした。
<表1及び以下の表2に示した温度サイクルの測定方法>
温度サイクル恒温槽にID識別装置を配置し、-55℃と150℃の間を往復する温度サイクルを2時間に1回の割合で100サイクル繰り返し、試験終了後にID識別装置の感度特性を測定して合否を判定した。不合格品の内、接続端子とコイルの接続部の不良であることが確認されたものを不良品とした。
【実施例2】
【0044】
巻線型コイル1として銅芯線1bに絶縁膜1aを施した銅電線で作製したそれを採用し、該巻線型コイル1の所定部位とICチップ2の接続端子3との接合を、実施例1と同様の操作で行った。
【0045】
<接合対象>
巻線型コイル1の線径:φ60μm±3μm(絶縁膜1a:ポリウレタン被膜)
ICチップ2:□900μm、Cr-Ni-Au(接続端子3、Au膜3aの厚さ15μm)
<加熱・加圧手段>
電極4:Mo(モリブデン)製、傍熱型
<溶接条件>
溶接電圧:1.1V
通電時間:0.9秒
加圧力 :70g
【0046】
以下の表2に示すように、この実施例2によって接合したICチップ2の接続端子3と巻線型コイル1との接合には、実施例1のそれと同様に、十分な接着強度が得られ、かつ温度サイクル不良率も極めて低い。これによって更に本発明の有効性が理解される。
【0047】
【表2】

【0048】
以上の表2に示した中間橋部材法による接合部は、ICチップの接続端子と巻線型コイルとを錫メッキを施した銅製のリードフレームを介して接続したものであり、ICチップの接続端子とリードフレームの一端とは導電性接着剤で接着し、リードフレームの他端と巻線型コイルとは半田付けによって接合したものである。この半田付けは標準的な操作で行ったものである。また以上の表2に示した中間橋部材法の接合部についての測定結果は、以上のようにして作製した接合部に対するものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の態様を示す断面説明図。
【図2】本発明を実施して得た接合部の平面側から見た概略斜視説明図。
【図3】図2のA-A線概略断面説明図。
【図4】図2のB-B線概略断面説明図。
【図5】接合部の接合強度及びチップ不良率とt/Dとの関係を示す表図。
【符号の説明】
【0050】
1 巻線型コイル
1a 絶縁膜
1b 銅芯線
2 ICチップ
3 接続端子
3a Au膜(金膜)
3b 中間層
3c 最下層
4 電極
5 Au/Cu全率固溶体の合金層
6 圧痕
a1 電流の流れる方向を示す矢印
a2 熱の伝達方向を示す矢印
a3 加圧方向を示す矢印
【図面】





(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線径60?70μmの銅(Cu)製の巻線型コイルとICチップの最外層が厚さ10?15μmの金(Au)膜で構成された接続端子とを、該巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱させつつ、平面視で、前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面外にはみ出ることのない範囲に形成され、塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが、0.1を越え、かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧することによって、該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の1/2以上のエリアに形成したAu/Cu全率固溶体を介して、接合した非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造。
【請求項2】
線径60?70μmの銅(Cu)製の巻線型コイルをICチップの最外層が厚さ10?15μmの金(Au)膜で構成された接続端子に、前者を後者上に載せ、かつ前者の上から該巻線型コイルの絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱しながら、平面視で、前記線径60?70μmの巻線型コイルに生じる圧痕が該接続端子の最外層の金膜上面を越えない範囲に形成され、塑性変形後の巻線型コイルの該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが、0.1を越え、かつ0.8以下となるように設定した加圧力で加圧し、該巻線型コイルと該接続端子の最外層の金膜との界面全体の少なくとも1/2を越えるエリアにAu/Cu全率固溶体を形成させることにより、直接接合して、請求項1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造を構成することとした、非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。
【請求項3】
前記加熱しながら加圧する操作を傍熱型抵抗溶接によって行うこととした請求項2の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。
【請求項4】
前記加熱しながら加圧する操作に於ける加熱温度及び加圧力を、それぞれ、前記巻線型コイルと前記ICチップの接続端子との相互の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させ得るように実験的に決定する請求項2又は3の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-04-12 
結審通知日 2012-04-17 
審決日 2012-05-11 
出願番号 特願2006-105177(P2006-105177)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (G06K)
P 1 113・ 853- ZA (G06K)
P 1 113・ 851- ZA (G06K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 西山 昇
特許庁審判官 田中 秀人
殿川 雅也
登録日 2008-03-21 
登録番号 特許第4097281号(P4097281)
発明の名称 非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続構造及びこれを構成する接続方法  
代理人 林 實  
代理人 後藤 政喜  
代理人 高田 幸彦  
代理人 高田 幸彦  
代理人 藤井 正弘  
代理人 木幡 行雄  
代理人 須藤 淳  
代理人 林 實  
代理人 武田 啓  
代理人 村瀬 謙治  
代理人 木幡 行雄  
代理人 飯田 雅昭  
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