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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12G
管理番号 1261958
審判番号 不服2009-19392  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-09 
確定日 2012-08-13 
事件の表示 特願2005-159032「酒粕発酵食品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月14日出願公開、特開2006-333721〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年5月31日の出願であって,平成21年4月8日付けの拒絶理由通知に対して,同年6月12日に意見書及び手続補正書が提出され,その後,同年7月2日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年10月9日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,平成23年9月2日付けの審尋に対し,同年11月4日に回答書が提出されたものである。
その後, 当審において,平成21年10月9日付け手続補正を,平成24年2月21日付けの補正却下の決定によって補正却下するとともに,同日付で拒絶理由通知書を通知(発送日:同年2月27日)したところ,その指定期間内である同年4月27日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?3に係る発明は,平成24年4月27日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲からみて,その請求項1?3に記載された事項により特定される発明であると認める。
そして,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次の事項により特定される発明である。
「【請求項1】
酒粕を発酵させて成るダイアセチル含有の酒粕発酵食品の製造方法であって,前記酒粕を凍結乾燥した後,粉砕し,この粉砕した酒粕と水とを重量比1:9で混合し溶解均一化して酒粕分散液を得,この酒粕分散液を低温殺菌した後,この酒粕分散液に該酒粕分散液に対する重量比で3%の下記菌株の乳酸菌を加えて30℃で24時間発酵させることを特徴とする酒粕発酵食品の製造方法。

Enterococcus faecium IFO 3535
Streptococcus faecalis ATCC 10100
Enterococcus faecalis IFO 12965
Streptococcus sp.IFO 12546
Lactobacillus plantarum IFO 15891
Lactobacillus fermentum IFO 15885
Lactobacillus rhamnosus IFO 3425
Lactobacillus hilgardii IFO 15886
から選ばれる1乃至複数の乳酸菌。」

第3 当審の拒絶理由の概要
当審の平成24年2月21日付け拒絶理由通知書における本願請求項1に係る発明に対する拒絶理由は,概略次のとおりである。
本願請求項1に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1記載の発明及び下記刊行物A?Gに記載の周知の技術的事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開昭63-59837号公報
刊行物2:特開平4-279529号公報
刊行物A:特開昭63-246659号公報
刊行物B:特開平7-72119号公報
刊行物C:特開2003-70417号公報
刊行物D:特開平5-4927号公報
刊行物E:特開2005-21050号公報
刊行物F:特開平11-221071号公報
刊行物G:特開昭63-146748号公報

第4 刊行物記載の事項
1 刊行物1に記載された事項
(刊1-1)「【特許請求の範囲】
酒粕もしくは酒粕と乳成分との混合物を主体として調整した培地に乳酸菌を接種し,発酵せしめることを特徴とするヨーグルト様発酵食品の製造方法。」

(刊1-2)「原料として用いる酒粕は,清酒もろみから清酒を分離した後の固形物をいい,アルコール分8?10%,固形分50%程度であって,市販されてもいるし,食用,漬物用,焼酎ないし食酢の原料としても通常用いられているものである。しかしながら,酒粕は固形物のうち30%が蛋白質であって一種の米蛋白濃縮物ということができるので,業界においては特にこの点を生かした工業的有効利用が要望されていたのであるが,遂に本発明によってこの点が解決されたのである。
原料としては,酒粕のみを用いてもよいし,必要に応じて,次に述べるような他の成分を添加使用することもできる。
つまり,酒粕には乳成分及び/又は乳糖を添加することができるのである。添加する獣乳としては,全乳,練乳脱脂乳,粉乳等の加工乳でもよい。
その添加量は,乳固形分として全体量の2?15%,好ましくは5?6%の範囲がよい。
乳糖の添加量は20%以下がよく,特に3?6%範囲が望ましい。
次に,必要ある場合には,酸又はアルカリを用いてpHを弱酸性に調整するのが好ましい。酸,アルカリとしては食品添加物として認められている酸味料,アルカリ剤が適宜使用され,酸としては,例えば,乳酸,クエン酸,酒石酸,グルコン酸,コハク酸,グルコノデルタラクトン,リンゴ酸,フマル酸,酢酸等が単用ないし併用される。アルカリ剤としては,例えば,リン酸二カリウム,同ナトリウム,リン酸三カリウム,同ナトリウム,炭酸カリウム,炭酸ナトリウム等が単用ないし併用される。
そして更に必要あれば,他の成分を適宜添加する。例えば,甘味料としては,砂糖,蜂蜜,液糖のほか人工甘味料を添加するが,その添加量は,一般に,砂糖として5?20程度を添加する。硬化剤としては,例えば,ゼラチン,寒天ないしファーセレラン等海藻抽出物を,ゼラチンについては0.5?5%程度,寒天については0.01?5%程度添加使用する。また,レモン,バニラ,オレンジその他の香料,着色料,安定剤を使用することも可能である。更に又必要あれば,天然果汁,果肉,フルーツベース等を添加してもよい。なお,これらの添加量は上記に限定されるものではなく,適宜必要に応じて選択できることはいうまでもない。
また,酒粕ヨーグルトと両立しうるものであれば,上記のほか,他の成分も自由に添加使用できる。
これらの成分に水を加えて混合酒粕液を調整するのであるが,酒粕は,約5?50%の範囲内で添加使用することができるが,一般に,原料として乳関連品を併用する場合には,酒粕の使用量を少なくすることができる。」(2頁左下欄16行?3頁右上欄7行)

(刊1-3)「次にこれら混合酒粕液を70?90℃で5?15分間の加熱を1回ないし数回繰返すことにより殺菌する。このようにして殺菌した混合酒粕液はすみやかに30?40℃迄冷却する。」(3頁右上欄8?11行)

(刊1-4)「そして,これにストレプトコツカス属,ラクトバチルス属,ペディオコッカス属,ロイコノストック属及びビヒドバクテリウム属に属する乳酸菌から選択される1種又は2種以上の菌株を加えて常法にしたがって発酵させる。スターターの添加量は,使用する菌株によっても相違するが,1?7%程度で充分である。
使用菌としては,乳酸菌が広く使用され,例えば次のような菌株が使用できる。
ラクトバチルス(Lactobacillus)属菌:L.アシドフィラス(L.acidophilus)IFO 3953,L.ブルガリクス(L.bulgaricus)IFO 3809,L.カゼイ(L.casei)IFO 12521,L.ラクチス(L.1actis)IFO 12522。
ストレプトコッカス(Streptococcus)属菌:S.フェカリス(S.faecalis)IFO 12580,S.サーモフィラス(S.thermophilus)IFO 3535,S.クレモリス(S.cremoris)ATCC9625,S.ラクチス(S.1actis)IFO 12546。
ペディオコッカス(Pediococcus)属菌:P.ペントサシウス(P.pentosuceus)IFO 12318。
ロイコノストック(Leuconostoc)属菌:Leu.シトロボラム(Leu.citrovorum),Leu.メゼンテロイデス(Leu.mesenteroides)IFO 3426。
ビヒドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌:B.サーモフィラム(B.thermophilum)ATCC25525,B.シュードロンガム(B.pseudolongum)ATCC25526。
これらの菌株は,いずれも容易に入手することができ,自由に使用できるものである。また,スターターとしては,これらの菌のほか,市販されているヨーグルト自体もそのまま使用することができる。」(3頁左上欄8行?同頁右下欄3行)

(刊1-5)「スターターを添加した後,常法にしたがって,発酵,冷却処理を行うと,目的とする食品が得られる。例えば,使用するスターターの種類によっても相違するが,28?45℃程度に保温して約4?20時間発酵を継続する。発酵終了後,直ちに冷蔵庫内で冷却して発酵を停止せしめれば良いのである。このようにして得られた製品は,通常どおり冷蔵保存できる。」(3頁右下欄4?11行)

(刊1-6)「実施例1
酒粕24g,乳糖6g,水65gを均一に攪拌混合した後,5%リン酸2ナトリウム液で微酸性にpH調整を行ない,水を加えて100gとした。オートクレーブで,90℃,5分間,加熱殺菌を行ない,次いでこの混合液を約40℃迄冷却し,これに,ラクトバチルス・アシドフィラス(IFO 3953)のスターター2%を添加混合して40℃で培養した。その結果,芳香性があり,さわやかな酸味をもつヨーグルト様の発酵食品が得られた。このヨーグルト様発酵食品のpH値は4.05で,滴定酸度は0.362であった。
実施例2
酒粕12g,乳糖3g,脱脂乳粉6g,水75gを均一に攪拌混合した後,5%リン酸2ナトリウム液で微酸性にpH調整を行ない,水を加えて100gとした。オートクレーブで90℃,5分間,加熱殺菌を行ない,次いで,この混合液を約40℃迄冷却し,これにラクトバチルス・アシドフィラス(IFO 3953)のスターター2%を添加混合して40℃で培養した。その結果,芳香性があり,さわやかな酸味をもつヨーグルト様の発酵食品が得られた。このヨーグルト様の発酵食品のpH値は,3.92で,滴定酸度は0.846であった。
実施例3
Lactobacillus acidophilus IFO 3953とStreptococcus thermophilus IFO 3535との等量混合物を使用したほかは,実施例2と同様の処理をくり返して,すぐれたヨーグルト様発酵食品を得た。」(4頁左上欄3行?同頁右上欄11行)

(刊1-7)「(発明の効果)
本発明によって,はじめて,酒粕を用いた従来未知の新規食品であるヨーグルト様発酵食品の製造が可能となったのである。
得られた発酵食品は,さわやかな酸味と芳香を有し,口触りはきわめて滑らかであり,常法によって製造したヨーグルトと全く遜色のないものであった。そのうえ,得られた製品は,酒粕に由来する植物性蛋白質のみからなるか,ないしは植物蛋白成分にきわめて富んでおり,従来からの動物性蛋白質のみからなるヨーグルトとは栄養面からみて全く相違しており,きわめて貴重な且つ特異な植物蛋白食品ということができる。したがって,動物蛋白の摂取過多が問題となっている現代の食生活,栄養学,食餌療法の分野において,本発明は多大な寄与をなすものである。
また,本発明は,酒粕に,きわめて有効な工業的用途を新たに開発したものであり,清酒その他のアルコール関連業界においても多大な寄与をなすものである。」(4頁右上欄12行?同頁左下欄11行)

2 刊行物2に記載された事項
(刊2-1)「【請求項1】 米蛋白の蛋白質分解酵素分解物もしくはその処理物を有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害用経口摂取物。
【請求項2】 米蛋白の蛋白質分解酵素分解物がペプチドもしくはその処理物であることを特徴とするアンジオテンシン変換酵素阻害用経口摂取物。
【請求項3】 米蛋白の蛋白質分解酵素分解物が酒粕もしくはその処理物であることを特徴とするアンジオテンシン変換酵素阻害用経口摂取物。」
(当審注:ここに記載の「アンジオテンシン」は,下記(刊2-2)(刊2-5)(刊2-6)においては,「アンギオテンシン」と記載されている。アンジオテンシンはアンギオテンシンとも表記されることは,下記公益法人日本薬学会が掲載する薬学用語解説に記載のように技術常識である。
,公益法人日本薬学会,薬学用語解説,アンジオテンシン変換酵素阻害薬の欄
「アンジオテンシン(アンギオテンシン)IからアンジオテンシンIIへの転換に関わるアンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害し,降圧効果をもたらす高血圧治療薬。」
以降,審決において,摘記箇所については,その記載のとおり「アンギオテンシン」とするものの,それ以外については,「アンジオテンシン」と表記を統一することとする。)

(刊2-2)「【0003】
【従来技術】高血圧症は現代成人病の最大疾患とも言われ,その治療あるいは予防は緊急かつ重大な課題となっている。高血圧症は,病因的に血圧上昇の原因が明かな二次性高血圧(病候性高圧症)と,本態不明の一次性高血圧(本態性高血圧症)とがあるが,前者のうち腎性高血圧症,内分泌性高血圧症とさらに後者の本態性高血圧症の原因と考えられる因子のうちでレニン・アンギオテンシン系は重要な因子であると考えられている。このレニン・アンギオテンシン系でアンギオテンシン変換酵素(EC3.4.15.1)は中心的役割をはたしている。即ち,肝臓で分泌されたアンギオテンシノーゲンは腎臓に存在するレニンによりアンギオテンシンIとなり,アンギオテンシン変換酵素により血管壁平滑筋収縮作用のあるアンギオテンシンIIが生成され血圧が上昇する。さらにアンギオテンシンIIは副腎皮質球状層のアルドステロン生成促進作用を有している為にさらに血圧は上昇する。一方降圧系では,キニノーゲンが血しょう中に存在するカリクレインにより分解され血管壁平滑筋拡張作用があるブラジキニンが生成されるが,このブラジキニンはアンギオテンシン変換酵素によリ分解され,不活性化される。従ってこのアンギオテンシン変換酵素を阻害すれば昇圧性ペプチドであるアンギオテンシンIIの生成を抑制し降圧性ペプチドであるブラジキニンの分解をも抑制して血圧の降下が可能となる。」

(刊2-3)「【0007】本発明に用いる米蛋白の蛋白分解酵素分解物は,米のまま又は米糠もしくは分離した米蛋白などの原料を蛋白分解酵素によって酵素分解することによって得ることができる。得られた蛋白分解酵素分解物は,必要によって,酸,更にアルカリ又は酵素によって処理し,また,必要ならば抽出,濃縮したのち種々の吸着剤に対する吸着親和性の差,種々の溶剤に対する溶解性の差,分子篩効果による溶出速度の差などの通常分離精製に用いられる方法や,それらを適宜組み合わせて精製することもできる。」

(刊2-4)「【0008】ここでいう米蛋白は,Osborn(文献1)により提唱されている溶媒分画法などの方法により得られるものである。また,米を原料とする醸造食品(清酒,味りん,味噌,醤油など)の製造において発生する糠や粕などの副産物をそのまま,または上記の溶媒分画法を適用したものを蛋白源として利用することもできる。また酒粕等の醸造食品の副産物の場合は醸造中に蛋白質の分解が起きていることが考えられるので新たな分解は必要無い場合もある。具体的には,加水分解の条件としては特に限定はされないが,アンギオテンシン変換酵素阻害活性を指標として決めればよい。」

(刊2-5)「【0009】この様にして得られたペプチドはアンギオテンシン変換酵素阻害能を有し,人を初めとしてほ乳動物の高血圧症の予防,治療に有効であると考えられる。
これらの目的のために,本ペプチドは非経口的又は経口的に投与すればよいが,それらの投与方法に適した形態に製剤することができる。注射剤としての形態は本ペプチドを製薬補助剤(pH調整剤,等張剤,保存剤など)と共に無菌的に溶解すればよい。経口投与剤は製薬補助剤と共に薬剤の形態(錠剤,カプセル,顆粒剤など)をとれば良い。また本ペプチドは天然型のアミノ酸のみを含むので安全性がきわめて高く継続的に経口摂取可能であることから,既存の食品に含有させて高血圧の予防,または治療の機能をもたせた機能性食品,健康食品として食しても良い。」

(刊2-6)「【0012】米蛋白の蛋白質分解酵素分解物として酒粕を用い,これを更に蛋白分解酵素で0?48時間の酵素分解を行い,それぞれの分解物のアンギオテンシン変換酵素阻害活性をみた。
【0013】即ち,液化液による清酒醸造法(文献2)により米から清酒を醸造したときの酒粕(水分36%)10gを0.2lの水に懸濁し,大和化成製蛋白分解酵素(サモアーゼ)を0.2gを加え,37℃で反応させた。その後沸騰水浴中で10分間加熱した後5000回転10分間の遠心分離により溶解物を得,凍結乾燥によりペプチド画分を得た。ペプチド画分一定量を蒸留水に溶解し,蛋白量とアンギオテンシン変換酵素阻害活性を測定した。結果は次の表1に示される。
【0014】
【表1】

【0015】結果に示すように液化液による清酒醸造法により米から清酒を醸造したときの酒粕中には非常に遊離し易い形でアンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドが存在することが判明した。つまり,清酒醸造の工程中で米蛋白が麹の蛋白分解酵素で低分子化して遊離し易い形となっていることがわかった。」

3 刊行物A?G記載の事項
刊行物A:特開昭63-246659号公報
(刊A-1)「発酵バター,発酵マーガリン,ヨーグルト,チーズ及びワイン等に特有な香気成分であるアセトイン,アセトアルデヒド,ジアセチル等は,これら発酵食品の熟成度の判定上重要であることから,その正確かつ迅速な測定が望まれる。」(1頁右下欄14?18行)

刊行物B:特開平7-72119号公報
(刊B-1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は加工飲食品に含まれるジアセチルの測定装置に関する。各種の農産,水産,畜産加工飲食品が利用されている。これらの加工飲食品には,その濃度に差はあるが,ジアセチルの含まれていることが多い。そして該ジアセチルは,これらの加工飲食品の品質,特にフレーバーに重大な影響を与える。例えば,チーズやヨーグルト等の乳発酵食品においてジアセチルは品質に良い影響を与えるフレーバー成分であるが,逆にトマトジュースやリンゴジュース等の加工飲料においてジアセチルは品質に悪い影響を与えるフレーバー成分である。したがっていずれにしても,これらの加工飲食品の製造工程においては,高品質の製品を製造するために,製品化最終段階で或はまた製品化途中で,そこに含まれるジアセチルを把握しておくことが重要である。本発明はかかる加工飲食品に含まれるジアセチルの測定装置に関するものである。」

刊行物C:特開2003-70417号公報
(刊C-1)「【0022】原料乳の発酵用いる乳酸菌は特に限定されず,例えばラクトバチルス・カゼイ,ラクトバチルス・アシドフィルス,ラクトバチルス・ガッセリ,ラクトバチルス・ゼアエ,ラクトバチルス・ジョンソニー,ラクトバチルスデルブルッキーサブスピーシーズ デルブルッキイ,ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ.ブルガリカス等のラクトバチルス属細菌,ストレプトコッカス・サーモフィルス等のストレプトコッカス属細菌,ラクトコッカス・ラクチス,ラクコッカス・プランタラム,ラクトコッカス・ラフィノラクチス等のラクトコッカス属細菌,ロイコノストック・メセンテロイデス,ロイコノストック・ラクチス等のロイコノストック属細菌,エンテロコッカス・フェーカリス,エンテロコッカス・フェシウム等のエンテロコッカス属細菌等を例示することができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができ,中でもラクトバチルス・カゼイ,ストレプトコッカス・サーモフィルスを使用することが,風味が良好であることから好ましい。」

刊行物D:特開平5-4927号公報
(刊D-1)「【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】乳酸菌飲料,乳酸菌を用いたヨーグルト等の食品,および乳酸菌を含有するビオフェルミン(登録商標)等の薬品が,安定した健康食品または医薬品として現在すでに広く一般に普及し,定着している。これら組成物の多くが,Streptococcus lactis, Streptococcus faecalis,Lactobacillus casei,Lactobacillus acidophilus, および Lactobacillus bifidus等の乳酸菌を含有しており,そのいずれの組成物も,乳酸菌がヒトの腸内菌叢に到達すれば,到達部位に一時定着する特性を利用して,整腸効果を得ることを特徴としている。」

刊行物E:特開2005-21050号公報
(刊E-1)「【0023】 上述したように本発明では,KT01菌を単菌スターターとして用いることでヨーグルト製造が可能であるが,他の乳業用スターターと併用しても目的とするヨーグルトを製造することができる。
この時,併用する乳業用スターターとしては,ヨーグルトミックス中での生育性および生酸性が緩慢な菌種を使用することが望ましく,たとえば,ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum),ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum),ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve),ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(Bifidobacterium adolescentis),ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis),ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus),ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei),ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum),ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)から選ばれる少なくとも1つの細菌が挙げられる。」

刊行物F:特開平11-221071号公報
(刊F-1)「【0007】
【発明の実施の形態】本発明の組成物は,乳酸菌と酵母との混合微生物を培養(共棲培養)して得られる培養物又はその処理物を含むものである。乳酸菌としてはラクトバチルス属,ラクトコッカス属又はストレプトコッカス属に属するもの,例えばラクトバチルス・デルブルエキイ(Lactobacillus delbrueckii),ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus),ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum),ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum),ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei),ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus),ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)及びストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)が挙げられる。酵母としては,サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)が挙げられる。」

刊行物G:特開昭63-146748号公報
(刊G-1)「発酵乳の製造方法」(1頁左下欄3行 発明の名称)

(刊G-2)「乳酸菌としては,ストレプトコッカス・ラクチス(Streptococcus lactis),ストレプトコツカス・クレモリス(Streptococcus cremoris),ロイコノストツク・クレモリス(Leuconostoc cremoris) ,ロイコノストツク・デキストラニカム(Leuconostoc dextronicum) ,ラクトバチルス・ヒルガルデイ(Lactobacillus hilgardii)なとが用いられる。」(2頁右下欄12?末行)

4 刊行物1に記載された発明
(1)酒粕を用いることについて
上記摘記(刊1-1)の特許請求の範囲に,「酒粕」もしくは「酒粕と乳成分との混合物」を「主体として調整した培地」と記載されているから,乳成分を含まず「酒粕」を「主体として調整した培地」も特許請求の範囲に記載の発明に包含されることは明白である。
これを裏付けるように「原料としては,酒粕のみを用いてもよいし,必要に応じて,次に述べるような他の成分を添加使用することもできる。」(摘記(刊1-2))との記載もある。

(2)酒粕について
上記特許請求の範囲に記載された発明の「酒粕」は,摘記(刊1-2)に「原料として用いる酒粕は,清酒もろみから清酒を分離した後の固形物をいい,アルコール分8?10%,固形分50%程度であって,市販されてもいるし,食用,漬物用,焼酎ないし食酢の原料としても通常用いられているものである。」と記載されているから,「酒粕」とは,清酒もろみから清酒を分離した後の固形物であって,アルコール分8?10%,固形分50%程度のものと理解される。

(3)混合酒粕液について
上記「第5 4(1)酒粕を用いることについて」で言及したように,「酒粕の培地」,すなわち,原料として乳成分を含まず酒粕を主体として調整した培地が,上記特許請求の範囲(摘記(刊1-1))に記載の発明に包含される。
そして,酒粕以外の成分については,「必要に応じて,次に述べるような他の成分を添加使用することもできる。」(摘記(刊1-2))とあり,また,「これらの成分に水を加えて混合酒粕液を調整するのであるが,酒粕は,約5?50%の範囲内で添加使用することができるが,一般に,原料として乳関連品を併用する場合には,酒粕の使用量を少なくすることができる。」(摘記(刊1-2))と記載されているから,酒粕を5?50%の範囲内で添加使用し,必要に応じて添加される他の成分に水を加えて調整した混合酒粕液が作られることが理解される。
上記特許請求の範囲記載の「酒粕もしくは酒粕と乳成分との混合物を主体として調整した培地」には,この酒粕を5?50%の範囲内で添加使用し,必要に応じて添加される他の成分に水を加えて調整した混合酒粕液が包含されることが理解される。

(4)殺菌について
摘記(1-3)に「次にこれら混合酒粕液を70?90℃で5?15分間の加熱を1回ないし数回繰返すことにより殺菌する。」と記載されているように,混合酒粕液は,70?90℃で5?15分間の加熱を1回ないし数回繰返すことにより殺菌されるものと理解される。

(5)小括
上記摘記(刊1-1)の特許請求の範囲に記載の発明に,上記(1)?(4)に記載の事項を加味すると,刊行物1には,次の発明(以下,「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「清酒もろみから清酒を分離した後の固形物であって,アルコール分8?10%,固形分50%程度の酒粕を主体として,当該酒粕を5?50%の範囲内で添加使用し,必要に応じて添加される他の成分に水を加えて調整した混合酒粕液を,70?90℃で5?15分間の加熱を1回ないし数回繰返すことにより殺菌し,これに乳酸菌を接種し,発酵せしめることを特徴とするヨーグルト様発酵食品の製造方法。」

第5 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。
1 発酵食品について
刊行物1発明の「ヨーグルト様発酵食品」は,酒粕液を発酵させたものであり酒粕発酵食品といえるもののダイアセチルが含まれているか不明であり,本願発明の「酒粕を発酵させて成るダイアセチル含有の酒粕発酵食品」とは,「酒粕を発酵させて成る酒粕発酵食品」という点で共通する。

2 酒粕の処理について
刊行物1発明の「酒粕」は,「清酒もろみから清酒を分離した後の固形物であって,アルコール分8?10%,固形分50%程度の酒粕」であり,清酒もろみから清酒を分離したそのままの酒粕を意味すると解される。
他方,本願発明の酒粕は,「酒粕を凍結乾燥した後,粉砕し,この粉砕した酒粕」である。
そうすると,刊行物1発明の「清酒もろみから清酒を分離した後の固形物であって,アルコール分8?10%,固形分50%程度の酒粕」と,本願発明の「前記酒粕を凍結乾燥した後,粉砕し,この粉砕した酒粕」とは,「酒粕」という点で共通する。

3 混合酒粕液について
刊行物1発明の「酒粕を5?50%の範囲内で添加使用し,他の成分に水を加えて調整した混合酒粕液」は,酒粕と水を混合する工程として,刊行物1記載の実施例1及び実施例2(摘記(刊1-6))を参酌すると,「実施例1
酒粕24g,乳糖6g,水65gを均一に攪拌混合した後・・・(略)・・・
実施例2
酒粕12g,乳糖3g,脱脂乳粉6g,水75gを均一に攪拌混合した後,・・・(略)・・・」と記載されており,均一に攪拌混合されたものであるから,刊行物1発明の「混合酒粕液」は,溶解均一化されたものといえ,本願発明の「溶解均一化して酒粕分散液」ということができる。
しかし,刊行物1発明の酒粕は,凍結乾燥した後,粉砕したものでもないし,重量比も規定されていない。
よって,刊行物1発明の「清酒もろみから清酒を分離した後の固形物であって,アルコール分8?10%,固形分50%程度の酒粕を主体として,当該酒粕を5?50%の範囲内で添加使用し,必要に応じて添加される他の成分に水を加えて調整した混合酒粕液」を得たものと,本願発明の「前記酒粕を凍結乾燥した後,粉砕し,この粉砕した酒粕と水とを重量比1:9で混合し溶解均一化して酒粕分散液を得」たものとは,「酒粕と水を混合し溶解均一化して酒粕分散液を得」たものである点で共通する。

4 酒粕と水の混合割合について
刊行物1発明の酒粕と水の混合割合は,その特定事項によれば「清酒もろみから清酒を分離した後の固形物であって,アルコール分8?10%,固形分50%程度の酒粕を主体として,当該酒粕を5?50%の範囲内で添加使用し,必要に応じて添加される他の成分に水を加えて調整した混合酒粕液」としたものである。
ここで,刊行物1発明においては「当該酒粕を5?50%」とされており,重量比であるか明記されていないが,酒粕のように粘性がある固形物は,容積で量ることは難しいから,重量比「5?50%」であると解するのが自然である。
そして,刊行物1発明は,「酒粕を5?50%の範囲内で添加使用し」たものであるが,ここでいう酒粕は,上記「第5 2酒粕の処理について」に記したように,清酒もろみから清酒を分離したそのままの酒粕であり,本願発明の「前記酒粕を凍結乾燥した後,粉砕し,この粉砕した酒粕」の重量比ではない。
また,刊行物1発明の「酒粕を5?50%の範囲内」という添加量は,必要に応じて添加される他の成分も含めた酒粕混合液全体に対する酒粕の割合であり,他の成分の重量も存在するから水の重量は不明である。
そうすると,刊行物1発明における「酒粕混合液」における酒粕と水の混合割合は,所定の割合で混合されていることは理解されるものの,本願発明の「前記酒粕を凍結乾燥した後,粉砕し,この粉砕した酒粕と水とを重量比1:9で混合し溶解均一化」した「酒粕分散液」における酒粕と水の混合割合とは,直接対比できるものではない。
よって,刊行物1発明における「酒粕混合液」における酒粕と水の混合割合と,本願発明の「前記酒粕を凍結乾燥した後,粉砕し,この粉砕した酒粕と水とを重量比1:9」とは,「酒粕と水とを所定の割合」とした点で共通する。

5 殺菌について
本願発明の「低温殺菌」について,本願明細書の段落【0047】には「 本実施例は前記酒粕分散液100gを容器に入れ,70℃で20分加熱低温殺菌し,この酒粕分散液を30℃になるまで冷却した。」と本願発明の実施例が記載されており,70℃で20分の加熱殺菌も低温殺菌に包含されることが理解される。
他方,刊行物1発明の「殺菌」は,「70?90℃で5?15分間の加熱を1回ないし数回繰返す」ものであって,低温殺菌といえるか明確でない。
よって,刊行物1発明の「70?90℃で5?15分間の加熱を1回ないし数回繰返すことにより殺菌」と,本願発明の「低温殺菌」とは,「殺菌」とう点で共通する。

6 乳酸菌及びその添加量について
刊行物1発明においては,乳酸菌の種類及び菌株については特段限定はなく,また,乳酸菌の添加量についても特段の限定はない。
そうすると,刊行物1発明の「これに乳酸菌を接種」することと,本願発明の「この酒粕分散液に該酒粕分散液に対する重量比で3%の下記菌株の乳酸菌を加え」ることとは,「この酒粕分散液に該酒粕分散液に対し,所定の重量比で乳酸菌を加え」る点で共通する。

7 発酵について
刊行物1発明の「発酵」は,刊行物1の摘記(刊1-5)に「スターターを添加した後,常法にしたがって,発酵,冷却処理を行うと,目的とする食品が得られる。例えば,使用するスターターの種類によっても相違するが,28?45℃程度に保温して約4?20時間発酵を継続する。」と記載されているから,28?45℃で,約4?20時間発酵するものである。
そうすると,刊行物1発明の「発酵」と本願発明の「30℃で24時間発酵させる」こととは,「所定の発酵条件で発酵させる」という点で共通する。

8 小括
以上のことを総合すると,両発明の間には,次の(一致点)及び(相違点1)?(相違点)がある。

(一致点)
「酒粕を発酵させて成る酒粕発酵食品の製造方法であって,前記酒粕と水とを所定の割合で混合し溶解均一化して酒粕分散液を得,この酒粕分散液を殺菌した後,この酒粕分散液に該酒粕分散液に対する所定の重量比で乳酸菌を加えて所定温度で所定時間発酵させることを特徴とする酒粕発酵食品の製造方法。」

(相違点1)酒粕発酵食品に含まれるダイアセチル及び乳酸菌について
(相違点1-1)
酒粕発酵食品が,本願発明では「ダイアセチル含有」するものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる特定事項を具備していない点。
(相違点1-2)
乳酸菌が,本願発明では「Enterococcus faecium IFO 3535,Streptococcus faecalis ATCC 10100,Enterococcus faecalis IFO 12965,Streptococcus sp.IFO 12546,Lactobacillus plantarum IFO 15891,Lactobacillus fermentum IFO 15885,Lactobacillus rhamnosus IFO 3425,Lactobacillus hilgardii IFO 15886から選ばれる1乃至複数の乳酸菌」であるのに対して,刊行物1発明は,乳酸菌の株までは特定されていない点。

(相違点2)酒粕の状態及び酒粕と水の混合割合について
(相違点2-1)
酒粕が,本願発明では「酒粕を凍結乾燥した後,粉砕し,この粉砕した酒粕」であるのに対して,刊行物1発明では,清酒もろみから清酒を分離した後の固形物であって,アルコール分8?10%,固形分50%程度の酒粕,すなわち,凍結乾燥したものではなく,粉砕もされていない点。
(相違点2-2)
酒粕と水の混合割合が,本願発明では「酒粕を凍結乾燥した後,粉砕し,この粉砕した酒粕と水とを重量比1:9」としたものであるのに対して,刊行物1発明では,上記「第5 4 酒粕と水の混合割合について」で言及したように,所定の割合で混合されているものの混合割合は不明である点。

(相違点3)殺菌について
殺菌が,本願発明では「低温殺菌」されているのに対して,刊行物1発明では低温殺菌されたものか不明な点。

(相違点4)発酵条件について
(相違点4-1)
乳酸菌の添加量が,本願発明では「該酒粕分散液に対する重量比で3%」であるのに対して,刊行物1発明では不明な点。
(相違点4-2)
所定の発酵条件が,本願発明では「30℃で24時間」であるのに対して,刊行物1発明では28?45℃で,約4?20時間である点。

第6 判断
1 相違点1について
ダイアセチルは,ジアセチルとも呼ばれる物質であって,ヨーグルトの芳香は,下記刊行物A及びBに記載のようにダイアセチル(ジアセチル)に起因することは当技術分野では周知に属する事項である。そして,下記刊行物A及びBに記載のように,ダイアセチルは,ヨーグルトの乳酸菌発酵で普通に生産されている芳香であるから,ダイアセチルを生産可能な乳酸菌は,ヨーグルト製造において本願出願前から慣用されていたものといえる。
また,Enterococcus faecium,Streptococcus faecalis ,Enterococcus faecalis,Lactobacillus plantarum,Lactobacillus fermentum,Lactobacillus rhamnosus,及びLactobacillus hilgardiiは,乳酸菌として,例えば下記刊行物C?Gに記載されているように本出願前から菌である。
ところで,刊行物1には「得られた発酵食品は,さわやかな酸味と芳香を有し,口触りはきわめて滑らかであり,常法によって製造したヨーグルトと全く遜色のないものであった。」(摘記(刊1-7))との記載がある。
そうすると,ヨーグルト様発酵食品の製造方法に係る刊行物1発明において,ヨーグルトの芳香を向上させるため,発酵に使用する乳酸菌として,本願出願前から周知の乳酸菌であるEnterococcus faecium,Streptococcus faecalis ,Enterococcus faecalis,Lactobacillus plantarum,Lactobacillus fermentum,Lactobacillus rhamnosus,及びLactobacillus hilgardiiの中から,芳香成分の一種であるダイアセチル(ジアセチル)の生成能のある菌株を選択し,「ダイアセチル含有の酒粕発酵食品」とする程度のことは,当業者にとって格別な困難なことではない。
そして,カルチャーコレクションのカタログ菌株の中から,本願発明において「Enterococcus faecium IFO 3535,Streptococcus faecalis ATCC 10100,Enterococcus faecalis IFO 12965,Streptococcus sp.IFO 12546,Lactobacillus plantarum IFO 15891,Lactobacillus fermentum IFO 15885,Lactobacillus rhamnosus IFO 3425,Lactobacillus hilgardii IFO 15886」という本願出願時に公知であった菌株を採用したことについては,本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識を参酌しても,特段の効果が奏されるともいえないから,ダイアセチルの生産能等を考慮した菌株の単なる選択にすぎない。

2 相違点2について
凍結乾燥して粉砕することにより,保存性及び液体への分散性が向上することは,インスタントコーヒー等のフリーズドライ製品において常日頃,当業者でなくとも経験するところである。
そして,酒粕を凍結乾燥して粉末化し溶解させることも下記刊行物ア?ウに記載のように本願出願前から周知の事項である。
そうすると,刊行物1発明において,保存性及び分散性を向上させるため,上記周知の酒粕を凍結乾燥し粉末化する技術的事項を採用し,相違点2-1記載の本願発明のごとく構成することに困難性はない。

また,酒粕と水の混合を,「1:9」とした点について,本願明細書には「【0044】本実施例は,凍結乾燥の後,粉砕した酒粕を水に分散して酒粕分散液とする。具体的には乾燥酒粕と水との重量比が1:9となるように混合,溶解(分散)し,均一な酒粕分散液とする。本実施例は乾燥した酒粕を用いることで,酒粕の品質を維持できると共に水分量の調整が容易で作業性が良好となった。」という記載があるだけで,特段の作用効果の記載はなく,本願出願時の技術常識を参酌しても,臨界的な技術的意義を有するものではない。

他方,刊行物1発明の「酒粕を5?50%の範囲内」という添加量は,凍結乾燥した後,粉砕し,この粉砕した酒粕の重量ではないが,摘記(刊1-2)に「原料として用いる酒粕は,清酒もろみから清酒を分離した後の固形物をいい,アルコール分8?10%,固形分50%程度」とあり,固形分が乾燥したときの重量に換算できる。酒粕を乾燥重量にすると,「5?50%の範囲内」は,「2.5?25%の範囲」に換算され得る。
そして,刊行物1発明の「酒粕を5?50%の範囲内」という添加量は,必要に応じて添加される他の成分も含めた酒粕混合液全体に対する酒粕の割合であり,他の成分の重量も存在するから水の重量は不明であるが,仮に他の成分が含まれていないとして計算すると,前記したように乾燥重量に換算た酒粕が「2.5?25%」の範囲であり,残りの「97.5?75%」が水となる。
刊行物1発明の「他の成分」は,「適宜必要に応じて選択される」ものであって,必ずしも添加されるものではなく,また,他の成分のうち「酸又はアルカリを用いてpHを弱酸性に調整」(摘記(刊1-2))する食品添加物や,「レモン,バニラ,オレンジその他の香料,着色料,安定剤」(摘記(刊1-2))といった,大量に添加されることがあり得ないものも「他の成分」に含まれる。そして,刊行物1発明の「他の成分」について,摘記(刊1-2)の「なお,これらの添加量は上記に限定されるものではなく,適宜必要に応じて選択できることはいうまでもない。」との記載事項,及び,摘記(刊1-2)の「原料としては,酒粕のみを用いてもよいし,必要に応じて,次に述べるような他の成分を添加使用することもできる。」との記載事項を踏まえると,酒粕と水の混合割合において,幅広い範囲の割合のものが,刊行物1発明に包含されるということができる。

以上のことから,刊行物1発明の「ヨーグルト様発酵食品」において,酒粕が多くしっかりとした食品を希望するか,水分が多く含水率の高い液状やゼリー状の食品を希望するかなどのことを考慮して,酒粕と水の重量比は,当業者が適宜決め得る設計的事項ということができ,上記の如く凍結乾燥し粉末化した酒粕の重量において,その重量比を1:9とする程度のことは,当業者が適宜案出し得る程度のものといえる。

しかも,設計的事項であることを裏付けるものとして,下記刊行物ウに「酒粕は当試験場で試験醸酒して得たものを-80℃で凍結保存し使用時に凍結乾燥を行い粉状に粉砕したものを使用した。発酵試験には,Lactobacillus属,Leuconostoc属,Streptococcus属,Pediococcus属を使用した。発酵試験は以下のように行った。粉砕酒粕lg当たり9gの純粋を加えミキサーでホモジナイズし70℃で20分間殺菌を行った。この液状の酒粕に,あらかじめMRS培地で定常期まで培養した上記乳酸菌を3%接種し30℃で保温した。」(当審注:以下に記すように「純粋」は「純水」の誤記と解される。)と記載されているように,「粉砕酒粕lg当たり9gの純粋」,すなわち,酒粕と水の重量比が1:9のものも本願出願前から知られている。

(小括)
以上のことを総合すると,刊行物1発明において,保存性及び液体への分散性を向上させるため,本願出願前から周知の凍結乾燥により粉末化させる技術を採用し,それに伴い,酒粕と水との混合割合を,凍結乾燥した酒粕の重量に対する水の割合とし,製造されたヨーグルト様発酵食品の望まれる水分量を考慮して,前記割合を1:9とする程度のことは,当業者が容易になし得たことといえる。

刊行物ア:特開平5-176749号公報
(刊ア-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 酒粕に対し,その重量と同量乃至三倍量の水を加え,75℃乃至99℃程度で50分乃至120分間程度加熱して酒粕を溶解し,冷却後真空凍結乾燥することを特徴とする香味良好な粉末状酒粕の製造法。」

(刊ア-2)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,湯に解かした場合は従来の酒粕特有のくせのある香りが減少し,砂糖など甘味料を添加して簡易甘酒とした場合はさっぱりとしたおいしい甘酒を作ることができる粉末状に乾燥させた香味良好な粉末状酒粕の製造法に係るものである。」

刊行物イ:特開平11-228428号公報
(刊イ-1)「【0023】
【実施例2】液化仕込粕を凍結乾燥後,コーヒーミルで粉砕して粉末とした。この粉末3gをオレンジジュース100mlに加えて,よく攪拌して,均一な懸濁液を作成した。この液を実施例1と同様の条件で飲酒試験を行った。ただし酒粕の粉末を加えないオレンジジュース100mlを摂取した場合を対照区とした。その結果を,表3に示す。」

刊行物ウ:金桶光起ら,第55回 日本生物工学会大会講演要旨集,2003年 8月25日,p. 108,2D09-4
(刊ウ-1)「乳酸菌で発酵させた酒粕の特性」(タイトル)

(刊ウ-2)「【目的】清酒醸造副産物である酒粕中には抗癌作用,血栓溶解活性化作用,血清コレステロール低下作用,アレルギー防止作用,血圧上昇抑制作用などをもつ物質があることか報告されている。我々は近年プロバイオティクスの観点から大きく注目を集めている乳酸菌を使用し嗜好性が高くなおかつ生理機能を増強させた酒粕乳酸菌発酵食品製造の検討を行い若干の知見を得たので報告する。
【方法】酒粕は当試験場で試験醸酒して得たものを-80℃で凍結保存し使用時に凍結乾燥を行い粉状に粉砕したものを使用した。発酵試験には,Lactobacillus属,Leuconostoc属,Streptococcus属,Pediococcus属を使用した。発酵試験は以下のように行った。粉砕酒粕lg当たり9gの純粋を加えミキサーでホモジナイズし70℃で20分間殺菌を行った。この液状の酒粕に,あらかじめMRS培地で定常期まで培養した上記乳酸菌を3%接種し30℃で保温した。適当な時間に試料を採り生菌数,グルコース量,各種有機酸量を測定した。発酵酒粕の嗜好テストを当試験場6名のパネルで行った。
【結果】凍結乾燥後の酒粕2gを純粋8gに溶解したときのpH及びグルコース濃度はそれぞれ4.7,1.52g/dlであった。試験した乳酸菌で発酵させた酒粕の嗜好テストを行った結果,菌株により発酵後の酒粕の風味が異なることがわかった。更に酒粕の粕臭が消え嗜好性が改善されることがわかった。現在は更に菌株の選別,発酵後の成分,生理機能,嗜好性の検討を行っている。」(本文1行?本文末行)
(当審注:「粉砕酒粕lg当たり9gの純粋を加えミキサーでホモジナイズし70℃で20分間殺菌を行った。この液状の酒粕にあらかじめMRS培地で定常期まで培養した上記乳酸菌を3%接種し30℃で保温した。適当な時間に試料を採り生菌数,グルコース量,各種有機酸量を測定した。発酵酒粕の嗜好テストを当試験場6名のパネルで行った。」との記載事項について,「純粋」と記載されている。
しかし,「純粋」では,意味が通じないし,「液状の酒粕」となることから,「純粋」は,「純水」の誤記と解される。
同様に「凍結乾燥後の酒粕2gを純粋8gに溶解したときのpH及びグルコース濃度はそれぞれ4.7,1.52g/dlであった。」との記載事項についても,「純粋」は,「純水」の誤記と解される。)

3 相違点3について
低温殺菌とは,丸善食品総合辞典,丸善株式会社,平成10年3月25日,719頁[低温殺菌]の項によれば,「低温殺菌[pasteurization] 食品中の微生物を100℃未満で殺菌すること。食品中の微生物のすべてを殺菌するのではなく殺菌する方法で,その目的は,食品の衛生的面と貯蔵性の向上にある。・・・(略)・・・通例60℃?70℃,20?30分程度で殺菌される.・・・(略)・・・」と語義が説明されている。刊行物1発明の「70?90℃で5?15分間の加熱を1回ないし数回繰返すことにより殺菌」することは,100℃未満であるから上記語義によれば,低温殺菌に含まれるものである。
仮に,刊行物1発明の「殺菌」が低温殺菌といえないとしても,殺菌手段として,低温殺菌があることは,前記丸善食品総合辞典に記載のように本願出願前より周知であり,刊行物1発明において,殺菌手段として低温殺菌を採用することに何の困難性もない。

4 相違点4について
添加する乳酸菌の添加量,発酵時間,発酵温度等の発酵条件は,発酵に使用する菌の性質や希望する発酵時間等に応じて,当業者が適宜決め得る事項であり,相違点4に記載の本願発明の特定事項のごとくすることは,当業者が容易になし得たものといえる。

5 本願発明の効果について
本願明細書には「【発明の効果】
【0017】
酒粕を発酵させた本発明の酒粕発酵食品は,食感や呈味性が良好であり,また,本発明の酒粕発酵食品を食することにより健康に良い酒粕を直接食することになる為,酒粕中の必須アミノ酸,ビタミン類,食物繊維等の豊富な栄養素及び血圧降下・コレステロール低減・免疫賦活作用等を発揮する機能性成分を容易に摂取することができ,しかも発酵によって栄養素と機能性成分とが更に増強される為,極めて優れた健康維持効果を発揮できることになる。」と記載されている。

(食感や呈味性について)
刊行物1の摘記(刊1-7)に「得られた発酵食品は,さわやかな酸味と芳香を有し,口触りはきわめて滑らか」であると記載されており,かかる効果は刊行物1から予測し得るものである。

(栄養素について)
酒粕が必須アミノ酸,ビタミン類,食物繊維等の豊富な栄養素を含むことは,例示するまでもなく,本出願前から周知であり当業者が予測し得たことといえる。

(血圧降下について)
酒粕に血圧降下作用があることは,例えば,刊行物2,上記刊行物ウの摘記(刊ウ-2),下記刊行物エの摘記(刊エ-1)及び下記刊行物オの摘記(刊オ-2)に記載されているように本出願前から周知の事項である。

刊行物エ:特開2002-223742号公報
(刊エ-1)「【0004】・・・(略)・・・酒粕には,血圧降下作用を持つオリゴペプチドや,血栓を防ぎ動脈硬化を予防するウロキナーゼが含有されていると,前記今田勝美教授が報告している。・・・(略)・・・」

(刊エ-2)「【0003】・・・(略)・・・酒粕には,ガン細胞だけを殺すリンパ球(NK細胞の活性機能を強化する物質)が含まれている。」
(当審注:酒粕にリンパ球が含まれていることはあり得ないので,「ガン細胞だけを殺すリンパ球(NK細胞)の活性機能を強化する物質が含まれている」の誤記であると解される。)

刊行物オ:今安 聰,川戸章嗣,日本醸造協会誌,第94巻,第3号,1999年,201?208頁
(刊オ-1)「私共は酒粕にコレステロールを下げる働きがあることを見つけた。すなわち,4週齢のSD系雄ラットに高コレステロール飼料を与え,蛋白質として酒粕飼料と対照はカゼインを与えて3週間飼育し,血清および肝臓中のコレステロール量,肝臓中の脂質量を調べたところ,・・・(略)・・・高蛋白酒粕を飼料としたラットのコレステロール値は有意に低下し,かつ糞中に脂質が排出されていることから,酒粕にはコレステロールを下げる働きがあることを明らかにした。(第2図)」(202頁右欄下から4行?203頁左欄16行)

(刊オ-2)「人間の血圧は,さまざまなシステムにより制御されているが,中でもレニン・アンギオテンシン系が一番重要な調整系であるといわれている。そのレニン・アンギオテンシン系の中でも重要な働きをしているのが,アンギオテンシン変換酵素という酵素である。高血圧の患者では,この活性が強くなり過ぎているため血圧が高くなる。それゆえ,これを阻害することにより高血圧の治療が可能となる。(第4図)
私共はこの酵素を阻害するペプチドが日本酒中に3種類,酒粕中に6種類,合計9種類存在することを明らかにした。これらのペプチドはアミノ酸が2個から5個つながっており,米のグルテリン中に存在するペプチドである。いずれも,高血圧ラットに与えると正常値まで下がることを実験的に証明している。」(204頁2左欄14行?末行)

(コレステロール低減について)
酒粕にコレステロール低減作用があることは,上記刊行物ウの摘記(刊ウ-2)及び上記刊行物オの摘記(刊オ-1)に記載のように周知である。

(免疫賦活作用について)
酒粕の含む免疫性を向上させる作用があることは,下記刊行物カ及び上記刊行物エの摘記(刊エ-2)に記載のように周知である。

刊行物カ:特開平5-161473号公報
(刊カ-1)「【0008】に「本発明の栄養補助食品において基質としては,植物性タンパク質と植物性脂質とを含有するものであれば何でもよく,例えば米糠,酒粕,小麦胚芽,ふすま,蕎麦玄殻,稗玄殻などの穀物類,大豆,おから,豆乳,小豆,きな粉,コーヒー粕などの豆類,長芋,自然薯,里芋などの芋類の他,紅茶粕,蜂蜜,胡麻,ピーナッツ,蓮の実,明日葉,紫蘇,わかめ,昆布などが挙げられる。特に米糠,酒粕,ふすま,コーヒー粕,小麦胚芽,胡麻,おから,大豆,小豆などは含硫アミノ酸,不飽和脂肪酸が等分に含まれており,これらの物質が免疫性を有することから好ましい。」

(小括)
よって,本願発明の効果は,刊行物1及び上記周知の技術的事項から予測されるところを超えて優れているとはいえない。

第7 結語
以上のとおり,本願発明は,刊行物1及び上記周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-25 
結審通知日 2012-05-28 
審決日 2012-06-11 
出願番号 特願2005-159032(P2005-159032)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 菅野 智子
齊藤 真由美
発明の名称 酒粕発酵食品の製造方法  
代理人 吉井 雅栄  
代理人 吉井 剛  

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