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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1262070
審判番号 不服2010-13273  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-17 
確定日 2012-08-23 
事件の表示 特願2000- 25288「難燃性ポリカーボネート樹脂組成物及びそれを用いた成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月17日出願公開、特開2000-290487〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年2月2日(優先権主張 平成11年2月3日)を出願日とする出願であって、平成21年2月19日付けで拒絶理由が通知され、同年4月21日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成22年4月22日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、同年6月17日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成24年1月30日付けで当審より審尋がなされ、同年3月21日に回答書が提出されたものである。

第2.平成22年6月17日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成22年6月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成22年6月17日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、審判請求と同時にされた補正であり、平成21年4月21日付け手続補正書により補正された明細書をさらに補正するものであって、補正前の特許請求の範囲の請求項1について、
「【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部、(B)有機スルホン酸金属塩0.01?5重量部、(C)フッ化ポリオレフィン0.01?5重量部、(D)ジエン含有多層構造重合体0.2?20重量部を含み、(B)有機スルホン酸金属塩が、パーフルオロアルカン-スルホン酸金属塩であり、リン系難燃剤の配合量が0.5重量部未満である、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。」

との記載を、

「【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部、(B)有機スルホン酸金属塩0.01?5重量部、(C)フッ化ポリオレフィン0.01?5重量部、(D)ジエン含有多層構造重合体0.2?20重量部を含み、(B)有機スルホン酸金属塩が、パーフルオロアルカン-スルホン酸金属塩であり、リン系難燃剤の配合量が0.5重量部未満であり、(D)ジエン含有多層構造重合体が、ブタジエンを含む単量体を重合して得られるゴム状重合体から主としてなる内層と、メタクリル酸エステル系単量体およびアクリル酸エステル系単量体から成る群から選ばれる少なくとも1種以上の単量体を重合して得られる重合体からなる外殻層を有する、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。」

とする、補正事項を含むものである。

2.新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
本件手続補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、本件手続補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「(D)ジエン含有多層構造重合体」を、補正前の請求項9、10の記載に基づいて「(D)ジエン含有多層構造重合体が、ブタジエンを含む単量体を重合して得られるゴム状重合体から主としてなる内層と、メタクリル酸エステル系単量体およびアクリル酸エステル系単量体から成る群から選ばれる少なくとも1種以上の単量体を重合して得られる重合体からなる外殻層を有する」に限定するものであり、本件手続補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてする補正といえる。
したがって、本件補正発明を含む本件手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
本件補正発明が、上記のとおり、平成18年法改正前特許法17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、以下に記載のとおりのものである。

「【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部、(B)有機スルホン酸金属塩0.01?5重量部、(C)フッ化ポリオレフィン0.01?5重量部、(D)ジエン含有多層構造重合体0.2?20重量部を含み、(B)有機スルホン酸金属塩が、パーフルオロアルカン-スルホン酸金属塩であり、リン系難燃剤の配合量が0.5重量部未満であり、(D)ジエン含有多層構造重合体が、ブタジエンを含む単量体を重合して得られるゴム状重合体から主としてなる内層と、メタクリル酸エステル系単量体およびアクリル酸エステル系単量体から成る群から選ばれる少なくとも1種以上の単量体を重合して得られる重合体からなる外殻層を有する、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。」

(2)引用文献1の記載事項
平成21年2月19日付け拒絶理由通知で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭61-127759号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。

1a.「【特許請求の範囲】
1.a)熱可塑性の、ハロゲンを含まない、硫黄を含まないそして燐を含まないポリカーボネート、
b)有機又は無機酸のアルカリ金属塩、
c)平均粒子径0.05?20μmのテトラフルオルエチレン重合体、
d)(1)(i)スチレン、α-メチルスチレン、核置換スチレン、メタクリル酸メチル、又はこれらの混合物50?95重量%、
及び (ii)(メト)アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、N-置換マレイミド、又はこれらの混合物50?5重量%、
の混合物5?90重量部を、
(2)ガラス温度T_(G)≦10℃のゴム95?10重量部、上に含んでなるハロゲンを含まないグラフト重合体、
からなり、但し
成分a)が86?99.85重量%の量で存在し、
成分b)が0.02?1重量%の量で存在し、
成分c)が0.05?5重量%の量で存在し、そして成分d)が0.08?8重量%の量で存在し、
なお成分a)+b)+c)+d)の合計は各場合に100重量%であり、成分a)?d)は、混合した後260?320℃の温度において溶融混練り又は溶融押出しされ、成分c)はテトラフルオルエチレン重合体c)の乳化液をグラフト重合体d)の乳化液と共に凝固させた混合物の形で使用され、成分c)と成分d)の混合比が各場合5:95及び40:60の間である、
難燃性ポリカーボネート成形組成物の製造法。
2.成分a)が93.5?99.36重量%の量で存在し、成分b)が0.04?0.5重量%の量で存在し、成分c)が0.1?1.0重量%の量で存在し、そして成分d)が0.5?5重量%の量で存在する、特許請求の範囲第1項記載の方法。
3.成分a)が2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン及び1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンから選択されるジフェノールに基づくものである特許請求の範囲第1又は2項記載の方法。
4.成分b)がパーフルオローアルカンスルホン酸ナトリウム及びカリウム、ヘキサフルオルアルミン酸カリウム及びナトリウム、ヘキサフルオルチタン酸塩、ヘキサフルオル珪酸塩、テトラフルオルホウ酸塩、ピロリン酸カリウム、メチルホスホン酸カリウム及びフェニルホスホン酸リチウムから選択される特許請求の範囲第1?3項のいづれかに記載の方法。
5.成分c)のテトラフルオルエチレン重合体が0.08?10μmの平均粒子径を有する特許請求の範囲第1?4項の何れかに記載の方法。
6.成分d)が成分(i)及び(ii)の混合物30?80重量部及びゴム70?20重量部を含んでなる特許請求の範囲第1?5項のいづれかに記載の方法。
7.グラフト重合体d)の乳化液が0.1?2μmの平均粒子径を有する特許請求の範囲第1?6項の何れかに記載の方法。
8.グラフト重合体d)の乳化液が0.2?0.6μmの平均粒子径を有する特許請求の範囲第7項の何れかに記載の方法。
9.安定剤、離型剤、染料、顔料及び充填剤を含んでなる群から選択される少くとも1つの添加剤を成分a)?d)の混合物中に更に導入する特許請求の範囲第1?8項の何れかに記載の方法。
10.特許請求の範囲第1?9項記載のいずれかの方法で製造した難燃性ポリカーボネート成形組成物。」(特許請求の範囲 請求項1?10)

1b.「更に本発明は、本発明の方法によって製造されるポリカーボネート成形組成物に関する。
本発明によって製造されるポリカーボネート成形組成物には、その製造中又はその熱可塑性成形品への更なる加工中に、ポリカーボネート化学において通常の他の添加剤例えば熱、水分及びUVに対する安定剤、離型剤、染料、顔料及び/又は充填剤を通常の量で添加してもよい。
ABS重合体を更なる熱可塑性物として含有する及び無機又は有機酸のアルカリ金属塩及びポリテトラフルオルエチレン以外にハロゲン化合物も難燃剤として含有する難燃性ポリカーボネート混合物は強国公開特許第2,918,883号に開示されている。
ハロゲン化スルホン酸塩又はニトロ基を含むスルホン酸塩の添加によって難燃性にされたポリカーボネート及びABS重合体の混合物は強国公開特許第2,903,100号に開示されている。
弗素化ポリオレフィンはドリップ(drip)禁止剤として使用することができる。更にハロゲン化有機化合物用いることも可能である。」(第3頁左上欄3行?右上欄4行)

1c.「本発明による成分a)として適当なポリカーボネートは10,000?200,000、好ましくは20,000?80,000の重量平均分子量(M_(W) 、例えば超遠心分離又は比濁分析により測定)を有する。
式(I)の適当なジフェノールの例は、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’一ジヒドロキシジフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、1,1-ビス(4-ドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン及びビス(4-ヒドロキシフェニル)メタンである。
式(I)の好適なジフェノールは2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン及び1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-シクロヘキサンである。」(第4頁左上欄10行?右上欄10行)

1d.「成分d)としてのハロゲンを含まないグラフト重合体の製造に適当なゴムは、ゴムの重量に基づいて30重量%までのアクリル又はメタクリル酸の低級アルキルエステル(例えばメタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル又はメタクリル酸エチル)を有するポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体である。他の適当なゴムの例は、ポリイソプレン或いはC_(1)?C_(9)アルキルアクリレート特にアクリル酸エチル、ブチル及びエチルヘキシルに基づくアルキルアクリレートゴムである。これらのアルキルアクリレートゴムは、適当ならばゴムの重量に基づいて30重量%までの共重合された単量体例えば酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン、メタクリル酸メチル及び/又はビニルエーテルである。これらのアルキルアクリレートゴムは少量の、好ましくはゴムの重量に基づいて5重量%までの、架橋剤として作用するエチレン性不飽和単量体を含有することもできる。この種の架橋剤の例は、ジ(メト)アクリレートアルキレンジオール、ジ(メト)アクリレートポリエステル、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、(メト)アクリル酸アリル、ブタジェン又はイソプレンである。この種のアルキルアクリレートは公知である。グラフトに対する幹としてのアクリレートゴムは、1つ又はそれ以上の共役ジエンからなる架橋したジエンゴム例えばポリブタジエン或いは共役ジエンとエチレン性不飽和単量体例えばスチレン及び/又はアクリロニトリルとの共重合体を芯(core)として含有する生成物であってもよい。他の適当なゴムの例はEPDMゴム、即ちエチレン、プロピレン及び共役ジエン単量体からなるゴムである。
グラフト重合体(d)の製造に適当なゴムは、ジエン単量体及びアルキルアクリレートのゴムである。」(第5頁右下欄末行?第6頁右上欄16行)

(3)引用文献1に記載された発明
引用文献1の請求項10に係る発明は請求項4を引用し、請求項4に係る発明は請求項3を引用し、請求項3に係る発明は請求項2を引用し、請求項2に係る発明は請求項1に係る発明を引用していることから、引用文献1の請求項10に係る発明は、
「a)熱可塑性の、ハロゲンを含まない、硫黄を含まないそして燐を含まないポリカーボネート、
b)有機酸のアルカリ金属塩、
c)平均粒子径0.05?20μmのテトラフルオルエチレン重合体、
d)(1)(i)スチレン、α-メチルスチレン、核置換スチレン、メタクリル酸メチル、又はこれらの混合物50?95重量%、
及び
(ii)(メト)アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、N-置換マレイミド、又はこれらの混合物50?5重量%、
の混合物5?90重量部を、
(2)ガラス温度T_(G)≦10℃のゴム95?10重量部、上に含んでなるハロゲンを含まないグラフト重合体、
からなり、但し
成分a)が93.5?99.36重量%の量で存在し、
成分b)が0.04?0.5重量%の量で存在し、
成分c)が0.1?1.0重量%の量で存在し、
そして成分d)が0.5?5重量%の量で存在する、
なお成分a)+b)+c)+d)の合計は各場合に100重量%である、成分a)?d)は、混合した後260?320℃の温度において溶融混練り又は溶融押出しされ、成分c)はテトラフルオルエチレン重合体c)の乳化液をグラフト重合体d)の乳化液と共に凝固させた混合物の形で使用され、成分c)と成分d)の混合比が各場合5:95及び40:60の間であり、

成分a)が2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン及び1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンから選択されるジフェノールに基づくものであり、

成分b)がパーフルオローアルカンスルホン酸ナトリウム及びカリウム、ヘキサフルオルアルミン酸カリウム及びナトリウム、ヘキサフルオルチタン酸塩、ヘキサフルオル珪酸塩、テトラフルオルホウ酸塩、ピロリン酸カリウム、メチルホスホン酸カリウム及びフェニルホスホン酸リチウムから選択される、
方法で製造した難燃性ポリカーボネート成形組成物」(以下、「引用発明」という。)である。

(4)対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比すると、
引用発明における「a)熱可塑性の、ポリカーボネート」「成分a)が2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン及び1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンから選択されるジフェノールに基づく」は、本件補正発明における「(A)芳香族ポリカーボネート樹脂」に相当し、

引用発明におけるb)としての「酸の」「アルカリ金属塩」は、本件補正発明における「(B)酸金属塩」に相当し、

引用発明における「c)テトラフルオルエチレン重合体」は、本件補正発明における「(C)フッ化ポリオレフィン」に相当し、

摘記1d.の、「グラフトに対する幹としてのアクリレートゴムは、1つ又はそれ以上の共役ジエンからなる架橋したジエンゴム例えばポリブタジエン或いは共役ジエンとエチレン性不飽和単量体例えばスチレン及び/又はアクリロニトリルとの共重合体を芯(core)として含有する生成物であってもよい。他の適当なゴムの例はEPDMゴム、即ちエチレン、プロピレン及び共役ジエン単量体からなるゴムである。」との記載から、引用発明における「ゴム」はブタジエンを含むゴム状重合体である。そして、引用発明における
「d)(1)(i)スチレン、α-メチルスチレン、核置換スチレン、メタクリル酸メチル、又はこれらの混合物50?95重量%、
及び
(ii)(メト)アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、N-置換マレイミド、又はこれらの混合物50?5重量%、
の混合物5?90重量部を、
(2)ガラス温度T_(G)≦10℃のゴム95?10重量部、上に含んでなるハロゲンを含まないグラフト重合体」との記載から、内層となるゴム上に(i)(ii)混合物がグラフト重合したグラフト重合層(外層)を有するグラフト重合体が得られていることから、引用発明における「ゴム」上記「グラフト重合層」「グラフト重合体」は、それぞれ本件補正発明における「ブタジエンを含む単量体を重合して得られるゴム状重合体から主としてなる内層」「メタクリル酸エステル系単量体およびアクリル酸エステル系単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の単量体を重合して得られる重合体からなる外殻層」「ジエン含有多層構造重合体」に相当する。

引用発明における「ハロゲンを含まない、硫黄を含まないそして燐を含まない」は、本件補正発明における「配合量が0.5重量部未満」を満足する条件であることから、本件補正発明における「リン系難燃剤の配合量が0.5重量部未満」に相当し、

引用発明における「
成分a)が93.5?99.36重量%の量で存在し、
成分b)が0.04?0.5重量%の量で存在し、
成分c)が0.1?1.0重量%の量で存在し、
そして成分d)が0.5?5重量%の量で存在する、
なお成分a)+b)+c)+d)の合計は各場合に100重量%である」は、
引用発明の配合割合について、各成分の合計が100重量%となるように、成分a)の割合が最小である93.5重量%とした場合、各成分は、成分b)0.5重量%、成分c)1.0重量%、成分d)5.0重量%となり、同様に、成分a)の割合が最大である99.36重量%とした場合、各成分は、成分b)0.04重量%、成分c)0.1重量%、成分d)0.5重量%となることから、
これらに関して成分a)を100重量部に変換すると、
成分a)が100重量部に対し、成分b)が0.04?0.53重量部、成分c)が0.10?1.07重量部、成分d)が0.50?5.35重量部となり、これは本件補正発明における「(A)100重量部、(B)0.01?5重量部、(C)0.01?5重量部、(D)0.2?20重量部」を満足する条件であることから、本件補正発明における「(A)100重量部、(B)0.01?5重量部、(C)0.01?5重量部、(D)0.2?20重量部」に相当し、

引用発明における「難燃性ポリカーボネート成形組成物」は、本件補正発明における「難燃性ポリカーボネート」「組成物」に相当する。

以上をまとまると、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部、(B)酸金属塩0.01?5重量部、(C)フッ化ポリオレフィン0.01?5重量部、(D)多層構造重合体0.2?20重量部を含み、リン系難燃剤の配合量が0.5重量部未満であり、(D)多層構造重合体が、ゴム状重合体から主としてなる内層と、外殻層を有する、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。」


[相違点1]
本件補正発明は「酸金属塩」が、「パーフルオロアルカン-スルホン酸金属塩」であるのに対して、引用発明は、「パーフルオローアルカンスルホン酸ナトリウム及びカリウム、ヘキサフルオルアルミン酸カリウム及びナトリウム、ヘキサフルオルチタン酸塩、ヘキサフルオル珪酸塩、テトラフルオルホウ酸塩、ピロリン酸カリウム、メチルホスホン酸カリウム及びフェニルホスホン酸リチウムから選択される」、「有機酸金属塩」であってパーフルオロアルカン-スルホン酸金属塩と特定されていない点、

[相違点2]
本件補正発明は多層構造重合体に関し「ジエン含有」と規定しているのに対して、引用発明は、ジエン成分を含有するものに限定されていない点、

[相違点3]
本件補正発明は、多層構造重合体の内層に関し「ブタジエン」を含む単量体を重合して得られるゴム状重合体から主としてなるものに限定されるのに対して、引用発明はそのような限定を有していない点、

[相違点4]
本件補正発明は、多層構造重合体の外殻層に関し「メタクリル酸エステル系単量体およびアクリル酸エステル系単量体から成る群から選ばれる少なくとも1種以上の単量体を重合して得られる重合体からなる」ものに限定されているのに対して、引用発明は「d)(1)(i)スチレン、α-メチルスチレン、核置換スチレン、メタクリル酸メチル、又はこれらの混合物50?95重量%、及び(ii)(メト)アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、N-置換マレイミド、又はこれらの混合物50?5重量%、の混合物5?90重量部」を用いる規定はあるが、単量体成分を「メタクリル酸エステル系単量体およびアクリル酸エステル系単量体」と規定していない点、


上記相違点について検討する。

○相違点1について
引用文献1には、成分b)がパーフルオローアルカンスルホン酸ナトリウム及びカリウム、ヘキサフルオルアルミン酸カリウム及びナトリウム、ヘキサフルオルチタン酸塩、ヘキサフルオル珪酸塩、テトラフルオルホウ酸塩、ピロリン酸カリウム、メチルホスホン酸カリウム及びフェニルホスホン酸リチウムから選択される旨の記載があり、「酸金属塩」として「有機スルホン酸金属塩」「有機スルホン酸金属塩がパーフルオローアルカンスルホン酸ナトリウム及びカリウム」とする態様を含むものであり、パーフルオローアルカンスルホン酸ナトリウム及びカリウムを取り得ることから、この点は実質的な相違点ではない。

○相違点2、3について
引用文献1には、成分d)のゴム成分に関して、ポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、架橋したジエンゴム、EPDMゴムなどのブタジエンを必須成分とするゴムが例示され、これを内層に用いることも記載されている(上記摘記1d.参照)ことから、多層構造重合体としてジエン含有の態様を含み、また、該ゴム状重合体を内層とするといえ、これらの点に限定したことによる格別の効果も認められないことから、これらの点は実質的な相違点ではない。

○相違点4について
成分d)における外殻層となるグラフト重合成分は、(1)(i)スチレン、α-メチルスチレン、核置換スチレン、メタクリル酸メチル、又はこれらの混合物50?95重量%、及び(ii)(メト)アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、N-置換マレイミド、又はこれらの混合物50?5重量%、の混合物、との記載があり、引用発明において外殻成分として「メタクリル酸メチル」を取り得る。そして、「メタクリル酸メチル」は、「メタクリル酸エステル系単量体およびアクリル酸エステル系単量体から成る群から選ばれる少なくとも1種以上の単量体」であるから、本件補正発明におけるこの点における条件を満足することから、この点は実質的な相違点ではない。

よって、上記相違点1?4は全て実質的な相違点ではないことから、本件補正発明と引用発明との間に相違点はない。


(5)請求人の主張について
請求人は審判請求書において、補正後の(D)ジエン含有多層構造重合体は、引用文献1におけるABS重合体等とは異なる旨の主張をしているが、引用文献1におけるグラフト重合体は、ABS重合体に限定されるものではなく、ゴムにグラフト共重合する単量体としてメタクリル酸メチルも包含されており、この点において両発明に差異はなく、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。

(6)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。よって、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?17に係る発明は、平成21年4月21日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部、(B)有機スルホン酸金属塩0.01?5重量部、(C)フッ化ポリオレフィン0.01?5重量部、(D)ジエン含有多層構造重合体0.2?20重量部を含み、(B)有機スルホン酸金属塩が、パーフルオロアルカン-スルホン酸金属塩であり、リン系難燃剤の配合量が0.5重量部未満である、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の理由の概要は、「本願は、平成21年2月19日付け拒絶理由通知に記載した理由1、2によって、拒絶すべきものである。」であり、同拒絶理由通知における拒絶の理由1の概要は次のとおりである。

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・理由1、2
・請求項1-18
・引用文献等1
・備考
引用文献1には、本願請求項1-18に係る「難燃性ポリカーボネート樹脂組成物」、「難燃性ポリカーボネート樹脂組成物から成る成形品」について、実質的に開示されている。
上記引用文献1には、リン系難燃剤を配合することが記載されておらず、上記引用文献1における樹脂組成物は、リン系難燃剤を実質的に含まないものである。


引用文献1:特許請求の範囲、4頁左上欄10?14行、5頁左下欄6行?最終行、6頁右上欄14行?左下欄7行、実施例等


引 用 文 献 等 一 覧
1.特開昭61-127759号公報
2.(略) 」


3.当審の判断
(1)引用文献1について
原査定の拒絶の理由で引用した引用文献1に記載された発明は前記第2.3.(3)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記第2.3.で検討した本件補正発明において「(D)ジエン含有多層構造重合体」を限定する事項である「(D)ジエン含有多層構造重合体が、ブタジエンを含む単量体を重合して得られるゴム状重合体から主としてなる内層と、メタクリル酸エステル系単量体およびアクリル酸エステル系単量体から成る群から選ばれる少なくとも1種以上の単量体を重合して得られる重合体からなる外殻層を有する」を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含みさらに限定した本件補正発明が引用発明と同一なので、引用発明が本願発明の発明特定事項を全て含むことは明らかであるから、本願発明は引用発明と同一であり特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第4.まとめ
以上のとおり、原査定の拒絶の理由とされた理由1は妥当なものであるから、他の請求項、他の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-04 
結審通知日 2012-06-05 
審決日 2012-07-05 
出願番号 特願2000-25288(P2000-25288)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 芦原 ゆりか  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 大島 祥吾
加賀 直人
発明の名称 難燃性ポリカーボネート樹脂組成物及びそれを用いた成形品  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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