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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1262257
審判番号 不服2009-14052  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-06 
確定日 2012-08-22 
事件の表示 特願2003-574684「抗体分子を用いての腫瘍脈管系の選択的標的化」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月18日国際公開、WO03/76469、平成17年11月17日国内公表、特表2005-534283〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,平成15年3月11日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年3月11日 米国)とする出願であって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」)は,平成21年2月18日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「【請求項1】フィブロネクチンのヒトED-Bと結合し、そして抗体VHドメイン及び抗体VLドメインを含んで成る抗原-結合部位を含んで成る特異的結合メンバーであって、前記抗体VHドメインが、下記配列HのL19 VHドメイン、並びにVH CDR1, VH CDR2及びVH CDR3を含んで成るVHドメインから成る群から選択され、前記VH CDR3が配列番号3のL19 VH CDR3であり、前記VH CDR1が配列番号1のL19 VH CDR1であり、そして前記VH CDR2が配列番号2のV19 VH CDR2であり;そして前記抗体VLドメインが、下記配列LのL19 VLドメイン、並びにVL CDR1,VL CDR2及びVL CDR3を含んで成るVLドメインから成る群から選択され、前記VL CDR3が配列番号6のL19 VL CDR3であり、前記VL CDR1が配列番号4のL19 VL CDR1であり、そして前記VL CDR2が配列番号5のV19 VL CDR2であり;前記特異的結合メンバーがミニ-免疫グロブリンを含んでなり、このミニ-免疫グロブリンが、ε_(S2)-CH4に融合され二量体化された前記抗体VHドメイン及び抗体VLドメインを含んで成ることを特徴とする特異的結合メンバー:
配列H(省略)
配列L(省略)」

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるJ. Biol. Chem.,1998年 8月21日,Vol.273, No.34,pp.21769-21776,(以下,「引用例3」という。)には,
(i)「・・・我々は,血管新生のマーカーであるフィブロネクチンED-Bに特異的な結合体を単離した。(中略)表面プラズモン共鳴検出によるリアルタイム相互作用解析、バンドシフト解析や電気化学蛍光検出による競合実験等で決定されるように,結果として得られた抗体L19はフィブロネクチンのED-Bドメインに,非常に高い特異的結合性(K_(d)=54_(PM))で結合した。」(第1頁要旨下から第16行?最終行),
(ii)「抗ED-B抗体の特異的結合性の成熟化-ScFv(E1)が抗原結合部位の周辺に位置するCDR残基の限定された数の変異による特異的結合性の改善の可能性を試すために用いられた。(中略)400のクローンを含むライブラリーがクローンに提示され,抗原との結合性で選抜された。BIAcoreによるリアルタイム相互作用解析を用いた解離プロファイルの解析及び電気化学蛍光検出による競合実験によるKoff測定(図4:実験手法参照)で,フィブロネクチンのED-BドメインにK_(d)=54_(PM)で結合するクローン(L19)が同定された(表2及び3)。」(第21773頁左欄下から第31行?最終行),
(iii)「血管新生のマーカーは癌や血管増殖に関連する疾病の免疫治療のためにますます注目を集めている(51)。それらは,悪性の固形腫瘍の大部分において発現し,静脈投与された特異的な結合体が容易に接近可能であろう(51,52)。血管新生の閉塞は腫瘍梗塞や虚脱につながるかも知れない(53,54),そして,抗体の特異的結合性は腫瘍標的化の効率を決定する役割を担うようである(30)。ゲルスポットから溶出したタンパク質に対する抗体であるscFv(L19)の腫瘍標的化の性質を評価することを目的とした実験が進行中である。」(第21775頁左欄第22行?第32行),
と記載されており,
(iv)表2には抗体クローンとしてL19が含まれており,「報告されたクローンの配列はEBIデータベースに寄託されている。」(第21772頁表2説明文),と記載されている。
また,原査定の拒絶の理由で引用文献6として引用された本願優先日前に頒布された刊行物である,Protein Eng.,2002年 1月,Vol.15, No.1,pp.51-57(以下,「引用例6」という。)には,
「最近の進展として,分泌性IgEアイソフォームIgES1及びIgES2のε-CH4ドメイン(IgEにおけるγ-CH3の相同ドメイン)(Batista et al., 1996a)はε-SIP改良体を生成するのに用いられた(J.Sepulveda and O.Burrone, 未発行データ)。腫瘍特異的なscFvへのε-CH4 S2の融合は,scFvと比較して,腫瘍局在化を強化し血清クリアランスを低下させた(L.Borsi et al.,発行準備中)。」(第51頁右欄第10行?第17行),
と記載されている。

3.対比
本願発明1は,抗体VHドメインに関し,「下記配列HのL19 VHドメイン,並びにVH CDR1, VH CDR2及びVH CDR3を含んで成るVHドメインから成る群から選択され」,抗体VLドメインに関し,「下記配列LのL19 VLドメイン,並びにVL CDR1,VL CDR2及びVL CDR3を含んで成るVLドメインから成る群から選択され」,と選択肢によって択一的に記載されているところ,抗体VHドメインが配列HのL19 VHドメイン,抗体VLドメインが配列LのL19 VLドメインであるものについて検討する。
本願発明1と引用例3に記載されたL19(記載事項(i)(iv))とを比較する。引用例3記載事項(i)(iv)によるフィブロネクチンのED-Bドメインに結合するL19は引用例3記載事項(ii)の製法からscFvであるから,引用例3のL19は,フィブロネクチンのED-Bドメインと結合し,抗体VHドメイン及び抗体VLドメインを含んで成る抗原結合部位を含んで成り,前記抗体VHドメインがL19 VHドメイン、そして前記抗体VLドメインがL19 VLドメインである,特異的結合メンバー,に相当する。また,血管新生のマーカーであるフィブロネクチンED-Bに特異的な結合する(引用例3記載事項(i))と記載されているから,ヒトED-Bであると考えるのが自然である。そうすると,本願発明1と引用例3に記載されたL19とは,フィブロネクチンのヒトED-Bと結合し、そして抗体VHドメイン及び抗体VLドメインを含んで成る抗原-結合部位を含んで成る特異的結合メンバーであって、前記抗体VHドメインがL19 VHドメイン,そして前記抗体VLドメインがL19 VLドメインである特異的結合メンバー,である点で一致する。
その一方,両者は,1)前者ではL19VHドメイン及びL19VLドメインの配列がそれぞれ配列H,Lと特定されているのに対し,後者ではそのような配列が特定されていない点,及び,2)特異的結合メンバーの態様として,前者が抗体VHドメイン及び抗体VLドメインがε_(S2)-CH4に融合し二量体化しているミニ免疫グロブリンであるのに対し,後者がscFv,すなわち,抗体VHドメイン及び抗体VLドメインが結合したものである点,で相違する。

4.判断
相違点1)について検討する。請求人が平成21年2月18日付意見書において「(2)L19 VHドメイン及びL19 VLドメインの配列をそれぞれ特定のアミノ酸配列(一文字表記)により特定しましたが、これは、補正前請求項1及び明細書の段落〔0010〕に引用されている、「Piniなど、(1998)J. Biol. Chem., 273:21769-21776」の記載から特定できます。この補正が明細書の段落〔0010〕の記載のより支持されていることは、この意見書に添付する参考資料1「Alessandro Pini博士のデクラレーションの写し」のパラグラフ4?13に詳細に記載されています。」(第1頁下から第20行?下から第15行)と配列L及び配列Hによって特定する補正の根拠について述べ,当該デクラレ-ションのパラグラフ4?13において引用例3記載事項(iv)でL19の配列が寄託されているとされているEBIデータベースからL19の配列を取得できることが補正の根拠とされているように,当業者であれば引用例3記載事項(iv)に基づいてデータベースを参照しL19の配列からL19VHドメイン及びL19VLドメインの配列を認識できることから,また,発明者と著者に一部重複(カルネモッラ・バルバラ及びサルディ・ルチアーノ)のある本願発明1と引用例3においてL19との同様の名称が用いられていることから両L19は同じscFvであって,その配列も当然同じであると認められることから,L19VHドメイン及びL19VLドメインの配列がそれぞれ配列H,Lと特定されているか否かは実質的な相違点ではない。
相違点2)について検討する。引用例3記載事項(i)(iii)には,癌や血管増殖に関連する疾病の免疫治療のためにますます注目を集めている血管新生のマーカーであるフィブロネクチンED-Bに特異的な結合体scFv(L19)を腫瘍標的化に用いることが記載されている。また,引用例6記載事項には,腫瘍特異的なscFvへのε-CH4_( S2),すなわちε_(S2)-CH4の融合がscFvと比較して腫瘍局在化を強化し血清クリアランスを低下させることが記載されている。そうすると,引用例6には,引用例3に記載の「腫瘍標的化」,すなわち,「腫瘍局在化」を強化させる手段が記載されていることから,引用例3に記載のscFv(L19)を用いた腫瘍局在化に関して,腫瘍局在化の強化を目的に引用例6に記載のscFvへのε_(S2)-CH4の融合を適用することは当業者にとって自然な発想である。また,ε-CH4_( S2)はそもそもそのシステイン部位によってε-CH4_( S2)同士で二量体化する(例えば,Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 93,p.3394-3404,1996を参照)ものであるから,引用例3記載のscFv(L19)に引用例6記載のε_(S2)-CH4の融合を適用すれば自然に二量体化したミニ免疫グロブリンを形成するものであると認められ,本願発明1においても二量体化のためにscFv(L19)とε_(S2)-CH4の融合に加えて何らかの工夫をしているわけでもない。
よって,引用例3に記載のscFv(L19)を用いた腫瘍局在化に関して,腫瘍局在化の強化を目的に引用例6に記載のscFvへのε_(S2)-CH4の融合を適用し,抗体VHドメイン及び抗体VLドメインがε_(S2)-CH4に融合し二量体化しているミニ免疫グロブリンとすることは当業者が容易に想到し得ることである。
そして,引用例6記載事項では腫瘍局在化を強化し血清クリアランスを低下させたことが記載されているから,本願発明1が引用例3及び6から予測される以上の格別顕著な効果を奏するともいえない。
したがって,本願発明1は,引用例3及び引用例6から当業者が容易になし得たものである。

5.請求人の主張
(1)引用文献の記載
請求人は,平成21年9月24日付手続補正書において,「原審査官殿は、引用文献6の特に第51頁右欄第10?17行目の記載を引用しておられます。この引用された部分には、腫瘍標的のためにSIP形態の抗体を使用する旨の未発表の研究に言及する極めて一般的な記載が含まれているに過ぎません。引用文献6にはこの未発表研究の詳細については記載されていません。」(第3頁第4行?第7行)ということから本願発明1が進歩性を有する旨主張している。
しかし,上記4.のとおり,一般的な記載であるか否かはともかく,引用例6には,引用例3及び引用例6を結びつける動機付けを当業者に与え,本願発明1に容易に想到するには十分な程度の記載がある。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
(2)腫瘍抗原の選択
請求人は,同手続補正書において,「特に、引用文献6の拒絶査定において引用された記載には、腫瘍特異的scFvにより結合される腫瘍抗原は特定されておらず、任意の腫瘍抗原が想定可能です。引用文献6には、ヒトED-B(例えば、L19)に特異的に結合する抗体分子をSIP型として得ることが特に有利であることを当業者に教示するものは何も存在しません。このような抗体分子が特に有利な性質を有することは、本願において初めて示されました。」(第3頁第10行?第14行)ということから本願発明1が進歩性を有する旨主張している。
しかし,上記4.のとおり,引用例3にはL19が記載されており,引用例3に記載のL19に引用例6記載のscFvとε_(S2)-CH4の融合を適用する腫瘍局在化の強化という動機付けが存在するから引用例6には引用例6において腫瘍抗原が特定されていないことが本願発明1の進歩性を認める根拠とはならない。そして,引用例6には腫瘍局在化を強化し血清クリアランスを低下させたことが記載されているから,本願発明1が引用例3及び6から予測される以上の格別顕著な効果を奏するともいえない。
よって,請求人の上記主張は採用できない。
(3)正確なSIP型
請求人は同手続補正書において,「引用文献6には、Borsiらの未発表論文において使用された正確なSIP型は記載されていません。特に、本願発明の構成要件である、腫瘍特異的抗体分子のVHドメイン及びVLドメインをεs2-CH4に融合させて2量体化することは記載されていません。」(第3頁第15行?第17行)ということから本願発明1が進歩性を有する旨主張している。
しかし,引用例6には腫瘍特異的なscFvをε_(S2)-CH4に融合させることが記載されており,scFvがVHドメイン及びVLドメインであることは本願優先日前に技術常識である。また,二量体化については上記4.に記載のとおり,引用例6記載のε_(S2)-CH4の融合を引用例3のscFv(L19)に適用すれば自然に二量体化したミニ免疫グロブリンを形成するものであると考えられ,本願発明1においても二量体化のためにscFv(L19)とε_(S2)-CH4の融合に加えて何らかの工夫をしているわけでもない。
よって,請求人の上記主張は採用できない。
(4)引用文献6の主題
請求人は同手続補正書において,「引用文献6はそれ自体、ミニ-免疫グロブリンに関するものではなく、受容体-免疫グロブリンのキメラに関するものですので、この引用文献中の審査官殿により引用された第51頁の記載は、この引用文献中で意味のあるものではありません。実際に、引用文献6では、アレルギー研究と抗体結合の阻害(これは、腫瘍の標的化とは全くことなるアプローチです)に焦点が当てられていますので、腫瘍の標的化のために使用する抗体分子型を評価する際に、当業者が引用文献6から教示を得る理由は存在しません。」(第3頁第16行?第21行)ということから本願発明1が進歩性を有する旨主張している。
しかし,上記4.及び5.(1)のとおり,上記2.の引用例6記載事項が引用例6に引用例3及び引用例6を結びつける動機付けを当業者に与え,本願発明1に容易に想到するには十分な程度の記載である以上,引用例6全体が上記2.の引用例6記載事項と異なることに焦点を当てたものだとしても,そのことが特定の記載事項による当業者に対する動機付けを妨げる要因とはならない。
よって,請求人の上記主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明については言及するまでもなく,本願発明は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-14 
結審通知日 2012-03-27 
審決日 2012-04-10 
出願番号 特願2003-574684(P2003-574684)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 鵜飼 健
伏見 邦彦
発明の名称 抗体分子を用いての腫瘍脈管系の選択的標的化  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 中島 勝  
代理人 福本 積  
代理人 石田 敬  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 中村 和広  

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