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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03G
管理番号 1262431
審判番号 不服2010-22482  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-06 
確定日 2012-08-30 
事件の表示 特願2004-279841「制御電圧生成回路、可変利得回路及び電流増幅回路」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月12日出願公開、特開2005-124181〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年9月27日(優先権主張 平成15年9月26日)の特許出願であって、平成21年10月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月25日付けで手続補正書が提出され、平成22年6月30日付けで拒絶査定され、これに対して同年10月6日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成22年10月6日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下「本願発明」という)。

「【請求項1】
定電流回路及び可変電流回路を有し、差動回路の第1の差動電流と第2の差動電流の電流比を、該定電流回路及び可変電流回路にそれぞれ流れる電流の差分に基づいて可変に設定する電流比設定手段と、
前記電流比に応じた制御電圧を出力する手段と、を備え、
前記定電流回路と可変電流回路とは同じ温度特性を有する
ことを特徴とする制御電圧生成回路。」


3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-244250号公報(以下、「引用例」という)には、下記の事項が記載されている。

(ア)「【0057】図13において、第1のトランジスタQ20のベース端子は電圧源VBEおよび抵抗Rの一端に接続され、抵抗Rの他端と第2のトランジスタQ21のベース端子は図10における乗算器13の出力端子に接続され、利得制御電流ICNT(=kVx)が供給される。
【0058】トランジスタQ21のエミッタ端子は接地され、コレクタ端子はトランジスタQ22,Q23および抵抗R10,R11からなるカレントミラー回路の電流入力端子(トランジスタQ22のベース端子およびコレクタ端子)に接続される。このカレントミラー回路の電流出力端子(トランジスタQ23のコレクタ端子)は、トランジスタQ10のコレクタ端子に接続されている。
【0059】利得制御電流ICNTは、制御信号変換回路14によって第2の利得制御電圧Vyに変換され、差動増幅器の差動トランジスタ対を構成するトランジスタQ1,Q2のベース端子間に入力される。これによりトランジスタQ1,Q2の共通エミッタ端子から入力される電流信号Isigが減衰され、トランジスタQ1のコレクタ端子から電流Iaとして取り出される。
【0060】この動作を説明すると、図13における利得制御電流ICNTとして、いま第1の利得制御電圧信号Vxを電圧-電流変換した電流kVxが流れるとすれば、トランジスタQ20のベース・エミッタ間電圧はVBEであるのに対し、トランジスタQ21のベース・エミッタ間電圧はVBE-RkVxとなる。従って、トランジスタQ20のコレクタ電流IoはIs・exp(VBE/VT)、トランジスタQ21のコレクタ電流I1はIs・exp((VBE-RkVx)/VT)=Io・exp(-RkVx/VT)となる。
【0061】トランジスタQ21のコレクタ電流I1は、トランジスタQ22,Q23とR10,R11からなるカレントミラー回路を介してトランジスタQ10のベースおよびコレクタ端子に流れる。トランジスタQ11のベース端子は電圧源VBBに接続されており、トランジスタQ11のコレクタ端子には、近似的にトランジスタQ20のコレクタ電流IoとQ10のコレクタ電流I1の差電流Io-I1が流れる。従って、第2の利得制御電圧Vyは以下の式で表される。
【0062】
Vy=VBEQ11-VBEQ10
=VT・ln((Io-I1)/Is)-VT・ln(I1/Is)
=VT・ln((Io/I1)-1)
=VT・ln(exp(RkVx/VT)-1) (19)
一方、利得制御増幅器15の利得、つまりIsigからIaの伝達関数は、次式で近似される。
Ia/Isig=1/(1+exp(Vy/VT)) (20)
式(19)と式(20)から、Ia/Isigは次式となる。
Ia/Isig=1/(1+exp(VT/VT・ln
(exp(RkVx/VT)-1))
=1/(1+exp(RkVx/VT)-1)
=1/exp(RkVx/VT)
=exp(-RkVx/VT) (21)
式(21)と式(20)を比較して分かるように、制御信号変換回路14を用いることで、広範囲に変化する第1の利得制御電圧Vxに対して利得が指数関数的に変化する。
【0063】図14に、利得制御電流ICNTが温度依存性を持たない場合の第1の利得制御電圧Vx(V)に対する利得制御増幅器15のdB表示の利得の変化を示す。図14および式(21)から分かるように、温度により利得制御信号に対するdB表示の利得の傾きが変化する。利得の変化は温度が高くなれば変化が小さくなり、温度が低くなれば変化が大きくなる。これは温度VTの温度特性により生じるものであり、この温度特性を小さくできるような可変利得増幅器が望まれる。
【0064】本実施形態によると、温度依存性を持つ利得制御電流ICNT(T)を制御信号変換回路14に入力することによって、利得の温度特性を小さくした可変利得増幅器を実現できる。以下、この理由について説明する。
【0065】今、利得制御電流をICNT(T)=k・Vxとおくと、本実施形態ではkは温度依存性をもち、次式で与えられる。
k=a・ln(N)/Vxmax[VT(T)/R112] (22)
この式(22)を式(21)に代入すると、次式に示すように温度依存性のない可変利得特性、つまり温度によって利得が変化しない特性が得られる。
【0066】
Ia/Isig=exp(-RkVx/VT)
=exp(-R・a・ln(N)/Vxmax
[VT(T)/R112]Vx/VT(T))
=exp(-a・ln(N)(R/R112)
・(Vx/Vxmax)) (23)
ここで、式(23)においては温度依存性を示す要素として、抵抗値(R,R112)が含まれているが、抵抗値の割算となっているため、抵抗の温度特性は相殺される。
【0067】このように本実施形態の可変利得増幅器によれば、第1の利得制御電圧Vxに対して利得を指数関数的に変化させることができ、加えて温度による利得変化を小さくすることができる。」

(イ)上記(ア)の段落【0060】には、トランジスタQ20のコレクタ電流Ioについて、
Io=Is・exp(VBE/VT)
と記載されているので、トランジスタQ20には、電圧源VBEで設定される定電流がコレクタ電流Ioとして流れるものであるから、トランジスタQ20及び電圧源VBEからなる回路は定電流回路として機能していることは明らかである。

(ウ)上記(ア)の段落【0060】には、トランジスタQ21のコレクタ電流I1が、第1の利得制御電圧信号Vxを電圧-電流変換した電流kVxによって電流値が制御され、そのコレクタ電流I1は、
I1=Is・exp((VBE-RkVx)/VT)
となることが記載され、段落【0061】及び図13には、トランジスタQ21のコレクタ電流I1を入力するトランジスタQ22及びトランジスタQ23からなるカレントミラー回路により、トランジスタQ23からトランジスタQ21のコレクタ電流I1と同じ大きさの電流I1を差動増幅器を構成するトランジスタQ10のコレクタへ出力する構成が記載されている。
よって、カレントミラー回路を構成するトランジスタQ23は、電流kVxにより電流値が制御される可変電流回路として機能していることは明らかである。

(エ)図13には、電流I1を流すトランジスタQ10と電流I2を流すトランジスタQ11により差動増幅器が構成され、トランジスタQ10とトランジスタQ11の共通エミッタには電流Ioを流すトランジスタQ20が接続されている回路構成が記載されているので、電流I1、電流I2及び電流Ioは、
I2=Io-I1 (1)
の関係を満たしている。そして、(1)式の両辺をI1で割ると、
I2/I1=(Io-I1)/I1 (2)
となり、(2)式の左辺である電流I2と電流I1の比は、(2)式の右辺である電流Ioと電流I1の差分を電流I1で割った値となる。
ここで、上記(イ)及び(ウ)の記載から、電流Ioは定電流回路から流れる定電流であり、電流I1は可変電流回路から流れる可変電流であることを考慮すれば、電流Ioと電流I1の差分の値が決まると(2)式の右辺の値は一意に決定する。
よって、引用例の図13に記載された回路構成では、電流I2と電流I1の比は、電流Ioと電流I1の差分に基づいて所望の値に設定することができるものである。

(オ)上記(エ)に記載したように、電流I2と電流I1の比は、定電流であるIoと可変電流であるI1の差分に基づいて設定されるものであるが、該定電流Ioは、電圧源VBE及びトランジスタQ20で設定され、該可変電流I1は、電圧源VBE、抵抗R、トランジスタQ21、及び利得制御電流ICNT(=kVx)で設定されるものであるから、引用例の図13に記載された回路構成でも、電流I2と電流I1の比を設定する電流比設定手段を有していることは明らかである。

(カ)図13には、制御信号変換回路14から出力された利得制御電圧Vyにより、利得制御増幅器15の利得を制御する構成が記載されており、段落【0062】では当該利得制御電圧Vyが、
Vy=VBE_(Q11)-VBE_(Q10)
=VT・ln((Io-I1)/Is)
-VT・ln(I1/Is) (3)
と表せられることが記載されており、(3)式の右辺をまとめると、
Vy=VT・ln((Io-I1)/I1) (4)
となり、(4)式の右辺に(2)式を代入すると、
Vy=VT・ln(I2/I1) (5)
となるので、引用例の図13に記載された回路も、電流I2と電流I1の比に応じた利得制御電圧Vyを出力する手段を有しているといえる。

よって、上記(ア)乃至(カ)及び関連図面から、引用例には、
「定電流回路及び可変電流回路を有し、差動増幅器の電流I1と電流I2の電流比を、該定電流回路及び可変電流回路にそれぞれ流れる電流の差分に基づいて可変に設定する電流比設定手段と、
前記電流比に応じた利得制御電圧を出力する手段と、
を備えた制御信号変換回路。」
の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。


4.対比
(1)本願発明と引用発明との対応関係について
引用発明の「差動増幅器」、「電流I1」、「電流I2」、「利得制御電圧」は、本願発明の「差動回路」、「第1の差動電流」、「第2の差動電流」、「制御電圧」に相当している。

また、引用発明の「制御信号変換回路」は、利得制御増幅器の利得を制御するための制御電圧を発生するものであるから、「制御電圧生成回路」といい得るものである。

(2)本願発明と引用発明の一致点及び相違点について
上記の対応関係から、本願発明と引用発明は、下記の点で一致し、また、相違する。

(一致点)
「定電流回路及び可変電流回路を有し、差動回路の第1の差動電流と第2の差動電流の電流比を、該定電流回路及び可変電流回路にそれぞれ流れる電流の差分に基づいて可変に設定する電流比設定手段と、
前記電流比に応じた制御電圧を出力する手段と、
を備えたことを特徴とする制御電圧生成回路。」

(相違点)
本願発明は、「前記定電流回路と可変電流回路とは同じ温度特性を有する」構成としているのに対し、引用発明では、定電流回路と可変電流回路とが同じ温度特性を有するかは定かでない点。


5.当審の判断
(1)相違点について
本願の出願当初明細書等には、「定電流回路と可変電流回路とは同じ温度特性を有する」点について明記されていない。
そこで、最初に、本願発明の「前記定電流回路と可変電流回路とは同じ温度特性を有する」ことについて検討し、次に、引用発明において定電流回路と可変電流回路を同じ温度特性にすることが容易であったかについて検討する。

(1-1)本願発明の「前記定電流回路と可変電流回路とは同じ温度特性を有する」ことの意味について
審判請求人は、平成22年6月30日付け拒絶査定での、
「出願人は、平成21年12月25日付けの手続補正書において、請求項2及び請求項10を補正し、構成要件として「定電流回路と可変電流回路とは同じ温度特性を有すること」を付加し、同日付の意見書において、出願当初明細書の段落(0030)、段落(0040)の式14、段落(0041)を、補正の根拠としてあげている。
しかしながら、当初明細書の該当箇所に、可変電流回路と定電流回路の温度特性に関する記載はない。また、当初明細書の他の箇所についても、増幅回路と制御電圧回路の温度特性を相殺させることについては記載されているものの、可変電流回路と定電流回路の温度特性については記載も示唆もされていない。」
という指摘に対して、審判請求書において、【請求の理由】の「3.本願発明が特許されるべき理由」の「3.2.補正の説明」に、
「しかしながら、当初明細書の段落[0041]には、「つまり、入力端子Vin+、入力端子Vin-から入力された入力電圧の増幅率は、IaとIbの比kによって決まる。従って、IaとIbの比kにより入力電圧の増幅率を設定すれば温度変化による出力電圧Voutの変動を排除することができる。」の記載があります。この記載は、当初明細書の段落[0040]中の式(14)において、kが温度に応じて変化しないことを意味しています。つまり、kが温度特性を持たないことを意味しています。当初明細書の段落[0030]に記載の定義式Ic=Ia+Ib、及び段落[0033]に記載の定義式Ib/Ia=kから、k=1/((Ic/Ib)-1)となることから、kが温度特性を持たなければ、IbとIcが同じ温度特性を有することは明らかです。則ち、元の請求項2及び請求項10に記載の「定電流回路と可変電流回路とは同じ温度特性を有すること」は、当初明細書から読み取れる事項に相当します。
当初明細書は、可変電流回路と定電流回路の温度特性が同じであることを前提して記載されており、当初明細書には、可変電流回路と定電流回路の温度特性についての直接的記載はありませんが、可変電流回路と定電流回路の温度特性が同じであることは、上述のように当初明細書から読み取れます。」
と反論している。即ち、k=1/((Ic/Ib)-1)となるkが温度特性を持たなければ、(Ic/Ib)も温度特性を持たず、(Ic/Ib)が温度特性を持たなければIbとIcは同じ温度特性を有するとしていることから、結局、本願発明の「前記定電流回路と可変電流回路とは同じ温度特性を有する」とは、定電流回路の定電流と可変電流回路の可変電流の比が温度特性を持たないことを意味していると解される。

(1-2)引用発明において定電流回路と可変電流回路を同じ温度特性にすることが容易であったかについて
引用例の段落【0060】乃至【0067】には、引用発明の制御信号変換回路を用いて利得制御増幅器を制御することで、利得の温度依存性を小さくした利得制御増幅器を実現できることが記載されている。
そして、利得制御増幅器の入力信号電流をIsig、出力信号電流をIaとしたとき、利得制御増幅器の利得であるIsigからIaの伝達関数は、
Ia/Isig=exp(-RkVx/VT) (6)
と近似できるので、利得制御増幅器の利得に温度依存性がない場合には、「(-RkVx/VT)」に温度依存性がないことがわかる。
一方、定電流Ioと可変電流I1につては、段落【0060】に、
I1=Is・exp((VBE-RkVx)/VT)
=Io・exp(-RkVx/VT) (7)
の関係であることが記載されているので、(7)式から定電流Ioと可変電流I1の比を求めると、
Io/I1=1/exp(-RkVx/VT)
となる。そして、(6)式で述べたように、利得制御増幅器の利得に温度依存性がない場合には、「(-RkVx/VT)」は温度依存性がないことから、「Io/I1」、即ち、定電流Ioと可変電流I1の比は温度依存性を持たない。

してみると、引用例には、定電流Ioを流す定電流回路と可変電流I1を流す可変電流回路とが同じ温度特性であることは記載されていないが、当業者であれば、引用発明において、定電流Ioと可変電流I1の比が温度依存性を持たなければ、利得の温度特性を小さくした可変利得増幅器を実現できることが理解できるので、引用発明の「前記定電流回路と可変電流回路とは同じ温度特性を有する」ものとすることに格別の困難性は認められない。

(2)本願発明の作用効果について
本願発明の作用効果も、引用発明及び引用例の記載から当業者が予測できる範囲のものである。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-27 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-18 
出願番号 特願2004-279841(P2004-279841)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 秀一麻川 倫広  
特許庁審判長 江口 能弘
特許庁審判官 本郷 彰
飯田 清司
発明の名称 制御電圧生成回路、可変利得回路及び電流増幅回路  
代理人 毛受 隆典  
代理人 木村 満  

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