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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1262435
審判番号 不服2010-26743  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-29 
確定日 2012-08-30 
事件の表示 特願2005-309208「有機-無機複合型塗膜養生剤およびそれを使用したモルタルまたはコンクリートならびにその処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年5月17日出願公開、特開2007-119259〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年10月25日の出願であって、平成21年11月26日付けで拒絶理由通知が通知され、平成22年1月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月9日付けで拒絶査定されたので、同年11月29日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書により明細書及び特許請求の範囲が補正され、平成24年1月23日に特許法第164条3項に基づく報告書を引用した審尋がなされ、同年3月12日に回答書が提出されたものである。

第2 平成22年11月29日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年11月29日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正前及び補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、補正前の「膨潤性粘土鉱物」及び「抗菌剤」について、それぞれ、「合成フッ素雲母である」及び「銀と銅を担持したゼオライト又は焼成コレマナイトである」として、特定のものに限定するものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかに関し、請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について検討する。
本願補正発明は、次のとおりのものである。
「合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、合成フッ素雲母である膨潤性粘土鉱物および銀と銅を担持したゼオライト又は焼成コレマナイトである抗菌剤を含有する、モルタルまたはコンクリートが硬化した後にコーティングすることを特徴とする有機-無機複合型塗膜養生剤。」

2.刊行物に記載された発明及び周知技術
2-1 引用例1について
(1)引用例1の記載事項
これに対し、本願出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された特開2005-162534号公報(以下「引用例1」という)には、次の事項が記載されている。
(ア)「セメント硬化体に、合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、及び高膨潤性粘土鉱物を主成分とする養生被覆剤を被覆することを特徴とするセメント硬化体の養生方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(イ)「本発明は、・・・特定の養生被覆剤を被覆することにより、乾燥収縮量が小さくなるとともに、高いひび割れ抵抗性が得られる養生方法とすることや乾燥収縮低減方法とすることを目的とする。」【0005】
(ウ)「本発明で使用する合成樹脂水性分散体とは、一般的には合成樹脂エマルジョンであり、芳香族ビニル単量体、脂肪族共役ジエン系単量体、エチレン系不飽和脂肪酸単量体、及びその他の共重合可能な単量体の内から一種又は二種以上を乳化重合して得られるものである。」【0021】
(エ)「水溶性樹脂としては、加工澱粉又はその誘導体、セルロース誘導体、ポリ酢酸ビニルの鹸化物又はその誘導体、スルホン酸基を有する重合体又はその塩、アクリル酸の重合体や共重合体又はこれらの塩、アクリルアミドの重合体や共重合体、ポリエチレングリコール、及びオキサゾリン基含有重合体等が挙げられ、・・・。」【0022】
(オ)「高膨潤性粘土鉱物としては、スクメタイト属に属する層状ケイ酸塩鉱物が挙げられる。例えば、・・・マイカ、・・・などである。」【0023】
(カ)「養生被覆剤は、水平のセメントコンクリート部材であれば、ブリーデング終了後に撒布や被覆することが可能である。また、撒水等の水に関する養生が終了後、できるだけ早い時期に被覆することが膨張材の効果を得るために望ましい。」【0027】
(キ)「調製したモルタルを成形し、材齢1日後に脱型し、養生被覆剤を刷毛で被覆し、・・・。」【0030】
(ク)「フレシュコンクリートの硬化まで乾燥しないようにシートで覆い、20℃の室内で材齢1日まで養生し、脱型後材齢7日まで水中養生を行った。その後、養生被覆剤を刷毛を用い被覆し、・・・。」【0035】

(2)引用例1に記載された発明
記載事項(ア)によれば、引用例1には、合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、及び高膨潤性粘土鉱物を主成分とする養生被覆剤が記載されており、同(イ)によれば、これにより、セメント硬化体の乾燥収縮量を抑制してひび割れ抵抗性を高めることができる。
また、当該養生被覆剤の被覆時期は、同(カ)によれば、ブリーデング終了後又は撒水等の水に関する養生が終了後であるとされている。
したがって、引用例1には次の発明(以下「引用例1発明」という。)が記載されているとすることができる。
「合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、及び高膨潤性粘土鉱物を主成分とし、ブリーデング終了後又は撒水等の水に関する養生が終了後に被覆する養生被覆剤。」

2-2 引用例2について
(1)引用例2の記載事項
同様に、特開2002-274976号公報(以下「引用例2」という)には、次の事項が記載されている。
(サ)「水硬性無機材料を成形しさらに硬化させることにより無機質成形体を製造するにあたり、・・・硬化途中の成形体の表面に直接・・・水膨潤性粘土鉱物および樹脂微粒子が水性媒体中に分散してなる水性樹脂分散体を・・・塗布した状態で硬化を進行させることを特徴とする無機質成形体の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項2)
(シ)「本発明における水性樹脂分散体は、・・・水膨潤性粘土鉱物および樹脂微粒子が水性媒体中に分散したものであり、一般的には合成樹脂水性エマルションと上記粘土鉱物を混合することにより得られる。」【0007】
(ス)「水膨潤性粘土鉱物としては、・・・合成フッ素雲母およびベンナイト等のスメクタイトが挙げられ、本発明において好ましいものは、合成フッ素雲母である。」【0008】
(セ)「水性樹脂分散体には、上記成分以外に水溶性高分子が、・・・添加されていることが好ましい。水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレングリコール等が好ましい。・・・。水性樹脂分散体には、必要により着色顔料、体質顔料、充填剤および消泡剤が添加されていてもよい。」【0009】

(2)引用例2に記載された発明
記載事項(サ)によれば、引用例2には、水硬性無機材料を成形し硬化途中の段階で、水性樹脂分散体を塗布し、その状態で硬化を進行させることが記載されている。そして、該水性樹脂分散体は、同(シ)(セ)によれば、水膨潤性粘土鉱物、合成樹脂水性エマルジョン及び水性高分子からなり、同(ス)によれば、水膨潤性粘土鉱物として合成フッ素雲母が例示列挙されている。
したがって、引用例2には、次の発明(以下「引用例2発明」という)が記載されている。
「水膨潤性粘土鉱物、合成樹脂水性エマルジョン及び水性高分子からなる水性樹脂分散体を、硬化途中の水硬性無機材料に塗布し、硬化を進行させるにあたり、水膨潤性粘土鉱物として、合成フッ素雲母を使用する水硬性無機材料の硬化方法。」

3.対比と判断
3-1 対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較する。
(1)主成分について
引用例1発明における養生被覆材の主成分である合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、高膨潤性粘土鉱物は、その具体的内容が、それぞれ記載事項(ウ)(エ)(オ)で説明されているが、これは、本願補正発明で使用する成分と具体的に対応するものである。このため、引用例1発明における「養生被覆剤」は、本願補正発明における「塗膜養生剤」に対応する。
(2)被覆時期について
ア 本願補正発明における被覆時期
本願補正発明では被覆時期を、「モルタルまたはコンクリートが硬化した後」とし、本願明細書の0020段落では「硬化とは、モルタル又はコンクリートが凝結した時点を意味する」としている。
そして、コンクリートの硬化に関しては、硬化に入る前駆時期に凝結がおこなわれ、この段階ではコンクリートは強度耐力は示さないが、形を保つことができる。これに続いて現れる時期の状態を硬化の過程とされる(この点について必要なら、(社)日本コンクリート工学協会編「コンクリート便覧」、昭和53年7月20日、技報堂出版株式会社発行(以下「参考文献」という)、第8頁参照)。
このため、本願補正発明における「モルタルまたはコンクリートが硬化した後」とは、凝結の段階が終了して、硬化が始まった後とすることができる。これは、本願補正発明における実施例5において、塗膜養生剤を塗布する時期を凝結終了後のものを実施例としていることと対応する(【0045】段落)。
イ 引用例1発明における被覆時期
一方、引用例1発明における養生被覆剤は、その被覆時期を「ブリーデング終了後」又は「撒水等の水に関する養生が終了後」としている。
そして、参考文献の第7頁最下行?第8頁3行におけるブリージングの説明によれば、ブリージングとは、混じられる水量が成形後直ちに余剰水として浮上することを指す。このため、引用例1発明における「ブリージング終了後」とは、成形後に浮上する余剰水の発生が終了した後であるので、成形後ある程度の時間の経過が必要となり、凝結終了後にあたると解することが相当である。
また、「撒水等の水に関する養生が終了後」についても、上記した参考文献の記載からすれば、養生は凝結後の硬化の段階にあるので、同様に凝結終了後であるといえる。
さらに、引用例1発明の実施例においても、モルタルを成形し材齢1日後(実施例1、記載事項(キ))、20℃の室内で材齢1日まで養生し、脱型後7日まで水中養生をした後に(実施例2、同(ク))、養生被覆材を被覆している。これらは、いずれも、養生による硬化が開始した後なので、凝結後に相当する。
ウ したがって、本願補正発明と引用例1発明における、塗膜養生剤あるいは養生被覆材の被覆時期は、いずれも、コンクリートの凝結後という点で共通するものとすることができる。
(3)一致点と相違点
引用例1発明における養生被覆材においても、有機物と無機物の複合材であるので、両者の一致点と相違点は次のとおりとなる。
ア 一致点
「合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、膨潤性粘土鉱物を含有する、モルタルまたはコンクリートが硬化した後にコーティングすることを特徴とする有機-無機複合型塗膜養生剤。」
イ 相違点
a 膨潤性粘土鉱物として、本願補正発明では「合成フッ素雲母」とするのに対し、引用例1発明では合成フッ素雲母を使用することについて、具体的な記載はない点。
b 本願補正発明では抗菌剤を含有することとし、該抗菌剤として「銀と銅を担持したゼオライト又は焼成コレマナイト」を特定するのに対し、引用例1発明では、抗菌剤を使用することについて具体的な記載がない点。

3-2 判断
(1)相違点aについて
引用例2発明で塗布する水性樹脂分散体は、水膨潤性粘土鉱物、合成樹脂水性エマルジョン及び水性高分子からなるが、これは、引用例1発明における膨潤性粘土鉱物、合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂に相当し、その塗布も、水硬性無機材料すなわちコンクリートの凝結後、硬化の進行中におこなうので、引用例1発明と引用例2発明とは共通の事項により特定され、また、発明の目的も、成形体の寸法変化を防ぐ等コンクリートの養生・硬化を良好におこなうこととする点で共通する。
したがって、引用例2発明で水膨潤性粘土鉱物として使用する合成フッ素雲母を、引用例1発明における膨潤性粘土鉱物として採用することは、当業者が容易に想到するところであり、その効果も格別のこととすることができない。
(2)相違点bについて
原査定の拒絶の理由で引用された特開平11-79920号公報(以下「引用例3」という)及び同じく特開2002-226242号公報(以下「引用例4」という)に記載されているように、コンクリートを汚水槽等の下水施設に供用することは通常おこなわれているところであり、その際にコンクリートに抗菌性が要求要求されることも周知である。この点について必要なら、引用例3の0001段落、引用例4の0002段落を参照のこと。
また、引用例2の記載事項(セ)にあるように、引用例2発明における水性樹脂分散体は、添加成分として着色原料や消泡剤等の特定の機能を持つ添加剤を添加しているので、引用例1発明における養生被覆材においても特定の機能をもつ添加剤を添加することができることは、当業者の理解するところである。
したがって、引用例1発明において、下水処理施設への供用というコンクリートの通常の用途を考慮して、抗菌性という特定の機能を付与するために抗菌剤を添加することは、当業者が当然に考慮するところである。
他方、引用例3及び引用例4には、抗菌剤として本願補正発明で使用する「銀と銅を担持したゼオライト又は焼成コレマナイト」について、具体的には記載されていない。
しかし、「銀と銅を担持したゼオライト」あるいは「焼成コレマナイト」は、抗菌剤としては周知のものである。これに関して必要なら、銀と銅を担持したゼオライトについては、特開2004-308152号公報の0037段落、特開2002-167215号公報の0016段落、特開平8-26805号公報の0018段落、また、焼成コレマナイトについては、特開2005-139010号公報の0002段落、特開2002-20210号公報の0013段落を参照されたい。
したがって、引用例1発明において添加成分として抗菌剤を採用し、その抗菌剤として「銀と銅を担持したゼオライト又は焼成コレマナイト」を特定することは、当業者が容易になしうることであり、その効果も抗菌性の向上という以上の格別のものとすることはできない。
(3)以上のとおりであるので、引用例1発明において、上記相違点a及び同bに関する特定事項を採用し、本願補正発明に想到することは、当業者が容易になしうるところであると認める。

4.本件補正についての結び
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成22年11月29日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、同年1月15日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、膨潤性粘土鉱物および抗菌剤を含有する、モルタルまたはコンクリートが硬化した後にコーティングすることを特徴とする有機-無機複合型塗膜養生剤。」

2.進歩性の判断
本願発明は、上記第2[理由]で検討した本願補正発明の「膨潤性粘土鉱物」及び「抗菌剤」について、それぞれ、「合成フッ素雲母である」及び「銀と銅を担持したゼオライト又は焼成コレマナイトである」との特定事項を解除したものに相当する。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2の[理由]3」に記載したとおり、引用例1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-28 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-17 
出願番号 特願2005-309208(P2005-309208)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 末松 佳記  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 斉藤 信人
田中 則充

発明の名称 有機-無機複合型塗膜養生剤およびそれを使用したモルタルまたはコンクリートならびにその処理方法  

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