• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1262507
審判番号 不服2010-11912  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-02 
確定日 2012-08-31 
事件の表示 平成11年特許願第350091号「内燃エンジンの排気管内で窒素酸化物を除去する方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月20日出願公開、特開2000-170523〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由

1.手続の経緯

本件出願は、平成11年12月9日(パリ条約による優先権主張1998年12月9日、フランス国)を出願日とする出願であって、平成21年4月24日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成21年11月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年1月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成22年6月2日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けの手続補正書によって特許請求の範囲の明りょうでない記載の釈明を目的として明細書を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成22年10月4日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成23年4月6日付けで回答書が提出されたものである。


2.本件発明

本件出願の請求項1ないし21に係る発明は、平成21年11月5日付けの手続補正により補正された明細書、平成22年6月2日付けの手続補正により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】 窒素酸化物を吸蔵する手段(3)と、前記吸蔵手段が飽和したときに前記窒素酸化物を再生する手段と、窒素酸化物吸蔵手段(3)の上流側に配置された炭化水素処理手段(2)と、炭化水素処理手段(2)の上流側に配置された炭化水素注入手段(4)と、排気ガス中の酸素の濃度である排気ガス混合濃度を測定する手段(7)とを有する、希薄燃焼内燃エンジン(1)の排気管内で窒素酸化物を除去する装置において、
前記注入手段は前記排気管に配置され、炭化水素処理手段(2)は、炭化水素を一酸化炭素と水素に部分的に酸化するための触媒であり、種々の検出器から到来する、および/または、エンジンのスムーズな稼動を乱さずにNO_(X)吸蔵剤(3)の効果的な再生を行うように記憶されたデータを記録および処理する手段をさらに有していることを特徴とする、希薄燃焼内燃エンジン(1)の排気管内で窒素酸化物を除去する装置。」


3.刊行物に記載された発明

(1)刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平6-221140号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 流入する排気ガスの空燃比がリーンのときにはNOx を吸収し、流入する排気ガスの空燃比がリッチ又は理論空燃比になると吸収したNOxを放出するNOx 吸収剤を機関排気通路内に配置すると共に該NOx 吸収剤上流の機関排気通路内にHCを部分酸化してCOを発生するCO発生手段を設け、NOx 吸収剤からNOx を放出すべきときにはCO発生手段上流の排気ガスの空燃比をリーンからリッチ又は理論空燃比に切換えるようにした内燃機関の排気浄化装置。」(【請求項1】)

(イ)「【0006】
【実施例】図1を参照すると、1は機関本体、2はピストン、3は燃焼室、4は点火栓、5は吸気弁、6は吸気ポート、7は排気弁、8は排気ポートを夫々示す。吸気ポート6は対応する枝管9を介してサージタンク10に連結され、各枝管9には夫々吸気ポート6内に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁11が取付けられる。サージタンク10は吸気ダクト12およびエアフローメータ13を介してエアクリーナ14に連結され、吸気ダクト12内にはスロットル弁15が配置される。一方、排気ポート8は排気マニホルド16および排気管17を介してNOx 吸収剤18を内蔵したケーシング19に接続される」(段落【0006】)

(ウ)「【0007】電子制御ユニット30はディジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって相互に接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。エアフローメータ13は吸入空気量に比例した出力電圧を発生し、この出力電圧がAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、入力ポート35には機関回転数を表わす出力パルスを発生する回転数センサ20が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して夫々点火栓4および燃料噴射弁11に接続される。
【0008】図1に示す内燃機関では例えば次式に基づいて燃料噴射時間TAUが算出される。
TAU=TP・K
ここでTPは基本燃料噴射時間を示しており、Kは補正係数を示している。基本燃料噴射時間TPは機関シリンダ内に供給される混合気の空燃比を理論空燃比とするのに必要な燃料噴射時間を示している。この基本燃料噴射時間TPは予め実験により求められ、機関負荷Q/N(吸入空気量Q/機関回転数N)および機関回転数Nの関数として図2に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されている。補正係数Kは機関シリンダ内に供給される混合気の空燃比を制御するための係数であってK=1.0であれば機関シリンダ内に供給される混合気は理論空燃比となる。これに対してK<1.0になれば機関シリンダ内に供給される混合気の空燃比は理論空燃比よりも大きくなり、即ちリーンとなり、K>1.0になれば機関シリンダ内に供給される混合気の空燃比は理論空燃比よりも小さくなる、即ちリッチとなる。」(段落【0007】及び【0008】)

(エ)「【0009】この補正係数Kは機関の運転状態に応じて制御され、図3はこの補正係数Kの制御の一実施例を示している。・・・・(中略)・・・・即ち機関シリンダ内に供給される混合気の空燃比はリッチにされる。図3からわかるように図3に示される実施例では暖機運転時、加速運転時および全負荷運転時を除けば機関シリンダ内に供給される混合気の空燃比は一定のリーン空燃比に維持されており、従って大部分の機関運転領域においてリーン混合気が燃焼せしめられることになる。」(段落【0009】)

(オ)「【0010】図4は燃焼室3から排出される排気ガス中の代表的な成分の濃度を概略的に示している。図4からわかるように燃焼室3から排出される排気ガス中の未燃HC,COの濃度は燃焼室3内に供給される混合気の空燃比がリッチになるほど増大し、燃焼室3から排出される排気ガス中の酸素O_(2) の濃度は燃焼室3内に供給される混合気の空燃比がリーンになるほど増大する。」(段落【0010】)

(カ)「【0011】ケーシング19内に収容されているNOx 吸収剤18は例えばアルミナを担体とし、この担体上に例えば・・・・(中略)・・・・から選ばれた少なくとも一つと、白金Ptのような貴金属とが担持されている。機関吸気通路およびNOx吸収剤18上流の排気通路内に供給された空気および燃料(炭化水素)の比をNOx 吸収剤18への流入排気ガスの空燃比と称するとこのNOx 吸収剤18は流入排気ガスの空燃比がリーンのときにはNOx を吸収し、流入排気ガス中の酸素濃度が低下すると吸収したNOx を放出するNOx の吸放出作用を行う。なお、NOx 吸収剤18上流の排気通路内に燃料(炭化水素)或いは空気が供給されない場合には流入排気ガスの空燃比は燃焼室3内に供給される混合気の空燃比に一致し、従ってこの場合にはNOx 吸収剤18は燃焼室3内に供給される混合気の空燃比がリーンのときにはNOx を吸収し、燃焼室3内に供給される混合気中の酸素濃度が低下すると吸収したNOx を放出することになる。」(段落【0011】)

(キ)「【0012】上述のNOx 吸収剤18を機関排気通路内に配置すればこのNOx 吸収剤18は実際にNOx の吸放出作用を行うが・・・・(中略)・・・・この吸放出作用は図5に示すようなメカニズムで行われているものと考えられる。・・・・(後略)・・・・
【0013】即ち、流入排気ガスがかなりリーンになると流入排気ガス中の酸素濃度が大巾に増大し、図5(A)に示されるようにこれら酸素O_(2) がO_(2) ^(-) 又はO^(2) ^(-) の形で白金Ptの表面に付着する。一方、流入排気ガス中のNOは白金Ptの表面上でO_(2) ^(-) 又はO^(2-)と反応し、NO_(2) となる(2NO+O_(2) →2NO_(2) )。次いで生成されたNO_(2) の一部は白金Pt上で酸化されつつ吸収剤内に吸収されて酸化バリウムBaOと結合しながら図5(A)に示されるように硝酸イオンNO_(3) ^(-)の形で吸収剤内に拡散する。このようにしてNOx がNOx 吸収剤18内に吸収される。
【0014】流入排気ガス中の酸素濃度が高い限り白金Ptの表面でNO_(2) が生成され、吸収剤のNOx 吸収能力が飽和しない限りNO_(2) が吸収剤内に吸収された硝酸イオンNO_(3) ^(-) が生成される。これに対して流入排気ガス中の酸素濃度が低下してNO_(2) の生成量が低下すると反応が逆方向(NO_(3) ^(-) →NO_(2) )に進み、斯くして吸収剤内の硝酸イオンNO_(3) ^(-) がNO_(2) の形で吸収剤から放出される。即ち、流入排気ガス中の酸素濃度が低下するとNOx 吸収剤18からNOx が放出されることになる。図4に示されるように流入排気ガスのリーンの度合いが低くなれば流入排気ガス中の酸素濃度が低下し、従って流入排気ガスのリーンの度合いを低くすればたとえ流入排気ガスの空燃比がリーンであってもNOx 吸収剤18からNOx が放出されることになる。
【0015】一方、このとき燃焼室3内に供給される混合気がリッチにされて流入排気ガスの空燃比がリッチになると図4に示されるように機関からは多量の未燃HC,COが排出され、これら未燃HC,COは白金Pt上の酸素O_(2) ^(-) 又はO^(2-)と反応して酸化せしめられる。また、流入排気ガスの空燃比がリッチになると流入排気ガス中の酸素濃度が極度に低下するために吸収剤からNO_(2) が放出され、このNO_(2) は図5(B)に示されるように未燃HC,COと反応して還元せしめられる。このようにして白金Ptの表面上にNO_(2) が存在しなくなると吸収剤から次から次へとNO_(2) が放出される。従って流入排気ガスの空燃比をリッチにすると短時間のうちにNOx 吸収剤18からNOx が放出されることになる。
【0016】即ち、流入排気ガスの空燃比をリッチにするとまず初めに未燃HC,COが白金Pt上のO_(2) ^(-) 又はO^(2-)とただちに反応して酸化せしめられ、次いで白金Pt上のO_(2) ^(-) 又はO^(2-)が消費されてもまだ未燃HC,COが残っていればこの未燃HC,COによって吸収剤から放出されたNOx および機関から排出されたNOx が還元せしめられる。従って流入排気ガスの空燃比をリッチにすれば短時間のうちにNOx 吸収剤18に吸収されているNOx が放出され、しかもこの放出されたNOx が還元されることになる。このように流入排気ガスの空燃比をリッチにするとNOx 吸収剤18からNOx が放出され、放出されたNOx が未燃HC,COによって還元されるがこの場合NOx に対する還元力はHC,COでかなり異なる。次にこのことについて図6を参照しつつ説明する。
・・・・(中略)・・・・
【0018】・・・・(中略)・・・・この場合、COの方がHCに比べてNOx に対する還元力が強いのでHCをCOに変換できれば、即ちCOの量と増大できれば混合気のリッチの度合いが同一であっても流出NOx 量を大巾に減少できることになる。」(段落【0012】ないし【0018】)

(ク)「【0019】ところで従来より用いられている三元触媒はHCを部分酸化してCOを発生する機能を有している。従って三元触媒をNOx 吸収剤18上流に配置すると三元触媒においてCOが発生するためにNOx 吸収剤18に流入する排気ガス中のCOの量が増大し、斯くしてNOx 吸収剤18から還元されることなく流出NOx量を低減することができる。しかしながら三元触媒により増加せしめられるCOx 量はさほど大きくない。
【0020】ところが三元触媒の担体である例えばアルミナにケイ素Si、チタンTi、錫SnおよびジルコニウムZrから選ばれた少なくとも一つを混入して三元触媒よりも酸化質の強い触媒にするとHCの部分酸化作用が強まり、その結果三元触媒よりも多量のCOが発生することが判明したのである。表1に三元触媒よりも多量のCOを発生するCO発生触媒と三元触媒とのCO増加率の差異を示す。・・・・(中略)・・・・
【0022】表1からわかるように特にリッチの度合いが低いときにはCO発生触媒は三元触媒に比べて多量のCOを発生する。図1に示されるように本発明による実施例では排気マニホルド16と排気管17との間にこのCO発生触媒21を内蔵した触媒コンバータ22が配置される。従って、図1に示される実施例では燃焼室3内に供給される混合気がリッチになるとCO発生触媒21において多量のCOが発生せしめられるためにNOx 吸収剤18から放出されたNOx はNOx 吸収剤18内において良好に還元せしめられ、斯くしてNOx 吸収剤18から放出されたNOx が大気中に放出されるのを抑制できることになる。」(段落【0019】ないし【0022】)

(ケ)「【0025】ところでNOx 吸収剤18からのNOx の放出作用は一定量のNOx がNOx吸収剤18に吸収されたとき、例えばNOx 吸収剤18の吸収能力の50%NOx を吸収したときに行われる。NOx 吸収剤18に吸収されるNOx の量は機関から排出される排気ガスの量と排気ガス中のNOx 濃度に比例しており、この場合排気ガス量は吸入空気量に比例し、排気ガス中のNOx 濃度は機関負荷に比例するのでNOx 吸収剤18に吸収されるNOx 量は正確には吸入空気量と機関負荷に比例することになる。従ってNOx 吸収剤18に吸収されているNOx の量は吸入空気量と機関負荷の積の累積値から推定することができるが本発明による実施例では単純化して機関回転数の累積値からNOx 吸収剤18に吸収されているNOx 量を推定するようにしている。
【0026】次に図8および図9を参照して本発明によるNOx 吸収剤18の吸放出制御の一実施例について説明する。図8は一定時間毎に実行される割込みルーチンを示している。図8を参照するとまず初めにステップ100において基本燃料噴射時間TPに対する補正係数Kが1.0よりも小さいか否か、即ちリーン混合気が燃焼せしめられているか否かが判別される。K<1.0のとき、即ちリーン混合気が燃焼せしめられているときにはステップ101に進んで現在の機関回転数NEにΣNEを加算した結果がΣNEとされる。従ってこのΣNEは機関回転数NEの累積値を示している。次いでステップ102では累積回転数ΣNEが一定値SNEよりも大きいか否かが判別される。この一定値SNEはNOx 吸収剤18にそのNOx 吸収能力の例えば50%のNOx 量が吸収されていると推定される累積回転数を示している。ΣNE≦SNEのときには処理サイクルを完了し、ΣNE>SNEのとき、即ちNOx 吸収剤18にそのNOx 吸収能力の50%のNOx 量が吸収されていると推定されたときにはステップ103に進んでNOx 放出フラグがセットされる。NOx 放出フラグがセットされると後述するように機関シリンダ内に供給される混合気がリッチにせしめられる。
【0027】次いでステップ104ではカウント値Cが1だけインクリメントされる。次いでステップ105ではカウント値Cが一定値C_(0) よりも大きくなったか否か、即ち例えば5秒間経過したか否かが判別される。C≦C_(0) のときには処理ルーチンを完了し、C>C_(0) になるとステップ106に進んでNOx 放出フラグがリセットされる。NOx 放出フラグがリセットされると後述するように機関シリンダ内に供給される混合気がリッチからリーンに切換えられ、斯くして機関シリンダ内に供給される混合気は5秒間リッチにされることになる。次いでステップ107において累積回転数ΣNEおよびカウント値Cが零とされる。
【0028】一方、ステップ100においてK≧1.0と判断されたとき、即ち機関シリンダ内に供給されている混合気の空燃比が理論空燃比又はリッチのときにはステップ108に進んでK≧1.0の状態が一定時間、例えば10秒間継続したか否かが判別される。K≧1.0の状態が一定時間継続しなかったときには処理サイクルを完了し、K≧1.0の状態が一定時間継続したときにはステップ109に進んで累積回転数ΣNEが零とされる。即ち、機関シリンダ内に供給される混合気が理論空燃比又はリッチとされている時間が10秒程度継続すればNOx 吸収剤18に吸収されている大部分のNOx は放出したものと考えられ、従ってこの場合にはステップ109において累積回転数ΣNEが零とされる。」(段落【0025】ないし【0028】)

(2)上記(1)(ア)ないし(ケ)及び図面の記載より分かること

(a)上記(ア)、(イ)及び(エ)の記載より、機関本体1が内燃機関であり、また、機関本体1の大部分の運転領域においてリーン混合気が燃焼せしめられていることから、機関本体1は、希薄燃焼内燃エンジンであることが分かる。

(b)上記(ウ)の記載より、電子制御ユニット30は、ROM32、RAM33及びCPU34を有し、機関負荷Q/N及び機関回転数Nの関数として基本燃料噴射時間TPはマップの形でROM32に記憶され、エアフローメータ13及び回転数センサ20からの出力信号を用いて燃料噴射時間TAUを算出していることから、電子制御ユニット30のROM32、RAM33及びCPU34は、エアフローメータ13及び回転数センサ20から到来するデータを記録及び処理していることが分かる。

(c)上記(ア)、(オ)及び(ク)の記載より、CO発生触媒21の上流側の流入排気ガスの空燃比を、リーンからリッチに切換えることが分かり、また、流入排気ガス中の未燃HCの濃度は、流入排気ガスの空燃比がリッチになるほど増大することは明らかであるから、流入排気ガスの空燃比をリーンからリッチに切換えて、CO発生触媒21の上流側における未燃HCの濃度を増大させる手段を有していることが分かる。

(3)刊行物に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物には、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「刊行物に記載された発明」という。)。

「NOx を吸蔵するNOx 吸収剤18と、前記NOx 吸収剤18が一定量のNOx を吸蔵したときに前記NOx を再生する流入排気ガス中の酸素濃度の低下及び未燃COと、NOx 吸収剤18の上流側に配置されたHCを部分酸化してCOを発生するCO発生触媒21と、流入排気ガスの空燃比をリーンからリッチに切換えて、CO発生触媒21の上流側における未燃HCの濃度を増大させる手段とを有する、希薄燃焼内燃エンジンの機関排気通路内でNOx を除去する排気浄化装置において、
エアフローメータ13及び回転数センサ20から到来する、データを記録および処理する手段をさらに有している、希薄燃焼内燃エンジンの機関排気通路内でNOx を除去する排気浄化装置。」


4.対比・判断

本件発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、刊行物に記載された発明における「NOx」、「NOx 吸収剤18」、「機関排気通路」、「エアフローメータ13及び回転数センサ20」及び「NOx を除去する排気浄化装置」は、その機能及び構造からみて、本件発明における「窒素酸化物」、「窒素酸化物吸蔵手段」、「排気管」、「種々の検出器」及び「窒素酸化物を除去する装置」に、それぞれ相当する。
また、刊行物に記載された発明における「流入排気ガス中の酸素濃度の低下及び未燃CO」は、NOx を再生するものであるから、本件発明における「窒素酸化物を再生する手段」に相当する。
さらに、刊行物に記載された発明における「CO発生触媒21」は、HCを部分酸化してCOを発生するものであり、その部分酸化の際に、一酸化炭素と水素に部分酸化されることは、化学反応からみて明らかであるから(例えば、特開平8-296433号公報[特に、段落【0015】]等参照。)、本件発明における「炭化水素処理手段」に相当する。また、刊行物に記載された発明における「流入排気ガスの空燃比をリーンからリッチに切換えて、CO発生触媒21の上流側における未燃HCの濃度を増大させる手段」は、CO発生触媒21の上流側における未燃HCの濃度を増大させるものであるから、本件発明における「炭化水素処理手段の上流側」の「炭化水素注入手段」に相当する。

してみると、本件発明と刊行物に記載された発明とは、
「窒素酸化物を吸蔵する手段と、前記窒素酸化物を再生する手段と、窒素酸化物吸蔵手段の上流側に配置された炭化水素処理手段と、炭化水素処理手段の上流側に炭化水素注入手段とを有する、希薄燃焼内燃エンジンの排気管内で窒素酸化物を除去する装置において、
炭化水素処理手段は、炭化水素を一酸化炭素と水素に部分的に酸化するための触媒であり、種々の検出器から到来する、データを記録および処理する手段をさらに有している、希薄燃焼内燃エンジンの排気管内で窒素酸化物を除去する装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
窒素酸化物の再生を、本件発明においては、窒素酸化物吸蔵手段が飽和したときに行うに対し、
刊行物に記載された発明においては、NOx 吸収剤18が一定量のNOx を吸蔵したときに行う点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
本件発明においては、排気ガス中の酸素の濃度である排気ガス混合濃度を測定する手段を有しているのに対し、
刊行物に記載された発明においては、この点が明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点3>
炭化水素処理手段上流側の炭化水素注入手段が、本件発明においては、排気管に配置されているのに対し、
刊行物に記載された発明においては、排気管に配置されているとはいえない点(以下、「相違点3」という。)。

上記相違点について検討する。

<相違点1>について
窒素酸化物の再生をどのようなタイミングで行うかは、当業者が適宜決定し得る事項であり、刊行物に記載された発明において、NOx 吸収剤18が飽和したときに、NOx の再生を行うようにして、上記相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点2>について
内燃機関の排気浄化装置の技術分野において、後注入される炭化水素の量を調整するために、触媒下流に酸素濃度を測定する手段を設けることは、本件出願の優先日前周知ないしは慣用の技術である(例えば、特開平6-272545号公報[特に、段落【0035】]及び特開平7-119452号公報[特に、段落【0032】]等参照。以下、「周知慣用技術1」という。)。
よって、刊行物に記載された発明において、後注入される未燃HCの量の調整のために、上記周知慣用技術1を勘案して、排気ガス中の酸素の濃度である排気ガス混合濃度を測定する手段を設けて、上記相違点2に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点3>について
内燃機関の浄化装置の技術分野において、燃焼室直後の排気管に、炭化水素注入手段を配置することは、本件出願の優先日前周知ないしは慣用の技術である(例えば、特開平10-30430号公報[特に、図1]及び国際公開第93/08383号 [特に、図11]等参照。以下、「周知慣用技術2」という。)。
そして、刊行物に記載された発明における「流入排気ガスの空燃比をリーンからリッチに切換え」も、CO発生触媒21の上流側で、かつ、燃焼室の直後における未燃HCの濃度を増大させる作用をなすものである。したがって、刊行物に記載された発明において、燃焼室直後における未燃HCの濃度を増大させる手段として、上記周知慣用技術2を考慮して、流入排気ガスの空燃比をリーンからリッチに切換えることに代えて、炭化水素注入手段を機関排気通路に配置させて、上記相違点3に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

なお、本件発明における「エンジンのスムーズな稼動を乱さずにNOx 吸蔵剤の効果的な再生を行うように記憶されたデータを記録および処理する手段」に関しても検討すると、刊行物に記載された発明においては、この手段が明らかでないが、エンジンをスムーズに稼動することは当然に求められる周知の課題である(例えば、特開平8-319862号公報[特に、段落【0007】]等参照。)。よって、刊行物に記載された発明において、「エンジンのスムーズな稼動を乱さずにNOx 吸収剤の効果的な再生を行うように記憶されたデータを記録および処理する手段」を有するようにすることは、上記課題に基づき当業者が適宜なし得たことである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物に記載された発明並びに周知慣用技術1及び2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。


5.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物に記載された発明並びに周知慣用技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-07 
結審通知日 2011-06-08 
審決日 2011-06-23 
出願番号 特願平11-350091
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 貴志  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 岡崎 克彦
中川 隆司
発明の名称 内燃エンジンの排気管内で窒素酸化物を除去する方法および装置  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 石橋 政幸  
代理人 宮崎 昭夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ