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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01C
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A01C
管理番号 1262547
審判番号 不服2011-15053  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-12 
確定日 2012-08-29 
事件の表示 特願2006-328688「籾殻散布装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月19日出願公開、特開2008-136459〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年12月5日の出願であって,平成23年4月1日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年7月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。
その後,同年11月8日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,平成24年1月16日付けで回答書が提出された。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年7月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の目的
平成23年7月12日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成22年9月13日付けの手続補正)を,次のように補正しようとする補正事項を含むものである。
「【請求項1】トラクターその他の走行車両に着脱機構を介して連結または搭載可能な概略筐体状のコンテナ部を有し,該コンテナ部底面の前後均等配置となる二箇所の夫々に,左右に亘って一文字状に開口し,各開口の前後寸法をコンテナ部底面前後長寸法の1/3未満に設定した散布口を形成すると共に,それら各散布口に向かう漏斗状のホッパー部を形成するよう,当該散布口直近のコンテナ部底面上要所に45°以上の下り勾配としたホッパー用斜面を夫々形成し,各ホッパー用斜面上縁を頂部とする左右方向縦断面(図1に示すように表れる断面か,それに相当する断面のことをいっており,以下,この文言については同様の扱いとする。)三角型の底面上膨出部を形成したものとした上,各散布口には,前端がわを軸着端とし,後端がわを下向き開放可能な開閉端となし,遠隔または直接操作可能な開閉操作機構あるいは開放操作機構を有する開閉シャッターを組み込んでなるものとしたことを特徴とする籾殻散布装置。」

上記補正は,請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「左右方向縦断面」を,「左右方向縦断面(図1に示すように表れる断面か,それに相当する断面のことをいっており,以下,この文言については同様の扱いとする。)」とするものである。

ここで,特許法施行規則様式29の2の備考14のロにあるように「請求項の記載の内容を理解するため必要があるときは,当該願書に添付した図面において使用した符号を括弧をして用いる」ことが記載方法としては許容されているものの,請求項の記載において,実施例に係る図面の符号の記載は,単なる補助的な手段であって,請求項記載の発明の構成が当該括弧内の記載に係る具体的構成に限定されるものではない。

本件において請求項1の「左右方向縦断面(図1に示すように表れる断面か,それに相当する断面のことをいっており,以下,この文言については同様の扱いとする。)」との記載における「左右方向縦断面」に付された括弧内の記載「図1に示すように表れる断面か,それに相当する断面のことをいっており,以下,この文言については同様の扱いとする。」も,図面の符号を追加した場合と同様に請求項の記載の内容を理解するため補助的な手段としての記載であると認められることから,当該括弧内の記載により「左右方向縦断面」が何ら限定されるものではなく,本件補正の前後で請求項1に係る発明が実質的にみて何ら変わるものではない。よって,本件補正が,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。

審判請求書において,請求人は「図面と照合すれば,この『左右方向断面図』はその二つの解釈の中のどちらか一方の解釈に到達し得るものであって,常識人ならば誰でもが間違いなく図示した断面図以外にのものには到底同定しようのないものであるにも拘らず,もう一方の,言い掛かりとしか良いようにない原審審査官の取って付けたような頓珍漢な内容の解釈も無理矢理含ませておいて,だから,真実不明瞭であるなどとしていいものであろうか。」と主張していることからみて,請求人は「左右方向断面図」との記載は明りょうであると主張しているものと解されることから,本件補正が明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるとは認められない。

また,本件補正が,請求項の削除や誤記の訂正を目的とするものでないことは明らかである。

してみると,特許出願について拒絶査定不服審判を請求するときの特許請求の範囲の補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項1乃至4号のいずれかを目的とするものに限られるところ,本件補正は,同法第17条の2第4項1乃至4号のいずれをも目的とするものではない。

2 補正の却下の決定のむすび
以上より,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
平成23年7月12日付けの手続補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成22年9月13日付けで手続補正された請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。
「【請求項1】トラクターその他の走行車両に着脱機構を介して連結または搭載可能な概略筐体状のコンテナ部を有し,該コンテナ部底面の前後均等配置となる二箇所の夫々に,左右に亘って一文字状に開口し,各開口の前後寸法をコンテナ部底面前後長寸法の1/3未満に設定した散布口を形成すると共に,それら各散布口に向かう漏斗状のホッパー部を形成するよう,当該散布口直近のコンテナ部底面上要所に45°以上の下り勾配としたホッパー用斜面を夫々形成し,各ホッパー用斜面上縁を頂部とする左右方向縦断面三角型の底面上膨出部を形成したものとした上,各散布口には,前端がわを軸着端とし,後端がわを下向き開放可能な開閉端となし,遠隔または直接操作可能な開閉操作機構あるいは開放操作機構を有する開閉シャッターを組み込んでなるものとしたことを特徴とする籾殻散布装置。」(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

なお,請求項1の「左右方向縦断面」は,同じく請求項1の「底面前後方向」との記載も考慮すると,請求項1の記載のみに着目した場合には底面前後方向と底面において垂直に交わる方向の縦断面であると解する余地もあるものの,そのように解した場合には発明の詳細な説明の記載と請求項1に係る発明とが対応しないものとなることは明らかであり,請求項1の「各ホッパー用斜面上縁を頂部とする左右方向縦断面三角型の底面上膨出部」との記載,詳細な説明の記載,請求人の審判請求書における主張等も考慮して,「左右方向縦断面」は本願図面の図1における左右方向の縦断面,すなわち,走行車両の前後方向の縦断面を意味するものと解して以下の判断を行う。

2 引用刊行物
2-1 引用刊行物
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である,特開2004-121219号公報(以下「刊行物1」という。)には,図面とともに以下の記載がある(下線は当審にて付与。)

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】トラクタやトレーラー等の走行車両に連結または搭載可能とする機構が組み込まれてなる骨格体と,該骨格体に支持され,所定量の籾殻が収容可能になるコンテナー部とを有し,その底部には,一体構造もしくは着脱自在構造にして設けられた底面フレームを有し,該底面フレームの適所には,上端開口部から下端開口部に向かうに従って開口面積を縮小する漏斗状であり,下端開口部に外部から操作可能な開閉シャッターを付設してなる散布口を設けた上,該散布口下端開口部よりも上方であって漏斗状断面形範囲内または上端開口部直上の漏斗状断面形範囲外適所における平断面略中央付近には,その平断面を跨ぐような横架状配置に阻害部材を配してなるものとしたことを特徴とする籾殻散布装置。」

(1b)「【0025】
当該籾殻散布装置1は,図1および図2中に示されるように,矩形枠状に形成され,その前後に平断面略長方形状に開口する二つの散布口4,4が開口する底面フレーム3を有し,その周縁に沿って上下を開放する周壁状に配置された柵型骨格部21,21,ノノの各下端を,該底面フレーム3の四隅付近,および各辺中途部に形成された縦孔部に接続し,有底状の骨格体2を形成してなるものであり,底面フレーム3の適所には,トラクタやトレーラー,トラック等の後部に取り付け可能なフォークリフト型に形成されたリフト機構Lの図示しないフォーク部を挿し通す図示しない装着部が形成され,リフト機構Lに対峙する柵型骨格部21中途部もまた適宜構造によって連結,支持され,リフト機構Lによる昇降の際に転倒や転落を防止する構造となっている。
【0026】
底面フレーム3の上面には,柵型骨格部21,21,ノノに囲まれた空間内に収容され,上面を開口して上面を開閉可能な籾殻投入口を形成した筒型,あるいは下面を開口し上方側面に開閉可能な籾殻投入口を形成した略箱型の,籾殻が通過しない目の細かなネット製,もしくはビニルシート製のコンテナー部5が,その外周壁の要所要所を,柵型骨格部21,21,ノノの適所に縛り着け,底部開口を,底面フレーム3の上面周縁部に密閉状を確保するよう接合し,図示しない取付け枠で固定して周壁面を形成するよう張設されたものとなっており,コンテナー部5,柵型骨格部21,21,ノノおよび底面フレーム3は,夫々個別の部品に分解し,さらにコンテナー部5,柵型骨格部21,21,ノノは,折り畳んで運搬,収納することが可能な構造となっている。
【0027】
底面フレーム3の各散布口4,4は,夫々が上端開口部41から下端開口部42に向けてその平面開口の断面積を次第に縮小する漏斗状に形成されたものであり,各上端開口部41,41の周縁部は,底面フレーム3の周縁に接するか,もしくは隣接する散布口4,4上端開口部41,41同士の周縁に接するまで,同一の漏斗状傾斜面を形成するものに形成され,これによってコンテナー部5の底面開口が接続され,籾殻が収容される空間の下側に相当する底面フレーム3上面には,籾殻が滞りなく流れ落ちるのを妨げる平面形状部の一切を排除したものとしている。
【0028】
また,底面フレーム3の底部には,各散布口4,4下端開口部42,42の夫々を開閉可能とするスライド型の開閉シャッター43,43が設けられ,これら開閉シャッター43,43は,互いに一体の平板状に結合され,リフト機構Lに付属する開閉レバー44によって自在に無段階的なスライド操作が可能であり,散布口4,4の開閉および開度調節を行うことが可能であり,しかも開閉状態あるいは開度調節状態を一時的に固定する図示しない仮固定機構が設けられている。」

(1c)「【0035】
・・・散布口4,4上端開口部41,41の漏斗状に開口する開口縁部は,コンテナー部5の底面開口縁と一致し,また,散布口4,4の開口縁部同士の接合部でも,三角形状の頂部形状をなしており,籾殻Cの全てが,残らず落下することとなる。」

(1d)「【0041】
【発明の効果】
以上のとおり,この発明の籾殻散布装置によれば,籾摺によって発生した大量の籾殻を,直接的にコンテナー部中に収容してしまい,そのまま圃場まで運搬すると共に,圃場内を走行可能なトラクタやトレーラーあるいはトラック等に連結または搭載し,開閉シャッターを適宜操作することにより,調整された量の籾殻を散布口から均等に放出,散布することができるものであり,・・・」

上記記載(1a)?(1d)と,第7,8図からみて,開閉シャッターをスライド移動させて散布口を開放する際に,開閉シャッターを散布口の開放を阻害しない底面フレーム内の領域に位置させているものと認められることを総合すると,刊行物1には,以下の発明が記載されていると認められる(以下,「刊行物1記載の発明」という。)。
「トラクタやトレーラー等の走行車両に連結または搭載可能とする機構が組み込まれてなる骨格体と,該骨格体に支持され,所定量の籾殻が収容可能になるコンテナー部とを有し,その底部には,一体構造もしくは着脱自在構造にして設けられた底面フレームを有し,該底面フレームの適所には,上端開口部から下端開口部に向かうに従って開口面積を縮小する漏斗状であり,下端開口部に外部から操作可能な開閉シャッターを付設してなる散布口を設けた籾殻散布装置において,
コンテナー部は,下面を開口し上方側面に開閉可能な籾殻投入口を形成した略箱型であり,
底面フレームは,その前後に平断面略長方形状に開口する二つの散布口が開口しており,
底面フレームの各散布口は,夫々が上端開口部から下端開口部に向けてその平面開口の断面積を次第に縮小する漏斗状傾斜面を形成し,
コンテナー部,柵型骨格部および底面フレームは,夫々個別の部品に分解し,運搬,収納することが可能であり,
柵型骨格部の各下端を,該底面フレームの四隅付近,および各辺中途部に形成された縦孔部に接続し,有底状の骨格体を形成し,
底面フレームの底部には,各散布口下端開口部の夫々を開閉可能とするスライド型の開閉シャッターが設けられ,これら開閉シャッターは,互いに一体の平板状に結合され,リフト機構に付属する開閉レバーによって自在に無段階的なスライド操作が可能であり,
開閉シャッターをスライド移動させて散布口を開放する際に,開閉シャッターを散布口の開放を阻害しない底面フレーム内の領域に位置させ,
散布口上端開口部の漏斗状に開口する開口縁部は,コンテナー部の底面開口縁と一致し,また,散布口の開口縁部同士の接合部でも,三角形状の頂部形状をなしており,籾殻の全てが,残らず落下することとなる
籾殻散布装置。」

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である,特開2003-143913号公報(以下「刊行物2」という。)には,図面とともに以下の記載がある(下線は当審にて付与。)
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明は,籾殻を運搬するための籾殻コンテナに関し,特に,農業用車輌に搭載されて運搬可能であると共に,農業用車輌に搭載されたままの状態で籾殻処理用地に籾殻を播き敷くことができる籾殻コンテナに関するものである。」

(2b)「【0017】一対の底板6,7は,略矩形状に開口された収容フレーム2の底部を閉塞すると共に,その収容フレーム2内の底板を成すものである。ここで,一方の底板6は,収容フレーム2の底部における縦方向一側から縦方向中間部までの区間を閉塞するものであり,他方の底板7は,収容フレーム2の底部における縦方向中間部から縦方向他側までの区間を閉塞するものである。また,収容フレーム2の底部における開口は,その横方向全域にわたって一対の底板6,7により閉塞されており,かかる一対の底板6,7は,一対の揺動軸8,9によって,収容フレーム2の底部における横方向両側に配設された金属製骨材2a,2aに揺動可能に軸支されている。
【0018】揺動軸8,9は,各底板6,7における縦方向一端部を収容フレーム2に揺動可能に軸支するものである。この揺動軸8,9を揺動中心として各底板6,7を下方へ傾動させた場合,各底板6,7における揺動軸8,9側とは反対側(反揺動軸側)に,収容フレーム2の外部へ連通する一対の籾殻播き口10,11が開口される。一対の籾殻播き口10,11は,収容フレーム2内に収容される籾殻を収容フレーム2の外部へ排出するための開口であり,収容フレーム2の底部における横方向全域にわたって開口される。
【0019】一対の底板6,7は,収容フレーム2に搭載された駆動装置12によって相互に連動して揺動されるように構成されており,この駆動装置12は,電動シリンダ13と,チェーン14と,スプロケット15,16と,ロッド17と,揺動アーム18,19とを備えている。
【0020】電動シリンダ13は,電動方式によりスライド移動される可動ロッド13aを備えたシリンダ装置であり,農業用トラクタ50(図6参照)の蓄電用バッテリなどから供給される駆動電圧によって,その可動ロッド13aが上下方向へスライド移動されるように収容フレーム2に配設されている。具体的に,電動シリンダ13は,収容フレーム2における一対の連結プレート5,5間であって,収容フレーム2の底部に横架される金属製骨材2a上に固定されている。」

2-2 本願発明と刊行物1記載の発明との対比
刊行物1記載の発明と本願発明とを対比すると,
刊行物1記載の発明の「トラクタやトレーラー等の走行車両」は,本願発明の「トラクターその他の走行車両」に相当し,以下同様に,
「骨格体と,該骨格体に支持され,所定量の籾殻が収容可能になるコンテナー部」は,「コンテナ部」に,
「下端開口部」は,「散布口」に,
「上端開口部から下端開口部に向かうに従って開口面積を縮小する漏斗状傾斜面」は,「散布口に向かう漏斗状のホッパー部」に,
それぞれ相当する。

また,走行車両とコンテナ部の接続について,刊行物1記載の発明は,「走行車両に連結または搭載可能とする機構が組み込まれてなる骨格体」を備えており,「コンテナー部,柵型骨格部および底面フレームは,夫々個別の部品に分解し,運搬,収納することが可能であり,柵型骨格部の各下端を,該底面フレームの四隅付近,および各辺中途部に形成された縦孔部に接続し,有底状の骨格体を形成し」ていることからみて,走行車両とコンテナ部の接続は着脱可能であるものと認められることから,刊行物1記載の発明の「連結または搭載可能とする機構」は,本願発明の「着脱機構」に相当する。
コンテナ部の形状について,刊行物1記載の発明は「コンテナー部は,・・・略箱型であり」,「柵型骨格部の各下端を,該底面フレームの四隅付近,および各辺中途部に形成された縦孔部に接続し,有底状の骨格体を形成し」,コンテナー部は「該骨格体に支持され」ていることからみて,刊行物1記載の発明と本願発明は,コンテナ部の形状を「概略筐体状」としている点で共通している。
散布口を形成する位置について,刊行物1記載の発明は「底面フレームは,その前後に平断面略長方形状に開口する二つの散布口が開口しており,底面フレームの各散布口は,夫々が上端開口部から下端開口部に向けてその平面開口の断面積を次第に縮小する漏斗状傾斜面を形成し」ていることからみて,刊行物1記載の発明と本願発明は,散布口をコンテナ部底面の前後二箇所の夫々に形成している点で共通している。
散布口の形状について,刊行物1記載の発明は「底面フレームは,その前後に平断面略長方形状に開口する二つの散布口が開口して」いることからみて,「底面フレームの底面」は,本願発明の「コンテナ部底面」に相当し,散布口が前と後ろに形成されていることからみて「前後に平断面略長方形状」は,本願発明の「左右に亘って一文字状」に相当する。
開口の前後長について,刊行物1記載の発明は「底面フレームは,その前後に平断面略長方形状に開口する二つの散布口が開口しており」,「開閉シャッターをスライド移動させて散布口を開放する際に,開閉シャッターを散布口の開放を阻害しない底面フレーム内の領域に位置させ」ていることからみて,開閉シャッターにより閉鎖される各下端開口部の寸法が,底面フレームの底面の前後長寸法の1/3未満に設定されているものと認められる。そうすると,刊行物1記載の発明の「下端開口部」は,本願発明の「各開口の前後寸法をコンテナ部底面前後長寸法の1/3未満に設定した散布口」に相当する。
ホッパー部について,刊行物1記載の発明では,「底面フレームの各散布口は,夫々が上端開口部から下端開口部に向けてその平面開口の断面積を次第に縮小する漏斗状傾斜面を形成し」ていることからみて,刊行物1記載の発明の「各散布口」の「夫々が上端開口部から下端開口部に向けてその平面開口の断面積を次第に縮小する漏斗状傾斜面」は,本願発明の「散布口直近のコンテナ部底面上要所に下り勾配としたホッパー用斜面を夫々形成し」たものに相当する。
左右方向縦断面形状について,刊行物1記載の発明では,「散布口上端開口部の漏斗状に開口する開口縁部は,コンテナー部の底面開口縁と一致し,また,散布口の開口縁部同士の接合部でも,三角形状の頂部形状をなして」いることからみて,刊行物1記載の発明の「散布口の開口縁部同士の接合部」の「三角形状の頂部形状をなして」いる部分は,本願発明の「各ホッパー用斜面上縁を頂部とする左右方向縦断面三角型の底面上膨出部」に相当する。
開閉シャッターの開閉機構について,刊行物1記載の発明では,「底面フレームの底部には,各散布口下端開口部の夫々を開閉可能とするスライド型の開閉シャッターが設けられ,これら開閉シャッターは,互いに一体の平板状に結合され,リフト機構に付属する開閉レバーによって自在に無段階的なスライド操作が可能であ」ることからみて,刊行物1記載の発明の「開閉レバーによって自在に無段階的なスライド操作が可能」な「開閉シャッター」は,本願発明の「遠隔または直接操作可能な開閉操作機構あるいは開放操作機構を有する開閉シャッター」に相当する。

したがって,両者は以下の点で一致している。
「トラクターその他の走行車両に着脱機構を介して連結または搭載可能な概略筐体状のコンテナ部を有し,該コンテナ部底面の前後二箇所の夫々に,左右に亘って一文字状に開口し,各開口の前後寸法をコンテナ部底面前後長寸法の1/3未満に設定した散布口を形成すると共に,それら各散布口に向かう漏斗状のホッパー部を形成するよう,当該散布口直近のコンテナ部底面上要所に下り勾配としたホッパー用斜面を夫々形成し,各ホッパー用斜面上縁を頂部とする左右方向縦断面三角型の底面上膨出部を形成したものとした上,各散布口には,遠隔または直接操作可能な開閉操作機構あるいは開放操作機構を有する開閉シャッターを組み込んでなるものとした籾殻散布装置。」

そして,以下に示す点で相違している。
<相違点>
(相違点1)
コンテナ部底面の前後に設けた散布口について,
本願発明では,前後均等配置しているのに対し,
刊行物1記載の発明では,どのように形成しているか不明な点。

(相違点2)
下り勾配としたホッパー用斜面について,
本願発明では,45°以上の下り勾配としているのに対し,
刊行物1記載の発明では,斜面の角度について不明な点。

(相違点3)
開閉シャッターについて,
本願発明では,「各散布口には,前端がわを軸着端とし,後端がわを下向き開放可能な開閉端となし」ているのに対し,
刊行物1記載の発明では,各散布口下端開口部の夫々を開閉可能とするスライド型としている点。

2-3 判断
(相違点1について)
刊行物1の段落0041に「籾殻を散布口から均等に放出,散布する」との記載があるように,刊行物1記載の発明も各散布口から可及的均等に籾殻を放出したいとの課題を有しており,散布口の配置が均等でない場合には一方の散布口からの放出が先に減少してしまうなど籾殻の散布を均等に行うことが困難となることがその構造から普通に認識されるものであること,刊行物1の第3図,第5図にも籾殻を略前後均等に放出し,その散布口(下端開口部)を前後略均等配置している様子が記載されていることから,当該課題を解決するために刊行物1記載の発明のコンテナ部底面の前後に設けた散布口を前後均等配置にすることは,当業者が適宜行う設計的事項である。

(相違点2について)
刊行物1の段落0027の「籾殻が滞りなく流れ落ちるのを妨げる平面形状部の一切を排除した」との記載,段落0035の「三角形状の頂部形状をなしており,籾殻Cの全てが,残らず落下することとなる」との記載からみて,刊行物1記載の発明は籾殻を円滑かつ安定的に散布しようとするものであることは明らかであり,かつ,下り勾配が大きな方が,その上にのる物が落下しやすくなることは普通に認識されることであることから,当該課題を解決できるようにコンテナ部と散布口の前後長等に応じて漏斗状傾斜面の下り勾配の角度を十分大きく設定することは当業者が適宜行うことである。

ここで,本願の段落0022の「散布口直近のコンテナ部底面上要所に45°以上の下り勾配としたホッパー用斜面を形成したものでは,45°未満の下り勾配に設定されたものに比較し,ホッパー用斜面間に臨む籾殻その他の粒状物や粉状物によってブリッジ状の空洞部を形成する現象をより一層確実に防止できる」との記載,段落0051の「各散布口4,4より上方のコンテナ部2内には,ホッパー部3,3を含め,平坦面や鈎状面などの籾殻Cを留めるような形状を一切排除しており,しかも各ホッパー用斜面31に45°の下り勾配をもたせ,前後散布口4,4間に配された各ホッパー用斜面31,31上縁同士の接合部分を頂部とする左右方向縦断面三角型の底面上膨出部32を形成してあり,籾殻Cの放出中に空洞部が形成されてブリッジ状態を呈してしまうような事態を確実に阻止でき,常に円滑且つ安定的な散布を実現化している」との記載等からみて,本願発明は,ホッパー用傾斜面の下り勾配を45°以上とすることにより,散布作業中におけるコンテナ部内の籾殻に空洞部が形成されることを確実に阻止し,籾殻の円滑且つ安定的な散布を実現しようとしているものと解される。

しかし,籾殻の円滑かつ安定的な散布は,ホッパー用傾斜面の勾配のみでなく,コンテナ部と散布口の前後長等にも大きく依存するものであることは明らかであり,コンテナ部や散布口の前後長をどのように設定した場合にもホッパー用傾斜面の勾配を45°以上とすることにより籾殻の円滑かつ安定的な散布を行えることが実験データ等により客観的に証明されておらず,むしろ,散布口の前後長が小さい場合にはホッパー用傾斜面の勾配を45°以上としたとしても,散布作業中におけるコンテナ部内の籾殻に空洞部が形成されることを確実に阻止できるとは認められないことを考慮すれば,当該勾配を45°以上としたことにより,散布作業中におけるコンテナ部内の籾殻に空洞部が形成されることを確実に阻止するとの効果は本願発明が必ず奏する効果であるとまでは認められない。さらに,45°未満と45°以上との間で,一般常識からは予期し得ない,いわゆる特異点のような効果の違いがあるとも認められないことから,45°なる値に臨界的意義はないことは明らかである。

そうすると,刊行物1記載の発明において,コンテナ部と散布口の前後長等に応じて漏斗状傾斜面の下り勾配の角度を十分大きく設定する際に,その勾配を45°以上とすることは,籾殻を円滑かつ安定的に散布するとの課題に基づき,勾配を最適化することにほかならず,その程度のことは,実施に当たり,当業者が適宜に行い得る程度の設計的な事項にすぎない。

(相違点3について)
刊行物2には(2a),(2b)からみて,農業用車輌に搭載されて運搬可能な籾殻を運搬するための籾殻コンテナを農業用車輌に搭載されたままの状態で籾殻処理用地に籾殻を播き敷くために,揺動軸を揺動中心として各底板を下方へ傾動させた場合,各底板における揺動軸側とは反対側(反揺動軸側)に,収容フレームの外部へ連通する一対の籾殻播き口が開口させる点について記載されており,第6図からみて前端側に揺動軸を備え,後端側を開口させているものと認められることから,刊行物2には前端がわを軸着端とし,後端がわを下向き開放可能な開閉端とした揺動式の開閉シャッター(底板)が記載されている。
開口部の開閉手段として,揺動式の板状部材やスライド式の板状部材を用いることは,例を示すまでもなく周知の技術であって,技術分野を問わず広く知られており,籾殻散布装置においても,揺動式とスライド式の散布口の開閉部材が刊行物1,2にみられるように公知であったことを考慮すれば,刊行物1に記載の発明の散布口の開閉手段である開閉シャッターを,刊行物2に記載の揺動式として,相違点3に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本願発明の作用効果は,刊行物1記載の発明,刊行物2の記載事項,及び,周知技術から予測できる程度のものである。

なお,請求人は,平成22年9月13日付けの意見書において,「ホッパー部や開閉シャッターおよび阻害部材などを装備した籾殻散布装置は,どうしても構造の複雑化を避けることができず,部品点数を増加させてしまうという欠点を有しており」と主張しているが,本願発明の請求項の記載からみて本願発明は阻害部材などを装備していないものを排除するようなものではなく,本願発明は阻害部材などを備えたものも発明に含むことから,請求の範囲の記載に基づかない主張である。
また,仮に,本願発明が阻害部材などを装備していないものであることを特定したとしても,刊行物2には阻害部材を設けない籾殻散布装置が記載されており,部品点数を減らすとの周知の課題を重視して,刊行物1記載の発明の阻害部材を省くことは当業者が適宜行う設計的事項である。

したがって,本願発明は,刊行物1記載の発明,刊行物2の記載事項,及び,周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

なお,「第2」で示したように補正を却下すべきものであるとしたが,仮に,本件補正が明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるとし,補正を却下しないものとし,請求項1に係る発明の「左右方向縦断面」を「左右方向縦断面(図1に示すように表れる断面か,それに相当する断面)」と認定しても,刊行物1記載の発明の「散布口の開口縁部同士の接合部」の「三角形状の頂部形状をなして」いる部分は,本願発明の「各ホッパー用斜面上縁を頂部とする左右方向縦断面(図1に示すように表れる断面か,それに相当する断面)三角型の底面上膨出部」に相当するものであり,「第3 2-2」で示した相違点1?3で相違することになることから,本件補正後の請求項1に係る発明も,「第3 2-3」で示したのと同様の理由により,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は特許を受けることができないものであることから,本願の他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-21 
結審通知日 2012-06-26 
審決日 2012-07-09 
出願番号 特願2006-328688(P2006-328688)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (A01C)
P 1 8・ 121- Z (A01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 隆彦  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 中川 真一
横井 巨人
発明の名称 籾殻散布装置  
代理人 佐々木 實  

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