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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1262641
審判番号 不服2010-6061  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-19 
確定日 2012-09-06 
事件の表示 平成11年特許願第280574号「半導体装置用基板」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月10日出願公開、特開2001- 97780〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成11年9月30日の出願であって、平成21年9月14日付けで拒絶理由通知書が起案され (発送日は同年9月29日)、平成21年11月30日に明細書の記載に係る手続補正書及び意見書が提出され、平成21年12月17日付けで拒絶査定が起案され (発送日は同年12月22日)、平成22年3月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に同日付けで発明の名称及び明細書の記載に係る手続補正書が提出されたものであり、その後平成23年11月28日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され(発送日は同年11月29日)、平成24年1月26日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成22年3月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年3月19日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)本願補正発明
平成22年3月19日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、平成21年11月30日付けの手続補正による補正前の
「【請求項1】
メタライズ形成性に優れる窒化アルミニウム焼結体であって、
酸化イットリウムを10重量%以下含有し、波長が3650オングストロームかつ紫外線強度が3730μW/cm^(2)であるブラックライトを照射した際にオレンジ色に発光する発光面積が90%以上であり、前記ブラックライトの照射面にY-Al-O系化合物からなる液相成分を有することを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】
前記発光面積が98%以上であることを特徴とする請求項1記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項3】
請求項1または2記載の窒化アルミニウム焼結体表面上にメタライズ層を設けたことを特徴とする半導体装置用基板。」
から、次のとおりに補正された。
「【請求項1】
窒化アルミニウム焼結体表面上にWメタライズ層を設けた半導体装置用基板であって、
前記窒化アルミニウム焼結体は、メタライズ形成性に優れるものであって、酸化イットリウムを10重量%以下含有し、波長が3650オングストロームかつ紫外線強度が3730μW/cm^(2)であるブラックライトを照射した際にオレンジ色に発光する発光面積が90%以上であり、前記ブラックライトの照射面にY-Al-O系化合物からなる液相成分を有することを特徴とする半導体装置用基板。
【請求項2】
前記発光面積が98%以上であることを特徴とする請求項1記載の半導体装置用基板。」

上記補正は、本件補正前の請求項1、2を削除し、本件補正前の請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「窒化アルミニウム焼結体表面上にメタライズ層を設けた」を、「窒化アルミニウム焼結体表面上にWメタライズ層を設けた」と限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号及び第2号に規定する請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか、以下に検討する。

(2)刊行物に記載された事項
(2.1)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された、特開平5-238830号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア-2)「【従来の技術】従来の金属材料と比較して強度、耐熱性、耐食性、耐摩耗性、軽量性などの諸特性に優れたセラミックス焼結体が、半導体、電子機器材料、エンジン用部材、高速切削工具用材料、ノズル、ベアリングなど、従来の金属材料の及ばない苛酷な温度、応力、摩耗条件下で使用される機械部品、構造材や装飾品材料として広く利用されている。
特に窒化アルミニウム(AlN)焼結体は高熱伝導性を有する絶縁体であり、シリコン(Si)に近い熱膨張係数を有することから高集積化した半導体装置の放熱板や基板として、その用途を拡大している。」(段落【0002】?【0003】)

(イ-2)「一方原料粉末として平均粒径0.5μm以上のAlN粉末を使用する場合は、その原料粉末単独では焼結性が良好でないため、ホットプレス法以外には助剤無添加では緻密な焼結体を得ることが困難であり、量産性が低い欠点があった。そこで常圧焼結法によって効率的に焼結体を量産しようとする場合には、焼結体の緻密化およびAlN原料粉末中の不純物酸素がAlN結晶粒子内へ固溶することを防止するために、焼結助剤として、酸化イットウリム(Y_(2) O_(3) )などの希土類酸化物や酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属酸化物等を添加することが一般に行なわれている。
これらの焼結助剤は、AlN原料粉末に含まれる不純物酸素と反応してイットリウム-アルミニウム-ガーネット(YAG,3Y_(2) O_(3 )・5Al_(2) O_(3) )、イットリア-アルミナ化合物(YAL,Y_(2) O_(3) ・Al_(2) O_(3) )、イットリア-アルミナ-金属化合物(YAM,2Y_(2) O_(3) ・Al_(2) O_(3) )などから成る液相を形成し、焼結体の緻密化を達成するとともに、この不純物酸素を粒界相として固定し、高熱伝導率化も達成するものと考えられている。またこれらの液相は焼結後においてAlN結晶粒の粒界部にガラス質または結晶質として凝固して粒界相を形成し、この粒界相がAlN結晶粒を相互に強固に結合せしめAlN焼結体全体の強度を高めると考えられている。」(段落【0009】?【0010】)

(ウ-2)「すなわち本発明者らは加熱焼結操作完了直後における焼結体の冷却速度の大小が、最終的に製造される焼結体の品質特性に大きな影響を及ぼすことを突き止めた。
すなわち、従来の製造方法においては、成形体を所定の焼結温度で一定時間加熱保持して緻密化焼結を実施した後に、焼成炉の加熱用電源をOFFとし焼結体を炉冷していたため、焼成炉の形式によって差はあるが、焼結体の冷却速度が毎時400?800℃程度と極めて大きな値となっており、焼結体の窒化アルミニウム結晶組織が粗雑になる大きな原因であることが確認された。X線回折図や走査型電子顕微鏡写真等で焼結体の破面を観察したところ、図2に示すように、直径Db が5?10μm程度の粗大な酸化物粒界相5や直径Dp が50?100μm程度の粗大な気孔6がAlN結晶粒7の粒界部に多数形成されていることが判明した。これらの粒界相5は、焼結助剤として添加したY2 O3 などの希土類化合物が焼結時に窒化アルミニウム原料粉末表面のアルミニウム酸化物と反応して生成した液相(成分:YAG,YAL,YAMなど)が冷却時に凝集偏析して形成されたものである。また粗大な粒界相5の周辺には液相がなくなった気孔6が形成され、上記粒界相5および気孔6は共に窒化アルミニウム焼結体の熱伝導を妨げる抵抗として作用するとともに、気孔6は未焼結部となりAlN結晶粒7相互の接合強度が低下し、焼結体全体としての強度が低下してしまうことが判明した。
一方、焼成炉の加熱装置に対する通電量を制御して焼結直後の焼結体の冷却速度を、従来の炉冷による冷却速度より低く設定して得られた焼結体の結晶組織を観察し、また焼結体の各種特性を測定した。その結果、図1に示すようにいずれも窒化アルミニウム結晶組織の粒界相5aの直径Db が小さく、液相の凝集偏析がなく、微細な粒界相が均一に分布した結晶組織が得られた。また気孔6aについても直径Dp が小さく、凝集が少ない均一分布を有する組織が得られ、高い熱伝導率および高強度を備えるAlN焼結体が得られた。
本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。すなわち本発明に係るセラミックス焼結体の製造方法は、窒化アルミニウムに粉末に対して、粒界相形成成分として希土類元素およびアルカリ土類金属元素の少なくとも一方を添加した原料混合体を成形脱脂し、得られた成形体を1700?2000℃の焼結温度で所定時間加熱焼結した後に、上記焼結温度から、上記希土類元素および/またはアルカリ土類金属元素により焼結時に形成された液相が凝固する温度までに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下に設定したことを特徴とする。
さらに本発明に係る窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウム結晶組織に希土類元素およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を含む粒界相が形成され、粒界相の最大径が1μm以下であることを特徴とする。
また窒化アルミニウム結晶組織に介在する気孔の最大径は1μm以下に設定するとよい。
さらに粒界相を構成する希土類元素およびアルカリ土類金属の少なくとも一方の焼結体に対する含有量は1?7.5重量%に設定するとよい。」(段落【0014】?【0020】)

(エ-2)「次に上記窒化アルミニウム焼結体を製造する場合の概略工程について説明する。すなわち窒化アルミニウムに所定量の焼結助剤、有機バインダ等の必要な添加剤を加えて原料混合体を調製し、次に得られた原料混合体を成形して所定形状の成形体を得る。原料混合体の成形法としては、汎用の金型プレス法、静水圧プレス法、あるいはドクターブレード法、ロール成形法のようなシート成形法などが適用できる。
上記成形操作に引き続いて、成形体を非酸化性雰囲気中、例えば窒素ガス雰囲気中で温度400?500℃で1?2時間加熱して、予め添加していた有機バインダを充分に除去する。
次に脱脂処理された成形体は、焼成容器内に収容して焼成炉内において多段に積層され、この配置状態で複数の成形体は一括して所定温度で焼結される。焼結操作は、窒素ガスなどの非酸化性雰囲気で成形体を温度1700?2000℃に2?10時間程度加熱して実施される。焼結雰囲気は、窒素ガス、または窒素ガスを含む還元性雰囲気で行なう。還元性ガスとしてはH2 ガス、COガスを使用してもよい。なお、焼結は真空(僅かな還元雰囲気を含む)、減圧、加圧および常圧を含む雰囲気で行なってもよい。焼結温度が1750℃未満と低温状態で焼成すると、原料粉末の粒径、含有酸素量によって異なるが、緻密な焼結体が得にくい一方、2000℃より高温度で焼成すると、焼成炉内におけるAlN自体の蒸気圧が高くなり緻密化が困難になるおそれがあるため、焼結温度は上記範囲に設定される。
上記焼結操作において緻密な焼結体を得るためにも、また焼結体の熱伝導率を向上させるためにも、ある程度の焼結助剤の添加は必要である。しかしながら、焼結助剤はAlNや不純物酸素と反応してAl_(5) Y_(3) O_(12),AlYO_(3) ,Al_(2) Y_(4) O_(9) などの酸化物を形成して粒界相に析出する。これら粒界相の酸化物は熱伝導を妨げる作用を有することが確認されている。したがって過剰量の粒界相が形成されないように焼結助剤の添加量は厳正に管理する必要がある。
上記製法によって製造された窒化アルミニウム焼結体は、いずれも多結晶体として非常に高い200w/m・k(25℃)に近い熱伝導率を有し、また曲げ強度等の機械的特性にも優れている。」(段落【0028】?【0032】)

(オ-2)「実施例1?3
不純物として酸素を1.0重量%含有し、平均粒径1.5μmの窒化アルミニウム粉末に対して、焼結助剤としてのY_(2 )O_(3) (酸化イットリウム)を5重量%添加し、エチルアルコール中で30時間湿式混合した後に乾燥して原料粉末混合体を調製した。次に乾燥して得た原料粉末混合体をプレス成形機の成形用金型内に充填して1200kg/cm^(2 )の加圧力にて圧縮成形して円板状放熱板の成形体を多数調製し、引き続き各成形体を空気中で温度375℃で2時間加熱して脱脂処理した。
次に前記工程で脱脂処理した複数の成形体を、図3に示すように2個ずつまとめて高純度AlN製焼成容器3内に収容し、この4個の焼成容器3をN_(2) ガスを封入した焼成炉内に2段に積層配置した。そして焼成炉1内の温度を1815℃まで高めた状態で4時間保持し、緻密化焼結を実施した後に、焼成炉に付設した加熱装置への通電量を減少させて焼成炉内温度が1500℃まで降下するまでの間における焼結体の冷却速度がそれぞれ100℃/hr(実施例1)、50℃/hr(実施例2)、25℃/hr(実施例3)、となるように調整して焼結体を冷却した。その結果、それぞれ直径100mm、厚さ3.0mmである実施例1?3に係るAlNセラミックス焼結体を8個ずつ調製した。」(段落【0035】?【0036】)

(カ-2)「表1に示す結果から明らかなように、実施例1?3に係る窒化アルミニウム焼結体においては、比較例1?2と比較して緻密化焼結完了直後における焼結体の冷却速度を従来法より低く設定しているため、結晶組織内において液相の凝集偏析が少なく、また気孔の凝集もなかった。顕微鏡観察したところ、結晶組織はいずれも図1に示すように粒界相5aの最大径Db が1μm未満と小さく、また気孔6aの最大径Dp も1μm未満と微小であった。そして微細な粒界相が均一に分布した結晶組織であるため、高密度(高強度)で高熱伝導度を有する放熱性の高い焼結体が得られた。」(段落【0041】)

(キ-2)「【発明の効果】以上説明の通り本発明に係る窒化アルミニウム焼結体およびその製造方法によれば、焼結処理完了直後における焼結体の冷却速度を毎時100℃以下と小さく設定しているため、炉冷のような急速冷却を実施した場合と異なり、焼結時に生成した液相の凝集偏析が少なく、微細な粒界相が均一に分布した結晶組織が得られる。また結晶組織に形成される気孔も小形化すると同時に減少させることができる。したがって、粗大な粒界相や気孔によって熱伝達や緻密化が阻害されることが少なく、高強度で高い熱伝導率を有する窒化アルミニウム焼結体が得られる。」(段落【0043】)

(2.2)刊行物4
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、特開昭62-167260号公報(以下、「刊行物4」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア-4)「(1)紫外線、X線あるいは電子線下で発光中心となる元素を含むことを特徴とする窒化アルミニウム焼結体からなる発光焼結体。
(2)発光中心が窒化アルミニウム以外の副構成相にあることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の発光焼結体。
(3)添加物が、SC,La,Y,Gd,LuおよびCa,Ba,Srの少なくとも1種の化合物であり、これに発光中心となる元素の化合物としてCe,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Er,Tm,Ho,Cr,Mn,Ga,Pb,Biの化合物の群から少なくとも一種を添加物に対して0.001?10原子%加えたことを特徴とする特許請求の範囲第2項記載の発光焼結体。
(4)添加物の合計量が元素換算で0.01?15重量%である混合粉体を1600?2000℃で焼結したことを特徴とする特許請求の範囲第3項記載の発光焼結体。」(第1頁、特許請求の範囲)

(イ-4)「〔発明の技術的背景とその問題点〕
窒化物焼結体は、大きな機械的強度あるいは、高い熱伝導率を利用して高温部品材料あるいは半導体基板への応用が広がろうとしている。これらの焼結体では焼成ロットや焼結体中の特性バラツキを非破壊的に検査することが望まれている。この検査は信頼性の向上に重要な役割を果す。」(第1頁右下欄6行?12行)

(ウ-4)「〔発明の概要〕
この発明は、窒化物焼結体には、通常主成分の窒化物相のほかに焼結助剤に起因した酸化物相が含まれていることに注目してなされた。すなわちこれらの酸化物相に微量の発光性元素を含有させることによってなされた。
焼結助剤は、主に焼結体の緻密化のために主成分の原料に0.01?15wt%加えられる物質である。窒化アルミニウムの場合、高温で酸化イットリウムあるいは酸化カルシウムになるような化合物粉体が助剤となり、これは高温焼結処理中に液相となり、主成分窒化物粒子間にあって焼結を促進するほか、酸素など主成分中の不純物をとりこんで熱伝導などの特性を向上させるといわれている。焼結後、助剤は、主成部粒子間に固溶体あるいは副相として存在する。窒化アルミニウム焼結体で酸化イットリウム助剤の場合、副相Y_(2)O_(3)・xA1_(2)O_(3)の化学組成で表わされ、助剤含量によって、Y_(3)Al_(5)O_(12)(x=5/3)、YAlO_(3)(x=1)、Y_(4)Al_(2)O_(9)(x=1/2)などの結晶となる。」(第2頁右上欄1行?末行)

(エ-4)「この発明では、上記焼結助剤粉体を窒化物原料粉体に添加する時に同時に、助剤を構成する陽イオン元素に対し、0.001?50原子%のセリウム、プラセオジム、ネオジム、ビスマスの少くとも1種の元素を含む化合物を添加する。添加には、共沈などの手段であらかじめ助剤中にこれらの元素を含有せしめておく方法か、あるいはこれらの元素を含む化合物粉体あるいは液体を助剤に加える方法がとられる。不純物元素の添加量の下限値は無添加の場合に比べて発光強度が強くなる限界から求められたものである。」(第2頁左下欄1行?11行)

(オ-4)「〔発明の効果〕
本発明の焼結体を紫外線、X線あるいは電子線からなる励起源下におくと、発光を示す。焼結体中の発光強度の分布は目視によって容易に観察できる。この分布は、焼結体全面に均一な体色の分布をもっている場合でも、不均一になることが多い。発光強度の分布は焼結体中の発光性元素あるいは、焼結体中に生成した副相生成物の含量分布あるいは、副相生物の化学種の分布に起因していると考えられ、したがって、この分布から焼結体の化学組成とその量の均一性が容易に判明する。
一方、異なる化学種の結晶格子内にある発光性元素が異なる発光色を示すことはよく知られている。たとえばセリウム不純物を含むY_(3)Al_(5)O_(12)は紫外線下で黄色発光を示すのに、YAlO_(3)は紫外部発光を示す。ユーロピウムやクロム不純物を含む酸化物ではその発光色は化学種によって大きくかわらず、前者は赤?橙色で後者は深赤色となるが、この場合も発光スペクトルの位置や形を測定することによって化学種を同定することができる。したがって、焼結体に生成した副相の化学種を発光色から推測することができる。」(第2頁右下欄下から4行?第3頁左上欄18行)

(カ-4)「上記のように本発明の焼結体により、焼結体中の化学組成と量の均一性および副相生成物種が、発光を観察することにより容易に調べることができる。紫外線励起の場合、光源はたとえば東京光学機械(株)の市販品である螢光検査灯(FI-31L形)を用いればよく、空気中、目視で発光を観測できる。これは他の非破壊検査法に比べ簡便である。さらに発光は、微弱なものも目視で検出可能であり、高感度な検出法である。」(第3頁左上欄19行?右上欄7行)

(キ-4)「実施例2
実施例1と同様なAl粉末にY_(2)O_(3)粉末を1重量%およびCr_(2)O_(3)を0.01重量%添加し、ボールミルで粉砕し混合を行ない原料を調製した。つづいて、この原料を500kg/cm^(2)の圧力でプレス成形して直径12mm、厚さ10mmの圧粉体とした。次いで、この圧粉体をカーボン型中に入れ窒素ガス雰囲気中、1750℃で100kg/cm^(2)の圧力下で1時間ホットプレス焼結してAlN焼結体を製造した。
得られた焼結体に紫外線(波長365μm)を照射したところ、焼結体は均一に淡橙色の螢光を発した。X線回折により構成相を同定したところ、実施例-1と同じくAlNとY_(3)Al_(5)O_(12)であった。」(第3頁右下欄11行?第4頁左上欄3行)

(2.3)刊行物5
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、特開昭62-287133号公報(以下、「刊行物5」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア-5)「(1)窒化物焼結体に紫外線又は電子線を照射した際の発光により焼結体の均質性を判断することを特徴とする焼結体の検査方法。
(2)前記窒化物焼結体が、主成分の窒化物の他にセリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、エルビウム、ツリウム、ホロミウム、クロム、マンガン、ガリウム、鉛、ビスマスの少くとも一種を含むことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の焼結体の検査方法。」(第1頁、特許請求の範囲)

(イ-5)「(従来の技術)
窒化物焼結体は、大きな機械的強度あるいは、高い熱伝導率を利用して高温部品材料あるいは半導体基板への応用が広がろうとしている。これらの焼結体では焼成ロットや焼結体中の特性バラツキを非破壊的に検査することが望まれている。この検査は信頼性の向上に重要な役割を果す。」(第1頁左下欄末行?右下欄6行)

(ウ-5)「(問題点を解決するための手段及び作用)
この発明は、ある種の窒化物焼結体に紫外線あるいは電子線を照射したとき、焼結体の部分によって異なる発光色と発光強度を見出したことによってなされた。一般に窒化物焼結体は原料粉体と焼結助剤と呼ばれる無機物粉体をバインダーと呼ばれる有機物液体と混合し、常温で成形した後、400℃?800℃でバインダーを揮散せしめる目的で仮焼し、さらに1600?2000℃の高温下で常圧もしくは加圧下で焼結して作成される。高温焼成下では、焼結助剤は液相として存在する。通常の焼結体の体色は灰?黒色であるが、原料および焼結雰囲気の着色性不純物が少い、そしてAlとNのモル比が1に近いと体色は白色又は透明に近くなる。この種の焼結体が本発明の検査法の対象として適している。すなわち、紫外線あるいは電子線照射によって発光が観察される。焼結体中の発光分布の原因には、上記焼結助剤液相の焼結中の分布あるいは焼結助剤と原料の反応による粒子界面化合物の種類分布があり、これらは、焼結体の均質-不均質性を示している。したがって、焼結体の均質-不均質性を目視によって容易に評価できる。
発光観察を容易にするため、窒化物焼結体の機械的強度や高い熱伝導率を損わない程度の微量の発光性不純物をあらかじめ原料粉末に加えておいてもよい。たとえばY_(2)O_(3)を焼結助剤とする場合Eu_(2)O_(3),Tb_(4)O_(7),CeO_(2)などの発光性不純物をAlNに対して0.001?5原子%加えておくと、発光強度が大きくなる。これにより、Y_(2)O_(3)化合物系液相の分布が容易にわかる。また、原料がAlNの場合、Y_(3)Al_(5)O_(12)、YAlO_(3)、Y_(4)Al_(2)O_(9)などの粒子界面化合物種が、これらの中にある発光性不純物の発光色の違いから容易に判明する。」(第3頁左上欄下から3行?左下欄10行)

(エ-5)「(実施例)
(1)AlN粉末にY_(2)O_(3) 6重量%、Cr_(2)O_(3)、0.005重量%、およびCeO_(2)を0.1重量%添加し、ボールミルで粉砕、混合を行ない原料を調製した。つづいて、この原料にパラフィンを7重量%添加して造粒した後、500kg/cm^(2)の圧力でプレス成形して30×30×8mmの圧粉体とした。ひきつづき、この圧粉体を窒素雰囲気中で700℃まで加熱してパラフィンを除去した。次いで、カーボン容器中に収容し、窒素ガス雰囲気中、1800℃にて2時間常圧焼結して、AlN焼結体を製造した。
上記の方法で作成した焼結体の断面に東京光学(株)の市販品である蛍光探査灯FI-31Lの紫外線を照射した。このとき第1図の焼結体の11の部分は黄色に発光し、この発光がY_(3)Al_(5)O_(12):Ceと同じであることから、この部分にY_(3)Al_(5)O_(12)相の存在することがわかる。12の部分は発光せず、13の部分は第橙色に発光した。これらの部分の体色は白?灰であって、通常の可視光下で差はみられなかった。」(第2頁左下欄11行?右下欄9行)

(2.4)刊行物6
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、特開平8-119742号公報(以下、「刊行物6」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア-6)「【従来の技術】LSIの高集積化および高速化などに伴って、半導体素子の発熱量や発熱密度は非常に増大化する傾向にある。そのために、半導体素子を搭載するセラミックス基板やヒートシンクは、熱伝導性が高く、半導体素子との熱膨脹差が小さいことが求められている。窒化アルミニウム(AlN)セラミックスは、金属アルミニウム並みの熱伝導性と、シリコンチップに近い熱膨脹率を有しているため、アルミナ(Al_(2) O_(3) )などの従来のセラミックス基板と比較して高性能の半導体基板として優れている。
上記窒化アルミニウムセラミックス基板は、AlN原料粉末にY_(2)O_(3)などの焼結助剤およびバインダなどの添加剤を添加して調製した原料混合体をシート成形法やプレス成形法により所定形状の成形体とし、得られた成形体を脱脂後、焼成炉において適切な雰囲気および温度圧力条件下で焼結して製造されている。上記焼結操作において緻密化と高熱伝導化とが促進され、高強度で放熱性に優れたAlNセラミックス基板が得られている。」(段落【0002】?【0003】)

(イ-6)「一方、窒化物セラミックス基板上に、MoやWなどの高融点金属を含有するメタライズペーストを印刷塗布し、焼成炉中で焼付けることにより、メタライズ層を一体に形成するセラミックス基板においては、焼結時の温度(メタライズ温度)を1500?1900℃程度と高く設定する必要がある。」(段落【0008】)

(2.5)刊行物7
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、特開平4-285071号公報(以下、「刊行物7」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア-7)「【従来の技術】近年ICの高集積化が進み、特にパワーIC内部における発熱量が増える傾向にあり、IC搭載用基板を経由して熱を逃がすように熱伝導率の高い基板が求められている。ここで、従来IC搭載用基板として、一般的には熱伝導率が30W/mK程度のAl_(2)O_(3)が使われており、また例えば軍事用等ヘビーデューティ用としては熱伝導率が260W/mK程度のBeOが用いられているが、適切なコストでこれらAl_(2)O_(3)とBeOとの間をつなぐような、150W/mK?200W/mK程度の熱伝導率をもつ基板の出現が望まれている。
これらAl_(2)O_(3)とBeOとの間をつなぐような熱伝導率の実現が期待され、かつICの素材であるSiと同程度との熱膨張率を有する基板用材料としてAlNが注目されており、上記150W/mK?200W/mK程度の熱伝導率を満足するAlN基板も提案されている(特開昭61-146769号公報、特開昭61-219763号公報参照)。
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、熱伝導率が上記程度のAlN板が実現されてもそれのみではAlN板をIC搭載用等の基板として用いることはできず、このAlN板をIC搭載用等の基板として用いるためには、上記
(1)高熱伝導率(150W/mK以上)
のほか、これと同時に
(2)表面粗度が低く表面が滑らかであること。
AlN板をIC搭載用基板として用いるためには、AlN板上に金や銅等の金属を付するいわゆるメタライズ化を行うことができることが要求され、したがってAlN板の表面が粗いとメタライズの際の接合不足、結合不良などの発生率が大きくなって不都合であり、したがって表面粗度がJIS B0601(後述する)で規定される、中心線平均粗さ(Ra)で0.5μm程度以下であることが要求される。従来、AlN板をメタライズする際は、この要求を満たすためにこのAlN板を研磨しており、その分工程数が増えコスト高となっていた。
(3)表面が一様であること。これは基板としての信頼性を保持するために検査工程等から要求され、主として目視で判断されるが、ここでは後述するように透過率の変動を併用して判定している。が要求される。」(段落【0002】?【0006】)

(3)対比、判断
(3.1)刊行物2には、記載事項(ア-2)に「特に窒化アルミニウム(AlN)焼結体は高熱伝導性を有する絶縁体であり、シリコン(Si)に近い熱膨張係数を有することから高集積化した半導体装置の放熱板や基板として、その用途を拡大している。」と記載され、また記載事項(イ-2)に「一方原料粉末として平均粒径0.5μm以上のAlN粉末を使用する場合は、その原料粉末単独では焼結性が良好でないため、ホットプレス法以外には助剤無添加では緻密な焼結体を得ることが困難であり、量産性が低い欠点があった。そこで常圧焼結法によって効率的に焼結体を量産しようとする場合には、焼結体の緻密化およびAlN原料粉末中の不純物酸素がAlN結晶粒子内へ固溶することを防止するために、焼結助剤として、酸化イットウリム(Y_(2) O_(3) )などの希土類酸化物や酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属酸化物等を添加することが一般に行なわれている。
これらの焼結助剤は、AlN原料粉末に含まれる不純物酸素と反応してイットリウム-アルミニウム-ガーネット(YAG,3Y_(2) O_(3 )・5Al_(2) O_(3) )、イットリア-アルミナ化合物(YAL,Y_(2) O_(3) ・Al_(2) O_(3) )、イットリア-アルミナ-金属化合物(YAM,2Y_(2) O_(3) ・Al_(2) O_(3) )などから成る液相を形成し、焼結体の緻密化を達成するとともに、この不純物酸素を粒界相として固定し、高熱伝導率化も達成するものと考えられている。またこれらの液相は焼結後においてAlN結晶粒の粒界部にガラス質または結晶質として凝固して粒界相を形成し、この粒界相がAlN結晶粒を相互に強固に結合せしめAlN焼結体全体の強度を高めると考えられている。」と記載されていると共に、記載事項(ウ-2)に「さらに本発明に係る窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウム結晶組織に希土類元素およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を含む粒界相が形成され、粒界相の最大径が1μm以下であることを特徴とする。
また窒化アルミニウム結晶組織に介在する気孔の最大径は1μm以下に設定するとよい。
さらに粒界相を構成する希土類元素およびアルカリ土類金属の少なくとも一方の焼結体に対する含有量は1?7.5重量%に設定するとよい。」と記載されている。

これらの記載を整理すると、刊行物2には、
「 焼結助剤として酸化イットリウムを1?7.5重量%含有し、該酸化イットリウムがAlN原料粉末に含まれる不純物酸素と反応して生成したYAG、YAL、YAMなどからなる液相成分を有する、粒界相の最大径が1μm以下で、窒化アルミニウム結晶組織に介在する気孔の最大径が1μm以下である窒化アルミニウム焼結体を用いた半導体装置用基板。」
の発明(以下、「刊行2発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3.2)本願補正発明と刊行2発明とを対比する。
刊行2発明における焼結助剤の「酸化イットリウムがAlN原料粉末に含まれる不純物酸素と反応して生成したYAG、YAL、YAMなどからなる液相成分」は、その組成からして「Y-Al-O系化合物」に該当することは明らかである。

そうすると、両者は、

「窒化アルミニウム焼結体を用いた半導体装置用基板であって、
前記窒化アルミニウム焼結体は、酸化イットリウムを10重量%以下含有し、Y-Al-O系化合物からなる液相成分を有する半導体装置用基板。」

で一致し、次の点で相違する。

(相違点a)本願補正発明が「窒化アルミニウム焼結体表面上にWメタライズ層を設けた半導体装置用基板」であるのに対し、刊行物2には、窒化アルミニウム焼結体表面上にWメタライズ層を設けて半導体装置用基板とすることは記載されていない点。

(相違点b)本願補正発明の窒化アルミニウム焼結体が、「メタライズ形成性に優れるものであって、波長が3650オングストロームかつ紫外線強度が3730μW/cm^(2)であるブラックライトを照射した際にオレンジ色に発光する発光面積が90%以上であり、前記ブラックライトの照射面にY-Al-O系化合物からなる液相成分を有する窒化アルミニウム焼結体」であるのに対し、刊行物2には、窒化アルミニウム焼結体が、メタライズ形成性に優れるものであって、波長が3650オングストロームかつ紫外線強度が3730μW/cm^(2)であるブラックライトを照射した際にオレンジ色に発光する発光面積が90%以上であり、前記ブラックライトの照射面にY-Al-O系化合物からなる液相成分を有する窒化アルミニウム焼結体であることは記載されていない点。

(3.3)これらの相違点について検討する。
<相違点aについて>
刊行物7の記載事項(ア-7)に「AlN板をIC搭載用基板として用いるためには、AlN板上に金や銅等の金属を付するいわゆるメタライズ化を行うことができることが要求され」と記載されているように、窒化アルミニウム焼結体の表面上にメタライズ層を設けて半導体装置用基板とすることは、通常の事項に過ぎないし、刊行物6の記載事項(ア-6)に「窒化アルミニウム(AlN)セラミックスは、金属アルミニウム並みの熱伝導性と、シリコンチップに近い熱膨脹率を有しているため、アルミナ(Al_(2) O_(3) )などの従来のセラミックス基板と比較して高性能の半導体基板として優れている。」という記載とともに、記載事項(イ-6)に「窒化物セラミックス基板上に、MoやWなどの高融点金属を含有するメタライズペーストを印刷塗布し、焼成炉中で焼付けることにより、メタライズ層を一体に形成するセラミックス基板」と記載されているように、窒化アルミニウム焼結体表面上メタライズされる金属として、W(タングステン)も、普通に使用されているメタライズ層用の金属であるから、窒化アルミニウム焼結体を用いて半導体装置用基板とする際に、窒化アルミニウム焼結体表面上にWメタライズ層を設けた半導体装置用基板とすることは、当業者であれば普通に行う範囲内の事項にすぎない。

<相違点bについて>
刊行物7の記載事項(ア-7)に「AlN板をIC搭載用基板として用いるためには、AlN板上に金や銅等の金属を付するいわゆるメタライズ化を行うことができることが要求され」と記載されているように、窒化アルミニウム焼結体の表面上にメタライズ層を設けて半導体装置用基板とすることが通常の事項であるから、用いられる窒化アルミニウム焼結体としてメタライズ形成性に優れるものを用いることは、当業者が普通に採用する事項にすぎない。
また、刊行物7の記載事項(ア-7)に「AlN板をIC搭載用等の基板として用いるためには、上記
(1)高熱伝導率(150W/mK以上)
のほか、これと同時に
(2)表面粗度が低く表面が滑らかであること。
AlN板をIC搭載用基板として用いるためには、AlN板上に金や銅等の金属を付するいわゆるメタライズ化を行うことができることが要求され、したがってAlN板の表面が粗いとメタライズの際の接合不足、結合不良などの発生率が大きくなって不都合であり、したがって表面粗度がJIS B0601(後述する)で規定される、中心線平均粗さ(Ra)で0.5μm程度以下であることが要求される。従来、AlN板をメタライズする際は、この要求を満たすためにこのAlN板を研磨しており、その分工程数が増えコスト高となっていた。
(3)表面が一様であること。これは基板としての信頼性を保持するために検査工程等から要求され、主として目視で判断されるが、ここでは後述するように透過率の変動を併用して判定している。が要求される。」と記載されているように、半導体装置用基板に用いる窒化アルミニウム焼結体にはその表面が、メタライズ形成性の点から一様なものを使用することが求められている。
一方、刊行物4,5には、窒化アルミニウム焼結体の表面が均質であるかどうか、言い換えれば一様であるかどうかを紫外線照射による発光状態から検査して評価し得る検査方法が記載されている。
すなわち、刊行物4には、記載事項(イ-4)に「窒化物焼結体は、大きな機械的強度あるいは、高い熱伝導率を利用して高温部品材料あるいは半導体基板への応用が広がろうとしている。これらの焼結体では焼成ロットや焼結体中の特性バラツキを非破壊的に検査することが望まれている。この検査は信頼性の向上に重要な役割を果す。」と記載され、その非破壊的な検査方法について、記載事項(ウ-4)に「この発明は、窒化物焼結体には、通常主成分の窒化物相のほかに焼結助剤に起因した酸化物相が含まれていることに注目してなされた。すなわちこれらの酸化物相に微量の発光性元素を含有させることによってなされた。
焼結助剤は、主に焼結体の緻密化のために主成分の原料に0.01?15wt%加えられる物質である。窒化アルミニウムの場合、高温で酸化イットリウムあるいは酸化カルシウムになるような化合物粉体が助剤となり、これは高温焼結処理中に液相となり、主成分窒化物粒子間にあって焼結を促進するほか、酸素など主成分中の不純物をとりこんで熱伝導などの特性を向上させるといわれている。焼結後、助剤は、主成部粒子間に固溶体あるいは副相として存在する。窒化アルミニウム焼結体で酸化イツトリウム助剤の場合、副相Y_(2)O_(3)・xA1_(2)O_(3)の化学組成で表わされ、助剤含量によって、Y_(3)Al_(5)O_(12)(x=5/3)、YAlO_(3)(x=1)、Y_(4)Al_(2)O_(9)(x=1/2)などの結晶となる。」と、また、記載事項(オ-4)「本発明の焼結体を紫外線、X線あるいは電子線からなる励起源下におくと、発光を示す。焼結体中の発光強度の分布は目視によって容易に観察できる。この分布は、焼結体全面に均一な体色の分布をもっている場合でも、不均一になることが多い。発光強度の分布は焼結体中の発光性元素あるいは、焼結体中に生成した副相生成物の含量分布あるいは、副相生物の化学種の分布に起因していると考えられ、したがって、この分布から焼結体の化学組成とその量の均一性が容易に判明する。」と記載され、記載事項(カ-4)に「上記のように本発明の焼結体により、焼結体中の化学組成と量の均一性および副相生成物種が、発光を観察することにより容易に調べることができる。紫外線励起の場合、光源はたとえば東京光学機械(株)の市販品である螢光検査灯(FI-31L形)を用いればよく、空気中、目視で発光を観測できる。これは他の非破壊検査法に比べ簡便である。さらに発光は、微弱なものも目視で検出可能であり、高感度な検出法である。」と記載され、具体例として記載事項(キ-4)に「実施例2
実施例1と同様なAl粉末にY_(2)O_(3)粉末を1重量%およびCr_(2)O_(3)を0.01重量%添加し、ボールミルで粉砕し混合を行ない原料を調製した。つづいて、この原料を500kg/cm^(2)の圧力でプレス成形して直径12mm、厚さ10mmの圧粉体とした。次いで、この圧粉体をカーボン型中に入れ窒素ガス雰囲気中、1750℃で100kg/cm^(2)の圧力下で1時間ホットプレス焼結してAlN焼結体を製造した。
得られた焼結体に紫外線(波長365μm)を照射したところ、焼結体は均一に淡橙色の螢光を発した。X線回折により構成相を同定したところ、実施例-1と同じくAlNとY_(3)Al_(5)O_(12)であった。」と、窒化アルミニウム焼結体に波長365μm、すなわち3650オングストロームの紫外線を照射して、その発光状態により窒化アルミニウム焼結体を非破壊検査する方法が記載されている。
同様に、刊行物5にも、記載事項(イ-5)に「窒化物焼結体は、大きな機械的強度あるいは、高い熱伝導率を利用して高温部品材料あるいは半導体基板への応用が広がろうとしている。これらの焼結体では焼成ロットや焼結体中の特性バラツキを非破壊的に検査することが望まれている。この検査は信頼性の向上に重要な役割を果す。」と記載され、その非破壊的な検査方法について、記載事項(ア-5)に「(1)窒化物焼結体に紫外線又は電子線を照射した際の発光により焼結体の均質性を判断することを特徴とする焼結体の検査方法。
(2)前記窒化物焼結体が、主成分の窒化物の他にセリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、エルビウム、ツリウム、ホロミウム、クロム、マンガン、ガリウム、鉛、ビスマスの少くとも一種を含むことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の焼結体の検査方法。」と記載され、記載事項(ウ-5)に「この発明は、ある種の窒化物焼結体に紫外線あるいは電子線を照射したとき、焼結体の部分によって異なる発光色と発光強度を見出したことによってなされた。一般に窒化物焼結体は原料粉体と焼結助剤と呼ばれる無機物粉体をバインダーと呼ばれる有機物液体と混合し、常温で成形した後、400℃?800℃でバインダーを揮散せしめる目的で仮焼し、さらに1600?2000℃の高温下で常圧もしくは加圧下で焼結して作成される。高温焼成下では、焼結助剤は液相として存在する。通常の焼結体の体色は灰?黒色であるが、原料および焼結雰囲気の着色性不純物が少い、そしてAlとNのモル比が1に近いと体色は白色又は透明に近くなる。この種の焼結体が本発明の検査法の対象として適している。すなわち、紫外線あるいは電子線照射によって発光が観察される。焼結体中の発光分布の原因には、上記焼結助剤液相の焼結中の分布あるいは焼結助剤と原料の反応による粒子界面化合物の種類分布があり、これらは、焼結体の均質-不均質性を示している。したがって、焼結体の均質-不均質性を目視によって容易に評価できる。」と記載され、具体例として記載事項(エ-5)に「(実施例)
(1)AlN粉末にY_(2)O_(3) 6重量%、Cr_(2)O_(3)、0.005重量%、およびCeO_(2)を0.1重量%添加し、ボールミルで粉砕、混合を行ない原料を調製した。つづいて、この原料にパラフィンを7重量%添加して造粒した後、500kg/cm^(2)の圧力でプレス成形して30×30×8mmの圧粉体とした。ひきつづき、この圧粉体を窒素雰囲気中で700℃まで加熱してパラフィンを除去した。次いで、カーボン容器中に収容し、窒素ガス雰囲気中、1800℃にて2時間常圧焼結して、AlN焼結体を製造した。
上記の方法で作成した焼結体の断面に東京光学(株)の市販品である蛍光探査灯FI-31Lの紫外線を照射した。このとき第1図の焼結体の11の部分は黄色に発光し、この発光がY_(3)Al_(5)O_(12):Ceと同じであることから、この部分にY_(3)Al_(5)O_(12)相の存在することがわかる。12の部分は発光せず、13の部分は橙色(注:「第橙色」は、「橙色」の誤記と認められる。)に発光した。これらの部分の体色は白?灰であって、通常の可視光下で差はみられなかった。」と記載されている。
なお、刊行物5には、紫外線光源については、前記記載事項(エ-5)にも「東京光学(株)の市販品である蛍光探査灯FI-31Lの紫外線を照射した。」としか記載されていないが、刊行物4の前記記載事項(キ-4)の具体例で365μm(3650オングストローム)の紫外線が照射されている記載事項(カ-4)に紫外線光源として記載されている「東京光学機械(株)の市販品である蛍光探査灯(FI-31L形)」とその社名の類似性及び装置番号の同一性から特に相違する光源装置と考えるべき事由もないし、例えば原査定の理由中に指摘した本願出願前の公知論文(Toru Nakazawaらの“Anti-Syn Isomerization of Carbazole-3-carbaldehyde Hydrazone Derivative.Isolation and Characteristics of Syn Isomer ” Chemistry Letters,Vol.21(1992),No.7 p.1125-1128 のReferencesの11)参照)に、「Type FI-31L,Tokyo Optical Macines」という紫外線光源のスペクトルピーク波長が365nmであるとの記載からも、刊行物5の具体例においても、刊行物4の検査方法と同様に3650オングストロームの紫外線が照射されているものと認められ、刊行物5にも、窒化アルミニウム焼結体に波長3650オングストロームの紫外線を照射して、その発光状態により窒化アルミニウム焼結体を非破壊検査する方法が記載されている。
しかも、これらの紫外線を照射し、その発光状態により焼結助剤として酸化イットリウムを含有させている窒化アルミニウム焼結体を非破壊検査する方法では、刊行物4の記載事項(ウ-4)の「焼結助剤は、主に焼結体の緻密化のために主成分の原料に0.01?15wt%加えられる物質である。窒化アルミニウムの場合、高温で酸化イットリウムあるいは酸化カルシウムになるような化合物粉体が助剤となり、これは高温焼結処理中に液相となり、主成分窒化物粒子間にあって焼結を促進するほか、酸素など主成分中の不純物をとりこんで熱伝導などの特性を向上させるといわれている。焼結後、助剤は、主成部粒子間に固溶体あるいは副相として存在する。窒化アルミニウム焼結体で酸化イツトリウム助剤の場合、副相Y_(2)O_(3)・xA1_(2)O_(3)の化学組成で表わされ、助剤含量によって、Y_(3)Al_(5)O_(12)(x=5/3)、YAlO_(3)(x=1)、Y_(4)Al_(2)O_(9)(x=1/2)などの結晶となる。」、並びに記載事項(オ-4)の「本発明の焼結体を紫外線、X線あるいは電子線からなる励起源下におくと、発光を示す。焼結体中の発光強度の分布は目視によって容易に観察できる。この分布は、焼結体全面に均一な体色の分布をもっている場合でも、不均一になることが多い。・・・・
一方、異なる化学種の結晶格子内にある発光性元素が異なる発光色を示すことはよく知られている。たとえばセリウム不純物を含むY_(3)Al_(5)O_(12)は紫外線下で黄色発光を示すのに、YAlO_(3)は紫外部発光を示す。ユーロピウムやクロム不純物を含む酸化物ではその発光色は化学種によって大きくかわらず、前者は赤?橙色で後者は深赤色となるが、この場合も発光スペクトルの位置や形を測定することによって化学種を同定することができる。したがって、焼結体に生成した副相の化学種を発光色から推測することができる。」という記載及び刊行物5の記載事項(ウ-5)の「たとえばY_(2)O_(3)を焼結助剤とする場合Eu_(2)O_(3),Tb_(4)O_(7),CeO_(2)などの発光性不純物をAlNに対して0.001?5原子%加えておくと、発光強度が大きくなる。これにより、Y_(2)O_(3)化合物系液相の分布が容易にわかる。また、原料がAlNの場合、Y_(3)Al_(5)O_(12)、YAlO_(3)、Y_(4)Al_(2)O_(9)などの粒子界面化合物種が、これらの中にある発光性不純物の発光色の違いから容易に判明する。」という記載からも、紫外線の照射面にY-Al-O系化合物からなる液相成分が存在する窒化アルミニウム焼結体を検査していることが明らかである。
そして、紫外線を照射して可視光を発光させる検査方法に用いる紫外線光源として、「ブラックライト」も本願前周知慣用のものにすぎない(必要ならば、例えば「化学大辞典7 縮尺版」共立出版(株)、1993年6月1日縮刷版第34刷発行、第951頁、「ブラックライトランプ」の項、原査定の理由で引用された刊行物8(特開平1-311252号公報)、同刊行物9(特開昭60-66942号公報)等参照)し、その紫外線強度が3730μW/cm^(2)である点も、例えば、登録実用新案第3027343号公報(前置報告書中において引用)にも記載されているように、日本工業規格との関係において、一般的な強度範囲内のものである。
また、窒化アルミニウム焼結体に波長365μm、すなわち3650オングストロームの紫外線を照射した際の発光色について、本願明細書では、段落【0019】?【0020】に「窒化アルミニウム焼結体にブラックライトを照射した場合、その表面に存在するY-Al-O化合物、例えばYAG、YAM、YALに基づいて、発光色が変化する。窒化アルミニウム焼結体がオレンジ色に発光するということは、液相成分が十分に焼結体表面に存在していることを示すものであり、このことは窒化アルミニウム粒子の粒成長を伴う焼結が十分に行われていることを意味するものである。従って、ブラックライトを照射した際、オレンジ色に発光する窒化アルミニウム焼結体を選択的に使用することによって、メタライズ形成性を向上させることができる。本発明では、このような化合物を形成するために酸化イットリウムを含有させ、さらにその含有量を1?10重量%、特に3?7重量%とすることが好ましい。他の希土類元素またはアルカリ土類金属の化合物等のように焼結助剤として使われているものを用いても特に問題はないが、ブラックライト照射による焼結性の確認を行う上では酸化イットリウムを用いることが好ましい。」と、オレンジ色の発色と酸化イットリウムの含有量との関係が記載されると共に、段落【0026】には「このような手段により成形したのち、例えば1800℃以上、好ましくは1900℃以上で焼成を行うことによってY-Al-O化合物等が形成され、本発明のオレンジ色に発光する窒化アルミニウム焼結体を作製することができる。さらに前述の焼結温度の保持時間を4時間以上、好ましくは5?20時間とし、焼結後の冷却速度を5℃/min以下として除冷して室温に戻すことにより、よりオレンジ色に発光する焼結体を得やすくなる。」と、オレンジ色に発光する焼結体を得るための製造条件が記載されているが、これらの製造条件は、刊行物2の記載事項(ウ-2)に「すなわち本発明に係るセラミックス焼結体の製造方法は、窒化アルミニウムに粉末に対して、粒界相形成成分として希土類元素およびアルカリ土類金属元素の少なくとも一方を添加した原料混合体を成形脱脂し、得られた成形体を1700?2000℃の焼結温度で所定時間加熱焼結した後に、上記焼結温度から、上記希土類元素および/またはアルカリ土類金属元素により焼結時に形成された液相が凝固する温度までに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下に設定したことを特徴とする。
・・・・・
さらに粒界相を構成する希土類元素およびアルカリ土類金属の少なくとも一方の焼結体に対する含有量は1?7.5重量%に設定するとよい。」と、及び記載事項(エ-2)に「次に脱脂処理された成形体は、焼成容器内に収容して焼成炉内において多段に積層され、この配置状態で複数の成形体は一括して所定温度で焼結される。焼結操作は、窒素ガスなどの非酸化性雰囲気で成形体を温度1700?2000℃に2?10時間程度加熱して実施される。」と記載されている、酸化イットリウムの含有量、焼結温度、焼結温度での保持時間、及び焼結体の冷却速度と変わるところはない。
そして、刊行物4の記載事項(オ-4)に「一方、異なる化学種の結晶格子内にある発光性元素が異なる発光色を示すことはよく知られている。たとえばセリウム不純物を含むY_(3)Al_(5)O_(12)は紫外線下で黄色発光を示すのに、YAlO_(3)は紫外部発光を示す。ユーロピウムやクロム不純物を含む酸化物ではその発光色は化学種によって大きくかわらず、前者は赤?橙色・・・となる」と、並びに記載事項(キ-4)に「実施例2
実施例1と同様なAl粉末にY_(2)O_(3)粉末を1重量%およびCr_(2)O_(3)を0.01重量%添加し、ボールミルで粉砕し混合を行ない原料を調製した。つづいて、この原料を・・・AlN焼結体を製造した。
得られた焼結体に紫外線(波長365μm)を照射したところ、焼結体は均一に淡橙色の螢光を発した。X線回折により構成相を同定したところ、実施例-1と同じくAlNとY_(3)Al_(5)O_(12)であった。」と記載されているし、また刊行物5の記載事項(エ-5)の「実施例」にも「(1)AlN粉末にY_(2)O_(3) 6重量%、Cr_(2)O_(3)、0.005重量%、およびCeO_(2)を0.1重量%添加し、ボールミルで粉砕、混合を行ない原料を調製した。つづいて、この原料にパラフィンを7重量%添加して造粒した後、500kg/cm^(2)の圧力でプレス成形して30×30×8mmの圧粉体とした。ひきつづき、この圧粉体を窒素雰囲気中で700℃まで加熱してパラフィンを除去した。次いで、カーボン容器中に収容し、窒素ガス雰囲気中、1800℃にて2時間常圧焼結して、AlN焼結体を製造した。
上記の方法で作成した焼結体の断面に東京光学(株)の市販品である蛍光探査灯FI-31Lの紫外線を照射した。このとき第1図の焼結体の11の部分は黄色に発光し、この発光がY_(3)Al_(5)O_(12):Ceと同じであることから、この部分にY_(3)Al_(5)O_(12)相の存在することがわかる。12の部分は発光せず、13の部分は橙色(注:「第橙色」は、「橙色」の誤記と認められる。)に発光した。」と記載されている。その際の紫外線光源である「東京光学(株)の市販品である蛍光探査灯FI-31L」の紫外線波長は明記されていないが、先に検討したとおり、刊行物4の場合と同様、3650オングストローム(365μm)の紫外線が照射されていると考えられるところから、刊行物4,5には、酸化イットリウムを10重量%以下含有する窒化アルミニウム焼結体には、波長が3650オングストロームであるブラックライトを照射した際に、橙色すなわちオレンジ色に発光するものが存在することが記載されている。
そして、本願明細書の段落【0020】に「ブラックライトを照射した際の窒化アルミニウム焼結体の発光色には、灰色、肌色、オレンジ色等の色があるが、メタライズ形成性に優れ、メタライズ後のフクレ等の発生が少ないのはオレンジ色に発光する窒化アルミニウム焼結体である。これに対して、肌色、灰色と変化するにつれてメタライズ形成性が低くなり、メタライズ後にフクレ等の発生率が高くなる。」という記載があるが、「肌色」はオレンジ色が少しだけ混じった色であるし、「灰色」は種々の色が混在するときの色であるから、本願補正発明において窒化アルミニウム焼結体がオレンジ色に発光するということは、オレンジ色に発光する物質が窒化アルミニウム焼結体表面上に多く存在することを意味しているに他ならない。
しかも、窒化アルミニウム焼結体表面のメタライズ形成性を優れたものとするために必要な一様性、すなわち均質性は、該焼結体に所定の紫外線照射をした際の発光状態が、ある領域は発光するがある領域が発光しないという状態であったり、異なる発光色の領域が存在する状態でないことは、刊行物4の記載事項(オ-4)の「焼結体中の発光強度の分布は目視によって容易に観察できる。この分布は、焼結体全面に均一な体色の分布をもっている場合でも、不均一になることが多い。発光強度の分布は焼結体中の発光性元素あるいは、焼結体中に生成した副相生成物の含量分布あるいは、副相生物の化学種の分布に起因していると考えられ、したがって、この分布から焼結体の化学組成とその量の均一性が容易に判明する。」という記載、及び刊行物5の記載事項(ウ-5)の「焼結体中の発光分布の原因には、上記焼結助剤液相の焼結中の分布あるいは焼結助剤と原料の反応による粒子界面化合物の種類分布があり、これらは、焼結体の均質-不均質性を示している。」という記載にもあるように、自明な事項であるから、窒化アルミニウム焼結体の均質性(一様性)を刊行物4,5に記載された紫外線照射による発光を利用した検査方法により評価する際に、発光面積についても評価要素とし、完全に全体が発光している100%に近い発光面積である「発光面積90%」を下限値として評価するようなことは、当業者が適宜設定し得る事項にすぎない。
そうすると、刊行2発明の窒化アルミニウム焼結体に、紫外線光源として波長が3650オングストロームであるブラックライトを紫外線強度が一般的に使用されている範囲内の3730μW/cm^(2)で照射した際に、オレンジ色に発光する発光面積が90%以上であり、前記ブラックライトの照射面にY-Al-O系化合物からなる液相成分を有する窒化アルミニウム焼結体を選択して、メタライズ形成性に優れた一様な均質なものと評価して、半導体装置用基板に使用するようなことは、当業者が容易に設計し得る範囲内の事項である。

なお、請求人は、回答書において、刊行物4,5の窒化アルミニウム焼結体の紫外線照射による発光を利用した検査方法について、酸化イットリウム以外の微量の発光中心となる元素添加成分の存在による淡橙色等の発光である旨主張しているが、本件補正発明は、その記載においてそのような発光性の微量成分の追加を除外しているものではないし、刊行物5の記載事項(ウ-5)に「通常の焼結体の体色は灰?黒色であるが、原料および焼結雰囲気の着色性不純物が少い、そしてAlとNのモル比が1に近いと体色は白色又は透明に近くなる。この種の焼結体が本発明の検査法の対象として適している。すなわち、紫外線あるいは電子線照射によって発光が観察される。焼結体中の発光分布の原因には、上記焼結助剤液相の焼結中の分布あるいは焼結助剤と原料の反応による粒子界面化合物の種類分布があり、これらは、焼結体の均質-不均質性を示している。したがって、焼結体の均質-不均質性を目視によって容易に評価できる。
発光観察を容易にするため、窒化物焼結体の機械的強度や高い熱伝導率を損わない程度の微量の発光性不純物をあらかじめ原料粉末に加えておいてもよい。」と記載され、微量の発光性不純物を含まない窒化アルミニウム焼結体の紫外線照射による発光を否定するものではない。また、刊行物4の記載事項(エ-4)の「不純物元素の添加量の下限値は無添加の場合に比べて発光強度が強くなる限界から求められたものである。」という記載も、微弱ながら発光性不純物を含まない窒化アルミニウム焼結体の紫外線照射による発光の存在を示唆している。
また、請求人の製造条件による発光色の相違とそれに伴うメタライズ形成性の違いについての主張も、前述の通り、刊行2発明の窒化アルミニウム焼結体の製造条件と本件補正発明のオレンジ色に発光する窒化アルミニウム焼結体の製造条件は、酸化イットリウムの含有量、焼結温度、焼結温度での保持時間、及び焼結体の冷却速度において変わるところはなく、それ以外にオレンジ色に発光する窒化アルミニウム焼結体を入手するための条件は本願明細書に記載されていないから、窒化アルミニウム焼結体の発光色を含めた発光状態に変わりはないはずであって、刊行物4,5に記載された検査方法を採用して選択した刊行2発明の窒化アルミニウム焼結体のメタライズ形成性が劣ると考えなければならない理由もない。

そうすると、本願補正発明は、刊行物2,4?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
(1)本願発明
平成22年3月19日付けの手続補正は前記第2.のとおり却下されたので、本願の請求項3に係る発明(以下、「本願発明3」という。)は、平成21年11月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
メタライズ形成性に優れる窒化アルミニウム焼結体であって、
酸化イットリウムを10重量%以下含有し、波長が3650オングストロームかつ紫外線強度が3730μW/cm^(2)であるブラックライトを照射した際にオレンジ色に発光する発光面積が90%以上であり、前記ブラックライトの照射面にY-Al-O系化合物からなる液相成分を有することを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】
前記発光面積が98%以上であることを特徴とする請求項1記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項3】
請求項1または2記載の窒化アルミニウム焼結体表面上にメタライズ層を設けたことを特徴とする半導体装置用基板。」

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物2,4?7及びその記載事項は、前記第2.(2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明3は、前記第2.で検討した本願補正発明における「Wメタライズ層」の「W」という限定がないものである。
してみると、本願発明3を特定するために必要な事項である「メタライズ層」を、「Wメタライズ層」と限定したものに相当する本願補正発明が、前記第2.(3)に記載したとおり、刊行物2,4?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明と同様の理由により、本願発明3も、刊行物2,4?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明3は、刊行物2,4?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-29 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-20 
出願番号 特願平11-280574
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
P 1 8・ 575- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 中澤 登
國方 恭子
発明の名称 半導体装置用基板  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  
代理人 須山 佐一  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  
代理人 須山 佐一  

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