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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) G06F
管理番号 1262644
審判番号 不服2010-13862  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-23 
確定日 2012-09-06 
事件の表示 特願2007-285895「アプリケーション・データ取引管理システム、プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月28日出願公開、特開2009-116432〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 本願は、平成19年11月 2日の出願であって、その請求項に係る発明は、特許請求の範囲の請求項に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
これに対して、平成24年 3月22日付けで拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、請求人からは何らの応答もない。
そして、上記の拒絶理由は妥当なものと認められるので、本願は、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

平成24年 3月22日付けで通知した拒絶理由は以下のとおりである。
「1 平成22年6月23日付けの手続補正について
本件拒絶理由通知と同日付けの補正の却下の決定により、平成22年6月23日付けの手続補正は却下されることとなった。
その理由は以下のとおりのものである。
[理由]
『1 手続の経緯
本件審判の請求に係る特許願(以下、「本願」という。)は、平成19年11月2日の出願であって、平成20年9月3日付けで手続補正がなされ、平成21年10月6日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月14日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成22年3月16日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年6月23日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに手続補正がなされ、同年8月24日付けで審査官から前置報告がなされ、平成23年3月24日付けで当審より審尋がなされ、同年5月30日付けで回答書が提出されたものである。

2 平成22年6月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年6月23日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
平成22年6月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容は、平成21年12月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲、
「 【請求項1】
グリッドコンピューティングシステムを形成し、ネットワークを介して各種データを利用する利用者が用いる利用者端末との間で前記各種データを交信するアプリケーション・データ取引管理システムであって、
資源提供者端末とネットワークを介して交信し、システムを構成する所定の構成要件の動作状態を管理するセントラルサーバと、
前記各種データが蓄積されるデータべースと、
前記各種データに適用されるアプリケーションの種類を管理するアプリケーション管理手段と、
前記アプリケーション・データ取引管理システムが前記利用者端末から前記各種データを受信した際に該各種データのデータ形式を複数のデータ形式に変換すると共に、前記アプリケーション・データ取引管理システムに対して前記利用者端末から前記各種データの取得要求があった際に該利用者端末に予め登録されたアプリケーションに適合するデータ形式の前記各種データを選択するデータ変換・選択手段と、
前記各種データを分割し、分割されたそれぞれの前記各種データを複数の前記資源提供者端末において別個に処理する際に、それぞれの前記資源提供者端末の稼動状況、コンピュータ資源状況等の情報を解析すると共に該解析の結果に基づいて前記各種データを処理する前記資源提供者端末を選択する資源解析選択手段と、
該資源解析選択手段の解析結果に基づいて前記各種データを分割する共に、前記資源解析選択手段によって選択された複数の前記資源提供者端末に対して分割された前記各種データを送信するデータ分割手段と、
コンピュータ資源におけるジョブの進捗状況の取得を指示管理するジョブ進捗管理手段と、
前記資源提供者端末に設けられて、自らが行っているジョブの進捗を前記ジョブ進捗管理手段に通知するジョブ進捗通知手段とを備えた管理者側システムが設けられると共に、
前記管理者側システムの前記セントラルサーバとの間でネットワークを介して交信し、前記セントラルサーバの管理の下で各種処理を行う資源提供者端末が設けられ、
前記ジョブ進捗管理手段は、複数の前記資源提供者端末において、一の前記各種データが分割されて形成されたデータとしての分割各種データの処理がそれぞれ行われる際にそれぞれの前記資源提供者端末の前記ジョブ進捗通知手段から前記処理の進捗状況を取得することを特徴とするアプリケーション・データ取引管理システム。
【請求項2】
前記各種データ及び前記アプリケーションのうち少なくとも何れか一方に対して所定の処理を行う前記資源提供者端末の稼動状況、コンピュータ資源状況等を管理する資源管理手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のアプリケーション・データ取引管理システム。
【請求項3】
前記資源解析選択手段は、前記分割各種データの処理時間ができるだけ短くなるように前記各種データの分割と前記資源提供者端末の選択とを行うことを特徴とする請求項2に記載のアプリケーション・データ取引管理システム。
【請求項4】
前記資源解析選択手段は、前記各種データの種類、データ量等の条件とそれぞれの前記資源提供者端末の前記コンピュータ資源状況とを照合し、該照合の結果処理時間ができるだけ短くなるように前記資源提供者端末の選択を行うことを特徴とする請求項2又は3に記載のアプリケーション・データ取引管理システム。
【請求項5】
前記各種データは動画ファイルであって、前記アプリケーションは前記動画ファイルのエンコードを行うことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載のアプリケーション・データ取引管理システム。
【請求項6】
特定の前記資源提供者端末のコンピュータ資源を特定の前記利用者端末によって一定時間使用させるためのeマーケットプレイス、又は前記利用者端末において利用される前記アプリケーションを一定時間使用させるためのeマーケットプレイスのうちの少なくとも何れか一つを形成することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載のアプリケーション・データ取引管理システム。
【請求項7】
コンピュータを請求項1乃至6のアプリケーション・データ取引管理システムとして機能させることを特徴とするプログラム。」(以下、請求項1?7をそれぞれ「補正前の請求項1?補正前の請求項7」という。)を、以下の特許請求の範囲、
「 【請求項1】
グリッドコンピューティングシステムを形成し、ネットワークを介して各種データを利用する利用者が用いる利用者端末との間で前記各種データを交信するアプリケーション・データ取引管理システムであって、
資源提供者端末とネットワークを介して交信し、システムを構成する所定の構成要件の動作状態を管理するセントラルサーバと、
前記各種データが蓄積されるデータべースと、
前記各種データに適用されるアプリケーションの種類を管理するアプリケーション管理手段と、
前記アプリケーション・データ取引管理システムが前記利用者端末から前記各種データを受信した際に該各種データのデータ形式を複数のデータ形式に変換すると共に、前記アプリケーション・データ取引管理システムに対して前記利用者端末から前記各種データの取得要求があった際に該利用者端末に予め登録されたアプリケーションに適合するデータ形式の前記各種データを選択するデータ変換・選択手段と、
前記各種データに対して所定の処理を行う前記資源提供者端末の稼動状況、コンピュータ資源状況についての情報を取得する資源管理手段と、
前記各種データを分割し、分割されたそれぞれの前記各種データを複数の前記資源提供者端末において別個に処理する際に、前記資源管理手段が取得したそれぞれの前記資源提供者端末の稼動状況、コンピュータ資源状況の情報を解析すると共に該解析の結果に基づいて前記各種データを処理する前記資源提供者端末を選択する資源解析選択手段と、
該資源解析選択手段の解析結果に基づいて前記各種データを分割する共に、前記資源解析選択手段によって選択された複数の前記資源提供者端末に対して分割された前記各種データを送信するデータ分割手段と、
コンピュータ資源におけるジョブの進捗状況の取得を指示管理するジョブ進捗管理手段と、
前記資源提供者端末に設けられた、自らが行っているジョブの進捗を前記ジョブ進捗管理手段に通知するジョブ進捗通知手段と、
前記資源提供者端末において中断した前記ジョブを復旧させるジョブ復旧手段とを備えた管理者側システムが設けられると共に、
前記管理者側システムの前記セントラルサーバとの間でネットワークを介して交信し、前記セントラルサーバの管理の下で各種処理を行う資源提供者端末が設けられ、
前記ジョブ進捗管理手段は、複数の前記資源提供者端末において、一の前記各種データが分割されて形成されたデータとしての分割各種データの処理がそれぞれ行われる際にそれぞれの前記資源提供者端末の前記ジョブ進捗通知手段から前記処理の進捗状況を取得し、
前記ジョブ復旧手段は、前記ジョブ進捗管理手段が取得した前記進捗状況において、複数の前記資源提供者端末のうちの一部の前記資源提供者端末において前記ジョブが中断したと判断された場合、該一部の資源提供者端末の前記ジョブを復旧させることを特徴とするアプリケーション・データ取引管理システム。
【請求項2】
前記資源管理手段は、前記アプリケーションに対して所定の処理を行う前記資源提供者端末の稼動状況、コンピュータ資源状況を取得することを特徴とする請求項1に記載のアプリケーション・データ取引管理システム。
【請求項3】
前記資源解析選択手段は、前記分割各種データの処理時間ができるだけ短くなるように前記各種データの分割と前記資源提供者端末の選択とを行うことを特徴とする請求項2に記載のアプリケーション・データ取引管理システム。
【請求項4】
前記資源解析選択手段は、前記各種データの種類、データ量等の条件とそれぞれの前記資源提供者端末の前記コンピュータ資源状況とを照合し、該照合の結果処理時間ができるだけ短くなるように前記資源提供者端末の選択を行うことを特徴とする請求項2又は3に記載のアプリケーション・データ取引管理システム。
【請求項5】
前記各種データは動画ファイルであって、前記アプリケーションは前記動画ファイルのエンコードを行うことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載のアプリケーション・データ取引管理システム。
【請求項6】
特定の前記資源提供者端末のコンピュータ資源を特定の前記利用者端末によって一定時間使用させるためのeマーケットプレイス、又は前記利用者端末において利用される前記アプリケーションを一定時間使用させるためのeマーケットプレイスのうちの少なくとも何れか一つを形成することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載のアプリケーション・データ取引管理システム。
【請求項7】
コンピュータを請求項1乃至6のアプリケーション・データ取引管理システムとして機能させることを特徴とするプログラム。」(以下、請求項1?7をそれぞれ「補正後の請求項1?補正後の請求項7」という。)に補正するものである。

(2)新規事項の有無
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされており、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

(3)補正の目的要件
補正前の請求項1になされた補正が、補正の目的要件に適合するか、(特許法第17条の2第5項の規定に適合するか)、以下に検討する。
補正前の請求項1になされた補正は次の補正を含む。

ア 補正前の請求項1の
「前記資源提供者端末に設けられて、自らが行っているジョブの進捗を前記ジョブ進捗管理手段に通知するジョブ進捗通知手段とを備えた管理者側システムが設けられると共に」
を、補正後の請求項1の
「前記資源提供者端末に設けられた、自らが行っているジョブの進捗を前記ジョブ進捗管理手段に通知するジョブ進捗通知手段と、
前記資源提供者端末において中断した前記ジョブを復旧させるジョブ復旧手段とを備えた管理者側システムが設けられると共に」とする補正。

イ 補正前の請求項1に、「前記ジョブ復旧手段は、前記ジョブ進捗管理手段が取得した前記進捗状況において、複数の前記資源提供者端末のうちの一部の前記資源提供者端末において前記ジョブが中断したと判断された場合、該一部の資源提供者端末の前記ジョブを復旧させること」を付加する補正。

そして、上記補正ア及びイは、管理者側システムを減縮するものであるが、補正によって付加された「ジョブ復旧手段」は、補正前の請求項1に記載されたいずれの発明特定事項も概念的に下位にしたものでもない。
さらに、補正前の請求項1の発明特定事項によって解決しようとする課題に対して、新たな発明特定事項である「ジョブ復旧手段」を付加することで、ジョブの中断が発生した際に、ジョブの処理のやり直しを行うことができる、とする、新たな課題が追加されることとなり、解決する課題を変更するものである。

なお、平成22年6月23日付け審判請求書「(d)本願請求項1に係る発明と引用発明との対比」における、「一時的な動作トラブルによって一時的にジョブの処理ができなくなり、再度処理を試みるとジョブの処理が成功するケース」がよくあるので、「資源解析の結果に基づいて、ジョブの処理の中断が発生した資源提供者端末で再度の処理が可能かどうかを的確に判断することができ」、「ジョブの中断が起きた際に、通信帯域やコンピュータ資源の無駄使いを抑止しつつ、ジョブの処理のやり直しを的確に行い、良好な処理結果を得る」との主張からも、「ジョブ復旧手段」を付加することで、ジョブの中断が発生した際に、ジョブの処理のやり直しを行うことができるという新たな課題を追加したことが裏付けられる。

以上のように、補正前の請求項1についてした補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定したものではなく、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の請求項に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるもの)を目的とするものとは認められない。

さらに、補正前の請求項1についてした補正が、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除、第3号の誤記の訂正、第4号の明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)に該当するものではないことは明らかである。

以上のとおり、前記補正前の請求項1についてする補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであり、したがって、本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

[予備的見解]
仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限定的減縮(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の請求項に記載された発明の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるもの)を目的とするものであると仮定した場合に、補正後の請求項1(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)以下に検討する。

ア 本件補正発明について
本件補正発明は、上記2(1)の平成22年6月23日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるのものである。

イ 引用例
本願の出願日前に頒布された特表2004-513406号公報(平成16年4月30日公表。以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の記載がある。(下線は参考のために当審にて付した。)

(ア)「【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、分散処理プロジェクトのための分散された作業負荷を処理するために、多数の広く分散した装置を用いるのに有利な処理アーキテクチャーを用いる大量分散処理システムおよび関連する方法を提供する。…(中略)…本発明の分散処理システムを用いて、…(中略)…データ変換…(中略)…を含む広範囲の用途が可能である。」

(イ)「【0014】
図1Aもそれぞれ通信リンク118、120・・・122を通じてネットワーク102に接続しているクライアント・システム108、110・・・112を示している。さらに、サーバー・システム104,他のシステム106およびカストマー・システム152はそれぞれ通信リンク114、116、119を通じてネットワーク102に接続されている。クライアント・システムの能力のブロック124はサーバ・システム104の部分集合であり、クライアント・システム108、110・・・112の能力決定を示している。インセンティブ・ブロック126もサーバー・システム104の部分集合であり、分散処理システム100により、クライアント・システム108、110・・・112の能力を活用できるように、クライアント・システム108、110・・・112のユーザーまたは所有者に提供されるインセンティブを示している。…(中略)…
【0015】
インセンティブ・ブロック126が提供するインセンティブは希望された任意のインセンティブで良い。例えば、分散処理システム100が用いるために契約したクライアント・システム108、110・・・112にエントリーを与える懸賞で良い。他のインセンティブの例は報酬システムで、航空機の常用客に対する利用マイル、購入用のクレジットとクーポン、金銭支払い、賞金、賞品、無料旅行、タイム・シェア・レンタル、遊覧船、接続サービス、インターネット・アクセスの無料化または割引、ドメイン名の受付、メール・アカウント、重要な研究プロジェクトへの参加、個人的目標の達成または他の希望のインセンティブないし報酬のようなものである。」

(ウ)「【0036】
ここで、図3Aを見ると、サーバー・システム104は、クライアント・システムの能力を特定し、作業負荷を組織化し、希望のタスクを達成するためにクライアント・システムを用いるために動作する1以上のコンピューター・システムで良い。サーバー・システム104には、以下で論じるように制御システム304、作業負荷データベース308、懸賞システム306が含まれる。作業負荷データベース308は希望のプロジェクト・タスクを記憶するが、このタスクはエレメント336、338・・・340により代表される離散作業負荷タスクWL1、WL2・・・WLNに分割しうる。作業負荷データベースは、標準作業負荷に対するクライアント・システム能力を決定するのに使用できる1以上のベンチマーク作業負荷(BWL)335も記憶しうる。ライン312を通じて、作業負荷データベース308は制御システム304と通信する。…(中略)…
【0037】
作業負荷の配分で、制御システム304はクライアント・システム108、110,112の能力を検討し、それに、制御システム304が作業負荷を送る。例えば、クライアント108がクライアント110より処理能力が高い場合、制御システム304はより困難なまたは大きな作業負荷を配分し、送る。それゆえ、クライアント108がWL1 336とWL2 338を受ける一方で、クライアント110がWL3のみを受ける。代わりに、作業負荷データベース308は各作業負荷に対する種々のレベルの処理能力または能力要件により組織化できる。それで、WL1 336の処理またはシステムの能力要件がWL2 338より大きい。作業負荷は処理タスク、データ記憶タスクにでき、または、クライアント・システム108、110・・・112で使用しうる他の種々の能力と結びつけることも指摘すべきである。」

(エ)「【0062】
図6Aは本発明に基づくサーバー・システム104に対するブロック線図であり、制御システム304、作業負荷データベース308、能力ベクトルのデータベース620が含まれる。作業負荷データベース308には、種々のセットの作業負荷プロジェクトWL1、WL2・・・WLNが含まれる。各作業負荷プロジェクトについて、多数の作業負荷ユニットがありうる。…(中略)…
【0063】
…(中略)…作業負荷プロジェクトにとって良好で、直接的な資源を得るために、クライアント・システムが処理時間、および、他のシステムないし装置能力をサーバー・システムに提供することで契約した時、サーバー・システムは種々のシステム・ベクトルにアクセスできる。…(中略)…能力ベクトル・データベース620が、それぞれエレメント628、630・・・632により代表される能力ベクトルCBV1、CBV2・・・CBVN内のクライアント・システムないし装置の希望する機能の追跡を続ける。そして、これらの能力ベクトルを能力バランス作業負荷へのライン626を通じて、制御システム304が使用しうる。
【0064】
…(中略)…以下の表1は使用しうる能力ベクトルまたは要因のリストを示す。」

(オ)表1には、例示的クライアントの能力ベクトルまたは要因として、「9.システム・アプリケーション・ソフトウェア a.システムに組込み及び(または)動作するソフトウェアのタイプ」が提示されていると認められる。

(カ)「【0090】
さらに図9を参照して、遊休システムの決定についてここで論じる。上記のように、本発明の分散処理システム内でクライアント・システムの能力を決定し、使用する。ある特定のクライアント・システムの遊休状態が多いほど、多分、達成できる処理量が多く、受け取れる可能性のあるインセンティブが多くなる。…(中略)…遊休クライアント・システムを特定し、それらをプロセッサーと時間がより重要なタスクに配分するのが有利である。…(中略)…)
【0091】
遊休資源を特定することは、種々の方法のどれかで決定しうる。例えば、一定時点で、マシンが用いられていないかどうか、または、プロセッサーの利用度が低いかどうかを見るだけで可能である。しかしながら、この単純な決定では、一定時点にクライアント・システムがどの程度遊休状態かの正確な実像を生じないことがある。特に詳しくは、多様なクライアント・システムのコンポーネントとサブシステムの活動を特定するために発見法(複数)を実行しうる。例えば、ネットワーク活動、装置の出力活動、ユーザー入力、処理活動、実行タスクの監視、または運転パラメーターのモード(例えば、モバイルまたは電力管理モード、定置または給電モード)のようなサブシステムを監視しうる。さらに、クライアント・システムの真の利用・遊休を決定するために、任意の数の他の装置ベクトルを監視または分析しうる。
【0092】
以下の表2は、装置の利用または遊休のレベルを決定するために使用しうる遊休ベクトルまたは要因のリストを示している。特に、表2はクライアント・システムがどの程度遊休状態かを決定するために監視または分析をする2大分類の活動を示している。これらの活動はユーザーの活動および装置の活動である。これらのクライアント・システムのエレメントおよび活動を時間をかけて監視し、分析し、追跡することにより、装置の利用と遊休の決定を改善できる。表2に示したリストは例示的リストであり、本発明に基づき希望に応じて、任意の数の分類、ベクトルまたは要因を特定し、利用しうる。」

(キ)表4には、クライアント遊休のベクトルまたは要因として、「2.装置の活動」として、プロセッサーや記憶装置の活動が挙げられていると認められる。

(ク)「【0096】
図10は、本発明に依る、クライアントシステム上に設置されたクライアントシステムエージェント(client system agent)270のより詳細なブロック線図である。この線図は、安全サブシステム1010,能力(capabilities)サブシステム1006,ワークロードプロセサー(workload processor)1004,ユーザーインターフエース1002,そしてプロジェクト管理及びエージェント制御サブシステム1008を有する。
…(中略)…
【0097】
描かれている様に、該能力サブシステム1006は、上記で説明した、空きシステムモニター1022を有し、それは該クライアントシステム用としての活動度(activity)又は空き度合(idleness)のレベルを決定するために該クライアントシステムに付随するユーザー及びデバイス活動度をモニターし分析する。この空きシステムモニター1022により決定された情報は次いで、例えば、安全サブシステム1010を通して該サーバーシステム104へ外部的に通信される。次いで該サーバーシステム104は該分散処理システム(distributed processing system)全体からのシステム空き度合データを記憶し分析する。この空き度合データはワークロード及び処理システム資源(processing system resources)を割り当て、管理するため利用される能力データベースの1部となってもよい。」

(ケ)「【0104】
図13Aと13Bは本発明に依る大規模並列分散ネットワーク用のデータ変換アップリケーション1300を説明している。
…(中略)…
【0106】
本発明により考慮される該データ変換動作は何等特定の要求デバイス、何等特定のサービスプロバイダー、何等特定のタイプの処理されるべきデータ、何等特定の最終の処理されるデータ、又は何等特定のデータ源に限定されないことを注意しておく。かくして、処理される該データは音声、テキスト、アップリケーション、画像、ソースコード、又は何等かの他のデータタイプ又はデータタイプの組合せを含んでもよく、そして該最終の処理されたデータは又音声、テキスト、アップリケーション、画像、又は何等かの他のデータタイプ又はデータタイプの組合せを含んでもよい。本発明に依れば、該分散処理システムは要求デバイスにより望まれ、そして該要求デバイスへ提供される前に変換又は処理されねばならないどんなデータも処理するため利用される。例えば、パーソナルコンピユータの様な、インターネットに接続されたエンドユーザーデバイス(end-user devices)は、該エンドユーザーデバイスが何等かの望まれるデータ、フアイル、ウエブサイトコンテント、他のデータ変換を要求するように、該サーバーシステムを通してデータ変換サービスを求めてサインアップ(sign up)してもよい。…(中略)…
【0107】
今度は図13Aの実施例を見ると、インターネットの様なネットワーク102が描かれ、要求するデバイスは、通信リンク1308を通してインターネット102に、そして通信リンク1309を通して無線デバイスサーバーシステム1304に接続された1つ以上の無線デバイス1306である。変換される、翻訳される又は他の仕方で処理される、べきデータはブロック1302により表されそして、例えば、通信リンク1312を通してインターネットに接続されたインターネットウエブサイトからのコンテントであってもよい。又図13Aに示す様に、大規模並列分散ネットワーク(massively parallel distributed network){エムピーデーエヌ(MPDN)}サーバー104が通信リンク114を通してインターネット102に接続されている。該無線デバイスサーバーシステム1304、又はデータ変換処理要求をオフロード(off-load)することを望む何等かの他の接続されたシステム(例えば、ウエブサイトコンテントサーバー)、が通信リンク1310を通してインターネット102にそして通信リンク1311を通して該MPDNサーバーに接続される。又どんな数のクライアントシステム108,110...112もそれぞれ通信リンク118,120...122を通して、インターネット102に接続されてもよい。…(中略)…
【0108】
…(中略)…次いで該デバイスサーバーシステム1304はMPDNサーバー104に、該要求デバイスに関する情報、要求されるデータの性質そして該データに必要な処理の様な、何等かの関連情報を提供してもよい。該MPDNサーバー104は次いで該要求するデバイスへの送信用にブロック1302からのデータを処理するために該クライアントシステム108,110...112の1つ以上を利用してもよい。この仕方で、該無線デバイスサーバーシステム1304は重荷で、処理集約的な変換タスクを本発明の分散処理システムへオフロードしてもよい。」

(コ)「【0110】
図13Bは本発明のデータ変換処理の実施例1350の基本的フロー線図を提供する。ブロック1352で、無線デバイス1306の様な、デバイスは未変換か、未翻訳か、又は未処理のデータを要求する。…(中略)…該無線デバイスサーバーシステム1304はコールするデバイスの種類、そのアイデンテフイケーション(idetification)、要求された関連データ、そして起こるべき変換の様な、全ての関連情報を該MPDNサーバー104へ提供する。該MPDNサーバー104は次いで、ブロック1356で、該要求しているデバイスに関するデータと情報とを、クライアントシステム109,110...112の様な1つ以上のクライアントシステムへ配布する。次いで該1つ以上のクライアントシステムは、ブロック1358で、該データを変換するか、翻訳するか又は他の仕方で処理する。次いで該変換された、翻訳された又は処理されたデータはブロック1360で該要求するデバイスへ提供される。」

a (ア)の「本発明は、分散処理プロジェクトのための分散された作業負荷を処理するために、多数の広く分散した装置を用いるのに有利な処理アーキテクチャーを用いる大量分散処理システムおよび関連する方法を提供する。」との記載、(ケ)の「例えば、パーソナルコンピュータの様な、インターネットに接続されたエンドユーザーデバイス(end-user devices)は、該エンドユーザーデバイスが…(中略)…データ変換を要求するように、該サーバーシステムを通してデータ変換サービスを求めてサインアップ(sign up)してもよい。…(中略)…インターネットの様なネットワーク102が描かれ、要求するデバイスは、通信リンク1308を通してインターネット102に、そして通信リンク1309を通して無線デバイスサーバーシステム1304に接続された1つ以上の無線デバイス1306である」、及び(コ)の「次いで該変換された、翻訳された又は処理されたデータはブロック1360で該要求するデバイスへ提供される。」との記載から、データ変換を要求するパーソナルコンピュータがネットワーク102に接続され、変換されたデータがパーソナルコンピュータに提供される、大量分散処理システムが記載されている。
さらに、(イ)の「インセンティブ・ブロック126もサーバー・システム104の部分集合であり、分散処理システム100により、クライアント・システム108、110・・・112の能力を活用できるように、クライアント・システム108、110・・・112のユーザーまたは所有者に提供されるインセンティブを示している。…(中略)…インセンティブ・ブロック126が提供するインセンティブは希望された任意のインセンティブで良い。」との記載によれば、インセンティブが与えられて、クライアントシステムの能力を活用できるようにされたものである。
したがって、引用例には、
ネットワークに接続されたパーソナルコンピュータがデータ変換を要求し、インセンティブが与えられて提供されたクライアントシステムが能力を提供し、該パーソナルコンピュータに変換されたデータを提供する、大量分散処理システム、
が記載されている。
b (ケ)の「インターネットの様なネットワーク102が描かれ、…(中略)…大規模並列分散ネットワーク(massively parallel distributed network){エムピーデーエヌ(MPDN)}サーバー104が通信リンク114を通してインターネット102に接続されている」及び(カ)の「該MPDNサーバー104は次いで該要求するデバイスへの送信用にブロック1302からのデータを処理するために該クライアントシステム108,110...112の1つ以上を利用してもよい」との記載から、MPDNサーバ104が、クライアントシステムとネットワーク102によって接続されており、ブロック1302からのデータを処理するためにクライアントシステムの1つ以上を利用するものである。
また、(ウ)の「サーバー・システム104は、クライアント・システムの能力を特定し、作業負荷を組織化し、希望のタスクを達成するためにクライアント・システムを用いるために動作する1以上のコンピューター・システムで良い。」との記載から、サーバーシステムは、クライアントシステムの能力を特定して作業負荷を組織化するものである。
そして、サーバーシステム104とMPDNサーバー104は、ともにデータを処理するためにクライアントシステムを利用するという共通の機能を有したサーバーであるから、引用例中のサーバーシステム104が備える機能に関する記載は、MPDNサーバー104にも適用される。
したがって、引用例には、
クライアントシステムとネットワークにより接続され、ブロックからのデータを処理するために該クライアントシステムを利用すること、及び、クライアントシステムの能力を特定して作業負荷を組織化するMPDNサーバ、
が記載されている。
c (ケ)の「変換される、翻訳される又は他の仕方で処理される、べきデータはブロック1302により表されそして、例えば、通信リンク1312を通してインターネットに接続されたインターネットウエブサイトからのコンテントであってもよい」との記載から、変換されるべきデータがブロック1302により表されているので、引用例には、
変換されるべきデータであるブロック、
が記載されている。
d (エ)の「図6Aは本発明に基づくサーバー・システム104に対するブロック線図…(中略)…サーバー・システムは種々のシステム・ベクトルにアクセスできる…(中略)…能力ベクトル・データベース620が、それぞれエレメント628、630・・・632により代表される能力ベクトルCBV1、CBV2・・・CBVN内のクライアント・システムないし装置の希望する機能の追跡を続ける」、及び(オ)のクライアントの能力ベクトルまたは要因として、ソフトウェアのタイプが提示されている事項から、サーバー・システム104は、能力ベクトル・データベースのクライアントのソフトウェアタイプにアクセスすることができるので、引用例には、
クライアントのソフトウェアタイプにアクセスするための能力ベクトル・データベース、
が記載されている。
e (ケ)の「インターネットに接続されたエンドユーザーデバイス(end-user devices)は、該エンドユーザーデバイスが…(中略)…データ変換を要求するように、該サーバーシステムを通してデータ変換サービスを求めてサインアップ(sign up)してもよい」との記載、(コ)の「起こるべき変換の様な、全ての関連情報を該MPDNサーバー104へ提供する。該MPDNサーバー104は次いで、ブロック1356で、該要求しているデバイスに関するデータと情報とを、クライアントシステム109,110...112の様な1つ以上のクライアントシステムへ配布する。次いで該1つ以上のクライアントシステムは、ブロック1358で、該データを変換する…(中略)…次いで該変換された、翻訳された又は処理されたデータはブロック1360で該要求するデバイスへ提供される」との記載、及び上記aから、大量分散処理システムでは、パーソナルコンピュータがデータ変換を要求すると、起こるべき変換の様な、全ての関連情報がMPDNサーバー104へ提供されており、MPDNサーバー104が要求しているデバイスに関するデータと情報をクライアントシステムに配布し、クライアントシステムがデータを変換し、次いで変換されたデータは要求するデバイスへ提供されるので、引用例には、
大量分散処理システムは、パーソナルコンピュータからデータ変換が要求されると、起こるべき変換の様な全ての関連情報がMPDNサーバーへ提供され、MPDNサーバーが、要求しているデバイスに関するデータと情報をクライアントシステムに配布し、クライアントシステムをデータを変換させる手段、
が記載されている。
f (カ)の「分散処理システム内でクライアント・システムの能力を決定し、使用する。…(中略)…遊休資源を特定することは、種々の方法のどれかで決定しうる。例えば、一定時点で、マシンが用いられていないかどうか、または、プロセッサーの利用度が低いかどうかを見るだけで可能である。」との記載、(カ)の「装置の利用または遊休のレベルを決定するために使用しうる遊休ベクトルまたは要因のリストを示している。」との記載及び(キ)に示しているとおり、プロセッサや記憶装置等の装置の活動をクライアントの遊休のベクトルまたは要因としていることから、クライアントシステムのプロセッサや記憶装置等の装置の活動に基づいてクライアントシステムの遊休のレベルを決定しているといえる。
また、(ク)の「該能力サブシステム1006は、上記で説明した、空きシステムモニター1022を有し、それは該クライアントシステム用としての活動度(activity)又は空き度合(idleness)のレベルを決定するために該クライアントシステムに付随するユーザー及びデバイス活動度をモニターし分析する。…(中略)…次いで該サーバーシステム104は該分散処理システム(distributed processing system)全体からのシステム空き度合データを記憶し分析する。この空き度合データはワークロード及び処理システム資源(processing system resources)を割り当て、管理するため利用される能力データベースの1部となってもよい」との記載から、クライアントシステムに付随するデバイス活動度をモニターし分析し、次いでサーバーシステム104がシステム空き度合データを記憶し分析して能力データベースの一部とするものである。
したがって、引用例には、
MPDNサーバーに設けられた、クライアントシステムの装置の活動により装置の利用又は遊休のレベルを決定する手段、及び、システム空き度合データを含む能力データベース、
が記載されている。
g (ウ)の「サーバー・システム104には、以下で論じるように制御システム304、作業負荷データベース308、懸賞システム306が含まれる。作業負荷データベース308は希望のプロジェクト・タスクを記憶するが、このタスクはエレメント336、338・・・340により代表される離散作業負荷タスクWL1、WL2・・・WLNに分割しうる。」との記載、(オ)の「遊休クライアント・システムを特定し、それらをプロセッサーと時間がより重要なタスクに配分するのが有利である。」との記載、(ク)の「サーバーシステム104は該分散処理システム(distributed processing system)全体からのシステム空き度合データを記憶し分析する。この空き度合データはワークロード及び処理システム資源(processing system resources)を割り当て、管理するため利用される能力データベースの1部となってもよい」との記載から、サーバー・システム104は、タスクを離散作業負荷タスクに分割して、クライアントシステムの装置の活動により装置の利用又は遊休のレベルを決定する手段、及び、システム空き度合データを含む能力データベースにより特定された遊休クライアントシステムに分割された離散作業負荷タスクを配分している。
また、(ケ)の「該MPDNサーバー104は次いで該要求するデバイスへの送信用にブロック1302からのデータを処理するために該クライアントシステム108,110...112の1つ以上を利用してもよい」との記載から、複数のクライアントシステムを利用してもよい。
したがって、引用例には、
タスクを分割し、分割された離散作業負荷タスクを、クライアントシステムの装置の活動により装置の利用又は遊休のレベルを決定する手段、及び、システム空き度合データを含む能力データベースにより、分割された離散作業負荷タスクを配分する複数の遊休クライアントシステムを特定する手段、
が記載されている。
h (ウ)の「作業負荷の配分で、制御システム304はクライアント・システム108、110,112の能力を検討し、それに、制御システム304が作業負荷を送る。」との記載、及び、上述したgから、分割された離散作業負荷タスクを配分する複数のクライアントシステムが決定された後、当該決定されたクライアントシステムに分割された離散作業負荷タスクを配分し、送っている。
したがって、引用例には、
タスクを分割し、前記決定された複数のクライアントに、分割された離散作業負荷タスクを配分して送る手段、
が記載されている。
i 上記bから、クライアントシステムはネットワークによりMPDNサーバーと接続されており、クライアントシステムは、クライアントシステムの能力によって組織化された作業負荷を処理するものである。
したがって、引用例1には、
MPDNサーバーとネットワークにより接続されて、クライアントシステムの能力によって組織化された作業負荷を処理するクライアントシステム、
が記載されている。

a?iをふまえると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が示されている。

ネットワークに接続されたパーソナルコンピュータがデータ変換を要求し、インセンティブが与えられて提供されたクライアントシステムが能力を提供し、該パーソナルコンピュータに変換されたデータを提供する、大量分散処理システムであって、
クライアントシステムとネットワークにより接続され、ブロックからのデータを処理するために該クライアントシステムを利用すること、及び、クライアントシステムの能力を特定して作業負荷を組織化するMPDNサーバと、
変換されるべきデータであるブロックと、
クライアントのソフトウェアタイプにアクセスするための能力ベクトル・データベースと、
大量分散処理システムは、パーソナルコンピュータからデータ変換が要求されると、起こるべき変換の様な全ての関連情報がMPDNサーバーへ提供され、MPDNサーバーが、要求しているデバイスに関するデータと情報をクライアントシステムに配布し、クライアントシステムにデータを変換させる手段と、
MPDNサーバーに設けられた、クライアントシステムの装置の活動により装置の利用又は遊休のレベルを決定する手段、及び、システム空き度合データを含む能力データベースと、
タスクを分割し、クライアントシステムの装置の活動により装置の利用又は遊休のレベルを決定する手段、及び、システム空き度合データを含む能力データベースにより、分割された離散作業タスクを配分する複数の遊休クライアントシステムを特定する手段と、
タスクを分割し、前記決定された複数のクライアントシステムに、分割された離散作業負荷タスクを配分して送る手段と、
MPDNサーバーとネットワークにより接続されて、クライアントシステムの能力によって組織化された作業負荷を処理するクライアントシステムが設けられた、
大量分散処理システム。

ウ 周知例1
本願の出願前に頒布された「吉村和宏,“3分間キーワード グリッド コンピューティング”,日経情報ストラテジー,日経BP社,平成14年8月24日,No.125,p.19」(以下「周知例1」という。)には、次の記載がある。

(ア)「グリッドコンピューティングには明確な定義はありませんが、一般にはネットワークに接続されたパソコンの空き時間を利用して単一の処理を実行する仕組みを指します。こうした処理形態のメリットは、コンピュータ資源を有効活用できることです。」(右欄第1行?同欄第5行)

したがって、周知例1には、「ネットワークに接続されたパソコンの空き時間を利用して単一の処理を実行するグリッドコンピューティング」に関する技術(以下「周知技術1」という。)が開示されている。

エ 周知例2
本願の出願前に頒布された「エアロプレイン,外2名,“ネトランオススメ最強便利サイトを味わいつくせ! ネトミシュラン 三ツ星 ネットサービスを探せ ファイル変換 謎のファイルをぶち込もう ブラウザでファイル変換”,ネットランナー,ソフトバンククリエイティブ(株),平成19年3月1日,第9巻,第3号,p.97」(以下「周知例2」という。)には、次の記載がある。

(ア)『「動画をダウンロードしたけど、ダブルクリックしても開かねー」とか、「うまく再生できない!」とかいうときは、とりあえず「MediaConvert」にぶち込もう。100種類以上の形式に対応するファイル形式変換サイトだ。』(第97頁右第1段第1行?第2段第1行)

(イ)『「Media-Convert」…(中略)…変換対象は音声、画像、動画、各種オフィス文書、圧縮ファイルだ。』(左欄上図面の説明文)

(ウ)『変換元のファイル形式を選択すると、自動的に出力形式の候補が絞られる。形式を指定したら「条件を同意する」にチェックを入れ、「変換」をクリックする。』(中欄上図面説明文)

(エ)「ファイルがアップロードされるので、しばらく待とう」(左欄中図面の説明文)

(オ)「変換が完了すると、ファイルサイズとともにダウンロードURLが表示されるぞ」(中欄下図面の説明文)

したがって、周知例2には、ユーザーが動画ファイルをブラウザからウェブサイトにアップロードして該動画ファイルを指定した出力形式に変換すると共に、ユーザーが変換を要求する際に、複数の出力形式の候補からユーザーのコンピュータが再生可能な出力形式を指定する技術(以下、「周知技術2」という。)が開示されている。

オ 周知例3
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された特開2001-325041号公報(平成13年11月22日公表。以下、「周知例3」という。)には、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ネットワークを介して接続された多数の計算機を含むシステムに関し、特に、計算機資源のうち余剰能力となっている部分を他者のために再販し提供する計算機資源活用方法及びシステムに関する。」

(イ)「【0031】上述したように、ジョブ分割機構13は、利用者3から依頼された計算処理(ジョブ)をグローバルコンピューティングに適した複数の単位処理(単位ジョブ)に分割する処理を実行する。具体的には、ジョブ分割機構13は、○1(1を○印で囲んだ字。以下同じ。)利用者3が依頼した計算処理の全体を最小単位操作(これ以上分割しても経済的にメリットが発生しないという最小の処理単位)に分割し、○2時系列手順と並行手順とに最小単位操作を分類し、○3複数の最小単位操作を統合して、最も短いトータルレスポンスタイム(結果の回答までに要する時間)となる計算単位ブロックに分割することにより、依頼された計算処理を複数の単位処理に分割する。ここで時系列手順とは、先行する処理の結果を利用して実行される処理のことであり、並行手順とは、処理間に依存関係がないので並行して実行できる処理のことである。」

(ウ)「【0038】…(中略)…スケジューラ15は、余剰処理能力データベース14に格納された提供者情報や資源情報、現在の処理能力に関する情報に基づいて、最も早く計算結果が得られるように、各提供者4(の各コンピュータ5)に各計算単位ブロックを割当てる。」

(エ)『【0043】処理分配・監視機構16の基本的な機能は、スケジューラ15が決定した割当てに基づいて、広域ネットワーク1を介し、それぞれの計算単位ブロックを該当する提供者4のコンピュータ5に配信し、配信した計算単位ブロックに対する処理結果や計算進捗状況などのレスポンスを受領するというものである。レスポンスを受領した場合には、処理分配・監視機構16は、そのレスポンスをスーパーバイザコントロール部11に送るとともに、レスポンスがあったことをスケジューラ15に通知する。このとき、想定した時間内にレスポンスが得られない場合には、提供者4のコンピュータ5に障害が発生したあるいは広域ネットワーク1を構成する通信回線に障害が発生したものとみなして、提供者4に対して計算のキャンセルを指示するとともに、レスポンスが得られなかったことを余剰処理能力データベース14に記録し、スケジューラ15に対して「計算失敗」を返し、スケジューラ15に同一の計算単位ブロックを再度配信する提供者を決定させる。』

a (ア)の記載から、周知例3は、ネットワークを介して接続された多数の計算機を含むシステムに関し、特に、計算機資源のうち余剰能力となっている部分を他者のために再販し提供する技術に関する。

b (ア)、(イ)及び(ウ)の記載から、周知例3には、ネットワークを介して接続された多数の計算機を含むシステムであって、計算機資源のうち余剰能力となっている部分を再販する際に、利用者から依頼された計算処理を、最もみじかいトータルレスポンスタイムとなる計算単位ブロックに分割するジョブ分割機構を備え、余剰処理能力データベース14に格納された提供者情報や資源情報、現在の処理能力に関する情報に基づいて、計算単位ブロックを最も早く計算結果が得られるように各提供者のコンピュータに各計算単位ブロックを割り当てる技術(以下「周知技術3」という。)が開示されている。

c (ア)及び(エ)の記載から、周知例3には、
ネットワークを介して接続された多数の計算機を含む、余剰能力である計算機資源に計算単位ブロックを処理させるシステムであって、
処理分配・配信機構を備えて、
前記処理分配・監視機構は、提供者のコンピュータからの計算単位ブロックに対する計算進捗状況などのレスポンスを受領する手段を備え、
提供者のコンピュータが、計算進捗状況を処理分配・監視機構にレスポンスを行う手段を備え、
前記処理分配・監視機構に、提供者のコンピュータのいずれかから、想定した時間内にレスポンスが得られない場合に、障害が発生したとみなして、同一の計算単位ブロックを再度配信する提供者のコンピュータを決定して、同一の計算単位ブロックを再度配信する手段を設ける技術(以下「周知技術4」という)が開示されている。

カ 対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「ネットワークに接続されたパーソナルコンピュータが、データ変換を要求し、インセンティブが与えられて提供されたクライアントシステムが能力を提供し、該パーソナルコンピュータに変換されたデータを提供する、大量分散処理システム」において、「パーソナルコンピュータ」は、データ変換を要求するから、本件補正発明の「利用者端末」に相当する。次に、引用発明の「ネットワークに接続されたパーソナルコンピュータがデータ変換を要求」して「パーソナルコンピュータに変換されたデータを提供」することは、「データ変換」により変換されるデータは本件補正発明の「各種データ」に当たるので、本件補正発明の「ネットワークを介して各種データを利用する利用者が用いる利用者端末との間で前記各種データを交信する」することに相当する。次に、インセンティブが与えられてクライアントシステムが能力を提供することは、パーソナルコンピュータの利用者とクライアントシステムの所有者との間で、大量分散処理システムが提供するアプリケーション又はデータの取引を行う事に当たるので、「インセンティブが与えられて提供されたクライアントシステムが能力を提供」する「大量分散処理システム」は、本件補正発明の「アプリケーション・データ取引管理システム」に相当する。
したがって、引用発明の「ネットワークに接続されたパーソナルコンピュータがデータ変換を要求し、インセンティブが与えられて提供されたクライアントシステムが能力を提供し、該パーソナルコンピュータに変換されたデータを提供する、大量分散処理システム」は、本件補正発明の「ネットワークを介して各種データを利用する利用者が用いる利用者端末との間で前記各種データを交信するアプリケーション・データ取引管理システム」に相当する。
(イ)引用発明の「クライアントシステムとネットワークにより接続され、ブロックからのデータを処理するために該クライアントシステムを利用すること、及び、クライアントシステムの能力を特定して作業負荷を組織化するMPDNサーバ」において、「クライアントシステム」はデータを処理した結果を提供するから本件補正発明の「資源提供者端末」に相当する。また、「クライアントを利用するMPDNサーバー」はデータを処理するためにクライアントシステムを利用するものであって、クライアントシステムは、大量分散処理システムの所定の構成要件であり、このクライアントシステムを利用するために、クライアントシステムの能力を特定して作業負荷を組織化することは、クライアントシステムの動作状態を管理することに当たる。
したがって、引用発明の「クライアントシステムとネットワークにより接続され、ブロックからのデータを処理するために該クライアントシステムを利用するMPDNサーバ」は、本件補正発明の「資源提供者端末とネットワークを介して交信し、システムを構成する所定の構成要件の動作状態を管理するセントラルサーバ」に相当する。
(ウ)引用発明の「変換されるべきデータであるブロック」は、変換されるべきデータを格納しているデータベースといえるので、本件補正発明の「前記各種データが蓄積されるデータべース」に相当する。
(エ)引用発明の「クライアントのソフトウェアタイプにアクセスするための能力ベクトル・データベース」は、クライアント上で動作するソフトウェアのタイプを把握するためのデータ・ベースであるから、本件補正発明の「前記各種データに適用されるアプリケーションの種類を管理するアプリケーション管理手段」に相当する。
(オ)上記(ア)、(イ)のとおり、引用発明の「大量分散処理システム」、「パーソナルコンピュータ」、「MPDNサーバー」、「クライアントシステム」は、各々本件補正発明の「アプリケーション・データ取引システム」、「利用者端末」、「セントラルサーバ」、「資源提供者端末」に相当するから、引用発明の「大量分散処理システムは、パーソナルコンピュータからデータ変換が要求されると、起こるべき変換の様な全ての関連情報がMPDNサーバーへ提供され、MPDNサーバーが、要求しているデバイスに関するデータと情報をクライアントシステムに配布し、クライアントシステムにデータを変換させる手段」は、アプリケーション・データ取引システムが、データの変換を行う共に、利用者端末から変換された各種データの取得要求をするものであるといえる。
したがって、引用発明と本件補正発明は、
前記アプリケーション・データ取引管理システムが該各種データのデータ形式を変換すると共に、前記アプリケーション・データ取引管理システムに対して前記利用者端末から各種データの取得要求をする手段、
を備える点で共通する。
(カ)引用発明の「MPDNサーバーに設けられた、クライアントシステムの装置の活動により装置の利用又は遊休のレベルを決定する手段、及び、システム空き度合データを含む能力データベース」において、上述した(ア)でみたとおり、クライアントシステムは、データ変換を行うものであるので、各種データに対して所定の処理を行うものであるといえる。また、引用発明における「クライアントシステムの装置の活動により装置の利用又は遊休のレベル」及び「システム空き度合データを含む能力データベース」は、本件補正発明の「資源提供者端末の稼働状況」及び「コンピュータ資源状況」に相当する。
したがって、 引用発明の「MPDNサーバーに設けられた、クライアントシステムの装置の活動により装置の利用又は遊休のレベルを決定する手段、及び、システム空き度合データを含む能力データベース」は、本件補正発明の「前記各種データに対して所定の処理を行う前記資源提供者端末の稼動状況、コンピュータ資源状況についての情報を取得する資源管理手段」に相当する。
(キ)引用発明の「タスクを分割し、クライアントシステムの装置の活動により装置の利用又は遊休のレベルを決定する手段、及び、システム空き度合データを含む能力データベースにより、分割された離散作業タスクを配分する複数の遊休クライアントシステムを特定する手段」において、タスクを分割して離散作業タスクとすることは、データ変換を行うべきデータ、すなわち各種データを分割することに当たる。そして、上記(カ)をふまえると、引用発明の「クライアントシステムの装置の活動により装置の利用又は遊休のレベルを決定する手段、及び、システム空き度合データを含む能力データベース」は、本件補正発明の「資源管理手段」に相当する。
また、引用発明における「分割された離散作業タスクを配分する複数の遊休クライアントシステムを特定する」ことは、複数のクライアントシステムは分割された離散作業タスクを別個に処理するといえるので、本件補正発明の「前記各種データを複数の前記資源提供者端末において別個に処理する際に」「前記各種データを処理する前記資源提供者端末を選択する資源解析選択手段」に相当する。
これらのことから、引用発明の「クライアントシステムの装置の活動により装置の利用又は遊休のレベルを決定する手段、及び、システム空き度合データを含む能力データベースにより、分割された離散作業タスクを配分する複数のクライアントシステムを決定する手段」は、「資源管理手段」が取得した「それぞれの前記資源提供者端末の稼動状況、コンピュータ資源状況の情報を解析すると共に該解析の結果に基づいて前記各種データを処理する前記資源提供者端末を選択する」ことに相当する。
したがって、引用発明の「タスクを分割し、クライアントシステムの装置の活動により装置の利用又は遊休のレベルを決定する手段、及び、システム空き度合データを含む能力データベースにより、分割された離散作業タスクを配分する複数の遊休クライアントシステムを特定する手段」は、本件補正発明の「前記各種データを分割し、分割されたそれぞれの前記各種データを複数の前記資源提供者端末において別個に処理する際に、前記資源管理手段が取得したそれぞれの前記資源提供者端末の稼動状況、コンピュータ資源状況の情報を解析すると共に該解析の結果に基づいて前記各種データを処理する前記資源提供者端末を選択する資源解析選択手段」に相当する。
(ク)引用発明の「タスクを分割し、前記決定された複数のクライアントシステムに、分割された離散作業負荷タスクを配分して送る手段」は、タスクを分割することは、本件補正発明の各種データを分割することに当たり、上記(キ)をふまえれば、「決定された複数のクライアント」は「資源解析選択手段」によって決定されているので、本件補正発明の「前記各種データを分割する共に、前記資源解析選択手段によって選択された複数の前記資源提供者端末に対して分割された前記各種データを送信するデータ分割手段」に相当する。
(ケ)引用発明の「MPDNサーバーとネットワークにより接続されて、クライアントシステムの能力によって組織化された作業負荷を処理するクライアントシステム」は、上記(イ)をふまえれば、クライアントシステムは、MPDNサーバとネットワークにより接続されて、MPDNサーバに能力を特定されて作業負荷を組織化されており、MPDNサーバの管理の下で作業負荷を処理している。また、MPDNサーバーは、クライアントシステムを管理する管理者側システムに属しているといえる。
したがって、引用発明の「MPDNサーバーとネットワークにより接続されて、クライアントシステムの能力によって組織化された作業負荷を処理するクライアントシステム」は、本件補正発明の「前記管理者側システムの前記セントラルサーバとの間でネットワークを介して交信し、前記セントラルサーバの管理の下で各種処理を行う資源提供者端末」に相当する。

以上の対比によれば、本件補正発明と引用発明とは、次の事項を備える発明である点で一致し、そして、次の点で相違する。

[一致点]
ネットワークを介して各種データを利用する利用者が用いる利用者端末との間で前記各種データを交信するアプリケーション・データ取引管理システムであって、
資源提供者端末とネットワークを介して交信し、システムを構成する所定の構成要件の動作状態を管理するセントラルサーバと、
前記各種データが蓄積されるデータべースと、
前記各種データに適用されるアプリケーションの種類を管理するアプリケーション管理手段と、
前記アプリケーション・データ取引管理システムが該各種データのデータ形式を変換すると共に、前記アプリケーション・データ取引管理システムに対して前記利用者端末から各種データの取得要求をする手段と、
前記各種データに対して所定の処理を行う前記資源提供者端末の稼動状況、コンピュータ資源状況についての情報を取得する資源管理手段と、
前記各種データを分割し、分割されたそれぞれの前記各種データを複数の前記資源提供者端末において別個に処理する際に、前記資源管理手段が取得したそれぞれの前記資源提供者端末の稼動状況、コンピュータ資源状況の情報を解析すると共に該解析の結果に基づいて前記各種データを処理する前記資源提供者端末を選択する資源解析選択手段と、
前記各種データを分割する共に、前記資源解析選択手段によって選択された複数の前記資源提供者端末に対して分割された前記各種データを送信するデータ分割手段と、
前記管理者側システムの前記セントラルサーバとの間でネットワークを介して交信し、前記セントラルサーバの管理の下で各種処理を行う資源提供者端末が設けられた
アプリケーション・データ取引管理システム。

[相違点1]
本件補正発明が「グリッドコンピューティングシステムを形成」しているのに対し、引用例には、グリッドコンピューティングシステムについて記載がない点。

[相違点2]
本件補正発明が「前記アプリケーション・データ取引管理システムが前記利用者端末から前記各種データを受信した際に該各種データのデータ形式を複数のデータ形式に変換すると共に、前記アプリケーション・データ取引管理システムに対して前記利用者端末から前記各種データの取得要求があった際に該利用者端末に予め登録されたアプリケーションに適合するデータ形式の前記各種データを選択するデータ変換・選択手段」を備えているのに対し、引用発明は「前記アプリケーション・データ取引管理システムが各種データのデータ形式を変換する手段」を備えるものの、
利用者端末から各種データを受信した際に、データ形式を複数のデータ形式に変換するとともに、利用者端末から各種データの取得要求があった際に該利用者端末に予め登録されたアプリケーションに適合するデータ形式の前記各種データを選択することが特定されていない点。

[相違点3]
「前記各種データを分割する共に、前記資源解析選択手段によって選択された複数の前記資源提供者端末に対して分割された前記各種データを送信するデータ分割手段」について、本件補正発明は、データ分割手段が「該資源解析選択手段の解析結果に基づいて」機能しているのに対し、引用発明のデータ分割手段は、このように特定されていない点。

[相違点4]
本件補正発明が、
「 コンピュータ資源におけるジョブの進捗状況の取得を指示管理するジョブ進捗管理手段と、
前記資源提供者端末に設けられた、自らが行っているジョブの進捗を前記ジョブ進捗管理手段に通知するジョブ進捗通知手段と、
前記資源提供者端末において中断した前記ジョブを復旧させるジョブ復旧手段とを備えた管理者側システムが設けられると共に、」
「 前記ジョブ進捗管理手段は、複数の前記資源提供者端末において、一の前記各種データが分割されて形成されたデータとしての分割各種データの処理がそれぞれ行われる際にそれぞれの前記資源提供者端末の前記ジョブ進捗通知手段から前記処理の進捗状況を取得し、
前記ジョブ復旧手段は、前記ジョブ進捗管理手段が取得した前記進捗状況において、複数の前記資源提供者端末のうちの一部の前記資源提供者端末において前記ジョブが中断したと判断された場合、該一部の資源提供者端末の前記ジョブを復旧させる」ものであるのに対し、引用例にはこの構成について記載がない点。

キ 判断
・[相違点1]について
ネットワークに接続されたパソコンの空き時間を利用して単一の処理を実行するグリッドコンピューティングは、「ウ 周知例1」の周知技術1として示したとおり、周知の技術である。
そして、引用発明は、クライアントシステムの遊休のレベルを決定して、離散作業タスクを遊休クライアントシステムに配分するシステムであるから、周知技術1の「グリッドコンピューティング」に当たるといえるので、「グリッドコンピューティングシステムを形成」することは、実質的な相違点ではない。

・[相違点2]について
ユーザーが動画ファイルをブラウザからウェブサイトにアップロードして該動画ファイルを指定した出力形式に変換すると共に、ユーザーが変換を要求する際に、複数の出力形式の候補からユーザーのコンピュータが再生可能な出力形式を指定する技術は、「エ 周知例2」の周知技術2のように、周知の技術である。
引用発明の「ネットワークに接続されたパーソナルコンピュータがデータ変換を要求し、インセンティブが与えられて提供されたクライアントシステムが能力を提供し、該パーソナルコンピュータに変換されたデータを提供する、大量分散処理システム」に対して、同様に、ファイルの出力形式を変換する技術、すなわち、データ形式を変換する技術である点で共通する上記周知技術2を適用して、パーソナルコンピュータからデータをアップロードされた際にデータを変換するとともに、パーソナルコンピュータからデータの取得要求があった際にパーソナルコンピュータが再生可能な出力形式を選択するようにすること、この際に、上記周知技術は複数の出力形式に変換可能であるのだから、変換するにあたり複数のデータ形式に変換することも、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
したがって、引用発明に上記周知技術2を適用して、
大量分散処理システムがパーソナルコンピュータからデータをアップロードされた際に該データを複数の出力形式に変換すると共に、該大量分散処理システムに対して、ユーザーが前記パーソナルコンピュータから変換を要求する際に、該パーソナルコンピュータが再生可能な出力形式を選択するようにする手段をもうけること、すなわち、相違点2の構成とすることは、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

・[相違点3]について
ネットワークを介して接続された多数の計算機を含むシステムであって、計算機資源のうち余剰能力となっている部分を再販する際に、利用者から依頼された計算処理を、最もみじかいトータルレスポンスタイムとなる計算単位ブロックに分割するジョブ分割機構を備え、余剰処理能力データベース14に格納された提供者情報や資源情報、現在の処理能力に関する情報に基づいて、計算単位ブロックを最も早く計算結果が得られるように各提供者のコンピュータに各計算単位ブロックを割り当てる技術は、「オ 周知例3」「b」に示した周知技術3のように、周知の技術である。
引用発明の「タスクを分割し、前記決定された複数のクライアントシステムに、分割された離散作業負荷タスクを配分して送る手段」に対し、同様に、余剰になっている計算機資源、すなわち、遊休となっているコンピュータの能力を提供する技術である点で共通する上記周知技術3を適用して、
最も短いトータルレスポンスタイムとなるようにタスクを分割すると共に、クライアントシステムの資源情報、現在の処理能力に関する情報に基づいて、タスクを最も早く計算結果が得られるようにクライアントシステムを選択して分割されたタスクを割り当てる手段、
を設けることは、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が適宜なし得る程度のことであり、ここで、「タスクを最も早く計算結果が得られるようにクライアントシステムを選択する」ために、クライアントシステムの稼動状況、コンピュータ資源状況の情報を解析し、その結果に基づいてデータを処理するクライアントシステムを選択することは、当業者であれば自明である。
したがって、引用発明及び周知技術に基づいて、相違点3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

・[相違点4]について
ネットワークを介して接続された多数の計算機を含む、余剰能力である計算機資源に計算単位ブロックを処理させるシステムであって、
処理分配・配信機構を備えて、
前記処理分配・監視機構は、提供者のコンピュータからの計算単位ブロックに対する計算進捗状況などのレスポンスを受領する手段を備え、
提供者のコンピュータが、計算進捗状況を処理分配・監視機構にレスポンスを行う手段を備え、
前記処理分配・監視機構に、提供者のコンピュータのいずれかから、想定した時間内にレスポンスが得られない場合に、障害が発生したとみなして、同一の計算単位ブロックを再度配信する提供者のコンピュータを決定して、同一の計算単位ブロックを再度配信する手段を設ける技術は、「オ 周知例3」「c」に示した周知技術4のように、周知の技術である。
引用発明は、遊休クライアントシステムに分割されたタスクであるデータ変換を行わせるものであるから、同様に、余剰になっている計算機資源の能力を提供する技術である点で共通する上記周知技術4を適用することに格別の困難性はない。
そして、「MPDNサーバーが、要求しているデバイスに関するデータと情報をクライアントシステムに配布し、クライアントシステムにデータを変換させる」際に、「タスクを分割し、前記決定された複数のクライアントシステムに、分割された離散作業負荷タスクを配分」する「大量分散処理システム」である引用発明に対して、上記周知技術4を適用することにより、
MPDNサーバーが、クライアントシステムからタスクに対する計算進捗状況などのレスポンスを受領する受領手段を備え、
クライアントシステムが、計算進捗状況をレスポンスするレスポンス手段を備え、
MPDNサーバーの受領手段において、クライアントシステムのいずれかから、想定された時間内にレスポンスが得られない場合に、障害が発生したとみなして、同一のタスクを再度配信するクライアントシステムを決定して、同一のタスクを再度配信する復旧手段とを備えたMPDNサーバー側が設けられると共に、
MPDNサーバーの前記受領手段は、複数のクライアントシステムにおいて、一のタスクが分割されて形成されたタスクの処理がそれぞれ行われる際にそれぞれのクライアントシステムのレスポンス手段から、計算進捗状況のレスポンスを受領し、
前記復旧手段手段は、前記受領手段が受領した計算進捗状況において、複数のクライアントシステムのいずれかについて、障害が発生したとみなした場合、障害が発生したクライアントシステムのタスクを再度配信して実行することにより復旧させること、
言い換えれば、本願補正発明の
「 コンピュータ資源におけるジョブの進捗状況の取得を指示管理するジョブ進捗管理手段と、
前記資源提供者端末に設けられた、自らが行っているジョブの進捗を前記ジョブ進捗管理手段に通知するジョブ進捗通知手段と、
前記資源提供者端末において中断した前記ジョブを復旧させるジョブ復旧手段とを備えた管理者側システムが設けられると共に、」
「 前記ジョブ進捗管理手段は、複数の前記資源提供者端末において、一の前記各種データが分割されて形成されたデータとしての分割各種データの処理がそれぞれ行われる際にそれぞれの前記資源提供者端末の前記ジョブ進捗通知手段から前記処理の進捗状況を取得し、
前記ジョブ復旧手段は、前記ジョブ進捗管理手段が取得した前記進捗状況において、複数の前記資源提供者端末のうちの一部の前記資源提供者端末において前記ジョブが中断したと判断された場合、該一部の資源提供者端末の前記ジョブを復旧させる」手段を設けることは、当業者が適宜なし得る程度のことにすぎない。

そして、本件補正発明の効果も、当業者が引用発明及び上記周知技術1?周知技術4から予測し得る程度のものであって格別のものではない。

したがって、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限定的減縮(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の請求項に記載された発明の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるもの)を目的とするものであると仮定した場合であっても、補正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項の規定により準用する特許法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。』

2 本願発明について
(1)本願発明
平成22年6月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成21年12月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたとおりのものである。

(2)拒絶の理由
[理由]本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・請求項 1-7
・引用文献等 1-4

引用文献等一覧
1.特表2004-513406号公報
2.吉村和宏,“3分間キーワード グリッド コンピューティング”,日経情報ストラテジー,日経BP社,平成14年8月24日,No.125,p.19
3.エアロプレイン,外1名,“ネトランオススメ最強便利サイトを味わいつくせ! ネトミシュラン 三ツ星 ネットサービスを探せ ファイル変換 謎のファイルをぶち込もう ブラウザでファイル変換”,ネットランナー,ソフトバンククリエイティブ(株),平成19年3月1日,第9巻,第3号,p.97
4.特開2001-325041号公報

・備考
本願の請求項1?請求項7に係る発明は、本件拒絶理由通知と同日付けの補正の却下の決定(以下「補正の却下の決定」という。本補正の却下の決定の内容は、上記「1 平成22年6月23日付けの手続補正について」の[理由]欄を参照されたい。)の「2 平成22年6月23日付けの手続補正についての補正却下の決定」[理由]「(1)補正の内容」に補正前の請求項1?補正前の請求項7として記載したとおりのものである。
・請求項1に係る発明について
引用文献等一覧に列記した記載事項は、補正の却下の決定の「2 平成22年6月23日付けの手続補正についての補正却下の決定」[理由][予備的見解]の「イ 引用例」,「ウ 周知例1」,「エ 周知例2」,「オ 周知例3」に記載したとおりである。
そして、本願の請求項1に係る発明は、補正の却下の決定「2 平成22年6月23日付けの手続補正についての補正却下の決定」[理由]「(1)補正の内容」における補正後の請求項1に記載された本件補正発明において、
ア 補正後の請求項1の発明特定事項である「前記各種データに対して所定の処理を行う前記資源提供者端末の稼動状況、コンピュータ資源状況についての情報を取得する資源管理手段と、」を削除。
イ 補正後の請求項1の発明特定事項である「前記資源管理手段が取得したそれぞれの前記資源提供者端末の稼働状況」について、「前記資源管理手段が取得した」との限定を削除。
ウ 補正後の請求項1の発明特定事項である「前記資源提供者端末に設けられた」を「前記資源提供者端末に設けられて」への実質的な意味の変更を伴わない表現の変更。
エ 補正後の請求項1の発明特定事項である「前記資源提供者端末に設けられた、自らが行っているジョブの進捗を前記ジョブ進捗管理手段に通知するジョブ進捗通知手段と、
前記資源提供者端末において中断した前記ジョブを復旧させるジョブ復旧手段とを備えた管理者側システムが設けられると共に」から「前記資源提供者端末において中断した前記ジョブを復旧させるジョブ復旧手段」という限定を削除。
オ 補正後の請求項1の発明特定事項である「前記ジョブ復旧手段は、前記ジョブ進捗管理手段が取得した前記進捗状況において、複数の前記資源提供者端末のうちの一部の前記資源提供者端末において前記ジョブが中断したと判断された場合、該一部の資源提供者端末の前記ジョブを復旧させること」を削除。
を行ったものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、補正の却下の決定の「2 平成22年6月23日付けの手続補正についての補正却下の決定」[理由][予備的見解]「キ 判断」に示したとおり、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項2に係る発明について
「前記資源管理手段は、前記アプリケーションに対して所定の処理を行う前記資源提供者端末の稼動状況、コンピュータ資源状況を取得する」点は、引用例に記載された事項である(補正の却下の決定「2 平成22年6月23日付けの手続補正についての補正却下の決定」[理由][予備的見解]「カ 対比」(カ)を参照。)。
したがって、本願の請求項2に係る発明は、引用例及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項3に係る発明について
「前記資源解析選択手段は、前記分割各種データの処理時間ができるだけ短くなるように前記各種データの分割と前記資源提供者端末の選択とを行う」点は、周知例3に記載された周知技術3のように周知である(補正の却下の決定の「2 平成22年6月23日付けの手続補正についての補正却下の決定」[理由][予備的見解]「オ 周知例3」bを参照。)。
したがって、本願の請求項3に係る発明は、引用例及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項4に係る発明について
「前記資源解析選択手段は、前記各種データの種類、データ量等の条件とそれぞれの前記資源提供者端末の前記コンピュータ資源状況とを照合し、該照合の結果処理時間ができるだけ短くなるように前記資源提供者端末の選択を行う」点は、周知例3に記載された周知例3のように周知である(補正の却下の決定の「2 平成22年6月23日付けの手続補正についての補正却下の決定」[理由][予備的見解]「オ 周知例3」bを参照。)。
したがって、本願の請求項4に係る発明は、引用例及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項5に係る発明について
引用例には変換対象に画像が含まれているとの記載がある(引用例の段落0106には、「処理される該データは音声、テキスト、アップリケ-ション、画像、ソースコード…(中略)…を含んでもよく」と記載されている。)。そして、画像データに属する動画データを各種データとすることにより、本願発明のように「前記各種データは動画ファイルであって、前記アプリケーションは前記動画ファイルのエンコードを行う」ようにすることは、当業者が適宜なし得る程度のものである。
したがって、本願の請求項5に係る発明は、引用例及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項6に係る発明について
引用例には「カストマーの設定価格は希望する場合特定カストマーが希望する特異性のレベルに結びつけられる。…(中略)…基本金額で契約しうる。」(段落0073)と記載され、また、周知例3には「また、本発明では、情報処理能力の余力の提供(供給)とそのような余力の使用(需要)との需要バランスに応じて、情報処理能力の余力部分の買取り価格/販売価格を決定することが可能であるが、そのような需給バランスに応じた価格設定を行う場合には、センターシステム2は、買取り価格/販売価格を算出して提供者4/利用者3に提示する処理も実行する。」(段落0015)
これらの記載から、引用例や周知例3に記載された計算機資源を利用者端末から一定時間使用又は利用者端末において利用されるアプリケーションを一定時間使用させることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
したがって、「特定の前記資源提供者端末のコンピュータ資源を特定の前記利用者端末によって一定時間使用させるためのeマーケットプレイス、又は前記利用者端末において利用される前記アプリケーションを一定時間使用させるためのeマーケットプレイスのうちの少なくとも何れか一つを形成する」ようにすることは、当業者が引用例及び周知技術に基づいて適宜なし得る程度のことにすぎない。
したがって、本願の請求項6に係る発明は、引用例及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項7に係る発明について
請求項7は、「アプリケーション・データ取引管理システム」である請求項1に係る発明を、プログラムの観点で表現したものであるから、上述した「・請求項1に係る発明について」で指摘した拒絶の理由が該当する。」
 
審理終結日 2012-07-09 
結審通知日 2012-07-10 
審決日 2012-07-25 
出願番号 特願2007-285895(P2007-285895)
審決分類 P 1 8・ 121- WZF (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大塚 俊範漆原 孝治  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 殿川 雅也
西山 昇
発明の名称 アプリケーション・データ取引管理システム、プログラム  
代理人 佐野 弘  

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