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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1262650
審判番号 不服2010-24065  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-26 
確定日 2012-09-06 
事件の表示 特願2005-176798「積層体の製造方法,半導体デバイスおよび半導体デバイスの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月28日出願公開,特開2006-351877〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年6月16日の出願であって,平成22年3月29日付けで拒絶の理由が通知され,同年5月28日に意見書と手続補正書が提出され,同年7月28日付けで拒絶査定がされ,同年10月26日に前記拒絶査定に対する不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ,平成23年12月9日付けで審尋がおこなわれ,平成24年2月10日に前記審尋に対する回答書が提出されたものである。

第2 平成22年10月26日付けの手続補正についての却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成22年10月26日に提出された手続補正書でした補正を却下する。

[理 由]
1 本件手続補正の内容
平成22年10月26日に提出された手続補正書でした補正(以下「本件補正」という。)は,特許請求の範囲についてする補正を含むものであり,その特許請求の範囲についてする補正は,補正前に,
「 【請求項1】
酸化力または還元力を持つ気体を溶解させて得ることのできる水溶液を用いて第一の絶縁膜の表面を処理し,その後,第一の絶縁膜上に第二の絶縁膜を形成する,積層体の製造方法であって,前記第一の絶縁膜の表面を処理した後で第一の絶縁膜上に前記第二の絶縁膜を形成する前に,第一の絶縁膜の表面にシランカップリング剤を塗布し,前記シランカップリング剤の塗布は,前記表面処理後の第一の絶縁膜が形成されてから60分以内に実施される,積層体の製造方法。
【請求項2】
酸化力または還元力を持つ気体を溶解させて得ることのできる水溶液を用いて第一の絶縁膜の表面を処理し,その後,第一の絶縁膜上に第二の絶縁膜を形成する,積層体の製造方法であって,前記第二の絶縁膜は,前記表面処理後の第一の絶縁膜が形成されてから60分以内に形成される,積層体の製造方法。
【請求項3】
前記第一の絶縁膜と第二の絶縁膜の少なくともいずれか一方がSiを含む材料からなるものである,請求項1または2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の積層体の製造方法を用いて製造された半導体デバイス。」
とあったものを,補正後に,
「 【請求項1】
酸化力または還元力を持つ気体を溶解させて得ることのできる水溶液を用いて第一の絶縁膜の表面を処理し,その後60分以内に,第一の絶縁膜上に,SiO_(2)膜,フッ素添加シリカ膜,多孔質シリカ膜,水素含有スピン-オン-ガラス膜,有機スピン-オン-ガラス膜,有機絶縁膜のいずれかまたはそれらの組み合わせからなる第二の絶縁膜を直接形成する,積層体の製造方法。
【請求項2】
前記第一の絶縁膜と第二の絶縁膜の少なくともいずれか一方がSiを含む材料からなるものである,請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層体の製造方法を用いて製造された半導体デバイス。」
とするものである。

2 補正目的の適否及び新規事項の追加の有無について
本件補正は,補正前の請求項1を削除し,補正前の請求項2の「その後,第一の絶縁膜上に第二の絶縁膜を形成する,積層体の製造方法であって,前記第二の絶縁膜は,前記表面処理後の第一の絶縁膜が形成されてから60分以内に形成される」を,「その後60分以内に,第一の絶縁膜上に,SiO_(2)膜,フッ素添加シリカ膜,多孔質シリカ膜,水素含有スピン-オン-ガラス膜,有機スピン-オン-ガラス膜,有機絶縁膜のいずれかまたはそれらの組み合わせからなる第二の絶縁膜を直接形成する」と補正して,新しく請求項1となし,補正前の請求項3-4を,それぞれ請求項2-3と繰り上げるものである。
そうすると,前記補正は,「第二の絶縁膜」が「SiO_(2)膜,フッ素添加シリカ膜,多孔質シリカ膜,水素含有スピン-オン-ガラス膜,有機スピン-オン-ガラス膜,有機絶縁膜のいずれかまたはそれらの組み合わせからなる」ものであると具体的に限定するとともに,前記「第二の絶縁膜」が「第一の絶縁膜」上に「直接」形成されるものであると限定した補正を含むから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とした補正といえる。
また,前記補正は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲,又は図面(以下「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものと認められるから,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすといえる。

3 独立特許要件について
上記のとおり,請求項1についてした補正は,特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるから,この補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて更に検討する。

(1)引用例とその記載事項,及び,引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願日前に頒布された刊行物である下記の引用例1-2には,次の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

ア 引用例1:特開平9-167764号公報
(1a)「【請求項2】 酸化シリコン膜の表面を水酸基化した後,有機材料よりなる絶縁膜を積層することを特徴とする絶縁膜の形成方法。」(【特許請求の範囲】)

(1b)「【発明の属する技術分野】本発明は,酸化シリコン膜上に有機材料よりなる絶縁膜を積層する絶縁膜の形成方法に関する。」(【0001】)

(1c)「【発明が解決しようとする課題】ところで,有機材料膜をレジスト・マスクとして用いる場合には,この有機材料膜は,半導体デバイスの完成時には除去されているものであるため,下地となる材料膜との接着性に長期的な信頼性が求められることはなかった。しかしながら,有機材料膜を層間絶縁膜として用いる場合には,この有機材料膜が半導体デバイスの完成時においても残存することとなるため,下地となる材料膜に長期に亘って安定に接着していることが必要となる。有機材料膜と下地となる材料膜との接着性が不十分であると,これに起因して,半導体デバイスに欠陥が生じやすくなるからである。」(【0005】)

(1d)「かかる従来の実情を鑑みて,本発明においては,酸化シリコン膜上にボイドを生じることなく,長期に亘って安定に存在させることができるように有機材料よりなる絶縁膜を形成する絶縁膜の形成方法を提供することを目的とする。」(【0008】)

(1e)「【課題を解決するための手段】本発明に係る絶縁膜の形成方法は,上述の目的を達成するものであり,酸化シリコン膜の表面にシランカップリング剤を保持させた後,有機材料よりなる絶縁膜(以下,有機絶縁膜と称す。)を積層するものである。
また,酸化シリコン膜の表面を水酸基化した後,有機絶縁膜を積層することによっても,上述の目的を達成できる。」(【0009】-【0010】)

(1f)「第2の実施の形態
ここでは,配線パターンを被覆するごとく薄く形成された酸化シリコン膜の表面に有機絶縁膜を形成する例について図1を用いて説明する。
先ず,シリコン基板1上に第1の酸化シリコン膜2を成膜し,さらに配線パターン3を形成した後,第2の酸化シリコン膜4を成膜した。なお,第1の酸化シリコン膜2は,SiH_(4) ガスおよびO_(2) ガスを用いたプラズマCVD法にて,膜厚500nmに成膜されたものである。また,配線パターン3は,スパッタ法にてAl-Si膜を成膜し,フォトリソグラフィおよびエッチングにより所定パターンに形成されたものである。さらに,第2の酸化シリコン膜4は,SiH_(4) ガスおよびO_(2) ガスを用いたプラズマCVD法にて,膜厚100nmに成膜されたものである。但し,これは,配線パターン3の上部に成膜された部分における膜厚であり,配線パターン3間の狭いトレンチ内には,これよりも薄い膜厚となっている。
次に,下記の条件にて,第2の酸化シリコン膜4表面をプラズマ処理した。
プラズマ処理条件
導入ガス : N_(2) O 流量 200sccm
圧力 : 13.3Pa
RF電力 : 300W (13.56MHz)
ウェハ温度: 室温
これにより,第2の酸化シリコン膜4表面のSi-O結合は,水酸基化してSi-OHとなった。
次に,シランカップリング剤として,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフロロヘキシルトリクロロシラン(CF_(3) )(CF_(2) )_(3) (CH_(2) )_(2) SiCl_(3) を用意し,これを四塩化炭素に1重量%溶解させたものを,上述のウェハにスピンコートし,室温にて約1時間放置した。なお,これにより,上述のシランカップリング剤が酸化シリコン膜表面の水酸基と化学結合した。
その後,このウェハを四塩化炭素にて洗浄し,過剰な未反応のシランカップリング剤を除去した。
そして,上述のようにして表面改質が行われた第2の酸化シリコン膜4上に,アモルファステフロン(デュポン社製,商品名:テフロンAF)よりなる有機絶縁膜5を約1μmなる厚さに形成した。なお,この有機絶縁膜5を形成するには,フロロカーボン系溶媒(3M社製,商品名:フロリナート)に溶解させて粘度が30cp程度の塗料を調製し,この塗料を回転数3000rpmにてスピンコートを行うことによって第2の酸化シリコン膜4上に塗布した。なお,塗布後,雰囲気ガス:窒素ガス,温度:100℃,圧力:大気圧なる条件にて2分間ベーキングし,続いて,雰囲気ガス:窒素ガス,温度:260℃なる条件にてアニール処理を行った。
その後,SiH_(4 )ガスおよびO_(2 )ガスを用いたプラズマCVD法にて,膜厚500nmの第3の酸化シリコン膜6を形成した。
これにより,配線パターン3が第2の酸化シリコン膜4,有機絶縁膜5,第3の酸化シリコン膜6によって被覆された。これら酸化シリコン膜4,有機絶縁膜5,第3の酸化シリコン膜6よりなる積層膜は,有機絶縁膜5の存在により非常に誘電率が低い層間絶縁膜となる。また,有機絶縁膜5がフッ素系樹脂よりなるため,耐熱性にも優れている。
本実施の形態においても,第2の酸化シリコン膜4上にシランカップリング剤を介して有機絶縁膜5が形成されているため,この有機絶縁膜5がガラス転移温度以上での熱膨張率が非常に大きいフッ素系樹脂よりなるにも関わらず,第2の酸化シリコン膜4に対する接着性が大きくなっている。」(【0027】-【0036】)

(1g)「以上,本発明を適用した具体的な実施の形態について説明したが,本発明は上述したものに限定されるものではない。例えば,第1の実施の形態,第2の実施の形態とも,酸化シリコン膜の表面の水酸基化,シランカップリング剤の塗布の両方を行ったが,酸化シリコン膜の表面の水酸基化,シランカップリング剤の塗布のうちいずれか一方のみを行ってもよい。
また,上述の実施の形態においては,酸化シリコン膜表面を水酸基化するために,Ar+H_(2 )プラズマ,N_(2) Oプラズマを照射したが,これに代わって,フッ酸による処理や水蒸気暴露を行ってもよい。フッ酸による処理を行うならば,酸化シリコン膜が形成されたウェハを1モル%のフッ酸溶液に10秒程浸し,純水にて約10分間洗浄すればよい。また,水蒸気暴露を行うならば,酸化シリコン膜が形成されたウェハを常温,圧力6700Pa程度なる環境下で水蒸気に曝せばよい。」(【0037】-【0038】)

(1h)「実験2
ここでは,第2の実施の形態にて示したように,配線パターンを被覆するごとく酸化シリコン膜が形成された,微細な凹凸を有するウェハ上に有機絶縁膜を形成した場合について,有機絶縁膜の接着性の評価を行った。
具体的には,第2の実施の形態にて示したとおりにして,配線パターン3を被覆する第2の酸化シリコン膜4の表面をN_(2 )Oガスを用いたプラズマ処理により水酸基化し,テフロンAF(デュポン社製,商品名)よりなる有機絶縁膜5を形成し,さらに第3の酸化シリコン膜6を形成することによって,サンプルウェハを作製した。これをサンプルウェハ(イ)とする。
また,テフロンAF(商品名)に代わって,他のフッ素系樹脂:サイトップ(旭ガラス社製,商品名),FLARE(アライド・シグナル社製,商品名),フッ化ポリイミドよりなる有機絶縁膜5を500nmmなる厚さに成膜した以外は第2の実施の形態と同様にしてサンプルウェハを作製した。なお,これらのフッ素系樹脂も第2の実施の形態に示したと同様,溶媒に溶解させ,スピンコート法により塗布され,ベーキング,アニールを行うことによって形成されたものであるが,アニール温度が350℃に変更されている。有機絶縁膜5の材料がサイトップ(商品名)であるものをサンプルウェハ(ロ),有機絶縁膜5の材料がFLARE(商品名)であるものをサンプルウェハ(ハ),有機絶縁膜5の材料がフッ化ポリイミドであるものをサンプルウェハ(ニ)とする。
さらに,第2の酸化シリコン膜4の表面を水酸基化した後,シランカップリング剤を塗布することなく,ポリパラキシリレンよりなる有機絶縁膜5を成膜した以外は第2の実施の形態と同様にしてサンプルウェハ(ホ)を作製した。ここで,ポリパラキシリレンよりなる有機絶縁膜5は,一般的な減圧CVD装置を用い,ジパラキシリレンを200℃にて昇華させ,650℃でキシリレンモノマーに分解し,これを150℃に加熱した状態で供給することによって成膜されたものである。
また,比較のため,酸化シリコン膜表面を水酸基化することなく,また,シランカップリング剤を塗布することなく,有機絶縁膜が形成されてなるサンプルウェハ(ヘ)を作製した。具体的には,図2に示されるように,先ず,シリコン基板101上の第1の酸化シリコン膜102の上に形成された配線パターン103を被覆するごとく第2の酸化シリコン膜104を形成した。そして,この第2の酸化シリコン膜104表面を水酸基化することなく,また,シランカップリング剤を塗布することもなく,テフロンAF(商品名)を塗布して有機絶縁膜105を形成し,続いて,第3の酸化シリコン膜106を形成した。なお,有機絶縁膜105の形成方法等は,第2の実施の形態と同様とした。
そして,各サンプルウェハ(イ)?(ヘ)について,有機絶縁膜5,105にボイドが発生しているか否かを調べた。
この結果,サンプルウェハ(イ)?(ホ)においては,図1に示されるように,配線パターン3間の狭いトレンチ部でも,有機絶縁膜5にボイドは発生していなかったが,サンプルウェハ(ヘ)においては,図2に示されるように,配線パターン3間のトレンチ部の有機絶縁膜105にボイドが発生していることがわかった。
これより,サンプルウェハ(イ)?(ホ)においては,第2の酸化シリコン膜4と有機絶縁膜5の材料との接着性が十分であったため,有機絶縁膜5の形成時,溶媒を除去するための加熱によって熱膨張が起こっても,第2の酸化シリコン膜4から有機絶縁膜5の材料が剥がれずに済んだことがわかる。
即ち,第2の酸化シリコン膜4の表面を水酸基化することによって,または,さらにシランカップリング剤を塗布することによって,第2の酸化シリコン膜4と有機絶縁膜5との接着性を向上させることができることがわかった。」(【0067】-【0075】)

(1i)「【発明の効果】以上の説明からも明らかなように,本発明を適用して酸化シリコン膜の表面を水酸基化することによって,及び/又は酸化シリコン膜の表面にシランカップリング剤を保持させることによって,該酸化シリコン膜とこの上に形成される有機材料よりなる絶縁膜との接着性が向上する。
これにより,有機材料膜を構成材料として用いた半導体デバイスの信頼性が向上し,有機材料膜の適用範囲を拡大することができる。
このため,配線容量が低減可能な層間絶縁膜として,低誘電率の有機材料を用いるに際しても信頼性が大幅に向上する。」(【0076】-【0078】)

イ 引用発明
引用例1の上記摘記(1a)-(1i)を総合勘案すれば,引用例1には,実験2のサンプルウェハ(ホ)として,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「第2の酸化シリコン膜4の表面を水酸基化した後,シランカップリング剤を塗布することなく,ポリパラキシリレンよりなる有機絶縁膜5を成膜することで,第2の酸化シリコン膜4と有機絶縁膜5の材料との接着性を向上させた,サンプルウェハ(ホ)を作製する方法であって,
前記水酸基化が,下記の条件にて,第2の酸化シリコン膜4表面をプラズマ処理するものである,サンプルウェハ(ホ)を作製する方法。
プラズマ処理条件
導入ガス : N_(2) O 流量 200sccm
圧力 : 13.3Pa
RF電力 : 300W (13.56MHz)
ウェハ温度: 室温。」

ウ 引用例2:特開2003-247077号公報
(2a)「【発明の属する技術分野】本発明は,無電解めっき方法及び無電解めっき装置に関するものである。また,本発明は,これらを利用した銅を含む金属配線を有する半導体装置の製造方法に関するものであり,また,その製造装置に関するものである。」(【0001】)

(2b)「無機材料による絶縁膜面への触媒化処理としては,以下のような処理を行うことができる。先ず,図3(a)に示すように,ウエハ上のSiO_(2)又はSiNからなる絶縁層21の表面に配線溝22をフォトリソグラフィ技術により形成し,この無機物からなる絶縁層21の表面21aを水中で酸化することにより親水化し,表面に-OH基を形成する。処理方法としては,オゾン水処理,硫酸過水処理,次亜塩素酸処理,アンモニア過水処理,過マンガン酸アンモニウム処理等,親水化処理ができる方法であればよい。親水化処理後は純水で洗浄する。」(【0045】)

(2)対比
ア 引用発明の「第2の酸化シリコン膜4」,「ポリパラキシリレンよりなる有機絶縁膜5」は,それぞれ,本願補正発明1の「第一の絶縁膜」,「有機絶縁膜」に相当する。そして,本願補正発明1において「第二の絶縁膜」は択一的記載であるから,引用発明の「ポリパラキシリレンよりなる有機絶縁膜5」は,本願補正発明1の「SiO_(2)膜,フッ素添加シリカ膜,多孔質シリカ膜,水素含有スピン-オン-ガラス膜,有機スピン-オン-ガラス膜,有機絶縁膜のいずれかまたはそれらの組み合わせからなる第二の絶縁膜」に相当するともいえる。

イ 引用発明の「ポリパラキシリレンよりなる有機絶縁膜5」は,第2の酸化シリコン膜4の表面を水酸基化した後,「シランカップリング剤を塗布することなく」成膜されているのであるから,引用発明は,前記第2の酸化シリコン膜4上に,前記有機絶縁膜5を,「直接形成」しているものといえる。

ウ 引用発明の「サンプルウェハ(ホ)」は,「第2の酸化シリコン膜4」と,その上に成膜された「ポリパラキシリレンよりなる有機絶縁膜5」を含むから「積層体」ということができる。したがって,引用発明の「サンプルウェハ(ホ)を作製する方法」は,本願補正発明1の「積層体の製造方法」に相当する。

エ 引用発明の「第2の酸化シリコン膜4表面」の「プラズマ処理」は,第2の酸化シリコン膜4と有機絶縁膜5の材料との「接着性」を向上させることを目的とした処理であり,一方,本願補正発明1の「酸化力または還元力を持つ気体を溶解させて得ることのできる水溶液を用いて」の「第一の絶縁膜の表面」の処理は,絶縁膜とその下地絶縁膜との間の「密着性」の向上を目的としたものであるところ,引用発明の「接着性」は本願補正発明1の「密着性」に相当するから,結局,引用発明の「第2の酸化シリコン膜4表面」の「プラズマ処理」と,本願補正発明1の「酸化力または還元力を持つ気体を溶解させて得ることのできる水溶液を用いて」の「第一の絶縁膜の表面」の処理とは,いずれも,「密着性」を向上させる処理である点で一致する。

そうすると,本願補正発明1と,引用発明との一致点と相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「第一の絶縁膜の表面を,第一の絶縁膜と第二の絶縁膜との密着性を向上させる処理し,その後,第一の絶縁膜上に,SiO_(2)膜,フッ素添加シリカ膜,多孔質シリカ膜,水素含有スピン-オン-ガラス膜,有機スピン-オン-ガラス膜,有機絶縁膜のいずれかまたはそれらの組み合わせからなる第二の絶縁膜を直接形成する,積層体の製造方法。」

<相違点>
・相違点1:第一の絶縁膜と第二の絶縁膜との密着性を向上させる処理が,本願補正発明1では,「酸化力または還元力を持つ気体を溶解させて得ることのできる水溶液を用いて」の処理であるのに対して,引用発明では,「第2の酸化シリコン膜4表面をプラズマ処理する」ことによる「第2の酸化シリコン膜4の表面」の「水酸基化」の処理である点。

・相違点2:本願補正発明1では,第二の絶縁膜が,第一の絶縁膜の表面の処理後「60分以内」に形成されているのに対して,引用発明には,時間が明示されていない点。

(3)相違点についての判断
・相違点1について
引用例1の上記摘記(1g)の「また,上述の実施の形態においては,酸化シリコン膜表面を水酸基化するために,Ar+H_(2 )プラズマ,N_(2) Oプラズマを照射したが,これに代わって,フッ酸による処理や水蒸気暴露を行ってもよい。フッ酸による処理を行うならば,酸化シリコン膜が形成されたウェハを1モル%のフッ酸溶液に10秒程浸し,純水にて約10分間洗浄すればよい。また,水蒸気暴露を行うならば,酸化シリコン膜が形成されたウェハを常温,圧力6700Pa程度なる環境下で水蒸気に曝せばよい。」との記載から,引用発明の「プラズマ処理」は,水酸基化のための一つの方法にすぎず,酸化シリコン膜表面を水酸基化することができるのであれば,1モル%のフッ酸溶液に10秒程浸す,あるいは,常温,圧力6700Pa程度なる環境下で水蒸気に曝す等の他の方法を採用することができることを理解することができる。
一方,引用例2の上記摘記(2b)の,「ウエハ上のSiO_(2)又はSiNからなる絶縁層21の表面に配線溝22をフォトリソグラフィ技術により形成し,この無機物からなる絶縁層21の表面21aを水中で酸化することにより親水化し,表面に-OH基を形成する。処理方法としては,オゾン水処理,硫酸過水処理,次亜塩素酸処理,アンモニア過水処理,過マンガン酸アンモニウム処理等,親水化処理ができる方法であればよい。」との記載から,本願の出願前から,ウエハ上のSiO_(2)の表面をオゾン水処理することで,表面に-OH基を形成する方法が知られていたことが認められる。
そして,引用例2の上記摘記(2a)の「本発明は,これらを利用した銅を含む金属配線を有する半導体装置の製造方法に関するもの」との記載,及び,引用例1の上記摘記(1c)の「【発明が解決しようとする課題】・・・有機材料膜を層間絶縁膜として用いる場合には,この有機材料膜が半導体デバイスの完成時においても残存することとなるため,下地となる材料膜に長期に亘って安定に接着していることが必要となる。有機材料膜と下地となる材料膜との接着性が不十分であると,これに起因して,半導体デバイスに欠陥が生じやすくなるからである。」との記載に照らして,引用例1及び引用例2に記載された発明は,いずれも半導体デバイスの製造に関連する技術分野に属する発明であるということができる。
してみれば,引用発明と引用例2に記載された発明とは,いずれも,半導体デバイスの製造に関連する技術分野という共通する技術分野に属する発明であり,また,引用発明の「プラズマ処理」と,引用例2に記載された発明の「オゾン水処理」とは,いずれも,「酸化シリコン膜表面を水酸基化」する処理であるという点でも一致し,さらに,引用例1において,前記水酸基化として,フッ酸による処理や水蒸気暴露等の他の処理を選択することも示されているのであるから,引用発明と引用例2に接した当業者であれば,引用発明の「プラズマ処理」,あるいは,他に具体的に例示されている,フッ酸による処理や水蒸気暴露に替えて,引用例2に記載された「オゾン水処理」を行うようにすることは容易に想到し得たことである。そして,前記「オゾン水」は,「オゾン」という酸化力を持つ気体を溶解させて得た水溶液であるといえるから,引用発明において,上記相違点1について本願補正発明1の構成とすることは当業者にとって容易である。また,このような構成としたことによる効果も,当業者が予測する範囲内のものと認められる。

・相違点2について
一般に,物の製造においてスループットを上げてコストを下げることは通常行われていることであり,スループットを上げるためには,各工程間の時間をできるだけ短くすることが望ましいことは自明な事項である。
また,部材の表面への処理に先立って,当該部材表面の状態を調整する前処理を行う場合に,時間の経過に伴う当該前処理の効果の減衰を避けるために,当該前処理と前記処理との間の時間を短くすることは,当業者が当然に考慮することである。
してみれば,引用発明において,第2の酸化シリコン膜と有機絶縁膜の材料との接着性を向上させることを目的とした第2の酸化シリコン膜の表面を水酸基化する処理の工程と,前記工程において水酸基化された表面を有する第2の酸化シリコン膜の上に有機絶縁膜を成膜する工程との間に要する時間を,できるだけ短くすることは,当業者が普通に考えることといえる。
一方,本願補正発明1は,第一の絶縁膜の表面の処理後に第二の絶縁膜を形成する時間の上限値として,60分を規定する。
そして,本願明細書の【0068】-【0070】には,第一の絶縁膜(ヤング率20GPa,比誘電率3.1)を成膜したシリコン基板を,O_(3)を20モルppm含んだ水溶液に5秒間浸漬し,処理後大気中に種々の時間放置してから,前記基板に合成例1にて合成した配線分離用多孔質シリカ前駆体溶液をスピンコートで塗布し,250℃,3分でプリベークを行った後,N_(2)ガス雰囲気の電気炉にて400℃,30分の条件でキュアを行い,第二の絶縁膜を成膜し,得られた基板を25枚に分割し,それぞれの基板にエポキシ樹脂を用いてスタッドピンを固定し,150℃で1時間乾燥させ,このスタッドピンに対してセバスチャン法を用いて引張り試験を行い,密着性を評価した結果が表3として示されている。
しかしながら,同表からは,本願補正発明1の前記「60分以内」に含まれる,ディップ処理後放置時間が60分の場合の,スタッドピン剥がれ数は,25枚中の13枚であり,過半の試験片において剥がれていることから,前記「60分」のディップ処理後放置時間において,本願補正発明1の解決しようとする課題である,絶縁膜とその下地絶縁膜との間の密着性を向上という課題が十分に解決されていると理解することは困難であり,また,「60分」という値に,臨界的な意義を認めることもできない。
さらに,本願補正発明1は,水溶液のオゾン濃度,浸漬時間を何ら特定することなく,第二の絶縁膜を,第一の絶縁膜の表面の処理後に形成する時間のみを「60分以内」として規定するものであるところ,本願明細書の実施例1及び実施例2によれば,処理後大気中に放置する時間が一定であっても,浸漬する水溶液のオゾンの濃度の違い,及び,浸漬時間の違いによって,スタッドピン剥がれ数が大きく異なることが明らかであるから,この点においても,本願補正発明1の前記「60分」という値に臨界的な意義を認めることはできない。
そうすると,引用発明において,第2の酸化シリコン膜の表面を水酸基化する処理の工程と,前記工程において水酸基化された表面を有する第2の酸化シリコン膜の上に有機絶縁膜を成膜する工程との間に要する時間を,できるだけ短くすることは,当業者が普通に考えることであり,前記時間を「60分以内」という数値範囲に含まれる時間となすことは当業者が適宜なし得たことであり,前記「60分」という時間自体に臨界的な意義も認められないから,引用発明において,上記相違点2について本願補正発明1の構成とすることは当業者にとって容易である。また,このような構成としたことによる効果も,当業者が予測する範囲内のものと認められる。

(4)まとめ
以上のとおり,本願補正発明1は,上記引用例1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下についてのむすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年10月26日に提出された手続補正書でした補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-4に係る発明は,平成22年5月28日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-4に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,その内,請求項2に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,次のとおりである。

「酸化力または還元力を持つ気体を溶解させて得ることのできる水溶液を用いて第一の絶縁膜の表面を処理し,その後,第一の絶縁膜上に第二の絶縁膜を形成する,積層体の製造方法であって,前記第二の絶縁膜は,前記表面処理後の第一の絶縁膜が形成されてから60分以内に形成される,積層体の製造方法。」

2 進歩性について
(1)引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に頒布された刊行物である引用例1-2に記載されている事項は,上記「第2 3 (1)引用例とその記載事項,及び,引用発明」の項で指摘したとおりである。

(2)当審の判断
本願発明1を特定するに必要な事項を全て含み,さらに具体的に限定したものに相当する本願補正発明1が,前記「第2 3 (3)相違点についての判断」に記載したとおり,引用例1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明1も同様に,引用例1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項2に係る発明は,引用例1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって,本願の他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-05 
結審通知日 2012-07-10 
審決日 2012-07-23 
出願番号 特願2005-176798(P2005-176798)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲辻▼ 弘輔  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 西脇 博志
加藤 浩一
発明の名称 積層体の製造方法、半導体デバイスおよび半導体デバイスの製造方法  
代理人 林 恒徳  
代理人 土井 健二  

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