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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1262679
審判番号 不服2011-17949  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-19 
確定日 2012-09-06 
事件の表示 特願2001-269291「識別情報記録方法およびフォトマスクセット」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月14日出願公開、特開2003- 76026〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年(2001年)年9月5日の出願(特願2001-269291号)であって、平成23年1月20日付けで手続補正がなされ、同年5月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成24年1月26日付けで前置報告書の内容について請求人の意見を事前に求める審尋がなされ、同年3月28日付けで回答書が提出された。さらに、請求項の記載についての審尋がなされ、平成24年7月2日付けでファクシミリにより回答が提出された。

第2 平成23年8月19日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成23年8月19日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成23年1月20日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1の、

「複数の板状部材に対して相互に異なる識別情報を記録する方法であって、
前記識別情報は、z_(1)桁の文字列A、およびz_(2)桁の文字列Bを含む文字列群(z_(1)は2以上の整数、z_(2)は2以上の整数)であり、
(a)文字列AがX軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列された複数の第1フォトマスクと、文字列Bに用いられる1桁の文字がX軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列された遮光パターンを有する複数の第2フォトマスクを用意する工程と、
(b)前記板状部材の表面にフォトレジスト層を形成する工程と、
(c)前記複数の第1フォトマスクから選択した1枚のフォトマスクを用い、前記フォトレジスト層を部分的に露光することにより、前記文字列Aの潜像を前記フォトレジスト層に形成する工程と、
(d)前記複数の第2フォトマスクから必要なフォトマスクを逐次選択し、前記文字列Bを構成する文字の潜像を前記フォトレジスト層に形成する工程と、
を包含し、
前記工程(d)は、
前記第2フォトマスク上の選択された文字が所定の位置に投影されるように、前記第2フォトマスクを前記フォトレジスト層に対して位置あわせする工程(d1)と、
位置あわせがなされた後、前記選択された文字の潜像を前記フォトレジストの前記所定の位置に形成する露光する工程(d2)と、
前記第2フォトマスク上の選択された文字が前記未露光領域の対応する位置に投影されるように、前記第2フォトマスクを前記フォトレジスト層に対して位置あわせする工程(d3)と、
位置あわせがなされた後、前記選択された文字の潜像を前記フォトレジストの前記未露光領域に形成する露光する工程(d4)と、
を包含する、方法。」が

「複数の板状部材に対して相互に異なる識別情報を記録する方法であって、
前記識別情報は、z_(1)桁の文字列A、およびz_(2)桁の文字列Bを含む文字列群(z_(1)は2以上の整数、z_(2)は2以上の整数)であり、前記文字列Aおよび前記文字列Bは、前記複数の板状部材間で相互に異なり、
(a)文字列Aの全桁の文字がX軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列された遮光パターンを有する複数の第1フォトマスクと、文字列Bに用いられる1桁の文字がX軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列された遮光パターンを有する複数の第2フォトマスクを用意する工程と、
(b)前記板状部材の表面にフォトレジスト層を形成する工程と、
(c)前記複数の第1フォトマスクから選択した1枚のフォトマスクを用い、前記フォトレジスト層を部分的に露光することにより、X軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列された前記文字列Aの全桁の文字の潜像を前記フォトレジスト層に形成する工程と、
(d)前記複数の第2フォトマスクから必要なフォトマスクを逐次選択し、X軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列された前記文字列Bを構成する文字の潜像を前記フォトレジスト層の前記工程(c)における未露光領域に逐次形成する工程と、
を包含し、
前記工程(d)は、
前記第2フォトマスク上の選択された文字が所定の位置に投影されるように、前記第2フォトマスクを前記フォトレジスト層に対して位置あわせする工程(d1)と、
位置あわせがなされた後、前記選択された文字の潜像を前記フォトレジストの前記所定の位置に形成する露光する工程(d2)と、
前記第2フォトマスク上の選択された文字が前記未露光領域の対応する位置に投影されるように、前記第2フォトマスクを前記フォトレジスト層に対して位置あわせする工程(d3)と、
位置あわせがなされた後、前記選択された文字の潜像を前記フォトレジストの前記未露光領域に形成するように露光する工程(d4)と、
を包含し、各板状部材内で共通の文字列Aおよび文字列Bを各板状部材の異なる位置に記録する、方法。」と補正された。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、
(1)「(前記)文字列A及び(前記)文字列B」について「複数の板状部材間で相互に異な」ることを特定する補正事項、
(2)第1フォトマスクに周期的に配列される「文字列A」については、文字列Aの「全桁の文字」が配列されることを特定する補正事項、
(3)「複数の第1フォトマスク」について「遮光パターンを有する」ことを特定する補正事項、
(4)「文字列B」についても、第2フォトマスクにおいて「X軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列され」ることを特定する補正事項、
(5)「文字列Bを構成する文字の潜像」の形成について、「工程(c)における未露光領域に逐次形成する」ことを特定する補正事項、
(6)補正前の請求項1において「形成する露光する」とあったのを、「形成するように露光する」と訂正する補正事項、及び、
(7)各板状部材内での文字列A及び文字列Bの記録について「各板状部材内で共通の文字列Aおよび文字列Bを各板状部材の異なる位置に記録する」ことを特定する補正事項、
からなる。
上記の(1)?(5)、(7)の補正事項は、いずれも、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正事項であり、上記(6)の補正事項は誤記の訂正を目的とする補正事項であるから、本件補正による請求項1に係る発明の補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものを含む。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、平成23年8月19日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記の「1 本件補正について」の記載参照。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願の日前の特許出願
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願の日前の特許出願であって、その出願後には出願公開がされた特願2000-253652号(特開2002-75817号)(以下「引用先願」という。)の明細書及び図面には、以下の事項が記載されている。(下線は当審において付した。)なお、引用先願の発明者は本願の発明者と同一ではなく、また本願の出願の時において、引用先願の出願人は本願の出願人と同一でもない。

「 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数個の薄膜素子が一括して形成されるウエハに対してウエハ識別情報を記入するためのウエハ識別情報記入方法ならびにウエハ識別情報記入用露光方法および装置に関する。」

「 【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
始めに、図3を参照して、本発明の一実施の形態に係るウエハ識別情報記入方法ならびにウエハ識別情報記入用露光方法および装置が適用されるウエハとそれに記入される情報について説明する。図3に示したように、本実施の形態が適用されるウエハ1には、複数個の薄膜素子(以下、単に素子と記す。)2が一括して形成される。図3において1つの素子2を拡大して示したように、各素子2の同じ位置には、ウエハ識別情報3と素子配置情報4とが記入される。なお、素子2は、半導体素子でもよいし、薄膜磁気ヘッド等のマイクロデバイスであってもよい。
【0038】
ウエハ識別情報3は、ウエハを識別するための情報であり、各桁が数字または記号で表される複数の桁を含んでいる。ウエハ識別情報3はウエハ1毎に異なる。
【0039】
素子配置情報4は、ウエハ1内における素子2の位置を識別するための情報であり、各桁が数字または記号で表される複数の桁を含んでいる。素子配置情報4は素子2毎に異なる。しかし、同種の素子2を形成する複数のウエハ1では、素子配置情報4はウエハ1毎に異なることはない。」

「 【0040】
次に、図1を参照して、本実施の形態に係るウエハ識別情報記入用露光装置(以下、単に露光装置とも記す。)の構成について説明する。この露光装置は、露光用の光を出射する光源11と、ウエハ1が載置されるウエハステージ12と、光源11とウエハステージ12との間に配置され、マスク30が載置されるマスクステージ13とを備えている。露光装置は、更に、光源11とマスクステージ13との間に配置された複眼集光レンズ等の光学系14と、マスクステージ13とウエハステージ12との間に配置された露光レンズ15とを備えている。光学系14は、光源11から出射された光を、マスクステージ13に載置されたマスク30に照射する。露光レンズ15は、マスク30に描画されたパターンを、ウエハステージ12に載置されたウエハ1に投影する。」

「 【0051】
次に、本実施の形態に係るウエハ識別情報記入方法について説明する。このウエハ識別情報記入方法は、本実施の形態に係るウエハ識別情報記入用露光方法を含んでいる。このウエハ識別情報記入方法は、ウエハ識別情報を記入する対象となるウエハを選択する工程と、選択されたウエハに対して、パターニングされたレジスト層を利用してウエハ識別情報を記入する工程とを備えている。ウエハ識別情報を記入する方法としては、例えば、パターニングされたレジスト層をエッチングマスクとして、このレジスト層の下地の層をエッチングする方法でもよいし、パターニングされたレジスト層をフレームとしてめっきを行ってめっき層を形成する方法でもよい。また、本実施の形態では、パターニングされたレジスト層を利用してウエハ識別情報を記入する工程において、パターニングされたレジスト層を利用して素子配置情報も記入するようにしている。ウエハ識別情報および素子配置情報の記入を行う工程は、素子2の形成前、形成途中、形成後のいずれであってもよい。
【0052】
以下、図4および図5を参照して、パターニングされたレジスト層の下地の層をエッチングする方法を用いる場合におけるウエハ識別情報を記入する工程について説明する。図4は、この場合におけるウエハ識別情報を記入する工程を示す流れ図、図5は、図4に示した工程を説明するための説明図である。
【0053】
図4および図5に示した工程では、まず、図4のステップS101および図5の(a)に示したように、ウエハ上に形成された所定の層50の上に、ウエハ識別情報を記入するための情報記入用膜51を形成する。情報記入用膜51は、金属膜としてもよい。また、情報記入用膜51は、その下の層50とは光の反射率の異なる層とするのが好ましい。次に、図4のステップS102および図5の(b)に示したように、情報記入用膜51の上に、レジストを塗布して、レジスト層52を形成する。次に、図4のステップS103および図5の(c)に示したように、レジスト層52に対して、ウエハ識別情報用の1桁単位のマスクおよび素子配置情報用のマスクを交換して使用して、ウエハ識別情報のパターンおよび素子配置情報のパターンを多重露光する。
【0054】
なお、レジスト層52がネガレジストよりなる場合には、ウエハ識別情報用のマスクおよび素子配置情報用のマスクとしては、ウエハ識別情報および素子配置情報を構成する各数字または記号のパターンの部分は光を透過させ、他の部分は光を遮断するマスクが用いられる。
【0055】
一方、レジスト層52がポジレジストよりなる場合には、ウエハ識別情報用のマスクとしては、ウエハ識別情報を構成する各数字または記号を囲う1桁分の領域内のうち各数字または記号のパターンの部分では光を遮断し、前記領域内のうち他の部分では光を透過させる共に、少なくとも、そのマスクがいずれの桁の露光に使用されてもウエハ識別情報の他の桁および素子配置情報の露光位置に対応する部分では光を遮断するような遮断パターンを有するマスクが用いられる。このような遮断パターンは、例えば、前記領域内のうち各数字または記号のパターンの部分では光を遮断し、前記領域内のうち他の部分では光を透過させる共に、前記領域外の部分では全て光を遮断するような遮断パターンとしてもよい。
【0056】
また、レジスト層52がポジレジストよりなる場合には、素子配置情報用のマスクとしては、素子配置情報を構成する各数字または記号を囲う複数桁分の領域内のうち各数字または記号のパターンの部分では光を遮断し、前記領域内のうち他の部分では光を透過させる共に、少なくともウエハ識別情報の露光位置に対応する部分では光を遮断するような遮断パターンを有するマスクが用いられる。このような遮断パターンは、例えば、前記領域内のうち各数字または記号のパターンの部分では光を遮断し、前記領域内のうち他の部分では光を透過させる共に、前記領域外の部分では全て光を遮断するような遮断パターンとしてもよい。
【0057】
上記の露光の工程(ステップS103)は、本実施の形態に係るウエハ識別情報記入用露光装置を用いて行われる。この工程については、後で詳しく説明する。
【0058】
次に、図4のステップS104および図5の(d)に示したように、露光後のレジスト層52を現像してパターニングされたレジスト層52Aを形成する。次に、図4のステップS105および図5の(e)に示したように、パターニングされたレジスト層52Aをエッチングマスクとして、レジスト層52Aの下地の層である情報記入用膜51をエッチングして、パターニングされた情報記入用膜51Aを形成する。最後に、図4のステップS106および図5の(f)に示したように、レジスト層52Aを除去する。これにより、パターニングされた情報記入用膜51Aによって、ウエハ識別情報および素子配置情報が表される。
【0059】
なお、図4および図5に示した工程において、情報記入用膜51としては、ウエハ1上に素子2を構成する各膜を形成する際のウエハの位置合わせに用いられる指標を形成するための膜を用い、この指標の形成と同時にウエハ識別情報および素子配置情報の記入を行ってもよい。」

「 【0071】
以下の説明では、ウエハ識別情報がM進数のN桁の番号であるものとする。この場合、ウエハ識別情報用のマスクとしては、それぞれ0?(M-1)を表す数字または記号のパターンが描画されたM枚のマスクが用意される。各マスクには、それぞれ、ウエハ1に投影したときにウエハ1における素子2と同じ配列となるように、同じ数字または記号が素子2の数だけ描画されている。そして、本実施の形態では、記入する数字または記号のパターンが描画されたマスクの選択と選択されたマスクを用いた露光とを、ウエハ識別情報の桁の数すなわちN回だけ繰り返し実行することによって、ウエハ識別情報の全ての桁についての露光を行う。
【0072】
また、本実施の形態では、ウエハ識別情報のパターンを露光するための上記のM枚のマスクの他に、素子配置情報のパターンを露光するための1枚のマスクが用意される。そして、ウエハ識別情報のパターンを露光する工程において、この素子配置情報のパターンを露光するためのマスクを用いて、素子配置情報のパターンの露光も行う。従って、本実施の形態では、ウエハ識別情報のパターンを露光する工程において、マスクの選択と選択されたマスクを用いた露光とが、合計(N+1)回だけ繰り返されて、レジスト層に対して、ウエハ識別情報のパターンと素子配置情報のパターンが多重露光される。」

「 【0076】
また、本実施の形態では、ウエハ識別情報における各桁の数字または記号が、ウエハ1内の各素子2に対応する領域内において、互いに異なる位置に記入されるように、ウエハ識別情報のパターンの露光の際には、ウエハ識別情報における各桁毎に、ウエハ1とマスク30との位置関係が変えられる。更に、素子配置番号のパターンの露光の際には、ウエハ1内の各素子2に対応する領域内において、素子配置番号がウエハ識別情報とは異なる位置に記入されるように、ウエハ1とマスク30との位置関係が設定される。
【0077】
図9は、上述のウエハ1とマスク30との位置関係の変化の一例を示している。この例では、ウエハ識別情報は4桁であるものとしている。図9では、ウエハ識別情報の各桁を、最上位桁から順に符号3a,3b,3c,3dで表している。また、この例では、素子配置情報も4桁であるものとしている。図9では、素子配置情報を符号4eで表している。
【0078】
図9に示した例では、(a)?(d)に示したように、それぞれマスク30a,30b,30c,30dを用いて、ウエハ識別情報の最上位桁3aから最下位桁3dまで順に各桁のパターンの露光を行った後、(e)に示したように、マスク30eを用いて、素子配置情報4eのパターンの露光を行うようにしている。ウエハ1内の各素子2に対応する領域内において、ウエハ識別情報における各桁3a?3dの数字または記号および素子配置番号4eが互いに異なる位置に記入されるように、各パターンの露光時におけるマスク30a?30eの位置は変化している。なお、ウエハ識別情報における各桁3a?3dのパターンの露光および素子配置番号4eのパターンの露光の順番は任意に決めることができる。例えば、素子配置番号4eのパターンの露光の後に、ウエハ識別情報の最下位桁から順に各桁3a?3dのパターンの露光を行うようにしてもよい。また、本実施の形態では、ウエハ識別情報における各桁毎にマスク30の位置を変えるようにしているが、ウエハ1の位置を変えるようにしてもよい。」

「 【0100】
また、ウエハ識別情報が、ウエハ1に応じて数字または記号が変化し得る桁と、ウエハ1に応じて数字または記号が変化しない桁とを含む場合には、これら2種類の桁についての記入を別々の工程で行ってもよい。この場合、少なくとも、ウエハ1に応じて数字または記号が変化し得る桁に関しては、1桁毎にマスクを選択して露光を行う。ウエハ1に応じて数字または記号が変化しない桁が複数ある場合には、これらの桁に関しては、1桁毎にマスクを選択して露光を行ってもよいし、複数桁の数字または記号のパターンが描画されたマスクを用いて、複数桁についての露光を同時に行ってもよい。」

「【図1】


「【図3】



「【図5】



「【図9】



イ 引用先願の明細書に記載された発明の認定
【図3】からウエハ1上の複数個の薄膜素子2は、X軸方向及びY軸方向にそって周期的に配列されていることは明らかである。上記の引用先願の明細書の記載(図面の記載も含む)を総合勘案すれば、引用先願の明細書及び図面には、
「複数個の薄膜素子2がX軸方向及びY軸方向にそって周期的に配列されて一括して形成されるウエハ1に対してウエハ識別情報3を記入するためのウエハ識別情報記入方法であって、
ウエハ識別情報3は、ウエハを識別するための情報であり、各桁が数字または記号で表される複数の桁を含み、当該複数の桁は、ウエハ1に応じて数字または記号が変化し得る桁と、ウエハ1に応じて数字または記号が変化しない複数桁とを含み、
ウエハ識別情報3用の各マスクには、それぞれ、ウエハ1に投影したときにウエハ1における薄膜素子2と同じ配列となるように、同じ数字または記号が薄膜素子2の数だけ描画され、
ウエハ1に応じて数字または記号が変化し得る桁に関しては、1桁毎にマスクを選択して露光を行い、ウエハ1に応じて数字または記号が変化しない複数の桁に関しては、複数桁の数字または記号のパターンが描画されたマスクを用いて、複数桁についての露光を同時に行い、
ウエハ識別情報3における各桁のパターンの露光の順番は任意に決めることができ、
当該露光においては、ウエハ上に形成された所定の層50の上に、ウエハ識別情報3を記入するための情報記入用膜51を形成し、情報記入用膜51の上に、レジストを塗布して、レジスト層52を形成し、レジスト層52に対して、ウエハ識別情報用のマスクを使用して、ウエハ識別情報のパターンを露光し、露光後のレジスト層52を現像してパターニングされたレジスト層52Aを形成し、
ウエハ1内の各薄膜素子2に対応する領域内において、ウエハ識別情報3における各桁の数字または記号が互いに異なる位置に記入されるように、露光時におけるマスクの位置は変化するウエハ識別情報記入方法。」
の発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。

(3)本願補正発明と先願発明の対比及び当審の判断
ア 対比
本願補正発明と先願発明を対比する。

(ア)先願発明の「ウエハ1」が、本願補正発明の「板状部材」に相当する。また、先願発明の「ウエハ識別情報3」は、複数のウエハを識別するためのものであり、当然に複数のウエハに対して相互に異なる情報であることから、先願発明の「(複数個の薄膜素子2がX軸方向及びY軸方向にそって周期的に配列されて一括して形成される)ウエハ1に対してウエハ識別情報3を記入するためのウエハ識別情報記入方法」が、本願補正発明の「複数の板状部材に対して相互に異なる識別情報を記録する方法」に相当する。

(イ)先願発明の「ウエハ1に応じて数字または記号が変化し得る桁に関しては、1桁毎にマスクを選択して露光を行い」の特定事項において「1桁毎」に露光を行うことからして、ウエハ1に応じて数字または記号が変化し得る桁は、複数(2以上)の桁であることが想定されているといえる。すなわち、先願発明のウエハ識別情報3は「ウエハ1に応じて数字または記号が変化し得る」2以上の桁の文字列と、「ウエハ1に応じて数字または記号が変化しない」2以上の桁の文字列を含むものである。
また、本願補正発明の「前記文字列Aおよび前記文字列Bは、前記複数の板状部材間で相互に異な」ることは、請求人の釈明したところによれば、「文字列Aと文字列Bの両方を合わせたもの(すなわち、文字列Aと文字列Bからなる識別情報)が、複数の板状部材間で相互に異なる」という意味である(応対記録における、請求人が平成24年7月2日に提出した回答の記載参照)。
これらのことを踏まえれば、先願発明の「ウエハ識別情報3は、ウエハを識別するための情報であり、各桁が数字または記号で表される複数の桁を含み、当該複数の桁は、ウエハ1に応じて数字または記号が変化し得る桁と、ウエハ1に応じて数字または記号が変化しない複数桁とを含」むことが、本願補正発明の「前記識別情報は、z_(1)桁の文字列A、およびz_(2)桁の文字列Bを含む文字列群(z_(1)は2以上の整数、z_(2)は2以上の整数)であり、前記文字列Aおよび前記文字列Bは、前記複数の板状部材間で相互に異な」ることに相当する。

(ウ)a 先願発明における「ウエハ1」には「複数個の薄膜素子2がX軸方向及びY軸方向にそって周期的に配列されて一括して形成される」こと、及び、「ウエハ識別情報3用の各マスクには、それぞれ、ウエハ1に投影したときにウエハ1における薄膜素子2と同じ配列となるように、同じ数字または記号が素子2の数だけ描画され」ることから、先願発明の「ウエハ識別情報3用の各マスク」には「数字または記号のパターン」が「X軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列され」ている。
b よって、先願発明の「ウエハ1に応じて数字または記号が変化しない複数の桁に関しては、複数桁の数字または記号のパターンが描画されたマスクを用いて、複数桁についての露光を同時に行」うこと(工程)が、本願補正発明の「文字列Aの全桁の文字がX軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列された遮光パターンを有する複数の第1フォトマスク」「を用意する工程」に相当する。

(エ)上記(ウ)のaで述べた点を踏まえれば、先願発明の「ウエハ1に応じて数字または記号が変化し得る桁に関しては、1桁毎にマスクを選択して露光を行」うこと(工程)が、本願補正発明の「文字列Bに用いられる1桁の文字がX軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列された遮光パターンを有する複数の第2フォトマスクを用意する工程」に相当する。

(オ)先願発明の「ウエハ上に形成された所定の層50の上に、ウエハ識別情報3を記入するための情報記入用膜51を形成し、情報記入用膜51の上に、レジストを塗布して、レジスト層52を形成」すること(工程)が、本願補正発明の「前記板状部材の表面にフォトレジスト層を形成する工程」に相当する。

(カ)a 先願発明において「レジスト層52に対して、ウエハ識別情報用のマスクを使用して、ウエハ識別情報のパターンを露光し、露光後のレジスト層52を現像してパターニングされたレジスト層52Aを形成」することから、先願発明の「露光」は、技術常識からして当然に、それによって「潜像を前記フォトレジスト層に形成する」ものである。
b よって、さらに、上記(ウ)のaで述べたことも踏まえると、先願発明の「ウエハ1に応じて数字または記号が変化しない複数の桁に関しては、複数桁の数字または記号のパターンが描画されたマスクを用いて、複数桁についての露光を同時に行い」「露光後のレジスト層52を現像してパターニングされたレジスト層52Aを形成」すること(工程)が、本願補正発明の「前記複数の第1フォトマスクから選択した1枚のフォトマスクを用い、前記フォトレジスト層を部分的に露光することにより、X軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列された前記文字列Aの全桁の文字の潜像を前記フォトレジスト層に形成する工程」に相当する。

(キ)a 引用発明における「ウエハ識別情報3における各桁のパターンの露光の順番は任意に決めることができ」ること、及び、「ウエハ1内の各素子2に対応する領域内において、ウエハ識別情報3における各桁の数字または記号が互いに異なる位置に記入されるように、露光時におけるマスクの位置は変化する」ことから、引用発明においては「ウエハ1に応じて数字または記号が変化しない複数の桁」の露光を先に行い、その後、未露光領域に「ウエハ1に応じて数字または記号が変化し得る桁」の露光を行うことも可能であるといえる。
b よって、さらに、上記(ウ)のaで述べたこと及び(カ)のaで述べたことも踏まえると、先願発明の「ウエハ1に応じて数字または記号が変化し得る桁に関しては、1桁毎にマスクを選択して露光を行い」「露光後のレジスト層52を現像してパターニングされたレジスト層52Aを形成」すること(工程)、並びに、「ウエハ識別情報における各桁のパターンの露光の順番は任意に決めることができ」ること、及び、「ウエハ1内の各素子2に対応する領域内において、ウエハ識別情報3における各桁の数字または記号が互いに異なる位置に記入されるように、露光時におけるマスクの位置は変化する」ことが、本願補正発明の「前記複数の第2フォトマスクから必要なフォトマスクを逐次選択し、X軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列された前記文字列Bを構成する文字の潜像を前記フォトレジスト層の前記工程(c)における未露光領域に逐次形成する工程」に相当する。

(ク)上記(カ)のaで述べたこと及び(キ)のaで述べたことも踏まえると、先願発明の「ウエハ1に応じて数字または記号が変化し得る桁に関しては、1桁毎にマスクを選択して露光を行」うこと、「当該露光においては」、「レジスト層52に対して、ウエハ識別情報用のマスクを使用して、ウエハ識別情報のパターンを露光し、露光後のレジスト層52を現像してパターニングされたレジスト層52Aを形成し」、「ウエハ1内の各薄膜素子2に対応する領域内において、ウエハ識別情報3における各桁の数字または記号が互いに異なる位置に記入されるように、露光時におけるマスクの位置は変化する」ことが、本願補正発明の「前記工程(d)は、前記第2フォトマスク上の選択された文字が所定の位置に投影されるように、前記第2フォトマスクを前記フォトレジスト層に対して位置あわせする工程(d1)と、位置あわせがなされた後、前記選択された文字の潜像を前記フォトレジストの前記所定の位置に形成する露光する工程(d2)と、前記第2フォトマスク上の選択された文字が前記未露光領域の対応する位置に投影されるように、前記第2フォトマスクを前記フォトレジスト層に対して位置あわせする工程(d3)と、位置あわせがなされた後、前記選択された文字の潜像を前記フォトレジストの前記未露光領域に形成するように露光する工程(d4)と、を包含」することに相当する。

(ケ)先願発明は「ウエハ1に応じて数字または記号が変化し得る桁に関しては、1桁毎にマスクを選択して露光を行い、ウエハ1に応じて数字または記号が変化しない複数の桁に関しては、複数桁の数字または記号のパターンが描画されたマスクを用いて、複数桁についての露光を同時に行」うと特定されているように、当然のことながら、「マスク」を用いて「露光を行う」ものである。
また、先願発明の「ウエハ識別情報3用の各マスクには、それぞれ、ウエハ1に投影したときにウエハ1における薄膜素子2と同じ配列となるように、同じ数字または記号が薄膜素子2の数だけ描画され」の特定事項におけるの「各マスク」には、「ウエハ1に応じて数字または記号が変化しない複数の桁」(本願補正発明の「文字列A」に相当)用のマスク及び「ウエハ1に応じて数字または記号が変化し得る桁」(本願補正発明の「文字列B」に相当)用のマスクが含まれるといえる。
よって、先願発明の「ウエハ識別情報3用の各マスクには、それぞれ、ウエハ1に投影したときにウエハ1における薄膜素子2と同じ配列となるように、同じ数字または記号が薄膜素子2の数だけ描画され」、当該「マスク」を用いて「露光を行う」ことが、本願補正発明の「各板状部材内で共通の文字列Aおよび文字列Bを各板状部材の異なる位置に記録する」ことに相当する。

イ 一致点及び相違点
よって、本願補正発明と先願発明は、
「複数の板状部材に対して相互に異なる識別情報を記録する方法であって、
前記識別情報は、z_(1)桁の文字列A、およびz_(2)桁の文字列Bを含む文字列群(z_(1)は2以上の整数、z_(2)は2以上の整数)であり、前記文字列Aおよび前記文字列Bは、前記複数の板状部材間で相互に異なり、
(a)文字列Aの全桁の文字がX軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列された遮光パターンを有する複数の第1フォトマスクと、文字列Bに用いられる1桁の文字がX軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列された遮光パターンを有する複数の第2フォトマスクを用意する工程と、
(b)前記板状部材の表面にフォトレジスト層を形成する工程と、
(c)前記複数の第1フォトマスクから選択した1枚のフォトマスクを用い、前記フォトレジスト層を部分的に露光することにより、X軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列された前記文字列Aの全桁の文字の潜像を前記フォトレジスト層に形成する工程と、
(d)前記複数の第2フォトマスクから必要なフォトマスクを逐次選択し、X軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列された前記文字列Bを構成する文字の潜像を前記フォトレジスト層の前記工程(c)における未露光領域に逐次形成する工程と、
を包含し、
前記工程(d)は、
前記第2フォトマスク上の選択された文字が所定の位置に投影されるように、前記第2フォトマスクを前記フォトレジスト層に対して位置あわせする工程(d1)と、
位置あわせがなされた後、前記選択された文字の潜像を前記フォトレジストの前記所定の位置に形成する露光する工程(d2)と、
前記第2フォトマスク上の選択された文字が前記未露光領域の対応する位置に投影されるように、前記第2フォトマスクを前記フォトレジスト層に対して位置あわせする工程(d3)と、
位置あわせがなされた後、前記選択された文字の潜像を前記フォトレジストの前記未露光領域に形成するように露光する工程(d4)と、
を包含し、各板状部材内で共通の文字列Aおよび文字列Bを各板状部材の異なる位置に記録する、方法。」の発明である点で一致し、両者の間に、格別、相違するところがない。

ウ 当審の判断
以上のとおり、本願補正発明と先願発明に相違点はなく、本願補正発明は、先願発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年8月19日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年1月20日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成23年8月19日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願の日前の特許出願
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願の日前の特許出願(引用先願)の記載事項及び先願発明については、上記「第2 平成23年8月19日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願の日前の特許出願」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 平成23年8月19日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」に記載したように、本願発明に対して、
(1)「(前記)文字列A及び(前記)文字列B」について「複数の板状部材間で相互に異な」ることを特定する補正事項、
(2)第1フォトマスクに周期的に配列される「文字列A」については、文字列Aの「全桁の文字」が配列されることを特定する補正事項、
(3)「複数の第1フォトマスク」について「遮光パターンを有する」ことを特定する補正事項、
(4)「文字列B」についても、第2フォトマスクにおいて「X軸方向およびY軸方向に沿って周期的に配列され」ることを特定する補正事項、
(5)「文字列Bを構成する文字の潜像」の形成について、「工程(c)における未露光領域に逐次形成する」ことを特定する補正事項、
(6)補正前の請求項1において「形成する露光する」とあったのを、「形成するように露光する」と訂正する補正事項、及び、
(7)各板状部材内での文字列A及び文字列Bの記録について「各板状部材内で共通の文字列Aおよび文字列Bを各板状部材の異なる位置に記録する」ことを特定する補正事項、
によって限定(及び誤記の訂正)をしたものが本願補正発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定して特定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成23年8月19日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)本願補正発明と先願発明の対比及び当審の判断」において記載したとおり、先願発明と同一であるから、本願発明も、同様に、先願発明と同一である。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、先願発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-06 
結審通知日 2012-07-10 
審決日 2012-07-25 
出願番号 特願2001-269291(P2001-269291)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (G03F)
P 1 8・ 575- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 創  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 土屋 知久
神 悦彦
発明の名称 識別情報記録方法およびフォトマスクセット  
代理人 奥田 誠司  
代理人 喜多 修市  

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