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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C |
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管理番号 | 1262723 |
審判番号 | 不服2009-18135 |
総通号数 | 154 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-09-28 |
確定日 | 2012-09-05 |
事件の表示 | 特願2000-524244「3,3-ジメチルブタノールの酸化による3,3-ジメチルブチルアルデヒドの調製」拒絶査定不服審判事件〔平成11年6月17日国際公開、WO99/29646、平成13年12月11日国内公表、特表2001-525384〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、1998年8月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年8月6日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年8月28日付けで拒絶理由が通知され、平成21年3月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月20日付けで拒絶査定がされ、同年9月28日に拒絶査定に対する審判請求がされ(なお、同日に、特願2009-222019号が分割出願されている。)、その後、平成23年6月16日付けで、特許法第39条に係る協議の指令がされるとともに、拒絶の理由が通知され、これに対して、同年12月21日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 特許請求の範囲の記載及び本願発明 この出願の特許請求の範囲の記載は、平成23年12月21日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載されたとおりであり、その請求項1の記載は以下のとおりである(以下、請求項1に係る発明又は請求項1の特許を受けようとする発明を「本願発明」という。)。 「3,3-ジメチルブタノールを、酸化性金属酸化物と、該金属酸化物が該3,3-ジメチルブタノールと反応しこれを酸化して3,3-ジメチルブチルアルデヒドを生成するために十分である時間と温度で接触させる工程を含み、該金属酸化物は、酸化銅(II)、五酸化バナジウム、二酸化マンガン、酸化ニッケル(IV)および二酸化ルテニウムからなる群より選択される、3,3-ジメチルブチルアルデヒドの調製方法。」 第3 当審が通知した拒絶の理由 当審が通知した拒絶の理由は、理由1、理由2及び理由3からなる。 そのうちの理由1の概要は、この出願の請求項1?13に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物1?6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。この理由1は、請求項1?7に係る発明については刊行物1(特開平2-289579号公報)、刊行物2(特開平8-198893号公報)及び刊行物3(EADON,G.,Tetrahedron Letters,1972年,No.4,257-260)に記載された発明に基づいて判断を示したものであり、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1と同じであるから、当審が通知した拒絶の理由1は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1から3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 また、理由2の概要は、この出願の請求項1及び2の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、この出願は、特許法第36条第6項に規定にする要件を満たしていない、というものである。 第4 当審の判断 当審は、当審が通知した拒絶の理由のとおり、本願発明は、上記刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。また、請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断する。 その理由は、以下のとおりである。 1 理由1について (1)刊行物に記載された事項 ア 刊行物1:特開平2-289579号公報 (1a)「(1)3,3-ジメチルブタナール 500mlの乾燥CH_(2)Cl_(2 )中の9.4ml(107ミリモル)の塩化オキサリルの溶液に-60℃で、25mlのCH_(2)Cl_(2)中の15.4ml(18.5g、235ミリモル)のジメチルスルホキシドの溶液を10分にわたって滴下する。反応混合物を10分間攪拌し、次いで10g(98ミリモル、アルドリッチ)の3,3-ジメチル-1-ブタノールをゆっくり加える。さらに20分間攪拌を続け、次いで68.1ml(489ミリモル)のトリエチルアミンを加え、反応混合物を室温まで加温せしめる。次いで水(50ml)を加え、有機層を分離し、水性層をCH_(2)Cl_(2)(30ml)で抽出する。有機層をコンバインし、1%水性HCl、水、水性飽和NaHCO_(3)、水および塩水で連続して洗い、乾燥(硫酸マグネシウム)し、減圧濃縮して3.3g(33%)の標記化合物を揮発性黄色油状物で得る。」(40頁右上欄5行?左下欄1行) イ 刊行物2:特開平8-198893号公報 (2a)「【請求項1】 6,14α-ジヒドロキシ-4-アンドロステン-3,17-ジオンを活性化剤の存在下または不存在下にジメチルスルホキシドによって酸化することを特徴とする14α-ヒドロキシ-4-アンドロステン-3,6,17-トリオンの製造法。」(特許請求の範囲の請求項1) (2b)「【0014】・・・溶媒としては、特に限定されないが、例えば、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、ケトン類が挙げられる。」 (2c)「【0015】本発明において、ジメチルスルホキシドは、化合物(II)の酸化剤として作用するが、同時に化合物(II)の溶媒としても作用する。」 (2d)「【0016】本発明において、活性化剤は、ジメチルスルホキシドを活性化する作用を有する試薬を意味し、好ましい態様として使用される。活性化剤としては、例えば、無水酢酸、塩化オキサリル、・・・が挙げられる。」 (2e)「【0019】・・・反応の進行に伴ってジメチルスルフィドが副生するが、本発明においては、ジメチルスルフィドの臭気を防止するため、目的物の収量に影響を与えない様な試薬によりジメチルスルフィドを処理することが出来る。」 ウ 刊行物3:EADON,G.,Tetrahedron Letters,1972年,No.4,257-260(当審による訳文で示す。) (3a)「我々は、第一級アルコール及び第二級アルコールの酸化によって、それぞれ対応するアルデヒドとケトンを製造する、簡単で高収率の、実験室的方法を報告する。この方法では、不活性キャリアガス(好ましくはヘリウム)とアルコール蒸気の混合物を、短いワイヤ状の酸化銅(II)^(*) をゆるく充填した6フィートのカラムに通す。ガスクロマトグラフは、正確な温度と制御されたヘリウム流速を与える;すなわち、5?100μlのアルコールを、流速4?20ml/分のヘリウムガスで250?300℃に保たれたカラムに注入することで、概して満足のいく結果が得られた。」(257頁8?14行) (3b)「表1 第一級及び第二級飽和アルコールと不飽和アルコールの酸化銅(II)上での気相酸化(250?300℃)」と題する表1には、以下のとおり、左欄に1?16の「化合物」、中欄にそれぞれの「生成物」、右欄にそれぞれの「%収率^(*)」が記載されている。表の下には、「^(*) 収率は、酸化混合物のガスクロマトグラフィー分析により決定された。」と記載されている。 (259頁) (2)刊行物1に記載された発明 刊行物1には、3,3-ジメチル-1-ブタノールから3,3-ジメチルブタナールを製造するに際し、CH_(2)Cl_(2) 中の塩化オキサリルの溶液に、CH_(2)Cl_(2) 中のジメチルスルホキシドの溶液を滴下し、ついで3,3-ジメチル-1-ブタノールを加え、その後にトリエチルアミンを加える製造方法が記載されている(摘示(1a))。 これは、3,3-ジメチル-1-ブタノールが酸化されて3,3-ジメチル-1-ブタナールが得られたものといえるところ、刊行物2には、アルコールの酸化について、次の記載がされている。 すなわち、刊行物2には、「6,14α-ジヒドロキシ-4-アンドロステン-3,17-ジオン」から「14α-ヒドロキシ-4-アンドロステン-3,6,17-トリオン」を製造する方法について記載され、ここで用いられるジメチルスルホキシドは酸化剤であること、溶媒としてハロゲン化炭化水素類が挙げられること、ジメチルスルホキシドは酸化剤であると同時に溶媒としても作用すること、活性化剤として塩化オキサリル等が挙げられること等が記載されている(摘示(2a)?(2d))。 刊行物2に記載の方法は、6位のヒドロキシ基がケト基に変わるものであって、アルコールからケトンを製造するものであるが、第一級アルコールを酸化すればアルデヒドが生成し、第二級アルコールを酸化すればケトンが生成することは技術常識であるから、アルデヒドの生成もケトンの生成も、アルコールの酸化という点では変わりはなく、そうしてみると、刊行物1に記載の方法においても、酸化剤として作用しているのは、ジメチルスルホキシドと考えられる。 そうすると、刊行物1には、 「3,3-ジメチル-1-ブタノールを、酸化剤であるジメチルスルホキシドにより酸化し、3,3-ジメチルブタナールを製造する方法」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (3)本願発明と引用発明との対比 本願発明は、 「3,3-ジメチルブタノールを、酸化性金属酸化物と、該金属酸化物が該3,3-ジメチルブタノールと反応しこれを酸化して3,3-ジメチルブチルアルデヒドを生成するために十分である時間と温度で接触させる工程を含み、該金属酸化物は、酸化銅(II)、五酸化バナジウム、二酸化マンガン、酸化ニッケル(IV)および二酸化ルテニウムからなる群より選択される、3,3-ジメチルブチルアルデヒドの調製方法。」 であるところ、引用発明における3,3-ジメチルブタナールと本願発明における3,3-ジメチルブチルアルデヒドとは同じ化合物であるから、両者は、ともに、酸化剤を用いて、3,3-ジメチルブタノールを酸化し、3,3-ジメチルブチルアルデヒドを製造する方法であるといえる。 そうすると、両者は、 「3,3-ジメチル-1-ブタノールを、酸化剤により酸化して、3,3-ジメチルブチルアルデヒドを製造する方法」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) 酸化剤が、本願発明においては、「酸化銅(II)、五酸化バナジウム、二酸化マンガン、酸化ニッケル(IV)および二酸化ルテニウムからなる群より選択される酸化性金属酸化物」であるのに対し、引用発明においては、「ジメチルスルホキシド」である点 (4)相違点についての判断 上記(1)にも示したように、刊行物2には、引用発明と同じく、アルコールを、ハロゲン化炭化水素等の溶媒下において、塩化オキサリル等を活性化剤としてジメチルスルホキシドにより酸化する方法が記載されるとともに(摘示(2a)?(2d))、この方法は、反応の進行に伴ってジメチルスルフィドが副生することや、ジメチルスルフィドの臭気を防止するために処理をすることが記載されている(摘示(2e))。 そうすると、引用発明においても、悪臭のあるジメチルスルフィドが副生されると考えられ、そうであるなら、悪臭の元となるジメチルスルホキシドを使用しない酸化方法を3,3-ジメチル-1-ブタノールの酸化に適用しようとするのは当然であるところ、刊行物3には、種々の第一級アルコールや第二級アルコールが、酸化銅(II)を酸化剤として用いて、酸化され、対応するアルデヒドやケトンが高収率で得られることが記載されているのであるから(摘示(3a)(3b))、引用発明において、酸化剤として「ジメチルスルホキシド」に代えて、「酸化銅(II)」を用いることは当業者にとって容易である。 すなわち、本願発明は、酸化性金属酸化物が酸化銅(II)である場合、3,3-ジメチルブタノール(審決注:(CH_(3))_(3)CCH_(2)CH_(2)OH)を酸化銅(II)と接触させ酸化して3,3-ジメチルブチルアルデヒド(審決注:(CH_(3))_(3)CCH_(2)CHO)を生成させるものであるところ、刊行物3の表1には、第一級アルコール(審決注:一般式R-CH_(2)-OH)を250?300℃の酸化銅(II)と接触させ酸化して、アルデヒド(審決注:一般式R-CHO)にする例が8例記載されており、そのうちの7例は、出発物質が、本願発明の出発物質である3,3-ジメチルブタノールと、第一級アルコール(一般式R-CH_(2)-OH)である点で共通するというだけでなく、式 Z-CH_(2)CH_(2)-OH で表される構造を有するアルコールである点でも共通するものである。ここで、Zは、本願発明においては、(CH_(3))_(3)C-であるが、刊行物3の上記の7例においては、CH_(3)CH_(2)CH_(2)-(刊行物3の表1の化合物1)、CH_(3)CH_(2)CH_(2)CH_(2)-(同2)、CH_(3)CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)-(同3)、CH_(3)CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)-(同4)、CH_(2)=CHCH_(2)-(同7)、CH_(2)=CHCH_(2)CH_(2)-(同8)、C_(6)H_(5)-(同16)であり、直鎖のアルキル基だけでなく、二重結合を含むものや、芳香族基であっても、第一級アルコールからアルデヒドへの酸化反応が起こることが記載されているのである。記載されている収率は、いずれも90%以上である。 第一級アルコールからアルデヒドへの酸化反応は、ヒドロキシ基と、ヒドロキシ基が結合している第一級炭素原子に結合している水素原子が関与して、アルデヒド基(-CHO)が生成する反応であるから、3,3-ジメチルブタノールを酸化して3,3-ジメチルブチルアルデヒドを得ようとする当業者が、刊行物3を見れば、そこに記載された、ヒドロキシ基の周りの環境が同様である第一級アルコールからアルデヒドへの酸化方法を、3,3-ジメチルブタノールの酸化に適用することを、直ちに着想し得る。 なお、請求人は、平成23年12月21日付けの意見書において、「刊行物3には、簡単な構造の第一級アルコールや第二級アルコールを、酸化銅(II)を酸化剤として用いて酸化することが記載されています。しかしながら刊行物3には、出発物質としてさらに複雑な構造を有するアルコールである3,3-ジメチルブタノールを使用することも、また、反応生成物として3,3-ジメチルブチルアルデヒドを得ることについても開示されてはいません」、「本願発明1の方法において出発物質として使用される3,3-ジメチルブタノールは、第4級炭素原子を含有する化合物であるという立体的な特異性を有しています。第4級炭素原子を含有する化合物を含む化学反応が一般に困難を伴うものであることは当業者によく知られているところであります」、「また、3,3-ジメチルブタノールのようなネオペンチル基あるいはホモネオペンチル基を含有する化合物が、高度の立体障害を備えたものであり、しばしば予想外の反応を示すことも知られています。従って、当業者は、ネオペンチル基あるいはホモネオペンチル基を含有する化合物の酸化反応が、多くの転位反応を伴い、それに基づく多様な生成物を生成するものと予想するものであります。上記転位反応は、置換基や反応試薬の種類に依存し、反応条件によって多様な転位を致しますので、このような酸化反応が問題なく進行するか否かは予測し得ないことであるものと思料致します。」と述べ、「これらの問題点を考慮すれば、刊行物3に接した当業者が、刊行物3に記載された方法を3,3-ジメチルブタノールを出発物質として使用する方法に適用しようと考える可能性は低いものと思料致します」と主張している。 しかし、上記したとおり、3,3-ジメチルブタノールは、刊行物3に記載された多くの第一級アルコールとヒドロキシ基の周りの環境が同様であり、酸化反応がヒドロキシ基の辺りで進むと考えられることから、同様の酸化反応が期待できるのであり、また、3,3-ジメチルブタノールは、第4級炭素原子があるとしても-CH_(2)-に隔てられて存在しており、立体障害や転位反応の懸念をいう請求人の主張は具体的な根拠に基づくものではないから、請求人の主張は、採用できない。 (5)効果について 本願発明の効果は、3,3-ジメチルブチルアルデヒドが製造できた、というものといえるところ、これは刊行物1及び3に記載された事項から当業者が予測し得る程度のものといえる。 (6)まとめ 以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 2 理由2について (1)はじめに 特許法第36条第6項は、「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号に規定する要件(いわゆる、「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」(知財高裁特別部平成17年(行ヶ)第10042号判決)である。 以下、この観点に立って、検討する。 (2)本願発明の課題 本願発明の課題は、平成21年3月9日付け及び平成23年12月21日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。発明の詳細な説明は、出願当初のままで補正されていない。)の段落【0012】等に記載されるように、「酸化性成分を使用して3,3-ジメチルブタノールから3,3-ジメチルブチルアルデヒドを調製する方法」を提供することであるといえる。 (3)発明の詳細な説明に記載された発明 本願明細書の発明の詳細な説明に、酸化性成分である酸化性金属酸化物として、上記課題を解決できるように、具体的な効果のデータを伴って記載されているのは、「酸化銅(II)」についてのみである。 (4)検討 請求項1に、「酸化銅(II)」と同様に酸化性金属酸化物として記載される「五酸化バナジウム」、「二酸化マンガン」、「酸化ニッケル(IV)」及び「二酸化ルテニウム」については、発明の詳細な説明に、具体的にデータを伴って記載されておらず、また、3,3-ジメチルブタノールを酸化して3,3-ジメチルブチルアルデヒドを製造するに際して、「五酸化バナジウム」、「二酸化マンガン」、「酸化ニッケル(IV)」及び「二酸化ルテニウム」が、「酸化銅(II)」と同様の酸化剤としての作用効果を奏するということが、当業者の技術常識であるとすることもできない。 すなわち、「酸化銅(II)」と「五酸化バナジウム」、「二酸化マンガン」、「酸化ニッケル(IV)」、「二酸化ルテニウム」は、それぞれ異なる金属元素の酸化物であり、その電子状態や、酸化還元に係るエネルギー変化も異なると考えられるし、遷移金属酸化物は種々の化学反応を触媒する作用を示すものも多いことや、アルコールの酸化反応ではアルデヒドが生成する反応以外にカルボン酸が生成する反応も起こることが考えられる。そうすると、酸化銅(II)を用いた場合に3,3-ジメチルブタノールから3,3-ジメチルブチルアルデヒドへの酸化反応がうまく進行したとしても、五酸化バナジウムその他を用いた場合に、3,3-ジメチルブタノールから3,3-ジメチルブチルアルデヒドへの酸化反応が首尾良く進行するか否かは、十分な理論的な説明がされるか、実験により裏付けられなければ、当業者といえども、認識することはできない。 したがって、本願発明のうち、酸化性金属酸化物としての「五酸化バナジウム」、「二酸化マンガン」、「酸化ニッケル(IV)」又は「二酸化ルテニウム」を用いる方法の発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であって発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。 なお、請求人は、平成23年12月21日付けの意見書において、「『五酸化バナジウム』、『二酸化マンガン』、『酸化ニッケル(IV)』及び『二酸化ルテニウム』は、『酸化銅(II)』と同様に、いずれも単純な構造の金属酸化物であり、そのことによって、酸化性金属酸化物としての化学的性質及び機能を共有するものであると当業者によって認識されています。従って、『酸化銅(II))』について本願明細書の発明の詳細な説明中に具体的な効果のデータを伴って記載されていることにより、同様に単純な構造の金属酸化物である『五酸化バナジウム』、『二酸化マンガン』、『酸化ニッケル(IV)』又は『二酸化ルテニウム』も本願発明方法の反応において同様の作用をするものと当業者によって予測されるものと思料致します」と主張している。 しかし、請求人のいう「単純な構造の金属酸化物」が、どのような意味で「単純な構造」であるというのかが不明であり、酸化銅(II)を用いた場合の3,3-ジメチルブタノールから3,3-ジメチルブチルアルデヒドへの酸化反応が、酸化銅(II)が単純な構造の金属酸化物であることに基づいて首尾良く進行するのであるとはいえないから、請求人の主張は採用できない。 (5)まとめ 以上のとおりであるから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。 してみると、請求項1の特許を受けようとする発明(本願発明)が、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいうことができないから、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、この出願の特許 請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-03-28 |
結審通知日 | 2012-04-03 |
審決日 | 2012-04-16 |
出願番号 | 特願2000-524244(P2000-524244) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C07C)
P 1 8・ 537- WZ (C07C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上村 直子 |
特許庁審判長 |
中田 とし子 |
特許庁審判官 |
木村 敏康 小出 直也 |
発明の名称 | 3,3-ジメチルブタノールの酸化による3,3-ジメチルブチルアルデヒドの調製 |
代理人 | 渡邉 千尋 |
代理人 | 川口 義雄 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 大崎 勝真 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 金山 賢教 |