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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1262731
審判番号 不服2009-25727  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-25 
確定日 2012-09-05 
事件の表示 特願2002-552533「イバブラジン制御放出のための熱成形可能な固形医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月 4日国際公開、WO02/51387、平成16年 6月24日国内公表、特表2004-518665〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年(2001年)12月21日(パリ条約による優先権主張、2000年12月26日、仏国)を国際出願日とする出願であって、拒絶理由に応答して平成20年5月1日付けで意見書が提出されたが、その後、平成21年8月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月25日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

本願の請求項1?15に係る発明は、願書に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
イバブラジンまたは薬学的に許容し得るその塩の放出制御のための固形医薬組成物であって、イバブラジンまたは薬学的に許容し得るその塩およびポリメタクリレートの群より選択される一つ以上のポリマーの熱成形可能な混合物を含み、イバブラジンの放出が、使用されるポリメタクリレートの性質、イバブラジンに対するその量、および前記組成物の製造に用いられる技術によってのみ制御されることを特徴とする組成物。」


2.引用例
A.国際公開第00/41481号(国際公開日 2000年7月20日)
(原審の引用文献2。以下、「引用例A」という。)
B.特開平5-213890号公報
(原審の引用文献6。以下、「引用例B」という。)
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな上記引用例A,Bには、次の事項が記載されている。(引用例Aは独文のため、翻訳文で示す。翻訳文は、引用例Aに対応する公表公報である特表2002-534443号公報による。)

(2A)引用例Aの記載事項
(a-1)
「特許請求の範囲
1.溶融押出により得られ、アクリレートポリマーをベースとするマトリックス中に、30までのUSP 23による水に対する溶解度を有している作用物質を含有している剤形。
2.作用物質が無定形で存在している、請求項1記載の剤形。
3.マトリックスポリマーとしてメタクリル酸共重合体を含有している、請求項1又は2記載の剤形。
4.マトリックスポリマーとしてメタクリル酸エステル共重合体を含有している、請求項1から3までのいずれか1項記載の剤形。
5.メタクリル酸共重合体及びメタクリル酸エステル共重合体の組合せ物を含有している、請求項1から4までのいずれか1項記載の剤形。
6.作用物質として酒石酸メトプロロールを含有している、請求項1から5までのいずれか1項記載の剤形。
7.作用物質及びマトリックスポリマーの混合物を溶融押出し、かつ成形にかけることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の剤形を製造する方法。
・・・ 」(【特許請求の範囲】)
(a-2)
「本発明は、アクリレートポリマーをベースとするマトリックス中に、30までのUSPによる水に対する溶解度を有している作用物質を含有している制御された放出を有する剤形に関するものであり、これは溶融押出により得られる。
制御された放出、殊に遅延した線形放出は、十分に水溶性の作用物質の場合に問題があることは一般に公知である。特に、酒石酸メトプロロールの遅延放出は、従来の手段によっては困難である。
欧州特許出願公開第240904号明細書からは、溶融押出法により剤形を製造できることが公知である。
本発明の課題は、十分に水溶性の作用物質の制御された放出を可能にする剤形を見いだすことにあった。」(1頁6?22行;対応公表公報の段落【0001】?【0004】参照)
(a-3)
「十分に水溶性の作用物質は、本発明によれば1?10(溶けやすい)又は10?30(やや溶けやすい)、好ましくは1未満(極めて溶けやすい)のUSP 23で定義されているような水に対する溶解度を有するものである。数値の記載は、溶解すべき物質1部当たりにどれだけの部の溶剤が必要であるかに基づく。」(1頁26?31行;対応公表公報の段落【0006】参照)
(a-4)
「作用物質は、溶融押出の間に、アクリレートポリマーをベースとするマトリックス中に、均質に分散されるか又は固溶体の意味で溶解される。好ましくは作用物質は、マトリックス中にX線による無定形の形で存在する。作用物質の固溶体を得ることが特に好ましい。
アクリレートポリマーとして、Eudragit^((R))タイプの膨潤可能なポリマーが特に適している。適しているポリマーの例は、メタクリル酸共重合体(Eudragit Lタイプ)、例えばメタクリル酸-アクリル酸エチル1:1共重合体M 250000、メタクリル酸-メタクリル酸メチル1:1共重合体M 135000、メタクリル酸-メタクリル酸メチル1:2共重合体M 135000又はジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体(Eudragit E)、例えばポリ(ブチルメタクリレート(2-ジメチルアミノエチル)メタクリレート)-1:1:2 Mt 150000である。pHに独立して膨潤するメタクリル酸エステル共重合体(Eudragit NE)が好ましく、例えばアクリル酸エチル/メタクリル酸メチル2:1共重合体M 800000、特に好ましくはトリメチルアンモニウムエチル-メタクリレートクロリド5又は10%を有している2:1 メタクリル酸メチル-アクリル酸エチル共重合体(Eudragit RS及びRL-タイプ)M 150000である。
前記ポリマーの混合物を使用することも可能である。
作用物質及びアクリレートポリマーの量は、剤形が作用物質1?50質量%、好ましくは10?30質量%を含有するように選択される。特に、Eudragit RL 1?80質量%、好ましくは10?40質量%及びEudragit RS 1?50質量%、好ましくは5?20質量%を含有している製剤が適している。」(1頁36行?2頁16行;対応公表公報の段落【0008】?【0011】参照)
(a-5)
「マトリックス中に、付加的に別のポリマー、例えばN-ビニルピロリドンの単独重合体又は共重合体、例えばポビドン又はコポビドン-6:4、又は好ましくはセルロースエーテル、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロースを含有していてもよい。
付加的な遅延のために別の従来の製薬助剤を添加することも可能である。これらは、殊に疎水化助剤、例えば脂質又はその塩、例えばステアリン酸、パルミチン酸、水素化されたリシノール酸等、好ましくはステアリン酸マグネシウムを含む。
製剤は付加的に、このために常用の量で別の従来の製薬助剤、例えば安定剤、酸化防止剤、着色剤、着香料、増量剤又は安定剤、例えば高分散二酸化ケイ素又は潤滑剤を含有していてよい。」(2頁18?34行;対応公表公報の段落【0012】?【0014】参照)
(a-6)
「本発明による製剤は、剪断力の使用及び熱エネルギーの供給下に成分を混合することにより製造される。混合は好ましくは、一軸スクリュー押出機又は多軸スクリュー押出機、特に好ましくは二軸スクリュー押出機中で行われる。熱エネルギーの供給により、混合成分の融成物が生じる。これは通常、50?180℃、好ましくは80?130℃の範囲内の温度に押出機ジャケットを加熱することにより行われる。作用物質は、ポリマーバインダーの溶融前又は溶融後に、他の成分と混合されてよい。融成物は溶剤不含である。これは、水又は有機溶剤が添加されないことを意味する。
成分の融解混合物は、スクリュー運動によって好ましくはダイからなる押出機排出口の方へ搬送される。ダイによる押出後に、なお可塑性の組成物は、適当な剤形に成形される。」(2頁36行?3頁8行;対応公表公報の段落【0015】参照)
(a-7)
「意外にも、溶融押出法と、十分に水溶性の作用物質のためのアクリレートポリマーをベースとする相応している製剤との本発明による組合せにより、制御された放出を有している剤形が製造されうる。特に、その放出に関してコハク酸メトプロロール含有の市販製品Beloc-ZOK^((R))に生物学的に同等である、遅延した酒石酸メトプロロール製剤が、溶融押出及び相応している処方を用いて単純な方法で得られうることは予期され得なかった。」(3頁26?34行;対応公表公報の段落【0016】参照)
(a-8)
「実施例
錠剤を、欧州特許出願公開第240906号明細書に記載されている方法により、以下の表中に挙げられた混合物をWerner & Pfleiderer社のタイプZKS-40の同時回転している二軸スクリュー押出機中で押出し、引き続き錠剤質量500mgを有している長だ円形の錠剤にカレンダー掛けすることにより製造した。
押出機の温度プロフィール:
入り口:20?25℃、ショット1:80℃、ショット2:110℃、ショット3:110℃、ショット4:130℃、ダイ:130℃。回転数は110rpmであり;処理量は15kg/hであった。・・・
・・・
試験管内放出を、USP 23に従って、pH 6.8、変化なしで24時間、人工腸液中で100rpmでパドル装置において測定した。」(3頁36行?4頁20行;対応公表公報の段落【0017】?【0018】参照)
(a-9)
「【表1】


(5頁表1;対応公表公報の段落【0019】参照)

(2B)引用例Bの記載事項
(b-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記一般式Iで表わされる化合物、単離された形態または混合物の形態のそれらの可能な光学異性体および相当する場合に、医薬的に許容される酸によるそれらの付加塩:
【化1】

式中、・・・
【請求項2】 (R,S)-7,8-ジメトキシ-3-(3-{N-〔(4,5-ジメトキシベンゾシクロブト-1-イル)メチル〕-N-(メチル)アミノ}プロピル)-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-3-ベンズアゼピン-2-オン、単離形態または混合物形態のその光学異性体および医薬的に許容される酸によるその付加塩である、請求項1に記載の化合物。
・・・
【請求項8】 活性成分として、請求項1?6のいずれか一項に記載の化合物の少なくとも1種を、不活性で無毒性の医薬的に許容される賦形剤または担体の1種または2種以上と組合せて含有し、心筋酸素の供給と消費との間の平衡失調から生じる心筋虚血の種々の臨床上の症状、たとえば胸部狭心症、心筋梗塞および付随するリズム障害の予防および処置に、およびまたリズム障害、特に心室上リズム障害および血管血行動態圧追を制限することによる、アテローム硬化症、特に冠状動脈の障害の合併症の予防および処置に使用することができる医薬組成物。」(【特許請求の範囲】)
(b-2)「【0017】本発明の化合物の薬理学的性質は、心臓血管分野におけるそれらの治療的価値に見い出される。ビボで行なわれた研究において、これらの化合物は長い作用持続性を有し、心拍数を減少させ、そしてまた心筋の酸素消費を減少させる強力で特異的な活性を示した。
・・・
【0021】本発明はまた、式(I)で示される化合物またはその医薬的に許容される酸付加塩を単独で、または1種または2種以上の不活性で無毒性の医薬的に許容される担体または賦形剤と組合せて含有する医薬組成物に関する。
【0022】これらの医薬組成物は一般に、用量形態で提供される。・・・
【0023】投与量は、特に患者の年令および体重、投与経路、障害の種類および組合せ処置によって変えることができ、1日1回ないし数回、1?100mgを投与することからなる。」(段落【0017】?【0023】)
(b-3)「【0025】例1
(R,S)-7,8-ジメトキシ-3-(3-{N-〔(4,5-ジメトキシベンゾシクロブト-1-イル)メチル〕-N-(メチル)アミノ}プロピル)-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-3-ベンズアゼピン-2-オン
工程A
・・・
【0031】工程D
(R,S)-7,8-ジメトキシ-3-(3-{N-〔(4,5-ジメトキシベンゾシクロブト-1-イル)メチル〕-N-(メチル)アミノ}プロピル)-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-3-ベンズアゼピン-2-オン
氷酢酸50cm^(3)中の工程Cで得られた化合物5gを、パール装置において、10%水酸化パラジウム1gの存在下に、室温において49×10^(4)Paの水素圧の下で24時間水素添加する。触媒を濾別し、溶媒を蒸発させ、次いで乾燥した残留物を水および酢酸エチル中に取り入れる。この水性相を分離し、水酸化ナトリウムにより塩基性にし、次いで酢酸エチルにより抽出する。この有機相を無水硫酸マグネシウム上で乾燥させ、次いで減圧の下に濃縮し、残留物を次いで、シリカカラムにおいて、溶出剤として塩化メチレンとメタノールとの混合物(95:5v/v)を用いて精製する。酢酸エチルから再結晶させ、本例の化合物2gを得る。
【0032】収率:40%
融点:101?103℃
・・・
【0033】例2
(+)-7,8-ジメトキシ-3-(3-{N-〔(4,5-ジメトキシベンゾシクロブト-1-イル)メチル〕-N-(メチル)アミノ}プロピル)-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-3-ベンズアゼピン-2-オン
例1と同様に操作するが、例1の工程Aで得られた化合物を(d)-カンホスルホネート塩の形態で分割した、光学活性(+)形態で使用する。この光学活性(+)形態は下記のとおりにして得られる:
【0034】工程A
・・・
【0038】工程E
7,8-ジメトキシ-3-(3-{N-〔(4,5-ジメトキシベンゾシクロブト-1-イル)メチル〕-N-(メチル)アミノ}プロピル)-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-3-ベンズアゼピン-2-オンの(+)異性体の一塩酸塩
(+)-7,8-ジメトキシ-3-(3-{N-〔(4,5-ジメトキシベンゾシクロブト-1-イル)メチル〕-N-(メチル)アミノ}プロピル)-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-3-ベンズアゼピン-2-オン0.7gに、0.1N HCl 14.9mlを加える。この全体を攪拌し、濾過し、濃縮し、次いでアセトニトリル5mlから再結晶させ、相当する一塩酸塩0.5gを得る(収率:66%)。
【0039】融点(即時):135?140℃
施光能力(DMSO中の1%):
・・・」(段落【0025】?【0039】)
(b-4)「【0095】例15
薬理学的研究
A.インビボ試験
意識のあるラットにおける本発明の化合物の血行動態効果
・・・
【0099】本発明の化合物は、静脈経路による投与後および経口投与による投与後の両方において、長時間持続性の強力な徐脈活性を有する。この心拍数に対する効果は、動脈血圧に対する有害な作用を伴なわない。
・・・
【0102】結果
本発明の化合物は、単離された右心耳の自発脈拍数に対し、非常に顕著な減少効果を有し、この効果は濃度依存性である。一例として、例1の化合物および例9の化合物は、3×10^(-6)Mの濃度において、心耳脈拍数を43%および68%減少させる。
【0103】これらの実験は、本発明の化合物の徐脈活性が心臓ペースメーカー活動に重要な洞耳結節に対する直接効果をもたらすことを示している。」(段落【0095】?【0103】)


3.対比・判断
引用例Aには、溶融押出により得られ、アクリレートポリマーをベースとするマトリックス中に、30までのUSP 23による水に対する溶解度を有している作用物質を含有している剤形(摘記事項a-1)が記載され、溶融押出法と、十分に水溶性の作用物質のためのアクリレートポリマーをベースとする相応している製剤との本発明による組合せにより、制御された放出を有している剤形が製造されうること(摘記事項a-7)が記載されている。さらに、実施例には、溶融押出法により製造された錠剤の製造例が記載され、実施例5には、作用物質である酒石酸メトプロロール、Eudragit RL(登録商標)、高分散シリカゲルからなる錠剤が、実施例6には、酒石酸メトプロロール、Eudragit RL(登録商標)、Eudragit RS(登録商標)、高分散シリカゲルからなる錠剤が具体的に開示されている(摘記事項a-8,9)。
すなわち、引用例Aの上記摘記事項の記載からみて、引用例Aには、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「溶融押出により得られるアクリレートポリマーをベースとするマトリックス中に、30までのUSP 23による水に対する溶解度を有している作用物質を含有している剤形であって、作用物質の放出制御のための固形である剤形。」

そこで、本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「アクリレートポリマー」は、引用例Aにおいて、マトリックスポリマーとしてメタクリル酸共重合体を含有していること(摘記事項a-1)、アクリレートポリマーとして、メタクリル酸共重合体(Eudragit Lタイプ)やトリメチルアンモニウムエチル-メタクリレートクロリド5又は10%を有している2:1 メタクリル酸メチル-アクリル酸エチル共重合体(Eudragit RS及びRL-タイプ)などのEudragit^((R))タイプの膨潤可能なポリマーが特に適している(摘記事項a-4)ことが記載されていることから、本願発明の「ポリメタクリレート」に相当する。
そして、引用発明の「溶融押出」は、引用例Aにおいて、引用発明の製剤の製造方法に関し、剪断力の使用及び熱エネルギーの供給下に成分を混合することにより製造され、熱エネルギーの供給により、混合成分の融成物が生じること、成分の融解混合物は、スクリュー運動によって好ましくはダイからなる押出機排出口の方へ搬送されること、ダイによる押出後に、なお可塑性の組成物は、適当な剤形に成形されることが記載されている(摘記事項a-6)ことから、本願発明の「熱成形」に相当する。
よって、両者は、
「作用物質の放出制御のための固形医薬組成物であって、作用物質およびポリメタクリレートの群より選択される一つ以上のポリマーの熱成形可能な混合物を含む組成物。」である点で一致するが、以下の点で相違する。
(i)本願発明は、作用物質が、イバブラジンまたは薬学的に許容し得るその塩であるのに対し、引用発明は、30までのUSP 23による水に対する溶解度を有している作用物質である点(以下、「相違点(i)」という。)。
(ii)本願発明は、作用物質の放出が、使用されるポリメタクリレートの性質、作用物質に対するその量、および前記組成物の製造に用いられる技術によってのみ制御されるのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点(以下、「相違点(ii)」という。)。

上記相違点(i)について検討する。
引用例Aには、30までのUSP 23による水に対する溶解度を有している作用物質に関して、「十分に水溶性の作用物質は、本発明によれば1?10(溶けやすい)又は10?30(やや溶けやすい)、好ましくは1未満(極めて溶けやすい)のUSP 23で定義されているような水に対する溶解度を有するものである」こと、「数値の記載は、溶解すべき物質1部当たりにどれだけの部の溶剤が必要であるかに基づく」ことが記載され(摘記事項a-3)、さらに、制御された放出、殊に遅延した線形放出は、十分に水溶性の作用物質の場合に問題があることは一般に公知であり、引用発明の課題は、十分に水溶性の作用物質の制御された放出を可能にする剤形を見いだすことにあったことが記載されている(摘記事項a-2)。
また、引用例Bの例2の(+)-7,8-ジメトキシ-3-(3-{N-〔(4,5-ジメトキシベンゾシクロブト-1-イル)メチル〕-N-(メチル)アミノ}プロピル)-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-3-ベンズアゼピン-2-オン(以下、「化合物B」という)の製造工程Eには、化合物BにHClを加えて、全体を攪拌し、濾過し、濃縮し、アセトニトリルから再結晶して化合物Bの一塩酸塩を製造したことが記載されている(摘記事項b-3,特に段落【0038】)。ここで、イバブラジンは、7,8-ジメトキシ-3-(3-{N-〔(4,5-ジメトキシベンゾシクロブト-1-イル)メチル〕-N-(メチル)アミノ}プロピル)-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-3-ベンズアゼピン-2-オンの(+)異性体であるので、化合物Bは、すなわち、イバブラジンである。そして、イバブラジン一塩酸塩は、化合物BにHClを加えて攪拌し、濾過した濾液に含まれるものであることから、水に溶ける性質を有する物質であることが明らかである。
そうしてみると、化合物Bの塩酸塩、すなわち、イバブラジンの薬学的に許容し得るその塩は、徐脈活性を有し、医薬的に許容される担体または賦形剤と組合せて医薬組成物とされる作用物質であり、かつ、十分に水溶性の物質であることから、制御された放出、殊に遅延した線形放出に問題があることは自明であり、引用発明において、30までのUSP 23による水に対する溶解度を有している作用物質として、イバブラジンまたは薬学的に許容し得るその塩を用いるものとするものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

上記相違点(ii)について検討する。
引用発明は、作用物質の制御放出のための剤形に関するものであり、引用例Aには、制御された放出について、「制御された放出、殊に遅延した線形放出は、十分に水溶性の作用物質の場合に問題があることは一般に公知である。特に、酒石酸メトプロロールの遅延放出は、従来の手段によっては困難である。」(摘記事項a-2)と記載していることから、「遅延した線形放出」を包含するものであることが明らかである。そして、この「遅延した線形放出」は、熱成形可能なアクリレートポリマーをベースとするマトリックス中に、30までのUSP 23による水に対する溶解度を有している作用物質を含有している剤形とすることによって達成するものであり(摘記事項a-2,4)、「作用物質は、溶融押出の間に、アクリレートポリマーをベースとするマトリックス中に、均質に分散されるか又は固溶体の意味で溶解される」こと、「作用物質の固溶体を得ることが特に好ましい」ことが記載されている(摘記事項a-4)ことから、引用発明の剤形の制御放出は、熱成形可能なアクリレートポリマーをベースとするマトリックス中に、作用物質を含有させることによって達成されるものであると認められる。
そして、ポリメタクリレートは、ポリマーの種類や配合割合によって、溶解性等の性質が異なることは一般的に知られていることであり、本願発明と引用発明は、熱成形可能なポリメタクリレートをベースとするマトリックス中に作用物質を含有するものである点について何ら区別し得るものではないし、作用物質に対する配合割合についてみても、引用例Bには「作用物質及びアクリレートポリマーの量は、剤形が作用物質1?50質量%、好ましくは10?30質量%を含有するように選択される。」(摘記事項a-4)と記載され、本願発明の実施例に具体的に開示される作用物質の量が10?50%である製剤例と何ら区別できるものではない。
さらに、組成物の製造に用いられる技術についてみても、引用例Bには「溶融押出法と、十分に水溶性の作用物質のためのアクリレートポリマーをベースとする相応している製剤との本発明による組合せにより、制御された放出を有している剤形が製造されうる。」(摘記事項a-7)と溶融押出法とアクリレートポリマーをベースとする製剤との組合せにより制御放出が達成されることが記載され、本願発明の押出技術による熱成形と区別し得るものではない。
そうしてみると、引用発明が「作用物質の放出が、使用されるポリメタクリレートの性質、作用物質に対するその量、および前記組成物の製造に用いられる技術によってのみ制御される」ものに特定されていないとしても、本願発明と引用発明とは、いずれも、使用されるポリメタクリレートの種類や作用物質に対するその量、組成物の製造に用いられる技術が同一であることから、引用発明についても、「作用物質の放出が、使用されるポリメタクリレートの性質、作用物質に対するその量、および前記組成物の製造に用いられる技術によってのみ制御される」という作用効果を有するものであることは明らかであるから、上記した一応相違するとした点は、実質的に同一であり、上記相違点(ii)は、実質的な相違点であるとは認められない。

また、発明の詳細な説明の記載を検討しても、本願発明が、従来技術と比較して当業者が予測できない格別顕著な効果を奏し得たものと認めることはできない。

なお、請求人は、審判請求の理由(平成22年3月12日付け手続補正書)において、引用例Bの例に記載された結果を考慮すると、薬剤の放出には、オイドラギットの種類、配合量だけではなく、その他の添加剤の種類、配合量もまた影響を及ぼすことが示されており、本願発明の効果が、予測しえない顕著な効果である旨を主張している。
しかしながら、引用発明の剤形の制御放出は、熱成形可能なアクリレートポリマーをベースとするマトリックス中に、作用物質を含有させることによって達成されるものであると認められる点については上記検討したとおりである。
そして、引用例Aには、作用物質は、溶融押出の間に、アクリレートポリマーをベースとするマトリックス中に、均質に分散されるか又は固溶体の意味で溶解されること(摘記事項a-4)、マトリックス中に添加される、別のポリマー(N-ビニルピロリドンの単独重合体又は共重合体、セルロースエーテル等)、遅延のために別の従来の製薬助剤(脂質等)や従来の製薬助剤(高分散二酸化ケイ素等)は、いずれも付加的なものであること(摘記事項a-5)が記載されていることからみても、引用例Bの例において、薬剤放出が、その他の添加剤の種類、配合量により異なる結果が得られたとしても、そのことが直ちに、引用発明の剤形の制御放出が、熱成形可能なアクリレートポリマーをベースとするマトリックス中に、作用物質を含有させることによって達成されるものであり、付加的な成分を必要としないものであることを否定する根拠にはならない。
してみると、上記請求人の主張は、いずれも理由がない。


4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に記載された発明は、引用例A,Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-22 
結審通知日 2012-03-27 
審決日 2012-04-17 
出願番号 特願2002-552533(P2002-552533)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大宅 郁治  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 渕野 留香
上條 のぶよ
発明の名称 イバブラジン制御放出のための熱成形可能な固形医薬組成物  
代理人 津国 肇  
代理人 齋藤 房幸  
復代理人 小澤 圭子  
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