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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1262733
審判番号 不服2010-631  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-13 
確定日 2012-09-05 
事件の表示 特願2002-550924「色素過剰症を治療するための組成物および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年6月27日国際公開、WO02/49580、平成16年6月3日国内公表、特表2004-516259〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2001年12月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年12月20日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成20年7月28日付けで1回目の拒絶理由が通知され、これに応答して,平成21年1月5日付けで手続補正がなされ、さらに、平成21年2月10日付けで2回目の拒絶理由が通知され、その後、平成21年9月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年1月13日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、その後、平成23年7月28日付けで審尋が通知され、平成24年2月2日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成22年1月13日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年1月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正の概略
本件補正は、特許請求の範囲を、補正前(平成21年1月5日付けの手続補正書参照。)の
「【請求項1】ヒトの皮膚の色素過剰症を治療および/または改善するための局所組成物であって、
a)前記局所組成物の総重量を基準として0.001?約30wt%の、式(i):(省略)
を有する脱色素剤、および
b)賦形剤
を含み、
前記脱色素剤は、メラニン/メラノソームを保持もしくは取り込み、および/または基底ケラチノサイトの皮膚の表面への移動の速度を増加させる表皮細胞の能力を阻害することにより前記皮膚の色素過剰症を治療または改善するのに有効な量で存在し、
R_(1)およびR_(2)は、独立に、水素;置換または無置換の、分岐または直鎖のアルキル;および置換または無置換の、分岐または直鎖の、5個までの二重結合を有するアルケニルからなる置換基の群より選択される
該組成物。
【請求項2】前記脱色素剤が、前記組成物の全重量に基づいて約0.05wt%?約10wt%存在する請求項1記載の組成物。
【請求項3】前記脱色素剤が、3,3’-チオジプロピオン酸である請求項1記載の組成物。
【請求項4】ヒドロキノン…からなる群より選択される成分をさらに含む請求項1記載の組成物。
【請求項5】前記成分が、乳酸…からなる群より選択される請求項4記載の組成物。」
から、補正後(平成22年1月13日付けの手続補正書参照。)の
「【請求項1】ヒトの皮膚の色素過剰症を治療および/または改善するための局所組成物であって、
a)前記局所組成物の総重量を基準として0.001?30wt%の、式(i):(省略)
を有する脱色素剤、および
b)賦形剤
を含み、
前記脱色素剤は、メラニン/メラノソームを保持もしくは取り込み、および/または基底ケラチノサイトの皮膚の表面への移動の速度を増加させる表皮細胞の能力を阻害することにより前記皮膚の色素過剰症を治療または改善するのに有効な量で存在し、
R_(1)およびR_(2)は、独立に、水素;置換または無置換の、分岐または直鎖のアルキルからなる置換基の群より選択される
該組成物。
【請求項2】R_(1)およびR_(2)は、独立に、置換または無置換の、分岐または直鎖のアルキルからなる置換基の群より選択される請求項1記載の組成物。 【請求項3】前記脱色素剤が、前記組成物の全重量に基づいて0.05wt%?10wt%存在する請求項1記載の組成物。
【請求項4】前記脱色素剤が、3,3’-チオジプロピオン酸である請求項1記載の組成物。
【請求項5】ヒドロキノン…からなる群より選択される成分をさらに含む請求項1記載の組成物。
【請求項6】前記成分が、乳酸…からなる群より選択される請求項5記載の組成物。」
に補正するものである。

(2)補正の適否
本件補正は、
(a)請求項2を新たに追加して、補正前の請求項2?5を新たな請求項3?6とし、
(b)補正前の請求項1、2における発明特定事項である「約30wt%」、「約0.05wt%?約10wt%」を、「30wt%」、「0.05wt%?10wt%」とし、
(c)補正前の請求項1における式(i)で特定される脱色素剤について、式中のR_(1)及びR_(2)を、「水素;置換または無置換の、分岐または直鎖のアルキル;および置換または無置換の、分岐または直鎖の、5個までの二重結合を有するアルケニルからなる置換基の群」から、「水素;置換または無置換の、分岐または直鎖のアルキルからなる置換基の群」に限定するものである。
そして、上記(a)?(c)の補正のうち、請求項を新たに追加する(a)の補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものではない。
よって、本件補正は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前の特許法」という。)第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものではない。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律改正前の特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないものであるから、同法第159条第1項の規定において準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

3.本願発明について
平成22年1月13日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願請求項1?5に係る発明は、平成21年1月5日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載されたとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、
「【請求項1】ヒトの皮膚の色素過剰症を治療および/または改善するための局所組成物であって、
a)前記局所組成物の総重量を基準として0.001?約30wt%の、式(i):(省略)
を有する脱色素剤、および
b)賦形剤
を含み、
前記脱色素剤は、メラニン/メラノソームを保持もしくは取り込み、および/または基底ケラチノサイトの皮膚の表面への移動の速度を増加させる表皮細胞の能力を阻害することにより前記皮膚の色素過剰症を治療または改善するのに有効な量で存在し、
R_(1)およびR_(2)は、独立に、水素;置換または無置換の、分岐または直鎖のアルキル;および置換または無置換の、分岐または直鎖の、5個までの二重結合を有するアルケニルからなる置換基の群より選択される
該組成物。」
である。

4.原査定の拒絶理由(理由A:特許法第36条第4項)の概要
本願明細書には、式(i)の化合物が色素過剰症の治療に有効であることを確認した薬理試験データは記載されておらず、出願時の技術常識を考慮しても、式(i)の化合物が、色素過剰症の治療に有効であること推認できる程度の記載はされていないから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

5.当審の判断
本願発明は、式(i)で特定される脱色素剤を含む、「ヒトの皮膚の色素過剰症を治療および/または改善するための局所組成物」であって、「脱色素剤は、メラニン/メラノソームを保持もしくは取り込み、および/または基底ケラチノサイトの皮膚の表面への移動の速度を増加させる表皮細胞の能力を阻害することにより前記皮膚の色素過剰症を治療または改善するのに有効な量で存在」する局所組成物に関するものである。
これに対して、本願発明の詳細な説明には、「例」として、「脱色素剤」を「0.001?98wt%」で含む組成物が記載されてはいる(【0024】【表1】参照。)。
しかしながら、単に「脱色素剤」と記載されるのみで、式(i)で特定されるものであるとは記載されていないし、しかも、組成物に含まれる各成分名とその配合比が記載されているのみで、実際に「ヒトの皮膚の色素過剰症を治療および/または改善する」こと、及び、「メラニン/メラノソームを保持もしくは取り込み、および/または基底ケラチノサイトの皮膚の表面への移動の速度を増加させる表皮細胞の能力を阻害する」ことを裏付ける記載内容でもない。
さらに、審判請求人が、平成21年8月12日付けで意見書と共に提出した参考資料1、2(なお、参考資料2は、審判請求書と共に再度提出(参考資料1とその全文訳)。)について検討しても、以下に述べるように、式(i)で特定される「脱色素剤」が、「メラニン/メラノソームを保持もしくは取り込み、および/または基底ケラチノサイトの皮膚の表面への移動の速度を増加させる表皮細胞の能力を阻害する」ことは裏付けられていない。
まず、参考資料1には、「B16マウスメラノマセルラインのピグメント含有量に対するチオプロピオン酸(TDPA)とジラウリルチオプロピオネート(TDPAエステル)の効果」(参考資料1訳文第1頁目的)として、「TDPA」又は「TDPAエステル」を0.1wt%濃度で含む培地で、B16マウスメラノマセルラインを7日間培養し、色素濃度(色素沈着変化%)を求めたところ(訳文第2頁方法参照。)、「TDPA」の場合で「-61.4%」であり、「TDPAエステル」の場合で「-38.8%」であり(訳文第2頁結果参照。)、そして、「TDPAとTDPAエステルは0.1%で顕著な脱色系活性を示す。」(訳文第3頁第4行)と記載されている。
そして、この参考資料1より、式(i)で特定される脱色素剤に相当する「TDPA」/「TDPAエステル」によって、B16マウスメラノマセルラインによる色素沈着に変化が生じ、これらは、「脱色系活性を示す」ことは把握できる。
しかしながら、B16マウスメラノマセルラインを用いた参考資料1は、「TDPA」/「TDPAエステル」が、「メラニン/メラノソームを保持もしくは取り込み、および/または基底ケラチノサイトの皮膚の表面への移動の速度を増加させる表皮細胞の能力を阻害する」ことを裏付ける記載内容ではない。
次に、参考資料2には、「TDPAとハイドロキノン(HQ)の皮膚外観の改善での評価と比較」(全文訳第1頁表題)として、光損傷した顔及び腕に対するTDPA並びにHQの効果について検討した際の(全文訳第1頁目的・検討デザイン参照。)各結果が示され(表2?11参照。)、そして、「TDPAは、顔および腕における色素沈着の改善に効果的である。…TDPAは肌の色素沈着の改善に関して、ハイドロキノンと同程度に効果的であると考えられる。」(全文訳第11頁結論)と記載されている。
そして、この参考資料2より、式(i)で特定される脱色素剤に相当する「TDPA」は、「肌の色素沈着の改善に関して、ハイドロキノンと同程度に効果的である」ことは把握できる。
しかしながら、この参考資料2も、「TDPA」が、「メラニン/メラノソームを保持もしくは取り込み、および/または基底ケラチノサイトの皮膚の表面への移動の速度を増加させる表皮細胞の能力を阻害する」ことを直接的に裏付ける記載内容ではない。
ここで、本願発明の詳細な説明の【0005】には、
「表皮細胞がメラニンを保持する能力を減少させる薬剤の適用により色素過剰症を治療する方法を持つことが望ましいであろう。メラニンを保持する能力の減少は、メラソノームのケラチノサイトへの移行を加速し、皮膚に存在する色素過剰症部分が従来の皮膚光沢剤より速く光沢化されるか脱色素化されることを可能とし、このことは、主として新たなメラニンの形成を阻害するように作用するであろう。」
と記載されており、「メラニンを保持させる表皮細胞の能力を阻害する」ことと、「色素過剰症を治療すること」並びに「新たなメラニンの形成を阻害すること」とが関連することは把握できる。
しかしながら、
・本願発明の詳細な説明【0004】に、「先行技術は、皮膚光沢剤(…)の適用により色素過剰症を治療する方法を開示する。典型的な皮膚光沢剤には、ヒドロキノン…が含まれる。そのような薬剤は、典型的には、メラニン産生に関わるチロシナーゼ酵素の発現を阻害することにより皮膚を輝かせる。」と記載され、また、
・1回目の拒絶理由通知書に提示した引用文献1(特表平7-500117号公報)の第4頁左下欄第9?10行に、「日焼け、メラニンの生成、および恐らくはメラニンの残留も遊離基およびパーオキシドによって起こされるということは公知である。」と記載されるように、
チロシナーゼ酵素の発現阻害、あるいは、遊離基及びパーオキシドの不活性化といった、「メラニン/メラノソームを保持もしくは取り込み、および/または基底ケラチノサイトの皮膚の表面への移動の速度を増加させる表皮細胞の能力を阻害する」以外の手段によっても、「新たなメラニンの形成を阻害すること」ができ、そして、「色素過剰症を治療すること」が可能となるものである。
そうすると、参考資料2によって、「TDPA」が、「顔および腕における色素沈着の改善に効果的で」、「肌の色素沈着の改善に関して、ハイドロキノン(本願発明の詳細な説明【0004】で挙げられた、先行技術であり、チロシナーゼ酵素発現を阻害するもの。)と同程度に効果的である」ことを明らかにしても、この記載内容からでは、「TDPA」が、「メラニン/メラノソームを保持もしくは取り込み、および/または基底ケラチノサイトの皮膚の表面への移動の速度を増加させる表皮細胞の能力を阻害する」ことによる結果であると特定できるまでには至らない。

以上のとおり、本願発明の詳細な説明には、式(i)で特定される脱色素剤が、「メラニン/メラノソームを保持もしくは取り込み、および/または基底ケラチノサイトの皮膚の表面への移動の速度を増加させる表皮細胞の能力を阻害する」ことについて、裏付けられているとは認められないし、審判請求人が提出した参考資料1、2を考慮しても、この判断に変わりはない。
したがって、本願発明の詳細な説明には、式(i)で特定される脱色素剤が、「メラニン/メラノソームを保持もしくは取り込み、および/または基底ケラチノサイトの皮膚の表面への移動の速度を増加させる表皮細胞の能力を阻害する」ことについて、当業者が理解できるように記載されていないから、本願発明の詳細な説明の記載が、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

6.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-29 
結審通知日 2012-04-03 
審決日 2012-04-16 
出願番号 特願2002-550924(P2002-550924)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関 景輔安藤 倫世  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 前田 佳与子
平井 裕彰
発明の名称 色素過剰症を治療するための組成物および方法  
代理人 畑 泰之  
代理人 木村 満  
代理人 雨宮 康仁  
代理人 森川 泰司  
代理人 桜田 圭  
代理人 毛受 隆典  

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