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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1263291
審判番号 不服2009-16668  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-09 
確定日 2012-09-13 
事件の表示 特願2003-395175「L-グルタミンの製造法及びL-グルタミン生産菌」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 8日出願公開、特開2004-187684〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年11月26日の出願であって、平成24年4月18日付で当審による拒絶の理由が通知され、平成24年6月25日付手続補正書で特許請求の範囲について補正がなされると共に意見書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年6月25日付で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】L-グルタミン生産能を有し、かつ、細胞内のグルタミナーゼ活性が低下するように改変されたコリネ型細菌を培地に培養し、該培地中にL-グルタミンを生成蓄積せしめ、これを採取することを特徴とする、L-グルタミンの製造法。」

第2 引用例
1.当審における拒絶理由通知において引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である引用例1(特開2002-300887号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 L-グルタミン生産能を有し、かつ細胞内のグルタミンシンテターゼ活性が増強されたコリネ型細菌。・・・
【請求項7】 請求項1?6いずれか一項に記載の細菌を培地に培養し、該培地中にL-グルタミンを生成蓄積せしめ、これを採取することを特徴とするL-グルタミンの製造法。」(請求項1及び7)

(イ)「【発明が解決しようとする課題】本発明は、コリネ型細菌のL-グルタミンの生産性向上、及びグルタミン酸の副生の抑制に至る特性を見出し、当該特性を有する菌株を用いたL-グルタミンの製造法を提供することを課題とする。」(【0005】)

(ウ)「【0053】また、本発明のコリネ型細菌は、GSおよびGDH以外のL-グルタミン生合成を触媒する酵素の活性が増強されていてもよい。例えばグルタミン生合成を触媒する酵素としては、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、アコニット酸ヒドラターゼ、クエン酸シンターゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、ピルビン酸キナーゼ、ホスホフルクトキナーゼ等がある。
【0054】さらに、L-グルタミンの生合成経路から分岐してL-グルタミン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性が低下または欠損していてもよい。このような反応を触媒する酵素としては、イソクエン酸リアーゼ、α-ケトグルタル酸デヒロゲナーゼ、グルタミン酸シンターゼ等が挙げられる。」(【0053】及び【0054】)

2.当審における拒絶理由通知において引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である引用例2(日本農芸化学会誌,1961年,第35巻、第3号,p. 275-279)には、以下の事項が記載されている。
(エ)「我々は、Brevibacterium lactofermenium No.2256によるグルタミン酸発酵において、発酵液中に相当量のグルタミンが蓄積することを既に報告した。」(第275頁1行?2行)

(オ)「したがって、Brevibacterium lactofermeniumによるグルタミン酸発酵中にグルタミンが副生して来るのは、この菌が有するグルタミンシンテターゼによるものと結論される。
グルタミンの代謝においてよく知られているもう一つの酵素としてグルタミナーゼがある。・・・
この菌のグルタミナーゼ活性を検討してみたところ、かなり強い活性を有することが解った(・・・)。グルタミナーゼの活性の強い場合は当然生成するグルタミンは分解を受け、グルタミンの蓄積は見られないものと考えられる。それにもかかわらず、発酵終了液にグルタミンの存在することは興味ある点と思われる。最も容易に考えられるのはグルタミナーゼが発酵中に蓄積する物質によって阻害を受けるのではないかという点である。そこでグルタミン酸濃度の高い状態及びアンモニア濃度の高い状態でグルタミナーゼがどのように影響を受けるかについて実験を行った(・・・)。アンモニウムイオンの濃度が0.2M存在すると活性は1/2以下となる。グルタミン酸については阻害はさらに強く現れ、0.1M以上の濃度になると活性はほとんど見られない。したがって、発酵終了後も発酵液中にグルタミンの存在するのはグルタミナーゼの活性がほとんど失われていることによると考えられる。」(第277頁末行?第278頁23行)

第3 対比
本願発明と引用例1に記載された発明を対比すると、両者は、L-グルタミン生産能を有するコリネ型細菌を培地に培養し、該培地中にL-グルタミンを生成蓄積せしめ、これを採取する、L-グルタミンの製造法である点で一致し、本願発明1では、コリネ型細菌が細胞内のグルタミナーゼ活性が低下するように改変されているのに対し、引用例1には、そのようなことは記載されていない点で相違する。

第4 判断
1.相違点について
引用例1の記載事項(イ)には、コリネ型細菌によるL-グルタミン産生における課題として、L-グルタミンの生産性を向上させ、グルタミン酸の副生を抑制することが記載されていることから、コリネ型細菌によるL-グルタミンの産生において、よりL-グルタミンの生産性を向上させ、グルタミン酸の副生を抑制しようとすることは、当該技術分野における自明の課題である。
そして、引用例2には、Brevibacterium lactofermeniumは、グルタミンを分解するグルタミナーゼ活性が阻害されているため、グルタミンを蓄積することができる旨が記載されていることから(記載事項(エ)及び(オ)参照)、引用例1に記載されたコリネ型細菌によるL-グルタミンの産生においても、グルタミナーゼ活性は低下している方が好ましいことは、当業者が容易に想起することである。

また、一般に、微生物による物質の産生において、目的物質の収率を向上させることを目的として、目的物質を分解する酵素の活性を低下させることは、周知の事項であり、引用例1の記載事項(ウ)にも、L-グルタミンの生合成経路から分岐してL-グルタミン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性は低下又は欠損していてもよいことが記載されており、そのような酵素の一例として、グルタミンからグルタミン酸を生成するグルタミン酸シンターゼが記載されている。したがって、引用例1に記載された発明において、引用例1に活性を低下させる酵素として記載されたグルタミン酸シンターゼと同様に、目的物であるグルタミンからグルタミン酸を生成するグルタミナーゼの活性自体を低下させるようにすることは、当業者が容易に想到することであるともいえる。

そして、変異処理により目的タンパク質の活性が変化した菌株を選択する方法は、本願出願日前における周知技術であることを考慮すれば、引用例1に記載された発明において、上記周知技術を適用することにより、細胞内グルタミナーゼ活性が低下したコリネ型細菌を取得することは、当業者が容易になし得ることである。

2.効果について
本願明細書の実施例3には、本願発明の実施態様である2247Δgls株は、ATCC14067株に比べてL-グルタミンの収率が約3%向上したことが記載されているが(本願明細書段落【0084】?【0088】)、この程度の上昇は、進歩性を認めるに足る程に格別顕著なものであるとはいえない。
また、本願明細書の実施例3において示された効果は、特定の菌株であるATCC14067株において、グルタミナーゼ遺伝子を欠損させた株を用いたことによる効果であるが、本願発明は、コリネ型細菌に含まれる任意の株において、「グルタミナーゼ活性が低下」させたものを用いる方法をも含むものであるから、本願発明1に含まれる範囲の全体にわたって奏される効果であるとは認められない。

3.請求人の主張について
請求人は、平成24年6月25日付の意見書において、「引用例2には、B. lactofermentumにおいては強いグルタミナーゼ活性が存在するにもかかわらずグルタミンが蓄積する旨が記載されており(278ページ、8?13行目)、また、引用例2の278ページの図14を参照すると、グルタミナーゼ活性は0.1M以上のグルタミン酸によりほぼ完全に阻害されることが明らかであります。そして、L-グルタミン発酵時には通常その前駆体であるグルタミン酸も蓄積しますので、引用例2の記載に触れた当業者であれば、L-グルタミン発酵においてグルタミナーゼ活性はもともとほぼ完全に阻害されており、すなわち、グルタミナーゼはL-グルタミンの分解にほとんど寄与しておらず、L-グルタミンの高蓄積を阻害していないと理解できるものであります。よって、引用例2の記載に触れた当業者には、L-グルタミン発酵において、L-グルタミン収率の向上のためにあえてグルタミナーゼ活性を低下させる動機がなく、引用例2は、むしろ、本願発明の成立を阻害するものであります。」と主張する。

当該主張について検討する。
引用例2には、Brevibacterium lactofermeniumにおいて、グルタミンを分解するグルタミナーゼ活性が阻害されているため、発酵液中にグルタミンを蓄積できることが記載されているのだから、グルタミンの生産性を向上させようとする当業者であれば、引用例1に記載されたコリネ型細菌によるL-グルタミンの製造において、むしろ、グルタミナーゼ活性自体を低下させることを容易に発想するといえ、請求人が指摘する引用例2における記載は、この発想を阻害するものではない。
よって、請求人の主張は採用できない。

4.小括
したがって、本願発明は、引用例1及び2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-12 
結審通知日 2012-07-17 
審決日 2012-07-30 
出願番号 特願2003-395175(P2003-395175)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小倉 梢  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 冨永 みどり
六笠 紀子
発明の名称 L-グルタミンの製造法及びL-グルタミン生産菌  
代理人 川口 嘉之  
代理人 松倉 秀実  
代理人 遠山 勉  
代理人 佐貫 伸一  
代理人 丹羽 武司  

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